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(平9.5.27裁決、裁決事例集No.53 49頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、木材卸売業を営む法人であるが、平成6年4月1日から平成7年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定によって控除される消費税額(以下「仕入控除税額」という。)の計算に当たり、同条第2項第1号又は第2号に規定する計算方法(以下、これら計算方法を併せて「仕入税額控除方式」という。)のうち第2号に規定する計算方法(以下「一括比例配分方式」という。)を適用して計算し、別表の「確定申告」欄のとおり記載した消費税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、平成7年6月5日に、本件申告書において仕入税額控除方式の選択を間違ったとして、消費税法第30条第2項第1号に規定する計算方法(以下「個別対応方式」という。)によって仕入控除税額を計算し、別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成7年8月31日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成7年9月6日に別表の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年12月4日付で別表の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件通知処分について
(イ)請求人は、本件課税期間の消費税の確定申告をするに当たり、仕入控除税額を一括比例配分方式によって計算し、これに基づいて本件申告書を原処分庁に提出した。
(ロ)しかし、本件申告書は、請求人の関与税理士であるG公認会計士(以下「G」という。)によって、仕入控除税額が請求人の意思である個別対応方式に反して一括比例配分方式によって計算され、原処分庁に提出されたものであり、この誤りに気付いた請求人は、個別対応方式によって仕入控除税額を再計算し、本件更正の請求をした。
(ハ)原処分庁は、これに対し、本件更正の請求に理由がないとして本件通知処分を行った。
(ニ)本件申告書は、個別対応方式を適用すべきところを、Gの単純なミスによって一括比例配分方式を選択適用したことにより、仕入控除税額の計算を誤り、納付すべき税額が過大となったものであるから、原処分庁は、本件更正の請求を認めるべきであり、これを認めなかった本件通知処分を取り消すべきである。
ロ 仕入税額控除方式の選択について
 消費税法第30条第2項に規定する仕入税額控除方式のうち、個別対応方式を選択するか一括比例配分方式を選択するかによって、仕入控除税額が極端に相違することとなるのは、不公平な税法であるといわざるを得ない。

(2)原処分庁の主張

 本件通知処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件通知処分について
(イ)消費税法第30条第2項は、消費税の課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合の消費税の仕入税額控除方式について、個別対応方式と一括比例配分方式の二つに分けて規定しており、同項第1号には、課税期間中に国内において行った課税仕入れについて、(a)課税資産の譲渡等にのみ要するもの、(b)課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの、(c)課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するものとに区分が明らかにされている場合には、個別対応方式を適用しなければならないとされており、同項第2号には、同項第1号で規定されている以外の場合には、一括比例配分方式を適用しなければならないとされている。しかし、同条第4項の規定によって、同条第2項第1号の規定に該当する事業者であっても、個別対応方式に代えて一括比例配分方式を適用することができるとされている。このことから、個別対応方式と一括比例配分方式のどちらを選ぶかは、事業者の選択にゆだねられている。
 ところで、本件申告書における仕入控除税額の計算については、請求人の消費税額等を計算した資料によれば、請求人は、一括比例配分方式を適用して計算を行っている。
(ロ)本件申告書は、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》に規定された事項を記載した申告書であり、適法に法定申告期限内に提出されたものであるから、原処分庁はこれを受理したものである。また、本件申告書は、請求人の消費税導入以来の各課税期間に係る消費税確定申告書と同様に、請求人の署名、押印及び代理人であるGの記名、押印がなされて提出されている。
 よって、本件申告書は、請求人の意思に基づいて提出されたものと判断せざるを得ない。
(ハ)国税通則法第23条《更正の請求》は、更正の請求ができる場合として、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき」と規定している。
 本件申告書における仕入控除税額の計算については、請求人によって、消費税法第30条に従ってなされたものであるから、国税に関する法律の規定に従っていなかったことにはならず、また、当該計算に誤りがないことから、更正の請求ができる理由には該当しない。
(ニ)よって、本件申告書において、一括比例配分方式を適用した仕入控除税額が、個別対応方式によった仕入控除税額より過少であったとしても、国税通則法第23条に規定する更正の請求の理由には該当しないから、本件申告書で選択した一括比例配分方式を更正の請求によって変更することはできない。
ロ 仕入税額控除方式の選択について
 請求人は、消費税法第30条第2項に規定されている個別対応方式又は一括比例配分方式により算出されるそれぞれの仕入控除税額が極端に相違するのは、不公平な税法であるといわざるを得ないと主張するが、同条の規定については、立法政策の問題であり、課税庁の権限の及ぶところではない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件通知処分は適法かつ正当に行われているものである。

