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(平9.5.15裁決、裁決事例集No.53 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建築業及び不動産業を営む同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、確定申告書に欠損金額を29,800,627円及び納付すべき税額を零円と記載して、平成3年7月19日に申告した。
 次いで、請求人は、○○国税局の職員の調査を受け、本件事業年度の法人税について、所得金額を259,813,924円及び納付すべき税額を167,380,500円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成7年4月25日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、同年5月31日付で重加算税の額を66,952,000円とする賦課決定処分をした。
 次いで、請求人は、平成7年9月22日に本件事業年度の法人税の所得金額を27,417,534円及び納付すべき税額を12,755,371円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成7年12月5日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成7年12月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年3月13日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年4月11日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正の請求は、以下のとおり適法である。
(イ)本件更正の請求に至った経緯は、以下のとおりである。
A 平成5年8月26日に、請求人に対する○○国税局の職員による査察調査(以下「本件査察調査」という。)があり、請求人の関係帳簿書類が差し押さえられた。
B 請求人の代表取締役J(以下「J」という。)は、平成7年3月3日にK地方検察庁に逮捕され、同年5月26日に保釈されるまでの間勾留されていた。
C 上記勾留中に、原処分庁が記入事項を記載した請求人の本件事業年度の法人税に係る修正申告書が勾留場所に届けられ、Jはこれに署名押印して平成7年4月25日に本件修正申告書を原処分庁に提出した。
D K地方裁判所において、刑事公判手続開始後、Jの弁護人(以下「本件弁護人」という。)が押収された帳簿書類等の謄写をK地方検察庁に対し請求したところ、平成7年8月14日及び同月23日に上記帳簿書類等の写しが交付された。
E 本件弁護人は、上記帳簿書類等の写しをJらに示して事情聴取するなどの調査をしたところ、本件修正申告書に係る課税標準等及び税額等に誤りがあると認められたので、平成7年9月22日に本件更正の請求をした。
(ロ)国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第3号は、政令で定めるやむを得ない理由があるときには、法定申告期限から1年を経過したときでも更正の請求ができる旨規定しており、国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》第1項第3号は、上記のやむを得ない理由として「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後、当該事情が消滅したこと」と規定している。
(ハ)本件修正申告書は、Jが勾留され帳簿書類等が押収されていて、これらの記録に基づいて課税標準等又は税額等を計算できない状況の下において、原処分庁の見解に従って提出したものであり、その後、本件弁護人が押収された帳簿書類等の写しを調査した結果、本件修正申告書に係る課税標準等及び税額等に誤りがあることを発見し、請求人もこれを認識したのであるから、通則法施行令第6条第1項第3号に該当するやむを得ない理由があるというべきである。
(ニ)通則法施行令第6条第1項第3号に規定する「その事情が消滅したとき」は、本件審査請求事案の場合、最も早くても、本件弁護人が押収された帳簿書類等の写しの大部分を入手した平成7年8月14日以降であり、本件更正の請求は、同年9月22日にされたのであるから、通則法第23条第2項第3号に規定する「当該理由が生じた日の翌日から起算して2か月以内」にされたものというべきである。
ロ 原処分庁は、以下のとおり通則法第23条第2項第3号の解釈を誤っている。
(イ)原処分庁は、通則法施行令第6条第1項第3号は法定申告期限内に帳簿書類等が押収された場合のみに適用されると解釈しているが、通則法第23条第2項第3号は、法定申告期限後においても政令で定める理由があるときには更正の請求ができることを明記しているのであるから、この点に関する原処分庁の解釈は肯認することができない。
