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(平7.5.19裁決、裁決事例集No.49 575頁)

《裁決書(抄)》

第一 譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分について

1 事実

 原処分庁は、納税者株式会社G(以下「滞納会社」という。)に係る別表記載の国税(以下「本件滞納国税」という。)について、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、平成5年2月8日付で下記の(1)に記載の宅地(以下「本件宅地」という。)及び(2)に記載の家屋(以下「本件家屋」といい、本件宅地と併せて「本件財産」という。)を譲渡担保財産として国税徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第2項の規定による譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
 請求人は、本件告知処分を不服として、平成5年4月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年8月30日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、平成5年9月28日に審査請求をした。

(1)P市R町4374番2
 宅地900.00平方メートル
(2)同所同番地2家屋番号4374番2
 鉄骨造スレート葺平屋建倉庫・事務所床面積215.30平方メートル

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、滞納会社に対する平成3年8月5日付金銭消費貸借契約に基づく20,000,000円の貸付金(以下「本件貸付金」という。)の代物弁済として平成4年1月29日に本件財産を取得し、同日所有権移転登記を行った。
 したがって、本件財産は譲渡担保として取得したものではなく、代物弁済として取得したものであり、原処分庁は事実を誤認している。
ロ 上記イの代物弁済の契約には平成4年4月30日までに買戻すことができる旨の特約が付されているが、このような買戻特約付の契約であっても代物弁済により被担保債権は消滅しており、被担保債権のない譲渡担保契約はあり得ない。
ハ 本件滞納国税の納期限は、滞納会社が昭和62年9月1日に所有権移転請求権仮登記を受けていたP市R町4374番1、同番3及び同番4の畑(面積合計1,276平方メートル)を処分した平成4年11月24日以前に到来しており、原処分庁は本件滞納国税の発生当時、これにより滞納税金を滞納会社から徴収できたのに、これを漫然と放置して、滞納会社の財産の散逸を待って本件告知処分を行っており、これは不当かつ不法である。
ニ 仮に請求人の本件財産の取得が譲渡担保の目的でなされたものであったとしても、本件滞納国税の法定納期限が本件財産の所有権移転の日以降に到来するものが含まれており、その限りにおいて本件告知処分は違法である。

(2)原処分庁の主張

イ 国税徴収法第24条第1項の規定によれば、納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分をしてもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができるとされている。
 また、同条第6項の規定により、同条第1項の規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに証明した場合には適用しないこととされている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)平成3年8月5日、請求人は滞納会社に対し、弁済期を同年10月20日として本件貸付金を貸付け、本件宅地を本件貸付金の担保とし、平成4年1月17日、抵当権設定登記をしている。
(ロ)滞納会社が本件貸付金の弁済期に支払をしなかったことから、請求人と滞納会社の間で協議し、その結果、滞納会社は請求人に対し滞納会社が平成4年4月30日までに本件貸付金元本、約定利息、損害金、登記費用、不動産取得税、その他の地租等の負担合計(以下「本件貸付元本等」という。)の金額を提供したときには、本件財産を本件貸付元本等の金額で買戻すことができる旨の平成4年1月28日付の念書と題する書面(以下「本件念書」という。)を交付し、本件財産は、同年1月29日付代物弁済を原因として請求人へ所有権移転登記がされている。
(ハ)滞納会社は、平成4年4月30日までに、本件念書に係る本件貸付元本等の金額を支払わなかった。
(ニ)請求人がI町農業委員会役員Kあてに提出した平成4年6月13日付の誓約証(以下「本件誓約証」という。)によれば、本件念書に係る買戻し期限は、その後、平成5年6月13日まで延長されたと認められる。
(ホ)滞納会社は、本件告知処分時において、本件滞納国税の全額を徴収できる財産を有していなかった。
(ヘ)本件念書の日付は、本件滞納国税の法定納期限等以前ではない。
ハ 以上の各事実からすると、滞納会社から請求人への本件財産の所有権移転登記は、本件貸付元本等を被担保債権とする譲渡担保契約に基づくものと認められ、被担保債権の弁済期は、最終的に平成5年6月13日と認められるから、本件告知処分は適法になされており、何ら違法、不当なものではない。
ニ なお、本件告知処分は、国税徴収法第24条第2項の規定により、適法に行われている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、平成4年1月29日にされた滞納会社から請求人への本件財産の所有権移転登記が、代物弁済に基づくものであるか、譲渡担保に基づくものであるか及び本件滞納国税の法定納期限が本件財産の所有権移転の日以降に到来するものも含まれているか等にあるので、以下審理する。

