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(平7.2.22裁決、裁決事例集No.49 393頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1)更正の請求に至る経緯

イ 共同審査請求人A(総代)及び同B(以下「請求人ら」という。)は、平成3年7月12日に死亡したC(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、請求人らは、法定申告期限内に課税価格を624,970,000円(A339,838,000円、B285,132,000円)、納付すべき税額を279,430,400円(A150,892,400円、B128,538,000円)と記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ロ その後、請求人らは、平成4年6月16日に本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務が新たに120,000,000円(以下「本件追加債務控除の額」という。)あるとして、課税価格を504,970,000円(A299,838,000円、B205,132,000円)、納付すべき税額を215,981,900円(A127,429,300円、B88,552,600円)とする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(2)原処分及び不服申立ての経緯

イ 原処分庁は、本件更正の請求に対し、平成5年7月19日付で本件追加債務控除の額を本件申告書上債務控除の対象とすることはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知をした。
ロ 請求人らは、この処分を不服として、平成5年9月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月24日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年1月26日に本件審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任するとともに、その旨を総代申立書に記載して平成6年2月16日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件借入金の存否等について
 請求人らは、次の経緯及び事実から判断して本件借入金を被相続人の債務であると認めたものである。
(イ)借入金債務の確認に至った経緯等について
 請求人らは、平成3年暮れころ、P市R町14番26号で金融業を営むH物産の代表者D(以下「本件債権者」という。)から、被相続人に対し120,000,000円の貸付元本があり、その返済期限が同年12月末日であるとしてその返還の請求を受けた。
 請求人らは、当初、被相続人に上記借入金元本の額120,000,000円(以下「本件借入金」という。)があることを全く知らなかったが、次に述べることから判断して被相続人の借入金債務であると認めざるを得なかった。
A H物産の実質的経営者で本件債権者の内縁の夫でもあるEは、平成4年の初めころになって請求人らに対し、同人が所持していた平成3年4月10日付の連帯借用証書(以下「本件連帯借用証書」という。)を本件借入金の証拠として示した。
 そこで、請求人らは、本件連帯借用証書の連帯債務者欄に記載された署名の筆跡を確認したところ、被相続人のそれに間違いないものと信じ得た。
B 請求人Aの夫であるFは、被相続人から、資金が必要なため適当な融資先を紹介して欲しい旨の依頼を受け、かねてより知り合いのEを平成3年2月ころ被相続人に紹介したことがあった。
(ロ)本件借入金の授受について
 被相続人が、本件債権者から本件借入金を受け取ったのは平成3年2月20日に50,000,000円、そして、同年4月10日に70,000,000円の2回の計120,000,000円であり、Q市S町412番3の土地(以下「S町412番3の土地」という。)の売却代金339,840,000円を受領した同年5月13日より前のことである。
 なお、本件借入金の借入れ後に土地の売却代金を受け取ったとしても借入れをしなかったということにはならない。
(ハ)本件借入金の弁済について
 請求人らは、本件債権者から本件借入金の返還請求があった後、本件借入金の存否をめぐって同人と争っていたが、前記(イ)の判断事項に基づき、平成4年4月30日に和解し和解書を取り交わした。
