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(平9.1.21裁決、裁決事例集No.53 275頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、父F(以下「被相続人」という。)が平成5年2月12日に死亡したことにより、他の共同相続人G、H及びJ(これらの共同相続人3名を以下「他の相続人ら」という。)とともに、平成5年10月23日付で「遺産分割協議書」(以下「本件遺産分割協議書」という。)を作成し、被相続人の財産をそれぞれ相続した。
(2)請求人は、上記(1)により取得したP市R町5丁目2461番2の山林3,174.00平方メートル(以下「本件土地」という。)を平成5年11月27日にP市R町に在住するKに288,000,000円で譲渡した。
(3)請求人は、本件土地に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、租税特別措置法(平成6年法律第22号改正前のもの。以下「措置法」という。)第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》を適用し、平成5年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
(4)原処分庁は、これに対し、措置法第39条に基づき計算した取得費の額に加算される相続税額(以下「取得費の額に加算される相続税額」という。)の計算に誤りがあるとして、平成6年7月12日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(5)請求人は、これらの処分を不服として、平成6年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月5日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年12月27日に審査請求をした。
(6)なお、その後の平成7年12月28日に請求人から相続税の修正申告書(以下「本件相続税修正申告書」という。)が提出されたことにより、措置法第39条の適用金額が変更されることとなったため、原処分庁は、平成8年1月26日付で上表の「再更正処分等」欄のとおり、再更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、措置法第39条及び租税特別措置法施行令(平成6年政令第110号改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第25条の15《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》(以下、両規定を併せて「本件規定」という。)を適用するに当たり、この法令解釈として、平成5年12月16日付課資3―2ほか1課共同「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」39―14《代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の取得費加算額の計算》(以下「本件通達」という。)を引用し、本件譲渡所得の金額を算定している。
 しかしながら、請求人は、本件規定に従って本件譲渡所得の金額を適法に計算したものであり、原処分庁がした更正処分は次の理由から違法である。
(イ)本件規定には、代償金を負担して取得した相続財産を譲渡した場合の取得費に加算する相続税額について、本件通達で定めるような算定方法は明文で規定されていないのであるから、本件通達に基づき本件譲渡所得の金額を算定するのは租税法律主義の原則に反する。
(ロ)本件通達に基づいて本件譲渡所得を計算すると、取得費に加算する相続税額は本件規定をそのまま適用したものに比べ少額となり、納税者に不利な取扱いとなる。
 したがって、本件規定を適用するに当たって、たとえ、本件通達に定める取扱いをしなければ課税上不合理な事態が生ずるとしても、国税庁の通達は、国税庁内部の規範であり、納税者に不利となることを通達に定め、その解釈を納税者に強いることは許されるものではないから、法令の拡張解釈又は類推解釈をした本件通達の適用は租税法規の解釈原則に反する。
 なお、相続税法基本通達(以下「相続税通達」という。)11の2―9《代償分割が行われた場合の課税価格の計算》は、納税者に有利な取扱いであるから、解釈原則には反しないものである。
(ハ)また、本件通達は、本件土地の譲渡の日である平成5年11月27日以後の同年12月16日付で制定されているのであるから、本件土地の譲渡に本件通達を適用することはそ及禁止の原則に反する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)措置法第39条第1項は、相続により財産を取得した者がその取得した資産を譲渡した場合、譲渡所得の計算において措置法施行令第25条の15に定める金額を取得費に加算する旨規定し、措置法施行令第25条の15第2項は、当該取得費に加算する額は、その者の相続税額に係る相続税法第11条の2《相続税の課税価格》に規定する課税価格のうちにその者が取得した土地等(物納した土地等及び物納申請中の土地等を除く。)の課税価格の占める割合を乗じて計算した金額である旨規定している。
(ロ)そして、相続税法第11条の2に規定されている相続税の課税価格については、代償分割が行われた場合についての明文の規定がないことから、その課税価格を合理的に計算するため、相続税通達11の2―9において代償債務の額を控除した金額とする旨定めている。
(ハ)そのため、本件通達においては、上記(ロ)の取扱いとの整合性を図るため、代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の取得費に加算する相続税額は、課税価格に算入されたすべての土地等の相続税評価額及び譲渡資産の相続税評価額を圧縮して計算する旨定めている。
 このことは、土地等の相続税評価額をそのままにして本件規定により計算をすると、その取得費に加算する相続税額が、その者の相続税額を上回るという不合理な事態が生ずるからである。
