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(平9.3.31裁決、裁決事例集No.53 356頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人W(以下「W」という。)及び同G(以下「G」といい、Wと併せて「請求人ら」という。)は、平成5年12月3日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書に課税価格及び納付すべき税額を次表のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
区分課税価格納付すべき税額
請求人ら
W280,859,00079,529,700
G143,029,00040,969,800

 原処分庁は、これに対し、平成7年6月30日付で次表のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分更正処分賦課決定処分
課税価格納付すべき税額過少申告加算税の額
請求人ら
W362,437,000114,103,9003,457,000
G143,029,00045,029,000405,000

 請求人らは、これらの処分を不服として、平成7年8月31日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年11月30日付で次表のとおり一部取消しの異議決定をした。

(単位 円)
区分異議決定
課税価格納付すべき税額過少申告加算税の額
請求人ら
W359,339,000112,718,3003,318,000
G143,029,00044,865,600389,000

 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月28日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Wを総代として選任し、その旨を平成8年2月27日に届け出た。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)Wは、本件被相続人名義のa株式会社(以下「a社」という。)の株式15,000株、株式会社b(以下「b社」という。)の株式47,000株及びc株式会社(以下「c社」という。)の株式19,000株(以下、これらの株式を併せて「本件株式」という。)を本件被相続人から借用して、J証券株式会社(以下「J証券」という。)で行っていた株式の信用取引の担保代用証券として差し入れていたが、株価が急落して追証(株式の信用取引に係る信用保証金の不足を補てんする追加金のことをいう。以下同じ。)を求められたため、本件被相続人との間で本件株式と同一銘柄、同一株数の株式を返還することを合意した上で本件株式を売却し、当該売却代金を信用取引の損失の補てんに充当した。
 ところが、その後も株価の下落が続き債務が増大したため、Wは、本件株式に相当する株式を本件被相続人に返還することができず、平成5年11月25日に本件被相続人から本件株式の返還義務の免除(以下「本件返還義務の免除」という。)を受けた。
(ロ)原処分庁は、本件返還義務の免除を本件被相続人からWに対する贈与とみなして更正処分をした。
 しかしながら、以下の理由により、Wの財産及び債務の状況は別表1の「請求人ら主張額」欄のとおり、平成5年11月25日現在31,496,152円の債務超過の状態であるから、相続税法第8条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合―債務免除等》ただし書の規定(以下「本件ただし書」という。)により、本件返還義務の免除は贈与とみなされる場合には該当しない。
A Wが所有する株式の価額及び信用取引の含み損の価額は、当時、所有していた株式が売るに売れず含み損が増大していた状況にあったのであるから、本件返還義務の免除時点以降の株価の下落状況を考慮して、平成5年11月25日から同月30日までの間の営業日の終値の平均値を基に算出すべきである。
B P市R町3丁目905番1所在の宅地257.88平方メートル(以下「本件宅地」という。)の価額は、財産及び債務の算定時期が平成5年11月25日であるから、平成5年1月現在の評価である平成5年分の路線価(路線に接する宅地について、宅地の売買実例価額、公示価格(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地(以下「公示地」という。)の価額をいう。以下同じ。)、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートル当たりの価格をいう。以下同じ。)によるのではなく、平成6年1月現在の評価である平成6年分の路線価により算出すべきである。
C 本件宅地上に存する家屋番号905番地1の5の建物(以下「本件建物」という。)の価額は、処分を前提とした価格を基にすべきであるから、自治省の通達により全国的に統一された方法で実施され、評価時点における通常の建築価額(再建築価額)を基にその家屋の状況によって、経過年数、損耗の程度、更には家屋の需給状況等に応じて減価を行う固定資産税評価額によって評価すべきである。
D Wが平成5年10月20日に死亡した、Wの実母である被相続人K(以下「K」という。)から相続により取得した財産の価額は、(a)Wが本件被相続人の養子になって以来、Kの財産はWの兄夫婦の管理下にあって、不動産の相続登記はなされておらず、また、遺産分割協議もされていないこと、(b)遺産は原則としてWの兄夫婦に譲りたい旨のKの書き置きがあること、(c)不動産に流動性がなく価額も大幅に下落していること及び(d)預金等の流動資産の現状も不明であることから、Wの遺留分に基づき算出した価額とすべきである。
