ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.3.31裁決、裁決事例集No.53 1頁)

(平9.3.31裁決、裁決事例集No.53 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年分、昭和63年分、平成元年分、平成2年分、平成3年分、平成4年分及び平成5年分の所得税(以下「本件国税」という。)について、確定申告書(昭和63年分以降は青色の確定申告書)に別表1ないし別表7の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 P税務署長は、これに対し、平成7年2月28日付で別表1ないし別表7の「更正処分等」欄のとおりの更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年4月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月21日付で、いずれも棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月31日に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年8月25日に審査請求をした。
 なお、請求人は、P市R町36番2号(以下「P住所地」という。)からQ市S町3丁目6番6号Wビル内(以下「Q住所地」という。)に納税地を異動したとする届出書(以下「本件異動届出書」という。)を、平成7年4月10日にQ税務署長へ、同年5月29日にP税務署長へ、それぞれ提出している。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、本件国税に対して更正及び賦課決定のできる期限が間近に迫っていることから、調査不足のまま慌てて行われたずさんな処分であり、次の理由により、無効又は違法であるから、その全部の取消しを求める。
 なお、本件国税の所得金額については争わない。
イ 所轄庁について
 P税務署長は、請求人の法律的無知を利用して原処分を行ったが、原処分が行われた時点において、本件国税に対し更正及び賦課決定をする処分権限を有する所轄庁(以下「本件国税の所轄庁」という。)は、次のとおり、P税務署長ではなく、Q税務署長であることが明白である。
 したがって、処分権限のないP税務署長が行った原処分は無効である。
(イ)請求人は、原処分が行われる以前の平成6年12月26日に、P住所地からQ住所地へ住所を移転している。また、この住所の移転(以下「本件移転」という。)については、請求人から原処分の調査(以下「本件調査」という。)に際し税務に関する一切の権限を委任されたK税理士(以下「K税理士」という。)及び請求人が、本件調査を担当したP税務署の職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、請求人がQ住所地で阪神・淡路大震災に被災したことと併せて、平成7年1月下旬に再三説明しているから、P税務署長は、原処分を行うまでに本件移転の事実を承知していた。
 なお、原処分庁は、原処分時において請求人の生活の本拠はP税務署管内にあったから、本件国税の納税地に異動はなく、本件国税の所轄庁はP税務署長である旨主張するが、その主張の根拠とする理由は、次のとおり、いずれも当を得ていない。
A 原処分庁は、請求人の妻子の住民登録に異動がないことを理由にするが、請求人の妻であるL(以下「妻L」という。)は、P市R町38番21号において、飲食店のかっぽう○○を経営して生計を立てており、自ら確定申告も行っているのであるから、そのことは本件移転とは何の関係もない。
B 原処分庁は、請求人の次男であるM(以下「次男M」という。)から請求人がP住所地に居住していると推認できる言質を得ていたとすることを理由にするが、次男Mはその陳述書のとおりこれを否定している。
C 原処分庁は、本件調査において、調査担当職員がK税理士から本件移転の説明を聞いていないとするが、調査担当職員に対しては、平成7年2月20日以外の日にも本件移転の説明をしており、このことが調査担当職員の虚言であることは、K税理士の陳述書により明らかである。
(ロ)P税務署長は、本件移転の事実を承知していたのであるから、納税地の異動に当たって、納税地の異動に関する届出書の提出が必要なのであれば、行政庁として、請求人に対してその提出方を指導すべきである。
(ハ)請求人は、原処分が行われた前日の平成7年2月27日に、阪神・淡路大震災の被災に係る「災害による申告、納付の期限延長申請書」(以下「本件延長申請書」という。)をQ税務署長へ提出したところ、同署の職員から「P税務署へは当署から連絡しておくから、納税地異動届は提出しなくてもよい」旨口頭により指導を受けており、また、当該職員は、本件延長申請書の左上欄に「P税務署から転入」と記載した。
 したがって、本件延長申請書には、Q税務署に転入したことが明記されているのであるから、本件延長申請書を納税地の異動に関する届出書として取り扱っても差し支えないものである。
ロ 書類の送達について
 原処分に係る各通知書(以下「本件通知書」という。)の送達は、次のとおり、国税通則法第12条《書類の送達》第1項ないし第5項の規定に反していることが明らかである。
 したがって、本件通知書の送達の効力は生じていないから、原処分は無効である。
(イ)原処分庁は、P住所地に請求人が不在であったため、調査担当職員が、妻Lの店舗に赴き、次男Mに内容を説明の上、本件通知書を渡した旨主張するが、その際、P住所地には妻Lが風邪で寝込んでいたが在宅しており、次男Mはその陳述書のとおり渡された書類の内容を聞かされていない。
(ロ)調査担当職員が本件通知書を渡した相手は、請求人ではなく次男Mであり、持参した場所は、P住所地ではなく妻Lの店舗である。
 このことは、通行中の家族に書類を預けたことと同様であり、原処分庁がこれを適法と主張するのは、法律無視も甚だしいものであると言わざるを得ない。
(ハ)原処分庁は、請求人が本件通知書の送達により、格別の不利益を被った事実もなく、その後に所定の不服申立手続を採っていることから、本件通知書の送達の効力に影響を及ぼすものではない旨主張するが、本件通知書の送達の方法が国税通則法の規定に違反することは明らかである。
ハ 調査手続について
 本件調査の手続は、次のとおり、申告納税制度を前提として立法化されている所得税法の本質を否定するものであり、違法、不当であるから、その違法、不当な本件調査の手続に基づき行われた原処分は違法である。
 青色申告書以外の申告書(以下「白色申告書」という。)に係る更正については、更正の通知書に更正の理由を附記すべき旨の法令の規定はないものの、青色申告書、白色申告書の別を問わず、調査に当たっては可能な範囲で納税者に何らかの説明をするのが行政としての妥当な方法であるにもかかわらず、P税務署長は、原処分に係る所得計算の経過について説明も行わず、また、請求人に弁明の機会すら与えないで、突然一方的に原処分を行った。
 なお、このように、本件調査が行政としての公正、公平な手続を欠くことについては、K税理士の陳述書によっても明らかである。
ニ 更正の理由附記について
 請求人は、昭和63年分以降の所得税につき青色申告の承認を受け、同年分以降、青色の確定申告書を提出しているところ、請求人が行った株式の売買(以下「本件株式売買」という。)による所得は、次のとおり、雑所得ではなく、事業所得とするのが相当である。
 そうすると、青色申告の承認の対象となる事業所得に係る更正については、更正の理由を附記すべきであるから、その具体的理由が附記されていない請求人の昭和63年分の更正処分は違法である。
(イ)本件株式売買による所得金額は、多額であり、請求人の所得金額の圧倒的多数を占めている。
(ロ)請求人の所得金額は、昭和62年分、昭和63年分と2年間にわたり同様な所得構成である。
(ハ)請求人は、証券投資顧問業の登録を行い、証券投資顧問を業とするN経済研究所を開設しており、このことは、原処分庁も事実として認定の上、重視している。
ホ 重加算税の賦課決定処分について
 重加算税の賦課決定処分については、次のとおり、原処分庁の事実認定及び法令の解釈、適用に重大な誤りがあり、違法である。
 なお、重加算税の賦課決定処分を取り消すべき結果として、昭和62年分及び昭和63年分の各更正処分は、更正の期間制限を超えることになるので、当然に取り消すべきである。
(イ)昭和62年分及び昭和63年分の重加算税の各賦課決定処分について
A 請求人は、本件株式売買について申告しなくてもよいものと認識していたものであるから、明確な脱税の意思を有していたものではない。
 なお、原処分庁は、T証券株式会社a支店(以下「T証券」という。)の当時の担当者(以下「T証券担当者」という。)が、請求人が株式の知識を相当有しており、また、請求人に本件株式売買による譲渡益について確定申告の必要性を繰り返し指導したと述べていた旨主張するが、それが事実無根であることは、T証券担当者の陳述書のとおりである。
 また、原処分庁は、本件調査において請求人が述べたとすることを事実として認定しているが、請求人の申立書及び請求人からの聴取書等の記録に基づかず、単に調査担当職員の思い込みによって事実とすることはできないはずである。
