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(平9.6.30裁決、裁決事例集No.53 129頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、別表1の1の「確定申告」欄のとおり記載した平成2年分及び平成4年分の所得税の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年1月25日付で別表1の1の「更正処分等」欄のとおり、平成2年分については、更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「平成2年分の更正処分等」という。)をし、また、平成4年分については、更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下「平成4年分の更正処分等」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年3月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月5日付で別表1の1の「異議決定」欄のとおり、平成2年分について、更正処分の一部を取り消すとともに、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定をし、また、平成4年分について、更正処分の一部を取り消すとともに、重加算税の賦課決定処分は過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分に不服があるとして、平成6年12月27日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、平成2年分の所得税について平成7年2月17日付で別表1の1の「再更正処分等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「平成2年分の再更正処分等」という。)をした。
 そこで、請求人は、平成2年分の再更正処分等を不服として、平成7年3月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定に該当するものとして、同年4月6日に当審判所長あてに送付してきたので、同条第3項の規定により同日当該異議申立てに係る処分についての審査請求がされたものとみなされ、平成2年分の更正処分等及び平成4年分の更正処分等に対する審査請求と併合審理をする。
 また、請求人は、別表1の2の「確定申告」欄のとおり記載した平成5年分、平成6年分及び平成7年分(以下、「平成5年分ないし平成7年分」といい、平成4年分と併せて「平成4年分ないし平成7年分」という。)の所得税の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年6月6日付で平成5年分ないし平成7年分について、それぞれ別表1の2の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「平成5年分ないし平成7年分の各更正処分等」といい、平成4年分の更正処分等と併せて「平成4年分ないし平成7年分の各更正処分等」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年7月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年分ないし平成7年分の各更正処分等に対する異議申立てについて、国税通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成8年7月8日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同日に同意したので同日審査請求がされたものとみなされ、平成2年分の更正処分等及び平成2年分の再更正処分等並びに平成4年分の更正処分等に対する審査請求と併合審理をする。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 平成2年分の更正処分等及び再更正処分等について
 平成2年分の更正処分等及び再更正処分等については、次の理由により違法であるから、その全部の取消しをそれぞれ求める。
(イ)更正処分の手続等
A 原処分の調査担当者は、修正申告をしょうようするに当たり、調査結果を具体的に説明しなかった。
B 異議審理庁は、異議申立てがされた日から3か月を経過したにもかかわらず、国税通則法第111条《教示》第1項の規定による教示を行わなかった。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額
A 収入すべき時期
(A)請求人は、平成2年7月31日、株式会社T(以下「T社」という。)との間において、別表2の物件目録の山林等(以下、「本件土地」といい、本件土地の中央付近にある南北に走る段差より東側部分を「A土地」、同西側部分を「B土地」という。)のうち、A土地について賃貸借契約を締結するとともに、B土地について賃貸借の予約(以下「本件賃貸借の予約」という。)をし、同年8月1日、T社に対し、A土地を引き渡した。
 なお、B土地について賃貸借の予約をしたのは、請求人が平成3年3月31日まで株式会社W(以下「W社」という。)にB土地を賃貸し、さらにW社がX株式会社(以下「X社」という。)に転貸することになっていた関係上、それまではT社にB土地を引き渡すことができず、賃貸借契約を締結することができなかったからである。
 請求人は、平成2年7月31日、T社から額面900,000,000円の小切手1通を受領するとともに、請求人が以前T社との間で本件土地について売買交渉を行った際、T社から手付金として受け取りその後売買交渉の頓挫により預り金となっていた200,000,000円のうち100,000,000円の充当を受けることにより、T社からA土地についての賃貸借契約に係る権利金(以下「本件権利金」という。)として合計1,000,000,000円を受け取った。
 また、請求人は、平成2年7月31日、T社から額面850,000,000円の小切手1通を受領するとともに、上記預り金200,000,000円のうち残り100,000,000円の充当を受け、さらに同年8月10日、額面50,000,000円の小切手1通を受領することにより、T社から本件賃貸借の予約に係る前受権利金として合計1,000,000,000円(以下「本件10億円」という。)を受け取った。
 請求人は、平成3年4月1日、T社に対し、B土地を引き渡し、T社は、同日、B土地の使用収益を開始することにより、請求人に対し、B土地の賃貸借契約を完結する旨の意思表示をし、ここにおいて、請求人とT社との間で、B土地についての賃貸借契約が成立し、本件10億円はB土地についての賃貸借契約に係る権利金とした。
 そこで、請求人は、本件権利金及び本件10億円が所得税法施行令第79条《資産の譲渡とみなされる行為》第1項に規定する資産の譲渡とみなされる行為である賃借権の設定の対価に該当するとして、それぞれ平成2年分及び平成3年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上収入金額とした。
(B)原処分庁は、これに対し、(a)請求人とT社との間において、T社の物流センター建設のため、本件土地について、当初売買価格3,000,000,000円とする売買契約が成立していたところ、売買価格3,000,000,000円が国土利用計画法(以下「国土法」という。)に抵触することから、その後、請求人とT社との間における協議により、本件土地について、売買を念頭に置きながらも、当面、賃貸借契約の法形式により売買と同様な経済的効果を生ずる方法を採用したものと認められ、当事者間における取引の対象が当初から本件土地の全体であったこと、(b)請求人は本件土地に係る賃貸借契約の締結日である平成2年7月31日までに、同賃貸借契約に係る権利金2,000,000,000円の97.5パーセントに相当する1,950,000,000円を受領し、同年8月10日までにはその全額を受領していること、(c)T社が金融機関から2,000,000,000円の借入れをするに当たり、請求人がT社からの依頼に応じて、平成2年7月31日、金融機関に対し、本件土地の全部に根抵当権の設定登記を行っているが、これはT社が本件土地の全体を使用収益したことに当たること、(d)T社は、平成2年8月1日に、A土地について現実の引渡しを受けており、B土地の現実の引渡しの遅延がT社の物流センター建設の障害となるものではなかったことを理由に、B土地について譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日は、平成2年7月31日であるとし、本件10億円については、同日の属する平成2年分の収入金額であるとする更正処分をした。
(C)ところで、譲渡所得の収入すべき時期については、所得税基本通達に資産の引渡しがあった日によるものと定められていることから、収入すべき時期は、資産を引き渡した日であるとして取り扱うべきである。
(D)A土地については、平成2年7月31日の時点で請求人とT社との間において賃貸借契約が成立しており、請求人がT社に対してA土地を引き渡した日は、同年8月1日である。
 しかしながら、B土地については、平成2年7月31日の時点でX社がB土地を使用収益中であったことから賃貸借の予約をしたのであり、賃貸借契約は成立していない。当該賃貸借契約が成立したのは、T社が請求人からB土地の引渡しを受け、B土地の使用収益を開始することにより、請求人に対し賃貸借契約を完結する旨の意思表示をした平成3年4月1日である。
(E)そうすると、本件権利金1,000,000,000円については、請求人がT社に対してA土地を引き渡した日である平成2年8月1日の属する平成2年分の収入金額であり、また、本件10億円については、請求人がT社に対してB土地を引き渡した日である平成3年4月1日の属する平成3年分の収入金額である。
(F)原処分庁は、請求人とT社との間の賃貸借に係る取引の対象が当初から本件土地の全体であることからB土地の実質上の引渡しのあった日が平成2年7月31日である旨主張するが、請求人は、昭和55年1月21日から平成3年3月31日まで、W社に対してB土地を賃貸し、さらに、W社からB土地を賃借したX社が同日までB土地を使用収益しており、平成2年7月31日の時点においては、請求人とT社との間でB土地に係る賃貸借契約を締結することができなかったことから、A土地に係る賃貸借契約に関する土地賃貸借契約証書と題する契約書(以下「本件契約証書」という。)の第1条に「(B)物件については、後日賃貸することを約した。」との条項を定めたものであり、B土地については、平成2年7月31日に請求人とT社との間で賃貸借の予約をしたにすぎない。
 したがって、平成2年7月31日の時点ではB土地に係る賃貸借契約は成立しておらず、また、請求人は、平成3年4月1日に請求人とT社との間でB土地について賃貸借契約が成立するまでT社からB土地に係る地代を受け取っていない。
(G)原処分庁は、請求人が平成2年7月31日までに、本件土地の賃貸借に係る権利金2,000,000,000円の97.5パーセントに相当する1,950,000,000円を受領し、同年8月10日までにはその全額を受領しているからB土地の引渡しのあった日が同年7月31日である旨主張するが、本件契約証書の第3条第2項によれば、「(B)物件については、現時点では賃貸借契約ができない状態であり、賃貸借契約可能になり次第乙(T社)は、甲(請求人)と賃貸借契約を締結したいので、乙は、甲に対して、その前払金として、金10億円を差し出すものとする。」とされており、請求人が同年7月31日にT社から受け取った本件10億円は、請求人にとっては前受金であり、仮にB土地に係る賃貸借契約が何らかの理由により不成立となれば、本件10億円については請求人がT社に対し返還する義務を負っているものであるから、権利金として確定したものではない。
(H)原処分庁は、T社が金融機関から2,000,000,000円の借入れをするに当たり、請求人がT社からの依頼に応じて、平成2年7月31日、金融機関に対し、本件土地の全部に根抵当権の設定登記を行ったことは、T社が本件土地の全体を使用収益したことに当たるから、B土地の引渡しのあった日は同日である旨主張するが、本件土地に係る根抵当権の設定登記は、請求人と金融機関との間の契約であり、請求人とT社との間の本件土地に係る賃貸借契約との関連性はない。
B 買換資産
 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条(平成3年法律第16号による改正前のものをいう。以下同じ。)《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第4項に規定されている買換資産を取得することができる期限として原処分庁が承認した平成5年12月31日までに買換資産を取得していないことから、平成2年分の分離長期譲渡所得の金額の算定に当たり、同項の準用する同条第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用できないことについては争わない。
