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(平8.7.31裁決、裁決事例集No.52 41頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産の賃貸を行っている者であるが、平成5年分の所得税について、青色の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に所得金額等を次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
区分確定申告修正申告等更正処分等
項目
総所得金額8,975,4259,443,42512,443,425
(不動産所得の金額)
納付すべき税額1,481,7001,622,1002,722,800
過少申告加算税の額14,000110,000

 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員(以下「原処分庁職員」という。)の調査を受け、平成5年分の所得税について、上表の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成6年11月9日に提出したところ、原処分庁は、同年12月27日付で、上表の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同年分の所得税について、上表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分のうち本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、平成7年2月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、平成5年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)(以下「本件決算書」という。)に記載したとおり、請求人所有のP市R町1丁目2番地17号所在の建物(以下「本件建物」という。)の貸付けにつき、不動産所得を生ずべき事業に該当すると判断して、原処分庁に青色事業専従者給与の届出書を提出し、請求人の子であるF(以下「F」という。)に青色事業専従者給与3,000,000円を平成5年中に支払い、当該金額を本件建物の貸付けに係る不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した。
 これに対して、原処分庁は、本件建物の貸付けは事業的規模で行われているとは認められないとして、青色事業専従者給与の必要経費算入を否認した。
 しかしながら、次の理由により、本件建物の貸付けは事業的規模で行われているので、原処分は違法である。
A 賃借人は株式会社G(以下「G社」という。)一社のみであるが、本件建物の二階部分も併せて貸し付ければ、3,000万円を超える賃貸料収入を得られる可能性があり、請求人は、空室となっている本件建物の二階部分をいつでも賃貸できる状態にしていること。
B 現状でも1,500万円以上の収入があり、不動産賃貸としては、少ない収入ではないこと。
C 請求人及びFは、本件建物の二階部分等の修復、維持管理のため、毎週、何回も出掛けるほか、本件建物を含む一帯が△△再開発地域に指定されているため、H商店街組合及びJ連合会の会合等にも出席するなど、事業に準ずる貸付資産の維持管理等に努めている。
D 以上の状況を総合勘案すれば、本件建物の貸付けは、所得税基本通達26‐9でいう社会通念上事業と称するに至る程度の規模であることから、請求人が、本件建物の維持管理等のためFを青色事業専従者として、社会通念上適正な額の給与を支給し、それを必要経費に算入したことは、当然に認められてしかるべきである。
(ロ)本件更正処分は、次の理由により、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第1項の規定に違反している。
 平成6年8月19日に原処分庁から請求人に対し来署依頼の「お尋ね」はがきが郵送されてから、同年12月27日付の本件更正処分が行われるまで、原処分庁職員が、青色申告書である請求人の帳簿書類等を調査したことはなかった。
 以上の事実は、所得税法第155条第1項の「税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、その居住者の帳簿書類を調査し、その調査によりこれらの金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り、これをすることができる」とする規定に違反している。
 また、原処分庁は、所得税法第155条第1項のただし書について、「帳簿書類に表現される事項には関係なく、申告書及びこれに添付された書類の記載事項によって、所得金額及び所得税額の計算が所得税法の規定に従っていないことが明らかである場合又は誤りがある場合に課税庁において更正をするには、必ずしも帳簿書類を調査することを要しないものとされている。したがって、申告者と課税庁の税法解釈の相違等に起因して所得金額及び所得税額の計算に誤りがあると認められるときは、上記の場合に該当すると解される」との解釈をしているが、この解釈は、請求人にとっては、到底理解し難いものである。
