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(平7.5.30裁決、裁決事例集No.49 76頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産貸付業及び理容業を営む者であるが、平成3年分及び平成4年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に不動産所得の金額等を次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目\年分平成3年分平成4年分
総所得金額40,881,87450,816,676
内訳
 不動産所得の金額43,067,53852,209,203
 事業所得の金額△2,185,664△1,392,527
納付すべき税額15,910,00019,969,700

(注)「事業所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
(2)その後、請求人は、平成4年分について、平成5年3月22日に不動産所得の金額を53,227,203円、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額を1,392,527円及び納付すべき税額を20,478,500円と記載した修正申告書を提出した。
(3)さらに、請求人は、平成4年分について、更正の請求書の次表の「更正の請求」欄のとおり記載して、平成5年3月29日に提出したところ、原処分庁は、これに対し平成5年5月31日付で、次表の「減額更正」欄のとおりの更正処分をした。

(単位 円)
項目\区分更正の請求減額更正
総所得金額51,834,67651,834,676
内訳
 不動産所得の金額53,227,20353,227,203
 事業所得の金額△1,392,527△1,392,527
所得控除の額3,127,2513,127,251
内訳
 生命保険料控除の額50,00050,000
 上記以外の所得控除の額3,077,2513,077,251
課税総所得金額48,707,00048,707,000
納付すべき税額20,453,50020,453,500

(注)「事業所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
(4)次いで、原処分庁は、平成5年7月30日付で各年分について次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分\項目\年分平成3年分平成4年分
更正処分
 総所得金額45,275,85859,010,467
 内訳
  不動産所得の金額47,317,09460,310,960
  事業所得の金額△2,041,236△1,300,493
 納付すべき税額18,107,00024,041,500
賦課決定処分
 過少申告加算税の額219,000358,000

(注)「事業所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
(5)請求人は、上記(4)の処分を不服として、平成5年9月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、各年分の不動産所得の金額の計算上、請求人の妻D(以下「D」という。)に支給した給与を所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項に規定する給与(以下「青色事業専従者給与」という。)として必要経費に算入したところ、原処分庁は、Dは請求人の営む事業に専ら従事しているとは認められないから、同項に規定する専ら青色申告者の営む事業に従事する親族(以下「青色事業専従者」という。)に該当しないとして、その青色事業専従者給与の額を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとして本件更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、不動産貸付業として、P市R町1丁目114番地3所在の第1Mビル(立体駐車場上屋を含み、以下「第1Mビル」という。)、同市S町20番地20所在の第2Mビル(以下「第2Mビル」という。)、同市T町73番所在の駐車場(以下「T町の駐車場という。)、同市U町32番2所在の駐車場(以下「U町の駐車場」という。)及び同市R町3丁目569番の1所在の駐車場(以下「R町の駐車場」といい、「T町の駐車場」及び「U町の駐車場」とを併せて「本件駐車場」という。)並びに同市R町1丁目114番1所在の宅地(以下「R町の宅地」という。)を賃貸していたほか、第2Mビルの1階で理容店○○○(以下「理容店」という。)を営んでおり、これらの事業へのDの各年分における具体的従事状況等は、次のとおりであって、Dは請求人の青色事業専従者に該当するから、同人に支払った給与等の額を青色事業専従者給与の額として所得金額の計算上必要経費に算入すべきである。
 なお、本件更正処分のうち、減価償却超過額に係る部分の事業所得の金額については争わない。
(イ)不動産貸付業に係る業務についてのDの従事状況は、次のとおりである。
A 本件駐車場に関しては、丸1不動産収入管理台帳への賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額の記載と賃貸料の受領金額の集計・記載、丸2賃貸料及び敷金の受領金額の確認と領収証の発行、丸3支払期日までに賃貸料が未納となっている者に対する電話又は実施による督促及び集金、丸4現金で受領した賃貸料及び敷金の預金口座への預入れ、丸5賃借人との「駐車場(車庫)(空地)使用契約書」(以下「使用契約書」という。)の作成、丸6無断駐車の車両がないかどうかの見回り及び当該車両があった場合の交番への届出並びに丸7草取りなどを行っていた。
B 上記A以外の不動産貸付業に関しては、第1Mビルの入居者の選定及びその賃貸料について、入居者と交渉して決定した。
(ロ)理容業に係る業務については、平成3年12月末まで本件駐車場に係る仕事の合間を縫って、タオルの洗濯と床の掃除を行っていた。
 なお、平成4年1月以後は、パートタイマーの従業員を雇用したため、全く関与していない。
(ハ)不動産貸付業及び理容業に係る業務に従事した時間は、延ベ時間にすれば1日当たり10時間以上で、そのうち3時間から4時間は理容業に係る業務に従事していた。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
 所得税法第57条の規定によると、青色事業専従者は青色申告者の営む事業に専ら従事していることが要件とされているところ、請求人の不動産貸付業に関しては次の事実が認められ、これらを総合して判断すると、Dは、請求人の事業に専ら従事しているとは認められないから、請求人の青色事業専従者には該当しない。
(イ)請求人は、平成3年11月から株式会社Xと事業経営に関する顧問契約を締結していること。
(ロ)請求人の本件駐車場以外の不動産貸付業に係る業務は、P市W町1丁目9番9号に居住していた請求人の長男であるF(以下「F」という。)が行っており、また、その補助業務をFの妻G(以下「G」という。)が行っていること。
(ハ)請求人が所有する第1Mビルの管理は、賃貸先であるH銀行J支店が行い、かつ、同ビルに係る賃貸料も同支店の請求人名義の普通預金口座に振り込まれていること。
(ニ)理容店の店長である請求人の次男L(以下「L」という。)は、第2Mビルに居住し、同ビルの管理と本件駐車場の利用者の一部が持参する賃貸料の収受を代行していること。
(ホ)第2Mビルの管理に関しては、請求人は平成2年9月1日以後、株式会社Aと管理委託契約を結んでいること。
(ヘ)第2Mビルの入居者に関するあっせん、広告及び契約については、平成2年10月以後、C株式会社が関与していること。
(ト)Dの申述によれば、同人の事業の従事状況及びその内容は、1日当たり3時間ないし4時間で月のうち15日ないし16日間従事し、本件駐車場の使用者の一部が持参する賃貸料の収受及び本件駐車場の草取り並びに理容店のタオルの洗濯及び清掃であること。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき各年分の過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