C 取得費
 取得費は、措置法第31条の5(平成3年法律第16号による改正前のものをいう。以下同じ。)《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定を適用して、上記Aの(E)の収入金額1,000,000,000円に100分の5を乗じて算出すると50,000,000円となる。
D 譲渡費用
(A)立退料
a 請求人は、平成2年7月31日、W社との間で、A土地に係る賃貸借契約を合意の上解約したが、その際、請求人は、W社に対し、立退料(以下「本件A立退料」という。)として300,000,000円を支払うこととした。
 また、その際、請求人は、W社との間でB土地に係る賃貸借契約についても、平成3年3月31日をもって解約することを合意し、立退料(以下「本件B立退料」という。)300,000,000円を前払金として支払うこととした。
 そして、請求人は、W社に対し、平成2年7月31日に200,000,000円を、同年10月3日に400,000,000円をそれぞれ支払うことにより、本件A立退料及び本件B立退料の前払金として合計600,000,000円を支払った。
 そこで、請求人は、本件A立退料を平成2年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)として収入金額から控除し、また、本件B立退料を平成3年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として収入金額から控除した。
b 原処分庁は、これに対し、本件10億円が平成2年分の収入金額になることから、本件B立退料を平成2年分の譲渡費用とするのが相当であり、また、立退料としては、W社が本件土地の転貸により得ていた1年分の収益の補償金相当額12,000,000円よりもW社が有していた賃借権の価額相当額150,000,000円を譲渡費用とする方が請求人に有利であるとして、当該金額と本件契約証書に係る印紙代200,000円の合計150,200,000円を超える金額については、平成2年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として収入金額から控除することができないとする更正処分をした。
c しかしながら、原処分庁が採用した立退料の算定の方法は、次のとおり合理性がない。
(a)原処分庁は、相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》の規定及び財産評価基本通達(平成3年12月18日付課評2―4国税庁長官通達をいう。以下同じ。)87《賃借権の評価》の定めを相続、遺贈及び贈与により取得した財産の評価並びに地価税における土地等の評価に対して適用すべきところ、これを所得税に係る更正処分に適用しているから、法令等の適用を誤っている。
(b)財産評価基本通達87は、平成4年分以後の相続、遺贈及び贈与により取得した財産の評価並びに地価税における土地等の評価に係る定めであるところ、原処分庁は、これを平成2年分に係る更正処分に適用しているから、通達の適用を誤っている。
(c)原処分庁は、一般的に妥当な賃借権の評価の減額割合として2分の1に相当する割合を採用しているが、この2分の1の根拠を明らかにしていないから、し意的な調整を行っている。
d また、本件A立退料300,000,000円及び本件B立退料300,000,000円は、下記(a)の判断に基づいて、下記(b)のとおり算出したものであり、本件土地に係る立退料として相当である。
(a)請求人は、昭和40年に本件土地を10,000,000円で取得し、昭和46年から請求人とW社が共同で本件土地の造成工事を行った。
 請求人が本件土地をW社に賃貸するに当たり、本件土地に係る造成工事費用の総額約120,000,000円のうちW社が負担した造成工事費用(以下「本件造成費用」という。)は約50,000,000円に上るところ、法人税基本通達(昭和55年5月15日付直法2―8国税庁長官通達をいう。以下同じ。)7―3―8《借地権の取得価額》の定めによれば、法人税法上の借地権(以下「法人税借地権」という。)の取得価額には、借地権の対価として土地所有者に支払った金額のほか、賃借した土地の改良のための地盛り、地ならし、埋立て等の整地に要した費用の額を含むとされており、これによれば、本件造成費用は、法人税借地権の取得価額に該当し、請求人は、W社が法人税借地権を有することから、造成工事費用を負担していない場合よりも多額の立退料を支払う必要があると判断した。
 なお、W社が本件土地に係る造成工事費用を負担し、その金額が約50,000,000円に上ることについては、昭和59年8月1日に、請求人とW社との間で取り交わされた本件土地に係る賃貸借契約書(以下「昭和59年契約書」という。)の第11条の特約事項に「敷金について、当賃貸物件は(株)Wが(株)Y(以下「Y社」という。)と賃貸契約を開始して以来年々造成又は補修を加え約5千万円位の費用を投じて改良を加えているもので、それに応えるものである。」とされていることからも明らかである。
(b)本件A立退料及び本件B立退料は、請求人がT社から受け取った権利金の額に、本件土地に係る取得費及び造成工事費用の総額130,000,000円に占める本件造成費用50,000,000円の割合(以下「造成費用負担割合」という。)38.5パーセントの80パーセントに当たる割合(以下「調整後の造成費用負担割合」という。)30パーセントを乗じて、次表のとおり算出した。
 なお、造成費用負担割合の80パーセントに当たる割合を使用したのは、一般経済取引における実情もしんしゃくし、経費が過大とならないよう考慮し、請求人において妥当と判断した調整を行ったものである。

(単位 円、%)
項目本件A立退料本件B立退料
権利金の額1,000,000,0001,000,000,000
調整後の造成費用負担割合3030
立退料の額300,000,000300,000,000

e 原処分庁は、本件A立退料及び本件B立退料が過大である旨主張するが、本件A立退料及び本件B立退料については、請求人とW社との間の双方の合意に基づいて決定した妥当な金額であり、実際に支払もされているものであるから、原処分庁が否認できる性格のものではない。
f 原処分庁は、W社が本件造成費用を負担したという確たる証拠がない旨主張するが、W社は、上記dの(a)のとおり、本件造成費用を負担していることから、原処分庁は事実を誤認している。
g 原処分庁は、W社の帳簿書類には、W社が負担したとする本件造成費用50,000,000円に相当する借地権等の計上がされていない旨主張するが、W社の帳簿には、仮払金20,000,000円及び敷金30,000,000円として合計50,000,000円が計上されており、当該資産勘定が借地権に相当するものである。
h したがって、本件A立退料300,000,000円については、平成2年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として収入金額から控除すべきである。
 なお、本件B立退料300,000,000円については、請求人とW社との間でB土地に係る賃貸借契約が解約されるまでは前払金であり、平成3年3月31日に請求人とW社との間でB土地に係る賃貸借契約が合意の上解約され、同前払金は立退料として確定したのであるから、平成3年3月31日の属する平成3年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として収入金額から控除すべきである。
(B)譲渡費用
 そうすると、譲渡費用は、本件A立退料300,000,000円と本件契約証書に係る印紙代200,000円との合計額300,200,000円である。
E 分離長期譲渡所得の金額
 以上により、平成2年分の分離長期譲渡所得の金額は、上記Aの(E)の収入金額1,000,000,000円から、上記Cの取得費50,000,000円及び上記Dの(B)の譲渡費用300,200,000円並びに措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円をそれぞれ控除して算定すると648,800,000円となるが、上記(イ)のとおり、更正処分の手続等に違法があるから、確定申告書に記載したとおり129,980,000円となる。
 したがって、平成2年分の更正処分及び再更正処分はいずれも違法であるから、その全部を取り消すべきである。
(ハ)平成6年1月25日付の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成2年分の更正処分は違法であるから、これに基づく過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(平成6年12月5日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のものをいう。以下同じ。)も違法であり、その全部を取り消すべきである。
(ニ)平成7年2月17日付の過少申告加算税の賦課決定処分
A 以上のとおり、平成2年分の再更正処分は違法であるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。
B また、請求人は、次のとおり、措置法第37条の2(平成3年法律第16号による改正前のものをいう。以下同じ。)《特定の事業用資産の買換えの場合の更正の請求、修正申告等》第2項の規定による修正申告書(以下「買換えの修正申告書」という。)を提出できなかったのであるから、再更正処分に基づき新たに納付することとなった税額の計算の基礎となった事実には、再更正処分の前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある。
(A)上記(ロ)のBのとおり、買換資産を取得しなかったことから、本件特例を適用できないことについては争わないが、請求人が措置法第37条の2第2項の規定に基づき、確定申告書に記載した課税標準を修正前の金額として買換えの修正申告書を提出しようとしても、更正処分に係る税額が、当該修正申告に係る税額を上回るから、法律上、買換えの修正申告書を提出することが不可能であった。
(B)請求人が措置法第37条の2第2項の規定に基づき、更正処分に係る課税標準を修正前の金額として買換えの修正申告書を提出することは、請求人が結果的に不服申立て係属中の更正処分を認めることになることから、請求人の利益を著しく害する。
(C)請求人の代理人であるZ税理士らは、修正申告の期限内である平成6年4月ころ、W社の応接室において、異議審理の担当統括国税調査官に対し、修正申告する義務があるが更正処分がなされているのでどうしたらよいのか指導を仰いだにもかかわらず、同統括国税調査官からは何の指導もなかった。
ロ 平成4年分ないし平成7年分の各更正処分等について
 平成4年分ないし平成7年分の各更正処分等は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しをそれぞれ求める。
(イ)平成4年分の更正処分の手続等
 更正処分の手続等は、上記イの(イ)と同様に違法である。
(ロ)不動産所得の金額
A 管理費
(A)請求人は、W社に対し、請求人がT社に対して貸し渡した本件土地に係る管理業務を委託し、本件土地に係る管理費(以下「本件管理費」という。)として平成4年分ないし平成7年分の各不動産所得の金額の計算上、平成4年分が30,000,000円、平成5年分ないし平成7年分がそれぞれ21,000,000円を必要経費の額に算入した。
(B)原処分庁は、これに対し、賃貸借契約の存続期間中の本件土地の維持管理義務は、賃借人であるT社が負っており、また、請求人がT社に対して本件土地を貸し渡した時点で、請求人とW社との間における本件土地の転貸業務の委託が終了し、もはやW社は、請求人とT社との間における本件土地に係る賃貸借に介入する余地はなく、業務の遂行上、必要性がないとして平成4年分ないし平成7年分の各不動産所得の金額の計算上、本件管理費を必要経費の額に算入できないとする更正処分をした。
(C)しかしながら、請求人は、本件土地に係る賃貸借契約の合意解約後もW社に対し、(1)将来、T社が本件土地の造成及び本件土地上に建物の新築、増築等を行う際のT社との間の相談業務、(2)請求人がT社のため本件土地を金融機関に対し担保に提供したことに伴うT社の経営状態についての情報収集業務をいずれも委託しているのであり、それら業務(以下「本件管理業務」という。)の委託に伴う報酬として、W社に対し、本件管理費を支払うことは当然のことである。
(D)さらに、上記イの(ロ)のDの(A)のdの(a)のとおり、本件土地については、請求人が昭和40年に10,000,000円で取得し、昭和46年から請求人とW社が共同で造成工事を行い、本件土地に係る造成工事費用の総額120,000,000円のうちW社が50,000,000円を負担しており、W社が本件土地に係る取得費及び造成工事費用の総額の40パーセント程度の費用を負担しているところ、請求人とW社との間において、W社が本件土地の40パーセント程度の経済的権利を有しているものとの了解があり、請求人がT社から収受した地代のうちW社の有する経済的権利部分についても管理費の名目で支払ったものであるから、本件管理費は、業務の遂行上、必要性があり、不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入すべきである。
