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(平7.2.10裁決、裁決事例集No.49 311頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、鋼板加工販売業を営む同族会社であるが、平成2年4月1日から平成3年3月31日まで及び平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度(以下順次「平成3年3月期」及び「平成4年3月期」といい、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成5年9月30日付で次表の「更正」欄のとおり更正処分及び「賦課決定」欄のとおり賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分項目\事業年度平成3年3月期平成4年3月期
確定申告所得金額185,968,476174,451,987
 納付すべき税額68,100,90063,085,800
更正所得金額222,997,158250,904,535
 納付すべき税額81,986,80091,755,700
賦課決定過少申告加算税1,388,0002,866,000

 請求人は、本件各事業年度の更正処分を不服として平成5年11月1日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のことから違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 寄付金の額の認定について
 寄付金の額の認定の基とされた事実は、次のとおりである。
(イ)平成2年6月11日に死亡するまで請求人の代表取締役会長であったA(以下「A」という。)は、P国の株式市場における株式売買(以下「P国株式売買」という。)をする目的の下に、昭和63年12月に、P国現地法人G LIMITED(以下「G社」という。)を買収した。
 Aは、G社の株式売買資金の調達のために、平成元年8月7日に請求人の主力銀行であるI銀行J支店(旧K支店)に請求人が保証人となり別表1の担保物件(以下「本件担保物件」という。)を差し入れた上、同行J支店がG社の借入れの保証をするために発行した信用状(以下「A信用状」という。)を受けて同行P国支店から3,000,000,000円の借入れ(以下「G社借入金」という。)をした。
 なお、G社は、Aの個人的な会社であり、G社の行為はすべてA個人の行為である。
(ロ)Aは、P国株式売買において多額な損失を出し、その後、G社借入金について、平成2年2月7日に800,000,000円を返済したものの、同年6月11日にAが死亡したこともあって残額2,200,000,000円が返済不能となった。
(ハ)請求人は、I銀行J支店からG社借入金の返済をしないと本件担保物件を処分する旨の要求をされ、別表2のとおり、平成3年1月7日に支払利息分54,091,042円及び同月18日に元本分287,000,000円、支払利息分53,258,199円を代位弁済し、Aの相続人である妻のB、長女のC、長男のD及び次女のE(以下「相続人ら」という。)に対する仮払金に計上した。
(ニ)さらに、請求人は、平成3年1月18日にG社借入金の残額1,913,000,000円を返済するために、再度自らが保証人になりI銀行J支店に本件担保物件を差し入れ、同行J支店が請求人の子会社であるM株式会社(以下「M社」という。)のP国現地法人N LIMITED(以下「N社」という。)の借入れの保証をするために発行した信用状(以下「B信用状」という。)を受け、M社を通じN社の名義を利用して同行P国支店から1,913,000,000円の借入れ(以下「N社借入金」という。)をした上、同日にN社借入金により、G社借入金の残額1,913,000,000円の肩代わり返済をした。
(ホ)請求人は、平成3年1月18日にN社借入金を相続人らに対する仮払金に計上するとともに、同額をM社からの借入金として計上した。
(ヘ)請求人が、平成3年1月18日に肩代わりした以後のN社借入金に関してI銀行P国支店に支払った支払利息(以下「本件支払利息」という。)、信用保証料及び通信費(以下、本件支払利息と併せて「本件支出金」という。)は、別表3のとおりである。
(ト)請求人は、本件支出金について、平成3年3月期には支払利息勘定に24,397,469円を計上し、平成4年3月期には支払利息勘定に支払利息分として55,094,112円及び信用保証料分として1,950,000円の合計金額57,044,112円及び通信費勘定に15,200円を計上して本件各事業年度の損金の額に算入したところ、原処分庁は、本件支出金は相続人らに対する経済的利益の供与であり、寄付金の額に該当すると認定して本件各事業年度の更正処分をした。
