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(平7.1.31裁決、裁決事例集No.49 408頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1)本件更正の請求に至る経緯

 共同審査請求人A(総代)、同B、同C、同D及び同E(以下、共同審査請求人を併せて「請求人ら」という。)は、平成3年3月14日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、被相続人からの相続(以下「本件相続」という。)により取得した相続財産のうちP市R町13番2の宅地140.49平方メートル及び同所14番1の宅地373.55平方メートル並びにP市S町30番3の宅地288.72平方メートル及び同所30番6の宅地44.66平方メートル(以下「本件土地」という。)を相続税財産評価に関する基本通達(平成3年12月18日付課評2ー4・課資1ー6による一部改正前のもの。以下「評価通達」という。)14に定める路線価によってそれぞれ評価し、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を、それぞれ法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人らは、平成4年3月25日に、本件土地の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)に70パーセントを乗じた額であるとして、別表1の「更正の請求」欄に記載のとおり、それぞれ更正の請求をした。

(2)原処分及び不服申立ての経緯

 原処分庁は、本件更正の請求に対し、本件土地の価額は本件鑑定評価額であるとして、平成4年10月8日付で、更正の請求を一部認め別表1の「更正」欄に記載のとおり、各更正処分をした。
 請求人らは、上記の処分を不服として、平成4年10月26日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年1月25日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年2月24日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件土地の価額
(イ)相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額は、その取得の時における時価による旨規定しており、この時価については、税務上、評価通達によって評価した価額とするとされている。
 ところで、平成3年分の路線価は、前年の7月1日時点における公示価格(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)、都道府県の基準地価格(国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第5項の規定により公表された基準地の価格をいう。以下同じ。)及び売買実例などによって評定された実勢価格に、70パーセントの評価割合を乗じた水準に設定されていたことは公知の事実である。
(ロ)請求人らは、本件申告書の提出に当たり、評価通達による価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの原処分庁職員の指導に従い、やむを得ず、本件土地の価額を路線価により評価して申告したが、上記(イ)のとおり、平成3年分の路線価は、その前年7月1日時点の実勢価格により決定されており、平成2年秋以降地価が著しく下落したことが明からであるので平成3年分の路線価を用いることは合理的ではない。
(ハ)そこで、請求人らは、まず、本件相続開始の時における本件土地の実勢価格を不動産鑑定士による鑑定により求め(本件鑑定評価額)、これに70パーセントを乗じた金額を、本件土地の自用地としての価額に置き替え、これを基に評価通達により本件土地を評価し、更正の請求をした。
 このような方法は、前記(イ)に述べたとおりの国税局長による路線価の設定方法に準じ、従来と同一の条件において評価する方法であり、著しく地価が下落したため路線価によることが妥当ではなく、かつ、他に転売価格や所有権移転請求権の価格など実勢価格を明らかにする価格もない本件土地を評価する方法としては、合理性があるというべきである。
(ニ)原処分庁は、本件鑑定評価額に70パーセントを乗じた価額を本件土地の価額とすることは相当でないと主張するが、当該主張は、実勢価格以下の水準で路線価を設定し、これを相続税法第22条にいう時価としてきた従来の取扱いとの均衡を欠くものであって、鑑定評価の方法により評価せざるを得ない本件のような場合のみ、実勢価格の70パーセント相当額を時価として取扱ってきた従来の方法に従わず、実勢価格そのものを相続税法第22条にいう時価とすることは、租税負担平等の原則ないし課税の公平の原則に反し、不当である。
(ホ)以上のとおり、本件土地の価額は、本件鑑定評価額に70パーセントを乗じた金額である。
 したがって、本件土地の価額は、別表2の「請求人ら主張額」に記載のとおり、503,438,458円と評価すべきである。
ロ 相続税の課税価格
 上記イのとおり、本件土地の価額は503,438,458円であり、本件相続における請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「請求人主張額」欄に記載のとおりとなる。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により、何ら不当な点はない。
イ 本件土地の価額
(イ)相続税法第22条は、相続等により取得した財産(特別の定めのある財産を除く。)の価額はその取得の時における時価である旨規定し、この時価は、評価通達では、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であり、その価額は同通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
(ロ)平成3年分の路線価は、地価の実態をかなり正確に反映しているが、本件鑑定評価額は、対象物件及び評価時期を特定し、個別的な事情をよりち密にしんしゃくしており、適正かつ合理的なものと認められたため、これを本件土地の時価とした。
(ハ)請求人は、本件鑑定評価額に70パーセントを乗じた金額を、本件土地の価額とすべきである旨主張するが、国税局長が毎年評定する路線価が、公示価格と同水準の価格に一定の割合を乗じた程度(平成3年分は、70パーセント程度)に設定されているのは、〈1〉仮に売り急いだとしても、その売買価額が、路線価に基づいて評価した価額を下回るということのないようにする必要があること、〈2〉路線価は、1年間を通じて適用されることとなるため、その1年間の地価変動にも耐え得るものであることが必要とされることなどの評価上の安全性を考慮しているためである。
 これに対し、本件鑑定評価額は、本件土地の個別的な事情に基づき評定されているから、更に70パーセントの評価割合を乗じる必要はなく、本件土地の価額は、別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、719,197,798円と評価すべきである。
ロ 相続税の課税価格
 上記イによれば、本件土地の価額は719,197,798円であるから本件相続における請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりとなり、原処分の額と同額となるため、原処分は相当である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地の価額にあるので、以下検討する。

