ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.4.9裁決、裁決事例集No.53 456頁)

(平9.4.9裁決、裁決事例集No.53 456頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年12月13日に死亡したFの相続人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に課税価格100,078,000円及び納付すべき税額22,497,700円と記載して、法定申告期限内の平成4年6月15日に原処分庁に提出した。
 また、請求人は、同日、延納を求める税額を22,497,700円と記載した相続税延納申請書を原処分庁に提出した。
(2)次いで、請求人は、相続財産のうち、P市R町5丁目1251番26所在の土地370.01平方メートル(以下「R町の物件」という。)について評価額の計算誤りがあったとして、課税価格105,453,000円及び納付すべき税額24,653,800円とする修正申告書及び当該修正申告によって増加する税額2,156,100円について、全額延納を求める旨記載した相続税延納申請書を平成4年12月9日に原処分庁に提出した。
(3)原処分庁は、平成6年4月25日付で上記(1)及び(2)に係るそれぞれの延納申請額と同額の相続税延納許可通知書を請求人に送達した。
(4)その後、請求人は、遺産分割協議の変更に伴い、請求人が相続財産の98パーセントを相続するに至ったことにより、課税価格207,507,000円及び納付すべき税額48,321,500円とする修正申告書を平成6年9月30日に原処分庁に提出した。
 また、請求人は、同日、当該修正申告によって増加する税額23,667,700円について、物納に充てようとする財産をQ市S町6丁目1551番3所在の宅地152.06平方メートル(以下「本件物納申請土地」という。)と記載した相続税物納申請書及び上記(3)の相続税延納許可額のうち、納期限未到来の延納税額23,316,000円について、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納等の特例》の規定により、同条に規定する特例物納に充てようとする土地をそれぞれ本件物納申請土地と記載した相続税特例物納申請書を原処分庁に提出した。
(5)これに対し、原処分庁は、平成7年12月15日付で、相続税物納財産変更要求通知処分及び特例物納土地変更要求通知処分(以下、併せて「原処分」という。)をし、同日、請求人に、その通知書を送達した。
(6)請求人は、原処分を不服として、平成8年2月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月14日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
(7)請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年6月24日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件物納申請土地について、売却可能と判断される価格として相続税法の規定に基づき課税を行い、もう一方で売却できる見込みのない不動産であるとして物納を認めないのは不合理である。
ロ 本件物納申請土地は、相続税基本通達42―2に掲げる「売却できる見込みのない不動産」に当たらないので、相続税法第42条第2項ただし書及び租税特別措置法第70条の10第5項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産ではない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 物納財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が、物納された財産の管理・処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならない。相続税法第42条第2項のただし書及び租税特別措置法第70条の10第5項のただし書は、このような趣旨と解される。
ロ 相続税基本通達42―2に掲げる「売却できる見込みのない不動産」のうち、「崖地等で、単独には通常の用途に供することができない土地」とは、崖地のみを指すわけではなく、例えばその土地が存在する地域の標準的な土地に比し、面積が極端に狭小な場合等その財産のみでは有効利用が困難な土地をいう。
 本件物納申請土地については、間口が2メートルに満たず、単独では建物の建築ができない。また、他に公道等への連絡がないため駐車場としての利用も困難な状況にある。
 よって、単独では通常の用途に供することができない土地と判断した。
ハ 物納財産としての適否は、収納後の国有財産としての管理・処分という観点から行われるため、それに支障となるものであれば、相続税の課税上どのような評価がされているかにかかわらず、収納不適当とせざるを得ない。
ニ なお、原処分は、それぞれ相続税法第42条及び租税特別措置法第70条の10の規定に基づいて適法に行われている。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件物納申請土地が物納財産として適しているか否かであるので、以下審理する。
(1)原処分庁が当審判所に提出した証拠資料、請求人の答述及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の相続した財産について、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件物納申請土地を相続により取得したこと。
(ロ)請求人は、相続により、本件物納申請土地のほかにR町の物件等を取得していること。
(ハ)本件物納申請土地が道路に接している部分は約1.6メートルであり、道路に接するまでの路地部分の距離は約11メートルであること。
(ニ)本件物納申請土地には、上記接道部分以外に通路がないこと。
ロ 原処分庁は、本件物納申請土地が相続税法第42条第2項ただし書に規定する「物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」に該当するか否かについて、物納財産の管理官庁である○○財務局と協議した結果、本件物納申請土地については、建築基準法等の規制により建物の建築はできないこと及び近隣の土地の利用状況からみて駐車場への転活用が考えられるが、公道に接する道路幅員が十分ではなく、自動車の出入りは困難であることから、国が処分を前提とした場合適切な売却が困難であり、また貸付け、管理も困難と認め現状のままでは物納財産としては不適当になるとして、平成7年3月13日付で、請求人に対し、概要下記のとおり記載した「物納申請不動産に関する補完事項等の通知書」を送付し、同年6月30日までに補完するよう通知(以下「本件補完通知」という。)している。
(イ)接道については幅員2メートル以上を確保し、宅地として利用できるようにすること。
(ロ)物納敷地内の電柱支柱を移設(撤去)すること。
(ハ)家屋、工作物、樹木等を撤去し、更地とすると共に物納敷地内のごみ等を処分すること。