本件審査請求の争点は、Dが請求人の不動産貸付業及び理容業に係る青色事業専従者に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成2年10月23日、請求人は、平成3年分以後の所得税の確定申告書を青色の申告書により提出する旨を記載した所得税の青色申告承認申請書を原処分庁に提出し、同年12月31日、当該青色申告の承認の申請は、所得税法第147条《青色申告の承認があったものとみなす場合》の規定に基づき、承認があったものとみなされたこと。
(ロ)請求人の各年分の不動産貸付業に係る土地及び建物の賃貸状況等は次のとおりであり、不動産の貸付けは事業的規模で行われていると認められること。
A 第1Mビルは、鉄筋コンクリート造陸屋根4階建・総床面積1,373.3平方メートルであり、請求人は、当該ビルを平成3年3月からをH銀行に銀行店舗等として賃貸しているほか、隣接する立体駐車場上屋も同銀行に賃貸している。
 なお、第1Mビルの登記簿謄本によれば、同ビルは、「平成3年3月12日新築」として登記されているが、請求人とH銀行との間で締結された同ビル及び立体駐車場上屋の賃貸借契約書の写しによれば、当該賃貸借契約の締結日も、平成3年3月12日となっている。
 また、当該賃貸借契約書の写しに添付されている平面図の写しによれば、当該平面図は、平成2年1月15日に作成されており、この時点で既に第1Mビルの基本的な構造及び具体的な間取りが決まっていたことが認められる。
B 第2Mビルは、鉄筋コンクリート造陸屋根6階建・総床面積482.65平方メートルであり、一階の一部(101号室)30.9平方メートルを平成2年9月から理容店として使用し、その他の部分は原則として賃貸の用に供している。
C 平成2年から平成4年までの間の第2Mビルの賃貸先等は、原処分庁に提出された請求人の平成2年分ないし平成4年分の所得税青色申告決算書(不動産所得用)によれば、次のとおりである。