 なお 平成4年分の不動産所得の金額の計算上、本件管理費のうち6,000,000円については、平成3年分の未払金であることから、これが必要経費の額に算入できないことについては争わない。
(E)本件管理費の計算根拠は、次のとおりである。
a 平成4年分の管理費
 平成4年分の管理費は、本件土地の時価3,000,000,000円のうち本件土地に係る権利金2,000,000,000円を除いた底地部分の金額1,000,000,000円に、W社の経済的権利部分の割合、すなわち造成費用負担割合である38.5パーセントの端数を切り上げた40パーセントを乗じた金額に、6パーセント(税務上の相当地代率6パーセントの範囲内である一般の期待利回り率5パーセントに本来の管理費部分として1パーセントを加算したもの。)を乗じて算出した24,000,000円である。
b 平成5年分ないし平成7年分の管理費
 管理状況については、平成4年分と平成5年分ないし平成7年分において変わっていないが、平成5年分からは、税務調査による指摘等があったことから、更に算定基礎の合理性を図り、次のとおり管理費を算出した。
(a)管理委託契約による支払手数料
 管理委託契約による支払手数料は、本件土地に係る年間賃貸収入42,000,000円に相当手数料率10パーセントを乗じて算出した金額で4,200,000円である。
(b)地代相当額
 地代相当額は、本件土地の時価3,000,000,000円のうち本件土地に係る権利金2,000,000,000円を除いた底地部分の金額1,000,000,000円に、W社の経済的権利部分の割合、すなわち造成費用負担割合である38.5パーセントの端数を切り上げた40パーセントを乗じ、さらに、地代率4.2パーセント(底地部分の金額1,000,000,000円に占めるT社からの年間収受地代42,000,000円の割合)を乗じて算出した金額で16,800,000円である。
(c)管理費は、上記(a)の4,200,000円と上記(b)の16,800,000円の合計額で21,000,000円である。
(F)原処分庁は、W社の本件管理業務に係る実際の経費の支出がないことから、請求人自身が賃貸人の立場でそれら業務を行った旨主張するが、一般に土地の賃貸借の場合には経常的に経費が支出されないから、実際に経費の支出がないことをもって請求人自身が本件管理業務を行ったとすることはできない。また、請求人は、W社の代表者としてT社の経営状態についての情報収集、月1回から2回本件土地の現状の確認などを行っている。
(G)原処分庁は、T社の経営状態に関する情報収集について業務としての必要性がない旨主張するが、請求人は、T社のために、本件土地を金融機関に対し担保として提供しているところ、T社から預かっている担保に係る保証金もわずか300,000,000円であり、T社の経営状態によっては、金融機関による抵当権の実行が予想されることから、T社の経営状態に関する情報収集については業務の遂行上、必要性がある。
B 不動産所得の金額
 平成4年分の不動産所得の金額は、収入金額47,421,958円から必要経費として、上記Aの(E)のaの管理費24,000,000円並びに減価償却費649,400円、租税公課4,710,600円、損害保険料32,300円、修繕費12,154円及び水道光熱費322,357円をそれぞれ控除して算定すると17,695,147円となるが、上記(イ)のとおり、更正処分の手続等に違法があるから、確定申告書に記載したとおり11,595,147円となる。
 また、平成5年分ないし平成7年分の各不動産所得の金額は、それぞれ確定申告書に記載したとおり、平成5年分が18,041,218円、平成6年分が16,969,397円、平成7年分が16,154,656円である。
 したがって、平成4年分ないし平成7年分の各更正処分はいずれも違法であるから、その全部を取り消すべきである。
(ハ)平成4年分の重加算税の賦課決定処分及び平成5年分ないし平成7年分の過少申告加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成4年分の更正処分は違法でその全部を取り消すべきであるから、これに基づく重加算税の賦課決定処分(平成6年12月5日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のものをいう。以下同じ。)もその全部を取り消すべきであり、また、平成5年分ないし平成7年分の各更正処分は、いずれも違法で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 平成2年分の更正処分等及び再更正処分等について
(イ)更正処分の手続等
A 調査担当者が、修正申告のしょうようを行うに当たり、納税者に対し調査結果を説明しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、原処分の調査担当者が、請求人に対し、調査結果を具体的に説明しなかったとしても違法ではない。
B 請求人は、異議審理庁が異議申立てがされた日から3か月を経過したにもかかわらず、国税通則法第111条第1項の規定による数示を行わなかった旨主張するが、不服申立ての手続は、原処分の違法と関係がないから説明の要をみないが、念のため付言すれば請求人の主張の原因は、請求人の代理人らの連絡不足ないしは意思疎通を欠いた結果といわざるを得ないところである。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額
A 収入すべき時期
(A)異議審理の担当者が調査したところ、次の事実が認められる。
a 本件土地の登記簿の謄本によると、本件土地は、昭和40年4月15日、同月21日及び同月22日に売買を原因として請求人に所有権の移転登記がされていること。
 また、請求人は、本件土地を約10,000,000円で取得した旨申述しているが、取得時の売買契約書や領収証等の書類は保管していないこと。
b 請求人は、昭和46年8月18日、自ら主宰して不動産賃貸、売買を業とするW社を設立したこと。
c 請求人は、本件土地をW社へ賃貸することを条件に、W社と共同して本件土地の開発を行い、その造成工事費用等について請求人個人が約70,000,000円、W社が約50,000,000円それぞれ負担した旨申述しているが、その具体的な計算根拠について確たる証拠は存在せず、また、W社の帳簿に当該負担した金員に相当する借地権等は計上されていないこと。
d 請求人は、原処分の調査担当者に対し、次の内容の申述をしているが、当該申述の根拠となる確たる資料は存在していないこと。
(a)造成工事は、昭和46年ころから、当時○○で営業していたI社と口頭で契約して行わせた。
(b)昭和46年、昭和47年ころには、3回から4回ほど大規模な工事(15,000,000円、50,000,000円、25,000,000円程度のもの)を実施した。
(c)造成工事費用の支払は、原則として、請求人個人の金を充てたが、足りない時は、W社から請求人に対する仮払金として処理して支出していた。
(d)このような状態が昭和47年ころまで続き、その後は、ずれた土砂の修復や排水工事、維持工事を行ってきたが、これらの費用はW社が取りあえず仮払金として支出してきた。
e 昭和59年契約書には、(1)「第5条 借主(W社)は貸主(請求人)に対し敷金として金3阡万円を設定することを了解した。」(2)「第11条 敷金について当賃貸物件は(株)Wが(株)Yと賃貸契約を開始して以来、年々造成又は補修を加え、約5千万円位の費用を投じて改良を加えているもので、それに応えるものである。」と定められていること。
 また、W社の会計伝票には、昭和59年8月1日付で、借方(敷金)30,000,000円、貸方(仮払金)30,000,000円とする仕訳が行われていること。
f 本件土地は、造成工事完了後、請求人が一括してW社へ賃貸し、W社はこれをY社へ転貸していたものであるが、先方の利用計画の変更に伴い、昭和55年1月21日、W社はY社との本件土地に係る賃貸借契約を解約するとともに、(1)A土地のうち南側の541.816坪(以下「a土地」という。)については、V株式会社(以下「V社」という。)に対し、車両置場等として賃料月額100,000円で転貸し、(2)A土地のうちa土地部分を除く部分(以下「b土地」という。)及びB土地(以下、b土地とB土地を併せて「β土地」という。)については、X社に対し、車両置場等として賃料月額700,000円で転貸することとなったこと。
 なお、β土地について、昭和61年6月24日、W社はX社(実際には親会社のY社)に対し固定資産税等の公租公課及び諸経費の高騰等を理由に賃料の値上げを申し入れ、月額900,000円とすることで合意したこと。
g T社は、かねて物流センター建設を計画し、その敷地を物色中のところ、平成2年初めころ、V社のC専務から、請求人所有の本件土地の紹介を受け、V社を介して請求人へ本件土地の売却方について意向を打診したこと。その後、平成2年3月ころには、本件土地を一括して3,000,000,000円で売買することがT社と請求人との間で合意されたこと。
 そして、その代金の支払は、平成2年4月中に2,000,000,000円、平成5年3月末日に残金1,000,000,000円とするものであったこと。
h 当時、本件土地の売買価格として合意した坪当たり約300,000円では、国土法による売買の認可が得られる状況でない(当時の公示価格は、坪当たり約234,000円であった。)ことが判明したため、当事者間に、3年も待てば地価も上昇するから、一応、最終的な決済は平成5年3月末日とすること、詳細については後日協議することで合意がなされたこと。
i T社の事業計画は、物流センター建設の工期を3回に分け、第1期工事はA土地にトラック荷捌所、プラットホーム等を先行建築し、その後、順次、B土地に自動車部品の倉庫等を建築するというものであったこと。
j W社は、本件土地を売却するに当たり、貸付先のV社及びX社に対し、昭和55年1月21日に締結した賃貸借契約の解約と、土地の原状回復を申し入れたこと。このため、V社は、本件土地の売買について当初から事情を知っていた関係上、これに応ずることとなったが、X社は、賃貸借契約の解約には応ずる姿勢をみせたものの、保管中の自動車の移転等の問題もあり、T社の事業計画中、第1期及び第2期工事に関係する部分(b土地)
は、平成2年7月末までに返還することを約したが、B土地については平成3年3月末日の返還ということで最終的に合意したこと。
k 平成2年3月23日、T社は、金融機関に対し、当面支払うべき本件土地の購入資金2,000,000,000円の融資を申し込んだこと。
 平成2年3月30日、T社から融資の申込みを受けた金融機関はこれに応ずることを決定したが、その際、T社は、当該金融機関に対し、同日付で「担保差入れに関する念書」と題する書面を提出し、同書面には、(1)本件土地を請求人から購入する予定であり、(2)平成5年3月末日までに売買代金決済後所有権移転し、(3)移転登記完了までに請求人が担保提供者となり、(4)平成2年5月末日までに請求人が単独第1順位による担保を提供する旨記載されていること。
1 平成2年4月6日、T社は、請求人に対し、本件土地の売買契約に伴う手付金200,000,000円を支払い、請求人は、「(本件土地の)土地売買手付金として(30億円の内)上記正に領収しました」と記載し、あて名をT社とする領収証を発行し相手方に交付したこと。
m 請求人は、平成6年1月16日に原処分庁に提出した「取引説明書」と題する書面において、本件土地の取引の経緯について、次の内容の説明をしていること。
(a)本件土地については、平成2年5月ころ、T社のD社長(以下「D」という。)から「土地を売って欲しい。」旨の申入れがあり、私は、仮の話として「土地を売るとなると30億円は欲しいが、それでは国土法が到底クリアーしないので土地を売る気はない。」旨話した。
(b)しかし、Dは、当該土地の上に建物を建設することに積極的で、同人から「それならば土地を貸して欲しい。」旨の強い要望があった。
n Dは、原処分の調査担当者に対し、次の内容の申述をしていること。
(a)請求人から本件土地の売買については国土法の認可が受けられない旨の説明があり、一応、国土法の認可が受けられるであろう平成5年3月末日を引渡時期とすることにしていたが、平成2年3月を過ぎて、「土地を自由に使える条件であれば、買い取るよりも借地がいいのではないか」との提案があった。
(b)その提案は、口頭で説明があり、私も土地が自由に使えるのであれば、無理に売買でなくても賃借でいいと思い合意(以下「合意事項」という。)した。
(c)後日(平成2年12月18日)に至り、金融機関との関係で請求人との合意事項について、改めて請求人に依頼して覚書という文書を作成してもらった。
o 平成2年7月31日、請求人は、本件土地のうちV社へ賃貸していたa土地の賃貸借契約が解約されたことによりその返還を受けたこと。
 X社は、上記jのとおり、B土地の引渡しを平成3年3月末日とすることで合意していたが、T社の第1期及び第2期工事に関係するb土地については、これを平成2年7月31日までに明け渡したこと。
