ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.49 >> (平7.2.20裁決、裁決事例集No.49 243頁)

(平7.2.20裁決、裁決事例集No.49 243頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、昭和63年分、平成元年分及び平成2年分(以下「各年分」という。)の所得税の確定申告書に次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目\年分昭和63年分平成元年分平成2年分
総所得金額45,176,65142,369,29055,303,271
内訳
 事業所得の金額△7,426,506△16,071,803△20,607,910
 不動産所得の金額43,938,15749,776,09365,122,861
 給与所得の金額8,665,0008,665,0009,995,000
 短期譲渡所得の金額793,320
納付すべき税額16,326,00015,337,20021,659,900

(注)「事業所得の金額」欄の△印は損失の額を示す。以下同じ。
 さらに、請求人は、昭和63年分及び平成元年分について、平成3年2月21日に、次表のとおり記載した修正申告書を提出した。

(単位 円)
項目\年分昭和63年分平成元年分
総所得金額47,566,65143,759,290
 内訳
 事業所得の金額△7,426,506△16,071,803
 不動産所得の金額 45,188,15750,026,093
 給与所得の金額9,805,0009,805,000
納付すべき税額17,437,40015,951,800

 原処分庁は、これに対し平成4年3月13日付で各年分について次表のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年4月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年7月3日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年8月3日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分の手続等について
(イ)原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成4年3月13日に、請求人が不在であったため請求人の実弟に面接したにもかかわらず、交付送達の努力をせず、安易に原処分に係る各年分の更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)を請求人の郵便受に差置送達したものであり、請求人が、本件更正通知書の送達を知ったのは、平成4年3月16日であるから、昭和63年分の所得税の更正処分は、更正の期間制限経過後になされた違法な処分である。
(ロ)請求人は、異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において請求人の事業は特殊な事態の中で開業されたことについて、異議審理庁の担当職員に対し書面を提出して説明したにもかかわらず、異議審理庁は、何ら実質的な調査を行わなかった。
ロ 本件所得の所得区分等について
(イ)E国で営業しているレストランG・E国店(以下「レストランG」という。)の実質的な経営者は、次に述べる開業の経緯及び当事者の認識等からみて、請求人及び請求人の知人であるJ(以下「J」という。)の両人であることは明らかであり、請求人のレストランGにかかる所得(以下「本件所得」という。)は事業所得に該当するから、本件所得にかかる損失の金額について、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定による損益通算を認めないで行った更正処分は違法である。
A レストランGは、請求人及びJの両人が昭和62年ころからN国やR国方面で日本料理専門店を経営したいという希望を持って各地の実情を見て回った結果、E国で売りに出されていた現店舗を借り受けて営業することを決断して開業したものであること。
B E国においてレストランGを経営するためには、同国の法律上の制約から、a、請求人又はJのいずれかが現地で統括経営責任者になるか、b、現地に株式会社又は合資会社を設立するしかなかったこと。
C そこで、検討した結果、上記Bのaについては困難であったので、上記Bのbのうち資本金に制約のない合資会社の方を選択し、実体のない名目的な現地の管理会社としてD社(以下「現地法人」という。)を設立したこと。
D レストランGの営業開始の許可は、Kを統括経営責任者として取得したが、同人はレストランGの従業員たるシェフであり、また、現地にいるL(以下「L」という)も従業員たるマネージャーであって、レストランGに関する一切の権利及び責任は、請求人及びJの両人に属していること。
E レストランGの経営者が請求人及びJの両人であることについては、両人のみならず現地のK及びLも疑いの余地がないこと。