 この和解条項(以下「本件和解条項」という。)に基づき、同年6月22日にQ市S町761番11雑種地745平方メートル(以下「S町761番11の土地」という。)を202,500,000円で売却し、その売却代金のうちから同月29日に本件借入金120,000,000円及びその利息22,000,000円の合計142,000,000円を支払ったものである。
ロ 原処分庁は、本件借入金が被相続人の債務でない旨主張するが、仮に、原処分庁の認定したことがすべて事実であるとしても、次に述べることから、本件借入金が被相続人の債務であることを否定する理由にはならない。
(イ)担保差し入れ状況について
 被相続人は、本件連帯借用証書によれば、本件債権者に対して同人所有のS町761番11の土地を売却して返済する旨約束して借入れており、あえて、連帯保証人をたてなかったり、抵当権等を設定していなかったとしても別に不自然なことではない。
(ロ)本件借入金の必要性及びその使途について
 請求人らは、被相続人が平成2年3月10日にQ市S町545番6ほか2筆の雑種地152平方メートルを55,176,000円で、また、平成3年5月13日にはS町412番3の土地を339,840,000円でそれぞれ売却しているのに、元来よりの飲酒好きであり、飲酒からの浪費等の悪癖が原因で、それらの売却代金を短期間に費消していた事実を知っていたことから、本件借入金についても短期間で費消したものと考えられた。
 また、被相続人が、その借入れ当時、土地転がしをしていたため緊急に必要な資金として本件借入金を使ったのではないかと考えられた。
(ハ)本件借入金認否の処理対応について
 原処分庁は、請求人らの処理対応について、請求人らが本件借入金の存在を認め本件債権者と和解する際に、弁護士や税理士に何の相談もせず、その対応が一般的なものでなく、いかにも安易であった旨主張するが、たとえ相談しなかったとしても、本件借入金の存在を否定する理由にはならない。
 以上のとおり、本件借入金は、明らかに被相続人に帰属する債務であり、本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件借入金の存否等について
 本件借入金が被相続人のものとして存在したことを証する確実な資料がなく、かつ、その事実も確認できないから、これを被相続人の債務として認められない。
(イ)借入金債務の確認に至った経緯等について
 請求人らは、本件債権者から本件連帯借用証書を提示され、その連帯債務者欄に記載された署名の筆跡が被相続人のものであることを認めた旨主張するが、本件連帯借用証書は被相続人の債務であることを証する大切な書類であるにもかかわらず、本件更正の請求を行った後に、本件債権者に本件借入金及びこれに係る利息額を弁済し、本件債権者から本件連帯借用証書の返戻を受けたその場でその原本を破棄しており、原本が存在したという事実が証明されていない。
 したがって、本件連帯借用証書の原本が確認できない以上、当該証書をEが所持していたという主張をもって、被相続人に債務が存在していたとは認められない。
A 本件連帯借用証書の写しによれば、債権者の住所、氏名の記載がなく、債権者の特定ができないものであり、通常の金銭消費貸借契約の形状をなした証書であるとはいえず、また、貸金業者からの借入れにしてはその形状が余りにも不自然であるにもかかわらず、請求人らは、当該証書の連帯債務者欄に記載された被相続人の住所、氏名等の筆跡の鑑定を専門家に依頼することもなく安易にその筆跡を被相続人のものであると信じ得たとする主張は当を得たものとは認められない。
B 請求人らは、Fが被相続人から融資先の紹介を依頼されて、かねてより知り合いのEを紹介した旨主張するが、仮に、紹介したことが事実であるとしても、このことをもって、直ちに被相続人が本件債権者に債務を負っていたということにはならない。
(ロ)本件借入金の授受について
 Eは、平成5年6月21日、原処分の調査を担当した職員(以下「原処分調査担当職員」という。)に対し、被相続人が平成3年3月の中ころ、一人で事務所に来て、すぐに返済するとの約束をもって、現金で50,000,000円を貸し、同年4月10日にも一人で事務所を訪れ、70,000,000円の追加貸付けを申し出たので、500,000円の利息を受け取り、同所で現金70,000,000円を追加貸付けをした旨答述しているが、同人は貸金業者にもかかわらず貸付日が明確でなく、貸付金の受取を証する書類の受領もないことから、本件借入金の授受が確実に行われたとは認められない。
(ハ)本件借入金の弁済について
 請求人らは、本件和解条項に基づき、平成4年6月22日にS町761番11の土地を202,500,000円で売却し、その売却代金のうちから同月29日に本件借入金120,000,000円及びその利息22,000,000円の合計142,000,000円を支払った旨主張するが、請求人らの行為が事実であったとしても、このことをもって、直ちに本件借入金が被相続人の債務であり、その弁済であったとは限らない。