(ハ)原処分庁は、仮に、Wが債務超過であったとしても、給与収入が29,620,000円あることなどから、本件被相続人に本件株式と同一銘柄の株式を同一株数返還することは可能である旨主張するが、所得税、住民税及び社会保険料を差し引けば、給与収入からの手取額は16,923,640円であるのに対して、家族借入金を除いた債務は453,670,079円に達し、これに多額の銀行利息を合わせると、いくら生活費を切り詰めたとしても債務を弁済する余力は全くない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法でありその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、以下の事実が認められる。
A Wは、平成7年10月18日に原処分庁に対して、Wは、本件被相続人との間における本件株式と同一銘柄及び同一株数を買い戻して返却するという合意に基づき、本件株式を本件被相続人から一時借用して売却するものであることを確認する旨が記載されている平成5年11月9日付のJ証券本店営業部あての「確認書」と題する文書を提出していること。
B Wは、平成6年10月31日に原処分庁に対して、おおむね次の事項が記載されている申述書を提出していること。
(A)Wは、本件株式を本件被相続人の同意を得てJ証券にWの信用取引に係る担保代用証券として差し入れた。
 なお、返却期日については特定していなかったが、返却に当たっては、本件株式の株券をそのまま返却することで本件被相続人と合意していた。
(B)その後、Wは、本件被相続人との間で、上記(A)の返却方法を変更し、同一株式を同一株数返却する旨合意して、平成5年11月初旬以降、本件株式をWの口座で売却して信用取引の追証とした。
(C)平成5年11月24日から始まった株式市場の急落により、J証券に差し入れるべき信用取引の追証の金額が激増し、銀行借入金等が更に増加することが見込まれたことから、Wは、平成5年11月25日に本件被相続人に対して本件株式の返還義務の免除を要請し、本件被相続人はこれを了承した。
C 本件宅地に係る登記簿謄本によると、昭和61年12月18日に昭和61年12月17日売買を登記原因として、前所有者からW(持分4分の3)及び本件被相続人(持分4分の1)へ所有権移転登記されていること。
D 平成5年1月1日時点の路線価に基づく本件宅地の1平方メートル当たりの価格は770,000円であり、この価格に本件宅地の面積257.88平方メートル及びWの持分4分の3を乗ずると、Wの持分に相当する本件宅地の価額は148,925,700円と算出されること。
E 本件建物に係る登記簿謄本によると、昭和62年12月11日に昭和62年11月28日新築を登記原因として、W名義で所有権保存登記されており、その構造は鉄筋コンクリート造陸屋根3階建延べ床面積369.85平方メートルであること。
F Wが、平成6年3月15日に提出した平成5年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に添付した「財産及び債務の明細書」(以下「本件明細書」という。)には、本件宅地の価額として249,578,618円及び本件建物の価額として143,920,132円と記載されていること。
 また、Wが本件宅地及び本件建物を取得するために要した金額は、本件宅地の価額249,578,618円にWの持分を乗じた金額に本件建物の価額143,920,132円を加算した金額331,104,095円であること。
G Wは、平成7年1月31日に原処分庁あて提出した「上申書」と題する文書にa社の専務取締役及び管理第二本部長である旨記載していること。
H Wの収入金額は、本件確定申告書によると、給与収入金額が29,620,000円及び配当収入金額が1,336,863円であること。
I Wは、平成5年10月20日にKから相続により財産を取得して、平成6年5月19日にA税務署長に相続税の申告書を提出していること。
 また、当該申告書によれば、取得財産の合計額は227,023,772円、債務は4,516,163円でありこのうちWが取得する財産及び債務(法定相続分2分の1相当)は別表1の「原処分庁主張額」欄の(9)欄及び(17)欄のとおりであり、現在遺産分割されていないこと。
(ロ)以上の事実を総合勘案すれば、次のとおり判断される。
A 本件ただし書は、本件返還義務の免除の時点において債務者であるWが資力を喪失している場合に適用されるものであり、Wの財産及び債務は、本件返還義務の免除の時点の価額(時価)に基づいて算出されることになるから、W所有の株式等の価額は、平成5年11月25日の終値で算出される。
B 原処分庁は、平成5年1月1日時点の本件宅地の価額に同時点から平成5年11月25日までの時価下落率を乗じて算出した価額が平成5年分の路線価に近似していたことから、平成5年分の路線価に基づき本件宅地の価額を算出している。
 したがって、本件宅地の価額は、平成5年分の路線価に基づき算出した相続税評価額によるのが相当であり、また、路線価は地価公示価格と同水準の価格の80パーセントを目途に定められていることから、平成6年分の路線価に基づいて本件宅地の価額を算出すべき理由がないことは明らかである。
C 本件建物は、昭和62年12月11日に新築されて所有権保存登記されたものであり、新築されてから本件返還義務の免除まで6年間しか経過していないことから、本件建物の時価は、本件建物の取得価額から減価償却費相当額を控除した価額によるのが相当と認められる。
 したがって、本件建物の価額を本件建物の時価より明らかに低いと認められる固定資産税評価額とすべき理由はない。
D Wは、Kの相続財産について遺産分割をしていないことから、民法第899条及び同法第900条の規定に基づき遺産の額に法定相続分を乗じた価額を取得しており、WがKの遺産について遺留分相当額を取得したと認められる事実はない。
(ハ)以上述べたことに基づき、Wの財産及び債務を算出すると別表1の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、Wは、資力を喪失して債務を弁済することが困難な状態であるとは認められず、また、a社の専務取締役であり、給与収入が29,620,000円あること、かつ、昭和61年及び昭和62年に本件宅地及び本件建物を総額331,104,095円で取得していること等の事実に照らせば、債務超過部分があったとしても弁済することができると認められる。
 なお、Wは、本件返還義務の免除により本件株式の返還義務を免除されていることから、Wの資力を判断するに当たって本件株式の価額をWの債務に含めることはできない。
