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(平7.6.9裁決、裁決事例集No.49 324頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、鉄工業を営む同族会社であるが、平成元年7月1日から平成2年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を1,839,961円、納付すべき税額を490,600円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年3月28日付で所得金額を20,360,761円、納付すべき税額を7,221,200円とする本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の額を2,338,000円とする賦課決定処分をした。
(2)原処分庁は、平成6年3月28日付で平成2年7月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納付すべき税額を2,695,300円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を269,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年5月25日に審査請求をした。
(3)そこで、これらの審査請求について併合審理する。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件事業年度の決算において、F有限会社(以下「F社」という。)に対する売上金額18,370,000円及び支払材料費の額281,554円並びに仮受消費税額551,100円から仮払消費税額8,446円を差し引いた額(以下「本件雑益の額」という。)542,654円を公表帳簿に計上せず、その結果、これらの金額が本件事業年度の確定申告書の益金又は損金の額に算入されていなかったことについては争わない。しかし、下記(ロ)及び(ハ)の費用の金額については、本件事業年度の損金の額に算入すべきであり、これを認めなかった本件更正処分は違法であるから、その全部の取消しを求める。
(ロ)本件功労金
A 請求人は、昭和61年から昭和63年にかけて業績が悪かった。その後、使用人や役員の身命をかけた献身的な労務提供の結果、収入金額は著しく増大し、赤字決算から黒字決算に転換することが出来そうな見込みが立ってきた。その従業員の格別の手柄と労苦に対し、使用人7名(以下「本件使用人」という。)に労務提供の対価として功労金(以下「本件功労金」という。)12,500,000円を、平成2年3月10日付の念書(以下「本件念書」という。)及び覚書(以下「本件覚書」といい、「本件念書」と併せて「本件念書等」という。)のとおり支給することを確約したものであるから、本件事業年度末において、金額及び債務が確定している。
B 原処分庁は、上記(イ)の売上金額18,370,000円から上記(イ)の支払材料費の額281,554円を控除した額18,088,446円及び本件雑益の額542,654円の合計額18,631,100円を公表帳簿から除外して得た資金(以下「本件簿外資金」という。)を原資として支給した本件功労金について、東京地裁昭和55年2月26日判決(昭和44年行ウ第126号)に基づき、いわゆる「隠れたる利益処分」としての性格を有するものであるから、損金として認めることができないとしているが、この判決は昭和37年の事件についてのもので、その後、昭和40年に法人税法の全文改正が行われ、同法第35条《役員賞与等の損金不算入》第3項の規定によれば、使用人に対する賞与は明確に利益処分たる意思表示によって損金不算入となるもので、法人が簿外資産によって使用人賞与を支給した場合にはここでいう利益処分に該当しないものと解されており、本件簿外資金から支給された本件功労金でも明らかに労務提供の対価であるものは損金の額に算入すべきである。
 また、本件使用人と請求人との関係は雇用関係であり、本件功労金は労働の対価として支払われ、常に損金たる性格をもつものである。
(ハ)本件金員
 請求人が、請求人の代表取締役N(以下「N」という。)、専務取締役K(以下「K」という。)及びNの三男M(以下、「M」といい、「N」及び「K」と併せて「Nら」という。)に対して、平成2年7月25日に支払った利息(以下「本件金員」という。)の額6,131,100円については、平成2年3月10日付の約定書(以下「本件約定書」という。)のとおり、昭和61年7月1日から平成2年6月30日までの借入金(以下「本件債務」という。)に対し年6パーセント程度の割合で利息を支払うことをNらに約束したものであるから、本件事業年度末において、金額及び債務が確定している。
 なお、本件債務については、請求人の帳簿では未払金勘定で記帳しているが、実質はNらからの借入金である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い法人税の重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
