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(平7.4.18裁決、裁決事例集No.49 554頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、ディスカウントショップを営む同族会社であるが、平成3年1月21日から平成4年1月20日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、消費税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 また、請求人は、平成5年9月16日に同表の「修正申告等」欄のとおり記載した消費税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年11月30日付で本件修正申告に係る過少申告加算税の額を228,500円とする賦課決定処分を行い、さらに、同日付で同表の「更正等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、平成6年1月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年5月27日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の計算方法について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定に従い、本件課税期間の仕入税額控除についてその全額を控除した本件確定申告書を、原処分庁に提出したが、当該申告における課税売上割合の計算に誤りがあることが判明したため、消費税法第30条第2項第1号に定める計算方法(以下「個別対応方式」という。)により仕入税額控除の計算を行って本件修正申告書を、原処分庁に提出した。
(ロ)原処分庁は、これに対し、請求人が平成2年1月21日から平成3年1月20日までの課税期間(以下「前課税期間」という。)の確定申告において、消費税法第30条第2項第2号に定める計算方法(以下「一括比例配分方式」という。)による仕入税額控除を適用していることから、前課税期間の初日以後2年を経過する日までの間に開始する各課税期間において一括比例配分方式を継続して適用した後の課税期間でなければ個別対応方式により計算することはできず、本件課税期間においては個別対応方式の適用はできないとして本件更正処分をした。
(ハ)しかしながら、請求人は、平成元年1月21日から平成2年1月20日までの課税期間(以下「前々課税期間」という。)の確定申告において一括比例配分方式を適用した確定申告書を提出し、前課税期間も引続き一括比例配分方式を適用している。
 また、請求人は、そうすると一括比例配分方式の適用開始時期は前々課税期間であって、本件課税期間は、一括比例配分方式の適用開始時期から2年を経過していることとなるから、本件課税期間の仕入税額控除の計算方法は、個別対応方式が適用されるべきである。
(ニ)原処分庁は、前々課税期間においては、確定申告の後に更正の請求に基づきその請求どおり納付すべき消費税額を減額する更正処分をしている(以下「本件前々期の減額の更正処分」という。)ので、一括比例配分方式を適用したことにならない旨主張するが、減額の更正処分があっても仕入税額控除の計算方法が変更されたものでなく、請求人は、前々課税期間においては一括比例配分方式を適用しているものと認識している。
(ホ)仮に、前記(ハ)に理由がないとしても、本件前々期の減額の更正処分の際に、原処分庁の担当職員が、「減額の更正処分によって確定申告で適用した仕入税額控除の計算方法に変更が生じ、同期間においては一括比例配分方式が適用されなくなる」旨の指導をしておれば誤りは生じず、原処分庁の指導が不徹底であったために誤りが生じたものである。
(ヘ)なお、請求人は、個別対応方式の適用の可否のみを争い、本件更正処分のその他の部分については争わない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は不当で取り消すべきであるから、これに基づく本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、前々課税期間において、仕入税額控除の計算方法につき一括比例配分方式により消費税の確定申告をしていた。
 しかしながら、請求人は、同期間の課税売上割合が100分の95以上であり、当該確定申告に誤りがあることを理由に、平成3年3月19日に、仕入税額控除についてその全額を控除する内容の更正の請求書を提出し、原処分庁は、同年6月6日付で当該請求どおり認める内容の減額の更正処分をしている。
 したがって、請求人は、前々課税期間においては、仕入税額控除の計算方法につき一括比例配分方式を適用していないことになる。
(ロ)請求人は、前課税期間は、仕入税額控除の計算方法につき一括比例配分方式により消費税の確定申告書を提出しているので、前課税期間の初日(平成2年1月21日)以後2年を経過する日(平成4年1月20日)までの間に開始する各課税期間において一括比例配分方式を適用した後の課税期間でなければ、個別対応方式を適用することはできないことになる。
 したがって、請求人は、本件課税期間においては、仕入税額控除の計算方法について個別対応方式を適用することはできない。
(ハ)本件前々期の減額の更正処分は、請求人の更正の請求に基づいて、その請求の総てを認める内容の更正処分をしたもので、また、課税売上割合が100分の95以上の場合には一括比例配分方式が適用されないことは消費税法第30条に規定されており、仮に、減額の更正処分の際に、仕入税額控除の計算方法に変更が生じる旨の指導をしていなかったとしても、なんら指導が不徹底であるというべきものではない。
 以上のことから、本件更正処分は指導がされなかったから不当であるとの請求人の主張には理由がなく、本件更正処分は適法である
ハ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当せず、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件課税期間の消費税の仕入税額控除の算出にあたり、個別対応方式を適用できるか否かにあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、前々課税期間及び前課税期間の消費税の仕入税額控除の計算方法について当該各確定申告書の「控除税額の計算方法」欄に一括比例配分方式を適用する旨の表示を行い、それを適用した消費税の確定申告書をそれぞれ原処分庁に提出したこと。