(ニ)したがって、本件返還義務の免除について本件ただし書の規定の適用はないから、別表2に記載した本件株式の価額相当額78,480,000円が相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定により本件相続税の課税価格に算入される。
(ホ)以上の結果、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は別表3及び別表4のとおりとなり、これらの金額と同額で行われた更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イの(ホ)のとおり更正処分は適法であり、請求人らの場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件返還義務の免除が本件ただし書に該当するか否かであるので、以下審理する。
(1)次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
イ Wは、J証券に対し、同社におけるWの信用取引の担保代用証券として本件株式を差し入れていたこと。
ロ Wは、本件被相続人との間で、本件株式と同一銘柄、同一株数を本件被相続人に返還することを合意した上で、本件株式を売却してその売却代金をJ証券における同人の信用取引の追証としたこと。
ハ Wは、平成5年11月25日に本件被相続人から本件返還義務の免除を受けたこと。
ニ 平成5年11月25日現在のWの所有財産のうち、(a)○○○ユニット株式型投資信託の残高は、457,000円であること及び(b)L証券・△△△転換社債の残高は1,470,000円であること並びに(c)J証券における株式信用保証金及び預け金の残高は41,737,972円であること、(d)M証券株式会社に対する預け金の残高は967,368円であること及び(e)銀行預金の残高は13,109,151円であること並びに所有株式の銘柄及び株数については別表5のとおりであること。
ホ 平成5年11月25日現在のWの債務のうち、(a)J証券における信用取引の未決済による未払金の残高は77,314,789円であること並びに(b)N銀行○○支店の借入金の残高は217,677,000円であること、(c)T銀行△△支店の借入金の残高は4,948,499円であること及び(d)家族からの借入金の残高は6,650,000円であること。
ヘ Wは、平成5年10月20日にKから相続により財産を取得しているが、当該相続に係る遺産分割協議は行われていないこと。
ト 本件宅地の面積は257.88平方メートルであり、本件宅地に係るWの所有権持分は4分の3であること。
チ 本件相続に係る取得財産の価額の合計は426,835,972円であること及び債務及び葬式費用の金額は4,746,992円であること並びに純資産価額に加算される贈与財産価額のうちGが受贈した現金相当額は1,800,000円であること。
(2)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件宅地の正面路線価は、平成5年分が770,000円であり、平成6年分が620,000円であること。
ロ 本件宅地の近隣に、本件宅地と同一の用途地域に存する「P―△」で表示される公示地(以下「本件公示地」という。)があり、その公示価格は1平方メートル当たり平成5年1月1日現在が970,000円であり、平成6年1月1日現在が780,000円であること。
ハ 本件公示地の面積は264平方メートルであること。
ニ 本件宅地は、南側幅員4メートル道路(以下「本件正面道路」という。)に面しており、本件公示地は、本件宅地から本件正面道路を東に約70メートル進んだところから北側に延びる幅員約4メートルの道路に面していること。
ホ 本件公示地は、本件宅地から直線距離にして約70メートルの位置にあること。
ヘ 本件公示地の平成5年分及び平成6年分の正面路線価は、それぞれ本件宅地の平成5年分及び平成6年分の正面路線価と同一であること。
ト Kの相続開始に係る相続税の申告書が平成6年5月19日、A税務署に提出されており、当該申告書には次の内容が記載されていること。
(イ)法定相続人は長男であるX(以下「X」という。)及び三男であるWの2名で、法定相続分はそれぞれ2分の1である。
(ロ)取得財産のうち2か所の宅地(以下「特例適用宅地」という。)については、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のものをいう。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定による特例(以下「小規模宅地等の特例」という。)の適用を受ける。
(ハ)小規模宅地等の特例を適用した後の取得財産の価額の各人の合計は227,023,772円であり、また、債務及び葬式費用の金額の各人の合計は4,516,163円である。
(ニ)小規模宅地等の特例を適用することにより、課税価格の計算に当たって減額される金額の合計は、26,626,893円である。
(ホ)X及びWが納付すべき税額は、それぞれ19,663,500円である。
(ヘ)取得財産はすべて未分割であり、債務及び葬式費用はいずれも負担する者が確定していない。
チ 本件建物に係る登記簿謄本によれば、本件建物は昭和62年12月8日に昭和62年11月28日新築を原因として登記され、構造は鉄筋コンクリート造陸屋根3階建で、床面積は369.85平方メートルであること。
リ Wが平成6年12月16日付で作成し、原処分庁に提出した「相続財産以外の所有財産」と題する書面には、本件建物の取得価額が143,920,132円である旨の記載があること。
ヌ 本件建物の固定資産税評価額は、平成5年度が40,644,000円であり、平成6年度が38,925,500円であること。
ル 本件株式の一株当たりの価格は別表2の1のとおりであり、平成5年11月25日現在の本件株式の相続税評価額は別表2の2のとおり78,480,000円であること。
