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(平9.5.30裁決、裁決事例集No.53 205頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、給与所得者(勤務医師)であるが、平成5年分の所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにa税務署長に提出した。
 a税務署長は、これに対して、平成6年9月30日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
総所得金額△3,043,24319,620,757
内訳
給与所得の金額19,970,75719,970,757
譲渡所得の金額△23,014,000△350,000
雑所得の金額0
納付すべき税額△5,498,006△326,006
過少申告加算税の額517,000

(注)「総所得金額」欄及び「譲渡所得の金額」欄の△印を付した金額は、損失の額を示し、「納付すべき税額」欄の△印を付した金額は、源泉徴収に係る所得税の還付金の額に相当する税額を示す。以下同じ。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年11月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年2月15日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年3月15日に審査請求をした。
 なお、請求人は、平成6年12月26日に住所をP市R町3丁目1番12―301号からQ市S町3丁目3番13―603号へ異動したことが、平成7年5月18日に判明した。これに伴い、原処分庁は、a税務署長からb税務署長となった。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、平成5年11月25日に、株式会社H(以下「H社」という。)が経営するHカントリー倶楽部ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を500,000円で譲渡したことにより、22,664,000円の損失(以下「本件譲渡損失」という。)が生じたため、本件譲渡損失とJカントリークラブのゴルフ会員権を譲渡したことによる譲渡損失350,000円を他の所得の金額(給与所得の金額19,970,757円)と損益通算した確定申告書をa税務署長に提出した。
(ロ)a税務署長は、これに対し、(a)本件ゴルフ会員権は預託金会員制ゴルフ会員権であること、(b)本件ゴルフ場が競売により他人の所有となったこと、(c)本件ゴルフ場への立入り禁止の仮処分がなされたこと及び(d)H社に対する会社更生手続開始の申立てが裁判所に受理されたことから、本件ゴルフ会員権については、本件ゴルフ場に係る施設優先利用権(以下「本件施設利用権」という。)が消滅し、単なる預託金返還請求権という金銭債権だけとなったとみるべきであり、本件譲渡損失は、金銭債権の譲渡による損失であって譲渡所得の金額の計算上生じた損失に当たらないから、所得税法第69条《損益通算》第1項に規定する損益通算は適用できないとして更正処分をした。
(ハ)しかしながら、次の理由により、本件施設利用権は消滅しておらず、本件ゴルフ会員権が預託金返還請求権という金銭債権になったということにはならないから、本件譲渡損失は、所得税法第69条第1項に規定する譲渡所得の金額の計算上生じた損失というべきであり、他の所得の金額と損益通算することができないとしてなされた更正処分は、法律の解釈を誤った違法な処分である。
A H社は、本件ゴルフ場と「K」ゴルフ場(以下「Kゴルフ場」という。)の2か所のゴルフ場施設を所有、経営し、さらに「L」ゴルフ場(以下「Lゴルフ場」という。)の開場を予定していたところ、M株式会社(以下「M社」という。)が、H社に対する貸金債権回収を名目に、上記ゴルフ場敷地に設定した担保権を実行し、競売の結果、M社の子会社である株式会社N(以下「N社」という。)が、本件ゴルフ場の敷地の一部を取得した。
 H社は、M社の担保権実行は、ゴルフ場の乗っ取りを図るものであるとして、M社と法的に争うとともに、競売の結果本件ゴルフ場を利用できなくなった本件ゴルフ会員権の所有者(以下「本件ゴルフ会員権者」という。)に対し、平成4年10月19日に、Kゴルフ場を代わりに提供する旨を通知した。
 一方、N社も、本件ゴルフ会員権者に対し、一般より有利な条件で「T」ゴルフ場(N社取得後の本件ゴルフ場をいい、以下「Tゴルフ場」という。)の会員募集又は仮申込みの勧誘をするとともに、仮申込みをしていない本件ゴルフ会員権者に対しても優先的に、かつ、有利な料金でTゴルフ場の利用を認めた。
 このように、本件ゴルフ会員権者は、競売の結果、本件ゴルフ場を利用できなくなったけれども、H社が、本件ゴルフ会員権者に対し、代替ゴルフ場を提供したのも、N社が一般に優先してTゴルフ場の利用を認めようとしたのも、本件施設利用権の存在を尊重したからにほかならないのであって、本件施設利用権を失ったわけではない。