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3 判断

(1)本件審査請求の争点は、本件更正の請求に対する本件通知処分の適否にあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、本件申告書を消費税法第45条の規定に従って記載し、法定申告期限までに提出したこと。
(ロ)請求人は、本件申告書の仕入控除税額について、一括比例配分方式を適用して計算したこと。
(ハ)本件申告書は、納税者名等の記載欄及び税理士署名押印欄に、消費税導入以来の各課税期間に係る消費税の確定申告書と同様に法人名、代表者名等の記入及び代表者印の押印並びにGの記名、押印がなされて原処分庁へ提出されていること。
(ニ)本件申告書には、請求人の消費税に関する税務代理及び税務書類の作成等をGに委任する旨の書類(以下「委任状」という。)が添付されていないこと。
ロ 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成7年5月31日時点において、請求人の平成6年4月1日から平成7年3月31日までの事業年度(以下「平成7年3月期」という。)に係る総勘定元帳の未払金勘定には、平成7年3月期の決算整理に伴う振替伝票に基づき、本件申告書に係る納付すべき消費税額16,875,900円が転記されていること。
(ロ)一括比例配分方式を選択適用した本件申告書の仕入控除税額の計算に誤りはなかったこと。
ハ 請求人の代表取締役であるH(以下「H」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)本件申告書には、委任状は添付されていないが、請求人は、消費税申告に関するすべてについてGに委任している。
(ロ)平成7年3月期の決算整理前の仮払消費税勘定残高と仮受消費税勘定残高の差額を見て、消費税は申告によって還付されると思っていた。
 ところが、本件申告書が提出された翌日の平成7年6月1日に、本件申告書の控えを見てその内容を知り、申告内容が間違っているのではないかと思い、Gに確認したところ、G公認会計士事務所(以下「G事務所」という。)の事務員が税務処理を誤ったという回答であった。
ニ Gは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
 本件申告書には、委任状が添付されていないが、このことについては、法的に問題はないと考えており、請求人の消費税申告に関する一切の事務がGに委任されており、税務代理行為等についての責任は、Gにある。
ホ G事務所の事務員であったJは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
 本件申告書の作成を担当したが、本件申告書における仕入控除税額の計算において、一括比例配分方式を選択適用したのは、その方が有利であると考えていたものであり、その理由は、土地の譲渡については消費税が課税されないことから、その譲渡資金で資産を購入したとしても、その購入資産に係る消費税については、個別対応方式を適用した場合には仕入税額控除の対象とならないと思い込んでいたためである。
ヘ ところで、消費税法第30条第2項第1号の規定によれば、消費税の課税期間における課税売上割合が、100分の95に満たない場合の仕入控除税額を計算する方法としては、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物につき、(a)課税資産の譲渡等にのみ要するもの、(b)課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの、(c)課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものとにその区分が明らかにされている場合には個別対応方式を適用しなければならないとされており、同項第2号には、同項第1号で規定されている場合以外の場合には一括比例配分方式を適用しなければならないとされている。しかし、同条第4項の規定によって、同条第2項第1号の規定に該当する事業者であっても、個別対応方式に代えて一括比例配分方式を選択適用することができるとされている。
 したがって、課税事業者が、課税売上割合が100分の95に満たない課税期間における仕入控除税額の計算を行うに当たっては、その課税期間の課税仕入れ等が上記のような形で明らかに区分されている場合には、個別対応方式を選択するか、一括比例配分方式を選択するかの判断は、専ら、当該事業者の判断にゆだねられていると解される。
ト また、国税通則法第23条第1項第1号は、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるときに、更正の請求をすることができる旨規定している。
 すなわち、この規定における更正の請求ができる事由については、納税申告書の提出により確定している納付すべき税額が過大であることのみでは、その事由とはならず、当該過大となったことが、課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと、又は当該計算自体に誤りがあったことに基づいている場合に限定されている。
 したがって、実体法において、納税者に一定事項の申告及び選択等を条件としてその規定の適用を受けることをゆだねている場合においては、いったん自由な意思でこれらの規定に従い、かつ、適法な計算に基づいて申告書を提出し、税額を確定させた場合、後日その一定事項の申告及び選択等の内容を変更することを理由に更正の請求をすることはできないと解される。
チ そこで、本件のように、請求人がいったん一括比例配分方式を選択適用して申告した場合には、仮に、その後において個別対応方式によって計算した仕入控除税額の方が一括比例配分方式によって計算した仕入控除税額を上回り、その結果、消費税の納付すべき税額が少なくなることが判明したとしても、請求人の本件申告書における仕入控除税額は、消費税法第30条の規定に従って誤りなく計算されたものである以上、国税通則法第23条第1項第1号にいう「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律に従っていなかったこと」又は「当該計算に誤りがあったこと」のいずれの要件にも該当せず、したがって、同条に定める更正の請求をすることはできないものというべきである。
リ 請求人は、本件申告書が、仕入控除税額の計算において請求人の意思である個別対応方式を適用すべきところを、Gの単純なミスによって一括比例配分方式を選択適用して計算され、原処分庁に提出されたものであるから、本件通知処分を取り消すべきであると主張する。
 しかしながら、次のいずれの事実によっても、本件申告書は、請求人の意思に基づき適正に提出されたものと認められることから、請求人の主張には理由がない。
(イ)請求人は、本件申告書の作成等をGに委任し、Gは、その委任に基づき、本件申告書を作成し原処分庁に提出したこと。
(ロ)平成7年5月31日に確定した本件申告書に係る納付すべき消費税額16,875,900円については、同日における請求人の総勘定元帳において、未払金として計上されていること。
ヌ また、請求人は、消費税法第30条第2項に規定する仕入税額控除方式のうち、個別対応方式を選択するか一括比例配分方式を選択するかによって、仕入控除税額が極端に相違することとなるのは、不公平な税法であるといわざるを得ない旨主張する。
 しかしながら、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性等を判断することはその権限に属さないことであるので、消費税法第30条の規定自体の適否又は合理性等については、当審判所の審理の限りでない。
 したがって、消費税法第30条の規定が不公平であるとする請求人の主張は、その具体的理由を検討するまでもなく、採用することができない。
ル 以上の結果、本件更正の請求に対する本件通知処分は相当である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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