B 株式取引については、証券会社の顧客勘定元帳を調査することにより、その内容を極めて簡単に把握することができるものであるところ、請求人は、本件株式売買のすべてを実名で行っており、帳簿書類等の記録につき事実の確認を妨げるような行為は行っておらず、また、税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の外形的工作行為も行っていない。
(ロ)平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分について
 請求人が平成2年分及び平成3年分の不動産所得の必要経費として算入した借入金の支払利息(以下「本件総支払利息」という。)の中に、株式の取得に係る借入金の支払利息(以下「本件株式取得分支払利息」という。)があん分されずに含まれていたが、このような単純な誤りをしたことだけをもって、重加算税の対象とすることは、隠ぺい又は仮装をその賦課要件とする法律の規定を拡大解釈したものであり許されない。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所轄庁について
 本件国税の納税地は、次のとおり、原処分が行われた平成7年2月28日現在において、P税務署管内にあったと認められるので、P税務署長が本件国税の所轄庁であり、原処分の処分権限を有する。
(イ)原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成6年12月26日にP住所地からQ住所地へ住民登録を異動しているが、原処分が行われた時点では、請求人の家族の住民登録はP住所地にあること。
B 請求人の主たる職業は、居酒屋「△△」の個人経営及び株式会社Wの会社経営であり、その経営状況及び家族の状況等は原処分の前後において変化は見られず、また、郵便局、取引銀行等へ住所変更の届出もされていないこと。
C 調査担当職員が平成7年2月20日に請求人及びK税理士と面談した際、請求人は、阪神・淡路大震災によってQ住所地に所在する請求人所有のWビルが被害を受け、使用不可能となった旨申し立てたが、本件移転をしたことについては言及しなかったこと。
D 次男Mは、平成7年2月28日に本件通知書を持参した調査担当職員に対し、請求人がa市に出張しているが、夜遅くにはP住所地に帰宅する旨告げたこと。
E 請求人は、Q税務署長へ本件異動届出書を提出した平成7年4月10日までに、P税務署長に対し、文書又は口頭によりP住所地からQ住所地へ納税地を異動したとする意思表示をしていないこと。
(ロ)ところで、国税通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》第1項の規定によれば、更正又は決定は、これらの処分をする際における国税の納税地を所轄する税務署長が行うこととされている。
 また、納税地について所得税法第15条《納税地》第1項の規定では、納税義務者が国内に住所を有する場合はその住所地とされており、同法第20条《納税地の異動の届出》第1項の規定では、納税義務者は、その所得税の納税地に異動があった場合には、遅滞なく、異動前の納税地及び異動後の納税地を記載した書面をその異動前の納税地の所轄税務署長及び異動後の納税地の所轄税務署長に届け出なければならないとされている。
 そして、上記の「住所」とは、生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定すると解される。
(ハ)そこで、前記(イ)の事実を上記(ロ)に照らしてみると、請求人は、原処分が行われた平成7年2月28日当時において、(a)請求人以外の家族の住民登録は依然としてP住所地にあること、(b)請求人の事業の経営状況、家族の状況等は従来どおりであること、(c)郵便局、取引銀行等へ住所変更の届出を提出していないこと及び(d)調査担当職員が本件通知書を送達する際に、次男Mから、請求人がP住所地に居住していると推認できる言質を得ていること等を総合すると、請求人の生活の本拠はP住所地であることが認められる。
 また、請求人は、平成7年2月28日時点において、本件異動届出書を提出していないので、住民登録の異動の事実のみをもって、本件国税の納税地がP税務署管内からQ税務署管内へ異動したとはいえない。
(ニ)したがって、原処分が行われた時点において、本件国税の納税地は、P税務署管内にあると認められるので、原処分は有効である。
ロ 書類の送達について
 調査担当職員が本件通知書をP住所地へ持参したが請求人が留守であったことから、妻Lの店舗に臨場し、次男Mに、封筒の中の書類の内容を説明した上で、請求人に渡してもらいたい旨伝え、手渡したものである。
 ところで、国税通則法において送達に関する規定が設けられた趣旨は、国税に関し税務署長その他のものの発する書類が名あて人のもとに確実に、かつ、速やかに送達され、その送達によりじ後の手続が適正に進行することを確保するものであると解されるところ、本件においては、本件通知書が次男Mを通じ請求人のもとに到達し、請求人においても当該送達により格別の不利益を被った事実もなく、その後に異議申立て、審査請求をし、所定の不服申立手続が採られていることから、本件通知書による処分の送達の効力に影響を及ぼすものではなく、仮に、その送達の方法に瑕疵があるとしても、以上の趣旨及び現実に送達されている事実から考察すると、その瑕疵は治癒されたものというべきであり、原処分が無効となるものではない。
ハ 調査手続について
 本件調査において、調査担当職員は、K税理士に対し、調査の経過及び結果について再三にわたり説明しているので、請求人の主張するような一方的な更正処分を行った事実はない。
ニ 更正の理由附記について
 一定の具体的行為が、所得税法第27条《事業所得》第1項及び所得税法施行令第63条《事業の範囲》に規定する事業所得を生ずべき事業に該当するかどうかは、所得税法上明確な規定はなく、一般社会通念によって判断することとなり、単にその取引の有償性、継続性及び反復性の有無のみならず、事業としての社会的客観性の有無が必要とされ、そのためには、人的、物的設備の有無、資金調達の方法、取引に費やした精神的、肉体的労力の程度、その者の職業、社会的地位、その取引によって相当期間継続して安定した収益を得られる可能性があるかどうかなど、種々の要素を総合して判断されるべきである。
 これを本件についてみると、(a)請求人の主たる職業は居酒屋の個人経営及び株式会社Wの会社経営であり、請求人は、これらから生ずる収入のほか、請求人が所有する不動産からも安定した収入を得ていること、(b)本件株式売買の資金調達、人的、物的設備等が相当程度の規模によって行われていると認められないこと、(c)請求人は、N経済研究所に係る所得について申告しておらず、N経済研究所の営業活動を示す具体的な事実はないこと、(d)本件株式売買は信用取引が主となっているが、信用取引は、一般的に投機性が強く、長期間安定した収益を得ることは困難であることなどから、本件株式売買は、事業としての社会的客観性を有しておらず、所得税法第27条第1項に規定する事業所得を生ずべき事業に該当しないものと認められる。したがって、本件株式売買による所得は雑所得となる。
 そうすると、雑所得は、青色申告の承認を受けた所得以外の所得となるから、更正の理由を附記する必要はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 重加算税の賦課決定処分について
 昭和62年分、昭和63年分、平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分は、次のとおり、いずれも適法である。
(イ)原処分庁が調査した結果、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件株式売買に関する所得金額の申告をしていないこと。
B 昭和62年中に行った本件株式売買の回数は、107回、株数合計は2,815,000株であり、本件株式売買による所得金額は185,380,545円であること。
 また、昭和63年中に行った本件株式売買の回数は93回、株数合計は4,148,000株であり、本件株式売買による所得金額は116,471,054円であること。
C 請求人は、昭和62年分及び昭和63年分の確定申告書に添付された財産及び債務の明細書にはいずれも「○×30,000株、株式会社W6,960株、有限会社○◎5,000株、○□1,000株」と記載しているが、実際には、昭和62年末には総株数429,000株を、また、昭和63年末には総株数667,000株をそれぞれ保有していたこと。
D 確定申告書には株式の売買に関する収支計算書を添付していないこと。
E 請求人は、昭和62年9月28日に証券投資顧問業の登録を行い、Wビル3階に「N経済研究所」を開設していること。
F 本件調査において、調査担当職員が請求人に対し、保有されている株式の状況について質問したところ、請求人は、「○×株式会社が30,000株あるだけである」「そんな昔のものを今になってどうするのか、昭和50年から昭和60年にかけては儲けさせてもらった」と述べたこと。
 また、請求人は、調査担当職員に対し、「昔の証券会社の友人が『税務署が調べている期間のものについては、もう時効だから大丈夫だ』と言っている」と述べたこと。
G T証券担当者は、調査担当職員に対し、請求人は株式の知識を相当有していたが、株式の譲渡益についても確定申告をする必要がある旨繰り返し指導していた旨説明していること。