B H社が経営し又は開場を予定していた本件ゴルフ場、Kゴルフ場及びLゴルフ場の会員権の所有者有志で結成した「H有志の会」(以下「H有志の会」という。)の代表者らは、平成4年9月29日に、M社、N社及びM社の代表取締役であるWを相手に、施設利用権確認訴訟を○○地方裁判所(以下「○○地裁」という。)に提起し、さらに、○○地裁に対し、H社の会社更生手続開始の申立てをしたところ、○○地裁は平成5年3月26日に、この申立てを受理し、同年8月27日に、H社につき保全管理人による管理を命ずるとともに、H社の一切の財産の管理を保全管理人の管理下に置いた。
 次いで、H有志の会は、平成6年5月30日に、○○地裁に対し、速やかにH社につき会社更生手続開始決定を行うこと及び更正計画において、一定の条件の下、本件ゴルフ会員権者に対し、本件施設利用権を保障することを求める要望書を提出した。
 その後、○○地裁は、平成6年12月にH社につき会社更正手続開始決定をなしたが、更正計画の策定には至っていない。
 一般に、会社更生手続においては、まず裁判所により会社更生手続開始決定がなされると、その時点から会社更生手続が開始し、更生会社に対し手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権は更正債権となる。
 そして、更正債権は、裁判所が定める債権届出期日までに裁判所に届け出ることを要し、届け出られた更生債権は、債権調査手続を経て確定され、確定した更生債権については、更生計画において権利の変更がなされる。
 本件ゴルフ会員権も更正債権であり、それは、本件施設利用権と預託金返還請求権を内容とする権利であって、更生計画において権利の変更がなされ、単なる金銭債権と決定されるまでは、単に、その権利の実行が禁止されているにすぎず、権利の一部又は全部が消滅するものではない。
 また、会社更生手続開始申立て受理から会社更生手続開始決定までは、通常数か月の期間があるが、その間においても、保全管理命令により権利の実行は禁止されるのが通例であり、請求人が本件ゴルフ会員権を譲渡した時期は、保全管理期間中である。
 このように、請求人が、本件ゴルフ会員権を譲渡した平成5年11月25日時点においては、本件ゴルフ会員権は本件施設利用権を内包しており、本件ゴルフ場の競売により、事実上その権利行使が妨げられ、また、会社更生手続の申立てに伴う保全管理命令により、法律上その権利の行使が一時的に禁止されていたにすぎない。
 このような状況下にあるゴルフ会員権の価値が著しく下落することは当然であるが、そのことがゴルフ会員権の性格を変更するものでないことは、資産が無に帰した会社の株式や更生会社の株式がほとんど無価値になっても更生計画による権利の変更前は依然として株式であることに変わりのないことと同様である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)異議審理庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人が、a税務署長に提出した平成五年分所得税の確定申告書及び付属書類には、ゴルフ会員権の譲渡に関して次表のとおりの記載があること。

(単位 円)
会員権Jカントリークラブの会員権本件ゴルフ会員権
項目
譲渡年月日平成5年9月2日平成5年11月25日
譲渡価額2,500,000500,000
取得価額2,500,00021,700,000
名義書換料等350,0001,464,000
譲渡所得の金額△350,000△22,664,000

B M社は、平成3年9月2日に△△地方裁判所××支部(以下「△△地裁」という。)に対して、H社が所有する次の本件ゴルフ場の敷地及び家屋(以下「本件不動産」という。)の競売を申し立てたこと。
(A)X市c町1339番3所在の山林ほか313筆合計653,752.16平方メートル。
(B)X市d町1352番所在の山林714平方メートルの持分3分の2。
(C)X市e町2935番39所在の山林770平方メートルの持分2分の1。
(D)X市e町2935番7所在の家屋番号2935―7の家屋ほか13棟。
C △△地裁は、平成3年9月9日に、上記BのM社の競売の申立てに基づき本件不動産の競売手続を開始したこと。
D N社は、平成4年6月25日に、本件不動産を競売により落札したこと。
E △△地裁は、平成4年7月29日に、同年8月1日以降、本件不動産への本件ゴルフ場の従業員及びN社の従業員以外の立入りを禁止する旨の公告をしたこと。
F ○○地裁は、平成5年3月26日にH社に係る会社更生法の申請を受理していること。
G 本件ゴルフ会員権は、本件施設利用権を内包する預託金会員制のゴルフ会員権であること。
(ロ)所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しているが、ここに規定する譲渡所得の基因となる資産とは、同条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、借家権又は行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれていると解されている。
