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(平9.2.17裁決、裁決事例集No.53 442頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年2月5日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書に、次表の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、次表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成7年9月14日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年10月24日付で次表の「賦課決定処分(1)」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び「賦課決定処分(2)」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 (図表)

 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成7年11月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年2月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年2月29日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件相続により取得したP市R町1丁目2番所在の農地3筆(以下「本件土地」という。)が、生産緑地法第2条《定義》第3号に規定する生産緑地地区の区域内の土地(以下「生産緑地」という。)であったので、本件土地の評価額を、昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17「財産評価基本通達」(以下「評価通達」という。)40―2《生産緑地の評価》の(1)に定める課税時期(相続開始時と同じである。以下同じ。)において市町村長に対して買取りの申出をすることができない生産緑地の評価方法により、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の35の割合を乗じて計算した金額を控除した価額で相続税の申告をしたところ、原処分庁は、評価通達40―2の(2)に定める課税時期において市町村長に対して買取りの申出をすることができる生産緑地の評価方法により、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した価額で本件更正処分を行った。
(ロ)しかしながら、本件土地の評価額は、次の理由から、評価通達の40―2の(1)に定める評価方法による価額となる。
A 生産緑地の評価方法を定めた評価通達40―2は、課税時期において、生産緑地が生産緑地法第8条《生産緑地地区内における行為の制限》に規定する建築物の新築、宅地造成などの行為の制限(以下「行為制限」という。)が解除の方向にあるのか否かで評価方法を区分しており、その区分を主たる従事者である所有者が死亡した場合でみると、(a)所有者が市町村長に対し「生産緑地買取申出書」を提出し、課税時期において、その提出した日から起算して3か月を経過していないところの生産緑地、又は、所有者が課税時期において、「生産緑地買取申出書」を提出するために農業委員会から「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明書」の交付を受けているところの生産緑地は、行為制限が解除の方向にあるため、評価通達40―2の(2)で定めを設け、(b)所有者が、課税時期において、農業委員会から「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明書」の交付の受けていないところの生産緑地は、行為制限が解除の方向にないため、評価通達40―2の(1)で定めを設けている。
 本件土地は、被相続人がP市長に対し「生産緑地買取申出書」を提出済みのものではなく、また、P市農業委員会から「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明書」の交付を受けたものでもないから、行為制限は解除の方向にないので、本件土地の評価額は、評価通達40―2の(1)に定める評価方法による価額となる。
B また、平成4年12月1日付課評2―13、課資2―229「三大都市圏の特定市の市街化区域内農地のうち平成4年中に都市計画法上の生産緑地地区の指定等を受けた農地等の評価について」通達(以下「平成4年12月1日通達」という。)が、平成4年1月1日から同年12月31日までに相続又は遺贈により取得した財産のうちに、同年12月31日までに生産緑地地区として指定された農地がある場合には、当該農地のうち租税特別措置法第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》の規定を受けるものについては、当該取得の時において生産緑地地区内にある農地等に該当するものとみなした上で、その評価については評価通達の40―2の(2)に定める買取りの申出をすることができる生産緑地に該当するものではないことに留意すると定めている趣旨からみても、本件土地の評価額は、評価通達40―2の(1)に定める評価方法による価額となる。
C なお、生産緑地の買取りの申出の手続規定であると同時に生産緑地を解除するための手続規定でもある生産緑地法第10条《生産緑地の買取りの申出》には、主たる従事者が死亡したときは、生産緑地の所有者は市町村長に対し当該生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができると規定されているが、この「主たる従事者」であるか否かの判断をする権限は農業委員会にあって原処分庁にはない。
(ハ)請求人は、下記(2)のイの(イ)のAについては争わない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記のとおり、本件更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件土地は、次のとおり、主たる従事者が死亡したときの生産緑地に当たるので、本件土地の評価額は、評価通達40―2の(2)に定める評価方法による価額となる。
A 本件土地に関する事項等について調査したところ、次のとおりである。
(A)請求人は、被相続人の生前における本件土地の状況について、次のことを申し立てている。
a 被相続人とは遠い親戚に当たることから、小学生のころから被相続人の耕作の手伝いをしていたこと。
b 被相続人が高齢になり足が悪くなってからは、被相続人は種まき、施肥、草取りなどに、請求人はトラクター等で畑起こしなどに従事していたこと。