 租税法律主義の我が国において、先例や慣習の法源性は認められず、原処分庁が、行政機関の命令にすぎない解釈通達を根拠として、納税者の反論に耳を貸さず、一方的かつ突然に更正処分を行うことは、我が国の国民主権の考え方を無視した、行政権優位の考えにほかならず、許すべからざる行政行為である。仮に、原処分庁が現行の解釈通達をよりどころとして課税しようとするならば、所得税法の中に具体的規定を制定するようにしなければならない。
(ハ)本件更正処分は、次の理由により所得税法第155条第2項及び行政手続法の規定に違反している。
 請求人が原処分庁に対し平成6年10月7日に提出した「貴庁からの□□(請求人)にかかわる平成4年分及び平成5年分の修正申告しょうようの趣旨について」(以下「本件説明文書」という。)において、請求人は、確定申告の処理に間違いはない旨の解釈を説明し、かつ、本件説明文書の文末において、「本件説明文書につき、なお不十分で疑義ありと認めるならば、当該事項につき、折り返し書面にて事由を説明されるよう」特に要請しておいたにもかかわらず、原処分庁は、本件説明文書に対する回答をしないばかりか、更正通知書の「この処分の理由」欄に「建物の貸付けが事業的規模で行われているとは認められませんので、青色事業専従者給与を否認いたします」とのみ記載して、一方的かつ年末に更正処分を行ってきた。
 この事実と経過は、最高裁判所昭和38年5月31日第2小法廷判決(昭和36年(オ)第84号所得税青色審査決定処分等取消請求事件)以降の判例等に明らかに違背している。
 また、更正の理由附記の文言は、解釈通達の文言にすぎず、現行所得税法令のいかなる条文を具体的に適用するのかが不明であり、青色申告者に対する更正の理由附記の内実としては、適法要件を欠いており、違法かつ無効である。
 したがって、本件更正処分の理由附記が、所得税法第155条第2項の規定に違反していることは明らかである。
 さらに、原処分庁が請求人に対して行った、修正申告のしょうようを含めた一連の行政指導は、行政手続法第32条《行政指導の一般原則》、第33条《申請に関連する行政指導》及び第35条《行政指導の方式》第1項の規定の趣旨及び、その内実にも違背すると解される。
(ニ)以上の結果、本件建物の貸付けが事業的規模に該当しないとして青色事業専従者給与の必要経費算入を否認した本件更正処分は違法であり、取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分が違法であるから、これに伴い、本件賦課決定処分も取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件建物の貸付けについて、不動産所得を生ずべき事業に該当するから、青色事業専従者給与の必要経費算入を否認した更正処分は違法である旨主張するが、本件更正処分は、次の理由により適法である。
A 請求人の不動産の貸付状況等については、次のとおりである。
(A)不動産所得を生ずる賃貸物件は、本件建物のみであること。
(B)請求人は、本件建物をG社のみに貸し付けていること。
(C)本件建物に係る貸付面積は、22.8平方メートルであること。
(D)請求人は、平成5年分の不動産所得の金額を計算するに当たって、Fに対する青色事業専従者給与3,000,000円を必要経費に算入していること。
(E)G社からの平成5年中の本件建物に係る賃貸料収入の額は、16,068,000円であること。
B ところで、所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項においては、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている者が、青色事業専従者にその労務の対価として相当の金額を支払った場合には、青色事業専従者給与として、不動産所得等の必要経費に算入する旨規定している。
 不動産所得の場合、当該不動産所得を生ずる不動産の貸付けが事業として行われている場合には、青色事業専従者給与として不動産所得の必要経費に算入することができるが、当該貸付けが事業として行われていない場合には、必要経費に算入することができない。
 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判断されるが、次の(A)又は(B)に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、事業として行われているものとして取り扱われている。
(A)貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(B)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