ハ 本件納税告知処分について
 本件納税告知処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
(イ)請求人は、(1)請求人が本件使用人に対し、平成2年7月に支給した本件功労金12,500,000円に対する源泉所得税額1,202,700円並びに(2)請求人がA銀行B支店に開設した請求人名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に係る利息(以下「本件受取利息」という。)の金額13,313円をKが取得したこと及びそれに対する源泉所得税額2,400円の税額合計1,205,100円については、本件更正処分に係る更正通知書等を受領する前の平成6年3月29日午前9時過ぎに自主納付しており、争わない。
(ロ)Nらは、本件金員の額6,131,100円について、平成6年3月28日付でN5,500,000円、M500,000円及びK131,100円を各人の雑所得として平成2年分の所得税の修正申告書等を提出し、その税額も納付済みである。
 なお、Mが受領すべき500,000円は、Nを通じて平成2年8月5日にMに支払をしており、Mが所得税の申告書を提出した。
ニ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ハで述べたとおり、本件納税告知処分は違法であるから、不納付加算税の賦課決定処分も違法であり、その一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により適法である。
(イ)本件功労金
 請求人は、本件功労金を当初から損金性のある賞与と認識していたとすれば、本件簿外資金から支給する必要はなく、通常の賞与として公表資金から支給すれば足りることであり、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、売上除外の事実が判明した後に本件功労金に係る源泉所得税を納付したり、支給日の定めのない本件念書等を提出するなど不自然、不合理であり、請求人の主張には信ぴょう性がなく、本件功労金は、当初から利益を分配する目的で売上除外を行い、その資金を分配し利益を秘匿したものと認められる。
 また、請求人は本件功労金を業績不振期の労苦に報いるため支給した旨主張するが、当時勤務し支給期に在職している使用人全員に支給したのではなく特定の者に限定して支給されている。これらのことから、請求人が本件功労金を支給した意図は、当該特定の者に対する利益供与の意思があったものと判断される。
 したがって、本件功労金については、請求人が形式的には法人税法第35条第3項に規定する確定した決算による利益処分の形をとっていなくても、実質上の利益処分、いわゆる「隠れたる利益処分」に当たり、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができない。
(ロ)本件金員
 本件金員のうちN及びMに対する支払の額6,000,000円については、本件約定書が本件功労金の支給に関する本件念書等と同日の約定によるものであり、本件功労金の第一回支給日である平成2年7月25日と同じ日に支払われている。また、請求人は本件金員を本件債務に対する支払利息である旨主張しているが、本件調査の際に、本件金員に係る計算書の提示もなく利率も確定しておらず、売上除外の事実が判明した後に雑所得の申告漏れがあったとしてNらが所得税の修正申告等をしたもので、支払日の定めがない本件約定書自体不自然で信ぴょう性に乏しいものである。すなわち、その実質は本件功労金と同一の趣旨であり、Nに対する6,000,000円及びKに対する131,100円は、それらの者に対する功労金である。
 したがって、本件金員は、請求人の役員であるN及びKに対する臨時的な給与すなわち役員賞与と認められ、法人税法第35条第1項により、所得の金額の計算上損金の額に算入することができない。
(ハ)以上の結果、本件功労金及び本件金員を本件事業年度の所得の計算上損金の額に算入しないでした本件更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人は、F社に対する売上金額及び消費税に関連した雑益の額を約束手形で受領し、これらを公表帳簿から除外することで所得の金額の計算上益金の額から除外し、これに基づき所得金額を過少に算定した申告書を提出しており、このことは国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
ハ 本件納税告知処分について
 本件納税告知処分は、次の理由により適法である。
(イ)本件功労金12,500,000円及びKが取得した本件受取利息の金額13,313円については、前記イの(イ)のとおり、臨時的な給与であり、これを賞与と認定して本件納税告知処分を行ったものである。
(ロ)本件金員については、前記イの(ロ)のとおり、本件功労金と同一の趣旨のものであるため、Nに対して6,000,000円及びKに対して131,100円を役員賞与と認定して本件納税告知処分を行ったものであり、Nらの雑所得とするのは相当でない。