H 請求人は、本件株式売買に関する資料の保存を全くしておらず、また、調査担当職員にその取引に関する具体的な説明もしなかったこと。
I 請求人は、平成2年分及び3年分の不動産所得の金額の計算上、本件株式取得分支払利息の全額を必要経費として計上していたこと。
J 請求人は、本件調査において、調査担当職員に対し、本件総支払利息に関する帳簿書類及びその明細を一切提示しなかったこと。
(ロ)ところで、国税通則法第68条《重加算税》第1項の規定によれば、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を賦課するとされている。
(ハ)そこで、前記(イ)の各認定事実を上記(ロ)に照らしてみると、次のとおりである。
A 昭和62年分及び昭和63年分の重加算税の各賦課決定処分について
 前記(イ)のとおり、(a)請求人は、株式の売買等についての知識を相当有しており、株式の売買による所得金額を申告しなければならないことを熟知していること、(b)請求人は、株式の保有の状況について虚偽の内容を記載した財産及び債務の明細書を提出していること、(c)請求人は、本件株式売買による脱漏所得金額が極めて多額であるにもかかわらず、何らそのことの説明等をしなかったことなどの事実を総合すると、請求人が本件株式売買による所得金額を申告する意思を有せず、真実の所得金額を過少にした内容虚偽の申告書を提出した事実を推認することができるので、昭和62年分及び昭和63年分の各更正処分により増加した所得金額については、真実の所得を隠匿し、それが課税対象となることを回避する意図があったと認められ、かかる請求人の行為は、上記(ロ)の隠ぺい、仮装に該当する。
 したがって、国税通則法第68条第1項の規定を適用した昭和62年分及び昭和63年分の重加算税の各賦課決定処分は適法である。
B 平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分について
 前記(イ)のとおり、(a)請求人は、本件総支払利息のうちに本件株式取得分支払利息が含まれていることを熟知し、本件株式取得分支払利息が不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できないことを認識していること、(b)本件総支払利息に関する帳簿書類及びその明細を一切提示しなかったことなどの事実を総合すると、請求人は、土地、建物の取得に係る借入金が多額にあることから、平成2年分及び平成3年分の不動産所得の金額の計算上、本件株式取得分支払利息の全額を必要経費に紛れ込ませた内容虚偽の青色申告決算書を作成し、これに基づき真実の所得金額を過少に記載した申告書を提出した事実を推認することができることから、平成2年分及び平成3年分の更正処分のうち、本件株式取得分支払利息の否認により増加した所得金額については、真実の所得を秘匿し、それが課税対象となることを回避する意図があったと認められ、かかる請求人の行為は、上記(ロ)の隠ぺい、仮装に該当する。
 したがって、国税通則法第68条第1項の規定を適用した平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)所轄庁について

 P税務署長が原処分の処分権限を有し、本件国税の所轄庁たり得るか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年12月26日に住民登録をP住所地からQ住所地に異動したこと。ただし、妻Lほか請求人の家族は、P住所地に長年居住し、P住所地から住民登録を異動していないこと。
(ロ)請求人は、C市D町において、居酒屋「△△」を個人経営するとともに、株式会社Wの代表取締役であること。
(ハ)本件延長申請書は、平成7年2月27日にQ税務署長へ提出され、受理されたこと。
 また、本件延長申請書の左上部余白欄には、「P税務署から転入」と記載されていること。
(ニ)本件異動届出書は、平成7年4月10日にQ税務署長へ、同年5月29日にP税務署長へ、それぞれ提出され、受理されたこと。
ロ 当審判所が株式会社Wの商業登記簿謄本及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、P住所地に土地及び建物を所有するほか、P住所地と同一町内に不動産を数筆、Q住所地にWビル及びZ市に不動産を数筆所有していること。
(ロ)株式会社Wの商業登記簿謄本によれば、株式会社Wは、C市D町2丁目17番に本店を置き、盗難火災等の探知機製造販売及び宣伝広告用合成樹脂製品の販売等を目的とする法人であり、同社の代表取締役である請求人の住所は、P住所地である旨登記されており、本件移転以後、原処分が行われた時点において、その登記事項に変更はないこと。
(ハ)請求人は、本件移転以後、原処分が行われた時点において、郵便物の配達先に関して、郵便局に転居届を提出していないこと。
(ニ)調査担当職員は、本件調査に際し、請求人の事業所、P住所地又はP税務署内において、平成6年10月31日から、同年11月1日、同月10日、同月11日、同月16日、同月24日及び同年12月14日並びに平成7年2月8日及び同月20日までの計9回にわたり請求人と面談したこと。
 また、K税理士は、本件調査に立ち会ったほか、調査担当職員とP税務署内で面談し、又は、電話で数回の連絡を取り合っていたこと。
(ホ)請求人は、平成7年1月26日の午前10時からP住所地において行われた妻Lに対する税務調査にK税理士とともに立ち会ったこと。その際、請求人は、当該調査を担当したP税務署の職員に対して、請求人がたまたま大阪に出張しているときに阪神・淡路大震災に遭い被害を受け、平成6年分の確定申告を大阪でしようと考えている旨を告げたこと。
(ヘ)K税理士は、平成7年1月26日の午後に、P税務署内において調査担当職員から上記(ホ)の内容を確認されたのに対して、請求人は大阪に行くかもしれない旨告げたこと。
(ト)調査担当職員は、原処分時までに、本件移転の前後における請求人の各種資産の所有状況及びその所在、請求人及び家族の居住状況、請求人の各種事業の状況等を調査していたこと。
(チ)上記(ト)の調査の結果、調査担当職員は、請求人の住民登録がQ住所地に異動している以外に、本件移転の前後において、請求人に格別の状況変化があったとは確認できなかったこと。
(リ)調査担当職員は、納税地の異動に関する届出書が提出されているか否かについて、平成7年2月24日にQ税務署に照会し、それが未提出である旨を確認したこと。
(ヌ)Q税務署は、請求人から本件延長申請書が提出された日の2日後の平成7年3月1日午前9時に、本件延長申請書の提出があった旨をP税務署に連絡したこと。
ハ 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)請求人は、自己が所有しているWビルのテナントを募集するほか、自己が代表取締役を務めている株式会社Wの業績改善を目的として自ら陣頭指導に立って販売外交員を募集し、顧客を確保するために、Q住所地に移転をした。
(ロ)平成6年12月26日に住民登録をQ住所地に異動するまでは、株式会社Wの販売外交員募集のため、大阪へは月1、2回、1週間程度出張していた。
(ハ)平成6年12月26日以降平成7年1月17日の阪神・淡路大震災に遭うまでは、正月の2日間を除いて、ほとんど大阪に居住し、株式会社Wの販売外交員の募集をしていた。
(ニ)平成7年1月17日以降は、Wビルの水道、電気が止まったが、電気は2日後、水道は10日くらい後に復旧し、後片付けのため約半月を大阪で過ごしていた。
 その後は、株式会社Wの販売外交員の募集のため、月に1回以上、1回につき1週間程度の間、大阪にいる。
(ホ)Wビルは、請求人が所有する7階建てのビルで、1階から6階までは貸事務所・貸店舗として利用し、7階部分に請求人が居住している。
ニ 請求人が当審判所に提出した平成7年12月19日付及び平成8年4月20日付のK税理士の陳述書には、次のとおり記載されている。
(イ)平成6年11月24日に、請求人が調査担当職員に対し、大阪の生活の方が大きい割合を占めているので、大阪に住所を移したい旨話しているのを聞いた。
(ロ)平成6年12月14日に、P税務署に赴いた際、調査担当職員から本当に住所を他に移すのかと問われたので、請求人がそう言っているのだから、多分、移すのではないかと答えた。
(ハ)平成7年1月26日に、調査担当職員に対し、請求人が住所をQ住所地に移転し、住民登録も異動している旨を説明した。
ホ ところで、更正及び賦課決定については、国税通則法第30条第1項及び同法第33条《賦課決定の所轄庁》第1項の規定により、これらの処分をする際における国税の納税地を所轄する税務署長がこれらの処分権限を有することになるから、課税期間が開始した以後に所得税の納税地に異動があった場合には、原則として、異動後の納税地を所轄する税務署長が所得税の更正及び加算税の賦課決定をする処分権限を有することになる。ただし、異動前の納税地を所轄する税務署長において、その異動の事実が知れず、かつ、その知れないことにつきやむを得ない事情があるときは、国税通則法第30条第2項及び同法第33条第2項第1号の規定により、その異動前の納税地を所轄する税務署長がこれらの処分権限を有することとされている。