(1)請求人、滞納会社、原処分庁及び関係者が当審判所に提出した証拠書類及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 平成3年8月5日、請求人は滞納会社に対し、弁済期を同年10月20日とし、本件宅地を担保として本件貸付金を貸し付けたこと。
ロ 平成4年1月17日、本件宅地について、平成3年8月5日の金銭消費貸借を原因とし、請求人を抵当権者とする抵当権設定登記がされていること。
ハ 滞納会社は請求人に対し、平成4年4月30日を期限とする買戻特約付の代物弁済として請求人に本件財産の所有権移転登記手続をすることを承諾する旨の同年1月28日付本件念書を交付していること。
ニ 本件財産は、平成4年1月29日に同日の代物弁済を原因とする所有権移転登記がされていること。
ホ 請求人は、I町の農業委員会役員であるKに対し、本件宅地は担保として一時預かっているが、債務返済あり次第一年以内に滞納会社に返還する旨の平成4年6月13日付本件誓約証を提出していること。
ヘ 請求人は、平成5年5月17日、原処分庁に対し要旨次のとおり申述していること。
(イ)請求人は、平成4年1月25日か同月26日に本件財産の所有権を請求人へ移転するかどうかにつき、滞納会社との間で話合いを行い、滞納会社から同社が同年4月30日までに本件貸付元本等を支払った場合には本件財産を買戻すことができる旨の本件念書を取って代物弁済を原因とする所有権の移転登記をした。
(ロ)請求人は、滞納会社から本件貸付元本等の返済があった場合には、いつでも本件財産の所有権を滞納会社に戻すつもりであり、本件貸付元本等を返済してもらい、所有権を滞納会社に戻すことが最良と思っている。
(ハ)本件念書で取り決められた買戻し期限の平成4年4月30日を経過しても、本件財産の所有権を確定的に取得した旨の通知はしておらず、現在でも本件貸付元本等の清算は済んでいない。
(ニ)請求人は、本件宅地は担保として一時預かっているが、債務返済があり次第一年以内に滞納会社に返還する旨の本件誓約証の内容を滞納会社の代表者に連絡している。
(ホ)滞納会社は本件財産の登記名義を請求人へ移転した後の平成5年5月17日現在に至るも本件財産を資材置場として引き続き使用している。
ト 平成5年4月28日、滞納会社の代表取締役Mは原処分庁に対し、要旨次のとおり申述していること。
(イ)本件貸付金の担保のために本件財産に抵当権を設定していたのであるが、滞納会社に対する債権者の追求が厳しくなったため、その追求を逃れると同時に、請求人の債権確保を確実にするために本件財産の所有権の移転登記を行ったものである。
(ロ)請求人から本件財産の所有権を確定的に移転した旨の通知は受けておらず、本件貸付元本等の清算をした旨の通知も受けていない。
(ハ)本件財産の所有権の移転登記は、本件貸付元本等の担保のための移転であって、現在でも本件貸付元本等を返済すれば本件財産は、戻るものと認識している。
(ニ)本件財産は、現在も引き続き滞納会社が使用している。

(2)ところで、代物弁済とは、債務者が本来負担していた債務の金銭等による給付の代わりに他の財産の給付をして、その債務を完全に消滅させると同時に、代物弁済の目的となった財産の所有権は確定的に債権者に移転させるものであるから、単に他の財産をもって給付をするという債務を負うこととなるだけでは代物弁済にならない。
 一方、譲渡担保とは、所有権などの権利を債務者又は物上保証人から債権者に移転させることによって債権担保の目的を果たすものであり、一般的には、移転させた後においても当該財産の占有ないし利用の権利は引き続き債務者にあるとされる。
 また、買戻特約付売買及び再売買予約付売買等の法形式をとるものであっても、当事者の意思が、消費貸借上の債権の担保の目的のための譲渡であるとする場合には、これは譲渡担保契約に基づく所有権の移転であると解される。