貸室賃貸先賃貸期間
102号室□□□平成4年7月から平成4年12月まで
301号室(株)●●●平成2年10月から平成4年12月まで
302号室(株)△△△平成3年6月から平成4年2月まで
 (有)■■■平成4年3月から平成4年10月まで
 (有)◇◇◇平成4年11月から平成4年12月まで
401号室(株)▲▲▲平成4年1月から平成4年12月まで
402号室(株)▲▲▲平成4年3月から平成4年11月まで
501号室L平成2年9月から平成4年12月まで
502号室◆◆◆(株)平成4年5月から平成4年12月まで

(注)表中の(株)は株式会社を、(有)は有限会社を示す。
D 本件駐車場の駐車可能な車両台数は、T町の駐車場では10台、U町の駐車場では13台及びR町の駐車場では31台の合計54台である。
E R町の宅地129.47平方メートルは、そのすべてを賃貸の用に供していること。
(ハ)T町の駐車場は、請求人の自宅に隣接しており、また、U町の駐車場及びR町の駐車場は、請求人の自宅から、それぞれ徒歩3分及び8分程度の所にあること。
(ニ)Dは、大正6年7月1日生まれであり、平成3年1月1日現在で満72歳であること。
(ホ)Dは、請求人と生計を一にする配偶者であること。
(ヘ)請求人が原処分庁に提出した青色事業専従者給与の届出書には、次のとおり記載されていること。