 そして、この所得税の納税地に異動があった場合には、納税義務者は、所得税法第20条第1項及び所得税法施行令第57条《納税地の異動の届出》の規定により、遅滞なく異動前の納税地の所轄税務署長及び異動後の納税地の所轄税務署長に書面をもって届け出なければならないこととされている。このように所得税の納税地の異動に当たり納税義務者に書面による届出が義務付けられているのは、納税地が所得税に関する納税義務者と国との間の法律関係の結び付きを決定する重要な地域概念であることに加え、そもそも、税務署長は、多数の納税義務者を相手方として課税を行う関係上、納税義務者からの届出があって初めて納税地に異動があったことを知ることができるものであるから、その異動の状況を的確に把握するとともに、じ後の円滑な事務処理を図る必要があることに基づくものであると解される。
 なお、上記の異動後の納税地が納税義務者の所得の状況からみて不適当であると認められる場合には、所得税法第18条《納税地の指定》第1項の規定により、所轄国税局長又は国税庁長官は、その所得税の納税地を指定することができるとされている。
ヘ 以上のことからすると、所得税の納税地は、後日に所得税法第18条第1項の規定に基づく納税地の指定がされない限り、納税地の異動に関する届出書が提出されることによって異動するものであるところ、その届出書が提出されていない場合には、異動前の納税地を所轄する税務署長は、特段の事情のない限り、その異動の事実を知ることはできないのであるから、このような場合には、異動前の納税地を管轄する税務署長において、国税通則法第30条第2項及び同法第33条第2項に規定する「異動の事実が知れないことにつきやむを得ない事情がある」場合に該当するというべきである。
ト これを本件についてみると、前記イの(ニ)のとおり、本件異動届出書が原処分の行われた後に提出されたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 そうすると、本件異動届出書がQ税務署長及びP税務署長の双方に提出されたときに初めて、本件国税の納税地がP住所地からQ住所地に異動したことが分かるのであって、本件異動届出書が提出されていない時点では、P税務署長は、特段の事情のない限り、その異動の事実を知ることができないのであるから、上記ヘにいう「やむを得ない事情がある」というべきである。
 しかしながら、請求人は、P税務署長が本件国税の納税地の異動の事実を知り得るような事情及び納税地の異動に関する届出書が提出されたことに相当するような事情があった旨、以下のとおり主張するので、検討する。
(イ)請求人は、原処分が行われるまでに本件移転の事実を調査担当職員に対し説明していたから、P税務署長は、納税地の異動の事実を承知していた旨主張するので、検討したところ、次のとおりである。
A 請求人又はK税理士が、いつ、だれに、どの程度具体的に本件移転について説明したかは必ずしも明確でないが、前記ロの(ホ)ないし(リ)及び前記ニのK税理士の陳述書の内容を総合すれば、調査担当職員が原処分の行われるまでに、結果的に本件移転のあったことを知っていたことが認められるから、一応、P税務署長は、原処分を行うまでに本件移転のあったことを承知していたというべきである。
B ところで、所得税の納税地とは、所得税法第15条第1項の規定により、国内に住所を有する納税義務者にあってはその者の住所地とされており、さらに、その住所とは、国税通則法又は所得税法上に具体的な定義はないものの、民法上使用されている住所と同一の意義を有する概念として使用するものと解するのが相当であるから、民法第21条に規定する住所の意義である生活の本拠、すなわち納税義務者の社会生活上の諸問題を処理する拠点となる地をいうものと解するのが相当であって、所得税法の解釈上、各地に住居を有していると認められる納税義務者の生活の本拠がいずれの土地にあると認めるべきかは、単に、住民登録が異動していることやそこに住居があるといったことのみによることなく、納税義務者の資産の所有状況及びその所在、家族の居住状況、夫婦の同居の推認及び職業等の客観的な事実を総合して判定するのが相当であると解される。
C これを本件についてみると、次のとおりである。
(A)前記イの(イ)及びロの(イ)からすれば、請求人は、P住所地に土地、建物を所有し、妻Lほか請求人の家族は、その請求人所有の建物に長年請求人とともに居住し、本件移転の後も、そこに居住していることが認められるから、妻Lは、独立して生計を立てられる事業を営んでいるとしても、P住所地に住民登録を置き、そこを生活の拠点としていることが認められる。
(B)前記ロの(ロ)からすれば、株式会社Wの本店所在地は、C市に所在するのであるから、Q住所地は同社の営業拠点であることが認められる。
(C)前記イの(ロ)及びロの(ロ)からすれば、請求人は、居酒屋を個人経営しており、また、株式会社Wの代表取締役であるところ、同社の商業登記簿に登記されている請求人の住所に異動のないことが現に認められる上、仮に居酒屋を使用人に任せていたとしても、一般的には、これらの業務の遂行に当たり、請求人はP住所地に居住することを必要とするものということができる。
(D)前記ハの請求人の答述からすれば、請求人がQ住所地に滞在していた目的は、テナント募集や販売外交員の募集など専ら請求人の事業改善やその拡張のためにあったものと認められる。
D 以上のことからすれば、請求人が住民登録を異動したことは認められるものの、請求人はP住所地に多数の資産を保有し、そこに請求人の家族が居住しており、夫婦は特段の事情のない限り同居しているものと推認できる上、請求人の職業及びQ住所地での滞在目的等を総合すれば、原処分が行われた時点において、Q住所地は単なる業務遂行の場所にすぎないというべきであって、さらに、前記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、代表取締役たる請求人の住所について商業登記簿の変更登記をせず、郵便局に転居届を提出していないことも考え併せれば、Q住所地は社会生活上の諸問題を処理する拠点となる地とはいえず、請求人の生活の本拠はP住所地にあったというべきであるから、本件異動届出書が提出されていない時点における本件移転は単なる住民登録の異動にすぎず、これによって、本件国税の納税地が異動したとはいえないことになる。
E また、前記ロの(ト)及び(チ)のとおり、調査担当職員が請求人の資産の所有状況及びその所在、家族の居住状況、請求人の各種事業の状況等の客観的な事実を担当の努力をもって調査した結果、請求人の住民登録の異動以外に格別な状況変化を確認できなかったことが認められるところ、前記ロの(ニ)のとおり、本件調査は平成6年10月31日から始まっているのであるから、仮に平成6年11月24日に本件移転の説明がされていたとしても、それまで既に請求人は調査担当職員とは5回面談し、約1月近くの期間を経過しており、現に請求人が住民登録を異動したのは、前記イの(イ)のとおりそれから約1月後の平成6年12月26日であることが認められる。
F そうすると、P税務署長が本件移転のあったことを承知していたとしても、請求人から本件異動届出書が提出されていない時点における本件移転は、単なる住民登録の異動にすぎないと認められる上、本件調査が継続し相当の期間を経ている状況において、請求人は本件移転の後も本件調査に応じていることなどを総合して考えると、P税務署長が本件調査の着手後約3か月を経過して行われた請求人の住民登録の異動のみをもって、本件国税の納税地に異動があったとみなかったことに不相当な点はない。
G したがって、P税務署長が本件国税の納税地の異動の事実を知り得るような特段の事情があったとは認められないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)請求人は、P税務署長が原処分を行うまでに既に本件移転のあったことを承知していたのであれば、納税地の異動に関する届出書の提出方を指導すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)で認定したとおり、P税務署長が本件移転のあったことを承知していたことは認められるものの、本件調査が着手され相当の期間を経て継続している状況において、請求人が住所地を変更しなければならない格別の事情は認められず、現に請求人は、本件移転の後も本件調査に応じているのである。さらに、税理士法第1条《税理士の使命》及び同法第2条《税理士の業務》の規定により、税理士は、税務に関する専門家であって、納税者の求めに応じて税務代理、税務書類の作成等の事務を行うことを業とするものであるところ、請求人は、本件調査において、K税理士を代理人として委任しているのであるから、これらのことを考え併せると、調査担当職員があえて請求人に納税地の異動に関する届出書の提出方を指導すべき必要性があったとは認められず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)請求人は、原処分が行われた前日に、本件延長申請書をQ税務署長へ提出した際、同署の職員から「P税務署へは当署から連絡しておくから、納税地異動届は提出しなくてもよい」旨口頭により指導を受け、また、当該職員は、本件延長申請書の左上欄に「P税務署から転入」と記載しているから、本件延長申請書を納税地の異動に関する届出書として取り扱うべきである旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