 しかしながら、X社は、b土地の返還に伴う賃貸借契約の改定は行っておらず、その後、引き続いて平成3年3月末日まで従来と同額の賃料を支払っていたこと。
p 平成2年7月31日、請求人は、W社との間の本件土地に係る賃貸借契約の解約に伴い、W社に対し、補償金(立退料)の一部として200,000,000円を支払ったこと。
q 平成2年7月31日、本件土地に係る賃貸借契約が締結され、同日付で本件契約証書が作成されたが、その内容は次のとおりであること。
 なお、平成2年7月31日付で作成された本件契約証書以外に本件土地に係る賃貸借契約書は存在しないこと。
(a)A土地の賃貸借契約に際し、T社は10億円の借地権設定の対価を支払う。
(b)A土地の賃料は、月額200万円とする。
(c)B土地は現時点では賃貸借契約ができない状態であるため、賃貸借契約が可能になり次第賃貸借契約を締結したいので、T社は請求人に対して、その借地権設定の対価に相当する前払金として10億円を支払う。
(d)B土地の賃料は、月額150万円とする。
(e)T社は、請求人に対し、本件土地に、請求人の承認する金融機関より20億円を限度として抵当権設定のための担保提供の申出をなすことができる。
r 平成2年7月31日、指定された金融機関は、T社に対し、20億円の融資を実行するとともに請求人から本件土地の担保提供を受け、同日、請求人は、根抵当権の設定登記を行ったこと。
s 平成2年7月31日、T社は、請求人に対し、本件契約証書に基づいて支払うべき本件権利金及び本件10億円の合計2,000,000,000円を支払うこととし、内200,000,000円は同年4月6日に売買手付金として支払った金員を充当し、残余の1,800,000,000円を金融機関が用意した900,000,000円及び850,000,000円の2枚の小切手により支払い、残余の50,000,000円は、T社自らが用意した小切手で同年8月10日に支払ったこと。
t 平成2年8月1日、本件土地のうちA土地が本件契約証書に基づいて現実に引き渡され、T社は第1期工事に取りかかることとなったこと。
u 平成2年10月3日、請求人は、W社との間の本件土地に係る土地賃貸借契約の解約に伴い、W社に対し、補償金(立退料)の残額400,000,000円を支払ったこと。
 一方、W社は、平成2年10月1日に取締役会を開催し、本件土地の賃貸借契約解約に関する補償金の額について、解約及び収益補償金として、同年7月31日に仮受けした200,000,000円を含めて、総額600,000,000円とすることで了承することを決定していること。
v 平成2年12月18日、T社からの依頼により、請求人とT社は、当事者間における合意事項を確認するため、次の内容の覚書(以下「本件覚書」という。)を作成したこと。
(a)第1項 売買する土地代金は、総額30億円とする。ただし、現時点において、この金額では国土法の認可となる見込みはなく、やむを得ず平成2年7月31日に別途請求人・T社間で賃貸借契約を締結し、T社の事業に着手する。
(b)第2項 賃貸借契約書第3条の権利金(10億円)及び前受金(10億円)合計20億円は、土地売買代金の内金であり、売買契約締結時には土地代金に充当する。
(c)第3項 国土法認可なり次第、賃貸借契約を解約し、直ちに売買契約を締結するとともに、T社は請求人に対して残金10億円を支払い、請求人はこの土地を引き渡すものとする。
(d)第4項 請求人は、T社の事業計画に基づく土地の造成、建屋の新築、増築及び今後設定する担保・抵当権等を認めるものとする。
w 平成2年12月18日、本件土地に、債務者をT社、根抵当権者をE銀行とする極度額1,400,000,000円の根抵当権設定登記がされたこと。
x 平成3年3月31日、B土地の賃貸借契約が解約され、同年4月1日、B土地が請求人からT社へ現実に引き渡されたこと。
y 平成4年6月10日、請求人の担保提供により、本件土地にE銀行への250,000,000円及びF銀行への250,000,000円、合計500,000,000円のT社を債務者とする根抵当権が設定され、その旨登記されたこと。
 なお、平成4年6月9日、T社は、上記担保設定を実行するための保証金に相当する次の手形を振り出して請求人に交付したこと。
(a)支払場所F銀行G支店、支払期日平成5年3月31日、額面200,000,000円の約束手形(No.○○○)。
(b)支払場所F銀行G支店、支払期日平成5年3月31日、額面200,000,000円の約束手形(No.○○×)。
(c)支払場所E銀行H支店、支払期日平成5年3月31日、額面100,000,000円の約束手形(No.○○△)。
 その後、平成5年3月31日、請求人は、上記の手形のうち(b)の手形200,000,000円分をT社へ返却し、その他の2通、計300,000,000円については、自己の取引銀行を経由して現金を取り立て、T社に対し、同日付で「金3億円 但し預かり金として」と記載した領収証を交付したこと。
z 平成5年3月31日、本件土地の売買契約は、国土法の所定の要件を充足するに至らなかったことから締結されなかったこと。
 また、平成5年12月14日に至っても、本件土地の売買契約は締結されず、T社はその善処方について請求人に文書で申入れを行ったこと。
(B)ところで、譲渡所得は、過去における資産の増加益(値上がりによる価値の増加)が、その譲渡等により実現した時の所得として課税の対象とされるものであり、また、所得とは、本来経済的な概念であって、専ら経済的に把握すべきものであり、その所得の発生の基因となった行為が適法であるかどうか、又は譲渡した資産の所有権が法律上移転しているかどうかには関係なく、実際にその利得を自己のために享受している場合には、課税所得を構成するものと解されている。
 このような考え方から、実務上、譲渡所得の収入すべき時期は、原則として、「譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとして取り扱われており、ここで言う資産の「引渡し」については、必ずしも契約書上の厳格な文言解釈や現実の引渡し(占有の移転)のみによるのではなく、税法上は、課税適状にある時期として、経済的実質に着目して合理的に判定すべきであって、具体的には、取引に至る経緯、当事者間の真意に基づく契約内容、代金支払の方法及び時期、譲渡物件の利用状況、その他具体的な諸事情を総合勘案して決すべきものと解されている。
(C)これを本件についてみると、(1)本件土地の取引の実態は、T社が本件土地上に物流センターを建設する目的で、当初、請求人との間において売買価格3,000,000,000円で売買契約が成立したものであること、(2)しかるところ、この売買価格3,000,000,000円は国土法に抵触することが明白であったことを主因として、当事者間で協議の結果、売買を念頭におき、当面、賃貸借契約の法形式により実質的にT社の事業計画(物流センターの建設及び金融面における抵当権の設定行為)に支障がなく、かつ、請求人にとっても実質的に売買と同様な経済的効果を生ずるように、借地権設定の対価又は借地権設定の前払金の名目で中間金に相当する金員を入手できる方法を採用したものと認められ、当事者間における取引の対象が当初から本件土地の全体であったことは明らかであること、(3)請求人は、本件土地に係る賃貸借契約の締結日である平成2年7月31日までに本件土地の賃貸借契約に係る権利金2,000,000,000円の97.5パーセントに相当する1,950,000,000円を受領し、同年8月10日までにはその全額を受領していること、(4)T社は、平成2年7月31日、請求人から本件土地の担保提供を受け、同日、本件土地の全部に根抵当権の設定登記を行い、金融機関から2,000,000,000円を借り入れたこと、(5)T社は、A土地について、平成2年8月1日に現実の引渡しを受けており、B土地の現実の引渡しの遅延がT社の物流センター建設の障害となるものではなかったことから、本件土地の「引渡し」があった日は、本件土地の全体を一の取引として判断されるべきであり(A土地とB土地に分けて判断すべきではなく)、請求人が経済的に取引の実を享受し、かつ、T社が本件土地の全体を借入金の担保として使用収益を開始した平成2年7月31日であると認定するのが相当である。
(D)以上により、原処分庁が、本件権利金及び本件10億円は請求人が建物の所有を目的とする賃借権の設定の対価として支払を受けたものであり、その金額がその土地の価額3,000,000,000円の10分の5に相当する金額1,500,000,000円を超えることから、所得税法施行令第79条第1項第1号に規定する資産の譲渡とみなされる行為に該当し、いずれも平成2年分の収入金額であるとして、同年分の収入金額を2,000,000,000円と認定したことは適法である。
B 買換資産
 請求人は、措置法第37条第4項に規定されている買換資産を取得することができる期限として原処分庁が承認した平成5年12月31日までに買換資産を取得していないことから、分離長期譲渡所得の金額の算定に当たり、本件特例を適用できない。
C 取得費
 取得費は、措置法第31条の5第1項の規定を適用して、上記Aの(D)の収入金額2,000,000,000円に100分の5を乗じて算出すると100,000,000円となる。
D 譲渡費用
(A)立退料
a W社が本件土地に賃借権を有していたのは事実であるから、請求人がW社に対して支払うべき立退料として適正な額を検討すると次のとおりである。
(a)請求人とW社の間で昭和59年8月1日に締結された土地賃貸借契約は、期間の定めのない賃貸借であり、民法第617条の規定により、各当事者はいつでも解約の申入れができ、解約の申入れの意思表示をして1年を経過すれば相手方の承諾なしに終了することとなるから、このような場合の立退料は不要である。
(b)また、1年間の猶予期間満了前に立退きを要求する場合の立退料は、一般に、賃借人の設備等の撤去費用、引っ越しのための費用、賃借人の1年分程度の収益補償などが主なものになると考えられる。
 これを本件についてみると、W社が本件土地の転貸先であるV社及びX社に立退料等の金員を支払った事実はなく、また、W社自身、立退きに際して、費用を負担した事実もない。
 したがって、W社が本件土地の転貸により得ていた1年間の収益(月額1,000,000円×12か月=12,000,000円)程度の補償金相当額が立退料として適正な額と考えられる。
(c)ところで、賃借権の対価相当額が立退料として適正な金額であるとの考え方もあるため、W社が有する賃借権の価額を評価すると、その価額は、本件土地の時価3,000,000,000円(当事者により合意されていた売買予定価格による。)に、賃貸借契約の残存期間14年間(民法第604条の規定により賃貸借の存続期間は最長20年であることから、契約日の昭和59年8月1日から解約日の平成2年7月31日までの経過年数6年を20年から差し引いた。)に対応する地上権割合10パーセント(相続税法第23条に規定する法定割合を採用した。)を乗じて算定する方法を採用するが、この場合、本件土地の賃借権がその設定当初権利金の授受がなかったものであり、かつ、堅固な構築物の所有を目的としたものでないところから、これらに準ずるものとして評価することについて一般的に妥当な減額割合とされている2分の1に相当する割合を乗じて計算すると「3,000,000,000円×0.1×0.5=150,000,000円」になる。
 そうすると、立退料として収益補償金相当額(12,000,000円程度)を譲渡費用とするよりも賃借権の対価相当額(150,000,000円)を譲渡費用とする方が、請求人に有利となるため、150,000,000円を譲渡費用として収入金額から控除するのが相当と認められる。
b 請求人は、本件土地についてはW社と請求人が共同して開発をしたものであり、W社も本件土地に係る造成工事費用の総額の38.5パーセントを負担しているから、W社は本件土地に対して共有的持分を有しており、税法上も法人税基本通達7―3―8の法人税借地権を有している旨主張するが、同通達の取扱いは、固定資産の取得価額についての取扱いを示したもので、本来の借地権を取得した場合において、更にこれに付加すべき(固定資産の取得価額に算入すべき)費用を例示したものであるところ、本件土地にはW社の借地権は存在しないのであるから、請求人の主張は、その前提において失当である。しかも、W社の帳簿書類には、W社が負担したとする金額に相当する借地権等の計上はされておらず、また、W社が本件土地に係る造成工事費用の総額の38.5パーセントを負担していることについても何ら確たる証拠は存在せず、さらに請求人は、現時点においてそれが存在しないことを自認しているところでもあり、むしろ、請求人個人が最終的に当該費用の総額を負担したと認められるから、W社の費用負担を前提とした請求人の主張は、失当というほかない。
(B)譲渡費用
 そうすると、譲渡費用は、上記(A)のaの(c)の立退料150,000,000円と本件契約証書に係る印紙代200,000円との合計額150,200,000円となる。
E 分離長期譲渡所得の金額