(ト)請求人が各年分の不動産所得の金額の計算上、Dに係る青色事業専従者給与として必要経費に算入した金額は、平成3年分4,075,000円(給料2,550,000円、賞与1,525,000円)及び平成4年分6,930,000円(給料4,357,500円、賞与2,572,500円)であり、各年分とも上記(ヘ)の青色事業専従者給与の届出書に記載した金額の範囲内であること。
(チ)請求人と本件駐車場の賃借人との間では、市販されている定型の用紙を使用した使用契約書が作成され、当該使用契約書の第4条には、本件駐車場の賃借人はその駐車場の賃借料を毎月25日にその翌月分を遅滞なく請求人の指定する場所に持参して支払う旨記載されていること。
(リ)請求人と株式会社Aとの間で行われた第2Mビルの管理委託契約に係るビル管理委託契約書の第2条には、日常清掃として玄関ホール内外、階段及び廊下の掃き及びモップ掛けを週2回、定期清掃として玄関、階段、廊下のワックス掛けを月1回実施する旨記載されていること。
(ヌ)請求人は、各年分の事業所得(理容業)の金額の計算上、Dに係る青色事業専従者給与の額を必要経費に算入していないこと。
ロ 請求人は、当審判所に対し次の証拠書類を提出した。
(イ)次の者に係る平成3年分及び平成4年分の給与所得に対する所得税源泉徴収簿の写し
A D、F、L及びO
B G、E、K及びI(平成4年分のみ)
(ロ)銀行預金口座通帳の写し
A 請求人名義のH銀行N支店の口座番号○○○○の普通預金口座通帳の写し(平成3年3月26日から平成5年5月13日まで記載のもの)
B 請求人名義のH銀行J支店の口座番号××××の普通預金口座通帳の写し(平成3年5月27日から平成5年1月28日まで記載のもの)
C D名義のH銀行J支店の口座番号△△△△の普通預金口座通帳の写し(平成3年5月30日から平成5年6月28日まで記載のもの)
D D名義のH銀行J支店の貯蓄預金口座通帳の写し(平成4年7月9日から平成5年7月27日まで記載のもの)
(ハ)平成3年分及び平成4年分の本件駐車場に係る不動産収入管理台帳の写し
(ニ)本件駐車場に係る次の表題のノート(以下「駐車場ノート」という。)
A 平成2年、3年度 月極駐車場入金帳
B 平成4年、5年  T町、U町月極駐車場
C 平成4年、5年  R町月極駐車場
ハ 上記ロの証拠書類によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の各年分の本件駐車場の各駐車場ごとの毎月の賃借人の車両利用台数及び賃貸料等は、別表記載のとおりであること。
(ロ)駐車場ノートには、本件駐車場の各駐車場ごとに、平成3年分については、車庫ナンバー、受領月日、氏名・名称、受領金額、受領方法及び賃貸料合計額等が月別に記載されており、また、平成4年分については、これらに加え、賃借人の住所・所在地、電話番号及び利用車両台数が記載されているほか、「M(請求人の姓)」名の受領印も押印されていること。
(ハ)不動産収入管理台帳は、上記の平成4年分の駐車場ノートの記載事項とほぼ同内容のものであるが、実際に記載するのは、本件駐車場の各賃借人から受領した賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額並びに賃貸料の月別及び年間の合計額のみであり、その他の事項については、ワードプロセッサーにより印字されていること。
(ニ)駐車場ノート及び不動産収入管理台帳によれば、本件駐車場の賃借人で交替があったのは、平成3年が12人(13台分)、平成4年が5人(5台分)であること。
(ホ)平成3年分の理容店の従業員として、Lが1月から12月まで、Oが4月から12月までの間従事していたこと。
(ヘ)平成4年分の理容店の従業員として、L及びOが1月から12月まで、パートタイマーとしてEが3月から12月まで、Kが4月から8月までの間、Iが12月に従事していたこと。
ニ 当審判所が、請求人の丸1現金出納帳3冊(平成3年分ないし平成6年分)、丸2経費帳2冊(平成3年分及び平成4年分)及び丸3営業日報3冊(平成2年分ないし平成4年分)を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)現金出納帳によれば、請求人等が本件駐車場の賃貸料を現金で受領している日は、平成3年分が月平均12日、平成4年分月平均7日であり、また、当該賃貸料及び敷金を預金口座に預け入れている日は、平成3年分が月平均4日、平成4年分が月平均3日であること。
(ロ)経費帳の「給与」欄には、F及びGに対する次の内容の給与及び賞与の記載があること。
A Gの給与及び賞与の合計額は、平成3年分30,000円及び平成4年分1,520,000円である。
 なお、給与の支給日である平成3年7月5日の欄には、次のとおりの記載がある。
R町3‐569‐1、駐車場、清掃、草取地(7/1)G 20,000
T町73、駐車場、清掃、草取地(7/5)     〃 10,000
B Fの給与及び賞与の合計額は、平成3年分4,250,400円及び平成4年分11,417,155円である。
 なお、平成3年分は、平成3年7月1日以後の給与及び賞与の額である。
(ハ)経費帳の「外注管理費」欄には、株式会社Aに対する第2Mビルの管理費として平成3年1月から平成4年12月まで毎月183,340円が記載されており、「顧問料」欄には、株式会社Xに対する経営コンサルタント顧問料として平成3年分500,000円及び平成4年分1,200,000円が、また、「支払手数料」欄にはC株式会社に対する第2Mビル102号室の仲介手数料として平成4年7月15日に125,000円が記載されていること。
(ニ)営業日報によれば、平成3年分の理容店の客数等は、次表のとおりであること。

(単位 人、日)
区分/月1月2月3月4月5月6月
客数154165205255275269
営業日数242326252723
区分/月7月8月9月10月11月12月
客数294264271312295358
営業日数262524262526

