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(平9.6.24裁決、裁決事例集No.53 193頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、年金を受給中の者であるが、平成5年分、平成6年分及び平成7年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告書に次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
確定申告
総所得金額2,789,0502,838,4122,935,499
(雑所得の金額)
納付すべき税額△57,700△74,640△69,180

(注)△印は還付金の額に相当する税額を示す。以下同じ。
 原処分庁は、これに対し、平成8年5月30日付で、各年分の所得税について次表のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
更正処分
総所得金額3,320,9253,376,8683,486,901
(雑所得の金額)
納付すべき税額△4,500△31,520△22,345

 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年7月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年10月9日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分の手続について
 原処分庁は、原処分庁の職員が確定申告時の納税相談の際に確認・検討の上相当であるとしたため提出した確定申告書の金額について、2年以上経過した後に本件更正処分をした。
ロ 更正処分について
 原処分庁は、株式会社F(以下「従前勤務先」という。)が、退職積立年金制度(以下「本件年金制度」という。)に基づいて請求人に支給した年金(以下「本件年金」という。)の額(以下「本件年金額」という。)は、各年分とも所得税法第35条《雑所得》第3項に規定する公的年金等(以下「公的年金等」という。)に該当し、かつ、各年分の本件年金額のうち原資部分の金額である100万円も課税対象になるとして本件更正処分をしたが、次のことから課税対象とはならない。
(イ)従前勤務先の退職手当金規程(以下「本件退職金規程」という。)の定めに基づく請求人の退職手当金は、いわゆる「退職手当」であるところ、所得税法第30条《退職所得》(昭和63年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第2項には、退職所得の金額を「その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とする」と定義しているだけで、一時に受給したものに限るとの表現はないから、請求人の退職手当金の額12,652,000円(以下「本件振替前退職金額」という。)は、同項に規定する「退職手当等」に該当し、退職所得の金額の算定基礎金額となる。
 ところで、本件振替前退職金額は、従前勤務先における請求人の勤務年数である42年に対応する退職所得控除額1,600万円を下回るから、退職所得の金額の算定基礎とした本件振替前退職金額には所得税はかからない。
 したがって、本件振替前退職金額から本件年金の原資として振り替えた1,000万円(以下「本件振替額」という。)を、本件年金の支給年数である10で除したものからなる本件年金額のうちの100万円は、課税対象にならないこと。
(ロ)本件年金の原資は、本件振替前退職金額から振り替えることとされているが、振替時期は退職の直前であるから、退職後直ちに拠出する場合における拠出時期との期間の差は無いに等しい。
 ところで、原処分庁は、所得税法第30条に規定する「退職手当」は一時に受給したものに限られる旨主張するところ、前記のことからすれば、本件振替前退職金額から振り替えることは、本件振替前退職金額を一時に受給後直ちに拠出した場合と同様のことだと思われるから、本件振替額は退職手当等の収入金額に該当すること。
(ハ)所得税法第35条第3項第2号には、公的年金等に含まれるものとして「過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金」を掲げているところ、その原資が、退職する者の希望により退職手当金の一部からなり、かつ、それを従前勤務先に預託するという形で運営される本件年金制度のようなものに基づくものはこれに該当せず、公的年金等に含まれる私的年金以外の私的年金に該当すると考えられること。
(ニ)年金の受給者が原資を負担している場合に課税対象となる額は、所得税基本通達35―5《受給者が掛金をきょ出することにより退職後その使用者であった者から支給される年金》(以下「本件通達」という。)の定めのとおり、年金受給額から当該負担額相当額を控除した後の金額であること。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分の手続について
 税務当局が実施している納税相談の制度は、専ら行政サービスの一環として、税法の解釈、運用又は申告手続等について納税者からの相談に応じるものであり、納税相談を行った上で確定申告書を提出したものであっても、その後その内容と異なる課税処分ができないものではなく、その課税処分が違法となるものではない。
ロ 更正処分について
 本件年金額は、次のことから、各年分とも公的年金等に該当し、かつ、原資部分の金額である100万円も課税対象となる。
(イ)所得税法第30条第2項に規定している「退職手当等」は、同条第1項の規定を受けたものであり、これを「退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」と定義しているところ、本件振替額は、退職に際し一時に受給したものではないから、同項に規定する退職手当等の収入金額に該当しない。
 したがって、退職手当等の収入金額は、請求人が退職に際し一時に受け取った2,652,000円となること。
(ロ)本件年金は、請求人の従前勤務先への勤務事実に基づき、従前勤務先から支給されるものであるから、所得税法第35条第3項第2号に規定する「過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金」に該当すること。
(ハ)本件通達には、「在職中に使用者に対して所定の掛金をきょ出することにより退職後当該使用者であった者から支給される年金の収入金額は、その年中に支給される年金の額から受給者がきょ出した掛金(支給開始日までにその掛金の運用益として元本に繰り入れられた金額を含む。)の額を基として所得税法施行令第82条の3《適格退職年金の額から控除する金額》の規定に準じて計算した金額を控除した金額による」旨定め、掛金の拠出がある場合に限られているところ、本件年金は、請求人が従前勤務先を退職したことにより受ける本件振替前退職金額の一部を一時に受け取らず、それを原資としてその運用益とともに受け取るものであって、請求人が在職中に従前勤務先に対して拠出した掛金の額はないから、本件通達は適用できないこと。
ハ 雑所得の金額(総所得金額)の計算
(イ)公的年金等の収入金額
 本件年金額は、前記ロのとおり、その総額が公的年金等となるところ、請求人は、本件年金以外にも公的年金等に該当する年金を、次表のとおり社会保険庁及びF厚生年金基金から受け取っているので、各年分の公的年金等の収入金額は、次表の「合計」欄のとおりとなる。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
社会保険庁2,658,6982,724,5142,853,964
F厚生年金基金507,102507,102507,102
従前勤務先2,164,7002,164,7002,164,700
合計5,330,5005,396,3165,525,766