(ニ)したがって、本件規定及び相続税法第11条の2の趣旨からすれば、相続により取得した土地等から控除する代償金の額は、取得した土地等と土地等以外の資産の区分に応じ、課税価格に占める割合を基に、それぞれから代償金の額を控除することが合理的である。
(ホ)請求人は、本件規定には、代償金を支払って取得した場合の取得費加算の計算をしなければならない旨は明文で規定されておらず、租税法律主義の原則に反すると主張するが、原処分における法令の解釈は合理的なものであり、本件規定を拡張解釈又は類推解釈したものではない。
 また、請求人は、通達は国税庁内部の規範であり、本件通達による取扱いは本件規定をそのまま適用したのに比し納税者に不利な取扱いになっている旨主張するが、通達は、課税庁内部において租税法規の解釈が地域的又は人的に区々に分かれることを防止し、統一的な解釈運用を期することを目的とし、課税の適正・公平を保つとともに、これを公開することによって納税者の申告・納税の便宜に供しているものであり、本件通達は、「相続により取得した土地等(物納した土地等及び物納申請中の土地等を除く。)の課税価格の計算の基礎に算入した価額の合計額」の計算方法を示したものであるから、請求人が主張するように納税者の不利となる取扱いではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件土地の譲渡所得の計算において、本件規定の適用に争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人が、被相続人から遺産相続により取得したすべての相続財産のうち、土地等の価額の合計額は624,250,553円(本件相続税修正申告書に基づく金額)であること。
(ロ)遺産の分割は、本件遺産分割協議書により代償分割の方法で行われており、他の相続人らに対して請求人が負担した代償金の合計額は100,000,000円であること。
(ハ)請求人が、本件相続税修正申告書に記載した請求人の取得財産の価額は574,259,242円であること。
(ニ)「物納した土地等及び物納申請中の土地等」に係る土地は、請求人が上記(イ)により取得した相続財産の一部であり、その価額は59,973,761円であること。
ロ ところで、措置法第39条の規定は、相続により財産の取得をした個人で相続税額がある者が、相続税申告書の提出期限の翌日以後2年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合に適用されるものであるが、ここでいう課税価格とは、相続税法第11条の2に規定する取得した財産の価額の合計金額をいい、相続税申告書第1表の(1)欄の金額がこれに当たり、本件においては、574,259,242円である。
ハ なお、相続に関する諸規定は民法に定められており、民法第906条は、現物分割をもって遺産分割の基本においていると解されており、また、遺産の経済的効用と相続人の物質的必要性等からの特別な事由がある場合については、家事審判規則第109条において、いわゆる代償分割による方法が定められている。そして、この代償分割は、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人の中の一人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる遺産分割の一方法である。
ニ そうすると、請求人が他の相続人らに対して支払った代償金は、請求人が相続により取得したすべての財産のうち、本件遺産分割協議書により確定した請求人の持分を超える部分、すなわち、他の相続人らの持分相当額として支払われたものとみるのが相当であり、言い換えれば、請求人が相続により取得したすべての個々の財産にその持分相当額が及ぶことになると解するのが相当である。
ホ 請求人は、本件規定の「相続等で取得した土地等の課税価格」には、代償分割による遺産相続に当たり代償金を支払った場合のその代償金の取扱いについて、明文の規定がないから、本件通達は租税法律主義に反すると主張するが、上記ハ及びニに述べたとおり、相続に関する諸規定は民法及び家事審判規則で明文をもって定められており、これにより確定した遺産相続を基に各種税法が適用されることとなることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ また、請求人は、通達は、国税庁内部の規範であり、その解釈等を納税者に強いることは許されるものではない旨主張する。
 しかしながら、本件規定が、相続税の課税対象となった財産が相続後の一定の期間内に譲渡されると、その財産について相続税のほか所得税が課税されることとなり租税負担が重くなることから、譲渡所得の計算上、その財産に係る相続税額を取得経費に準じて取り扱うことを目的として制定されたという経緯からすると、代償金を支払って取得した場合において、譲渡した土地に対応する相続税額を上回る部分についてまで法が認めたものではないと解するのが相当であるから、原処分庁の計算方法は、本件規定の趣旨に則した合理的なものであると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト さらに、請求人は、本件通達は本件土地の譲渡後に制定されたものであるので、本件通達を適用することはそ及禁止の原則に反する旨主張する。
 しかしながら、本件規定は、適正・公平な課税という観点から、上記ハないしヘのとおり解されているところ、本件通達はこれを確認的に明示したにすぎないと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ したがって、原処分庁が本件土地の譲渡に係る譲渡所得について、本件規定を適用する上で、本件土地の取得費の額に加算される相続税額の算定において、これに相当する代償金を控除して計算した更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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