A 請求人と応対したQ税務署の職員が口頭により指導したとする内容については、これを明らかにする証拠はなく、また、本件延長申請書は、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》の規定に基づくものであって、納税地の異動に関する届出書とは法令の規定及びその目的を異にするものであるから、両者を同一視することはできないが、前記イの(ハ)のとおり、本件延長申請書は「P税務署から転入」と記載された上、平成7年2月27日に受理されていることが認められる。
B そうすると、Q税務署において応対した職員が仮に備忘として本件延長申請書に「P税務署から転入」と記載したものであったとしても、前記イの(ハ)のとおりそれが記載された本件延長申請書が受理されたことをもって、請求人が納税地の異動に関する届出が併せてできたものと理解したことに不相当な点はない。
C しかしながら、本件延長申請書がQ税務署長に提出された日は、原処分が行われた前日の平成7年2月27日であるものの、前記イの(ニ)並びに前記ロの(リ)及び(ヌ)のとおり、原処分が行われた時点においてP税務署長には請求人から納税地の異動に関する届出書が提出されておらず、また、Q税務署は、本件延長申請書を受理した後、速やかに本件延長申請書の提出があった旨をP税務署に連絡しており、その日が平成7年3月1日であるから、本件延長申請書を納税地の異動に関する届出書として取り扱い、Q税務署長がその事実を承知していても、P税務署長は、いずれにしても、原処分を行った時点において本件国税の納税地の異動を知り得なかったことになる。
D したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
チ 以上のとおり、本件異動届出書の提出によって後日に所得税の納税地は異動するとしても、原処分が行われた時点において、本件異動届出書の提出はなく、本件異動届出書が提出されたと認められるような事情もなく、又は、本件異動届出書の提出のない時点における本件移転は、生活の本拠の移転を伴わない単なる住民登録の異動にすぎないものであることが認められるから、いずれにしても、本件国税の納税地に異動はなかったとするのが相当である。
 したがって、本件国税の所轄庁はP税務署長であって、処分権限を有するP税務署長が行った原処分は適法である。

トップに戻る

(2)書類の送達について

 本件通知書の送達の効力について争いがあるので、以下審理する。
イ かっぽう○○の店舗が妻Lの事業所であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ 当審判所が請求人の提出書類及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)調査担当職員が平成7年2月28日に本件通知書を請求人に送達すべくP住所地に赴いた際、請求人は不在であったこと。
(ロ)本件通知書に係る送達記録書によれば、本件通知書は、平成7年2月28日午後1時53分に妻Lの経営するかっぽう○○の店舗において、次男Mに交付送達された旨記載されており、次男Mが署名、押印をしていること。
(ハ)次男Mは、本件通知書を受領した時点において、成人に達していたこと。
(ニ)不動産登記簿謄本によれば、P住所地に所在する土地及び建物は、請求人の所有名義で登記されていること。また、かっぽう○○の店舗は、P市R町615番3に所在し、同所の土地は、請求人の所有名義で登記されていること。
(ホ)請求人が当審判所に提出したP住所地付近の略図によれば、かっぽう○○の店舗は、P住所地と同一の道路に面し、約100メートル離れていること。
(ヘ)請求人が異議申立書及び審査請求書の「原処分の通知を受けた年月日」欄に記載した日付は、いずれも平成7年2月28日となっていること。
ハ 請求人が当審判所に提出した次男Mの陳述書には、次男Mがかっぽう○○の調理場で仕事をしているときに、P税務署の者と称する2人の男性が「これをAさん(請求人)に渡してください」と言って、内容の説明をせず、書類のようなものが入っている大きな封筒を手渡し、拒否できないような言動でサインさせた旨記載されている。
ニ 請求人は、当審判所に対し、請求人がQ住所地からP住所地に帰ったときに妻から本件通知書を受け取り、その内容を確認したが、その際、次男Mが「昨日の午後、P税務署の人が来てこれを置いて行きました」と言っていたので、本件通知書を受領した日は平成7年3月1日に間違いない旨答述している。
ホ ところで、前記ロの(イ)及び(ロ)からすると、調査担当職員は、P住所地に請求人が不在であったことに伴い、次男Mへ本件通知書を交付したものであるから、本件通知書の送達は、交付送達の形式でなされたことが認められるところ、国税通則法第12条第4項及び同条第5項によれば、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長の発する書類を交付送達の方法により送達するときには、送達すべき場所において、その送達を受けるべき者に交付して行うこととされているが、送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者に出会わない場合には、同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる旨規定されており、また、その送達すべき場所とは、同条第1項によりその送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)とする旨規定されている。
ヘ 上記の規定に照らし、検討したところ次のとおりである。
(イ)請求人は、本件通知書が請求人又は在宅していた妻Lではなく、次男Mに書類の説明もされずに預けられたものである旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のトの(イ)のDで認定したことに加え、前記ロの(ハ)及び前記ニの請求人の答述からすれば、請求人は、P住所地において妻L及び次男Mら家族と同居していたことが推認でき、また、本件通知書を預かった次男Mは、書類の受領について相当のわきまえを有する者であると解される。そうすると、書類を交付送達するに当たって、書類の送達を受けるべき者に出会わない場合には、同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付すれば足りるのであり、その同居の者の間に優先順位はなく、また、書類を預かった同居の者がその預かった書類の具体的内容を承知しておく必要もないのであるから、調査担当職員が妻Lではなく次男Mに本件通知書を交付し、また、その交付の際、仮に前記ハの次男Mの陳述書に記載のとおりの事情があったとしても、そのことによって本件通知書の送達の効力が左右されることはない。
(ロ)請求人は、本件通知書の送達場所が妻Lの店舗であるから、本件通知書の送達は通行中の家族に書類を預けたことと同様であって、この送達の方法が国税通則法の規定に違反することは明らかである旨主張する。
 確かに、本件通知書の送達場所についてみると、前記イのとおり、かっぽう○○の店舗が妻Lの事業所であることが認められるから、その限りにおいては本件通知書の交付送達は、上記ホの規定に抵触するという意味において違法である。
 しかしながら、国税通則法において送達に関する規定を設けた趣旨は、国税に関する税務署長の発する書類が、名あて人のもとに確実に、かつ、速やかに送達され、その送達によりじ後の手続が適正に進行することを確保することにあるものであって、その書類が社会通念上送達を受けるべき者の支配下に入ったと認められる時、すなわち、書類の名あて人がその書類を了知し得る状態にあった時に、書類送達の効力が生ずるものと解されるところ、前記ロの(ロ)及び(ヘ)並びに前記ニの請求人の答述のとおり、次男Mは本件通知書を平成7年2月28日に受け取っていること、また、請求人は、平成7年3月1日に本件通知書を受領した旨答述しており、現に異議申立書及び審査請求書の「原処分の通知を受けた年月日」欄に平成7年2月28日と記載し、原処分に対する所定の不服申立手続を採っていることが認められるのであるから、調査担当職員が次男Mに交付した本件通知書は、請求人のもとに確実に、かつ、速やかに送達されたことが認められる。さらに、前記ロの(ニ)及び(ホ)のとおり、かっぽう○○の店舗は、妻Lが請求人と同居しているP住所地と同じ町内のすぐ近くに所在する店舗であり、その敷地は請求人の所有名義の土地であることが認められるから、通行中の家族に書類を預けることとは本質を異にするものである。
 そうすると、かっぽう○○の店舗が妻Lの事業所であるとしても、その瑕疵は極めて軽微なものにとどまるものであって、本件通知書の送達の効力に影響を及ぼすものではなく、まして原処分の取消事由とはなし難いものである。
ト 以上のとおり、本件通知書の送達の瑕疵をもって、原処分の取消しを求めることはできないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

トップに戻る

(3)調査手続について

 請求人は、調査担当職員が本件調査に当たって何らの説明をせず、また、弁明の機会すら与えず、一方的に原処分を行ったものであるから、本件調査は違法、不当であり、その違法、不当な本件調査に基づく原処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、所得税の調査に当たり、納税者に対して事前の通知をすること、具体的な調査理由を開示すること又は調査経過や調査結果を説明の上請求人に弁明の機会を与えることを定めた法令の規定はないから、調査担当職員がこれらのことをしなかったとしても、そのことにより、本件調査が違法となるものではない。