(ロ)請求人の各年分の本件所得に係る事業所得の損失の金額は、昭和63年分7,426,506円、平成元年分23,920,366円及び平成2年分26,255,804円である。
 なお、上記の損失の金額は、昭和63年分については確定申告書に記載した金額と同額であるが、平成元年分及び平成2年分については、現地法人の当該年分の決算書の売上金額及び必要経費の額を基にして円換算した金額の2分の1に相当する損失の金額(平成元年分7,848,563円、平成2年分5,648,201円)に、請求人の当該年分の確定申告書に記載した損失の金額を加算した金額である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、原処分は違法でありその全部を取り消すべきであるから、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり適法に行われており、請求人の主張には理由がない。
イ 更正処分の手続等について
(イ)原処分庁の調査担当職員は、平成4年3月13日に本件更正通知書を送達すべく請求人の住所地に赴いたところ、請求人が不在であったため請求人の弟M(以下「M」という。)と面接し、同人に対し、本件更正通知書の受領を求めたが、同人はこれを拒否したため、本件更正通知書を郵便受に差置送達したものである。
 したがって、原処分庁が行った送達は、国税通則法第12条《書類の送達》第5項第2号の規定に照らし適法であり、平成4年3月13日に原処分の効力が発生しているので、昭和63年分の更正処分は更正の期間制限を徒過したものではない。
(ロ)異議審理手続の違法を理由として、原処分の取り消しを求めることはできない。
 なお、異議申立てに係る調査審理及び異議決定は、適法かつ適正に行われており、何ら違法又は不当な点はない。
ロ 本件所得の所得区分等について
(イ)所得税法第27条《事業所得》第1項で規定する事業所得とは、経済的利益の取得を目的とする継続的な事業活動から直接生ずる所得をいい、また、その所得の生ずる業務の遂行ないし労務の提供が、自己の計算と危険において独立性をもってなされる業務と解されている。
 ところで、請求人が個人事業として経営していると主張するレストランGは、昭和63年10月に店舗を購入後、現地法人が設立され、当該法人がレストランGを経営し、そこから生ずる収益を当該法人の収益として決算している事実が認められる。
 また、請求人が各年分において事業所得の収入金額としている金額は、請求人が日本から持ち込み、レストランG内で販売した茶器等の売上代金及び店舗の購入等のため出資した金額の1パーセントを受領したもの等であり、その金額も昭和63年分が715,000円、平成元年分が546,757円及び平成2年分が零円であることからも、請求人がレストランGを個人事業として営業しているという実態を反映したものとは、とても認められる内容の収入金額ではない。
 さらに、原処分に係る調査及び異議申立てに係る調査において、請求人が事業を行っていると認識するに足る書類等の提示を求めたが、請求人が提示したのは、現地法人の責任者等となっているK及びL両名と取り交わした覚書のみであり、請求人がレストランGを個人事業として行っていると認定するに足る書類等の提示はなかった。
 以上のことから、請求人がレストランGの購入、開業等に当たり、E国に在住のLに金員を送金したことは認められるが、これらの金員は、現地法人の事業継続のための出資又は貸付金であるとしか考えられず、請求人がレストランGを個人事業として行っているとは認められない。
 したがって、本件所得は、当該出資又は貸付金に係るものと認められることから、事業所得には該当せず、雑所得となる。
(ロ)この結果、請求人が事業所得の損失の金額として確定申告書に記載した、昭和63年分7,426,506円、平成元年分16,071,803円及び平成2年分20,607,910円は、雑所得の損失の金額となる。
 なお、総所得金額の計算に当たり、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額は、所得税法第69条第1項の規定により、他の各種所得の金額から控除することはできないので、雑所得の金額はないものとして、総所得金額を算定した。
 そうすると、請求人の各年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、各年分の更正処分の額と同額となるので、各年分の更正処分に違法はない。

(単位 円)
項目\年分昭和63年分平成元年分平成2年分
事業所得の金額000
不動産所得の金額45,188,15750,026,09365,122,861
給与所得の金額9,805,0009,805,0009,995,000
譲渡所得の金額793,320
総所得金額54,993,15759,831,09375,911,181

ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき各年分の過少申告加算税を賦課したことは適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、更正処分の手続等に係る違法性の存否及び本件所得の所得区分等にあるので、以下審理する。