(ニ)地積測量を行い、境界標を設置すること。
(ホ)地積測量図、境界に関する確認書、道路査定証、境界標を撮影した写真及び工作物に関する確認書等の書類を整備すること。
ハ、請求人は、本件補完通知に関し、次のとおり答述している。
請求人は、本件補完通知を受け、補完事項を履行するため、不足分の幅員40センチメートル以上の用地買収を図り、(a)隣接駐車場の地主及び(b)隣接地主のタクシー運転手に対し、不足分の幅員の用地買取り交渉等を行ったが、いずれも不調に終わったこと。
ニ 原処分庁は、請求人が上記ロの(イ)ないし(ホ)の補完事項の履行ができなかったことから、本件物納申請土地は、「管理又は処分するのに不適当」な土地であると認め、また、請求人がR町の物件等他に変更可能な相続財産を有していることから原処分をした。
ホ 建築基準法第43条《敷地等と道路との関係》第1項によれば、建築物の敷地は、道路に2メートル以上接しなければならない旨規定されており、また、△△県建築安全条例第3条《路地状敷地の形態》によれば、建築物の敷地が路地状部分のみによって道路に接する場合には、その敷地の路地状部分の幅員は、路地状部分の長さが20メートル以下のものについては、2メートル以上としなければならない旨規定されている。
(2)ところで、国税の納付方法については、国税通則法第34条《納付の手続の規定によって金銭による納付が原則とされているところ、相続財産の物納による納付は、相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの。以下同じ。)第41条《物納―物納の要件》第1項の規定に基づき、相続税を金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、その納付に困難とする金銭を限度として許可されたときに限り、例外的に認められているにすぎない。
 また、租税特別措置法第70条の10第1項において、昭和64年1月1日から平成3年12月31日までの間に相続により財産を取得し、延納の許可を受けた個人が、平成6年4月1日にその納期限がまだ到来していない分納税額(以下「特例物納対象税額」という。)をその延納によっても納付することを困難とする事由がある場合においては、その者の申請により、税務署長は、特例物納対象税額のうちその納付を困難とする金銭を限度として物納を許可することができる旨規定されている。
 これらの規定からすると、相続税の物納制度は、国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられた特例的な制度であるということができ、物納申請財産を国に帰属させることは真の目的ではなく、相続税の納付の単なる手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることが真の目的にあると解される。
 そこで、物納財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が、物納された財産の管理・処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解するのが相当である。
 相続税法第42条第2項では、税務署長は、物納申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求めた上で、その申請の許可又は却下をすることができる旨規定され、また、租税特別措置法第70条の10第5項では、税務署長は、物納申請に係る特例物納土地が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、同様に、その変更を求めた上で、その申請の許可又は却下をすることができる旨規定されている。
 この場合、どのような財産が「管理又は処分をするのに不適当」なものに該当するかについては、相続税法及び租税特別措置法に明文の規定はないが、上記物納制度の趣旨を考慮すれば、(a)質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産、(b)所有権の帰属等について係争中の財産、(c)共有財産及び(d)法令又は定款に譲渡に関し特別の定めのある財産等と解され、不動産については、具体的に、(イ)買戻しの特約等の登記のある不動産、(ロ)崖地や地形狭長な土地等で、単独には通常の用途に供することができない土地等、売却できる見込みのない不動産、(ハ)現に公共の用に供され、又は供されることが見込まれる土地又は建物及び(ニ)借地、借家契約の円滑な継続が困難な不動産などが該当するものと解するのが相当である。
(3)請求人は、本件物納申請土地について、売却可能と判断される価格として相続税法の規定に基づき課税を行い、もう一方で売却できる見込みのない不動産であるとして物納を認めないのは不合理である旨主張する。
 しかしながら、相続税の課税は、相続による財産の取得という事実についてその財産的価値に担税力を認めて行われるものであり、一方、物納財産の管理又は処分の適否は、上記(2)で述べたとおり、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるという観点から判断されるのであって、ある相続財産について、それが課税価格計算の基礎となった財産であっても、そのことから直ちに当該財産が物納財産として管理又は処分に適するということにはならず、管理又は処分をするのに不適当であるとされることもあり得るというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)請求人は、本件物納申請土地は相続税法第42条第2項ただし書及び租税特別措置法第70条の10第5項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産ではない旨主張する。
 ところで、上記(1)の事実を整理・要約すると、(a)本件物納申請土地は、いわゆる間口が狭小であって、建築基準法及び△△県建築安全条例によれば建築物の敷地としては適していないことはもちろん、自動車の出入りも困難であることから駐車場への転活用も困難であること、(b)原処分庁は、本件物納申請土地について、物納財産の管理官庁である○○財務局と協議した結果、上記(a)の状況をはじめとする現状のままでは管理又は処分をするのに不適当と判断し、本件補完通知により、請求人に対して補完を求めたこと及び(c)請求人は、本件補完通知に基づき補完すべく隣接地主等と買取り交渉等を行ったが、結局補完できなかったことが認められる。
 そこで、これらの事実を総合し、上記(2)に照らして客観的にみれば、本件物納申請土地は現状のままでは売却できる見込みのない不動産であり、管理又は処分をするのに不適当と判断せざるを得ず、また、当審判所の調査によってもこの判断を左右するに足る証拠資料等は存在しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)以上のとおりであるから、本件物納申請土地を、法令の定めるところにより、国が収納して、管理又は処分をするのに不適当であると認定し、これに代わる他の財産による物納申請を求めた原処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る