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(平9.11.27裁決、裁決事例集No.54 59頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年11月17日に死亡したFの共同相続人の一人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について請求人が納付すべき相続税額を1,318,860,400円として、平成4年5月18日にG税務署長(以下「課税庁」という。)に申告し(以下「当初申告」という。)、同税額の物納申請(以下「当初申告に係る物納申請」という。)をしたところ、課税庁は当該物納の申請に係る国税について、平成4年10月26日付で、相続税法第42条《物納の手続及び許可》第5項の規定に基づく徴収の猶予(以下「徴収の猶予」という。)の決議を行い、その旨を請求人に通知した。
 その後、請求人は、平成5年5月17日に納付すべき相続税額を1,020,623,500円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)を行ったところ、課税庁は、平成6年10月17日付で納付すべき相続税額を931,345,100円とする減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 ところが、請求人は、平成7年7月6日に納付すべき相続税額を1,241,734,600円とする修正申告(以下「本件修正申告」という。)をするとともに、当該修正申告により納付すべきこととなった相続税額310,389,500円(以下「本件増差税額」という。)について、物納の申請(以下「修正申告に係る物納申請」という。)をしたので、課税庁は、当該物納申請に係る国税について同年8月9日付で徴収の猶予の決議を行い、その旨を請求人に通知した。
 原処分庁は、平成8年6月28日付で当初申告に係る物納申請及び修正申告に係る物納申請について、その物納を許可した。
(2)請求人は、本件修正申告に係る延滞税22,657,700円(以下「本件延滞税」という。)を納付しなかったところ、原処分庁は、物納財産の収納により生じた過誤納金135,800円を国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》の規定に基づき本件延滞税に充当し、その残額22,521,900円について、平成8年9月25日付で督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
 請求人は、本件督促処分を不服として、平成8年11月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成9年1月31日付で棄却の異議決定をしたので、同年2月25日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、当初申告及び本件修正申告に係る各国税の徴収について、課税庁から平成4年12月28日付及び平成7年9月29日付でそれぞれ引継ぎを受けている。

2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件督促処分は、請求人に本件延滞税の納税義務があるとしてされているが、次のとおり請求人には本件延滞税の納税義務は存在しない。
(イ)延滞税は、国税の全部又は一部を法定納期限内に納付しない場合に、未納税額を課税標準として課される附帯税であって、私法上の債務関係における遅延利息に相当し、納付遅延に対する民事罰の性質を持つと解される。
 ところで、私法上の関係を例にとれば、金銭消費貸借により発生する債務や不法行為に基づく損害賠償義務により金銭の支払義務が生ずる場合であっても、債権者が支払の猶予をすれば遅延損害金が発生しないことは極めて当然のことであり、また、徴収の猶予の規定は、「税金の全部又は一部の徴収を猶予することができる。」とする規定であり、当該規定は物納の申請があってもそのすべてに適用されるものではないことを併せて考慮すれば、税法の趣旨が、徴収の猶予がされた場合にまで延滞税が発生するとしているのではないことは明らかである。
 そうすると、請求人は、当初申告により請求人の納付すべき相続税額1,318,860,400円につき、当初申告に係る物納申請が許可又は却下されるまでの間その徴収を猶予されており、本件増差税額は、当該猶予がされている間にかつ当該猶予がされた金額の範囲内において生じたのであるから、請求人には本件増差税額に係る延滞税の納税義務はない。
 さらに、行政上の法律関係においては、行政上の信義則、禁反言の法理が私人間より強く要請されることにかんがみれば、いったん猶予を与えたものについて遅延利息すなわち延滞税を課することは許されないというべきである。