 以上により、分離長期譲渡所得の金額は、上記Aの(D)の収入金額2,000,000,000円から、上記Cの取得費100,000,000円及び上記Dの(B)の譲渡費用150,200,000円並びに措置法第31条第4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円をそれぞれ控除して算定すると、1,748,800,000円となり、異議決定を経た後の更正処分を前提に行った再更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額と同額となるから、平成2年分の更正処分及び再更正処分はいずれも適法である。
(ハ)平成6年1月25日付の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成2年分の更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当せず、過少申告加算税の賦課決定要件を満たしているから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は適法である。
(ニ)平成7年2月17日付の過少申告加算税の賦課決定処分
A 以上のとおり、平成2年分の再更正処分は適法であり、再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が再更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
B 請求人は、請求人が措置法第37条の2第2項の規定に基づき、確定申告書に記載した課税標準を修正前の金額として修正申告書を提出しようとしても、更正処分に係る税額が、当該修正申告に係る税額を上回るから、法律上、買換えの修正申告書を提出することが不可能であり、また、請求人が措置法第37条の2第2項の規定に基づき、更正処分に係る課税標準を修正前の金額として修正申告書を提出することは、請求人が結果的に不服申立て係属中の更正処分を認めることになることから、請求人の利益を著しく害する旨主張する。
 ところで、国税通則法第19条《修正申告》第1項は、納税申告書を提出した者は、「先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足があるとき」に修正申告書を提出することができる旨規定しており、また、同条第2項は、「更正通知書・・・に記載された税額に不足があるとき」にも修正申告書を提出することができる旨規定している。
 これを本件についてみると、請求人は、更正処分について不服申立てを行っており、請求人主張のように本件買換資産に係る義務的修正申告書を提出すべき場合に当たらないことは所論のとおりである。
 しかしながら、仮に請求人が本件修正事項について自ら修正申告をしようとする場合、更正処分に対する取消請求額を減殺する旨の意思表示をする(それが異議申立て又は審査請求のいずれの段階であれ、税務署長の更正等が行われるまでに)ことにより、本件買換資産に係る義務的修正申告をしたものとみることに、さほどの困難はなく、課税庁としても、手続の形式面のみに拘泥することは妥当ではないから、かかる場合には、形式の上では修正申告書が提出されていないが、例外的に修正申告がなされたものと同視して、更正処分に対する争いの段階において、その取消請求額の適否を判断すれば足りることになる。本件においては、義務的修正申告期限までに、請求人から義務的修正申告をしなければならない旨の申立てや不服申立てにおける取消請求額の減殺の意思表示はされておらず、原処分庁の調査によって買換資産の購入がなされていない事実が明らかになったので再更正処分を行ったものであるから、請求人の主張には理由がない。
C また、請求人は、請求人の代理人であるZ税理士らが、修正申告の期限内である平成6年4月ころ、W社の応接室において、異議審理の担当統括国税調査官に対し、修正申告をする義務があるが更正処分がされているのでどうしたらよいのか指導を仰いだところ、同統括国税調査官からは何の指導もなかった旨主張する。
 しかしながら、法律上の手続の不知が正当な理由となり得るものではないばかりか、異議審理の担当統括国税調査官がそのような指導を求められ、それに対して適切な指導をしなかったか否かはともかくとして、請求人には職業専門家たる税理士が3名も代理人として任命されており、それらのいずれもがこのような場合の取扱いを知らなかったとは到底考えられない。しかも、異議審理庁は、異議申立ての審理の際、3名の内1名の代理人に対し、事後の措置について示唆し、そのような示唆をしたからこそ、原処分庁は、請求人からの自主的な発動を待って、あえてその処分を見合わせていたものであり、請求人がそれに従わなかったことから、平成7年2月17日に再更正処分に及んだものであり、いずれにしても請求人の主張には理由がない。
ロ 平成4年分ないし平成7年分の各更正処分等について
(イ)平成4年分の更正処分の手続等
 原処分に係る調査の状況等は、上記イの(イ)で述べているとおりであり、請求人が主張するような違法と認められる事実はない。
(ロ)不動産所得の金額
A 管理費
(A)異議審理の担当者が調査したところ、上記イの(ロ)のAの(A)及び次の事実が認められる。
a 請求人は、平成5年9月10日、原処分の調査担当者に対し、次の内容の申述をしていること。
(a)請求人とW社の間に、本件土地の管理業務に関する契約書はない。
(b)管理費支払に係る委託業務の内容は、大雨等により土砂が流出した時などに保全をすること、地代の交渉をすること、地主と借主の間に入って、賃料収入の保全をすること、本件土地が担保に供されていることから、(競売等されないように)管理することなどである。
(c)管理費の額は、大体このぐらいだろうということで算定しており、計算の根拠はよくわからない。
(d)管理費については、仮払金と相殺されており、現金等の授受はない。
(e)請求人としては、賃貸収入の全部を会社(W社)の収入としたい考えがあった。
(f)平成2年8月1日から現在までの約3年間にW社が行った実際の管理業務は、(1)借主のT社の財政事情が悪くなったことが2、3回あり、その都度T社に行って話をしたこと、(2)3年間で10回以上、雨が降った時、ドライブかたがた本件土地を見に行ったことである。
(g)W社の経理上、本件土地の管理に伴う費用の支出は、この3年間にはない。
b 本件土地の地代は、T社からJ銀行H支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○□)へ直接振り込まれていること。
(B)ところで、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき金額について、所得税法第37条《必要経費》第1項は、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、当該規定から明らかなように必要経費となる費用の額とは、支払者の内心の意図にかかわらず、その業務の遂行上、かつ、一般的に必要であると客観的に認められる費用の額をいう。
 したがって、本件管理費が不動産所得の金額の計算上、必要経費となるか否かを判断するに当たっては、W社が請求人との本件土地の管理委託契約に基づいて請求人に提供した役務の内容、性質、提供の程度等を総合的に検討して、不動産の貸付けとしての業務の遂行上必要な費用であるか否か、また、一般的に必要であると認められる費用であるか否かを検討することになる。
(C)そこで、これを本件についてみると、T社と請求人との両当事者間で直接交わされた平成2年7月31日の賃貸借契約に基づき、本件土地は平成3年4月1日までに現実の引渡しがすべて完了しているため、法律上、賃貸借の存続期間における本件土地の維持管理義務は、賃借人であるT社が負うことになっており、また、請求人がT社へ本件土地を賃貸することとなった時点で、請求人とW社との間における業務委託管理(本件土地の転貸業務)は終了しており、そのことを前提として請求人は、W社に対して総額600,000,000円の補償金を支払っていることからすると、もはや本件土地の賃貸借に関係してW社が介入する余地はないものといわなければならない。
 また、W社が現に行ったと主張する管理業務の内容についてみると、それらは法人たるW社が実施したというよりも、請求人自身が賃貸人の立場で行ったものと評価すべきものであり、実際上もW社が本件土地の賃貸借開始後の3年間、本件土地の管理に伴う費用を支出していないことからすれば、これらの行為を委託業務とみ得るとしてもいずれも経常的なものでなく、税務上当該業務の対価たる管理費として毎月継続的に支払う必要性は認められない。
 さらに、本件土地の担保提供に伴う危険負担については、請求人はT社から2,000,000,000円という高額な借地権利金を受領した上、担保の追加提供に当たって、300,000,000円の預り保証金を受領していることから、保証されていると認められ、W社が対価を得て危険負担する必要性が認められないことなどからすると、本件管理費は、業務の遂行上必要であったとは認められず、また、一般的には支払う必要のない費用であると認められ、平成4年分が30,000,000円、平成5年分ないし平成7年分がそれぞれ21,000,000円という著しく高額な管理費の支払は純経済人の行動としても極めて不自然、不合理であって、W社が請求人を株主とし、かつ、代表取締役とする同族会社であるからこそ、このような管理費名目の支払がなされたものといわざるを得ない。
 結局のところ、請求人が管理費の名目でW社に金員を支払った真意が、請求人自身としては本件土地の開発や造成をW社が主体となって行ったとの認識があることから、本件土地に係る収益の相当部分をW社に帰属させたいとの意図によるものとしても、上記のとおり、開発、造成行為自体の経済的負担者からみた税法上の評価は請求人の認識と異にするところであるから、そこに必要経費としての費用性を認めることはできない。
 したがって、本件管理費は、不動産所得の金額の計算上、必要経費の額に算入することはできない。
B 不動産所得の金額
 平成4年分の不動産所得の金額は、確定申告書に記載された収入金額47,321,958円に、P市R町のKに係る家賃100,000円を加算した47,421,958円から、必要経費の額5,726,811円(確定申告書に記載された必要経費の額35,726,811円から上記Aの(C)の管理費相当額30,000,000円を減算した金額)を控除して算定すると41,695,147円となり、異議決定を経た後の更正処分に係る不動産所得の金額と同額となるから、平成4年分の更正処分は適法である。
 また、平成5年分ないし平成7年分の各不動産所得の金額は、確定申告書に記載された金額に上記Aの(C)の管理費相当額21,000,000円をそれぞれ加算して算定すると、平成5年分が39,041,218円、平成6年分が37,969,397円、平成7年分が37,154,656円となり、いずれも更正処分に係る不動産所得の金額と同額となるから、平成5年分ないし平成7年分の各更正処分はいずれも適法である。
(ハ)平成4年分の重加算税の賦課決定処分及び平成5年分ないし平成7年分の過少申告加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成4年分ないし平成7年分の更正処分はいずれも適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当せず、過少申告加算税の賦課決定要件を満たしているから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った平成4年分の重加算税の賦課決定処分及び平成5年分ないし平成7年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)平成2年分の更正処分等及び再更正処分等について

イ 更正処分の手続等
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のAのとおり更正処分の手続の違法を主張して原処分の取消しを求めている。
 しかしながら、税務調査における質問検査権を行使するに当たり、調査結果の説明などの実施細目については、実定法上特段の規定はなく、その権限を有する税務職員の合理的な裁量にゆだねられていると解するのが相当であるところ、原処分の調査担当者が修正申告のしょうように際し、請求人に対し、調査結果を具体的に説明しなかったとしても違法ではないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のBのとおり異議審理手続の違法を主張して原処分の取消しを求めている。
 しかしながら、異議審理手続の違法を理由として原処分の取消しを求めることはできないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 分離長期譲渡所得の金額
(イ)本件10億円の収入すべき時期について争いがあるので、以下審理する。
A 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(A)平成2年7月31日、請求人は、T社との間でA土地に係る賃貸借契約を締結していること。
(B)請求人は、T社から平成2年4月6日、200,000,000円、同年7月31日、1,750,000,000円、同年8月10日、50,000,000円の合計2,000,000,000円を受領し、本件権利金及び本件10億円の支払を受けていること。