(ハ)預託金会員制のゴルフ会員権とは、当該ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場の経営会社に入会保証金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずる(a)当該ゴルフ場施設の優先利用権、(b)預託金据置期間経過後、退会時の預託金返還請求権、(c)年会費納入義務という債権債務からなる契約上の地位を総称したものであると解されている。
 したがって、預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡はこのような契約上の権利(ゴルフクラブの会員たる地位)の譲渡であり、当該権利は譲渡所得の基因となる資産に該当することから、預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡による所得は譲渡所得の対象となる。
 しかしながら、ゴルフ場を所有又は経営する会社の倒産などでゴルフ場施設が閉鎖され、当該ゴルフ場施設の優先利用権が消滅した場合には、当該ゴルフ会員権の譲渡は、当該ゴルフ場経営会社に対する金銭債権である預託金返還請求権のみを譲渡したものと解され、その結果、譲渡所得の対象となり得ず、雑所得の対象となる。
(ニ)所得税法第69条第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを各種所得の金額から控除する旨規定している。
(ホ)以上の事実等を総合勘案すると、次のとおり判断される。
A 上記(イ)のCないしGの各事実に照らせば、請求人が本件ゴルフ会員権を譲渡した平成5年11月25日時点における本件ゴルフ会員権については、本件ゴルフ場の経営母体であるH社との規約に基づき保障されていた本件施設利用権が消滅しており、その結果、預託金返還請求権の債権のみとなっているから、上記(ハ)で述べたとおり、本件ゴルフ会員権の譲渡により生ずる所得は、譲渡所得の対象とはなり得ず、雑所得の対象とすべきである。
B したがって、本件譲渡損失は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失ではなく、雑所得の金額の計算上生じた損失に該当し、請求人の他の所得の金額と損益通算することはできないから、更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡損失を譲渡所得の金額の計算上生じた損失として、他の所得の金額と損益通算することができるか否かにあるので審理したところ、次のとおり判断される。

(1)更正処分について

イ 請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)M社は、平成3年9月2日に、△△地裁に対し、H社が所有する本件不動産について、抵当権に基づく不動産競売申立てをしたこと。
(ロ)△△地裁は、M社の本件不動産に係る競売申立てに対し、平成3年9月9日に、不動産競売開始決定をするとともに、平成4年6月25日に、最高価買受けの申出をしたN社に対して売却許可決定をしたこと。
 また、N社は、平成4年7月13日に△△地裁に買受代金208億円を納付して本件不動産の所有権を取得したこと。
(ハ)N社とH社の間で、N社が本件ゴルフ会員権に係る債権債務を引き継ぐ旨の合意がなされた事実はないこと。
(ニ)H有志の会が、同会の会員に対して送付した書面には、N社は、平成4年7月23日付で、本件ゴルフ会員権者に対し、1,500万円の追徴金を支払う者に限り会員としての資格を認める旨の書面を送付してきたと記載されていること。
(ホ)N社は、平成4年7月28日に、△△地裁に対し、本件不動産に対する保全命令の申立てをし、同地裁は、同月29日に、「(a)本件不動産に対するH社の占有を解いて執行官に保管を命ずる。(b)執行官は、平成4年7月31日までの間、同月2日現在の会員名簿に登録されている本件ゴルフ会員権者等に対してゴルフプレーをさせることを限度としてH社に本件不動産の使用を許す。(c)H社は、平成4年8月1日から本件不動産の引渡命令の執行までの間、H社の従業員で、かつ、N社が指定した者並びにN社の取締役及び従業員以外の者を本件不動産に立ち入らせてはならない。」旨の決定をしたこと。
(ヘ)M社は、H社に対し、本件ゴルフ場の敷地のうちH社が地権者から賃借していたX市f町2711番6ほか128筆合計350,528.85平方メートルの土地(以下「本件借地」という。)に係る賃借権について譲渡担保権を設定していたところ、M社は、当該譲渡担保権を実行するとともに、平成4年8月18日に、△△地裁に、H社に対する本件借地の明渡し訴訟を提起したこと。
(ト)N社は、平成4年9月18日付で、本件ゴルフ会員権者に対し、同年8月13日付で、同年9月21日より特別縁故会員の募集を開始する予定である旨を記載した書面を送付したが、当分の間、正式募集は延期する旨、仮申込みについては引き続き受け付ける旨及び特別縁故会員の募集要綱の概要についてはゴルフ会員権の市中相場等を考慮し、最終的に見直している旨を記載した書面を送付したこと。
(チ)H社は、平成4年10月19日付で、本件ゴルフ会員権者に対し、本件ゴルフ場の閉鎖により、平成4年8月1日以後のプレー不可能となったため、次の条件でKゴルフ場を利用させる旨を記載した「ご案内」と題する書面を送付したこと。
A プレー期間は平成4年10月25日から平成5年3月末日まで。
B プレー指定日は正会員が月、金、日曜日の3日間、平日会員が月、金曜日の2日間。