ホ Dは、原処分庁に対し、次の内容の申述をしている。
(イ)請求人の事業に従事したのは、1日に3時間から4時間(申述に誤りがないかどうか最後に確認したところ、Fから1日に8時間くらいとした方がいいと言われて、1日8時間に訂正)で、月のうち15,16日であること。
(ロ)従事した仕事は、理容店のタオルの洗濯やちょっとした掃除、本件駐車場の見回りやその賃貸料の督促及び集金並びに草取り等が主なものであること。
ヘ Dは、当審判所に対し次の内容の答述をしている。
(イ)不動産収入管理台帳は、平成3年分から作成しているものであるが、本件調査に際して、調査担当職員にこれを提示していないこと。
 しかし、それは、本件調査のときに具体的な業務内容まで話が進まず、また、調査担当職員からの提示要求もなかったからであること。
(ロ)本件駐車場に係る領収証については、賃貸料が定額で毎月支払を受けることになっているため、あらかじめ作成しておき、賃貸料を受け取ったときには領収日だけを記入すればよいようにしていたこと。
(ハ)賃貸料の支払期日は、毎月25日であるが、勤め人もいるため、実際はその支払を月末まで猶予している。それでも支払わない人には、翌月10日までの間に電話をかけたり直接行ったりして督促をしていること。
(ニ)無断駐車の車両がないかどうかについての本件駐車場の見回りは、毎日ではないが月5回は行っていたこと。
 なお、この見回りは、無断駐車の車両があると使用契約をしている車両が利用できなくなるため行っていたもので、無断駐車の車両があった場合には、当該車両の番号を控えて交番に行き、その所有者を調べてもらった上、当該所有者に連絡して車両を移動してもらっていた。
(ホ)本件駐車場の見回りや草取りをしたことを確認できる日報などの書類はないこと。
(ヘ)理容業に従事した時間を確認できるタイムカード等の書類はないこと。
ト 請求人は、当審判所に対し次の内容の答述をしている。
(イ)請求人は、平成2年9月にY病院に入院し手術を受け、平成3年2月に退院し、その後も通院しており、和菓子屋を営んでいた平成元年までのように、自分で帳簿の記帳及び税務申告をしなくなったこと。
(ロ)請求人の平成3年及び平成4年の主な仕事は、Dが不在のときに本件駐車場の賃貸料を持参した人から現金を受け取り、領収証を渡すことであったこと。
(ハ)H銀行が第1Mビルにおいて営業を開始したのは、平成3年3月からであること。
チ Fは、当審判所に対し次の内容の答述をしている。
(イ)理容業に関し、日々集金した収入金額を銀行の夜間受付窓口に投函するほか、現金出納帳などの記帳や銀行預金の管理も自分が行っていたこと。
(ロ)不動産貸付業に係る帳簿書類のうち、Dが作成及び記帳していた不動産収入管理台帳及び領収証等以外のものは、自分とGが作成及び記帳していたこと。
(ハ)駐車場ノートへ記載する方法は、請求人が始めたものであり、当該ノートへの記載は、平成2年分及び平成3年分を請求人が、平成4年分及び平成5年分を自分とDが行い、当該ノートの「M(請求人の姓)」名の押印は、Dが入金を確認するために押したものであること。
(ニ)不動産収入管理台帳は、駐車場ノートでは集計がやりにくいこと及び一覧性がないことから自分がその書式を作成し、Dが記載していたものであること。
リ Lは、当審判所に対し次の内容の答述をしている。
(イ)現在は、自分を含め従業員が4人いるが、全員についてタイムカードで勤務時間を管理していること。
(ロ)タオルは、営業時間内に洗濯機で洗濯しているが、1度に20枚は洗濯できること。
(ハ)自分が1人で従事していたときは、忙しいときにDに理容店の掃除をしてもらったほか、時々階段の掃除をしてもらったこともあること。
ヌ ところで、所得税法第57条第1項によれば、青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその青色申告者を営む事業に従事する者が、当該事業から青色事業専従者給与の届出書に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において支払を受ける給与で、その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況等に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その青色申告者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする旨規定している。
ル 前記イないしリの事実をヌに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、前記イの(イ)の事実から、各年分について青色申告者であり、また、請求人の各年分の不動産貸付業は、前記イの(ロ)のとおり、事業的規模で行われていることが認められること、さらに、Dは、請求人と生計を一にする配偶者であることから、各年分につきDが請求人の営む事業に専ら従事していれば、同人は、所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者としての要件を満たしているものと認められるので、同人が請求人の各年分の事業に専ら従事していたかどうかについて、以下検討する。