(C)本件権利金及び本件10億円の合計2,000,000,000円は、建物の所有を目的とする賃借権の設定の対価であり、本件土地の価額の10分の5に相当する金額を超えることから、譲渡所得の収入金額に該当すること。
(D)請求人は、分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件権利金及び本件10億円をそれぞれ平成2年分及び平成3年分の収入金額に算入していること。
B 請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)本件契約証書の第1条、第2条、第3条、第4条及び第14条には、次の内容が記載されていること。
a 第1条 請求人は、A土地をT社に賃貸し、T社はこれを賃借することを約し、B土地については、後日賃貸することを約した。
b 第2条 A土地の賃貸借の期間は30年間とする。ただし、B土地の賃貸借契約を締結した場合の賃貸借の期間は、A土地の賃貸借期間満了の時までとする。
c 第3条 T社は請求人に対し本件賃貸借契約にもとづく権利金として金10億円を交付し、請求人はこれを受領した。権利金については賃貸借契約の中途解約及び期間満了等理由の如何を問わず一切返還しないものとする。B土地については、現時点では賃貸借契約ができない状態であり、賃貸借契約が可能になり次第T社は、請求人と賃貸借契約を締結したいので、T社は、請求人に対して、その前払金として金10億円を差し出すものとする。ただし、この前渡金については利息は付さないものとする。
d 第4条 賃料はA土地について1か月200万円と定め毎月末日限りその翌月分を請求人の指定する方法により支払うこと。B土地については、1か月150万円とし、賃貸借契約を締結し、明渡しを行った後、前記金額と合わせ前記方法により支払う。前記の賃料は期間中であっても租税公課、その他の負担等の増減、その他経済上の変動により近隣土地の賃料に比較して不相当となったときは、これを増額することができるものとする。前記の場合において改訂賃料の額が相当である場合は相手方はこれに応じるものとする。
e 第14条 特約の1.請求人は、本件土地を売買する場合には、T社を第一優先として協議する。2.賃料の更改は3年毎とし、3年目の1か月前に行う。3.T社は、本件土地に請求人の承認する金融機関より金20億円を限度として抵当権設定のための担保提供の申出をなすことができる。4.B土地の賃貸借契約の時期は、現在、他に賃貸借契約を締結しており、その相手方との契約解約及び明渡しが完了した時とする。
(B)本件契約証書には、本件土地の10筆それぞれについて、所在地、地目及び面積により表示されているが、A土地及びB土地については、別紙図面として添付された航空写真の写しに赤色鉛筆で本件土地の中央付近に直線が引かれ、この直線を境にして一方にA、他方にBと記載され表示されているのみであること。
(C)本件契約証書には、A土地及びB土地のそれぞれの面積は定められていないこと。
(D)請求人は、平成2年7月31日、本件土地に債務者をT社、根抵当権者をL銀行、極度額を2,000,000,000円とする根抵当権を設定したこと。
(E)請求人は、W社に対し、立退料として平成2年7月31日に200,000,000円、同年10月3日に400,000,000円の合計600,000,000円を支払っていること。
(F)請求人は、昭和47年ころから本件土地をW社に対して賃貸し、その後、W社は、平成2年7月31日にA土地を請求人に明け渡し、A土地に係る賃貸借契約が解約され、また、W社は、平成3年3月31日に請求人にB土地を明け渡し、B土地に係る賃貸借契約が解約されたこと。
(G)W社は、昭和55年1月21日、V社に対し、a土地を転貸し、その後、平成2年7月31日、a土地に係る賃貸借契約が解約されV社からa土地の明渡しを受けたこと。
(H)W社は、昭和55年1月21日、X社に対し、β土地を転貸し、その後、X社から平成2年7月31日にb土地の、また、平成3年3月31日にB土地の明渡しをそれぞれ受け、平成3年3月31日までにβ土地に係る賃貸借契約が解約されたこと。
(I)請求人は、T社に対し、平成2年8月1日にA土地を、さらに、平成3年4月1日にB土地をそれぞれ引き渡したこと。
(J)請求人は、T社に対し、平成2年4月6日付で200,000,000円を受領した旨の領収証を発行していること。
(K)Dは、当審判所に対し、次の内容の答述をしていること。
a 平成2年7月31日の段階で、A土地及びB土地の賃貸借契約が成立したものと考えており、B土地については、引渡しが平成3年4月1日まで遅れただけだと考えている。
b 請求人との間でB土地に係る賃貸借契約書を別途取り交わしていない。
c 本件土地の賃貸借に係る契約の交渉の中で、請求人からB土地については、平成3年3月まで中古車販売会社が使用する必要があるので、B土地の引渡しは、それまで待ってほしいと言われた。
(L)X社がβ土地を賃借する際の交渉、X社に対する賃料の値上げ交渉及び請求人からのX社の立退きの交渉の窓口となったY社のM部長は、当審判所に対し、b土地については、平成2年7月31日までに請求人に明け渡したが、その際、請求人との間でB土地については、平成3年3月までに明け渡すことで話が決まっていた旨答述したこと。
(M)請求人は、当審判所に対し、次の内容の答述をしていること。
a 平成2年4月6日ころ、本件土地の賃貸借契約に係る借地権利金20億円の手付金として20億円の一割に当たる2億円をDから受け取った。
b T社との間で取り交わした賃貸借契約書は、本件契約証書以外にはない。
c X社に対する解約の申入れは、T社から手付金を受け取った平成2年4月6日の時点には、もちろん話をしていた。申入れをすると、X社から、すぐに解約されても困るから何か月か待ってもらいたいと言われ、平成3年3月まで貸すことになった。
(N)原処分庁は、請求人に対し、平成6年1月25日付で請求人が平成3年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、収入金額として算入していた本件10億円を零円、同年分の分離長期譲渡所得の金額を零円とする減額の更正処分をしていること。
C 請求人は、譲渡所得の収入すべき時期については、資産を引き渡した日であるとして取り扱うべきであるとして、本件権利金は、請求人がT社に対してA土地を引き渡した日の平成2年8月1日の属する平成2年分の収入金額であるが、本件10億円は、請求人がT社に対してB土地を引き渡した日である平成3年4月1日の属する平成3年分の収入金額である旨主張するので検討する。
D ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項の規定によれば、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とするとされているところ、譲渡所得の収入すべき時期については、当該資産の所有権が相手方に移転した時期が、重要な要素となることはいうまでもないが、課税の公平や担税力に応じた課税の実現という見地からすると、所有権の移転という法的評価だけでなく、資産の増加益の利得という経済的利益の確定的に発生する時期がいつであるかについても考慮を払う必要があり、これらを総合して収入すべき時期を判定するのが相当である。
 請求人の主張するとおり、所得税基本通達36―12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》によれば、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、当該譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとされているが、これは、資産の引渡しがあれば、それまでに所有権が移転しているのが通常であり、また、引渡しによって代金を相手方に請求できることが確定的になることから、引渡しの日をもって譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期であるとすることに合理性があると認められるからにほかならず、上記の解釈と矛盾するものではない。そして、資産の引渡しがあった日とは、民法上の引渡しすなわち占有の移転に限定するものではないと解するのが相当であり、当該資産についての当事者間で行われる支配の移転の事実、例えば、土地の譲渡の場合には、所有権移転登記に必要な書類等の交付、譲渡代金の収受等の事実に基づいて総合的な見地から判断すべきである。
 また、土地の賃貸に際し借地権等の設定の対価として多額の権利金等を受け取る場合には、その金額の性質は、単に地代の前払というにとどまらず、その土地の独占的利用権ないし場所的利益の譲渡の対価としての意味合いをもち、経済的、実質的には、地主はその土地の更地価額のうち土地の利用権に当たる部分を半永久的に譲渡することによってその土地に対する投下資本の大半を回収し、地主には底地部分に対するわずかの地代収益権が残されるにすぎないものと認められ、その土地の利用権部分についてはその段階でキャピタル・ゲインの清算をするのが適当であることから、所得税法施行令第79条の規定により、その借地権等の設定の対価としてその土地の価額(地下又は空間について上下の範囲を定めたものである場合には当該価額の2分の1)の10分の5に相当する金額を超える金額の支払を受けるときは、資産の譲渡があったものとみなされるのであって、その場合の譲渡所得の収入すべき時期についても、上記と同様に取り扱うのが相当であると認められる。
E そこで、本件についてみるに、上記Aの(B)並びにBの(B)ないし(F)、(K)、(L)及び(M)のとおり、(1)請求人は、平成2年7月31日までに本件権利金及び本件10億円の合計2,000,000,000円の97.5パーセントに相当する1,950,000,000円を受領し、同年8月10日までにはその全額を受領していること、(2)本件契約証書に定められたA土地及びB土地は、それぞれの境界が明確でなく、かつ、面積も確定しておらず、それぞれの区分があいまいであり、請求人及びT社の双方において、A土地及びB土地を一体のものとして扱っているものと考えるのが自然であること、(3)請求人とT社との間でB土地の賃貸借に係る契約書が取り交わされていないこと、(4)平成2年7月31日に本件土地の全体についてT社を債務者とする根抵当権が設定されており、仮に根抵当権が実行されればB土地も含めて本件土地の全体が請求人の手もとから離れることになること、(5)遅くとも平成2年7月31日の時点では、X社は、B土地から平成3年3月に立ち退くことが確定していたこと、(6)T社においては、平成2年7月31日にA土地及びB土地の賃貸借契約が成立したものと認識していること、(7)請求人は、平成2年10月3日までに、W社に対し支払うこととした本件土地に係る立退料600,000,000円の全額を支払っていることの各事情を総合考慮すれば、平成2年7月31日の時点において、B土地についても賃貸借契約が成立しており、また、同日までに本件権利金及び本件10億円の合計2,000,000,000円のうち1,950,000,000円が受領されたことにより、資産の増加益のほぼすべての利得が確定的に発生しているものと認められるから、平成2年7月31日にB土地の引渡しがあったものと認めるのが相当である。
 したがって、本件10億円の譲渡所得の収入すべき時期については、平成2年7月31日と認めるのが相当である。
F 請求人は、A土地については、平成2年7月31日の時点で賃貸借契約は成立しているが、B土地については、平成2年7月31日の時点でX社がB土地を使用収益中であったことから賃貸借の予約をしたのであり、当該賃貸借契約が成立したのは、請求人からB土地の引渡しを受けたT社がB土地の使用収益を開始することにより請求人に対し賃貸借契約を完結する旨の意思表示をなした平成3年4月1日である旨主張する。
 しかしながら、現在居住する者を立ち退かせて賃貸するという場合には、一般に予約ではなく賃貸借契約が成立し、賃貸人は、遅滞なく賃借人を立ち退かせて使用収益させる債務を負うものと解するのが相当であるととともに、将来の特定の日から貸すという契約がされたときには、賃貸借契約が期限付に成立している場合が多いと解すべきであるところ、B土地についても、上記Eのとおり各事情を総合考慮すれば、本件契約証書では賃貸借の予約の体裁を採っているものの、A土地と同様、平成2年7月31日の時点において賃貸借契約が成立しているものと認めるのが相当である。
G 以上のことから、原処分庁がB土地に係る本件10億円を平成2年分の収入金額とし、同年分の収入金額を2,000,000,000円と認定したことは相当であり、請求人の主張は採用できない。
(ロ)買換資産
 請求人が措置法第37条第4項に規定されている買換資産を取得することができる期限として原処分庁が承認した平成5年12月31日までに買換資産を取得していないことから、平成2年分の分離長期譲渡所得の金額の算定に当たり、本件特例を適用することができないことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ハ)取得費
 取得費は、措置法第31条の5第1項の適用により、上記(イ)のGの収入金額2,000,000,000円に100分の5を乗じて算出すると100,000,000円となる。
(ニ)譲渡費用
