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(平8.12.11裁決、裁決事例集No.52 64頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1)修正申告書提出までの経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和39年3月18日にP市R町2丁目1番の2の土地62.80平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上の建物鉄筋コンクリート造二階建延床面積105.32平方メートル(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件物件」という。)を売買によって取得し、飲食業を営んでいた。
ロ その後、平成3年3月29日に本件物件をG株式会社に2,550,000,000円で譲渡した。
ハ 本件物件の譲渡に係る所得について、請求人は、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの、以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項の規定(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)及び第4項の規定を適用して買換資産の取得価額を見積額(以下「見積額」という。)によって計算し、平成3年分の所得税の青色の確定申告書(分離課税用)
(以下「本件確定申告書」という。)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ニ 次いで、請求人は、本件特例の対象となる買換資産として別表2の付番1ないし4土地及び建物を取得し、建物についてはそのすべて(以下「本件買換建物」という。)を、土地については同1の土地(以下「Q市の土地」という。)のすべてと同2の土地(以下「T町の土地」といい、Q市の土地と併せて「本件買換土地」という。)の一部分を買換資産とした。
ホ 請求人は、買換資産の実際の取得価額が見積額を下回る結果となったため、措置法第37条の2《特定の事業用資産の買換えの場合の更正の請求、修正申告等》第2項の規定に基づいて、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成5年4月30日に提出した。

(2)原処分及び不服申立ての経緯

イ 原処分庁は、請求人が取得した別表2の付番1ないし4の土地及び建物のすべてを買換資産としなければならないとし、措置法第37条第2項に規定する買換資産となる土地の面積制限(本件の場合、譲渡した土地の5倍が限度)の限度計算に当たっては、別表2の付番1ないし4のすべての土地から面積制限を超える部分が同等の割合(以下「平均的」という。)で生ずるものとして計算し、平成7年3月6日付で別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄に記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件買換建物のすべてとQ市の土地及びT町の土地のみを買換資産とすることは認めたものの、買換資産とする土地の面積制限の限度計算に当たっては、Q市の土地から先取りするのではなく、Q市の土地及びT町の土地の面積に応じ平均的に買換資産とすべきものであるとして、平成7年7月28日付で別表1の「異議決定」欄に記載のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年8月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分(異議決定を経た後のもの。以下同じ。)は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)措置法第37条第2項及び租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第25条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第16項においては、譲渡した土地等の面積の5倍までが買換資産となる旨規定しているのみで、面積制限を超えて取得した2以上の土地を平均的に買換資産としなければならないとする法令の規定はなく、わが国においては、租税法律主義の基本原則を採用し、租税の賦課徴収は必ず法律の根拠に基づいて行われなければならないとされていることから、法令に明記されていないことについては、その合理的解釈の範囲内であれば納税者の有利となるよう解すべきである。