(ロ)請求人は、Dが本件駐車場の賃貸に係る事務のうち、丸1不動産収入管理台帳への賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額の記載と賃貸料の受領金額の集計・記載、丸2賃貸料及び敷金の受領金額の確認と領収証の発行、丸3支払期日までに賃貸料が未納となっている者に対する電話又は実地による督促及び集金、丸4現金で受領した賃貸料及び敷金の預金口座への預入れ、丸5賃借人との使用契約書の作成、丸6無断駐車の車両がないかどうかの見回り及び当該車両があった場合の交番への届出並びに丸7草取りなどの業務に従事していた旨主張する。
 そこで、これらの業務についてのDの従事の程度等を検討すると、次のとおりである。
A 不動産収入管理台帳への賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額の記載と賃貸料の受領金額の集計・記載に係る業務については、前記ホの(ロ)のとおり、Dが原処分庁に対し申述した同人の従事した仕事の具体的な内容に含まれていないこと、また、前記への(イ)のとおり、Dは、本件調査に際し、調査担当職員に不動産収入管理台帳を提示していないことなどから、Dが平成3年及び平成4年に当該業務を行っていたのかどうかにつき疑問の残るところであるが、たとえ、Dが当該各年において当該業務を行っていたとしても、本件駐車場の駐車可能な車両台数が54台で1月当たり多くても54台分について記載すればよいこと、また、不動産収入管理台帳の記載事項は、前記ハの(ハ)のとおり、駐車場ノートのそれとほぼ同内容のもので、かつ、実際に記載するのは、各賃借人から受領した賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額並びに賃貸料の月別及び年間の合計額のみであることから、Dが当該各年において当該業務を行っていたとしても、これに要する事務量は、僅少であると認められる。
 なお、駐車場ノートについては、前記チ(ハ)のFの答述によれば、平成3年分は請求人が、平成4年分は自分とDが記載したとのことであるが、Dが記帳に関与したとする平成4年分の駐車場ノートの筆跡のほとんどは、同人が記載したという不動産収入管理台帳の筆跡と明らかに異なっていることからして、平成4年分の駐車場ノートの記帳にDが関与していたとしても、同人が記帳した部分はごく一部に限られるものと認められる。
B 賃貸料及び敷金の受領金額の確認と領収証の発行に係る業務については、当審判所が請求人の領収証控を調査したところによれば、本件駐車場の賃貸料の受領方法が振込み以外のもの(現金、集金及び小切手等によるもの)について領収証の発行が行われていることから、振込み以外のものに係る業務であると認められるので、別表の本件駐車場の賃貸料の受領方法が振込み以外のものについて、各年分の1月当たり車両利用台数を算出すると、平成3年分32.3台及び平成4年分15.8台となること、また、Dは、前記への(ロ)のとおり、領収証については、賃貸料が定額で毎月支払を受けることになっているため、あらかじめ作成しておき、賃貸料を受け取ったときには領収日だけを記入すればよいようにしていた旨答述していること、さらに、前記トの(ロ)のとおり、請求人も領収証の発行にかかわっていたことを併せ考えると、Dがこれらの業務に従事した事務量は、僅少であると認められる。
C 支払期間までに賃貸料が未納となっている者に対する督促及び集金に係る業務については、丸1各年分の本件駐車場の賃借人の延べ車両利用台数に占める振込みの方法により賃貸料を支払う者の延べ車両利用台数の割合を別表から算定すると、平成3年分37.3パーセント及び平成4年分66.4パーセントであり、振込みの方法によるものがかなりのウェイトを占めていること、丸2前記イの(チ)のとおり、本件駐車場に係る使用契約書の第4条には、賃借料を毎月25日にその翌月分を遅滞なく請求人に持参し支払う旨定められていること、丸3Dは、前記ヘの(ハ)のとおり、賃貸料の支払を実際は月末まで猶予しその後に督促をしている旨答述していることから、当審判所において、駐車場ノートに基づき、賃貸料の受領方法が振込み以外の方法によるもので、当月分を前月末日後に支払っている者の各年分の1月当たりの車両利用台数を求めると、平成3年分7.3台及び平成4年分4.1台であること及び丸4各年分の本件駐車場において賃貸料を集金している賃借人の車両利用台数は、別表のとおり、54台のうち2台であり、しかも、平成4年3月からは零台であることからみて、これらの業務に要する事務量は、僅少であると認められる。
D 現金で受領した賃貸料及び敷金の預金口座への預入れに係る業務については、前記ニの(イ)のとおり、当該賃貸料及び敷金を預金口座に預け入れている日が、平成3年分は月平均4日、平成4年分は月平均3日であることから、この業務に要する事務量は、僅少であると認められる。