ロ 本件借入金は、上記イの事実のほか、次のことからも被相続人のものとして存在していたとは認められない。
(イ)担保差し入れ状況について
 本件連帯借用証書の写しによれば、連帯保証人がたてられておらず、かつ、S町761番11の土地に抵当権等の設定の約定もないなど、通常、貸金業者が融資の際に採るべき担保措置が、全くなされていない。
(ロ)本件借入金の必要性及びその使途について
A 被相続人は、平成3年5月13日にS町412番3の土地を売却し、その代金339,840,000円全額を即日受領し、そのうち310,000,000円を本件の相続開始の日まで、Q市農業協同組合T支店に定期貯金をするなど十分な資力を備えていたことが伺われ、高利率の利息を必要とする本件借入金を借りなければならないほど資金を必要とする事情は認められない。
B さらに、本件借入金の契約日の平成3年4月10日から本件の相続開始の同年7月12日までの本件借入金の使途が全く不明である。
 被相続人は、請求人らが主張するように生前よく酒を飲んでいたことは、調査によりある程度推認できる。その上、被相続人に浪費癖があったとしても、このことが本件借入金を必要としていたとする証拠にはならず、本件借入金を浪費したとする証明もない。
(ハ)本件借入金認否の処理対応について
 請求人らは、本件債権者から突然、120,000,000円もの多額の本件借入金及びその利息の弁済を請求されたにもかかわらず、本件借入金の認否等の問題について、弁護士等の法律の専門家に何らの相談をすることもなく、安易に支払の和解に応じているのは、不自然な処理対応であり肯定しがたい。
 以上のとおり、本件借入金は、被相続人の債務であるとは認めがたく、控除すべき債務は確実と認められるものに限るとされている相続税法第14条《控除すべき債務》第1項及び同法第13条《債務控除》第1項第1号の被相続人の債務で相続開始の際現に存するものとする規定に該当しないので、本件借入金を本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務とすることができない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件借入金が本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務に該当するか否かにあるので、以下検討する。

(1)当事者双方の答述、請求人らの提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人らは、当審判所に対し、本件連帯借用証書の原本を証拠として提示する旨答述していたが、後日、その原本は既に破棄した旨答述を翻したこと。その後、Eは、貸付金等の返還を受けた際に本件連帯借用証書の原本をA及びF(以下、併せて「A夫婦」という。)に返戻したが、A夫婦は、その原本をその場で破棄した旨の陳述書を提出したこと。
ロ 請求人らは、当審判所に提出した本件連帯借用証書(以下「本件連帯借用証書のコピー」という。)の作成過程について、請求人らの代理人が本件債権者に依頼してその写しの提示を受け、それを更にコピーしたものである旨答述していること。
ハ 請求人らは、本件連帯借用証書の連帯債務者欄に記載された署名が被相続人のものか否かの筆跡鑑定を専門家に依頼した事実がないこと。
ニ 本件連帯借用証書のコピーによると、その記載内容は、元金120,000,000円、年利率15パーセント及び特約条項として、支払不可能の場合には、S町761番11の土地745平方メートルを売却して返済する旨等であるが、債権者の住所、氏名、商号及び貸金業者の許可番号並びに連帯保証人の住所、氏名等の記載は全くないこと。
ホ S町761番11の土地に係る不動産登記簿によると、本件債権者と被相続人において、本件借入金に基づく抵当権等を設定した事実がないこと。
ヘ 請求人らは、異議調査を担当した職員(以下「異議調査担当職員」という。)に対し、初めて本件借入金の存在を知ったのは平成3年10月末ころと答述しているにもかかわらず、同年12月25日付の請求人らの遺産分割協議書の継承する債務欄には、本件借入金に係る事項の記載が全くないこと。
ト Eは、平成5年6月21日、原処分調査担当職員に対し、(a)本件借入金は、平成3年3月の中ころに貸し付けた50,000,000円と同年4月10日に貸し付けた70,000,000円を合計したものであり、いずれも事務所内で、被相続人に現金を手渡したこと、(b)貸付金の原資は、ギャンブルで稼いだものであること、(c)現金は、常に事務所内の金庫に保管しているものの、金庫内は誰にも見せないようにしていること、(d)したがって、資金の流れは、第三者に証明することができない旨答述したこと。