(ロ)原処分庁は、「租税特別措置法(山林・譲渡所得関係)の取扱いについて」通達(昭和46年8月26日付直資4ー5ほか、以下「措置法通達」という。)37ー10(平成3年12月18日付で発遣のもの。以下同じ。)、同37ー19の注書及び同37の3ー2の取扱いによって、本件買換土地を平均的に買換資産としなければならない旨主張するが、通達とは、上級行政庁が法令の解釈や行政の運用方針等について下級行政庁に対してなす命令ないし指令であり、行政機関の内部では拘束力を持つが、国民に対して拘束力を持つ法規ではない。
 仮に、通達が法令と同様に取り扱われるとしても、次に述べるとおり、措置法通達37ー19の注書及び同37の3ー2の取扱いからは本件買換土地を平均的に買換資産としなければならないという解釈は到底できない。
A 措置法通達37ー19の注書は、本件特例の対象となる一の譲渡資産又は買換資産の一部分のみを譲渡資産又は買換資産として措置法第37条第1項の規定を適用することができないとし、一の資産全部について本件特例を適用するか全く適用しないかの選択しかできないことを定めたものである。
 また、面積制限を超えて2つの土地を買換資産とする場合において、原処分庁の主張するように、これらの土地を平均的に買換資産とすれば、その両方の土地の一部分ずつを買換資産とすることとなり、また、一の土地を優先的に買換資産とすれば、別の土地は、その一部分を買換資産とせざるを得なくなることから、措置法通達37ー19の注書をその文言どおり適用すると、その資産について本件特例の適用ができなくなり、措置法第37条第2項及び措置法施行令第25条の趣旨に著しく反する結果となるため、同通達は、土地の面積制限の解釈の指針となるものではない。
B 措置法通達37の3ー2は、あくまで、買換資産として取得した土地等に引き継がれる取得価額の計算の取扱いを定めたものであり、譲渡所得の計算をする上で同通達を適用するには無理がある。
(ハ)措置法通達37ー10が、原処分庁が主張するとおり土地の面積制限の解釈の指針を示したものであるとしても、請求人は、同通達が発遣される以前に本件買換土地を既に取得しており、法律の規定が遡及して適用されないことと同様に、同通達においてもこれが発遣される以前に既に実行されている買換えについて遡及して取扱いをなすことはできない。
 また、請求人が本件買換土地を取得した時には、措置法通達37ー10が存在していなかったことからみても、同通達が発遣されるまでは、同通達において取り扱われているような解釈は一般的なものではなかったものであり、同通達が「それまでの取扱いを明らかにしたものである。」とする原処分庁の主張は詭弁である。
(ニ)法人の取扱いにおいては、面積制限を超えて2以上の土地を取得する場合、いずれの土地を優先的に買換資産とするかは法人が任意に選択することができるものとされており、2以上の土地等をそれぞれ平均的に買換資産とするとはされていない。
 本件特例においては、事業用資産の買換えとして規定されている以上、事業行為として行った買換えについて、個人と法人とで取扱いに差があるはずがなく、むしろ、法人の取扱いの方が合理的、合法的である。
(ホ)以上のとおり原処分庁の主張はいずれも根拠がなく、更正処分は違法であるから、その全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件特例の適用において2以上の土地を買換資産とした場合の譲渡所得の計算方法は、法令上何ら規定されていないが、当該2以上の土地に引き継がれることとなる取得価額の計算方法は、措置法第37条の3《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第1項において平均的に買換資産を取得したものとして計算する旨規定されている。
 本件特例を適用した場合の譲渡所得の計算方法と、買換資産に引き継がれる取得価額の計算方法とは、同様な考え方に基づくものであることからこれらの取扱いに何ら変わるところはなく、請求人が、本件買換土地を買換資産とするならば、いずれか一の土地を優先的に買換資産とするのではなく、2つの土地を平均的に買換資産としなければならない。
(ロ)国税庁長官は、措置法(山林所得・譲渡所得関係)の法文上で様々の解釈ができ得る場合において、措置法通達を発遣し、譲渡所得等に関する一定の取扱いを定めて課税の適正化を図っており、本件のような買換資産が2以上ある場合の取扱いについては、次に述べるとおり、措置法通達37ー19の注書及び同37の3ー2によってその取扱いを明確にしている。
A 措置法通達37ー19の注書は、本件特例の対象となる一の譲渡資産又は買換資産の一部分のみを譲渡資産又は買換資産として本件特例を適用することができない旨定めているが、これは、買換資産となる土地等を2以上取得した場合においては、いずれか1つの土地の一部分のみを買換資産とするような選択はできず、それぞれの土地を平均的に買換資産としなければならないことを明示しているものである。