(ロ)また、請求人は、当初申告に係る物納申請及び修正申告に係る物納申請において物納申請財産とした土地(以下「物納申請土地」という。)は、物納により収納された場合の価額が物納申請税額を大きく上回るため、物納申請土地を物納する土地(以下「物納土地」という。)とそれ以外の土地に分筆することとしていた。
 しかし、本件更正処分が、物納申請土地に係る課税価額を、当初申告及び本件更正の請求による価額のいずれをも下回る金額としてされたことにより、物納土地の面積が増加することになり、結果として財産権を侵害されようとしたため、物納申請土地の課税価額を正当な金額としたところにより納税をするべく本件更正処分に対する不服とその是正を課税庁に申し出たところ、修正申告書を提出するよう指導されて本件修正申告をしたものである。
 本件修正申告により生じた本件増差税額は、本件更正処分に係る請求人の納付すべき相続税額と本件修正申告に係る請求人の納付すべき相続税額の差額であるところ、当該差額には、本件更正の請求において請求人が請求した額を上回って減額された金額が含まれており、請求人には、少なくともその額に対応する延滞税の納税義務はない。
 なお、請求人は、上記課税庁の指導を受けた際、修正申告書の提出に伴い延滞税の納付義務が生ずることについて、何ら教示を受けていない。
ロ 本件更正処分は、本件更正の請求の額を上回って減額されたものであるが、これは物納申請土地の価額を意図的に時価よりかなり低く算定して、物納土地の面積を広く確保するためにされたものであって、極めて不公正であり、財産権を保障する憲法第29条及び法の下の平等を保障する憲法第14条に照らし違憲違法なものであって、本件督促処分の違法性に影響を与えるものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件増差税額が、当初申告に係る物納申請についてされた徴収の猶予の期間内に、かつ、当該猶予の金額内において生じていることをもって、本件延滞税の納税義務が請求人に存在しないと主張する。
 しかしながら、延滞税は国税の全部又は一部を法定納期限内に納付しない場合に、必ず納付しなければならない附帯税であり、通則法第60条《延滞税》第1項第2号及び同条第2項の規定により、本件のように修正申告をした場合にもその増差税額について、法定納期限の翌日からそれを完納する日までの期間に対応する延滞税を納付しなければならないとされている。そうして、国税に関する法律では、延滞税の納付を要しない期間及び延滞税の納付が免除され得る場合について個別具体的に規定しているところ、本件のように徴収の猶予をした国税については、通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第4項で、その猶予した期間のうち、当該国税の納期限の翌日から2月を経過する日後の期間に対応する部分の金額の2分の1に相当する金額は免除すると規定しているほか、他に延滞税の納付を要せずまたその納付を免除するとする規定はない。
 また、本件増差税額は、当初申告により確定した納付すべき税額を減少させる本件更正処分がされた後において本件修正申告がされたことにより生じたものであるところ、通則法第29条《更正等の効力》第2項では、納付すべき税額を減少させる更正は減少した税額に係る部分以外の部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない旨規定し、また、通則法第20条《修正申告の効力》では、既に確定した納付すべき税額を増加させる修正申告は既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない旨規定している。
 したがって、当初申告に係る物納申請に対する徴収の猶予の効果は、本件更正処分により納税義務が消滅した残余の税額について、なお有効なものとして存続するが、本件修正申告により生じた本件増差税額にまで及ぶものではなく、だからこそ、請求人は改めて修正申告に係る(本件増差税額についての)物納申請を行い、これに対し課税庁は改めて徴収の猶予をしているのである。
 以上のとおり、請求人には本件延滞税の納税義務が存在しないとする請求人の主張には理由がない。
ロ さらに、請求人は、本件修正申告は課税庁の指導によって提出したものであって、本件増差税額には、本件更正の請求において請求人が請求した額を上回って減額された金額が含まれており、少なくともその額に対応する延滞税の納税義務が請求人にはないとし、また、請求人は、修正申告することに伴って延滞税の納税義務が生じることについての教示を受けていない旨を主張する。