(1)本件土地の価額

イ 請求人らが提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は本件申告において、本件土地の価額を路線価により算定し、838,063,716円と評価していること。
(ロ)請求人は、本件更正の請求において、本件土地の価額を本件鑑定評価額の70パーセントにより503,438,458円と評価していること。
(ハ)原処分庁は原処分において、本件土地の価額を本件鑑定評価額により719,197,798円と評価していること。
ロ ところで、納税者が更正の請求をする場合については、(a)国税通則法第23条《更正の請求》第3項は、更正の請求をしようとする者は、更正請求書に更正前の課税標準又は税額等及び更正後の課税標準又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細を記載するものとしており、また、(b)同法施行令第6条《更正の請求》第2項は、その更正の請求をする理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、その取引の記録に基づいて、その理由の基礎となる事実を証明する書類を添付するものとしているところであって、これらの規定は、当該更正の請求者が、まず、自ら記載した申告内容が真実に反するものであることを主張、立証すべきである旨を定めたものであると解される。
 本件審査請求につき、これをみると、本件土地の価額について、請求人は、本件申告において前記イの(イ)のとおり評価して申告し、次いで本件更正の請求をしたのに対し、原処分庁は、前記イの(ハ)のとおり評価して本件減額更正をしたのであるから、請求人は、前記イの(ハ)の評価を下回ることを主張、立証することを要すると解すべきである。
ハ 請求人らは、本件鑑定評価額を採用した原処分に対して、評価通達による路線価が公示価格の70パーセントを基準に作成されており、本件鑑定評価額についても路線価の算定方法に準じて同一条件で評価しているので、これに70パーセントを乗じた額によらなければ課税の公平の原則に反し不当である旨主張するが、この点については、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の相続による取得の時における時価による旨を規定しており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解されている。
(ロ)しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その的確な評価が必ずしも容易でないことから、課税庁は評価通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的な評価方法を明らかにし、これによって課税庁内部の取扱いを統一し、課税の公平を保つとともに、これを公開することによって納税者の申告・納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、それ自体は納税者を拘束するものではなく、国民は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものでないことはいうまでもない。
(ハ)ところで、評価通達に基づく路線価は、売買実例価額の収集等技術的な理由から1年間適用されており、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格、売買実例価額及び不動産鑑定士等の精通者意見価格等を基に、公示価格水準の70パーセント程度(以下この割合を「評価水準」という。)により評価されている。
 この評価水準は、相続税等の課税に当たって路線価が1年間適用されることから、その間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性など評価上の安全等を考慮して取り入れられているものと認められる。
(ニ)請求人らは、本件鑑定評価額に評価水準の70パーセントを乗じた額により本件土地の価額を算定すべきであると主張するが、評価水準は、前記(ロ)及び(ハ)のとおり、課税庁内部の時価の評価に関する取扱いを統一するに当たり、評価上の安全性等を考慮して取り入れられているのであって、課税庁が実務上少なくともこれを乗じた価額を下回ることは通常ないであろうと認めるところにより、課税処分等をするための計算過程上の一要素にすぎないものである。
 一方鑑定評価額は、鑑定人が公示価格との均衡を考慮しつつ、本件土地の特殊性をしんしゃくした上で求めた正常価格であって、これに評価水準を乗じなければならない理由はなく、また、そうしなければ課税の公平の原則に反するともいえないから、請求人の主張は採用できない。
ニ そうすると、請求人の主張、立証をもって、本件土地の価額が、本件減額更正に係る価額を下回ると認定することはできず、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり、719,197,798円と評価すべきである。

(2)相続税の課税価格

 上記(1)のニのとおり、本件土地の価額は、719,197,798円であるから、本件相続における請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおりであり、請求人らの納付すべき税額は、いずれも更正の額と同額となる。

(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不当とする理由は認められない。

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