ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.3.5裁決、裁決事例集No.53 465頁)

(平9.3.5裁決、裁決事例集No.53 465頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年9月20日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の相続人の一人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に課税価格1,162,403,000円、納付すべき税額460,887,700円と記載して、法定申告期限内の平成3年3月19日に申告するとともに、延納を求める税額を400,000,000円と記載した相続税延納申請書を原処分庁に提出した。
(2)原処分庁は、これに対し、本件延納申請について平成3年7月8日付で延納を許可した。
(3)その後、請求人は、平成6年6月30日に租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納等の特例》(以下「特例物納」という。)第3項の規定に基づき特例物納対象税額340,000,000円、特例物納を求める税額109,275,120円及び特例物納申請土地として次表のとおり記載した相続税特例物納申請書を原処分庁に提出した。

(単位 平方メートル、円)
所在地地目面積価格
P市R町1丁目5番1宅地257.8545,794,160
P市S町1丁目55番宅地182.7432,893,200
P市S町2丁目43番31雑種地289.0030,587,760
P市S町2丁目43番33

(4)原処分庁は、これに対し、特例物納申請土地のうちP市S町2丁目43番31及び同番33所在の雑種地(以下「本件土地」という。)について、平成8年4月5日付で、特例物納土地変更要求通知処分をした。
(5)請求人は、原処分を不服として、平成8年6月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月26日付で棄却の異議決定をした。
(6)請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年7月25日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