(3)ところで、相続税法第8条は、対価を支払わないで又は著しく低い対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、その債務の免除、引受け又は弁済があった時において、その債務の免除、引受け又は弁済に因る利益を受けた者が、その免除、引受け又は弁済を受けた債務の金額に相当する金額を、その免除、引受け又は弁済をした者から贈与により取得したものとみなして贈与税が課税される旨規定しているが、一方、同条ただし書は、同条第1号に規定する、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合においてその債務の全部又は一部の免除を受けたときには、その債務を弁済することが困難である部分の金額を限度として、贈与税の課税対象から除外する旨を規定しており、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合とは、その者の債務の金額が積極財産を超えるときのように社会通念上支払不能と認められる場合をいうものと解されている。
 そうすると、債務の免除があった場合に、当該債務の免除が贈与に該当するか否かを債務者が債務の免除を受けた時点において債務超過の状態であったか否かによって判断することは相当であると認められ、この場合、債務者の財産の価額又は債務の金額については、債務免除があった時の時価、すなわち、客観的交換価値を示す価額によるのが相当であると解される。
(4)そこで、上記(1)のハのとおりWが本件返還義務の免除を受けた平成5年11月25日の時点のWの財産の価額又は債務の金額のうち、争いがあるものについて検討したところ、次のとおりである。
イ Wが所有する株式の価額及び信用取引の含み損の金額
(イ)請求人らは、Wが所有する株式の価額及び信用取引の含み損の金額は平成5年11月25日から同月30日までの間の営業日の終値の平均値を基に算出すべきである旨主張するが、上記(3)のとおり債務者の財産の価額又は債務の金額は債務免除があった時の時価によることとなるから、株式の価額は、平成5年11月25日の終値によるのが相当であり、また、買いを建てた場合の信用取引の含み損の金額は、買いを建てた約定金額から平成5年11月25日の終値及び買いを建てた日から平成5年11月25日までの金利に相当する金額を差し引いた金額によるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ)当審判所の調査によれば、平成5年11月25日現在におけるWが所有する株式及びその価額の合計は別表5のとおり164,595,164円となる。
 また、平成5年11月25日現在におけるWの信用取引の含み損の金額の合計額は、J証券との取引に係るものは別表6―1のとおり101,456,179円、M証券との取引に係るものは別表6―2のとおり23,464,111円となる。
ロ Kから取得した財産の価額及び債務の金額並びに納付すべき相続税額
(イ)請求人らは、WがKから相続により取得した財産の価額は当該相続に係るWの遺留分に基づき算出した価額とすべきである旨主張する。
 ところで、民法第898条は、相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属する旨規定し、民法第899条は、各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する旨規定している。
 上記(1)のヘのとおり、WがKから相続により取得した財産については、遺産分割協議は行われておらず、また、上記(2)のトの(ヘ)のとおり、Kに係る相続税の申告書の記載からも、Kから相続により取得した財産は未分割であることが認められる。
 そうすると、Kの相続の開始に係る相続税の計算に当たり、WがKから相続により取得した財産の価額はWの法定相続分に基づき算出した価額によるのが相当であり、同人の遺留分に基づき算出した価額によるべき理由は認められないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ)上記(2)のトのKの相続開始に係る相続税の申告書に記載された取得財産の価額に基づきWが当該相続により取得した財産の本件返還義務の免除時点における価額を算定することについては、請求人らと原処分庁との間に争いはないものと認められる。
 ところで、上記の申告書に記載された取得財産のうち、特例適用宅地の価額については、上記(2)のトの(ロ)のとおり小規模宅地等の特例を適用した後の価額であることが認められるところ、小規模宅地等の特例は、一定の要件に該当する宅地等について相続税の課税価格を減額し、相続税の負担を軽減する特例であるから、宅地等の時価を算定するに当たっては、小規模宅地等の特例を適用した後の価額によるのではなく、同特例を適用する前の価額によるのが相当である。
 そこで、上記(2)のトの(イ)ないし(ニ)の各事実を基に特例適用宅地に係る小規模宅地等の特例を適用する前の価額を計算すると253,650,665円となる。
(ハ)そうすると、WがKから相続により取得した財産の価額は、上記(ロ)に記載した253,650,665円にWの法定相続分2分の1を乗じた価額126,825,332円となる。
(ニ)WがKから相続した債務の金額については、上記(イ)と同様の理由により、Wの法定相続分に基づき算出するのが相当であり、その額は、上記(2)のトの(ハ)の債務及び葬式費用の金額の各人の合計4,516,163円にWの法定相続分2分の1を乗じた額2,258,081円となる。
(ホ)Wが納付すべきKの相続に係る相続税額は、上記(2)のトの(ホ)のとおり19,663,500円である。
ハ 本件宅地の価額
(イ)当審判所の調査によれば、上記(1)のトの事実及び上記(2)のイないしヘの各事実が認められ、本件宅地と本件公示地とは近接しており、用途地域が同一で、接面する道路及び画地の面積の状況も極めて類似していることが認められることから、本件公示地の価格から比準した価格をもって本件宅地の価額を検証することは相当と認められるので、以下検討する。
A 上記(2)のロの平成5年1月1日現在の本件公示地の公示価格970,000円及び平成6年1月1日現在の本件公示地の公示価格780,000円から時点修正を行い、平成5年11月25日現在の本件公示地の1平方メートル当たりの価額(以下「本件公示価格」という。)を算出すると、下記の算式により798,740円となる。