B 措置法通達37の3ー2は、面積制限を超えて取得した土地等に付すべき取得価額の計算方法を定めたものであるが、買換資産に引き継がれる取得価額の計算方法と本件特例を適用した場合の譲渡所得の計算方法とは同様な考え方に基づくべきものであり、同通達において2以上の土地等を平均的に取得したものとして買換資産の取得価額を計算することとなっている以上、譲渡所得を計算する上での土地の面積制限についても同様に取り扱われるべきである。
(ハ)措置法通達37ー10は、平成3年度の税制改正に伴い追加されたものであるが、上記(ロ)のA及びBのとおり、同通達が追加される以前から買換資産の一部分のみを買換資産とすることができないこと及び2以上の土地を平均的に取得したものとすることとされていたことから、同通達が追加される以前と以後において、面積制限を超えて2以上の土地を買換資産とする場合の取扱いに何ら変わるところはなく、同通達が従来の取扱いを明らかにしたものといえる。
(ニ)法人に対する取扱いは、その存在目的及び理由に照らし、常に純経済人としての経済的利害得失を意識し、事業主体となり得る法人を対象としているのに対して、個人に対する取扱いは、事業的行為と私的行為が混在し、例えば親族間等において通常の経済的利害を離れた行為がしばしば行われている個人を対象としていることからも、必ずしも法人のような割り切った考え方だけで対処することができない事情があり、法人と個人とにおいてその取扱いに差ができるのは当然である。
(ホ)以上のとおり請求人の主張には理由がなく、更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件特例の適用において、面積制限を超える本件買換土地を買換資産とする場合に、Q市の土地を優先的に買換資産とし、次に、面積制限の余剰部分についてT町の土地を買換資産とするのか、あるいは、本件買換土地を平均的に取得したものとして、買換資産とするのかであるので、以下審理する。
イ 措置法第37条第1項は、個人が、その有する資産で特定の資産のうち事業の用に供しているものの譲渡をした場合において、一定の期間内に特定の資産を取得し、当該取得の日から1年以内に、当該取得をした資産を事業の用に供したとき、又は供する見込みであるときは、当該譲渡のうち一定の部分について譲渡があったものとして、譲渡所得の計算を行う旨規定している。
 このことは、譲渡があったものとされる部分以外の部分の課税を買換資産に転化させることによって課税の繰延べを認めるというものであるから、その買換資産を後日譲渡したときには、課税の繰延べを受けている部分の譲渡益部分を、改めて買換資産の譲渡益に含めて課税の対象としている。
 次に、措置法第37条の3第1項は、措置法第37条第1項の規定の適用を受けた買換資産に係る償却費の額を計算するとき、又は当該買換資産の譲渡等があった場合において譲渡所得の金額を計算するときは、当該買換資産の取得価額については、実際の取得価額ではなく旧譲渡資産の取得価額等を基礎として計算する旨規定している。
 これは、措置法第37条第1項によって課税の繰延べがされる部分について、旧譲渡資産の取得費等を買換資産が引き継ぎ、その買換資産に係る減価償却費の計算及び譲渡所得の計算の基礎となる取得価額の計算の具体的な方法を規定したものといえる。
 また、措置法施行令第25条の2《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第2項は、措置法第37条の3第1項の規定を受けて、買換資産が2以上ある場合の各買換資産の取得価額とされる金額については、措置法第37条の3第1項により計算した金額に各買換資産の価額がこれらの買換資産の価額の合計額のうちに占める割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
 このことは、各買換資産の取得価額を計算するに当たっては、各買換資産のいずれかを優先的に取得したものとすると規定しているのではなく、各買換資産を平均的に買換資産として取得するものと規定していると解するのが相当である。
ロ ところで、請求人は、本件特例の適用に当たっては、土地の面積制限の適用において本件買換土地を平均的に買換資産としなければならないとする法令の規定はない旨主張する。
 しかしながら、上記イで述べたとおり、面積制限を超えて2以上の土地を買換資産として取得している場合には、(a)まずそれぞれの土地について、いずれにも同等の割合で面積制限を超える部分が生じているものとして、譲渡した土地の面積制限を超えない部分と面積制限を超える部分とに観念的に区分し、引き継がれる取得価額を計算することとされており、(b)次に当該面積制限を超えない部分に係る買換資産については、それを買換資産として特例の適用対象とすべきであり、当該面積制限を超える部分については、特例の適用上買換資産とはされないという考え方に基づいて、譲渡があったとされる部分が導き出されるものであると解される。