トップに戻る

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その取消しを求める。
イ 特例物納はいわゆるバブル崩壊後、長期にわたる地価の急落により、結果的に相続税の延納税額の納付が困難となっている者に対する緊急避難措置であり、請求人は、これに該当することから、特例物納の申請を行ったところ、原処分庁は、特例物納の趣旨に違背し、単に本件土地が物納後において、国の定める貸付基準での貸付けが見込まれず、借地契約の円滑な継続が困難な財産と認められるので、管理又は処分をするのに不適当であるとして、具体的な事由を開示することなく原処分を行った。
ロ 原処分庁が、本件土地について国の定める貸付料算定基準(以下これを「本件算定基準」といい、これにより算定した本件土地の賃貸料を「基準貸付料」という。)が法文上明らかにされていないにもかかわらず、一方的に当該基準を用い、また、間口が狭小な形状であり接面道路が一方通行路であるという状況を加味することなく、画一的に当該基準を適用したことは、行政指導の範囲を超えるものである。
ハ 原処分庁は、本件土地が借地権者に対する賃貸料の低廉な財産に該当し、管理又は処分をするのに不適当な財産であると認定したが、請求人は、本件土地について下記ニのとおり、裁判所における調停を経て成立した近傍類似の賃貸料と同位である賃料相当損害金を受領しているのである。
 したがって、本件土地は、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10、ただし、平成7年5月17日付課資2―119ほかによる一部改正前のものをいい、以下「基本通達」という。)41―11《用益権の設定されている土地等》(3)に規定される近傍類似の賃貸料を大幅に下回る財産に該当せず、管理又は処分をするのに不適当な財産には当たらない。
 なお、原処分庁は、本件土地の貸借関係について、請求人が借地契約に基づいて借地権者から賃料を収受する関係にあると認識するが、請求人は、被相続人と従前の借地権者(G)の相続人であるH(以下「H」という。)との間で締結した平成元年11月13日付の土地明渡猶予に関する契約(以下「本件明渡猶予契約」という。)に基づき、同人から賃料相当損害金を受領する関係にある。
ニ 裁判所における調停の経緯及び内容は次のとおりである。
(イ)請求人は、J税務署の物納担当職員(以下「物納担当職員」という。)より、本件土地の賃貸料が安すぎる旨の指摘を受けたことから、K簡易裁判所へHに対する賃料相当損害額の増額を求める調停を申し立てた。
(ロ)請求人は、平成7年5月10日に物納担当職員から、「賃料の算定方法について」と題する書面により、基準貸付料は物納許可の日の前年分の相続税課税標準価格に1.30パーセントを乗じて求めた980,000円となる旨の指摘を受けたことから、そのことを調停委員及びHに説明して理解を求めた。
(ハ)請求人は、Hの母Lとともに原処分庁を訪れ、物納担当職員から基準貸付料についての説明を受けた。
(ニ)請求人は、努力の結果、平成7年8月21日にHとの間に調停が成立し、同年9月から従前の賃料相当損害額を上回る月額50,000円(年額600,000円)の賃料相当損害金(以下、「本件損害金」という。)を受領することとなった。
 仮に、原処分庁が提示した基準貸付料が相当であるとしても、月額にすれば約80,000円であり、本件損害金(月額50,000円)は、その62.5パーセントに当たることから、本件土地は、基本通達41―11(3)に規定される近傍類似の賃貸料を大幅に(おおむね70パーセント)下回る財産に該当せず、管理又は処分をするのに不適当な財産には当たらない。
ホ 原処分庁は、本件土地について、物納後、基準貸付料での貸付けが見込まれない旨主張するが、本件明渡猶予契約は、平成11年7月31日をもって満了することから、本件損害金が、たとえ基準貸付料に満たないとしても、その期間は短期間であり、これによって国が被る基準貸付料と本件損害金との差損は極めて少額である。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人は、原処分庁が具体的な事由を開示することなく本件通知処分を行った旨主張するが、措置法第70条の10第5項に規定するとおり、特例物納申請に係る特例物納土地が管理又は処分をするのに不適当であると認められる場合には、原処分庁は、その変更を求めることができ、その理由として、平成8年4月5日付の特例物納土地変更要求通知書(以下「本件通知書」という。)に「借地権者に対する賃貸料が低廉な財産に該当し、国において借地契約の円滑な継続が困難な財産であるため」と具体的に記載しており、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、原処分庁が一方的かつ画一的に本件算定基準を適用したことは、行政指導の範囲を超えるものである旨主張するが、原処分の法的根拠は、措置法第70条の10によるものであり、本件土地が管理又は処分をするのに不適当であるかどうかは、本件算定基準を適用して、借地権者に対する賃貸料が低廉か否かを基に判断したのであるから、請求人が主張するように行政指導の範囲を超えるものではない。
ハ 請求人は、本件土地について、裁判所における調停を経て成立した近傍類似の賃貸料と同位である賃料相当損害金を受領しているのであるから、管理又は処分をするのに不適当な財産に当たらない旨主張するが、本件土地は、次のとおり、借地権者に対する賃貸料が低廉な財産に該当することから、管理又は処分をするのに不適当な財産である。
 なお、請求人の主張する賃料相当損害金は、本件土地の貸付けの対価として受領するものであり、その性質において賃貸料と相違するものではないことから、その名称には固執しない。
(イ)基準貸付料は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか、平成7年6月27日付課評2―6による改正前のもの。以下「評価通達」という。)の規定に基づき本件土地の物納収納時の前年分の相続税課税標準価格を算定した上で、本件算定基準に定める1.30パーセントを乗じた結果980,000円となったものであり、この価額は、地価を反映した妥当性を有するものである。
(ロ)一方、本件損害金は、基準貸付料と比べて低廉であり、また、原処分庁が調査した近傍類似の賃貸料と比べても低廉であることから、本件損害金が近傍類似の賃貸料と同位とする請求人の主張は認められない。
ニ また、請求人は、本件損害金が近傍類似の賃貸料を大幅に(おおむね70パーセント)下回るものではないことから、基本通達41―11(3)に規定する財産に該当しない旨主張するが、同通達に規定する近傍類似の賃貸料を「大幅に下回る」とは、基準貸付料又は調査した近傍類似の賃貸料の70パーセントを下回っているものが該当するとして取り扱っているところであり、本件損害金が基準貸付料の70パーセントを下回っていることから、本件土地は、同通達に規定する財産に該当し、管理又は処分をするのに不適当な財産に当たる。
ホ なお、請求人は、本件損害金が基準貸付料に満たないとしてもその期間は短期間であり、これによって国が被る基準貸付料と本件損害金との差損は極めて少額である旨主張するが、国に差損が生じるか否か又は差損の多寡によって処分を行うのではなく、措置法第70条の10の規定する要件に該当したことから本件通知処分を行ったものであり、請求人の主張には理由がない。