(ハ)前記(イ)記載の金額に係る源泉所得税については、本件納税告知処分後に自主納付されており、課税手続上問題はない。
ニ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ハのとおり、本件納税告知処分は適法であり、本件納税告知処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求においては、本件簿外資金から支出した本件功労金及び本件金員を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することの可否並びに本件金員の額6,131,100円が、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等又は所得税法第35条《雑所得》第1項に規定する雑所得のいずれに該当するかに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分庁が、本件更正処分に係る所得金額の計算上、売上除外額18,370,000円及び雑益の額432,354円を益金の額に加算し、仕入計上漏れ額281,554円を損金の額に算入したことについて、請求人は争わず、当審判所において審理したところによっても相当と認められる。
ロ 本件功労金
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成2年2月20日に、F社から本件簿外資金を8枚の約束手形で受領し、当該手形を平成2年7月3日に「おはじめ」入金1,000円をもって開設した本件預金口座で同月5日に取り立て、入金していたこと。
 なお、請求人は、本件預金口座から平成2年7月25日に預金累積額及び解約日までの受取利息13,313円を含む18,645,413円を出金し、同日、本件預金口座を解約していること。
B 本件念書は、平成2年3月10日付で有限会社G・N名義で作成され、「永年苦労を共にしてきたX、Y及びZの使用人3名に対し、功労金として各2,500,000円を授与します」と記載されており、平成2年7月28日の日付と各使用人の署名がなされているが、作成者を含め押印はされていないこと。
C 本件覚書は、平成2年3月10日付で有限会社G・N名義で作成され、「功労金としてC及びDに対し各1,500,000円を、H及びJに対し各1,000,000円を授与します」と記載されており、平成2年7月25日の日付と各使用人の署名がなされているが、作成者を含め押印はされていないこと。
D 請求人の公表帳簿によれば、本件使用人に対して平成2年6月20日に定期賞与がそれぞれ支給されていること。
(ロ)Nは、当審判所の質問に対して、次のとおり答述している。
A 本件簿外資金を本件功労金の支払に充てたこと。
B 請求人が売上金を公表帳簿から除外したのは、税金を納税するよりも献身的な努力をしてくれた一部の使用人及び役員に対して経済的に報いようとし、より多くの金銭を支給するため考えてしたことであること。
C 本件念書は、請求人が本件使用人の格別の手柄と労苦に対し、本件功労金を支給することを確約したもので、このことはKが発案してNが作成し、それをKが支給するまで保管をし、使用人には渡さなかったこと。
 なお、平成2年7月28日にXほか2名の使用人に対して現金で各人に2,500,000円ずつ計7,500,000円を支払い、本件念書に受取年月日と受領の署名を各人にしてもらったこと。
D 本件覚書は、請求人が家族使用人の労苦に対し本件功労金を支給することを確認したことを文書にしたこと。
E 請求人は、本件使用人に対して、本件功労金について周知をした際に、支給日及び月給の何か月分を支給する等具体的な支給内容の説明はしていないこと。
F 本件功労金は、Kの個人的判断により本件使用人に支給されたものであって、各人別の支給額について明確な計算基準を有していないこと。
(ハ)本件功労金について、原処分庁及び請求人の主張並びに前記(イ)の事実及び(ロ)の答述を基に判断すると、次のとおりである。
A 原処分庁は、本件簿外資金を原資として支給した本件功労金すなわち使用人賞与は、いわゆる「隠れたる利益処分」としての性格を有するものであるから所得の金額の計算上損金の額として認めることができない旨主張するが、法人税法第35条第3項において、使用人に対する賞与を支給する場合において、その賞与の額につきその確定した決算において利益又は剰余金の処分による経理をしたときは、その経理をした金額は所得の金額の計算上損金の額に算入しないと規定されていることに照らし、本件功労金のように簿外資金から支出したことのみをもってしては、いまだ本件功労金を利益処分による賞与と認めるには足りない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
B 請求人は、本件功労金について、本件念書等で支給することを本件使用人に確約したものであるから、本件事業年度末に金額及び債務が確定しているので、未払いであっても本件事業年度の所得の金額の計算上費用として損金の額に算入すべきである旨主張するので、検討したところ、次のとおりである。