C グリーン・フィは10,000円、ただしプレー指定日以外はKゴルフ会員と同伴でビジター料金。
(リ)M社は、平成4年11月5日に、△△地裁に対し、本件借地の使用を求める仮処分の申立てをし、同地裁は、同年12月3日に、M社に本件借地の使用を認める旨の決定をしたこと。
(ヌ)N社は、本件不動産及び本件借地からなるゴルフ場施設をTゴルフ場として、平成4年12月19日に仮オープンしたこと。
 なお、N社は、Tゴルフ場の運営を株式会社T(M社の全額出資の子会社)に委託したこと。
(ル)Tゴルフ場を利用する際のグリーン・フィは、仮申込会員が1,000円、仮申込みをしていない本件ゴルフ会員権者が5,000円、ビジターが平日7,500円、土、日、祝日12,500円(ビジターについては、平成5年4月1日以後、平日10,000円、土、日、祝日20,000円に改定)とされていること。
(ヲ)H有志の会の代表者らは、○○地裁に対し、H社の会社更生手続開始の申立てをし、同地裁は、平成5年3月26日に当該申立てを受理したこと。
(ワ)請求人は、本件ゴルフ会員権を、Y市A町3丁目1番1号に所在する株式会社Zから、平成3年4月12日に、23,164,000円(会員権代金21,700,000円、名義書換料等1,464,000円)で取得し、平成5年11月25日に、B市C町7丁目12番7号に所在するD株式会社に500,000円で譲渡したこと。
(カ)○○地裁は、平成6年12月2日に、H社について会社更生法による更生手続開始決定をし、その旨を同法の規定に基づき関係人に通知したこと。
(ヨ)本件ゴルフ会員権は、本件ゴルフ場に係る預託金会員制のゴルフ会員権であること。
ロ 所得税法第69条第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得の金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法施行令第198条《損益計算の順序》に定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
ハ また、所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しているところ、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりにより、その資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨であることからすれば、同法第33条第1項にいう資産とは、同条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、その資産には、取引慣行のある借家権又はいわゆる反射権と呼ばれる行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利など一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、その資産の価値の増加益又は損失を生ずるすべての資産が含まれるものと解するのが相当である。
 なお、金銭債権の譲渡により生じた利益は、その債権の元本の増加益、すなわち資産の価値の増加益そのものではなく金利に相当するものであり、また、金銭債権の譲渡により生じた損失については、その損失が当該譲渡により実質的に贈与したと認められる場合を除き、当該損失の金額に相当する金額の貸倒れによる損失が生じたものとして、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項若しくは第4項、同法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》又は同法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定を適用することとされていることから、金銭債権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当しないと解するのが相当である。
ニ ところで、預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場の経営会社に入金保証金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずる(a)ゴルフ場施設の優先利用権、(b)預託金返還請求権、(c)年会費納入等の義務という債権債務からなる契約上の地位を総称したものであるところ、当該ゴルフ会員権の譲渡は、預託金返還請求権、年会費納入等の義務と併せてゴルフ場施設の優先利用権、すなわちゴルフ場施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できるという事実上の権利を譲渡するものとして、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するものと解されている。