トップに戻る

3 判断

(1)本件土地が、特例物納土地として適しているかどうかに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ)本件土地は、南西側の道路と接している間口距離が2.5メートル、奥行距離が26.70メートルのいわゆる袋地であり、実測した面積は289.07平方メートルであること。
(ロ)本件土地上には、Hが所有する木造瓦葺平家建工場87.04平方メートルが存在すること。
(ハ)被相続人とH及び有限会社Mとの間で土地明渡猶予に関する契約書が、平成元年11月13日付で作成されていること。
A 同契約書の一には、本件土地に係る被相続人とG(Hの父)との間の賃貸借契約はGの契約違反により解除されたが、同人の懇請により本件土地の明渡しを昭和54年5月25日以降10年間猶予した経緯が存するところ、Gが昭和62年4月22日に死亡し、Hより本件土地の使用方の要望があったので、被相続人はHに対し更に本件土地の明渡しを猶予することとし、本契約を締結するものである旨の定めがあること。
B 同契約書の二には、Hは、被相続人に対し、平成11年7月31日限りで本件土地上の建物を収去して本件土地を明け渡す旨の定めがあること。
C 同契約書の三には、有限会社Mは、平成11年7月31日限りで本件土地上の建物から退去して本件土地を明け渡す旨の定めがあること。
D 同契約書の四には、Hは、被相続人に対し、平成元年11月13日以降本件土地明渡し済みに至るまで、月額29,200円の割合による賃料相当損害金を支払う旨の定めがあること。
(ニ)請求人とHとの間で平成7年8月21日に成立したK簡易裁判所における調停によれば、当事者双方は、本件土地に係る賃料相当損害金を同年9月1日から月額50,000円に改定することに合意したこと。
(ホ)請求人は、本件明渡猶予契約に基づき本件土地の貸付けの対価として、Hから月額29,200円の賃料相当損害金を受領していたが、平成7年8月21日にHとの間に成立した調停に基づき、同年9月1日以降、本件損害金を受領していること。
(ヘ)本件通知書によれば、変更を求める理由として「借地権者に対する賃貸料が低廉な財産に該当し、国において借地契約の円滑な継続が困難な財産であるため」と記載されていること。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地の近傍類似の年間賃貸料は、原処分庁が調査した近傍類似の民間賃貸実例を基にその平均値を算出して求めたところ、1平方メートル当たり3,424円になること。
(ロ)原処分庁は、基準貸付料の算定において、普通財産貸付事務処理要領通達(昭和61年6月10日付蔵理第2283号)に定める貸付料算定基準を適用して、本件土地に係る物納収納時の前年分の相続税課税標準価格に1.30パーセントを乗じていること。
(ハ)原処分庁は、本件土地に係る物納収納時の前年分の相続税課税標準価格の算定において、評価通達の規定により、路線価を基に奥行価格補正、間口狭小補正及び奥行長大補正を行っていること。
ハ ところで、租税は金銭納付が原則であり、相続税法には延納から物納への変更を認める規定はないが、平成6年度の税制改正により租税特別措置法に特例物納の規定が創設され、措置法第70条の10第1項において、昭和64年1月1日から平成3年12月31日までの間に相続により財産を取得し、延納の許可を受けた個人が、平成6年4月1日にその納期限がまだ到来していない分納税額(以下「特例物納対象税額」という。)を延納によっても納付することを困難とする事由がある場合においては、その者の申請により、税務署長は、特例物納対象税額のうちその納付を困難とする金額を限度として物納を許可することができる旨規定されている。
 また、措置法第70条の10第5項のただし書において、税務署長は、特例物納申請に係る特例物納土地が管理又は処分するのに不適当であると認める場合は、その変更を求め、当該申請者が同条第7項の規定による申請を提出するのをまって許可又は却下することができる旨規定されている。
