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(平8.10.2裁決、裁決事例集No.52 163頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年11月11日に死亡したFの共同相続人二人のうちの一人であるが、実兄のG(以下「共同相続人」という。)と共同して、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書及び相続税延納申請書を法定申告期限の平成3年5月13日にA税務署長に提出した。
 A税務署長は、これに対して、平成4年6月2日付で本件相続税の延納を許可したが、同年10月1日に、本件相続税の延納の担保物について国税徴収法第2条《定義》第12号に規定する強制換価手続が開始されたため、相続税法第40条《延納の取消》第2項の規定により、同年12月24日付で本件相続税の延納の許可取消処分をした。
 請求人は、別表1に記載のとおり、本件相続税の延納に係る第1回の分納税額(以下「本件分納税額」という。)及び本件相続税の延納の許可取消処分に係る税額(以下「本件延納取消額」という。)並びに共同相続人の滞納国税に係る相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項の規定による連帯納付責任額(以下「本件連帯納付責任額」といい、本件分納税額及び本件延納取消額と併せて「本件滞納国税等」という。)を納付しなかったところ、原処分庁は、本件滞納国税等を徴収するため、平成7年11月2日付で、請求人の所有する別表2に記載の不動産の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
 請求人は、本件差押処分を不服として、平成7年12月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年2月29日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年3月13日に審査請求をした。
 なお、A税務署長は、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成5年1月28日に、本件滞納国税等について原処分庁に徴収の引継ぎをしている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により著しく不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成7年12月18日に○○地方裁判所へ提起した遺産分割協議無効確認請求事件(以下「本件訴訟」という。)において、平成3年2月24日に共同相続人との間で行った遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)の無効の確認を求めて係争中である。
 したがって、本件訴訟において請求人の勝訴が確定すれば、改めて遺産分割協議を行い、それに基づいて本件相続税の額を零円とする更正の請求をすることにしており、これが認められて本件滞納国税等の全額が減額された場合、本件差押処分はその前提を欠くこととなる。
ロ 請求人は、課税処分と滞納処分がそれぞれ目的及び効果等を異にする別個独立の処分であることを承知しているが、上記イのとおり、本件滞納国税等の全額が減額される可能性があるにもかかわらず、その結果が得られるまで本件差押処分を看過すれば、本件差押処分の対象となっている請求人の固有財産が公売に付されることになり、本件訴訟の実益を確保できなくなるばかりか、回復不可能な損害を被ることとなる。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁は、本件滞納国税等に係る督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに、請求人が本件滞納国税等を完納しなかったため、国税徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号の規定に基づき本件差押処分をしたものであり、本件差押処分に何ら違法、不当な点はない。
ロ 本件相続税が平成3年5月13日にA税務署長に提出された本件相続税の申告書によって納付すべき税額として適法に確定している以上、仮に、本件相続税の申告の基礎となった本件遺産分割協議の効力が否定されたとしても、本件滞納国税等が取り消されるまでは、本件差押処分は何ら影響を受けることはない。
ハ 請求人は、本件訴訟の結果によっては本件滞納国税等の全額が減額される可能性があるにもかかわらず、原処分庁が本件差押処分を維持し、続行することにより、本件訴訟における請求人の勝訴が確定するまでに、請求人の固有財産を公売に付した場合、本件訴訟の実益が損なわれ、回復のできない損害を被ることになる旨主張するが、そのような理由をもって、本件差押処分が不当となるものではない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件差押処分が不当な処分であるか否かにあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件遺産分割協議に基づき作成された本件相続税の申告書を共同相続人と共同して法定申告期限の平成3年5月13日にA税務署長に提出していること。
ロ 請求人は、本件差押処分の後に本件遺産分割協議の無効の確認を求めて本件訴訟を提起していること。
(2)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件相続税の申告書の提出以降、本件相続税を取り消す処分は行われていないこと。
ロ A税務署長は、請求人に対して、本件分納税額について平成4年7月22日付第△号の督促状(ただし、利子税の一部418,000円については平成5年1月7日付第×号の督促状)、本件延納取消額について平成5年1月7日付第□号の督促状及び本件連帯納付責任額について平成4年7月24日付第○号の督促状を発していること。
ハ 本件滞納国税等は、上記ロの各督促状を発した後においてもなお完納されていないこと。
(3)ところで、国税通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号の規定によれば、申告納税方式による相続税の納付すべき税額は、納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長の処分により確定するとされている。
