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(平7.6.14裁決、裁決事例集No.49 281頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 Eは、平成2年分の所得税の確定申告書(分離課税用)(以下「本件申告書」という。)の特例適用条文欄に「措法37条」と記入の上、総所得金額を3,901,001円、分離長期譲渡所得の金額を66,928,358円及び納付すべき税額を15,049,600円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、Eは、平成4年10月14日に死亡し、E(以下「被相続人」という。)に係る共同相続人は、相続人F、G及びH(以下、この3名を「請求人ら」という。)である。
 原処分庁は、被相続人の平成2年分の所得税について、F及びGについては平成6年3月11日付で、Hについては同年3月14日付で、総所得金額を3,901,001円、分離長期譲渡所得の金額を143,500,000円及び納付すべき税額を34,192,600円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を2,118,500円とする賦課決定処分を行い、これらの処分に伴う請求人らの納付義務の承継額は次表のとおりである。

(単位 円)
区分/項目更正処分により過少申告
 納付すべき税額加算税の額
総額19,143,0002,118,500
承継内訳
 F4,785,700529,600
 G9,571,5001,059,200
 H 4,785,700529,600

 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年4月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年6月29日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年7月14日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成6年10月26日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)被相続人は、貸付けの用に供していたP市R町1丁目6番17号所在の借地権及び家屋を平成2年12月21日に170,000,000円で譲渡し、この譲渡に係る譲渡所得の申告に際して、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項の規定(以下「本件特例」という。)を適用し、平成2年中に114,075,945円で取得したP市S町8丁目11番43号所在のカラオケボックスの用に供するための建物及び機器(以下「本件資産」という。)を同項第14号下欄に規定する買換資産として、譲渡所得の金額を計算した。
(ロ)原処分庁は、買換資産を事業の用に供することが本件特例の適用要件であり、本件資産については、租税特別措置法施行令(平成3年政令第88号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第25条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第2項に規定する相当の対価を得ていないので、本件特例が適用される事業の用に供されていないと主張する。
 しかしながら、本件特例の「事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。」の趣旨は、例えば、別荘やモーターボートのように、その機能からみて、自家用にも事業用にも使用される可能性のある資産の場合には、外観からは本件特例が適用される事業であるか否か区別がつかないので、このような場合でも、これを相当の対価を得て継続的に貸し付けているのであれば、本件特例の事業に含めるということである。
 したがって、本件資産は、その機能からみて自家用に使用される可能性はなく、被相続人は本件資産を株式会社L(以下「L社」という。)に貸し付け(以下「本件貸付け」という。)、L社は、これをカラオケボックスとして事業に使用していることは明らかであるから、本件貸付けは、本件特例の事業に準ずるものには該当せず、措置法施行令第25条第2項の規定を適用して判断する余地はない。
(ハ)なお、原処分庁は、本件貸付けに対する賃貸料を受け取っていないこと及び仮に、約束した月額600,000円の賃貸料を受け取ったとしてもその年間賃貸料の額は本件資産の減価償却費の額にも満たないことから措置法施行令第25条第2項に該当しないと主張する。
 しかしながら、本件貸付けに対する賃貸料を受け取らなかったのは、L社のカラオケボックス事業が計画どおりの収益を上げられなかったため、L社が被相続人に賃貸料を支払えなかったからであり、また、本件においては、リース業のごとく期間を定めてその投下資本の額を賃貸料として回収するものではなく、被相続人は、本件資産の維持又は補修費用のみならず使用期間を延長させるための支出もL社に負担させ、初期投資額を長期にわたって回収することを予定して月額賃貸料を600,000円と定めたものと思われる。
 したがって、L社の事業が失敗して被相続人に収入がなかったこと及び予定した賃貸料の額が減価償却費の額を下回ることをもって、事業性そのものを否定することはできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 本件申告書には、本件資産の明細が次表のとおり添付されていること。

(単位 円)
 購入先購入金額
株式会社A1,000,000
株式会社B1,236,000
株式会社C31,700,000
株式会社D71,144,211
I看板店4,270,000
J社・M支店341,754
株式会社N1,263,900
Oデンキ88,000
T商会460,000
U株式会社2,459,707
株式会社V28,840
W株式会社40,170
株式会社X43,363
 合計114,075,945