E 貸借人との使用契約書の作成に係る業務については、前記ホの(ロ)のとおり、Dが原処分庁に対し申述した同人の従事した仕事の具体的な内容に含まれていないこと、また、Dが当該使用契約書の作成を行っていたことを確認するに足りる証拠書類(賃借人と締結した使用契約書の写し等)の提出がないことから、Dが当該使用契約書の作成を行っていたのかどうかにつき疑問は残るが、前記イの(チ)のとおり、当該使用契約書の用紙は市販されている定型のものであること、また、前記ハの(ニ)のとおり、本件駐車場の賃借人で交替があったのは、平成3年が12人(13台分)、平成4年が5人(5台分)であることから、たとえ、Dが当該使用契約書の作成を行っていたとしても、この作成に要する事務量は、僅少であると認められる。
F 無断駐車の車両がないかどうかの見回り及び当該車両があった場合の交番への届出に係る業務については、Dが実際に当該見回り等をどの程度行っていたのか確認できる書類はないが、前記ヘの(ニ)のDの答述のとおり、月5回の見回りを同人が行っていたとしても、本件駐車場の各所在地が前記イの(ハ)のとおり比較的近いところにあることからみて、一回当たりの見回りは短時間に終了するものと認められ、当該見回り等に要する各年分の事務量を実日数に換算すると、僅かであると認められる。
G 本件駐車場の草取りに係る業務については、前記ニの(ロ)のAのとおり、Gに給料を支払って草取り等を行わせていること、また、当審判所の調査によれば、平成6年3月現在、本件駐車場に係る施設は、フェンス及び砂利敷等であり、雑草は生えているものの敷地のごく一部分であり、各年分から平成6年3月現在までにおいて、当該施設に変動があったとは認められないことからすると、Dが本件駐車場の草取りを行っていたとしても、それに要する各年分の実日数は、ごく僅かであると認められる。
(ハ)請求人は、第1Mビルの入居者の選定及びその賃貸料について、Dが入居者と交渉して決定した旨主張する。
 しかしながら、第1Mビルは、前記イの(ロ)のAのとおり、平成3年3月に新築と同時にH銀行へ賃貸されており、かつ、同ビルの基本的な構造及び具体的な間取りは既に平成2年1月時点で決まっていたことが認められること及び前記トの(ハ)のとおり、H銀行が同ビルで営業を開始したのは、平成3年3月からであることを併せ考慮すると、同ビルの入居者の選定及び入居者との賃貸料の交渉をDが行ったとしても、主な事務は平成2年中に行われているものと認められることから、平成3年分において当該業務に要した事務量は極めて僅少であると認められ、また、各年分において第1Mビルに入居したのはH銀行のみであることから、平成4年分に係る当該事務はないものと認められる。
(ニ)請求人は、平成3年12月まで、Dが、請求人の営む理容業に係る業務のうち、タオルの洗濯及び床の清掃に1日当たり3時間ないし4時間従事した旨主張する。
 しかしながら、丸1請求人は、理容業に係る事業所得の金額の計算上、青色事業専従者給与を必要経費の額に算入していないこと、丸2Lは、前記リのとおり、自分が1人で従事していたときは、忙しいときにDに掃除をしてもらった旨等を答述をしていること、丸3請求人が理容業の従業員として1名を追加採用したのは、前記ハの(ホ)の事実から、平成3年4月からであると認められること、さらに、丸4前記ハの(ホ)及びニの(ニ)の事実から、従事者1人当たりの1日平均客数を算定すると、平成3年1月から3月までが月平均7.2人、平成3年4月から12月までが月平均5.7人であることを総合して考えると、Dがタオルの洗濯及び床の清掃を行っていたとしても平成3年1月から3月までの間の忙しい日のみであり、かつ、1日当たりの従事時間も長時間を要したとは認められないことから、当該行為は、Dが請求人及びLに対する親族としての援助行為として行ったものとみるのが相当である。
(ホ)請求人は、不動産貸付業及び理容業に係るDの従事時間は、延ベ時間にすれば1日当たり10時間以上である旨主張する。
 しかしながら、Dの1日当たりの従事時間については、前記イの(ヘ)の青色事業専従者給与の届出書(平成3年3月13日提出分)には5時間と記載されていること及び前記ホの(イ)の原処分庁に対する申述では3時間から4時間と申述した後に、8時間と訂正していることから、請求人の主張には信ぴょう性が認められず、前記(ロ)ないし(ニ)で検討したことを総合して判断すると、Dの1日当たりの実際の従事時間は、通常の青色事業専従者のそれよりも極めて短時間であると認められ、専ら従事していたといえないことは明らかというべきである。
(ヘ)以上のとおり、Dは、各年分において、請求人の営む事業に専ら従事していたと認めることはできないから、所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者としての要件を満たしていないことになるので、請求人がDに支給した青色事業専従者給与の額を、請求人の各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとした原処分は適法である。