(1)更正処分の手続等について

イ 請求人は、本件更正通知書は、平成4年3月13日に調査担当職員がMに面接したにもかかわらず、交付送達の努力もせず、安易に差置送達したものであり、請求人が本件更正通知書の内容を知ったのは平成4年3月16日であるから、昭和63年分所得税の更正処分は、更正の期間制限経過後になされた違法なものである旨主張する。
 ところで、当審判所において、原処分庁の送達記録書を調査したところによれば、原処分庁の調査担当職員は、平成4年3月13日に本件更正通知書を送達すべく請求人の事務所(納税地)へ赴いたが、請求人が不在であったため、Mに対して当該通知書の受領を求めたところ、同人は「この件については責任を取れないので受け取りたくない」としてこれを拒否したため、やむを得ず、請求人の自宅郵便受箱に当該通知書を差し置いたことが認められる。
 このことは、国税通則法第12条第5項第2号に規定する送達に該当するから、本件更正通知書は平成4年3月13日に適法に請求人へ送達されていることとなり、昭和63年分の更正処分は、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項に規定する更正の期間制限内になされていることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、異議調査において異議審理庁は、何ら実質的な調査を行わなかった旨主張するが、異議審理の手続の違法又は不当は、原処分の取消事由に該当しないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

トップに戻る

(2)本件所得の所得区分等について

 請求人は、本件所得は事業所得に該当するから、原処分庁が本件所得を雑所得と認定し損益通算を認めないで行った更正処分は違法である旨主張するので、以下審理する。
イ 請求人は、当審判所に対し、請求人の主張を証する書類として別紙提出書類目録のとおりの証拠書類を提出した。
ロ 請求人が提出した証拠書類、原処分関係資料等及び参考人等の答述によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人、J、B(以下「B」という。)、K及びLの署名のある「1988年5月22日付AGREEMENT(覚書)」には、要旨次のとおり記載があること。
A 請求人とJは、レストランGの開業に当たり資金を出し、財産の所有権を有する。
B 現地の法規に従って、レストランGは、F社を管理会社として指定する。
C 管理会社、ゼネラルマネージャーKは、Bから現地企業を買収する。
D 管理会社の出資300,000フランスフラン(以下「フラン」という。)は、請求人及びJが提供し、両人は管理会社の均等主要社員として登録される。
E 管理会社の出資持分は、次の者に無償で分配される。
B 10%
K 12%
L 12%
 管理会社は、5名の社員により構成される。
F 管理会社のゼネラルマネージャーKは、レストランGの経営の最善を尽くし、出資者に正確な財務状況を報告する。
G レストランGは、Lをローカルマネジャーとして任命する。
(ロ)K、L及びBの署名がある「1988年7月1日付PROVISIONALAGREEMENT(仮契約)」には、Bは、K及びLに和食店A店を総額2,262,500フランで譲渡することに合意する旨及びこの譲渡には、ライセンス、リース、備品及び内装が含まれる旨の記載があること。
(ハ)Bの署名がある「1989年4月10日付の書面」には、K及びLから2,262,500フランを受領した旨の記載があること。
(ニ)請求人は、H銀行U支店からI銀行〇〇支店のLの口座に1988年7月1日から1989年2月23日の間に8回に分けて2,252,500フランを送金し、1989年6月2日にP銀行のレストランG口座に200,000フランを送金し、合計2,452,500フランを送金していること。
(ホ)提出書類目録の4及び5の書類から、請求人は、上記(ニ)の送金額のうち一部をレストランGの内装工事費及びその他の経費の資金として送金していることが推認されること。
(ヘ)請求人から提出されたQ弁護士の抄訳による「1988年11月16日付許可書」には、E国は、Kが現地法人の業務執行者として、アジア料理とりわけ日本料理のレストランの営業を行うこと及びアジア料理に関する物品又は付帯品の売買を行うことについての許可を付与する旨の記載があり、当該許可書は同月17日にKに交付されていること。
(ト)同Q弁護士の抄訳による現地法人の「定款の変更」に関する書類には、丸1現地法人は、無限責任社員をK、有限責任社員を請求人、J、L及びBとする、丸2商号は、「S店」とする、丸3アジア料理とりわけ日本料理のレストランの営業を行う、丸4出資の総額は、300,000フランで、その持分は、請求人とJが各75,000フラン、KとLが各60,000フラン、Bが30,000フランとする、丸5Kが経営を行う、丸6この定款変更の登記は、1989年2月2日にされた旨の記載があること。
(チ)Kの署名のある「1989年4月17日付の書簡」には、次のとおりの記載があること。
A 現地法人(代表K)は、E国政府からレストラン営業許可を受けることにより、レストランGの営業権利を所有する会社である。
B 請求人及びJは、レストラン設立者として2,275,000フランずつを投資することにより、レストランGの運営に参加することを認める。
(リ)現地法人の「1989年12月31日付、1990年12月31日付及び1991年12月31日付の決算書」がE国の公認会計士V(以下「V」という。)によって作成されているが、この決算書によれば、現地法人の売上金額は、1989年12月期4,222,152.47フラン、1990年12月期4,238,420.37フラン及び1991年12月期3,955,427.98フランで、各期とも欠損となっていること。
 また、1989年12月31日付の決算書は、2通あり、当審判所が収集した現地法人の当初の決算書には、有形固定資産(機械及び器具、設備装置、ガラス器、食器、リネン類、家具及び装飾品)2,922,142.68フラン及び出資社員会計3,533,933.90フラン等の記載があるが、当審判所が請求人から提出を受けた決算書にはこれらの記載がないこと。
 なお、上記決算書には、土地・建物の勘定科目はなく、不動産賃借料の記載があること。
(ヌ)請求人、J及び株式会社W社長X(以下「X」といい、これら3名を総称して以下次の(ル)までにおいて「甲」という。)、K及びL(両人を総称して以下次の(ル)までにおいて「乙」という。)の間で締結された「1990年5月9日付の覚書」には、要旨次のとおりの記載があること。
 甲は、乙が提出した1989年度決算書を次の事項等を条件として承認する。
A 現地法人の社員持分を次表のとおり、各社員が額面金額にてXに譲渡する。