B 上記Aによれば、平成5年11月25日現在の本件宅地の1平方メートル当たりの価格は798,740円と算出されるところ、原処分庁は、平成5年11月25日の本件宅地の1平方メートル当たりの価格を770,000円と認定して本件宅地の価額を算定しており、これらの価格はほぼ同等のものとみることができるから、原処分庁の認定は相当と認められる。
C したがって、平成5年11月25日の本件宅地の価額を原処分庁の認定した額770,000円に上記(1)のトの本件宅地の面積257.88平方メートル及びWの所有権持分4分の3を乗じて算定すると148,925,700円となる。
(ロ)請求人らは、本件宅地の価額は、平成6年1月現在の評価である平成6年分の路線価により算出すべきである旨主張する。
 しかしながら、路線価は、納税者の便宜及び課税の公平を図る観点から、その年の1月1日から12月31日までの1年間適用することを目的として各年分ごとに評定されるものであるから、平成6年分の路線価によって算定した本件宅地の価額をもって平成5年11月25日現在の本件宅地の価額とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ニ 本件建物の価額
(イ)本件建物は、上記(2)のチのとおり、昭和62年に新築された鉄筋コンクリート造陸屋根3階建の建物であり、その取得価額は上記(2)のリのとおり143,920,132円であることが認められるところ、原処分庁が、この取得価額から取得の時から平成5年11月25日までの期間に対応する減価償却費相当額を控除する方法によって本件建物の価額を算出したことについて、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件建物の平成5年11月25日現在の価額は130,967,320円であるとした原処分庁の認定は相当である。
(ロ)請求人らは、本件建物の価額は固定資産税評価額によって評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、固定資産税評価額は固定資産税を課税する目的で評定されるものであり、客観的交換価値を示す価額を表すものではないから、本件建物の固定資産税評価額をもって平成5年11月25日の本件建物の価額であると認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
(5)上記(1)のニの事実及び上記(4)の検討結果に基づき、本件返還義務の免除時点におけるWの財産及び債務を対照し、検討すると、別表7の(19)欄のとおり175,622,848円の財産超過となるから、平成5年11月25日現在31,496,152円の債務超過の状態であったとする請求人らの主張は採用することができない。
 そうすると、Wは、資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において本件返還義務の免除を受けたものであると判断することはできないから、本件返還義務の免除は本件ただし書に該当せず、Wは、相続税法第8条本文の規定により、本件返還義務の免除があった時において本件株式の価額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされ、その金額は、別表2の2に記載した本件株式の価額相当額78,480,000円であるとみるのが相当である。
(6)本件更正処分について
 以上の結果、Wが本件返還義務の免除によって本件被相続人から贈与により取得したとみなされる金額78,480,000円は、相続税法第19条第1項の規定により、本件相続税の課税価格に算入されることになり、請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は次表のとおりとなるところ、これらの金額は、いずれも異議決定を経た後の更正処分の金額と同額であるから、更正処分は適法である。