 この場合、どのような土地が「管理又は処分をするのに不適当」なものに該当するかについては、措置法に明文の規定はないが、相続税の物納制度が、相続税の納付の単なる手段として、一定の要件を満たす場合に限り認められるものであり、収納後、国がこれを管理又は処分し、その代金をもって財政収入に充てることを目的としていることにかんがみれば、具体的には、(a)買戻しの特約等の登記のある土地、(b)売却できる見込みのない土地、(c)現に公共の用に供され、又は供されることが見込まれる土地、(d)借地契約の円滑な継続が困難な土地などが該当するものと解される。
ニ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、原処分庁が物納申請財産の変更を求める具体的な事由を開示しなかったとして原処分が違法、不当である旨主張するが、原処分庁が本件土地を前記ロの認定事実を基に前記イの(ヘ)の理由により管理又は処分をするのに不適当な財産であると認めて、措置法第70条の10第5項のただし書の規定に基づき特例物納土地の変更を求めた事実に照らせば、原処分を違法、不当であるということはできない。
(ロ)さらに、請求人は、本件算定基準が法文上明らかにされていないにもかかわらず、原処分庁が一方的かつ画一的に当該基準を適用して基準貸付料を算定したことは、行政指導の範囲を超えるものである旨主張するが、原処分庁が採用した本件算定基準は、前記ロの(ロ)のとおり、納物財産の管理官庁である財務局が物納財産を引き受けた後、引き続き権利者に貸付けを行う場合の貸付料の算定基準であるから、原処分庁がこれを採用したことを行政指導の範囲の逸脱と認めることはできず、その算定の過程においても、前記ロの(ハ)のとおり、本件土地の形状及び状況等の個別事情を考慮していることが認められる。
 また、基準貸付料980,000円と、前記ロの(イ)における1平方メートル当たりの近傍類似の年間賃貸料3,424円に本件土地の面積289.07平方メートルを乗じて求めた金額989,775円との差は僅差であることから、結果として算定された金額にも妥当性が認められるので、請求人の主張は採用できない。
(ハ)請求人は、本件損害金が裁判所の調停において成立した適正額であることから、近傍類似の賃貸額と同位のものであると主張するが、本件損害金と上記(ロ)における近傍類似の年間賃貸料989,775円とを比較したところ、40パーセントの開差が生じることから本件損害金は近傍類似の賃貸額と同位のもとは認められず、低廉であるといわざるを得ない。
 また、その増額の可能性についてみた場合においても、前記イの(ホ)のとおり、裁判所における調停で既に7割の増額が行われているなどの事情を勘案すると適正額への値上げが容易に実現するとは到底考えられないことから、特例物納土地として管理又は処分をするのに不適当なものであると認めるのが相当である。
(ニ)なお、請求人は、本件明渡猶予契約が平成11年7月31日をもって満了することから、本件損害金が、仮に基準貸付料に満たないとしても、その期間は短期間であり、これによって国が被る基準貸付料と本件損害金との差損は極めて少額である旨主張するが、措置法第70条の10第5項ただし書の規定に基づいて、特例物納土地が管理又は処分するのに不適当か否かを判断する場合には、国が収納後、物納財産を管理又は処分することにより、金銭で税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるかどうかという観点からなすべきものであるから、請求人の主張は採用できない。
 したがって、原処分庁が本件土地を特例物納土地として不適当と判断し、その変更を求めた原処分は適法である。
(2)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る