(単位 フラン)
 現保有譲渡譲渡後
請求人75,0007,50067,500
 J75,0007,50067,500
 L60,00026,25033,750
 K60,00026,25033,750
 B30,000030,000
 X0067,500
合計300,00067,500300,000

B 社員出資中には、次表のものが含まれる。

(単位 フラン)
 出資金貸付金
請求人2,275,000−75,000220,000
 J2,275,000−75,000220,000
 X本年度に出資する予定。出資完了後、請求人、J及びXが全出資金及び貸付金の合計の3分の1ずつを出資する形に調整する。220,000

C 現地法人は、甲に対して前記Bの社員出資(出資金及び貸付金)に係る元本の一部及び利息を毎月末銀行送金にて支払う。
D 乙は、甲の乙に対する貸付金(300,000フラン)に係る元本の一部及び利息を毎月末銀行送金にて支払う。
E 乙は、甲に対して前記C及びDの支払開始前の本年6月30日までに、それぞれ現物出資分及び立替分の金額を請求書に基づき現金にて清算する。
 今後、甲が乙のために立替えを行った場合、乙は、甲より請求書受領後30日以内に銀行送金の手続を行う。
F 甲乙は、今後のレストランGの発展のため誠意をもって協力し、かつ、事業が成功した場合は配当を行うか、他の事業への投資に使用するかにつき協議して決定するものとする。
(ル)上記(ヌ)の覚書について、Xは、当審判所に対して要旨次のとおりの答述をしていること。
A このプロジェクトがスタートした時点では、十分な話合いや資金計画ができておらず、特に、甲と乙との考え方に違いがあったので、甲が危機感を持ち、乙と再確認のために作成されたように思う。
B 請求人から出資経営参加を誘われ出資することとしたが、うまく運ばなくなり、1990年12月に撤退を申し入れ、請求人に受理されたものの、いまだに資金の清算はされていない。
 なお、オープンしてから5か月ないし6か月後に約100万円程度の配当があったが、その後は全くない。
C 支出した金銭は、株式会社Wの出資金として経理している。
(ヲ)請求人の代理人であるY税理士(以下「Y税理士」という。)及びMは、当審判所に対して、要旨次のとおりの答述をしていること。
A E国での経営の方法は、(1)個人、(2)合資会社、(3)株式会社の3種類があったが、(1)については、居住者でないと個人経営はできないこと、(3)については、100万フランの資本金が必要という制約があったので、資本金の制約がない(2)の合資会社を設立し、Kを統括経営責任者として発足することとした。
B レストランGの店舗の家賃は、月5万フランである。
(ワ)請求人、Y税理士及びMは、当審判所に対して、要旨次のとおりの答述をしていること。
A E国への送金額2,452,500フランのうち150,000フランは、現地法人の出資に充てられるものであり、また、最後に送金した200,000フランは、イベント会場の内装費の負担金の一部である。
 残金の2,102,500フランは、固定資産の取得価額となるものであるが、その中には、邦貨で1千万円くらいの営業権的なものに対する支出が含まれている。
B E国への送金額等に係る経理については、当初は現地法人で受け入れようとしたが、最終的には現地法人の経理に含まれていない。
(カ)Y税理士は、当審判所に対して、要旨次のとおりの答述もしていること。
A 現地法人は、E国の法律により現地で既に設立されていたZ社という企業を買収したものであるが、買収の許可日が1988年11月17日なので、その日を設立日と考えている。
B レストランGは、1988年11月に約1週間ほど営業したが、手直し工事を行うことになり、本格的な営業は翌年の2月8日からである。
C E国の法律上、現地法人の責任者は統括経営責任者であるKである。
D 平成4年5月にMと一緒にE国に行き、Vに会って、同人から現地法人の帳簿書類を見せてもらう際にKの許可を求められた。
