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(平9.3.27裁決、裁決事例集No.53 88頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、金属加工業を営む同族法人であるが、平成7年2月1日から平成8年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告書及び平成7年2月1日から平成8年1月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書(以下、法人税の確定申告書と併せて「本件各申告書」という。)を別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成8年4月2日に申告した。
 原処分庁は、本件各申告書が法定申告期限後に提出されたものであるとして、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、平成8年7月5日付で本件事業年度の法人税及び本件課税期間の消費税の無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成8年7月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年9月11日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年10月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分庁は、請求人が郵送により提出した本件各申告書が、法定申告期限後に提出されたものとして、本件賦課決定処分を行ったが、次の理由により、原処分は違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項のただし書によれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由がある場合には、無申告加算税の賦課はなされない旨規定されている。
 ここでいう正当な理由が、具体的にどのようなものをいうかは法令で明らかではないが、真にやむを得ない理由がある場合が正当な理由として取り扱われていると考える。
ロ 請求人は、本件各申告書をその法定申告期限である平成8年4月1日の午後5時30分過ぎに、P市R町2丁目3番8号の請求人の事務所(以下「事務所」という。)近くにある郵便ポスト(以下「本件ポスト」という。)に投かんし郵送したところ、本件ポストの取り集め業務が翌日となったため、本件各申告書の通信日付が同年4月2日となった。
 しかしながら、郵便ポストと郵便局との位置関係又は距離によっては、本件各申告書を同日、同時刻に他の郵便ポストに投かんした場合、それが投かん日中に取り集められ、通信日付が平成8年4月1日となることも十分にあり得ることであった。
 このように、通信日付は、利用する郵便ポストや郵便局の取り集め業務の状況によって変わる場合も考えられることから、本件各申告書の通信日付が、その法定申告期限後である平成8年4月2日になったことを請求人の責めとすることは酷であり、当該事情は、真にやむを得ない理由がある場合に該当すると認めるのが相当である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 申告納税方式により納付すべき税額を確定することとなる国税について、期限後申告書の提出により、納付すべきものとしてこれに記載した税額がある場合には、通則法第66条第1項の規定により、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課することとされている。
 ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には、この限りでないこととされている。
 ここでいう正当な理由とは、納税者の責めに帰せられない災害等の外的事情による場合など真にやむを得ない理由をいうものであると解されている。
ロ ところで、請求人は、郵送によって送付した本件各申告書の通信日付が平成8年4月2日になったことを請求人の責任とするのは酷であり、真にやむを得ない事情があったためであるとし、当該事情は、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当すると主張するが、そもそも、郵送による納税申告書の提出については、郵便事情等を考慮し、民法上の原則である到達主義の例外として、当該郵便物の通信日付により表示された日にその提出がされたものとみなすと規定されているから、本件各申告書の提出日は、同年4月2日とみなさざるを得ない。
 また、現在の郵便ポストには、取り集め時間が掲示されており、仮に請求人の主張どおりの事情があったとしても、本件各申告書の通信日付が平成8年4月2日になったことについては、請求人に責任があると判断され、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合には該当しない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件各申告書が法定申告期限内に提出されなかったことに通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるか否かにあるので、以下審理する。
(1)本件各申告書の法定申告期限が、平成8年4月1日であるにもかかわらず、郵送により原処分庁に提出され、その通信日付が平成8年4月2日となっていることについては、請求人及び原処分庁双方に争いはなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(2)当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件ポストは、○○郵便局の管轄内にあり、その郵便物の平日の取り集め時間は、午前8時15分頃、同11時55分頃及び午後5時25分頃の3回となっていること。
ロ ○○郵便局の郵便物の平日の窓口引受時間は、午後7時までであり、速達便に限り同8時までとなっていること。
ハ 事務所から本件ポストへの距離と○○郵便局までの距離とは、ほぼ同程度であること。
(3)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
イ 本件各申告書は、請求人の関与税理士であるF税理士、G税理士及び請求人の代表取締役であるX(以下「X」という。)の3名により、平成8年3月29日には作成されていたこと。
ロ 請求人の従業員であるH(以下「H」という。)は、Xから本件各申告書を提出するよう指示を受けていたにもかかわらず、平成8年4月1日が月初め及び週初めのため仕事が集中したこと並びに新入女子社員の入社が重なり忙しかったため提出することを失念し、当日の帰宅途上の午後5時30分過ぎに本件各申告書を本件ポストに投かんしたが、本件ポストに表示されている取り集め時間を確認しなかったこと。
ハ 請求人は法人税及び消費税の確定申告書を、従来、法定申告期限直前に○○郵便局から書留扱いで郵送していたが、本件各申告書も、この方法をとるべきところを失念して通常郵便で郵送したこと。
(4)ところで、通則法第66条第1項には、期限後申告書の提出があった場合は、当該申告書により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すること、ただし正当な理由があると認められる場合はこの限りではない旨規定されている。
 また、通則法第66条第3項には、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該申告書により納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定されている。
 ここでいう、正当な理由があると認められる場合とは、申告の適正を担保し、申告納税制度を確保するための一種の行政上の制裁である無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別な事情、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに帰すことのできない外的事情によるなど、法定申告期限内の提出を不可能にするもので真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当すると解される。
 また、通則法第22条《郵送に係る納税申告書の提出時期》において、納税申告書が郵送により提出された場合には、その通信日付により表示された日にその提出がされたものとみなす旨規定されている。
(5)以上の各事実及び答述を総合して判断すると、次のとおりである。
イ 請求人は、通信日付は利用する郵便ポストや郵便局の取り集め業務の状況によって変わる場合も考えられることから、本件各申告書の通信日付が、その法定申告期限後である平成8年4月2日となったことを請求人の責めとすることは酷であり、当該事情は、真にやむを得ない理由がある場合に該当すると認めるのが相当であると主張する。
 しかしながら、本件各申告書は、平成8年3月29日には作成されており、法定申告期限内に税務署に提出できる状況下にあったにもかかわらず、(a)Xから本件各申告書を提出するよう指示を受けたHが、職務多忙のため提出することを失念していたこと、(b)請求人は、従来どおり、○○郵便局から書留扱いで郵送するべきところを失念して本件ポストに投かんして通常郵便で郵送したが、その際、本件ポストに表示されていた郵便物の取り集め時間を確認しなかったこと、(c)○○郵便局における郵便物の平日の窓口引受時間が午後7時、速達便に限り同8時であること、(d)さらに、請求人が本件各申告書を事務所から距離的に本件ポストと変わらない○○郵便局から郵送することに何の支障もなかったにもかかわらず、本件ポストに投かんして郵送したこと等の状況から判断すると、本件各申告書が期限後申告書となった事情は、請求人が、本件各申告書を提出するに当たり当然払うべき注意義務を怠ったことによって生じたものであると認められ、請求人の責めに帰すことのできない災害等、真にやむを得ない事情があったとは認められない。
ロ したがって、本件各申告書が法定申告期限内に提出されなかったことについて、正当な理由があると認められる場合には該当しないので、請求人の主張には理由がない。
 なお、本件各申告書は、調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものではないから、原処分庁が、無申告加算税の賦課決定処分に当たり通則法第66条第3項の規定を適用したことは相当であり、本件賦課決定処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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