(A)本件功労金は、その支給が請求人の公表帳簿に記載されていないものであり、公表帳簿に記載されていない経費については、納税者において存在を裏付ける資料等を提示し、合理的に説明することを要すると解されるところ、請求人の説明は、前記2の(1)のイの(ロ)及び上記(ロ)のとおりであり、また、当審判所に提出した資料は本件念書等のみである。
(B)一般に、念書及び覚書は、当事者間における一定の事項について、後日、紛争が起きたときのために証拠として作成し、交付される文書で、合意を証するものとしての効力が認められるところである。本件念書等については、請求人が本件使用人に対し、一方的に功労金を支給することを約束する請求人から差入証の形式をとっているが、(1)Nが答述するところからすれば、本件使用人に交付されていないことが認められ、また、支給時期の記載がなく、これらのことは功労金の支給を約したものとしては不自然であり、他方、(2)本件使用人の署名はあるものの、これは平成2年7月25日又は同月28日の受領を証する署名としてのみ認められるから、本件念書等の書面の存在のみをもって、本件念書等が本件功労金の支給日より前に作成されたと認定することはできない。
(C)ところで、一般に、使用人に対する賞与は、就業規則、労働協約等によりその支給時期、支給額の計算根拠が具体的に明示されている場合を除き、使用者側が各人別の支給額を決定し、これを被使用者側に通知したときに初めて被使用者側に債権が生じ、使用者に債務が発生するものと解される。
 また、法人税法上、内国法人の各事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額を当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入し得るためには、当該事業年度終了の日までに債務が確定していることが必要であり、当該事業年度終了の日までに債務が確定しているとは、当該事業年度終了の日までに、(1)当該費用に係る債務が成立しており、(2)当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しており、(3)当該債務の金額を合理的に算定することができるものであるとの各要件をすべて充足する場合をいうものと解するのが相当である。
(D)これを本件についてみると、本件功労金が費用として本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるためには、本件事業年度終了の日までに債務が確定していることを要するというべきところ、前記(B)のとおり、本件念書等が支給日より前に作成され、かつ、本件事業年度終了の日までに支給金額及び支給日を本件使用人に周知していたと認めるに足りる証拠はないから、請求人の説明及び提出資料をもって本件事業年度終了の日までに本件功労金の債務が確定していたと認めるには至らず、本件功労金を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ハ 本件金員
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 本件約定書は、平成2年3月10日付で有限会社G・N名義で作成され、「N及びMの未払金に対し、昭和61年7月から平成2年6月までの間の金利を年6パーセント程度の割合で支払うよう要求があり、支払うことを約束した」と記載しているが、作成者の押印はされていないこと。
B 「N及びMの未払金の金利600万円受け取りました」と記載したN発行の平成2年7月25日付領収書があるが、作成者の押印はされていないこと。
C 本件調査の際に、調査担当職員が本件金員の計算根拠の説明を求めたのに対し、請求人は、明確な答弁をせず、格別の証拠書類も提示しなかったこと。
D 審査請求書に添付されている本件金員の計算明細書(以下「本件計算明細書」という。)によれば、利息の額はN5,151,948円、M531,387円及びK667,615円と算出されていること。
E 昭和61年6月から平成2年7月までの間公表帳簿上には、本件債務に対する利息を計上した事実はなく、また、昭和61年6月以前及び平成2年7月以降にも公表帳簿上には、本件債務と同様の未払金が存在するにもかかわらず、これに対する利息を支出した事実がないこと。
(ロ)Nは、当審判所の質問に対して、次のとおり答述している。
A 本件金員は、本件簿外資金をもって、その支払に充てたこと。
B 請求人は、平成2年7月以降、Nらに対する未払金に利息を支払っていないこと。
C 本件計算明細書は、審査請求書を作成する際に初めて作成したこと。
(ハ)本件金員について前記(イ)の事実及び(ロ)の答述を基に判断すると、次のとおりである。
 なお、上記ロの(ハ)のBの(A)に記したところは、本件金員についても同様に妥当するところである。
