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(平9.5.8裁決、裁決事例集No.53 96頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人G(以下「請求人」という。)は、平成6年10月13日に死亡したH(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書に課税価格を43,634,000円、納付すべき税額を5,464,100円と記載して平成7年11月27日に申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年12月26日付で、無申告加算税の額を819,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成8年2月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月16日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年6月15日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が本件相続税の申告書を申告期限までに提出できなかったのは、次の理由によるものである。
(イ)請求人は、被相続人の相続財産(以下「本件相続財産」という。)の内容を聞くために、被相続人の妻であるJ宅(以下「J宅」という。)を訪れたところ、共同相続人であるJ、K及びL(以下、これら3名を併せて「Jら」という。)は、警察に通報するなどして請求人との話合いに応じなかったため、本件相続財産の内容を知ることができなかった。
 そして、請求人が、本件相続財産の内容を初めて知ったのは、法定申告期限の前日である平成7年6月12日に○○家庭裁判所で行われた第1回の調停の席上で、本件相続税の申告書の写しを交付されたときである。
 したがって、法定申告期限までに申告することは、到底無理な状況であった。
(ロ)請求人は、Jらから示された預貯金の遺産内容が、想定していた金額をかなり下回っており隠匿している疑いがあったので、少ないままで相続税の申告をするのは違法行為になると思い、申告期限前に原処分庁の資産税の担当職員(以下「資産税担当職員」という。)に相談したが、資産税担当職員からは申告についての具体的な説明はなく、申告期限を過ぎて申告した場合に無申告加算税が課される旨の説明も一切なかった。
ロ 以上のとおり、請求人がした本件相続税の申告が期限後申告となったことについては、Jらが本件相続財産の内容を明らかにしなかったこと及び原処分庁の指導不足によるものであり、これは、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当するので、本件賦課決定処分は取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件相続税の法定申告期限は、平成7年6月13日であること。
(ロ)請求人は、平成7年7月20日に資産税担当職員に対し、本件相続税の申告をしていないが、現在相続人間で裁判中であり、Jらが被相続人の預金を隠しているためすべての相続財産が明らかになってから申告する旨申し述べたが、資産税担当職員は、請求人に対し申告する義務がある旨回答したこと。
(ハ)請求人は、平成7年10月25日に原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、係争中のため本件相続税の申告をしていない旨申し述べたが、調査担当職員は、請求人に対し、本件相続財産が未分割の場合には、民法で定める法定相続分で申告期限までに相続税の申告書を提出する義務がある旨及び相続税の申告がない場合には決定処分となる旨説明したこと。
(ニ)請求人は、平成7年11月9日に調査担当職員に対し、Jらが被相続人の預金を隠している旨申し述べたが、調査担当職員は、請求人に対し、本件相続税の申告書を提出するよう指導したこと。
(ホ)請求人は、平成7年11月20日に調査担当職員の無申告加算税の対象となる旨の説明に対し、Jらから本件相続税の申告書の写しをもらったのは申告期限の前日であり、当該申告書に記載のある財産を何も確認せずに申告期限までに申告を行うことは無理である旨申し述べたこと。
(ヘ)請求人は、平成7年11月27日に本件相続税の期限後申告書を提出したこと。
ロ ところで、通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出又は決定があったときは、当該納税者に対し、その期限後申告又は決定に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課する旨規定している。
 無申告加算税は、当初から正当に申告、納税をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するため、申告をしなかった納税者に対して課されるものであり、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合を除き、単に法定申告期限内に申告がなかったという客観的事実のみによって課される性質のものと解されている。
 なお、この場合の「正当な理由があると認められる場合」とは、無申告加算税を課することが不当又は酷と認められる特別の事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰すことができない外的事情によるなど、法定申告期限内の提出を不可能にするもので真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当するものと解されている。