E レストランGの事業全体の資金の流れの分かる帳簿書類の有無については、本格的に営業を開始してからはVも関与しており、コンピューターにより会計処理したものがある。しかし、1988年11月に約1週間ほど営業した分に係るものについては、書類があるかどうか分からないし、金額についても分からない。
F 請求人から提出を受けた現地法人に係る1989年12月31日付の決算書は、現地法人の当初の決算書に記載されている有形固定資産について、請求人個人のものであることをK及びLが確認し、Vも了解したので、請求人の有形固定資産と出資社員預り金勘定(前記(リ)の「出資社員会計」と同義の勘定科目と思われる。)の金額を同額削除したものである。
G 請求人とJがレストランGの経営を共同事業として行うとする旨の契約書類はない。
(ヨ)Jは、当審判所に対して、要旨次のとおりの答述をしていること。
A 請求人と自分の間では、レストランGの経営について作成した書類はなく、特に取り決めた事項もない。
B レストランGは、自分が送金した資金を基に、現地で工事中の店を営業許可の権利付きで買い取ったものであるが、買受人の氏名はK及びLとなっており、請求人と自分で買ったことを証明できる書類はない。
C Kは、現地法人のシェフ兼社長をしている。
D レストランGの開業後2年くらい経ったころに、40万円か50万円程度のお金が送金されてきたが、自分としては、レストランという事業に対して投資をしたので、送金された金額は出資金に対する配当と理解している。
 なお、請求人は、銀行から借入れをして貸したのであるから、貸付金に対する利息を請求してもおかしくないと言っていたので、貸付金と思っているかもしれない。
(タ)L及びKの連名による「平成4年8月5日付の上申書」には、要旨次のとおりの記載があること。
A 請求人及びJが昭和63年7月以降に送金した金銭は、すべてレストランGの諸経費支出のために経営者である両人が送金したものであり、現地法人又はK及びLに対する貸付け又は出資ではない。
B レストランGにおけるK及びLの地位は、同店のシェフ及びマネージャーであり、同店に関する一切の権利及び責任は、経営者である請求人及びJに属する。
C 現地法人は、単に、レストランGの管理運営のために設立したものであり、いかなる権利も有しない。
(レ)提出書類目録の6及び7の書類から、LあるいはKは、日報や一月ごとの営業報告、損益計算書(以下「日報等」という。)を請求人あるいはJへファックス等により適宜報告していたことが認められるが、各年分のすべてではないこと。
(ソ)請求人は、上記の日報等を保管していたが、これらを基にした自己の帳簿書類は作成していないこと。
(ツ)請求人が原処分庁へ提出したレストラン事業に係る青色申告決算書の各年分の収入金額は、昭和63年分715,000円、平成元年分546,757円及び平成2年分零円となっていること。
(ネ)L及びKの署名がある「1990年10月11日付の書簡」には、請求人の昭和63年分の売上金額715,000円は、請求人が持参した茶器等をレストランG内で売上げた金額315,000円及びレストランGがオープンしてから1か月の売上金額の一部400,000円であること、平成元年分の売上金額546,757円は、昭和63年の内装設備等の投資額の1パーセントを請求人と交渉の上送金したものである旨記載されていること。
ハ ところで、所得税法は、所得の種類を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得の10種類に区分しているところ、所得税法第27条第1項に規定する事業所得とは、経営主体が個人である場合の製造業、卸売業、小売業、サービス業及びその他の事業から生ずる所得をいうのであるが、この事業とは、自己の危険と計算において独立的に営まれる業務で、営利性、有償性、反復性、継続性を有し、かつ、業務における自己の役割及びそれに費やした精神的、肉体的労力の程度などの諸点から事業としての社会的客観性が認められるものをいうと解されている。
 また、所得税法第35条《雑所得》では、雑所得とは他の9種類の所得に該当しない所得をいう旨規定している。