(単位 円)
区分課税価格納付すべき税額
請求人ら
W359,339,000112,718,300
G143,029,00044,865,600

(7)過少申告加算税の賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分は上記(6)のとおり適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(8)その他
 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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 1 本件株式の1株当たりの価格
 2 本件株式の価額

(単位 株、円)
銘柄(1)単価(2)株式数(3)((1)×(2))総額
a社97015,00014,550,000
b社58047,00027,260,000
c社1,93019,00036,670,000
(3)の合計78,480,000

別表7 当審判所の調査によるWの財産及び債務の状況


(単位 円)
 財産及び債務の内容 審判所調査額
財産
 Wの所有する上場株式の価額(1)164,595,164
 ○○○ユニット株式型投資信託(2)457,000
 L証券・△△△転換社債(3)1,470,000
 J証券の株式信用取引証拠金・預け金(4)41,737,972
 M証券会社の預け金(5)967,368
 銀行預金(6)13,109,151
 本件宅地(7)148,925,700
 本件建物(8)130,967,320
 Kからの相続により取得した財産(9)126,825,332
 (1)から(9)の合計(10)629,055,007
債務
 J証券の信用取引の未決済金(11)77,314,789
 J証券の信用取引に係る株式の含み損(12)101,456,179
 M証券の信用取引に係る株式の含み損(13)23,464,111
 N銀行○○支店からの借入金(14)217,677,000
 T銀行△△支店からの借入金(15)4,948,499
 家族からの借入金(16)6,650,000
 Kから相続した債務等(17)2,258,081
 Kからの相続に係る相続税 19,663,500
 (11)から(17)の合計(18)453,432,159
財産・債務差引き計((10)−(18))(19)175,622,848

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