c 冬期は白菜、大根などを、夏期はキュウリ、トマトなどを作っていたこと。
(B)本件土地についての各種届出等の状況は、次のとおりである。
a 平成4年1月10日、被相続人はP市長に対して生産緑地地区指定の希望を申し出ていること。
b 平成4年6月29日、被相続人はP市長に対して生産緑地地区の都市計画の案について同意する旨回答していること。
c 平成4年12月4日、生産緑地として告示されていること。
d 平成6年8月24日、請求人はP市長に対し、「納税猶予の特例適用の農地等該当証明書」の証明願を提出しており、それについてP市長から、同日付で、本件土地はいずれも市街化区域内であり生産緑地地区内の農地である旨の証明書が発行されていること。
e 課税時期において、P市農業委員会に「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明願」を提出していないこと。
(C)請求人は、平成6年2月4日に被相続人の養子となる縁組届出をP市長に提出している。
B 上記Aのことから、被相続人が本件土地の耕作に携わっていたこと及び本件土地が生産緑地として告示されていることから、被相続人は課税時期の当日まで主たる従事者に当たると認められる。
 ところで、生産緑地は、告示の日から30年間は行為制限が付されることになるが、このような生産緑地の評価額については、評価通達40―2の(1)に定めるとおり、行為制限の解除の前提となっている買取りの申出をすることができる日までの期間に応じて定めた一定の割合を減額して評価することとしている。
 そして、買取りの申出をすることができるのは、告示の日から起算して30年間経過したときのほか、主たる従事者が死亡した場合にもできるとされていることから、主たる従事者が死亡したときの生産緑地の評価額は、評価通達40―2の(2)の定めにより、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した価額となり、原処分はこの定めに基づき計算しているので適法である。
C なお、平成4年12月1日通達は、平成4年1月1日から同年12月31日までの間に相続開始があった場合の定めであり、平成6年2月5日に相続開始のあった本件には適用すべきものでない。
D また、評価通達では、買取りの申出の手続には触れておらず、生産緑地に指定されている農地の評価方法の相違は、買取りの申出をすることができるかできないかによって生じるものであり、買取りの申出をしたかどうかによって生じるものではないと判断するのが相当である。
(ロ)相続税の課税価格
 相続税の課税価格は、次のAの取得財産の価額の合計額240,045,456円からBの債務及び葬式費用の額3,361.950円を控除した額236,683,000円(1,000円未満の端数切捨て)となる。
A 取得財産の価額の合計額
(A)土地
 土地の価額は、本件土地の価額89,779,395円を含めて229,507,395円と認められる。
(B)有価証券
 有価証券の価額は、請求人の申告額のとおり25,000円と認められる。
(C)現金・預貯金等
 現金・預貯金等の価額は、請求人の申告額のとおり10,340,595円と認められる。
(D)その他の財産
 その他の財産の価額は、請求人の申告額のとおり、172,466円と認められる。
B 債務及び葬式費用の額
 債務及び葬式費用の額は、請求人の申告額のとおり、3,361,950円と認められる。
(ハ)課税価格及び納付すべき税額について
 課税価格及び納付すべき税額を計算すると、次表のとおりとなり、この額は本件更正処分に係る額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
区分金額
取得財産の価額(1)240,045,456
債務及び葬式費用の額(2)3,361,950
課税価格((1)―(2))236,683,000
(1,000円未満の端数切捨て)
納付すべき税額55,473,200

ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分によって新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の額は、同条第1項の規定に従い正しく計算されているから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件土地の評価額の多寡に争いがあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件土地は、課税時期において生産緑地であること。
(ロ)本件土地の地目、地積及び生産緑地でないものとして評価した評価額は、次表のとおりであること。

(単位 平方メートル、円)
所在地番地目地積評価額
P市R町1丁目2番432533,863,375
P市R町1丁目2番529230,424,940
P市R町1丁目2番629030,216,550

ロ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が提出した修正申告書に記載された本件土地の評価額は、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の35の割合を乗じて計算した金額を控除した価額61,428,161円であること。
(ロ)原処分庁が認定した本件土地の評価額は、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した価額89,779,395円であること。
(ハ)請求人が原処分庁に提出した「生産緑地法第10条の規定に基づく主たる従事者に関する認識について」の標題の申立書には、生産緑地法第10条の規定に基づき、P市農業委員会に対して「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明願」を提出していれば、被相続人が同法第10条の規定に基づく主たる従事者であることが証明されると理解していたが、これを選択せずに、租税特別措置法第70条の6の相続税の納税猶予を選択した旨記載されていること。
ハ 請求人は、原処分庁に対し、請求人と被相続人とは遠い親戚に当たることから、請求人は小学生のころから被相続人の農作業の手伝いをしており、被相続人が高齢になり足が悪くなってからは、被相続人は種まき、施肥、草取りなどに従事していた旨申述している。
ニ P市役所農務課職員は、請求人の相続税に係る調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)の質問に対して、次のとおり回答している。
(イ)生産緑地の指定時には主たる従事者は特定されておらず、主たる従事者の判定は、申請を受けて農地部会で行っている。
 主たる従事者として認定されない場合としては、生産緑地の指定があった時点において寝たきり若しくは国外居住のように、明らかに農業に従事できないと認められる者に限られる。