 さらに、所得税法第37条《必要経費》第1項の規定によれば、事業所得、不動産所得又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。
ニ そこで、前記ロの事実を上記ハに照らして判断すると次のとおりである。
(イ)前記ロで述べた事実を整理・要約すると、丸1請求人とJが資金を出し、K、L及びBを加えた5名でE国においてレストランGを開業することとしたこと、丸2E国でレストランGを経営する方法としては、個人事業とする方法、合資会社又は株式会社とする方法があったが、種々の制約を考慮した結果、合資会社とする方法を選択し、既に設立されていた地元企業を買収することとしたこと、丸3地元企業(社名がZ社で、店名がA店と推認される。)の買収は、1988年7月1日付のK及びLとBとの仮契約に基づき行われているものと見られ、当該買収した地元企業が現地法人であること、丸4この現地法人については、1989年2月2日に定款変更の登記がなされているが、その要旨は、(a)無限責任社員をK、有限責任社員を請求人、J、L及びBとし、出資の総額は300,000フランで、その持分は請求人とJが各75,000フラン、KとLが各60,000フラン及びBが30,000フランとする、(b)アジア料理とりわけ日本料理レストランの営業を行う、(c)Kが経営を行うとするものであること、丸5E国でのレストラン営業に係る許可書は、1988年11月16日付のもので同月17日に交付されているが、同許可書には、Kが現地法人の業務執行者として、アジア料理とりわけ日本料理レストランの営業を行うこと及びアジア料理に関する物品又は付帯品の売買を行うことについての許可を付与する旨記載されていること、丸6現地法人の決算書は、現地の公認会計士が作成しており、それにはレストランGの売上金額は、1989年12月期4,222,152.47フラン、1990年12月期4,238,420.37フラン及び1991年12月期3,955,427.98フランと記載されていること、丸7現地法人の社員に新たにXを加えることにしたこと、丸81990年5月9日付覚書によれば、請求人を含む全社員は、(a)請求人、J及びXの3名の社員が現地法人に対して有する社員持分以外の債権(前記ロの(ヌ)のBでいう出資金及び貸付金)並びに(b)3名の社員がK及びLに対して有する債権(前記ロの(ヌ)のD及びEでいう貸付金等)を確認しているところ、これらの債権のうち請求人が有する債権の額は、前記ロの(ニ)で述べた請求人の送金額とほぼ一致する金額であることから、請求人がレストランGに係る資金として支出した金額については、請求人自身も現地法人並びにK及びLに対する債権として認識していたものと推認されること、丸9Jは、レストランGから開業後2年くらいたったころに送金された金額は出資金に対する配当と理解していた旨及び請求人がレストランGに係る資金は銀行から借入れをして貸していたのだから貸付金に対する利息を請求してもおかしくないといっていた旨の答述をしていること、丸10Xは、請求人から出資経営参加を誘われ出資したが、うまくいかず1990年12月に撤退を申し入れ受理されたものの、いまだに出資金の清算はされていない旨及び出資した金銭はすべて自社の出資金として経理している旨の答述をしていること、丸11現地法人の決算書による売上金額は、上記丸6のとおりであるところ、請求人が各年分の確定申告の際に提出したレストランGに係る青色申告決算書に記載されている各年分の収入金額は、昭和63年分715,000円、平成元年分546,757円及び平成2年分零円であり、これには現地法人の決算書に計上されているレストランGの売上金額が含まれていないことが認められる。
 これらの事実を総合して考えると、現地法人は、E国の法令に従って適法に設立された合資会社であり、かつ、レストランGの営業を行っている実態を有する法人であると認められるから、レストランG経営主体は、現地法人であって請求人らではないと言わざるを得ない。