B 本件申告書には、本件貸付けに対する収入が記載されていないこと。
C 被相続人は、平成3年分の所得税の確定申告書を提出していないこと。
D L社が提出した平成2年6月1日から平成3年5月31日まで及び平成3年6月1日から平成4年5月31日までの各事業年度の法人税の確定申告書に添付されている貸借対照表、損益計算書及び地代家賃等の内訳書(以下「地代家賃等内訳書」という。)には、被相続人からの本件資産の借入れに対する支払賃借料及び未払賃借料は記載されていないこと。
 また、上記の損益計算書には、本件資産を使用して獲得した売上収入が、それぞれ27,448,140円及び31,653,192円と計上されていること。
E Fは、平成6年5月18日に異議審理庁の調査担当職員に対して次のとおり申述していること。
(A)被相続人は、本件貸付けに関する契約書を作成していない。
(B)被相続人は、本件資産の賃料を月額600,000円と口頭で取り決めた。
(C)L社は、遊戯業の収益が予想に反して悪かったため、本件資産の賃借料を支払っていない。
(D)Fは、平成5年11月ころに本件資産を月額200,000円で賃貸する旨の契約書を作成し、L社は、この賃借料を支払っている。
F Fは、平成5年分の所得税の確定申告書に本件資産の貸付けに対する賃貸料収入が、2,400,000円及び必要経費が6,205,511円と記載していること。
(ロ)ところで、本件特例は、買換資産を事業の用に供することが適用要件とされており、この事業には措置法施行令第25条第2項に規定されている「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」も含むと規定されている。
 この「相当の対価を得て継続的に行うもの」とは、相当の所得を得る目的で継続的に対価を得て貸付けを行うことをいい、また、「相当の対価」とは、貸付けの用に供している資産の減価償却費の額、固定資産税及びその他の必要経費を回収した後において、相当の利益が生ずるような対価をいう。
(ハ)前記(イ)で述べたとおり、被相続人は本件貸付けに対する賃貸料を受け取っていない。
 仮に、被相続人がL社との間で口頭により約束した月額600,000円の賃貸料を受け取ったとしても、その年間賃貸料の額は減価償却費の額にも満たないから、上記(ロ)のとおり、「事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当しない。
 したがって、被相続人は、本件資産を事業の用に供していないから、本件特例を適用することはできない。
(ニ)以上のほか、原処分庁が調査したところによれば、被相続人の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおり143,500,000円となり、これに基づく納付すべき税額は、34,192,600円となるから、これらの金額と同額で行われた本件更正処分は適法である。

(単位 円)
 項目金額
収入金額(1)170,000,000
取得費の額(2)8,500,000
譲渡に要した費用の額(3)17,000,000
特別控除の額(4)1,000,000
分離長期譲渡所得の金額143,500,000
((1)-(2)-(3)-(4))