チ 請求人らは、当審判所に対し、被相続人が本件借入金を預金通帳等へ入金した事跡もなく、本件借入金の借入理由及びその費消目的等については分からない旨答述したこと。
リ 被相続人は、平成3年5月13日にS町412番3の土地708平方メートルを339,840,000円で売却し、即日、売却代金の全額を受領していたこと。
 なお、被相続人は、当該売却代金のうち310,000,000円を平成3年5月13日から本件の相続開始の同年7月12日まで、Q市農業協同組合T支店に定期貯金をしていたこと。
ヌ 請求人らは、平成4年4月30日付で本件債権者と、(a)本件連帯借用証書のコピーの特約条項に明記しているS町761番11の土地を売却し、本件借入金及びその利息を支払うこと、(b)利息計算は、年利率15パーセントとし、和解日以後の利息については請求しないこと、(c)支払の履行を完全にするため、S町761番11土地の売却を本件債権者に一任することを内容とする本件和解条項を締結している。
ル 請求人らは、本件和解条項に基づき、平成4年6月22日に相続財産のS町761番11の土地745平方メートルを202,500,000円で売却し、その資金をもって、同月29日に請求人らの名義でI信用金庫J支店の本件債権者名義の普通預金口座へ本件借入金の元利合計額として142,000,000円を振り込んでいること。
 なお、請求人らは、本件和解条項により支払うこととなった本件借入金の利息相当額22,000,000円の算出根拠を明らかにしたなかったこと。
(2)以上の認定事実に基づいて判断すると次のとおりである。
イ 本件借入金の存否等について
 請求人らは、本件借入金が被相続人に帰属する債務である旨主張するが、本件借入金は、次の事実関係から判断して、被相続人に帰属する債務として存在していたものとは認められない。
(イ)借入金債務の確認に至った経緯等について
A 請求人らは、Eが所持していた本件連帯借用証書の原本を請求人らに提示の上、本件借入金及びその利息の合計額の返還を請求した旨主張するが、当審判所は、前記(1)のイのとおり、請求人らが当該原本を提示しなかったので、原本の記載内容の確認並びにEがそれを所持していたか否かについても確認することができなかった。
 仮に、当該原本をEが所持していたものとしても、同人の陳述書によると、平成4年6月29日に本件借入金及びその利息の弁済金を受領した際、手渡しの方法で原本を返戻したところ、請求人らは、返戻を受けたその場で原本を破棄したと陳述しており、同月16日に本件追加債務控除の額がある旨の本件更正の請求をした請求人らが、その直後に、本件借入金の存在を主張するために大切な証拠となる原本を自ら破棄したことについての明確な理由も見当たらない。
 また、相続人である請求人らは、前記(1)のヘのとおり、平成3年10月末ころに本件借入金の存在を知らされながら、同年12月25日付の遺産分割協議書の継承する債務欄に本件借入金を記載しなかったことは、矛盾したものであるといわざるを得ない。
 これらのことから、請求人らの主張する事実関係は、到底理解できるものではなく、首肯しがたい。
B 本件連帯借用証書のコピーは、前記(1)のイ及びのロのとおり、請求人らが、前答述を翻し、請求人らの代理人が本件債権者に依頼して、その写しの提示を受けたものを更にコピーしたものであり、原本の確認ができないが、これによると、前記(1)のニのとおり、本件債権者は、貸金業者であるにもかかわらず、当該証書に債権者の住所、氏名等の主要事項を記載していないことは、通常の金銭消費貸借契約上の基本的形式を具備しない書類であるといわざるを得ない。
 また、本件借入金が多額であるにもかかわらず、前記(1)のハのとおり、被相続人名の署名の筆跡鑑定を専門家に依頼した事実もなく、これらの疑義について十分な調査をせず、安易に連帯債務者欄に記載された筆跡が被相続人のそれであると認めたことをもって、本件借入金が被相続人に帰属するものとは認められない。
C 請求人らは、Fが被相続人にEを紹介した旨主張するが、仮に、FがEを被相続人に紹介したことがあったとしても、この事実をもって、本件借入金が被相続人のものとして存在していたことの証明にはならないといわざるを得ない。
(ロ)本件借入金の授受について
 請求人らは、被相続人が本件債権者から本件借入金を平成3年2月20日に50,000,000円、そして同年4月10日に70,000,000円を借り受けたものであり、これは、S町412番3の土地の売却代金を受領する同年5月13日以前のことであるので、被相続人にその入金があったとしても、本件借入金の授受がなかったことにはならない旨主張するが、前記(1)のチのとおり、預金通帳等への入金事跡がなく、かつ、費消された事実も判明しないのであるから被相続人が本件借入れをしたかどうかは極めて疑わしい。