 しかし、上記イのとおり、修正申告によって生じた増差税額には当然に延滞税の納税義務が生じるのであるから、本件増差税額の中に、本件更正処分において本件更正の請求の額を上回って減額された額に相当する額が含まれていたとしても、本件延滞税の納税義務に何ら影響を与えるものではなく、また、修正申告をすることに伴い、延滞税の納税義務が生じることについて、教示をしなければならないとする法令の規定はないから、当該請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件更正処分は違憲違法であり、本件督促処分の違法性に影響を与える旨主張するが、本件督促処分は、本件延滞税に係る処分であるところ、本件延滞税は本件修正申告に伴い生じているのであるから、仮に本件更正処分が違法であったとしてもそれが本件督促処分を違法とする理由にはならない。
ニ 請求人が納付すべき延滞税の額は、通則法第60条第2項の規定により、その未納の税額310,389,500円(通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により1万円未満の端数は切り捨てる。)に、本件相続税の法定納期限の翌日から納期限(修正申告書提出日)の翌日より2月を経過する日までの期間(平成4年5月19日から平成7年9月6日まで)については、年7.3パーセントの税率を、それ以降、相続税法第43条《物納財産の収納》第2項の規定により納付があったものとする日(以下「納付日」という。)までの期間(平成7年9月7日から平成8年7月2日まで)については、年14.6パーセントの税率を乗じたものとなるところ、通則法第61条《延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例》第1項第1号の規定により当該期間のうち法定申告期限から1年を経過する日の翌日から修正申告書が提出された日までの期間(平成5年5月19日から平成7年7月6日まで)は控除され、さらに物納の許可があった場合は相続税法第51条《延滞税の特則》第4項の規定により物納申請があった日の翌日から納付日までの期間(平成7年7月7日から平成8年7月2日まで)に対応する部分の延滞税の納付は要しないから、本件延滞税の計算期間は法定納期限の翌日から1年間となり、この期間について年7.3パーセントの税率の延滞税が賦課されることとなる。
 以上により算出した額22,657,740円について、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により百円未満の端数を切り捨てた22,657,700円が本件延滞税の額となる。
原処分庁は、本件延滞税の納付がないので、物納財産の収納により生じた過誤納金135,800円を通則法第57条の規定に基づき本件延滞税に充当し、その残額22,521,900円について通則法第37条《督促》の規定に基づき、請求人に対し平成8年9月25日付で督促状によりその納付を督促したものであり、そこに何ら違法な点はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件督促処分の適否にあるので、以下審理する。
(1)前記1のとおり、本件督促処分は、請求人が本件減額の更正処分がされた後に本件修正申告書を提出したが、本件増差税額に係る延滞税を納付しなかったためにされたものである。
イ ところで、通則法第60条第1項第2号及び同条第2項の規定によれば、修正申告書を提出した場合において納付すべき国税があるときは、納税者は、その法定納期限の翌日からそれを完納する日までの期間に対応した延滞税を納付する義務があるとされている。
 一方、修正申告については、通則法第19条《修正申告》第1項において、納税申告書を提出した者は、これに記載した税額に不足額があるときは、その申告に係る課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を、同条第2項において、更正を受けた者は、更正により納付すべきものとして更正通知書に記載された税額に不足額があるときは、その更正に係る課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を提出することができる旨規定されているが、修正申告をすることは納税者の権利であって、その提出については、納税者自身がその判断と責任において行うものである。
 したがって、修正申告が適法にされたものであり、かつ延滞税を免除する旨の規定に該当しない限り、当該修正申告に伴って生じる延滞税の納税義務も有効に確定しているというべきである。
 これを本件についてみると、前記1のとおり、請求人は、課税庁が納付すべき税額を931,345,100円とする本件更正処分をしたところ、物納土地の面積の増加を避けるためか、納付すべき税額を本件更正処分の額を上回る1,241,734,600円とする本件修正申告をしたものであり、これによって生じた本件増差税額に係る本件延滞税については、通則法第60条第1項第2号及び同条第2項の規定により、これを納付すべき義務があるといわなければならない。