 そうすると、レストランGの営業により生じた所得は、請求人の事業所得に該当しないこととなり、また、請求人がレストランGの営業に関して支出した金額は、いずれも所得税法第37条第1項に規定する所得を生ずべき業務について生じた費用等に当たらず、請求人の事業所得に係る必要経費にはならないと言うべきである。
(ロ)請求人は、現地法人はE国における種々の制約から名目的に設けた実体のない会社であり、また、K及びLはレストランGの従業員であってレストランGに関する一切の権利及び責任は請求人及びJの両人に属しており、両人がレストランGの経営者であることについては、両人のみならずK及びLも疑いの余地がない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、現地法人は実体を有する会社であってレストランGの経営主体であると認められることに加え、丸1Jは、前記ロの(ヨ)の答述内容からみて、請求人と自分が個人事業としてレストランGを共同経営しているとの認識を持っていないものと推認されること、丸2両人が個人事業としてレストランGを共同経営しているのが真実であるとすれば、両人の間で当該共同事業に関して取り決めた何らかの書類があってしかるべきと考えられるところ、前述のJの答述及び前記ロの(カ)のY税理士の答述にもあるとおり、そのような書類は存在せず、また、Jは、この点について特に取り決めた事項もない旨答述していること、更に、丸3レストランGが両人の共同事業であるとすれば、レストランGの売上金額及び必要経費の額のうち請求人の持分に応じた金額を請求人の各年分の事業所得に係る収入金額及び必要経費の額に含めるなどの方法により確定申告すべきであるのに、これを含めていないことなどからみて、請求人の主張を採用することはできない。
 なお、請求人は、自己の主張に沿うものとして前記ロの(タ)のとおり、K及びLの連名による上申書を提出しているが、上記の理由に加え、当該上申書の筆跡は両人の署名を含め同一人物のものと認められ、また、両人の押印もないことから、信ぴょう性に欠けるものであり、これを採用することはできない。
(ハ)請求人が各年分の確定申告においてレストランGに係る収入金額としている金額の内訳については、前記ロの(ネ)の書簡によれば、丸1請求人が持参した茶器等をレストランG内で売上げた金額315,000円、丸2レストランGがオープンしてから1か月の売上金額の一部400,000円及び丸3昭和63年の内装設備等の投資額の1パーセント相当額546,757円である旨記載されているところ、これらの収入が、請求人の所得に係る収入金額となるべきものか否か及び当該収入金額になるとしてもどの種類の所得に係る収入金額となるかについては、この書簡以外にこれらの収入がどのような取り決め等に基づきいかなる性質を有するものとして請求人に支払われたのかを明らかにする証拠書類等の提出がないため即断することはできない。
 しかしながら、この書簡の記載内容等からみるかぎり、上記丸1の収入については、請求人が持参した茶器等の売上金額であるから、請求人の所得に係る収入金額となるべきものと認められるものの、それがどの種類の所得に係る収入金額となるかについては、その売上金額が少額であること及び請求人は会社役員としての本業を有していることなどからみて、当該茶器等の売上げにつき、前記ハで述べた事業としての社会的客観性があるとは認められないから、当該収入金額は雑所得に係る収入金額に該当するものとみるのが相当である。
 また、上記丸2及び丸3の収入については、請求人が現地法人やK、Lに対して有する債権に係る元本の一部の返済金、当該債権に係る利息の支払額又は出資に係る配当(剰余金の分配)が想定されるところ、現地法人は各期とも欠損となっており、また、社員に対して出資に係る配当を行っていることを示す証拠もないことから、これらの収入が請求人の所得に係る収入金額となるのは、当該収入が利息の支払額である場合ということになる。