(ロ)公的年金等控除額
各年分の公的年金等控除額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
公的年金等控除額2,009,5752,019,4482,038,865

(ハ)雑所得の金額
 各年分の雑所得の金額は、前記(イ)の各年分の公的年金等の収入金額から前記(ロ)の各年分の公的年金等控除額をそれぞれ控除した次表の金額となるところ、請求人には、これ以外に所得があるとは認められないので、雑所得の金額がそのまま総所得金額となる。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
雑所得の金額3,320,9253,376,8683,486,901

 以上の結果、各年分の総所得金額は、本件更正処分に係る各年分の総所得金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正処分に係る手続の違法性の有無及び本件振替額の課税の可否にあるので、以下審理する。

(1)更正処分の手続について

 請求人は、原処分庁の職員が確定申告時の納税相談の際に確認・検討の上相当であるとしたため提出した確定申告書の金額について、2年以上経過した後に本件更正処分をしたのは違法である旨主張する。
 しかしながら、税務当局が実施している納税相談は、専ら行政サービスの一環として行っているものであり、その後その内容と異なる課税処分ができないものではなく、その課税処分が違法となるものではない。
 また、申告納税制度は、納税者が所得金額を自主的に申告する制度であるところ、本件更正処分は、原処分庁が調査した結果、課税標準額等が申告額と異なっていたため、国税通則法第24条《更正》及び同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項の規定に基づいて行ったものであるから違法ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