C 請求人の場合には、前記Aの(A)のとおり、賃貸物件が本件建物のみであることから、仮に本件建物の二階部分を貸し付けたとしても、上記Bの(A)又は(B)のいずれの場合にも該当せず、また、現実に貸付先がG社のみであり、貸付面積もわずか22.8平方メートルであることから、その管理の状況等も事業に準ずる事情があると認めることはできない。
 したがって、本件建物に係る賃貸料収入の額が1,500万円以上あるとしても、請求人の本件建物の貸付けは、事業として行われていると解することはできないから、青色事業専従者給与を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとした本件更正処分は適法である。
(ロ)請求人は、原処分庁が請求人の帳簿書類を調査することなく更正をしたことは、所得税法第155条第1項の規定に違背し違法である旨主張するが、本件更正処分は、次の理由により適法である。
A 青色申告者については、所得税法第155条第1項において、原則として帳簿書類を調査し、その調査により所得の計算に誤りがあると認められる場合に限り、更正をすることができる旨規定している。
 しかしながら、同項のただし書によれば、帳簿書類に表現される事項には関係なく、申告書及びこれに添付された書類の記載事項によって、所得金額及び所得税額の計算が所得税法の規定に従っていないことが明らかである場合又は誤りがある場合に課税庁において更正をするには、必ずしも帳簿書類を調査することを要しないものとされている。
 したがって、申告者と課税庁の税法解釈の相違等に起因して所得金額あるいは所得税額の計算に誤りがあると認められるときは、同項のただし書に該当すると解される。
B 前記(イ)のBで述べたとおり、不動産の貸付けが事業として行われていない場合には、青色事業専従者給与を必要経費に算入することができないとされている。
 請求人の場合、本件申告書及び本件申告書に添付された本件決算書の内容を検討した結果から、請求人の不動産の貸付けが事業と称するには至らないことは明らかであるから、青色事業専従者給与を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができないと判断して、本件更正処分を行ったものである。
 したがって、本件のように、請求人と原処分庁の税法解釈の相違等に起因して所得金額あるいは所得税額の計算に誤りがある場合には、更正処分を行うに際して、必ずしも請求人の帳簿書類を調査する必要がないというべきであり、この点について、請求人が主張するような違法はない。
(ハ)請求人は、更正の理由附記が所得税法第155条第2項の規定に違背し違法である旨主張するが、本件更正処分は、次の理由により適法である。
A 本件更正処分は、所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項に規定する質問検査権に基づき行った調査の結果により適法に行われている。
 また、更正処分に当たって、請求人の見解に対して文書で回答しなければならない旨の規定はないから、本件更正処分が一方的に行われた旨の請求人の主張には理由がない。
B 本件更正処分に係る更正通知書の「この処分の理由」欄には、誤りと認められる事項が青色事業専従者給与の必要経費算入についてであること、また、請求人の不動産の貸付けが事業的規模で営まれているとは認められない旨が記載されていることから、更正通知書には、制度の趣旨目的を充足する程度に具体的な理由が附記されており、不備であるとは認められない。
C 請求人は、請求人に対する修正申告のしょうよう等について、行政手続法の規定に違反している旨主張するが、請求人に対する質問検査権の行使等は、行政手続法第32条、第33条及び第35条第1項の規定に基づき適正に行われており、何ら違法な点はない。
(ニ)以上の結果、請求人の総所得金額は、前記1の表の「更正処分等」欄の金額と同額となり、また、所得控除の合計額は、下記のA及びBの理由により次表のとおりとなり、この結果算出される納付すべき税額は、前記1の表の「更正処分等」欄の金額と同額になるから、本件更正処分に違法はない。

(単位 円)
項目金額
老年者控除の額0
扶養控除の額350,000
その他の所得控除の額536,000
所得控除の合計額886,000

A 請求人の平成5年分の合計所得金額(総所得金額)は1,000万円を超えるから、請求人は、所得税法第2条《定義》第1項第30号に規定する老年者に該当しない。
 したがって、所得税法第80条《老年者控除》に規定する老年者控除の適用はない。
B Fは、請求人と生計を一にしており、かつ、合計所得金額が零円であるから、所得税法第2条第1項第34号に規定する扶養親族に該当する。
 したがって、所得税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)第84条《扶養控除》の規定により扶養控除の額は350,000円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件建物の貸付けが事業的規模で行われているかどうか及び更正処分に係る手続に違法があるか否かであるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、平成5年3月15日に、Fを青色事業専従者とする青色事業専従者給与に関する届出書を原処分庁に提出していること。