 したがって、面積制限を超えて2以上の土地を取得している場合の本件特例の適用に当たっては、措置法第37条第1項、同法第37条の3第1項及び措置法施行令第25条の2第2項の規定から各買換資産を平均的に買換資産とすべきであると解するのが相当であり、請求人の主張は採用できない。
ハ また、請求人は、通達が行政機関の内部では拘束力を持つものの、国民に対して拘束力を持つ法規ではない旨主張する。
 確かに通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、それ自体は納税者を拘束するものではなく、国民は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものでないことはいうまでもない。
 しかしながら、租税法規の具体的な解釈として、通達が一般的に公開されているものについては、これによって課税庁内部の取扱いを統一するとともに、納税者の申告・納税の便に供していることが認められ、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、通達に基づいて行われた処分も法の根拠に基づく処分と解するに妨げないといえる。
 さらに、請求人は、通達が法令と同様に扱われるとしても、措置法通達37―19の注書は土地の面積制限の解釈の指針とすることができず、同通達37の3―2も譲渡所得金額の計算をする上で適用できない旨主張するので、これらの通達の内容について、以下検討する。
(イ)措置法通達37―19の注書において、措置法第37条第1項の対象となる一の譲渡資産又は買換資産の一部分のみを譲渡資産又は買換資産として同項の規定を適用することができない旨定めているが、措置法第37条第1項に規定する買換資産は、その一部分のみを買換資産とできると解するのは文理上相当といえないところ、措置法通達37―19の注書において、これを明らかにしたものといえ、当審判所としても相当と認める。
(ロ)措置法通達37の3―2は、面積制限を超えて取得した2以上の土地に付すべき取得価額の計算について、2以上の土地を平均的に買換資産としたものとして行う旨定めているところ、これは、上記イ及びロと同様な考え方から措置法第37条の3第1項の取扱いを定めていることが認められ、当審判所としても相当と認める。
(ハ)そうすると、上記(イ)及び(ロ)のとおり、措置法通達37―19の注書及び同37の3―2の内容からも、本件特例の適用に当たって、各買換資産を平均的に買換資産とすべきであると解するのが相当であって、請求人の主張はいずれも採用することはできない。
ニ また、請求人の主張するとおり、措置法通達37―10は、請求人が買換資産を取得した後に発遣されたものであるが、通達の遡及効を問題にするまでもなく、同通達が発遣される以前から措置法通達37―19の注書及び同37の3―2の各通達が存在しており、従来から2以上の資産を平均的に買換資産とする取扱いがなされていたと認められ、平成3年度の税制改正に伴い、措置法通達37―10によってそれまでの取扱いがより明確にされたものといえる。
ホ さらに、請求人は、本件特例が事業用資産の買換の特例として規定されている以上、事業行為として行った買換えについて、法人と同様に取り扱うべきである旨主張するが、本件特例の適用に関しては、個人については、措置法第37条第1項及び同法第37条の3第1項において、譲渡所得の計算方法及び買換資産に付される取得価額の計算方法を規定しているのに対して、法人については、措置法第65条の7《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》第1項において、損金の額に算入する金額の計算方法を規定しているにとどまっていることから、その規定の仕様が異なっており、更には、買換資産として2以上の土地を取得した場合には平均的に買換資産としなければならないとする同法第37条の3第1項及び措置法施行令第25条の2第2項に当たる条文は、法人に対しては存在しない。
 また、事業的行為と私的行為の混在する個人に関する取扱いは、その存在目的及び存在理由から常に純経済人として経済的利害を意識し、事業主体となり得る法人とその取扱いに差がでることはやむを得ないと解されるから、請求人の主張は採用できない。
ヘ 以上のとおり請求人の主張はいずれも採用できず、原処分庁が本件買換土地を平均的に買換資産としなければならないとして行った更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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