ロ 本件支出金は、次の理由により寄付金の額に該当せず、原処分庁の認定は誤りである。
(イ)請求人が、G社借入金及びN社借入金の肩代わり返済をしたのは、別表1の請求人の事業遂行上重要なH工場等の土地及び建物を担保提供しており、それらを処分されるようなことがあれば、請求人の経営が成り立たなくなるために、企業防衛上の手段としてやむを得ず肩代わりしたものであること。
(ロ)請求人は、G社借入金を相続人らに代わって代位弁済するまでの別表2の支払利息分107,349,241円及び信用保証料分のうちAが支払った9,000,000円を除いた4,500,000円については、求償権の放棄、債権の一部免除をせず相続人らに対する仮払金に計上していること。
(ハ)請求人は、N社借入金について、平成3年1月18日に肩代わりの上、返済したものであり、また、本件支出金は、請求人の借入金に対する支払利息等として損金の額に算入したものであること。
(ニ)Aは、死亡時、1,700,000,000円余の債務超過の状態にあり、相続人らにおいては、80,000,000円程度の債務の免除を受けたとしても、相続人らには、経済的利益の供与があったとの感触はないこと。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 寄付金の額の認定について
(イ)本件支出金について調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、別表2のとおり、平成3年1月7日及び同月18日にG社借入金の一部である元利金394,349,241円を代位弁済し、相続人らに対する仮払金として経理処理していること。
B 請求人は、平成3年1月18日に、N社借入金によりG社借入金の残額1,913,000,000円を肩代わり弁済し、相続人らに対する仮払金として資産計上するとともに、同額をM社からの借入金として経理処理していること。
C G社借入金は、もともと請求人の業務に関連のないAの個人的借入金であることから、請求人は、G社借入金のうち請求人が代位弁済した金額についてはAに求償すべきところ、Aが死亡したため相続人らに対して求償することとなったものであること。
D 本件支出金は、請求人がG社借入金の肩代わりをしたことにより発生したN社借入金に係るものであること。
E 請求人は、本件支払利息に関して別表4のとおり振替伝票を作成しており、その振替伝票の記載内容等は、次のとおりであること。
(A)別表4の番号1の振替伝票では、本件支払利息の一部がG社借入金の代位弁済時の経理処理と同じく、いったんは、相続人らに対する仮払金として経理処理されていること。
(B)それぞれの振替伝票の摘要欄には「A外相続人の借入利息」あるいは「A会長の借入利息分」等と記載されていること。
(ロ)前記(イ)のとおり、請求人は、本件支出金を相続人らに求償すべきものと認識しているにもかかわらず、何ら求償することなく求償権を放棄し、一方的に本件支出金を負担し、自己の損金として経理処理しているのであるから、結果的に相続人らに対する債権の一部を放棄したこととなり、このことは、相続人らに対して経済的利益を供与したこととなる。
(ハ)また、相続人らにとって、本来であれば自己の債務として負担すべき債務が減少したのは事実であるから、相続財産が債務超過の状況にあって経済的利益を受けた認識がなかったとしても、そのことをもって経済的利益の供与がなかったことにはならない。
(ニ)法人税法第37条《寄付金の損金不算入》第2項は、内国法人が各事業年度において支出した寄付金の額の合計額のうち、損金算入限度額を超える部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定し、同条第6項では、寄付金の額は、寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとすると規定している。
(ホ)以上のことから、請求人が本件各事業年度の損金の額に算入した本件支出金は、相続人らに対する経済的利益の供与であり、本件支出金である平成3年3月期24,397,469円及び平成4年3月期57,059,312円は、法人税法第37条第6項に規定する寄付金の額に該当するとした原処分は相当である。
ロ 寄付金の損金不算入額について
 本件各事業年度の寄付金の損金不算入額は、請求人が本件各事業年度の法人税確定申告書に添付した寄付金の損金算入に関する明細書の「その他の寄付金」欄に、前記イの(ホ)のとおり、寄付金の額に該当する金額、平成3年3月期24,397,469円及び平成4年3月期57,059,312円をそれぞれ加算し、法人税法第37条第2項の規定に基づき計算すると、平成3年3月期21,690,380円及び平成4年3月期54,037,851円となる。