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(2)課税総所得金額について

イ 総所得金額
(イ)不動産所得の金額
 原処分庁は、各年分の不動産所得の金額の計算上、Dの青色事業専従者給与の額を必要経費の額に算入しないところで平成3年分47,317,094円及び平成4年分60,310,960円と認定しているところ、前記(1)のとおり原処分庁の認定額は相当と認められる。
(ロ)事業所得の金額
 原処分庁は、各年分の事業所得の金額の計算上生じた損失の金額を、平成3年分2,041,236円及び平成4年分1,300,493円と認定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
(ハ)総所得金額
 以上の結果、請求人の各年分の総所得金額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目\年分平成3年分平成4年分
総所得金額45,275,85859,010,467
内訳
 不動産所得の金額47,317,09460,310,960
 事業所得の金額△2,041,236△1,300,493

(注)「事業所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
ロ 所得控除の額
(イ)配偶者控除の額
A 当審判所の調査によれば、Dの各年分の所得は、青色事業専従者給与に係る給与所得のみであるところ、前記(1)のとおり、当該青色事業専従者給与の額は、請求人の各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められず、かつ、Dの各年分の給与所得に係る収入金額とも認められないから、同人の各年分の所得金額は零円となる。
B 原処分庁は、各年分について所得税法第83条《配偶者控除》の規定を適用していないが、上記AのとおりDは各年分について合計所得金額が零円となること及び前記(1)のイの(ニ)の事実から、同法第2条《定義》第1項第33号の2に規定する老人控除対象配偶者に該当することになるので、同法第83条の規定により、各年分とも、450,000円を控除するのが相当と認められる。
(ロ)配偶者控除以外の所得控除の額
 配偶者控除以外の所得控除の額平成3年分1,261,269円及び平成4年分3,127,251円については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ハ)所得控除の額
 以上の結果、各年分の所得控除の額は、平成3年分1,711,269円及び平成4年分3,577,251円となる。
ハ 課税総所得金額
 以上の結果、請求人の各年分の課税総所得金額は、次表のとおりとなり、これらの金額は、本件更正処分に係る課税総所得金額に満たないから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

(単位 円)
項目\年分平成3年分平成4年分
総所得金額45,275,85859,010,467
内訳
 不動産所得の金額47,317,09460,310,960
 事業所得の金額△2,041,236△1,300,493
所得控除の額1,711,2693,577,251
内訳
 配偶者控除の額450,000450,000
 上記以外の所得控除の額1,261,2693,127,251
課税総所得金額43,564,00055,433,000
納付すべき税額17,882,00023,816,500

(注)1「事業所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
 2「課税総所得金額」欄は1,000円未満の端数を、「納付すべき税額」欄は100円未満の端数を、それぞれ切り捨てた後の金額である。

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(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 請求人には、各年分の確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る過少申告加算税の賦課決処分は適法である。
 ところで、各年分の過少申告加算税の基礎となる税額及び過少申告加算税の額は次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも賦課決定処分に係る金額に満たないので、各年分の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(単位 円)
項目\年分平成3年分平成4年分
過少申告加算税の基礎となる税額1,970,0003,360,000
過少申告加算税の額197,000336,000

(注)「過少申告加算税の基礎となる税額」欄は10,000円未満の端数を、「過少申告加算税の額」欄は100円未満の端数を、それぞれ切り捨てた後の金額である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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