A 本件土地に係る賃貸借契約の解約に伴うW社に対する立退料の額について争いがあるので、以下審理する。
(A)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
a 請求人は、平成2年7月31日、W社に対し、200,000,000円、同年10月3日に400,000,000円の合計600,000,000円の金員を支払っていること。
b 上記aの金員について、請求人は、平成2年分及び平成3年分の分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として、それぞれ300,000,000円を収入金額から控除していること。
(B)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
a W社は、昭和46年8月18日に貸駐車場の経営等を目的として設立された請求人を代表取締役とする同族会社で、請求人は筆頭株主としてその発行済株式総数10,000株(額面1,000円)のうちの74パーセントに当たる7,400株を保有していること。
b W社は、本件土地を昭和47年3月1日からY社に対して賃貸し、その後、昭和55年1月ころに賃貸借契約を合意解約して、上記(イ)のBの(G)及び(H)のとおり、V社及びX社に対して賃貸していること。Y社の賃料の額は、当初月額600,000円、以後、昭和50年6月1日から月額800,000円、昭和52年4月1日から月額1,000,000円に改定されたこと。なお、W社は、Y社に対して立退料を支払っていないこと。
c W社は、上記bのとおり、V社及びX社に対し、a土地及びβ土地をそれぞれ転貸しているが、両社と賃貸借契約を解約するに際し、いずれも立退料の話合いがもたれておらず、実際に立退料を支払っていないこと。
d W社とV社との間で取り交わされたa土地に係る賃貸借契約書には、a土地をV社の社用車両並びにV社の従業員の通勤車両のみの置場として使用するものとし、それ以外の目的のために使用してはならないと定められていること。
 また、W社とX社との間で取り交わされたβ土地に係る賃貸借契約書には、X社の自動車保管場所として賃貸借すると定められていること。
e 昭和59年契約書には、賃貸借期間の定めがないこと。
f V社のa土地に係る賃料は、昭和55年1月21日から平成2年7月31日まで月額100,000円であること。
g X社のβ土地に係る賃料は、昭和55年1月21日から昭和61年7月31日までが月額700,000円、昭和61年8月1日から平成3年3月31日までが月額900,000円であること。
h W社の本件土地に係る賃料は、W社がA土地を明け渡す平成2年7月31日までが月額300,000円で、以後、W社がB土地を明け渡して賃貸借契約が解約される平成3年3月31日までが月額150,000円であること。
i T社は、平成2年3月30日、L銀行から本件権利金及び本件10億円の支払に充てる2,000,000,000円の全額を借り入れていること。
j T社は、平成2年4月6日、請求人に対し、本件権利金及び本件10億円の合計2,000,000,000円の一割に当たる200,000,000円を手付金として支払っていること。
k W社の代表取締役である請求人は、当審判所に対し、次の内容の答述をしていること。
(a)賃貸借契約の解約に際して、W社とV社及びX社のいずれの側からも立退料の話は出ていない。したがって、W社は、V社及びX社に対して立退料を支払っていない。
(b)本件土地は、バラスを敷いた更地であり、X社はβ土地を中古車の駐車場として、V社はa土地を会社用の駐車場として使用しており、それぞれの境界については地面にロープを張って区別していた。
(c)昭和46年8月18日にW社を設立し、その後しばらくしてから請求人とW社との間で本件土地に係る賃貸借契約を締結したが、現在、当該賃貸借契約を証する契約書は見当たらない。
 なお、当該賃貸借契約に契約期間の定めはなかった。
l 本件土地に係る平成2年度の固定資産税の額は、2,222,095円であること。
(C)ところで、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の譲渡によって所有者に帰属する値上り益を精算して課税するものであるから、譲渡所得の金額の計算上控除すべき譲渡費用の範囲については、「値上り益を実現させるため」の費用性の有無、換言すれば「資産を他に移転させるため」の費用性の有無により判断すべきであり、そうすると譲渡費用とは、「譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用」に限られると解すべきである。
(D)これを本件についてみると、(1)一般に、更地に係る賃貸借契約の解約の際に立退料を支払う慣行は認められず、上記(B)のc、d及びkのとおり、本件土地についても、V社及びX社が更地の状態で駐車場として使用していたところ、W社が両社に対して賃貸借契約の解約の申入れをなすに際して、両社との間で立退料についての話合いがもたれておらず、実際立退料が支払われていないこと、(2)W社の賃料300,000円は、V社及びX社の合計賃料1,000,000円と比較してかなり低額で、本件土地に係る固定資産税相当額に近い額であり、W社が請求人を筆頭株主とし、かつ、代表取締役とする同族会社なるがゆえにこのような低額の賃料での賃貸借が可能であったものと認められ、形式的には賃貸借という法形式を採っているものの、実質的には使用貸借に近いものと認められることを考慮すれば、請求人がW社に対して立退料を支払う必要性は認められないと解するのが相当である。
(E)なお、請求人は、W社が本件土地に係る造成工事費用を負担しており、借地権を有することから、造成工事費用を負担していない場合よりも多額の立退料を支払う必要があると判断した旨主張して、当審判所に対し、(1)昭和59年契約書、(2)本件土地に係る登記済証、(3)W社の昭和59年8月1日から昭和60年7月31日までの事業年度(以下「昭和60年7月期」といい、以下同様に表示する。)、昭和61年7月期、昭和62年7月期、昭和63年7月期、平成元年7月期、平成2年7月期及び平成3年7月期に係るそれぞれの総勘定元帳(以下「各元帳」という。)を提出した。
 そこで、当審判所がこれらの資料を調査したところ、次の事実が認められる。
a 本件土地に係る登記済証には、昭和46年9月21日、借主をW社、貸主をN信用組合、極度額30,000,000円とする根抵当権の設定がされていることからW社が同信用組合から同金額の借入れをしたことはうかがえるが、借り入れた当該資金の使途が本件造成費用であることを裏付ける資料の提出がないこと。
b W社の昭和58年8月1日から昭和59年7月31日までの事業年度以前の帳簿書類の提出がないこと。
c 昭和59年契約書には、第5条に「借主は貸主に対し敷金として金三阡万円を設定することを了解した。」及び第10条に「敷金は借主が本契約に基づく義務の履行を終わった時に返還するものとする。ただし、借主が地代の支払を怠ったときは貸主は敷金をもってその弁済に充てることができる。なお敷金は無利息とする。」並びに第11条の特約事項に「敷金について当賃貸物件は(株)Wが(株)Yと賃貸契約を開始して以来年々造成又は補修を加え約五千万円位の費用を投じて改良を加えているもので、それに応えるものである。」と記載されていること。
d 昭和60年7月期の総勘定元帳によれば、W社は昭和59年8月1日に次のとおり経理処理を行っていること。

(単位 円)
借方科目金額貸方科目金額
仮払金50,000,000借入金(S信用組合)50,000,000
(請求人)
敷金30,000,000仮払金(請求人)30,000,000
(請求人)

e 平成2年7月期及び平成3年7月期の各総勘定元帳によれば、上記dの請求人への敷金30,000,000円については、A土地に係る賃貸借契約が解約された平成2年7月31日に15,000,000円が、B土地に係る賃貸借契約が解約された平成3年3月31日に15,000,000円が、それぞれ請求人への仮払金勘定に振り替えられていること。
f 平成3年7月期の総勘定元帳によれば、請求人への仮払金は当該事業年度においてすべて返済されていること。
g 各元帳によれば、本件土地について、通常土地の造成工事を行った(負担した)際に計上する土地、借地権などの資産勘定が計上されていないこと。
(F)以上の各事実からすれば、(1)W社が、昭和59年7月31日以前において、本件土地に係る造成工事費用を負担した事実を確認することができないこと、(2)W社が請求人に対して50,000,000円を支払い、そのうち30,000,000円を本件土地に係る敷金とした事実は認められるものの、W社は当該敷金30,000,000円を請求人への仮払金に振り替えた後、請求人から仮払金の返済を受け、また、残余の20,000,000円についても同様に返済を受けていること、(3)W社が本件土地について借地権又はその他の経済的権利を有しているのであれば、各元帳には、土地、借地権などの資産勘定が計上されているはずのところ、当該各元帳にはこれらの資産勘定が計上されていないことから、W社が本件土地に係る造成工事費用を負担していたということはできず、また、本件土地について借地権又はその他の経済的権利を有していたと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
B 譲渡費用
 以上のとおり、請求人がW社に対して立退料を支払うべき必要性は存しないことから、請求人の分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件A立退料及び本件B立退料を譲渡費用として収入金額から控除することはできない。
 そうすると、譲渡費用は、本件契約証書に係る印紙代200,000円となる。
 したがって、この点に関しては、請求人の主張、原処分庁の主張とも採用することはできない。
(ホ)分離長期譲渡所得の金額
 以上により、請求人の分離長期譲渡所得の金額は、別表3の分離長期譲渡所得の金額の計算の「当審判所認定額」欄に記載のとおり1,898,800,000円となり、異議決定を経た後の更正処分を前提になされた再更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額を上回ることとなるから、平成2年分の更正処分及び再更正処分はいずれも適法であり、請求人の主張には理由がない。
ハ 平成6年1月25日付の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成2年分の更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に基定する正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の賦課決定要件を満たしているから、原処分庁が同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は適法である。
ニ 平成7年2月17日付の過少申告加算税の賦課決定処分
 請求人が買換えの修正申告書を提出しなかったことについて、正当な理由があるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、原処分庁に対し、平成2年分の所得税の確定申告書の提出に際し、本件特例を受けるため、買換資産として建物、その取得価額の見積額を1,000,000,000円及びその取得予定年月日を平成4年12月1日とする申請をしたこと。
B 原処分庁は、上記Aの申請を承認したこと。
C 請求人は、原処分庁に対し、本件特例の買換資産の取得予定年月日を平成5年12月31日とする期限延長の申請をしたこと。
D 原処分庁は、上記Cの申請を承認したこと。
E 請求人は、平成5年12月31日までに買換資産を取得しなかったことから、当該買換資産の取得期限から4か月以内の平成6年5月2日までに買換えの修正申告書を提出し、かつ、当該修正申告書の提出により納付すべき税額を納付しなければならない義務が生じたこと。
F 請求人は、平成6年3月3日、更正処分について不服があるとして異議申立てをしたこと。
G 請求人は、買換えの修正申告書を提出等する義務が生じたことについては承知していたが、更正処分に係る税額が当該買換えの修正申告に係る税額を上回るため、法律上、買換えの修正申告書を提出することができず、また、更正処分に係る課税標準を修正前の金額として買換えの修正申告書を提出することも、異議申立て係属中の更正処分を結果的に認めてしまうことになることから、買換えの修正申告の対処方法について苦慮していたこと。
(ロ)ところで、更正を受けた者に係る修正申告については、国税通則法第19条第2項において、更正処分を受けた者は、その更正処分に係る税額に不足額があるときには、その更正処分に係る税額を修正する納税申告書を提出することができる旨規定されており、更正処分に係る税額を下回る税額でもって、修正申告をすることは認められていない。