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、被相続人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件貸付けが、本件特例の事業又は事業に準ずるものに該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)被相続人は、平成2年7月1日に本件資産を取得し、同日L社に貸し付けたが、本件貸付けに係る契約書を作成しなかったこと。
(ロ)L社は、平成2年7月1日にカラオケボックス事業を開始したが、この事業による収益が予想に反して悪く、本件資産の賃借料を支払える状況ではなかったので、本件貸付けに対する賃料の授受は、貸付当初から行われなかったこと。
(ハ)本件申告書には、本件貸付けに対する賃貸料収入が計上されておらず、また、被相続人は、平成3年分の所得税の確定申告書を提出していないこと。
(ニ)L社の平成2年6月1日から平成3年5月31日まで及び平成3年6月1日から平成4年5月31日までの各事業年度の地代家賃等内訳書には、被相続人からの本件資産の借入れに対する支払賃借料及び未払賃借料は計上されていないこと。
(ホ)Fは、L社と平成5年1月から本件資産を月額200,000円で賃貸する旨の契約を締結し、平成5年分の所得税の確定申告書に本件資産の貸付けに対する賃貸料収入を計上していること。
(ヘ)L社の平成4年6月1日から平成5年5月31日までの事業年度の地代家賃等内訳書には、平成5年1月よりFからの本件資産の借入れに対する支払賃借料が月額200,000円と計上されていること。
ロ ところで、本件特例は、買換資産をその取得の日から一年以内に、譲渡した者の事業の用に供することが要件とされているところ、この場合の事業については、自己の危険と計算において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復的継続的に行われるものと解するのが相当である。
 また、本件特例の事業には、「事業に準ずるものとして政令で定めるもの」も含まれるとされ、措置法施行令第25条第2項によれば、「事業に準ずるものとして政令で定めるもの」とは、「事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」と規定されている。
 そうすると、買換資産を貸し付けた場合において、当該貸付けが本件特例の事業又は事業に準ずるものであるか否かの判断に当たっては、事業であるための営利性及び有償性、また、事業に準ずるものである場合の相当の対価を得ることが必要であることを考慮すれば、当該貸付けに係る対価の額がこの判断に重要な影響を及ぼすものと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)前記イの(イ)ないし(ニ)によれば、丸1被相続人は、本件貸付けに係る契約書等を作成せず、平成2年7月1日から平成4年10月14日に死亡するまで本件貸付けに対する賃料の授受がなかったこと及び丸2被相続人は、本件貸付けに対する賃貸料収入についての所得税の申告がなく、L社は、平成4年5月まで本件資産の借入れに対する支払賃借料及び未払賃借料を計上していないことが認められる。
 一方、前記イの(ホ)及び(ヘ)によれば、被相続人の死亡後の平成5年1月に、FとL社は本件資産の賃貸借契約を締結し、Fは、本件資産の貸付けに対する賃貸料収入を平成5年分の所得税の確定申告書に計上し、L社は、本件資産の借入れに対する支払賃借料を計上していることが認められる。
 そうすると、本件貸付けは、その後にFが本件資産を貸付けた場合と比較してみれば、単に賃料の授受が行われていなかったというだけではなく、無償による貸付けであったことが認められる。
(ロ)ところで、資産を無償で貸し付けた場合には、当該貸付けに対し、何ら対価を得ていないのであるから、これを前記ロに照らせば、このような無償による資産の貸付けは、本件特例の事業又は事業に準ずるもののいずれにも該当しないことは明らかである。
(ハ)したがって、本件貸付けは、本件特例の事業又は事業に準ずるもののいずれにも該当しないものと認められる。
ニ 請求人らは、本件特例の「事業に準ずるもの」とは、その資産の機能からみて、自家用にも事業用にも使用される可能性のある資産の貸付けをいうものであり、本件資産は、その機能からみて自家用に使用される可能性はなく、被相続人はL社に本件資産を貸し付け、L社はこれをカラオケボックスとして事業に使用していることは明らかであるから、本件貸付けは、事業に準ずるものには該当しない旨主張する。
 しかしながら、前記ロで述べたとおり、本件特例の「事業に準ずるもの」とは、「事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」と措置法施行令第25条第2項に規定されていることから、貸し付けられた資産の機能によって「事業に準ずるもの」であるか否か判断されるべきものではない。
 仮に、請求人らが、本件貸付けが事業である旨の主張を行っているとしても、前記ハの(ハ)のとおり、本件貸付けは、本件特例の事業又は事業に準ずるもののいずれにも該当しないものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ホ 請求人らは、賃貸料収入がなかったのは、L社の事業上の都合であって、このことをもって事業性を否定できない旨主張するが、本件貸付けは、前記ハの(イ)のとおり、賃借人の都合によって賃貸料収入が未収となっていたものではなく、貸付けの当初から無償となっていたものであり、前記ハの(ロ)で述べたとおり、このような無償による貸付けは、本件特例の事業又は事業に準ずるものとは認められないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
 また、請求人らは、予定された賃貸料の額が減価償却費の額を下回っていても事業性を否定できない旨主張し、Fは、被相続人は本件資産の賃貸料を月額600,000円と口頭で取り決めた旨を当審判所に対し答述するが、前記ハの(イ)のとおり、本件貸付けは無償貸付けであるから、請求人らの主張はその前提を欠いており、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ヘ 以上の結果、被相続人は、本件資産をその取得の日から一年以内に被相続人の事業又は事業に準ずるものの用に供していないから、本件資産は、本件特例の適用の対象となる買換資産に該当せず、本件特例の適用がないとした本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のヘのとおり適法であり、また、被相続人には、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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