(3)前記(1)の各事実を上記(2)に照らしてみると、本件財産は平成4年1月29日に同日の代物弁済を原因として滞納会社から請求人に所有権移転登記がなされているものの、当該所有権移転登記は、前記(1)のハ、ヘの(イ)及び同(ロ)並びにトの(イ)及び同(ハ)のとおり、本件貸付元本等を担保するための所有権移転登記であり、このことは、当事者双方共に了解の上であることが認められ、前記(1)のヘの(ホ)及びトの(ニ)のとおり、本件財産は当該所有権移転登記後も滞納会社が資材置場として引き続き使用していることからすると、平成4年1月29日の本件財産の所有権移転登記は正に譲渡担保契約に基づくものであるとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、前記(1)のヘの(ハ)及びトの(ロ)のとおり、請求人が原処分庁に申述を行った平成5年5月17日現在、本件貸付元本等の清算がなされていないことからすれば、本件告知処分時において、本件財産は国税徴収法第24条第1項に規定する「譲渡担保財産」に該当するものと認められる。

(4)さらに、請求人は、たとえ買戻特約付の契約であっても本件財産の所有権は代物弁済を原因として請求人に移転しているのであるから、既に被担保債権は消滅しており、被担保債権のない譲渡担保契約はあり得ない旨主張する。
 しかしながら、上記(3)で述べたとおり、本件財産の滞納会社から請求人への所有権移転登記は、請求人の債権確保を確実にするために債権担保の目的で行ったものと認められるから、その実質は譲渡担保契約に基づくものであるとみるのが相当であり、清算手続がとられていない以上、本件貸付元本等の被担保債権が消滅したものとみることはできない。
 なお、仮に、本件買戻特約付代物弁済としての所有権の移転が請求人の主張するように被担保債権を伴わない、いわゆる売渡担保によるものであるとしても、その買戻し期限は、まず平成4年4月30日と定められ、さらに、本件誓約証によれば、その期限は平成5年6月13日に延長されたものと認められ、また、一般的に売渡担保においても清算手続がなされるまでは、債権者が目的財産に対して確定的に所有権を有するものとみることはできないところ、本件においては、清算手続が取られた事実は認められない。
 そして、いわゆる売渡担保契約に基づく譲渡財産も国税徴収法第24条第1項に規定する「譲渡担保財産」に含まれるものと解されるから、いずれにしても、本件財産は、本件告知処分時において、同条項に規定する「譲渡担保財産」に該当することとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)請求人は本件滞納国税の納期限は、滞納会社が本件財産以外の土地を処分した平成4年11月24日以前に到来しており、本件滞納国税の発生当時、滞納会社には十分な資産があり、これにより滞納税金を徴収できたのにこれを放置して、滞納会社の財産の散逸を待って行った本件告知処分は不当かつ不法である旨主張する。
 しかしながら、国税徴収法第24条に規定する告知処分を実行すべき時期の制限について定めた法令上の規定はなく、同条第1項に規定する「徴収すべき国税に不足すると認められるとき」の判断は、同条第2項に規定する「書面」を発する時であると解されること、また、原処分庁が滞納会社の財産の散逸を待っていた事実も認められないことから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(6)請求人は、本件滞納国税の法定納期限が本件財産の所有権移転の日以降に到来するものが含まれており、その限りにおいて本件告知処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、国税徴収法第24条第6項において国税の法定納期限等以前に担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合には譲渡担保権者の物的納税責任については適用しない旨規定されているところ、当審判所の調査したところによれば本件滞納国税の法定納期限等は別表のとおりすべて平成3年12月24日以前であり、本件財産の所有権移転登記の日である平成4年1月29日以降に到来するものはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(7)以上の結果、平成4年1月29日の本件財産の請求人から滞納会社への所有権の移転は、正に譲渡担保契約を原因として行われたものであり、本件財産は国税徴収法第24条第1項に規定する「譲渡担保財産」であると認められ、本件告知処分は同法第2項に基づき適法になされていることが認められる。

(8)本件告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

第二 本件差押処分について

 請求人は、本件告知処分に伴い平成5年2月19日付でされた本件財産に対する差押処分(以下「本件差押処分」という。)についてその取消しを求めているが、国税に関する不服申立ては、まず処分をした原処分庁に対する異議申立てをもってしなければならないところ、請求人の平成5年4月5日にした異議申立ては本件告知処分のみであり、本件差押処分については、異議申立てについての決定を経ないで審査請求をしており、また、異議申立てを経ないで審査請求ができる場合に該当するものとは認められないから、不適法なものである。

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