(ロ)請求人は、平成5年中に、Fに対し、青色事業専従者給与として3,000,000円を支払い、同金額を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入していること。
(ハ)請求人の不動産所得に係る賃貸物件は、本件建物のみであること。
(ニ)平成5年中における本件建物の賃借人はG社のみであること。
(ホ)G社への貸付面積は、本件建物の一階部分の床面積22.8平方メートルであること。
(ヘ)本件決算書には、収入金額及び各必要経費の額のほか、次のとおりの記載があること。
A 賃貸物件は本件建物のみであり、その取得年月は昭和63年12月、取得価額は3,898,543円(平成3年1月の改造費1,467,719円を含む。)である。
B 本件建物の貸付先はG社のみで、その賃貸契約期間は平成4年9月から平成6年8月までの2年間、賃貸料は月額1,300,000円である。
(ト)原処分庁は、請求人の帳簿書類を調査しないで、更正処分をしていること。
ロ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件建物の二階部分は窓もなく、その出入りに際しても、一階のG社の店舗内を通らなければならず、現状のままでは賃貸し得る状況にはないこと。
 また、請求人において、本件建物の二階部分を賃貸の用に供するために努力しているとも認められないこと。
(ロ)請求人は、H商店街組合及びJ連合会に加入していること。
(ハ)請求人及びFは、本件建物の維持管理等のため、また、二階部分等の修理等のために、定期的に継続して、本件建物を訪れている事実はないこと。
(ニ)G社は、本件建物に係る賃借料を毎月末に銀行振込みで支払っていること。
(ホ)G社は、本件建物に係る電気代、水道料金等を請求人を経由せずに直接支払っていること。
(ヘ)請求人とG社との間の「店舗賃貸借契約書」によれば、その第1条において、(a)本件建物は、共同開発予定地上にあり、平成8年ころ本件建物の所在地にビルが建設される予定であり、同開発行為が実行される際には、本件建物を明け渡さざるを得ない旨及び(b)請求人は、G社に対し本件建物を上記(a)の事由が生じるまでの間に限って賃貸する旨、また、その第17条において、賃貸借契約期間中の本件建物の一階部分及び附帯設備の損傷はG社の負担にて修繕する旨が定められていること。
(ト)Fが平成6年8月23日の午前中に原処分庁の依頼に応じて原処分庁に赴いた際、原処分庁職員は、本件建物に係る貸付けは事業的規模には該当しないので青色事業専従者給与は必要経費に算入されない旨説明し、修正申告をしょうようしたところ、Fは、担当の税理士と相談したい旨述べて、帰宅したこと。
(チ)請求人の担当税理士は、平成6年8月23日の午後に原処分庁職員に対し事業的規模と解釈できる旨を申述したが、同職員の説明を受けて納得し、請求人に対し説得する旨申述したこと。
ハ ところで、不動産の貸付けが所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を生ずべき「事業」に該当するか否かは、賃貸料の収入の状況、貸付不動産の規模及び管理の状況並びに継続して安定した収益を得られる可能性の有無等を総合勘案し、その貸付けが社会通念上事業と称するに至る程度のものと認められるか否かによって判断するのが相当であると解される。
ニ そこで、上記イ及びロの事実を上記ハに照らして判断すると、(a)貸付物件は本件建物のみで、その貸付先はG社一社のみであること、(b)本件建物に係る貸付面積は22.8平方メートルにすぎないこと、(c)本件建物の貸付けに係る請求人及びFの役務の提供は極めてきん少であると認められること、(d)本件建物の一階部分の修理等は専ら賃借人であるG社が行っており、本件建物に係る請求人及びFの維持管理の程度は極めて低いと認められること及び(e)本件建物の貸付けは、地域の共同開発が実行されるまでの限定的なものであることなどを総合勘案して判断すると、本件建物に係る賃貸料収入の額が1,500万円以上あったとしても、本件建物の貸付けは、社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められないとみるのが相当である。
 したがって、本件建物の貸付けは、所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を生ずべき「事業」には該当しない。
ホ 請求人は、原処分庁が請求人の帳簿書類を調査することなく本件更正処分をしたことは、所得税法第155条第1項の規定に違背する旨主張する。