 請求人は、Nらに対して、本件金員を本件約定書のとおり支払うことを約束したもので、本件事業年度末に金額及び債務が確定しているので損金の額に算入すべきである旨主張する。しかし、本件約定書については、前記(イ)のAのとおり、金利を年6パーセント程度の割合で支払うとする不確定な数字のものであり、支払期日の具体的な記載がないこと、また、資金源泉を共通にする本件功労金に係る同日付の本件念書等が上記ロの(ハ)のBの(B)のとおり、本件功労金の支給日より前に作成されたと認定できないことからすると、本件約定書が平成2年3月10日に存在したとは認めがたい。また、本件計算明細書についても、後日審査請求書の作成時に作成され、かつ、本件金員の額は6,131,100円であるのに対し、本件計算明細書に記載された金額の合計額は6,350,950円となっていて、両者が一致していないことからすると、本件約定書は、本件簿外資金が法人税法上当然に損金に算入される費用として支出されたことを正当化するために、後日作成されたものと推認するのが相当である。そうすると、請求人の説明及び提出資料をもってしては、本件金員が本件債務に対する利息であると認定することはできず、また、本件金員の債務が本件事業年度終了の日までに確定していたと認定することもできないから、本件金員を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ニ  以上のとおり、本件功労金及び本件金員をいずれも本件事業年度の損金の額に算入しないでされた本件更正処分は適法である。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、また、請求人は、F社に対する売上金額18,370,000円及び本件雑益の額542,654円を公表帳簿から除外したところにより、本件事業年度の所得金額を計算して確定申告をしていたことを自認しており、当審判所において審理したところによってもその事実が認められるところであるが、請求人のこの行為は課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことになり、請求人はこの隠ぺいしたところに基づいて本件事業年度の確定申告書を提出していたと認められるから、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課決定の要件に該当し、原処分庁が同項の規定に基づいて重加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

(3)本件納税告知処分について

イ 本件簿外資金から支給した本件功労金12,500,000円及び本件受取利息の金額13,313円が、所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当すること及びその支給が平成2年7月であることについては、当事者間に争いがなく、当審判所において調査したところによっても相当と認められる。
ロ 請求人は、本件金員の額6,131,100円について、Nらが雑所得であるとして平成6年3月28日に所得税の申告をし、同月29日に納税済みである旨主張するので、以下検討する。
(イ)本件金員の額6,131,100円が平成2年7月25日に支払われたことについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査したところによっても相当と認められる。
(ロ)請求人は、本件金員が本件債務の利息である旨主張するが、前記(1)のハの(イ)のEの事実並びに前記(1)のハの(ハ)で認定したとおり、本件約定書が平成2年3月10日に存在したとは認めがたいこと及び本件計算明細書は前記(1)のハの(ロ)のCのとおり後日作成されたものであることから、本件金員が本件債務に対する利息とは認められない。
(ハ)また、請求人は、ほぼ前後して本件使用人に対し本件功労金を支払っていること及び他に本件金員を支払うべき合理的な理由もないことからすると、本件金員は、請求人の役員であるN及びKに臨時的な給与すなわち役員賞与として支給されたものと推認される。
 なお、前記(1)のハの(イ)のBの領収書からM名義の金員もNに支払われたものとみることが相当である。
(ニ)以上のとおり本件金員は、平成2年7月25日にNに対して支払われた6,000,000円及び同日にKに対して支払われた131,100円の合計額であり、これらはいずれもNに対する役員賞与と認めるのが相当である。
ハ したがって、本件功労金を使用人賞与とし、本件受取利息及び本件金員を役員賞与として源泉所得税の額を計算し、納税の告知をした本件納税告知処分は相当と認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、本件納税告知処分に係る告知書の到達した平成6年3月29日に、本件納税告知処分により納付すべき税額の一部1,205,100円を納付していることが認められる。納税告知処分は、告知書が源泉徴収義務者に到達することにより効力を発するものであるところ、請求人は、この点につき主張せず、また、上記到達の時点と上記納付の時点の先後を証すべき資料も提出しないから、当審判所としては、この点につき検討することができない。
 したがって、本件納税告知処分は適法である。

(4)不納付加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、本件納税告知処分により納付すべき税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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