(ロ)請求人は、平成3年3月19日に、前々課税期間の確定申告の課税売上割合に誤りがあることを理由に、課税売上割合を100分の87から100分の98に訂正し、仕入税額控除の金額を63,345,213円から70,492,943円に変更する内容の更正の請求をしたこと。
(ハ)原処分庁は、平成3年6月6日に、前記(ロ)の更正の請求に対して、請求どおり消費税法第30条第1項の規定を適用し、前々課税期間の仕入税額控除の全額(70,492,943円)をその請求どおり認める内容の減額の更正処分をしていること。
(ニ)請求人は、前課税期間に係る仕入税額控除の計算方法について個別対応方式を適用した消費税の修正申告書を提出したが、原処分庁から、一括比例配分方式を適用した更正処分を受けていること(請求人は、当該更正処分に対し異議申立てをしたが、異議審理庁は、棄却の異議決定をしている。)。
(ホ)請求人は、本件課税期間の仕入税額控除の計算方法について、消費税法第30条第1項の規定を適用し、仕入税額控除についてその全額を控除した本件確定申告書を提出していること。
(ヘ)本件課税期間における請求人の課税売上割合は、100分の95未満(0.921)であること。
ロ 一括比例配分方式の適用開始時期について
(イ)仕入税額控除の計算方法については、消費税法第30条第2項の規定で、当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、事業者の選択により個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかによる旨としている。
 ところで、請求人は、前記イの(イ)ないし(ハ)の事実のとおり、前々課税期間の仕入税額控除の計算方法について一括比例配分方式を適用した確定申告を行っていたが、課税売上割合の計算に誤りがあることを理由に更正の請求をした。
(ロ)原処分庁は、当該更正の請求に基づく調査の結果、請求人の課税売上割合が100分の95以上であり、更正の請求に理由があるとして、消費税法第30条第1項の規定により、当該課税期間の仕入税額控除について、請求どおりその全額を認めた減額の更正処分を行った。
(ハ)すなわち請求人は、課税売上割合が100分の95以上であるため、そもそも消費税法第30条第2項の規定による一括比例配分方式は適用できないにもかかわらず、誤って一括比例配分方式を適用し確定申告していたものを、自ら更正の請求をし、原処分庁は、請求人の更正の請求に基づき、消費税法第30条第1項の規定による仕入税額控除の計算方法に基づいた更正処分をしたものである。
 したがって、請求人のした前々課税期間の仕入税額控除の計算方式は一括比例配分方式を適用していないことになる。
(ニ)請求人が、前課税期間の仕入税額控除の計算方法について一括比例配分方式を適用していることは、前記イの(イ)及び(ニ)の事実によって、双方は認めている。
 そうすると、請求人は、前課税期間に一括比例配分方式の適用を開始したこととなる。
 したがって、一括比例配分方式の適用開始時期は、前々課税期間と認識していた旨の請求人の主張に理由がない。
ハ 本件課税期間における個別対応方式の適用の可否について
(イ)消費税法第30条第5項で、仕入税額控除の計算方法について一括比例配分方式を適用した事業者は、一括比例配分方式により計算することとした課税期間の初日から同日以後二年を経過する日までの間に開始する各課税期間において一括比例配分方式を継続して適用した後の課税期間でなければ、個別対応方式により計算することはできない旨と規定している。
(ロ)ところで、上記ロの(ハ)及び(ニ)で述べたとおり、請求人が一括比例配分方式により仕入税額控除の計算をすることとしたのは前課税期間であり、前課税期間の初日(平成2年1月21日)以後2年を経過する日(平成4年1月20日)までの間に開始する各課税期間において一括比例配分方式を継続して適用した後の課税期間でなければ、個別対応方式を適用することはできない。
 したがって、請求人は、本件課税期間は、仕入税額控除の計算方法について個別対応方式を適用することはできず、かつ、前記イの(ヘ)の事実のとおり、課税売上割合が100分の95未満であることから、一括比例配分方式を適用すべきこととなる。
ニ 請求人は、本件前々期の減額の更正処分をした際の原処分庁の指導が不徹底であったため誤りが生じたもので、これに起因する本件更正処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、前記イ及びロにも述べたとおり、一括比例配分方式は、課税売上割合が、100分の95に満たない場合に適用される仕入税額控除の計算方法であることは、消費税法第30条第2項の規定により明らかなことであり、特段、指導が必要であるとは認められない。
 また、本件の場合、前記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、原処分庁は、請求人の更正の請求に基づき、前々課税期間の仕入税額控除について、消費税法第30条第1項の規定によりその計算方法を変更して請求どおり認めて減額の更正処分をしたもので、これらのことを併せ考慮すると、原処分庁の指導に不徹底な点があったとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のことから、仮に、請求人が、一括比例配分方式の適用始期を前々課税期間と認識していたとしても、そのことをもって本件課税期間に個別対応方式を適用できるとするものではない。
 よって、一括比例配分方式を適用した本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当すると認めるに足りる資料はないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。

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