イ 請求人の生年月日が昭和2年9月3日であることについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査においてもその事実が認められる。
ロ 請求人が提出した資料、原処分関係資料及び当審判所が収集した資料によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件退職金規程の第14条には、「定年で退職した者に支給する退職手当金(特別措置分を除く)は、本人の選択によりその一部又は全部を年金として支給する」旨、また、「その年金の支給に関する具体的取扱いは、別に定める退職積立年金規程(以下「本件年金規程」という。)の定めによる」旨記載されていること。
(ロ)本件年金規程の第1条には、「本件年金規程は、本件退職金規程第14条に基づき本件年金制度に関する事項を定めたものである」旨記載されていること。
(ハ)本件年金規程の第3条には、「年金の受給を希望する者は、定年退職時に退職手当金から年金原資を一括拠出するものとする」旨記載されていること。
(ニ)従前勤務先が請求人に交付した「退職積立年金のご案内」と題する文書の「2」には、「年金の原資は退職手当金から差し引くことになっており、現金で支払うことは認められない」旨記載されていること。
(ホ)従前勤務先が請求人に交付した昭和62年分の退職所得の源泉徴収票には、退職手当等の支払金額が2,652,000円、源泉徴収税額が零円と記載されていること。
ハ 以上のことから判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件振替前退職金額は、所得税法第30条第2項に規定する退職手当等の収入金額に該当し、その金額が退職所得控除額を下回るため所得税はかからないので、そのうちから年金原資に振り替えた本件振替額相当額は課税対象にはならない旨主張する。
 しかしながら、所得税法第30条第1項には「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下、この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう」と規定し、「退職手当等」という言葉を定義しているところ、同条第2項に規定する「退職手当等」は、この定義を受けたものであるから、「退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」を意味することになる。
 一方、本件退職金規程の第14条には、前記ロの(イ)のとおり、「退職手当金は、本人の選択によりその一部又は全部を年金として支給する」旨定められているから、本件退職金規程に基づいて算定された退職手当金の総額が、常に一時金として支給されるとはいえない。
 ところで、本件振替額は、請求人が前記ロの(ハ)の本件年金規程の第3条の定めを受けて、本件振替前退職金額からその一部を年金原資に振り替えたものであるから、本件振替前退職金額から本件振替額を差し引いた残額である一時金で受給する部分のみが、所得税法第30条第2項に規定する退職手当等の収入金額に該当する。
 したがって、年金で受給する本件振替額相当額は、所得税法第30条第2項に規定する退職手当等の収入金額に該当しないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件振替額の本件年金の原資への振替時期が、退職後直ちに拠出する場合の拠出の時期とほぼ同じであることを理由に、本件振替額の本件年金の原資への振替は、本件振替前退職金額を一時に受給後直ちに拠出したのと同様のことだとして、本件振替額は退職手当等の収入金額に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件振替額が所得税法第30条第2項に規定する「退職手当等の収入金額」に該当するか否かは、本件振替額が一時に受給したものであるかどうかで判断するものである。
 したがって、一時に受給したものでない本件振替額は、振替の時期が退職後直ちに拠出した場合の拠出の時期とほぼ同じであるとしても、退職手当等の収入金額には該当しないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、その原資が、退職する者の希望により退職手当金の一部からなり、かつ、それを従前勤務先に預託するという形で運営される本件年金制度のようなものに基づく年金は、所得税法第35条第3項第2号に規定する「過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金」には含まれないと考えられる旨主張する。
 広く一般に採用されている退職手当金及び退職年金に関する制度の例として、(a)退職手当金だけを支給するもの、(b)退職手当金と退職年金(退職年金の原資は、すべて会社が負担)を併給するもの等がある。
 従前勤務先が採用している制度は、基本は退職手当金だけの支給としながら、退職者の希望次第では、当該退職手当金の一部(又は全部)については、運用益とともに年金として支給するというものである。
 このことは、前記の(b)の例における退職手当金の額と退職年金の原資部分の額との合計額が(a)の例における退職手当金の額と同額である場合において、基本は(a)の例によることとしながら、退職者の希望により(b)の例の制度(退職者が年金の原資として希望する額が退職手当金の全部の例にあっては、(b)の例の制度において退職手当金の額が零円となる。)に移行するのと実質上同じことである。
 したがって、本件年金は、広く一般に採用されている前記の(b)の例の制度における年金と実質上変わりないことになる。
 そして、広く一般に採用されている前記の(b)の例の制度における年金は、所得税法第35条第3項第2号に規定する「過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金」に該当し、原資部分の金額も課税対象とされている。
 本件年金の原資は、前記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり本件振替前退職金額の一部からなるものであるところ、本件振替前退職金額は、請求人の従前勤務先への勤務事実に基づいて支給されるものであり、また、本件年金の根拠規程である本件年金規程は、前記ロの(イ)のとおり、本件退職金規程を受けて従前勤務先が定めたものである。
 このことからすれば、本件振替額を原資とする本件年金は、正に「過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金」に該当することになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件通達の定めを根拠に、受給者が年金の原資を負担している場合の課税対象額は、年金受給額から当該負担額相当額を控除した後の金額となる旨主張する。
 本件通達には、「在職中に使用者に対して所定の掛金をきょ出することにより退職後当該使用者であった者から支給される年金は、所得税法第35条第3項第2号に規定する公的年金等とする」旨定められている。
 ところで、本件通達にいう「きょ出」という言葉は、自己の所有に属する金品を出し合うことを意味するものであるところ、本件振替額は、退職後年金として受給するものであって、年金原資への振替時には請求人の所有に属さないものである。
 したがって、本件振替額の年金原資への振替は、本件通達にいう「きょ出」には該当しないため本件通達の定めは適用されないから、本件通達の定めが適用されることを前提とした、この件に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、各年分の本件年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当し、本件年金額のすべてが課税対象となる。

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(3)雑所得の金額(総所得金額)の計算

イ 公的年金等の収入金額
 各年分の公的年金等の収入金額は、原処分庁の算定に誤りはないから、次表のとおりである。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
公的年金等の収入金額5,330,5005,396,3165,525,766

ロ 公的年金等控除額
 請求人の生年月日は、前記(2)のイのとおり昭和2年9月3日であるから、平成5年12月31日現在の年齢は満66歳となる。
 したがって、各年分の公的年金等控除額は、所得税法第35条第4項及び第5項の規定に基づいて算定した次表の金額となる。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
公的年金等控除額2,009,5752,019,4482,038,865

ハ 雑所得の金額
 各年分の雑所得の金額は、前記イの各年分の公的年金等の収入金額から前記ロの各年分の公的年金等控除額をそれぞれ控除した次表の金額となるところ、請求人にはこれ以外に所得があるとは認められないから、雑所得の金額がそのまま総所得金額となる。

(単位 円)
区分平成5年分平成6年分平成7年分
雑所得の金額3,320,9253,376,8683,486,901

 以上の結果、各年分の総所得金額は、いずれも本件更正処分に係る総所得金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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