 仮に、被相続人が本件借入れをしていたとしても、前記(1)のリのとおり、被相続人は、授受のほぼ1か月後には339,840,000円の売却代金を手にしながら、高利率の本件借入金を返済せず、売却代金の大半である310,000,000円を定期貯金していたことは極めて不自然であり、平成3年12月25日付の遺産分割協議書から推認される、借入れ当時の被相続人の資産状況からすれば、本件債権者以外の金融機関から低利率の資金を借入れすることが容易であったと推認されるところこれらの実行をしていないことは、極めて不合理であるといわざるを得ない。
 また、Eは、前記(1)のトのとおり、貸付金の授受は、平成3年3月の中ころと同年4月10日の2回に行った旨答述しているが、当該授受の日は、請求人らが主張するその日と相違しており、本件借入金の授受が確実に行われたとは首肯しがたい。
 これらのことから、被相続人が本件借入金を授受したとは認められない。
(ハ)本件借入金の弁済について
 請求人らは、前記(1)のヌ及びルのとおり、本件和解条項に基づき、平成4年6月29日に本件借入金及びその利息額と称する22,000,000円の合計を本件債権者に支払っているが、当該22,000,000円の算出根拠についての明確な答弁や説明がなく、算出根拠が不明であり、本件借入金の利息額と推認することができない以上、142,000,000円の支払事実のみをもって、当該支払を本件借入金の弁済であるとすることは相当でなく、本件借入金が被相続人に帰属する債務であると認めることはできない。
ロ 本件借入金は、次の間接的な事実関係からも、被相続人に帰属する債務として存在したとは認められない。
(イ)担保差し入れ状況について
 請求人らは、前記(1)のホのとおり、多額の貸付金を有する本件債権者が、抵当権等の設定並びにその他の担保物件の受取等の債権保全措置を講じていないことについて、前記(1)のニのとおり、本件連帯借用証書には、被相続人の土地売却によって得た資金をもって返済する旨の特約条項があったからと主張するが、このことは通常の貸金業者が採る商手法と格段の相違があるといわざるを得ない。
 また、Eは、前記(1)のトのとおり、貸付金の原資の出所並びにその資金の流れについて、極めてあいまいな答述をしており、答述は信ぴょう性に欠如するものと判断せざるを得ず、本件連帯借用証書のコピー自体真正な信用事実を証明したものとは認めがたい。
(ロ)本件借入金の必要性及びその使途について
A 請求人らは、当審判所に対し、被相続人から本件借入金の必要性及びその使途並びにその事実を証する金銭の動き等について何も知らされていなかった旨答述するとともに、本件借入金の使途等について、借入れ当時、被相続人が土地転がしをしていたので、緊急に資金が必要であったこと及び同人に浪費癖があったので、これらに費消する目的をもって借入れをしたのではないかと主張するが、請求人らが取得した相続財産のなかに、被相続人が本件借入金により取得したと認められる不動産は存しないし、そのために資金が流れた事跡も認められず、当時、被相続人が土地転がしをしていたとする具体的事実の証明もない。
 仮に、被相続人に浪費癖があったとしても、そのことが本件借入金を必要とするまでのものであったか否かを証明する具体的事実もない。
 逆に、被相続人は、前記(1)のリのとおり、土地の売却代金の大半を定期貯金していることから堅実な生活面を証明しているものであり、本件借入金を浪費したものとは首肯できない。
B なお、請求人らが相続した定期預金等のなかに本件借入金の額に見合う預金額はない上、本件借入金を過渡的に金融機関等に入金した事実さえ確認できなかった。
 また、相続財産のなかには、本件借入金により取得したと推認される資産は認められない。
 これらのことから、被相続人に多額の借入れを必要とする事情等は存しなかったものと推認することができる。

(3)以上を総合すれば、本件借入金が本件和解条項によって、確定したものであるとしても、それが被相続人に帰属したとする確実な証拠は認められない。

 よって、本件借入金は、相続税法第14条第1項に規定されている「確実と認められるもの」に当たらないので、同法第13条第1項第1号を適用して本件借入金を本件相続税の課税価格の計算上債務控除することはできない。
 したがって、本件追加債務控除の額が存しないとした原処分は適法である。

(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された全資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。

 以上のとおり、原処分を取り消すべき理由がなく、本件審査請求は、いずれも棄却すべきこととなる。

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