 もとより、課税処分は、課税標準の存在を根拠としてされるものであって、その適否は原則として客観的な課税要件の存否によって決せられるべきものであるから、調査の手続に何らかの違法、不当があったとしても、それが、公序良俗に違反する方法で課税処分の基礎となる資料を収集したなどの重大なものでない限り、課税処分の取消しの理由とはならないものと解される。
 また、前記(1)のロの(ニ)のとおり、調査担当職員は、請求人及びK税理士と相当の回数に及んで面談等をしていることが認められるから、請求人又はK税理士は、その面談等を通じて弁明する機会があったものと認められる。
 そうすると、K税理士の陳述書に記載の内容の真偽を検討するまでもなく、調査担当職員による質問検査の過程に、原処分の取消理由となるような違法、不当があったとはいえないこととなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(4)更正の理由附記について

 請求人は、昭和63年分以降青色申告者であり、本件株式売買による所得は事業所得であるとするのが相当であるから、本件株式売買による所得に関して更正の理由を附記していない昭和63年分の更正処分は無効である旨主張する。
 ところで、白色申告書に係る更正処分については、更正の理由を附記すべき旨を定めた規定はなく、また、青色申告書を提出した者に対する更正処分であっても、青色申告の承認があった所得以外の所得について更正する場合には、白色申告書に係る更正処分と同様に扱えば足り理由附記を要しないものと解するのが相当である。しかしながら、更正に係る所得が青色申告の承認を受けた所得であるにもかかわらず、これを他の所得として更正し、これに理由を附記しなかったときは、更正の理由附記を欠くものとしてその更正処分の効力を争うことができるから、昭和63年分の本件株式売買による所得が事業所得となるか雑所得となるかについて、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、昭和63年分以降の所得税につき青色申告の承認を受け、昭和63年分の所得税について青色申告の確定申告書を提出したこと。
(ロ)P税務署長は、昭和63年分に係る更正通知書に、本件株式売買による所得に係る更正の部分につき、その理由を附記しなかったこと。
(ハ)請求人は、昭和62年9月28日に証券投資顧問業の登録を行い、証券投資顧問を業とするN経済研究所を開設していること。
ロ 当審判所が原処分関係資料を基に調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件株式売買に係る所得の金額は、昭和62年分が185,380,545円で、その内訳は、現物取引が48,650,880円、信用取引が136,124,943円、信用配当等が604,722円であり、昭和63年分が116,471,054円で、その内訳は、現物取引が38,783,758円、信用取引が75,347,296円、信用配当等が2,340,000円であること。
 また、この売買の回数及び売買した株数合計は、昭和62年中が107回、2,815,000株であり、昭和63年中が93回、4,148,000株であること。
 この回数及び株数合計からすれば、昭和62年分及び昭和63年分の本件株式売買による所得は、いずれも有価証券の譲渡による所得のうち継続的取引から生ずる所得として、所得税法(昭和63年法律第109号による改正前のもの)第9条《非課税所得》第1項第11号イ及び所得税法施行令(昭和62年分については昭和62年政令第356号による改正前のもの、昭和63年分については昭和63年政令第362号による改正前のもの)第26条《有価証券の継続的取引から生ずる所得の範囲》第2項の規定により、非課税所得から除外する所得の要件を満たしていたこと。
(ロ)請求人は、前記(1)のイの(ロ)から生ずる事業、給与収入のほか不動産の貸付け等に係る収入があり、これらの収入に係る昭和62年分及び昭和63年分の各所得の金額は、別表1及び別表2のとおりであること。
(ハ)請求人が提出した昭和62年分ないし平成5年分の確定申告書及び青色申告決算書等には、本件株式売買に係る人的、物的設備の存在を示す記載をしていないこと。
ハ ところで、所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条の規定する事業所得を生ずべき事業に該当するかどうかは、所得税法上明確な規定はなく、一般社会通念に照らして判断することとなり、その判断に際しては、単にその取引の営利性、有償性、継続性及び反復性の有無のみならず、事業としての社会的客観性の有無が必要とされ、そのためには、その者の職業や社会的地位、取引の種類、取引における自己の役割又はそれに費やした精神的、肉体的労力の程度、取引のための人的、物的設備の有無など種々の要素を総合した上、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性をも含めて検討しなければならない。
ニ そこで、これを本件についてみると、前記ロの(イ)によれば、確かに、請求人の主張するとおり、請求人は本件株式売買を反復継続して行っており、それにより多額の所得を得ていることが認められるから、営利性、有償性、反復性及び継続性を具備しているといえる。
 しかしながら、(a)前記(1)のイの(ロ)に前記(1)のハの請求人の答述内容を加えて考えれば、請求人は、居酒屋の個人経営のほか株式会社Wの代表取締役として自ら外交販売員の募集に奔走するなどその職務に専念していると認められること、(b)前記ロの(ロ)からすれば、請求人は、その事業や給与収入のほか不動産貸付けによって請求人の生計の資を十分に満たすに足りる継続して安定した収入を得ていると認められること、
(c)前記ロの(ハ)のとおり、請求人は、本件株式売買を反復継続して行うための人的、物的設備等を有していなかったことが認められ、他にこの認定を覆す証拠はないこと。さらに、(d)一般的に株式の売買取引は、株価の変動によって損失を生ずる危険性が大きく、とりわけ信用取引は取引から一定の期間後にその時点の株価にかかわらず決済をしなければならないため更にその危険性が大きいものであって、株式の売買によって一時的に大きな利益を上げることは可能であるとしても、このような危険性を考えると、投機性の著しいものとみるほかないから、相当程度の期間継続して安定した収益を得ることが見込まれず、株式の売買を生計の主たる手段とするには極めて困難であると考えられるところ、前記ロの(イ)のとおり、本件株式売買は信用取引が主であることなどを総合すれば、本件株式売買が事業としての社会的客観性を有するものとは認め難く、所得税法第27条第1項に規定する事業所得を生ずべき事業に該当しないものと認めるのが相当である。
ホ ところで、前記イの(ハ)のとおり、請求人が証券投資顧問業を登録し、その証券投資顧問を業とするN経済研究所を開設していることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められるところ、請求人は、そのことを本件株式売買による所得が事業所得に該当することの一つの理由として主張するが、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律第2条《定義》第1項及び同条第2項の規定によれば、そもそも証券投資顧問業とは、有価証券の投資を行う顧客に対して投資判断に関する助言を行う営業をいうのであるから、その主張事実を請求人自らが行った本件株式売買の事業性の検討に当たっての判断要素とすることはできない。
ヘ 以上のことから、本件株式売買による所得は雑所得となることから、更正の理由附記は要しないことになる。
ト したがって、前記イの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人が昭和63年以降青色申告者であり、昭和63年分に係る更正通知書に本件株式売買による所得に係る更正の部分につき更正の理由が附記されていない事実が認められても、その本件株式売買による所得は雑所得なのであるから、P税務署長が雑所得に係る更正の部分につきその理由を附記しなかったことは違法ではなく、この点に関する請求人の主張は採用できず、昭和63年分の更正処分は適法である。

トップに戻る

(5)重加算税の賦課決定処分について

 請求人が昭和62年分、昭和63年分、平成2年分及び平成3年分の所得税の申告書の提出に当たり所得金額を過少に申告したことが、重加算税の賦課要件を満たしているか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 当審判所が、請求人がP税務署長に提出した昭和62年分、昭和63年分、平成2年分及び平成3年分の確定申告書及び青色申告決算書(不動産所得用)並びに昭和62年分の修正申告書について調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)昭和62年分及び昭和63年分の確定申告書又は昭和62年分の修正申告書には、いずれも本件株式売買による所得が一切記載されていないこと。
(ロ)昭和62年分及び昭和63年分の確定申告書に添付された財産及び債務の明細書には、いずれも○×30,000株、株式会社W6,960株、有限会社○◎5,000株、○□1,000株と記載されいること。