(ロ)原処分庁は、通則法施行令第6条第1項第3号は「納税申告書を提出した者の責めに帰すべきでない事情により」帳簿書類等が押収等により存在しない場合にのみ適用されると解釈しているが、同号に規定する帳簿書類の押収は、やむを得ない事情の具体例として例示されているのであるから、帳簿書類が押収されている場合には、当然にやむを得ない事情に該当するというべきであり、更にそれがやむを得ない事情があった場合でなければならないと解することはできない。
(ハ)帳簿書類等が押収されるのは、納税申告について犯則の疑いが生じた場合であるところ、法定申告期限を徒過する以前に犯則の疑いが生ずることはあり得ず、また、納税申告書を提出した者の責めに帰すべきでない事情により帳簿書類等が押収されることがあるとは認められないから、上記(イ)及び(ロ)の原処分庁の見解に従うとすれば、帳簿書類等が押収された場合における更正の請求が認められる余地はほとんどあり得ないことになり、こうした原処分庁の解釈は、法令の趣旨に反している。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第23条において、更正の請求をすることができる期間が、原則として、提出した納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内と規定されているのは、税法が申告期限を定めて納税者がその期限内に十分な検討をした後、期限内申告を行うことを期待する建前を採っているので、その期限後いつまでもこのような請求を認めることは適当ではなく、また、法律関係の早期安定、税務行政の能率的な運営等の面からも問題があると認められるからである。
 例外として、通則法第23条第2項第3号等の規定があり、これを受けて通則法施行令第6条第1項第3号の規定があるが、これは法定申告期限内において帳簿書類等の押収があった結果、法定申告期限後1年以内に更正の請求ができなくなった場合、法定申告期限後1年以内に更正の請求ができる納税者との公平を維持するため、帳簿書類等の押収という事情が消滅した時点で、その時から2月以内に更正の請求ができるようにしたものと解することができる。
 したがって、法定申告期限後1年を経過した時点以降に帳簿書類の押収その他やむを得ない事情が発生し、その後、その事情が消滅した場合まで、通則法施行令第6条第1項第3号が適用される余地はなく、また、納税申告をする者が逮捕される等の事情についても同様に解するべきである。
ロ 請求人の場合、本件査察調査により請求人の帳簿書類等が差し押さえられたのは、本件事業年度の法人税の法定申告期限後の平成5年8月26日であり、また、Jが逮捕されたのも同日以降であるので、通則法施行令第6条第1項第3号の適用はないというべきである。
ハ 上記イ及びロで述べたとおり、本件修正申告書の提出に対して更正の請求ができないことを明らかにしているので、請求人の主張する通則法施行令第6条第1項第3号に規定する「その後、当該事情が消滅したこと」についての解釈の当否に係る答弁はしない。
 なお、請求人は、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情」が納税申告書を提出した者の責めに帰すべきでない場合に限定される根拠はない旨主張するが、原処分庁は、請求人が請求人に係る本件査察調査を受けたことをもって、納税申告書を提出した者の責めに帰すべき場合に当たるとの認定はしていない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正の請求が通則法第23条第2項第3号に規定する政令で定めるやむを得ない理由があるときに該当するか否かであるので、以下審理する。
(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成5年8月26日に本件査察調査を受け、その際、請求人の帳簿書類を差し押さえられたこと。
ロ Jは、平成7年3月3日にK地方検察庁に逮捕され、同年5月26日に保釈されるまでの間勾留されていたこと。
(2)当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件事業年度の法人税の確定申告書を平成3年7月19日に提出したこと。
ロ 請求人は、平成7年4月25日に本件修正申告書を提出したこと。
ハ 請求人は、平成7年9月22日に本件更正の請求をしたこと。
(3)ところで、通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は法定申告期限から1年以内に限り更正の請求をすることができる旨を定めているのに対し、同条第2項は、法定申告期限から1年を経過した後であっても第1号ないし第3号に該当する一定の後発的理由が生じた場合には、同条第1項の規定にかかわらず、当該後発的理由が生じた日の翌日から2月以内であれば更正の請求ができる旨規定している。
 通則法第23条第2項第3号は、この後発的理由として「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき」と規定しており、これを受けて、通則法施行令第6条第1項第3号はこのやむを得ない理由として、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後、当該事情が消滅したこと」と規定している。