(ロ)生産緑地法10条の事実が発生した場合は、買取り請求はいつでもでき、その期限の定めはない。
ホ ところで、生産緑地法第10条に規定されている主たる従事者とは、中心となって農林漁業に従事している者で、その者が農林漁業に従事できなくなったために、生産緑地における農林漁業が客観的に不可能となる場合における当該従事者をいうものと解される。
ヘ また、相続税法第22条《評価の原則》によれば、相続により取得した財産の価額は、その取得した時における時価によると規定されているところ、生産緑地法第8条の規定により、生産緑地に指定された場合は、告示の日から30年間は行為制限が付されることになり、このような生産緑地の価額については、評価通達40―2の(1)において、行為制限の解除の前提となっている買取りの申出をすることができる日までの期間に応じて定めた一定の割合を減額して評価することとしている。
 この買取りの申出をすることができる場合は、30年間経過した場合のほか主たる従事者が死亡した場合等にもできることから、買取りの申出をすることができる生産緑地として主たる従事者が死亡したときの価額については、評価通達40―2の(2)において、生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に、100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した価額としている。
 ところで、一般的にこのような行為制限が一定の面的広がりをもっている場合には、そのことを前提とした売買実例価額が成立すると考えられることから、その価額を基に評価額を算出すればよいことになるが、生産緑地については、このような一定の面的広がりをもって指定されるケースはまれであり、仮にあったとしても個々の生産緑地によって行為制限の期間が異なることがあり、売買自体もほとんどないのが実情であるため、行為制限が付されている生産緑地の価額は、その制限が付されていないとした場合の価額から、行為制限が付されていることをしんしゃくして評価せざるを得ないと考えられ、この場合のしんしゃくは行為制限期間の長短によることが合理的であると考えられるところから、評価通達40―2の(1)において、その土地が生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に行為制限期間の区分別の割合を乗じて計算した金額を控除して評価することとし、また、行為制限期間が満了したもの又は主たる従事者が死亡したことなどにより買取りの申出を経由することにより行為制限が解除されるものについては、価格面での不利益は受けないこととなるが、一般の土地に比べればそれなりの手数を要することから、評価通達40―2の(2)において、その土地が生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に一定の割合を乗じて計算した金額を控除して評価することとしたものと認められる。
 このように行為制限の解除までの期間の長短等に応じて減額割合を設定していることに不相当とする理由は認められず、また、本件土地の評価額を評価通達40―2に定める評価の方法によることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがない。
 よって、本件土地の評価額については、評価通達40―2に定める評価方法によって評価する。
ト そこで、上記イないしヘの事実等に基づき、本件土地の評価額の評価方法について検討すると、上記イの(イ)のとおり、課税時期において本件土地は生産緑地であり、上記ハのとおり、被相続人は高齢になり足が悪くなってからも種まき、施肥、草取りなどに従事していた旨の請求人の申述から、本件相続の開始時における本件土地の主たる従事者は被相続人であると推認されることから、上記ニの(ロ)及びヘのとおり、本件土地は、本件土地の主たる従事者である被相続人の死亡により、生産緑地法第10条の規定に基づいて、買取りの申出をすることができる生産緑地に該当すると認められる。
チ 請求人は、評価通達40―2の(2)に定める買取りの申出をすることができる生産緑地とは、課税時期において、被相続人が買取申出書を提出中であるか若しくは買取り申出の手続中である場合に限るものである旨主張するが、評価通達40―2の(2)の定めが、主たる従事者の死亡を前提とした手続を主たる従事者が行うことを予定して定めたとは考えられず、上記ニの(ロ)のとおり、主たる従事者が死亡したときは、当該生産緑地を相続により取得した相続人が買取りの申出をすることができるので、この場合を予定して定めたものと解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
リ また、請求人は、平成4年12月1日通達が、平成4年1月1日から同年12月31日までに相続又は遺贈により取得した財産のうちに、同年12月31日までに生産緑地地区として指定された農地がある場合には、当該農地のうち租税特別措置法第70条の6の規定を受けるものについては、当該取得の時において生産緑地地区内にある農地等に該当するものとみなした上で、その評価については評価通達の40―2の(2)に定める買取りの申出をすることができる生産緑地に該当するものではないことに留意すると定められている趣旨からみても、本件土地の評価額は、評価通達40―2の(1)に定める評価方法による価額となる旨主張するが、上記トにおいて検討したところによれば、請求人の主張には理由がない。
ヌ さらに、請求人は、生産緑地法第10条には、主たる従事者が死亡したときは、生産緑地の所有者は当該生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができる旨規定されているが、この「主たる従事者」であるか否かの判断は農業委員会の権限であって原処分庁にはない旨主張する。
 しかしながら、相続税の課税のため、相続財産である生産緑地の評価に当たり評価通達40―2を適用する場合には、当該生産緑地の主たる従事者がだれであるかを、課税庁である原処分庁がゆだねられた権限の範囲内において判断するのであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ル 以上により、本件土地の評価額は、評価通達40―2の(2)に定める評価方法による価額となるので、本件土地の評価額を生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した価額でした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のルのとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4頃に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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