 ところで、所得税法第155条第1項は、税務署長が青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正をする場合には、その者の帳簿書類を調査し、その調査により当該総所得金額等の計算に誤りがあると認められる場合に限り、これをすることができる旨規定しているが、同項ただし書及び同項第2号において、当該申告書及びこれに添付された書類に記載された事項によって、不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算が所得税法の規定に従っていないことその他その計算に誤りがあることが明らかである場合には、帳簿書類を調査しないで更正することを妨げない旨規定している。
 原処分関係書類及び当審判所の調査によれば、原処分庁は、本件申告書及びこれに添付されている本件決算書に記載された前記イの(ヘ)の事項によって、請求人の本件建物の貸付けは、事業と称するに至る程度のものとは認められず、不動産所得の金額の計算に誤りがあることが明らかであると判断したことが認められるところ、この判断は当審判所においても相当と認められるから、原処分庁が請求人の帳簿書類を調査することなく更正処分をしても、所得税法第155条第1項の規定に反しているとはいえないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 請求人は、原処分庁の更正の理由附記について、所得税法第155条第2項の規定に違背する旨主張する。
 ところで、所得税法は、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保証しているところであるが、同法第155条第2項の規定は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、そのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解されている。
 一方、青色申告に係る更正処分の態様は、(a)帳簿の記載を認めないで更正処分をする場合、(b)事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分をする場合など様々であるから、理由附記の程度は、更正処分の具体的態様に応じおのずから差異があってしかるべきであり、結局、個々の更正処分につき要求される理由附記の程度は、上記の所得税法第155条第2項の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきである。そして、上記(a)の帳簿の記載を認めないで更正処分をする場合はともかく、(b)の法的評価の相違による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるのか明確に判別することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
 当審判所の調査によれば、本件更正処分は、上記の(b)の更正処分に該当することは明らかであり、また、その理由附記において、「建物の貸付けが事業的規模で行われているとは認められませんので、青色事業専従者給与を否認いたします」と記載されていることが認められるところ、この記載内容は、更正処分の対象となった事実及びそれに対する法的評価について、明確に判別することができる程度のものといえるから、原処分庁の更正の理由附記は、所得税法第155条第2項の規定に反していないとみるのが相当である。
ト 請求人は、原処分庁が本件説明文書に対する文書回答もせず、一方的かつ突然に更正処分をしたこと及び修正申告のしょうようを含めた一連の行政指導は、行政手続法第32条、第33条及び第35条第1項の規定に違反した処分である旨主張する。
 しかしながら、前記ロの(ト)及び(チ)のとおり、原処分庁職員は、F及び担当税理士に対し修正申告のしょうよう等をするに当たって、その趣旨、内容等を説明している事実が認められ、一方、(a)原処分庁職員がその任務又は所掌事務の範囲を逸脱した事実、(b)原処分庁職員が請求人に対し不利益な取扱いをした事実、(c)原処分庁職員が請求人の権利行使を妨げた事実などを認めるに足る証拠資料等はないから、請求人が主張するような違法は認められない。
 なお、納税者の納得を得なければ、更正することができないというものではなく、請求人の場合においては、原処分庁職員は、誤り事項を具体的に説明し、修正申告のしょうようを行った上で更正している事実が認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上のとおり、本件更正処分に係る手続に違法は認められず、また、本件建物の貸付けは、所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を生ずべき「事業」に該当しないから、Fに係る青色事業専従者給与の額を請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できないとして行った更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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