 相続税の申告については、他の共同相続人が相続財産を隠ぺいするなど当該相続財産の内容が全く把握できないなどの事情により、相続税の法定申告期限までに申告できない場合において、当該事情が消滅したことにより、相続税の申告を行うことが可能となり、直ちに相続税の申告を行った場合には、正当な理由があると認められる場合に該当するものと解される。
ハ 以上の事実及び通則法第66条第1項の規定の趣旨から総合勘案すると、次のとおり判断される。
(イ)請求人は、本件相続財産の内容が不明であり、それを調べようとしても不可能であったため、本件相続税の申告書を申告期限までに提出できなかった旨主張するが、請求人が平成7年6月12日に他の相続人の相続税の申告内容を知ったことは自認するところであり、かつ、平成7年7月20日に資産税担当職員から申告義務があるとの説明を受け早期に申告するようしょうようされたにもかかわらず、申告期限の数か月後である平成7年11月27日に至ってから本件相続税の期限後申告書を提出していることが認められる。
(ロ)したがって、上記ロで述べたことに照らせば、請求人の主張するとおり、請求人が本件相続財産の内容を知った日が申告期限の前日である平成7年6月12日であるとしても、本件相続税の申告がこのように遅延したことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しないことは明らかである。
(ハ)また、請求人は申告期限の1ないし2か月前に、資産税担当職員に相談したが、その際、申告についての具体的な説明はなく、期限後申告になると無申告加算税が賦課される旨の説明もなかったから、通則法第66条第1項に規定する正当な理由がある場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、資産税担当職員が請求人から請求人が主張するような相談を受けた事実は確認できないし、仮に、相談を受けたとすれば、請求人が事実関係を明らかにしていれば、申告期限内に申告書を提出すべきである旨の指導をすることは職員にとって常態であり、請求人が主張するように具体的に説明しなかったことはおよそ考えられないところであるから、この点に関する請求人の主張は失当である。
 なお、その際に、仮に無申告加算税について何らの説明をしなかったとしても、それ故に請求人が期限内申告書を提出しなかったことが通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由に当たるものとは到底解し得ない。
(ニ)以上のとおり、請求人の主張はいずれも通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由には該当しないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件相続税の申告が法定申告期限後となったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否かであるので、以下審理する。
(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 被相続人は、平成6年10月13日に死亡し、これに伴い請求人とJらが本件相続財産を相続したこと。
ロ 本件相続税の法定申告期限は、平成7年6月13日であること。
ハ 請求人は、平成7年11月27日に本件相続税の期限後申告を行ったこと。
(2)請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 平成6年11月24日、請求人は、P市R町2丁目9番14号所在のJ宅を訪れ、Jらに自分はJ宅の借地権(以下「本件借地権」という。)と建物(以下、本件借地権と併せて「本件借地権等」という。)を相続したい旨申し立てたこと。
ロ 平成6年12月4日、請求人及びJらが請求人の従兄弟であるM(以下「M」という。)ほか数名立会いの下で行った遺産分割協議の席上で、請求人は自らが本件借地権等を相続し、それ以外の相続財産をJらが相続することを主張していること。
ハ 平成7年2月4日、請求人及びJらは、本件借地権に係る土地を管理しているN株式会社の事務所において、Mほか1名を同席の上、本件相続財産の遺産分割に伴う本件借地権の名義変更について話合いをしていること。
ニ 平成7年3月上旬ころ、請求人は、Jらとの協議の際に立ち会ったMに「遺産分割協議書」と題する書面を送付していること。
 その書面には、次表のとおり、請求人が本件借地権等を取得する旨の記載があること。

(単位 平方メートル)
借地権
所在及び地番地目地積
P市R町二丁目9番3宅地288.16
P市R町二丁目9番8宅地23.14
P市R町二丁目9番9宅地3.30

(単位 平方メートル)
建物
所在及び家屋番号種類面積
P市R町二丁目9番地49番7店舗61.98
P市R町二丁目9番地49番7炊事場3.30
P市R町二丁目9番地49番7浴場3.30

ホ Jは、請求人との相続を巡る紛争を解決するため、○○家庭裁判所にG、K及びLを相手方とする調停の申立てを行っており、第1回の調停は、平成7年6月12日に開催されたこと。
へ 平成7年4月25日付で、○○家庭裁判所からKあてに照会書とともに遺産目録が送付されていること。
ト 請求人は、平成7年6月12日に行われた第1回の調停の席上で、Jらから相続税の申告書の写しを受領したこと。
チ 請求人は、当審判所に対して要旨次のとおり答述していること。
(イ)平成7年1月下旬か2月上旬に、Kから不動産を除く現金・預貯金及び有価証券等を記載した一覧表を受け取った。