(ハ)平成2年分及び平成3年分の青色申告決算書(不動産所得用)には、不動産所得の必要経費として、本件総支払利息が平成2年分では26,344,565円、平成3年分では41,298,885円ある旨記載されていること。
(ニ)昭和62年分以降の確定申告書及び青色申告決算書には、いずれも当時の顧問税理士の署名がしてあること。
ロ 当審判所が原処分関係資料を基に調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、昭和51年5月ころから、T証券と株式取引を開始していること。
(ロ)T証券は、顧客に対して、取引したすべての有価証券の売買報告書を送付し、また、税制改正の都度、それに関するパンフレットを交付していること。
(ハ)請求人は、平成元年4月以降、本件株式売買に係る譲渡益について、租税特別措置法第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税》に規定する源泉分離課税(以下「源泉分離課税」という。)を選択し、その後これを取りやめていないこと。
(ニ)請求人は、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律第35条《営業報告書の提出及び縦覧》第1項の規定に従い、N経済研究所の営業報告書を△×財務局へ提出していること。
(ホ)請求人は、昭和62年末には8銘柄、総株数429,000株、昭和63年末には20銘柄、総株数667,000株の株式をそれぞれ保有していたこと。
(ヘ)請求人は、本件調査において、調査担当職員に、事業所得及び不動産所得に係る総勘定元帳等の帳簿書類及び資料を提示したが、本件株式売買に係る売買報告書等の資料については全く保存せず帳簿類も作成していないとして、これらの資料を一切提示せず、本件株式売買に係る所得に関する質問に応じなかったこと。
 また、請求人は、調査担当職員から借入金の使途及び支払利息の明細を求められても、これらの資料を一切提示せず、借入金の支払利息に関する質問に応じなかったこと。
(ト)本件総支払利息のうち、B銀行b支店の財産活用カードローン(以下「本件カードローン」という。)に係る支払利息(以下「本件カードローン利息」という。)の額は、平成2年分が9,931,065円、平成3年分が12,728,654円であること。
 また、請求人は、T証券から株式を取得するに当たり、本件カードローンに係るB銀行b支店振出の保証小切手で支払をしており、昭和61年以降平成3年までの間において、本件カードローンにより年数回程度、1回当たり少ないときで約1千万円、多いときで2億円を借り入れていたこと。
(チ)本件カードローン利息のうち、本件株式取得分支払利息の額は、平成2年分が9,586,159円、平成3年分が9,591,394円であること。
ハ 請求人が当審判所に提出したT証券担当者の陳述書には、T証券担当者は、請求人と税金のことを話題にしたことはなく、また、請求人に所得税の確定申告をするよう指導したこともないから、調査担当職員に対し、請求人にそのような申告指導をしたと回答することはあり得ない旨記載されている。
ニ 請求人は、当審判所に対し、本件株式売買に係る損益について、帳簿は記帳していなかったが、T証券から送付される計算書で把握していた旨答述している。
ホ 請求人の平成2年分及び平成3年分の所得税の申告書を作成した顧問税理士は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
(イ)請求人は、両年分とも3月上旬に、事業所得及び不動産所得に係る入出金伝票及び領収証等の資料を持参し、申告書の作成を依頼してきた。
(ロ)顧問税理士は、上記(イ)の各資料の突合と整理を行い、入出金伝票の内容をコンピューターに入力して総勘定元帳を作成し、それを基に青色申告決算書及び申告書を作成した上、その申告書等の内容について請求人に確認を求めたところ、請求人は、いずれの年分についても不動産所得の必要経費に支払利息が計上漏れとなっているとして、顧問税理士に、B銀行b支店の用紙に記載された支払利息の額を提示してきた。
(ハ)顧問税理士は、支払利息の額を総勘定元帳に計上するとともに、申告書等を手直しして完成した青色申告決算書及び確定申告書を請求人に渡した。
ヘ ところで、国税通則法第68条第1項の規定によれば、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課すこととされている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の秩序を維持するとともに徴税の実を挙げるという行政上の制裁措置である。
 したがって、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、資料の隠匿や架空名義の利用等の積極的な行為が存在したことまで必要とすると解するのは相当ではなく、納税者が申告する必要のあることを認識しながら、真実の所得金額を隠ぺい又は仮装をしようという確定的な意図の下に、把握し得る所得金額の大部分を脱漏し、ことさら過少に記載した内容虚偽の申告書を提出した場合には、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺい又は仮装をし、その隠ぺい又は仮装をしたところに基づき申告書を提出した場合に当たり、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。
ト そこで、前記までの事実及び請求人の答述等を上記に照らし、以下検討する。
(イ)昭和62年分及び昭和63年分の重加算税の各賦課決定処分について
A 請求人は、本件株式売買による所得を申告しなくてもよいものと認識していたものであるから、明確な脱税の意思を有していたものではない旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
(A)一般的に、株式の売買取引においては、利益を得ることがあっても、予測に反した株価の変動によって思わぬ損失をこうむることもあり得るものであるから、株式の売買取引を行っている者は、格別の事情のない限り、その取引によって利益を生じているのか損失に終わっているのかを何らかの方法により把握し、その取引が全体を通じて利益に帰することを当然に期待して取引に携わるのが通例である。とりわけ営利の目的をもって多数回にわたり多額の株式を反復継続して売買取引している経済人は、その取引により得た譲渡益に対する税務上の取扱いを理解していないと真の利益が把握できないことから、上記損益と同様に強い関心を示すものであって、当初から租税回避を意図していない限り、当該譲渡益についての課税要件を十分認識しているか、又はその認識を欠いている場合であっても、いかなる課税要件があるのか否かについて、何らかの方法により確認しているものであることは、経験則上明らかである。
(B)これを本件についてみると、請求人は、前記ロの(ロ)及び前記ニの請求人の答述のとおり、現にT証券から送付された売買報告書等により本件株式売買の損益を把握していたことが認められるところ、前記(1)のイの(ロ)、前記(4)のイの(ハ)及びロの(イ)並びに前記ロの(イ)及び(ニ)のとおり、請求人は、相当以前からT証券を通じて営利の目的をもって多数回にわたり多額の株式を反復継続して本件株式売買を行うとともに、△×財務局に営業報告書を提出し証券投資顧問を業とするN経済研究所を開設しているほか、株式会社Wの代表取締役等を務めるなど、単に株式の売買取引に精通していると認められるだけでなく、経済人として相当の社会的活動をしていることが認められ、さらに、前記イの(ニ)のとおり、顧問税理士に委託して毎年確定申告をしていることが認められる。
(C)そうすると、前記(A)の経験則に照らせば、請求人が本件株式売買による所得を申告しなくてもよいものと認識していたとは到底考えられず、請求人は、株式の売買取引による所得に係る課税要件はもとより、本件株式売買による所得がその課税要件を充足していることについても十分知っていたものと推認でき、全資料を総合しても、この推認を覆すに足りる格別の事情は認められない。
(D)したがって、請求人及び原処分庁の双方に争いのある本件調査における請求人及びT証券担当者の供述内容並びに前記ハのT証券担当者の陳述書の内容について、その真偽を検討するまでもなく、請求人は、本件株式売買による所得金額を十分に把握できる状況にあり、本件株式売買による所得が課税要件を充足していることも認識していたと認められるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
B 請求人は、株式取引については、証券会社の顧客勘定元帳を調査することにより、その内容を極めて簡単に把握することができるものであるところ、請求人は、本件株式売買のすべてを実名で行っており、帳簿書類等の記録につき事実の確認を妨げるような行為や何らかの偽計その他の外形的工作行為も行っていない旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
(A)前記(4)のロの(イ)及び前記イの(イ)からすれば、請求人は、昭和62年分及び昭和63年分の確定申告及びその後の修正申告に際して、本件株式売買による所得の全部を除外し、その除外した所得金額は約1億2千万円から1億9千万円に及んでいることが認められる。