 そこで、当該収入を請求人の現地法人等に対して有する債権に係る利息の支払額であるとみた場合にどの種類の所得に係る収入金額とみるべきかについては、請求人がこれ以外に金銭の貸付けを事業として行っている事実は認められないこと、また、現地法人等に対する債権を請求人の貸金業に係る貸付金とみるのは、前記ハで述べた事業の概念に照らし相当でないと考えられることから、当該収入は雑所得に係る収入金額に該当するものと解される。
ホ ところで、Y税理士は、前記ロの(カ)で述べたとおり、現地法人の当初の決算書に記載されている有形固定資産は、請求人個人のものであることをK及びLが確認し、Vも了解した旨答述しているが、L及びXが了解したのか否かが不明であり、この答述及び前記ロの(リ)で述べた有形固定資産等の記載のない現地法人の決算書の提出のみをもって、直ちに当該有形固定資産が請求人個人のものと認定することはできない。
 しかしながら、この答述のほか、前記ロの(イ)のA、(ワ)のB及び(ヨ)のBで述べた事実を併せ考えると、当該有形固定資産の真実の所有者は、現地法人なのか、K及びLなのか、あるいは資金を出した請求人らであるのか判断できない面があるので、仮に当該有形固定資産が請求人個人の所有に属するとした場合に、前記ニで述べた判断に影響を及ぼすか否かについて検討すると、次のとおりである。
 当該有形固定資産は、レストランGの業務用として使用されているものであるところ、レストランGの経営主体である現地法人と請求人との間に当該有形固定資産の使用に関して賃貸借契約等が締結されている事実はなく、また、請求人に対してその使用料等が支払われているという事実も認められないから、当該有形固定資産を現地法人に使用させていることは、所得税法第37条第1項に規定する「所得を生ずべき業務」に該当するとは認められない。
 そうすると、当該有形固定資産に係る費用は、請求人の所得を生ずべき業務について生じた費用等に当たらず、所得金額の計算上必要経費として控除すべきものとは認められないから、当該有形固定資産が請求人の所有に属するとしても、前記ニで述べた判断を左右することにはならないものと解される。
ヘ 以上のとおり、本件所得のうち、レストランGの営業により生じた所得は、現地法人に帰属するものと認められ、また、請求人が各年分の確定申告においてレストランGに係る収入金額として申告しているものが請求人の所得に係る収入金額になるとしても、いずれも雑所得に係る収入金額に該当するものと解されるから、本件所得は請求人の事業所得に該当しないものと認められる。
 したがって、請求人が本件所得に係る必要経費として主張するもののうち、請求人の所得に係る必要経費となるのは、当該雑所得の計算上必要経費に算入すべきものに限られるところ、雑所得の金額の計算上生じた損失の額は、その存否について判断するまでもなく、所得税法第69条第1項の規定により、他の各種所得の金額から控除することはできないから、請求人の総所得金額は、雑所得の金額を零円と認定した本件更正処分の金額と同額か又はこれを上回ることになるから、本件更正処分は適法である。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を、確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課したことは適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

別紙 提出書類目録

1 「第1回目 Z社よりBへ80%の株移動に関する手続き」という表題の書類
2 「第2回目 Bより80%の株をJ、C(請求人)、Lへ移動した手続き」という表題の書類
3 「最終手続き Z社の20%をKに移動した手続き」という表題の書類
4 「工事(1)〜(4)」と記載のあるふせんが貼ってある書類
5 「工事経費 E国雑費」という表題があるケースに入った書類
6 「売り上げ明細(比較表)89.2月〜90.12月迄 91.1、2月分」という表題の3つのファイルが一体となった書類
7 「E国レストランG 日報 営業報告 90.6.1〜91.6.24」という表題があるバインダーに綴じられた書類

トップに戻る