 したがって、確定申告に際し、本件特例の申請をし、承認を受けた後、更正処分を受け、その後、買換資産の取得期限までに買換資産を取得しなかったため、買換えの修正申告書を提出する義務が生じたが、更正処分に係る税額が、確定申告に係る課税標準を修正前の金額とした買換えの修正申告に係る税額を上回るような場合は、確定申告に係る課税標準を修正前の金額とした買換えの修正申告をすることは許されない。また、更正処分がなされると、その前になされた確定申告は、更正処分に吸収され更正処分と一体のものとなると解されていることからしても更正処分がされた後においては、確定申告に係る課税標準を修正前の金額として買換えの修正申告をすることはできないと解するのが相当である。
 このような場合、買換えの修正申告書を提出しようとすれば、更正処分に係る課税標準を修正前の金額とした修正申告書を提出するほかないが、修正申告がされた場合、納付すべき税額は増額された部分を含む全額が即時確定し、その限りで先になされた更正処分は当該修正申告に吸収されて消滅し、その存在意義を失うと解されていることから、更正処分について不服申立てをしようとする場合において、買換えの修正申告書の提出を要求するとすれば、法が不服申立てを認めた趣旨が没却されてしまうことになる。
 したがって、このような場合においては、買換えの修正申告書を提出しなかったことについて、やむを得ない事由があるものと認めるのが相当である。
(ハ)そして、本件においても、買換えの修正申告書の提出期限が経過するまでの間に、更正処分に対する異議申立てがされたものであるから、請求人が買換えの修正申告書を提出しなかったことについては、やむを得ない事由があったものと認められる。
(ニ)なお、原処分庁は、本件においては、義務的修正申告期限までに、請求人から義務的修正申告をしなければならない旨の申立てや不服申立てにおける取消請求額の減殺の意思表示はされておらず、原処分庁の調査によって買換資産が取得されていない事実が明らかになったので再更正処分を行ったものである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が主張する義務的修正申告をしなければならない旨の申立てや不服申立てにおける取消請求額の減殺の意思表示の手続については、法律上に規定がなく、請求人がこのような手続を踏まなかったことをもって、請求人を不利益に扱うことはできないものと認められる。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。
(ホ)以上のとおり、請求人が買換えの修正申告書を提出しなかったことについては、やむを得ない事由があったものと認められることから、再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、再更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認めるのが相当である。
 したがって、平成7年2月17日付でされた過少申告加算税の額を26,209,500円とする賦課決定処分は、その全部を取り消すのが相当である。

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(2)平成4年分ないし平成7年分の各更正処分等について

イ 平成4年分の更正処分の手続等
 請求人は、上記2の(1)のロの(イ)のとおり更正処分の手続及び異議審理手続の違法を主張して原処分の取消しを求めている。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、原処分の調査担当者が修正申告のしょうように際し、請求人に対し、調査結果を具体的に説明しなかったとしても違法ではなく、また、異議審理手続の違法を理由として原処分の取消しを求めることはできないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 不動産所得の金額
(イ)本件管理費が、不動産所得の金額の計算上、必要経費の額に算入できるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
A 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(A)請求人は、平成3年分ないし平成7年分の不動産所得の金額の計算上、本件土地の管理費として、平成3年分が15,000,000円、平成4年分が30,000,000円、平成5年分が21,000,000円、平成6年分が21,000,000円及び平成7年分が21,000,000円をそれぞれ必要経費の額に算入していること。
(B)請求人が、平成4年分の不動産所得の金額の計算上、本件土地の管理費として、必要経費の額に算入した30,000,000円のうち6,000,000円については、平成3年分の未払金であり、平成4年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費の額に算入できないこと。
B 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、平成2年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費の額に本件土地の管理費を計上していないこと、他方、W社は平成3年7月期の決算上、本件土地の管理料を雑収入又は売上げに計上していないこと。
(B)W社は、本件土地の管理料として、平成3年11月29日に15,000,000円を雑収入に、平成4年12月1日に30,000,000円を売上げにそれぞれ計上していること。
(C)W社は、経理上、本件土地の維持管理に係る実費を支出していないこと。
(D)請求人は、原処分の調査担当者に対して、次の内容の申述をしていること。
a W社との間で管理業務の委託契約書は、作成していない。
b 管理業務の内容としては、本件土地における大雨による土砂流出等についての管理のほか、いろいろである。
c 管理費の金額については、このぐらいだろうということで計上したものである。むしろ、T社からの賃料については、私としては、全部W社の収入としたい考えがあった。
d 管理費については、毎年12月に私がW社に対して有する仮払金と相殺されており、現金等の授受はない。
e 平成2年7月31日から約3年間に、実際に行った管理としては、T社の経営が悪化したことが2回から3回あり、その都度行って話をしたことと、同日から3年間に10回以上、雨が降った時ドライブかたがた見に行ったことである。
f その約3年間に、W社の経理上管理業務に係る費用の実際の支出は特にない。
(E)請求人は、当審判所に対して、次の内容の答述をしていること。
a 管理費の額については、W社が本件土地の造成工事費用を負担していることを考慮して税理士の指導で算定した。
b W社の管理業務の内容としては、現地へ行って土地の状況を確認すること及びT社の経営状態の情報収集である。
c 土地の状況の確認としては、私や従業員が平成2年8月1日から3年間で10回以上、本件土地に溝が発生して土砂が流出等していないか状況を見に行ったことである。
d T社の経営状態の情報収集については、経営状態が悪化したことが何度かあったが、具体的に私がどういう情報収集をやったかについては、相手に悪いから言えない。
e 本件土地の保全のための工事については、平成2年8月1日以後やっていない。
f W社は、T社から土地の造成等について、これといった相談を受けていない。
g 平成2年中もW社は、管理業務をしているが、管理費を受け取らなかっただけである。
h 請求人とW社との間になされた本件土地に係る管理委託契約の締結日については、覚えていない。
i 日誌、報告書等の管理業務に係る書類は、一切作成していない。
C 上記の各事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
(A)請求人は、W社に対し、本件管理業務を委託しており、W社が管理業務として、T社の経営状態についての情報収集及び月1回から2回本件土地の現状の確認を行っている旨主張する。
 しかしながら、(1)管理業務を委託する場合には、その内容、報酬に関する規約等を明らかにするために、通常契約書が作成されるにもかかわらず、本件管理業務の委託に関しては契約書が作成されていないこと、(2)請求人は、W社といつ本件管理業務の委託契約を締結したか覚えていない旨答述するなど本件管理業務の委託に関する請求人の答述があいまいであること、(3)W社は、通常管理業務を行っておれば作成するはずの管理行為の内容を明らかにする日誌、報告書等の書類を一切作成していないこと、(4)管理行為に係るW社の経理上の支出がないこと、(5)管理費の額については、本件管理業務の性格からすると、本来、管理業務の実績に応じて算定されるべきところ、請求人は、平成2年もW社は管理業務をしているが、管理費を受け取らなかった旨答述し、また、管理費の額については、大体このくらいだろうということで計上した旨申述しており、管理費の額が管理業務の実績に応じて合理的に算定されているとは認められないこと、(6)管理業務の内容は、将来、T社が本件土地の造成及び本件土地上に建物の新築、増築等を行う際のT社との間の相談業務及び請求人がT社のため本件土地を金融機関に対し担保に提供したことに伴うT社の経営状態についての情報収集業務といった程度のもので、あえて高額の報酬を支払ってまで第三者に委託しなければならないものとは認められないことからすれば、請求人とW社との間で真実本件管理業務の委託契約及びそれに基づく管理行為がなされたと認めることはできない。
 なお、請求人は、W社が本件管理業務として、T社の経営状態についての情報収集及び月1回から2回本件土地の現状の確認を行っている旨主張し、請求人は、それに沿う答述をするが、T社の経営状態についての情報収集としていかなる活動を行ったか明らかにしない上、本件土地の現状の確認についても、それを裏付ける資料を提出せず、W社の経理上本件管理業務に係る費用の支出がないこと及び本件管理業務の実績を明らかにする書類が作成されていないことからすれば、W社はこれら管理業務を行っていないものと認めざるを得ず、この点に関する請求人の答述を信用することはできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(B)また、請求人は、W社が本件土地に係る造成費用総額の40パーセント程度の費用を負担しており、請求人とW社との間において、W社が本件土地の40パーセント程度の経済的権利を有しているものとの了解があることから、請求人がT社から収受した地代のうちW社の有する経済的権利部分についても管理費の名目で支払ったものであり、本件管理費は、業務の遂行上、必要性がある旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの(ニ)のAの(F)のとおり、W社が本件土地に係る造成工事費用を負担していたということはできず、また、本件土地について経済的権利を有していたとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(C)そうすると、原処分庁がW社に対する本件管理費を不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入できないとしたことは相当であり、請求人の主張には理由がない。
(ロ)不動産所得の金額
 平成4年分ないし平成7年分の収入金額及び管理費を除く必要経費の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 そうすると、平成4年分の不動産所得の金額は、別表4の不動産所得の金額の計算のとおり41,695,147円となり、異議決定を経た後の更正処分に係る不動産所得の金額と同額となるから、平成4年分の更正処分は適法であり、また、平成5年分ないし平成7年分の不動産所得の金額は、別表4の不動産所得の金額の計算のとおり平成5年分が39,041,218円、平成6年分が37,969,397円、平成7年分が37,154,656円となり、いずれも更正処分に係る不動産所得の金額と同額となるから、平成5年分ないし平成7年分の各更正処分はいずれも適法であり、請求人の主張には理由がない。
ハ 平成4年分の重加算税の賦課決定処分及び平成5年分ないし平成7年分の過少申告加算税の各賦課決定処分
 以上のとおり、平成4年分ないし平成7年分の各更正処分はいずれも適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の賦課決定要件を満たしているから、原処分庁が同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った平成4年分の重加算税の賦課決定処分及び平成5年分ないし平成7年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表2 物件目録


(単位 平方メートル)
番号所在地 地目 面積
1Q市U町2617番原野396
2Q市U町10194番山林1,359
3Q市U町10195番1山林1,459
4Q市U町10197番1山林7,699
5Q市U町10198番1山林6,615
6Q市U町10198番3山林1,211
7Q市U町10199番山林2,228
8Q市U町10200番山林6,304
9Q市U町10204番1山林3,056
10Q市U町10205番山林926

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