(4)原処分庁は、この通則法施行令第6条第1項第3号について、法定申告期限内において帳簿書類の押収があった結果、法定申告期限後1年以内に更正の請求ができなくなった場合、法定申告期限後1年以内に更正の請求ができる納税者との公平を維持するため、帳簿書類の押収という事情が消滅した時点で、その時から2月以内に更正の請求ができるようにしたものと解することができると主張するが、一般的に、通則法第23条第2項第3号及び同法施行令第6条第1項第3号は納税申告書を提出した者又は同法第25条《決定》による決定を受けた者が、帳簿書類の押収等の事情により、課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後(ただし、納税申告書を提出した者については、同法第23条第1項所定の期間経過後に限る。なお、上記の者による上記期間経過以前の更正の請求は、同項によりすることができる。)、帳簿書類の押収等の事情が消滅した時は、同項の規定にかかわらず、上記事情消滅の時から2月以内に更正の請求をすることができると規定しているのであって、上記規定は、納税申告書を提出した者については、その提出前に帳簿書類の押収等の事情が生じていたことを前提としており、その後(同法第23条第1項所定の期間経過後)、押収されていた帳簿書類の還付等により上記事情が消滅して、帳簿書類等に基づいて課税標準等又は税額等を計算することによって、帳簿書類に基づく計算をすることができなかった当初の申告に係る納付すべき税額が過大であったこと等が初めて判明した場合に、帳簿書類等に基づいて計算した課税標準等又は税額等に従った更正の請求をすることを認めたものであるということができる。
(5)請求人は、本件修正申告書はJが勾留され帳簿書類等が押収されていて、これらの記録に基づいて課税標準等又は税額等を計算できない状況の下で、原処分庁の見解に従って提出したものであり、その後、本件弁護人が押収された帳簿書類等の写しを調査した結果、本件修正申告書に係る課税標準等及び税額等に誤りがあることを発見し、請求人もこれを認識したのであるから、通則法施行令第6条第1項第3号に該当するやむを得ない理由がある旨主張する。
 しかしながら、上記(4)のとおり、期限内又は期限後申告にかかわらず、当初の申告書が提出された場合には、その後に帳簿書類が押収されたとしても、通則法施行令第6条第1項第3号に規定する帳簿書類の押収その他やむを得ない事情に該当しないと解されるところ、上記(2)のイのとおり、請求人が本件事業年度の法人税の確定申告書を提出したのは、平成3年7月19日であり、また、上記(1)のとおり、請求人の帳簿書類等が差し押さえられたのは、更にその後の平成5年8月26日であり、かつ、Jが逮捕されたのも同日以後であるから、これらの事実をもって、通則法施行令第6条第1項第3号に規定する帳簿書類の押収その他やむを得ない事情があったということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)請求人は、本件更正の請求は通則法第23条第2項第3号の期間内になされたものである旨主張する。
 しかしながら、請求人の帳簿書類等が差し押さえられ、その後にJが逮捕されたことが、通則法施行令第6条第1項第3号に規定する帳簿書類の押収その他やむを得ない事情に該当しないことについては、上記(5)のとおりであるから、本件更正の請求が通則法第23条第2項第3号に規定する政令で定めるやむを得ない理由があるときに該当するということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(7)請求人は、原処分庁が通則法第23条第2項第3号の解釈を誤っているから原処分は違法である旨主張するが、本件更正の請求がこの規定に該当しないものであることについては、上記のとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(8)以上の結果、本件更正の請求が通則法第23条第2項第3号に規定する政令で定めるやむを得ない理由があるときに該当する旨の請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件更正の請求について、他に同条同項に該当する事由があるとは認められない。
 また、請求人が本件更正の請求をしたのは本件事業年度の法人税の法定申告期限から1年を経過した後であることは明らかであり、本件更正の請求は、通則法第23条第1項にも該当しないものといわざるを得ない。
 したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
(9)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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