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3 判断

 請求人が損金の額に算入した本件支出金が、相続人らに対する経済的利益の供与として寄付金の額に該当するか否かについて争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。

(1)次のことについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

イ Aは、平成2年6月11日に死亡するまで、請求人の代表取締役会長であったこと。
ロ P国に本店がある現地法人G社は、P国株式売買をするに際し、現地法人でなくては株式売買ができないためにAがP国で買収した法人で、Aの個人的な会社であり、G社の行為はすべてA個人の行為であること。
ハ G社借入金及びN社借入金に係るI銀行P国支店への元本及び支払利息の返済の状況は、別表2及び別表3のとおりであること。
ニ 請求人がA信用状及びB信用状により、G社借入金及びN社借入金に伴うI銀行J支店に支払った信用保証料及び通信費の支払状況は、別表2及び別表3のとおりであること。

(2)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ Aは、P国株式売買の資金調達のために、請求人の保証債務により平成元年8月、I銀行P国支店からG社借入金を借り入れたこと。
 その借入れの手段として、請求人は、I銀行J支店に自らが保証人となり、本件担保物件を提供の上、A信用状の発行を受けていること。
ロ Aは、G社借入金を原資としてP国株式売買を行ったが株価の暴落により損失を受け、別表2のとおり、I銀行P国支店に平成2年2月7日にAが個人で返済した800,000,000円を差し引いた2,200,000,000円のG社借入金の元本を残したまま、平成2年6月11日に死亡したこと。
ハ 請求人は、I銀行J支店から、A死亡により返済不能となったG社借入金の元本の残額2,200,000,000円及び未収利息の返済を求められ、平成3年1月18日に元本の一部287,000,000円及び同月7日と18日に支払利息分として54,091,042円、53,258,199円をそれぞれ代位弁済したが、残額の1,913,000,000円については、平成2年12月27日の取締役会の了解の下で請求人が、保証債務の履行に代えて肩代わり弁済をすることとしたこと。
ニ 請求人は、M社から同社所有の本件担保物件の売却代金の借入れによりG社借入金の返済資金を調達することとし、この売却代金の受領までの間、一時的にN社借入金をG社借入金の残額の返済に充てたこと。
 N社借入金の借入れの手段として、請求人は、再度I銀行J支店に自らが保証人となり本件担保物件を提供の上、B信用状の発行を受けていること。
ホ 請求人は、平成3年1月18日にN社借入金によりG社借入金の肩代わり返済をするまで、A個人が返済した平成2年2月7日の元本分800,000,000円及び平成元年8月2日の信用保証料分9,000,000円を除き保証債務の履行により代位弁済に要した別表2の元本、支払利息及び信用保証料の合計金額398,849,241円は、相続人らに対する仮払金として資産計上していること。
ヘ 請求人は、平成3年1月18日にN社借入金の元本1,913,000,000円を相続人らに対する仮払金として資産計上するとともに、同額をM社からの借入金に計上し、なお、N社借入金は、別表3の「返済元本金額」欄のとおり返済され、それに伴い発生した別表3の本件支出金は、請求人の損金の額に算入していること。
ト 請求人は、本件支払利息について、別表4のとおり、請求人の支払利息として振替伝票を起票し、その摘要欄には、「A外相続人の借入利息」及び「A会長の借入利息分」等と記載していること。

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(3)前記(1)及び(2)の事実に基づき本件支出金について判断すると、次のとおりである。

イ 請求人が、I銀行J支店にA信用状及びB信用状の発行を受けるために保証人となり本件担保物件を提供したことは、請求人の業務の遂行に関連がないAの個人借入金の保証及び担保提供であることが認められる。
ロ 請求人が、Aの死亡により返済不能となったG社借入金のうち、保証債務の履行によりI銀行P国支店に代位弁済をした元本分287,000,000円及び支払利息分107,349,241円を、相続人らに対する仮払金として資産計上をしていることは、G社借入金が請求人の業務に関係がなくA個人の借入金との認識の下に計上したものと認められる。
ハ 請求人は、平成3年1月18日においてN社借入金1,913,000,000円をM社からの借入金に計上しているが、この借入金は、請求人の経済活動に寄与するものではなく、単に、相続人らに代わってG社借入金の残額を請求人が肩代わり返済をしたにすぎず、請求人固有の借入金とは認められない。
ニ 請求人は、本件支払利息のうち15,124,656円について別表4の番号1及び2のとおり、いったんは、平成3年2月20日に相続人らに対する仮払金として処理し、その後平成3年3月30日に請求人の支払利息に振替処理をしていることから、本件支出金は相続人らの負担すべきものであるとの認識があったものと認められる。
ホ ところで、法人税法第37条第2項は、内国法人が各事業年度において支出した寄付金の額の合計額のうち、損金算入限度額をこえる部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定し、同条第6項では、寄付金の額は、寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとすると規定している。
ヘ 前記イないしニのことから、N社借入金は、請求人が請求人の業務に全く関係のないAの個人借入金を肩代わり返済するため借り入れたものであり、請求人固有の借入金とは認められないことから、N社借入金に係る本件支出金は、請求人が負担すべきものではない。
 また、請求人が本件支出金、平成3年3月期24,397,469円及び平成4年3月期57,059,312円を支払利息等としていずれも損金の額に算入していることから、相続人らに対する債権の一部を放棄したものと認められ、相続人らの負担すべき債務が減少したことは事実であり、経済的利益の供与がなかったことにはならないので、相続人らには、Aが死亡時1,700,000,000円余の債務超過の状態にあり、80,000,000円程度の債務の免除を受けたとしても経済的利益の供与があったとの感触はない旨の請求人の主張には理由がない。
 このことは、前記ホのとおり、法人税法第37条第6項の「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は供与をした場合」に該当し、本件支出金を経済的利益の供与による寄付金の額とした原処分庁の認定は相当である。
ト したがって、本件支出金、平成3年3月期24,397,469円及び平成4年3月期57,059,312円は、いずれも寄付金に当たるとして原処分庁が法人税法第37条の規定を適用し損金不算入額を計算して行った本件各事業年度の更正処分は適法である。

(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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