ロ これに対し、請求人は、本件増差税額が当初申告に係る物納申請についてされた徴収の猶予の期間及びその税額の範囲内で生じているから、本件増差税額に係る延滞税の納税義務がない旨主張するが、通則法第29条第2項は、既に確定した納付すべき税額を減少させる更正はその更正により減少した税額に係る部分以外の部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない旨規定し、また、同法第20条は、既に確定した納付すべき税額を増額させる修正申告は既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない旨規定しているところ、本件減額の更正により、当初申告に係る物納申請税額は1,318,860,400円から減額の更正後の納付すべき税額である931,345,100円となり、当該税額について徴収の猶予が行われているが、本件修正申告によって生じた本件増差税額については、改めて物納申請を行っていることからしても、徴収の猶予の効果が及ぶものではないと認めるのが相当であるから、請求人の主張は採用できない。
ハ また、請求人は、本件修正申告には本件更正の請求を上回って減額された金額が含まれており、また、修正申告をするよう課税庁から指導を受けたから行った旨主張するが、本件修正申告に本件更正の請求を上回って減額された金額が含まれているとしても、これが本件修正申告及び本件延滞税の納税義務には何ら影響を与えるものではなく、また、課税庁は本件更正決定をしているのであるから本件修正申告をしょうようするはずはなく、仮に課税庁が物納土地の増加を避けるための一方法として修正申告の方法がある旨示唆したとしても、本件修正申告をするか否かは請求人の判断と責任においてされたことであるから、本件修正申告を適法でないとする理由とは認められず、本件延滞税を免除すべき事由に該当しないことも明らかである。
 なお、本件修正申告をすることに伴い延滞税の納税義務が生じることは、前記のとおり、法律の規定によるものであり、当該納税義務について教示すべきことを定めた法令の規定はない。
ニ さらに、請求人は、徴収の猶予がされた国税には延滞税はかからず、いったん徴収の猶予を与えたものにつき延滞税を課すのは、行政上の信義則、禁反言の法理に反する旨主張するが、通則法第63条第4項は、同法第23条《更正の請求》第5項ただし書きの規定その他の国税に関する法律の規定により国税の徴収を猶予した場合には、その猶予した国税に係る延滞税につき、その猶予した期間のうち当該国税の納期限の翌日から2月を経過する日後の期間に対応する部分の金額の2分の1に相当する金額は免除する旨を規定しているのであって、このことは、徴収の猶予がされた場合においても、当該猶予に係る国税につき、当然に延滞税を課すことを前提とした上で、当該延滞税の一部を特に免除するものであると解されるから、徴収の猶予がされた国税には延滞税はかからない旨の請求人の主張は、法律の規定に基づかない独自の見解であるといわざるを得ず、請求人の主張はいずれも採用することができない。
ホ なお、請求人は、前記2の(1)のロのとおり、本件更正処分は物納申請土地の価額を意図的に時価より低く算定したものであり、憲法第29条及び第14条に違反し、本件督促処分の違法性にも影響を及ぼす旨主張するが、本件督促処分は、本件延滞税に係る処分であり、本件延滞税の納税義務は、請求人が本件修正申告をすることに伴って生じているのであるからこの点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)上記(1)のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、前記(1)のイで述べたとおり、本件増差税額に対する延滞税の納税義務は、本件修正申告書が提出された平成7年7月6日に成立し確定していることとなり、その額は、前記2の(2)のニにおいて原処分庁が主張しているとおりであって、その適用条文及び計算過程に誤りは認められない。
 また、前記1の(2)のとおり、請求人は本件延滞税をその納期限までに納付しなかった事実及び原処分庁は物納財産の収納により生じた過誤納金を本件延滞税に充当した事実に争いはなく、平成8年9月25日現在における請求人の本件延滞税に係る未納の税額は22,521,900円であることが認められるところ、通則法第37条の規定によれば、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長(通則法第43条第3項の規定に基づく国税の徴収の引継ぎがされている場合は国税局長)は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならないこととされているから、当該規定に基づいてされた本件督促処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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