 しかしながら、ゴルフ場施設の優先利用権は、その行使の対象となるゴルフ場施設が利用できることを前提としているところ、ゴルフ場を所有又は経営する会社が倒産するなどして、ゴルフ場施設が売却され他人の所有となるなどし、かつ、ゴルフ場を所有又は経営する会社のゴルフ会員権に係る債権債務が新所有者に引き継がれなかったことにより、ゴルフ場施設が利用できなくなった場合には、当該施設利用権は消滅することとなり、この場合の預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡は、ゴルフ場経営会社に対する金銭債権である預託金返還請求権のみを譲渡するものとして、譲渡所得の基因となる資産の譲渡には該当しないと解するのが相当である。
ホ これを本件についてみると、上記イの(イ)、(ロ)、(ハ)、(ホ)、(ヘ)、(リ)及び(ワ)のとおり、(a)本件不動産について、M社の競売申立てに基づき、平成4年6月25日にN社に対して売却許可決定がされたこと、(b)N社は、平成4年7月13日に買受代金を納付して本件不動産の所有権を取得したこと、(c)N社は、H社から本件ゴルフ会員権に係る債権債務を引き継がず、平成4年7月28日に、△△地裁に、本件不動産に対する保全命令の申立てをし、同地裁は、同月29日に「H社は、平成4年8月1日から本件不動産の引渡命令の執行までの間、H社の従業員で、かつ、N社が指定した者並びにN社の取締役及び従業員以外の者を本件不動産に立ち入らせてはならない」旨の決定をしたこと、(d)M社は、本件借地に係る賃借権に設定していた譲渡担保権を実行したこと、(e)M社は、平成4年11月5日に、△△地裁に対し、本件借地の使用を求める仮処分の申立てをし、同地裁は、同年12月3日に、M社に本件借地の使用を認める旨の決定をしたこと、(f)その後の平成5年11月25日に請求人が本件ゴルフ会員権を譲渡したことが認められる。
ヘ そうすると、請求人が、本件ゴルフ会員権を譲渡した平成5年11月25日の時点において、本件施設利用権の行使の対象となる本件ごルフ場は利用できなくなっており、本件ゴルフ会員権に内包されていた本件施設利用権は消滅していたものと認められるから、本件ゴルフ会員権の譲渡は、金銭債権である預託金返還請求権のみを譲渡したものとして、譲渡所得の基因となる資産の譲渡には該当しないこととなる。
ト したがって、本件譲渡損失は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失には該当せず、また、所得税法第26条《不動産所得》、同法第27条《事業所得》及び同法第32条《山林所得》の各規定に照らし、不動産所得、事業所得及び山林所得の各金額の計算上生じた損失にも該当しないから、同法第69条第1項に規定する損益通算の適用をすることはできない。
チ 請求人は、本件ゴルフ会員権者に対し、H社が代替ゴルフ場としてKゴルフ場を提供したのも、N社が一般に優先してTゴルフ場の利用を認めようとしたのも、本件施設利用権の存在を尊重したからにほかならないのであって、本件施設利用権が消滅したわけではない旨主張する。
 しかしながら、(a)H社は、本件ゴルフ場の経営会社として、本件ゴルフ会員権者に対して本件ゴルフ場の提供ができないことの社会的、道義的責任に対する配慮から、上記イの(チ)のとおり一部制限を設けてKゴルフ場を提供したものであって、本件施設利用権が存在することを前提としてこれを提供したものとは認められないこと、(b)N社が、本件ゴルフ会員権者に対し、一般より有利な条件でTゴルフ場を利用させたことは認められるものの、その利用条件には上記イの(ル)のとおり仮申込みをした者と仮申込みをしていない本件ゴルフ会員権者に差が設けられている上、会員権取得に当たっても、上記イの(ニ)及び(ト)のとおり相応の対価の支払が前提とされていることからすれば、この取扱いは、会員権募集のための経営上の施策であって、本件施設利用権の存在を前提としたものとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
リ 請求人は、本件ゴルフ会員権を譲渡した時期はH社の会社更生法による保全管理期間中であり、権利の行使の制限はされていても、更生計画における権利の変更がなされていないから、本件施設利用権は消滅していない旨主張する。
 しかしながら、H社に係る会社更生手続の申立てが受理される前に本件不動産の所有権がN社に移転し、△△地裁によりN社が指定した者等以外の者を本件不動産に立ち入らせてはならない旨の保全命令がなされたこと及びM社により本件借地に係る賃借権に設定されていた譲渡担保権が実行され、△△地裁によりM社に本件借地の使用を認める旨の仮処分がなされたこと並びにN社はH社から本件ゴルフ会員権に係る債権債務を引き継いでいないことから、本件施設利用権は、その行使の対象となる本件ゴルフ場が利用できなくなったため、更生計画における権利の変更を待つまでもなく消滅したと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヌ 以上のとおり、本件譲渡損失は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失には該当せず、他の所得の金額と損益通算することはできないから、更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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