 また、国税徴収法第47条第1項第1号の規定によれば、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならないこととされている。
(4)そこで、前記(1)及び(2)の各事実を上記(3)に照らし、まず、本件差押処分が適法であるか否かについて、以下判断する。
イ 請求人は、本件相続税の申告書を平成3年5月13日にA税務署長に提出しており、その後、本件相続税を取り消す処分は行われていないのであるから、本件相続税は、国税通則法第16条第1項第1号の規定により納付すべき税額として有効に確定していることが認められる。
ロ A税務署長は、請求人に対し、本件滞納国税等のいずれについても督促状による督促をしていることが認められるところ、請求人は、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに本件滞納国税等を完納していない。
ハ そうすると、原処分庁が国税徴収法第47条第1項第1号の規定に基づき行った本件差押処分に違法な点は認められず、本件差押処分は適法な処分であるといわざるを得ない。
(5)次に、本件差押処分が不当な処分であるとする請求人の主張の当否について、以下判断する。
イ 請求人は、本件相続税の申告の基礎となった本件遺産分割協議の無効が確定することによって、本件滞納国税等の全額が減額された場合、本件差押処分はその前提を欠く不当な処分となる旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
(イ)申告は、納税義務の成立した租税債権の納付すべき税額を確定させることを目的とする手続であるのに対して、差押処分は、既に確定した租税債権の強制履行を目的とする滞納処分手続の一環であって、両者は、それぞれ別個に独立した法律効果の発生を目的とするものであり、結合して単一の法律効果を生ずるものではないから、外形上客観的に一見して看取し得る程度の重大かつ明白な瑕疵が申告自体にある場合を除き、申告に内在する瑕疵を理由にして、差押処分の取消しを求めることはできないと解すべきである。
(ロ)これを本件についてみると、請求人は、本件相続税の申告の基礎となった本件遺産分割協議の無効の確認を求めて本件訴訟を提起していることは認められるが、そのことのみをもって直ちに本件相続税の申告が無効となるものではなく、他に外形上客観的に一見して看取し得る程度の重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないから、本件相続税の申告を当然に無効とすべき特段の事由は認められない。また、前記(2)のイ及びハからすれば、本件滞納国税等は現に消滅していないことが認められる。
(ハ)そうすると、本件相続税の申告を当然に無効とすべき事由はないのであるから、請求人は本件差押処分の取消しを求めることはできず、また、本件滞納国税等は現に消滅していないのであるから、本件差押処分はその前提を欠く不当な処分であるとはいえない。
(ニ)したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、本件差押処分は有効に存続しているというべきである。
ロ 請求人は、本件差押処分を看過すれば、本件滞納国税等が取り消されるまでに本件差押処分の対象となっている請求人の固有財産が公売に付されることとなり、そうなれば、本件訴訟の実益が損なわれるばかりか、請求人にとって回復不可能な損害をもたらすことになるから、本件差押処分は不当な処分である旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
(イ)一般に、差押処分は、上記イの(イ)のとおり租税債権の強制履行を目的とする滞納処分手続の一環であるが、その執行に当たっては、国税徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》、同法第51条《相続があった場合の差押》、同法第151条《換価の猶予の要件等》等の規定において、差押処分が滞納者に対し過酷にならないよう措置されていることが認められる。
(ロ)しかしながら、これらの措置の中に、滞納者の固有財産の差押処分を禁止し、又は、猶予する旨の規定は存在しないから、原処分庁が本件差押処分をしたこと及びこれを維持していることに違法、不当な点があるとは認められない。
(ハ)したがって、この点に関する請求人の主張によっても、本件差押処分を不当とする理由はなく、本件差押処分は適法かつ有効な処分であるとの前記(4)及び上記イの判断を覆すことはできない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できないところ、当審判所の調査によっても、他に原処分庁が本件差押処分をしたこと及びこれを維持していることを格別に不当とする理由は認められないほか、国税徴収法第79条《差押の解除の要件》など差押えの解除に関する全規定をもってしても、請求人の場合、本件差押処分における差押えを解除すべき、又は、解除できる場合にも当たらないことが認められる。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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付表 共同相続人(G)の滞納国税


(単位 円)
納期限本税利子税延滞税
平成3年17,000,000法律による金額
5月13日 全額
平成4年15,000,00015,600,000法律による金額
6月16日 全額
平成5年268,904,1167,980,000法律による金額
1月 6日 全額

別表2 不動産目録


(単位 平方メートル)
No.不動産の表示備考
1所在P市R町地番1251番1固有財産
地目宅地地積567.06
2所在P市R町1251番地1家屋番号1251番1固有財産
種類居宅構造木造スレート葺
平家建
床面積155.90
3所在P市R町地番1251番3固有財産
地目地積84.00
4所在P市R町地番1251番6固有財産
地目地積81.00
5所在P市S町3丁目地番1番3相続財産
地目地積561.00
6所在P市S町3丁目1番地3家屋番号1番3固有財産
種類店舗構造鉄骨造亜鉛メッキ
鋼板葺2階建
床面積 1階 270.74 
2階 71.91  

(注)固有財産とは、相続財産以外であって、請求人が従来から所有していたものである。

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