 また一方で、前記イの(ロ)及びロの(ホ)のとおり、請求人は、昭和62年末で429,000株、昭和63年末で667,000株の株式をそれぞれ保有していたにもかかわらず、いずれの年も保有株式を42,960株と過少に記載した財産及び債務の明細書を提出し、さらに、前記ロの(ヘ)のとおり、請求人は、本件調査において、本件株式売買に係る資料を保存していないとして一切提示せず、調査に協力しようとしなかったことが認められる。
(B)そうすると、前記Aの(D)で判断したとおり、請求人は、本件株式売買による所得金額を十分把握できる状況にあり、本件株式売買による所得が課税要件を充足していると認識していたにもかかわらず、上記(A)のとおり、2年間にわたり極めて多額に及ぶ本件株式売買による所得を作為的に一切記載しない内容虚偽の申告書を提出し続け、また、保有株式を過少に記載した内容虚偽の財産及び債務の明細書を提出して本件株式売買に対する税務調査の端緒を得難くするなどの対応をして、当初から本件株式売買による所得の申告意思を有せず、真実の所得金額を過少に申告することを意図した上、さらに、申告後の本件調査においても資料を提示しないなど、真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできるだけ貫こうとしたことは明白であり、その意図に基づき請求人が行った行為は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、上記へのとおり、税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき申告書を提出した場合に当たり、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当することはもちろん、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件をも満たすものというべきである。
(C)したがって、請求人が本件株式売買のすべてを実名で行っていたとしても、そのことが、上記(B)の判断の必ずしも妨げとなるものではなく、また、請求人は、本件株式売買による所得の申告意思を有していなかったことから、本件株式売買に係る売買報告書等の資料の保存を全くしなかったことが明らかであるほか、たとえ請求人にその資料の保存義務がなく、T証券に資料が存在し、その内容を極めて簡単に把握できるものであるからといって、請求人自身が資料を全く保存、提示せず、計算しないことを上記(B)の判断と関係のないこととみることはできない。
C 以上のとおり、これらの点に関する請求人の主張はいずれも採用できず、国税通則法第68条第1項の規定に基づき、それに係る部分の税額を基礎としてなされた昭和62年分及び昭和63年分の重加算税の各賦課決定処分は適法である。
 なお、請求人が行った行為は、上記Bの(B)のとおり、国税通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するものであるから、昭和62年分及び昭和63年分の各更正処分は、同条に規定する更正の期間制限に抵触することはなく適法である。
(ロ)平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分について
 請求人は、本件総支払利息の中に本件株式取得分支払利息があん分されずに含まれているといった単純な誤りだけをもって重加算税の対象とすることが、隠ぺい又は仮装をその賦課要件とする法律の規定を拡大解釈したものであり許されない旨主張するので、検討したところ次のとおりである。
A 株式の売買取引に係る譲渡益については、所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年法律第109号)により所得税法及び租税特別措置法が大きく改正され、その改正後の租税特別措置法第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項の規定によれば、平成元年4月1日以降に行う株式等の譲渡による所得については、確定申告を通じ、他の所得と分離して20パーセントの税率により所得税を課するとされ(以下、この規定による課税方式を「申告分離課税」という。)、また、同法第37条の11第1項ないし第5項の規定によれば、平成元年4月1日以降に証券業者等に委託して又は証券業者に対し行う上場株式等の譲渡による所得については、源泉分離課税の適用を受ける旨の申告書(以下「選択申告書」という。)を提出した場合には、申告分離課税に代えて、その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額(原則として譲渡代金の5パーセント相当額)に対し20パーセントの税率による源泉徴収だけで納税が完結することとされた。
 以上の規定からすれば、申告分離課税と源泉分離課税とでは課税方法が全く異なっているから、源泉分離課税を選択した者は、そのいずれの方式を採るべきかについて比較検討を加えた上で、あえて選択申告書を提出した者といえるのであるから、源泉分離課税がいかなるものであるか十分承知していたものとみるのが相当である。
B これを本件についてみると、上記(イ)のAの(B)で認定したとおり、請求人は、単に株式の売買取引に精通しているだけでなく、経済人として相当の社会的活動をしていることが認められる上、前記ロの(ハ)のとおり、請求人は、平成元年4月以降、本件株式売買による所得について源泉分離課税を選択しているのであるから、源泉分離課税を選択した場合には源泉徴収のみで納税が完結すること、すなわち株式の取得に要した費用は一切必要経費とすることができないことを十分に認識していたとみるのが相当である。
C 一方、前記ロの(ト)のとおり、請求人は、本件カードローンに係るB銀行b支店振出の保証小切手をもって、年に数回程度、T証券へ多額の株式の取得代金を支払っており、また、前記ロの(チ)からすれば、本件カードローン利息に占める本件株式取得分支払利息の割合は、平成2年分が96.5パーセント、平成3年分が75.4パーセントであることが認められるから、本件カードローンによる借入金で株を取得していたこと及び本件カードローン利息の大部分が本件株式取得分支払利息であったことは容易に判明することであって、さらに、これらのことからすれば、本件株式取得分支払利息の額も容易に計算できるから、請求人は、その額を十分把握し得る状況にあったとするのが相当である。
D また、前記ホの顧問税理士の答述によれば、請求人は、必要経費に支払利息が計上漏れになっていることを理由に、同税理士に、B銀行b支店の用紙に記載された支払利息の額を提示し、その支払利息の全額を不動産所得に係る必要経費であるとして総勘定元帳に書き加えさせ、その総勘定元帳に基づき平成2年分及び平成3年分の青色申告決算書等を作成させたことが認められるところ、当該青色申告決算書に記載された支払利息は、前記イの(ハ)のとおり、本件総支払利息であることが認められる。
E そうすると、請求人は、所得税の青色申告者であるから、その青色申告の承認を受けた所得である不動産所得について、正規の簿記の原則にのっとり正当な支払利息を計上すべきにもかかわらず、上記Dのとおり、不動産所得に係る必要経費とならない本件株式取得分支払利息が含まれた本件カードローン利息の全額を本件総支払利息に含め、必要経費として総勘定元帳に書き加えさせたことになり、そのことは、事実をわい曲して仮装したものというべきであって、請求人は、その仮装した総勘定元帳に基づき作成された平成2年分及び平成3年分の青色申告決算書(不動産所得用)及び申告書を提出したことが認められるほか、申告後の本件調査においても、前記ロの(ヘ)のとおり、借入金の支払利息に係る資料を一切提示せず、調査に協力しなかったことが認められる。
F 以上のことからすれば、前記B及びCのとおり、請求人は、株式の取得に要した借入金の支払利息、すなわち本件株式取得分支払利息を一切必要経費とすることができないことを十分に認識し、本件カードローン利息のうちに本件株式取得分支払利息が相当含まれていたことも当然に承知し、かつ、本件株式取得分支払利息の額を十分把握し得る状況にありながら、前記D及び上記Eのとおり、本来なら請求人は、当然、正規の簿記の原則にのっとり正当な支払利息を計上すべきところ、多額の本件株式取得分支払利息があることを奇貨として、故意にその多額の本件株式取得分支払利息の全額を必要経費であるかのごとく仮装して総勘定元帳に紛れ込ませ、その仮装した総勘定元帳に基づき作成した内容虚偽の青色申告計算書(不動産所得用)及び申告書を提出し続け、さらに、申告後の本件調査においても、必要経費の仮装が露見することを恐れて資料を提示しないなどの態度、行動をとったことは明白であるから、その意図に基づき請求人が行った仮装の行為は、単なる会計処理上の誤りなどとみることはできず、税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき申告書を提出した場合に当たり、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。
G したがって、この点に関する請求人の主張は採用できず、国税通則法第68条第1項の規定に基づき、それに係る部分の税額を基礎としてなされた平成2年分及び平成3年分の重加算税の各賦課決定処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る