(ロ)一覧表の内容を見ると明らかに預貯金が隠されているとの疑いがあったので、相続人全員の話合いを持ったがJらは、相続財産のすべてを明らかにしなかった。
(ハ)相続財産のすべてを申告しないことは違法行為になると思い、原処分庁に赴き相談したが、申告についての具体的な説明はなく、また、法定申告期限を過ぎて申告した場合は、無申告加算税が賦課されるとの説明もなかった。
リ 上記ニ及びチの(イ)の財産は、請求人が提出した期限後申告書に記載されている相続財産から、電話加入権(46,000円)、出資金(10,000円)及び所得税の還付金(26,000円)を除く財産と一致すること。
(3)ところで、通則法第66条第1項によれば、期限後申告書の提出又は決定があった場合には、期限内に申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、当該納税者に対し、その期限後申告又は決定に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定されており、同条第1項だたし書に規定する正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷となる特別な事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰することのできない外的事情によるなど、法定申告期限内に申告できなかったことが真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当すると解され、単に納税者の税法の不知又は誤解に基づくような場合は、正当な理由に該当しないものと解されている。
(4)請求人は、Jらが遺産分割の話合いに応じてくれなかったために、本件相続財産の内容を知ることができず、その内容を初めて知ったのは法定申告期限の前日である平成7年6月12日であるから、期限内申告書を提出できなかったことについては正当な理由がある旨主張するので、審理したところ以下のとおりである。
イ 請求人は、上記(2)のイないしハのとおり、平成6年11月から平成7年2月の間に行われた分割協議で、本件借地権等を取得したい旨主張しており、また、上記(2)のニのとおり、平成7年3月の時点で本件借地権等を請求人が相続する旨を記載した「遺産分割協議書」と題する書面を作成していることからすれば、請求人は、少なくともこの時点で、本件借地権等が本件相続財産に含まれることを認識していたものと認められる。
ロ また、上記チの(イ)のとおり、請求人は当審判所に対し、少なくとも平成7年2月上旬には現金・預貯金及び有価証券等が記載されている一覧表の交付を受けたと答述していることからすれば、請求人は法定申告期限の数か月前には、上記(2)のリのとおり、本件相続財産のほぼ全容を把握していたことが伺われる。
ハ 以上からすると、請求人は、本件相続税の法定申告期限の数か月前には、相続税の基礎控除額を超える財産を把握しており、しかも、本件相続財産のほぼ全容を知っていたのであるから、本件相続財産の内容を知ったのは法定申告期限の前日であったため、期限内に申告できなかったとの請求人の主張には理由がない。
 そして、上記(2)のチの(ハ)の答述からすれば、請求人は、相続財産の全容を把握していない以上、期限内申告書を提出することはできないと認識していたとも考えられるが、そうだとしても、請求人は、法定申告期限の数か月前には相続税の基礎控除額を超える財産を把握していたのであるから、少なくともこれらの財産を基に期限内申告書を提出することは十分に可能であったといえる。
 したがって、上記(3)の通則法第66条第1項ただし書の趣旨からみても、請求人には期限内に申告しなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(5)請求人は、Jらから受け取った一覧表によれば預貯金が少ないと考えられたので、少ないままでは申告できないと思い申告期限前に資産税担当職員に相談したが、申告についての具体的な説明はなく、期限後申告となった場合に無申告加算税が課されるとの説明も一切なかったから、期限内に申告しなかったことについて正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によっても原処分庁の資産税担当職員が、法定申告期限前に請求人から本件相続税の申告に関し事前相談を受けたとする事実は確認できず、また、請求人の主張からは、本件相続税の申告に関する事前相談の内容が明らかではない。そうすると、請求人は、資産税担当職員のどのような説明によって、期限内申告書を提出する必要がないと認識したのかを明らかにしていないから、当審判所においては、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかを判断することができない。
 また、請求人は、事前相談の際に、資産税担当職員から期限内申告の提出がないときは、無申告加算税が賦課される旨の説明がなかったとも主張するが、そのような事実があったとしても、このことをもって期限内申告書を提出できなかったとの理由にはなり得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(6)以上のとおり、請求人の主張は、いずれも通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。
(7)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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