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(平9.9.30裁決、裁決事例集No.54 72頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建築工事業を営む同族会社であるが、平成7年分の地価税について、地価税の額を1,575,700円と記載した地価税の申告書(以下「本件地価税申告書」という。)を法定申告期限後である平成7年11月7日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年11月20日付で無申告加算税の額を235,500円とする賦課決定処分をし、その賦課決定通知書を請求人に対し、同月21日に送達した。
 請求人は、この処分を不服として国税通則法(以下「通則法」という。)第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項の規定により、異議申立期間内であるとみなされる平成8年1月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月17日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年5月7日に審査請求をした。

2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 「調査があったことにより決定があること」の予知について
 原処分庁は、本件地価税申告書は原処分庁の資産税担当職員(以下「担当職員」という。)から平成7年分の地価税について申告書を提出するよう具体的に勧奨を受けた後に提出したものであるから税務署の調査に基づき決定等があることを予知して提出されたものであって、請求人が自発的に提出したものということはできず、通則法第66条《無申告加算税》第3項は適用できないとして同条第1項の規定に基づき無申告加算税の賦課決定処分をした。
 しかしながら、本件地価税申告書の提出は次の理由により「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たる。
(イ)本件地価税申告書の提出までの経緯は、次のとおりである。
A 請求人は、平成7年10月26日に請求人の関与税理士F(以下「F税理士」という。)から平成7年分の地価税について同税理士が作成した申告書の内容について説明を受け、その申告書に記名押印の上、原処分庁への提出方をF税理士に依頼して交付した。
B 請求人は、平成7年分の地価税の法定申告期限である平成7年10月31日に「税目」欄に地価税と明記された納付書により同年分の地価税額の全額を納付した。
C その後、平成7年11月6日に担当職員からF税理士の事務所の職員(以下「F税理士事務所職員」という。)に「平成7年分の地価税額は納付されているが、平成7年分の地価税の申告書の提出はどうなっているか。」と電話連絡があり、確認した結果、平成7年分地価税の申告書の提出を失念していたことが判明したので、F税理士は、本件地価税申告書を同月7日に原処分庁へ提出した。
(ロ)ところで、地価税法第25条《申告》第1項は、課税時期において土地等を有する者は、その年の課税価格が基礎控除の額を超えるときは、税務署長に対して申告書を提出しなければならない旨規定している。
 この規定によれば、課税価格が基礎控除の額を下回っているときは、申告書を提出する必要はないこととなるのであり、課税価格は、常に変動するものであるから、課税価格について実地調査が必要となり、実地調査をしないで課税価格の決定はできないことになる。
 しかしながら、原処分庁は平成7年分の地価税の申告書の提出の有無についてF税理士事務所職員に対して電話で確認を行ったにすぎず、実地調査及び反面調査等の具体的な調査ないし納税相談等を行った事実はない。
(ハ)したがって、本件地価税申告書の提出までの経緯及び請求人に対して具体的な調査等が行われておらず、申告書の提出の有無について電話で確認が行われたにすぎないことからすると、「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額の計算について
 本件地価税申告書の提出が「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否かにかかわらず、無申告加算税は、法定申告期限までに納付すべき税額を納付しないで、期限後申告書を提出した日に納付した場合に課せられる行政制裁であるから、期限後申告書に記載した税額から法定納期限までに納付した税額を控除した税額を基礎として無申告加算税を計算すべきである。
 したがって、請求人は、平成7年分の地価税額の全額を法定納期限内に納付していることから、本件地価税申告書に係る無申告加算税の基礎となる税額は零円となる。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件地価税申告書の提出までの経緯については、次のとおりである。
(イ)本件地価税申告書の提出は、平成7年分の地価税の法定申告期限である平成7年10月31日を経過した後の同年11月7日であること。
(ロ)請求人は、平成7年10月31日に平成7年分の地価税額として1,575,700円をG銀行H支店で納付していること。
(ハ)本件地価税申告書には、地価税の額として1,575,700円と記載されていること。
(ニ)F税理士は、原処分庁の担当職員から平成7年分の地価税の申告書の提出がない旨の指摘を受けるまで、請求人から預かった本件地価税申告書の提出を失念していた旨申し立てていること。
ロ 請求人の平成6年分の地価税の申告事績は、次のとおりである。
(イ)平成6年分の地価税の申告書は、原処分庁に平成6年10月31日に提出されていること。
(ロ)平成6年分の地価税の申告書の「税理士署名」欄には、F税理士の署名押印が認められること。
ハ ところで、申告納税方式による国税については、納付すべき税額が納税者の申告により確定することを原則としており、納税申告書の提出が納税義務を確定する重要な意義を有することから、無申告加算税は、その申告の適正を担保するため、納税申告書を法定申告期限までに提出しなかった者に対してその行政制裁として設けられているものである。
ニ また、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出がその申告に係る国税について「調査により決定を予知してされたものでないとき」は、納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額の無申告加算税を賦課する旨規定している。そして、同項で規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの検討、判断を含めて極めて包括的な概念であると解されている。
 したがって、「調査」とは、実地調査等の納税者に対する直接的かつ具体的な、いわゆる外部調査はもちろんのこと、申告指導のような納税者が課税庁における検討を認識することができる程度の手続も調査の範囲に含まれると解されている。
 さらに、「決定があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、納税者が何らかの事由によって、申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は、単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないとされている。
 そうすると、「決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるためには、その期限後申告書が提出される以前に、課税庁において調査が開始されたにしても、その調査を納税者が認識できる以前に自発的な意思に基づいて期限後申告書を提出した場合をいうものであると解するのが相当である。
ホ 以上のことから判断すると、次のとおりである。
(イ)本件地価税申告書は、担当者から具体的に地価税の申告書の提出の勧奨を受けた後に提出さたれものであり、過去の申告状況から見ても、請求人が本件地価税申告書を提出しなければ、当然に、税務署から決定処分があることを予知できたものである。
 したがって、本件地価税申告書は、税務署の調査に基づき決定があることを予知して提出されたものであって、請求人が自発的に提出したものということはできず、通則法第66条第3項の規定は適用されない。
(ロ)請求人は、平成7年10月31日に平成7年分の地価税額の全額を納付済みであるから、無申告加算税の基礎となる税額は零円である旨主張する。
 しかしながら、無申告加算税は、上記ハで述べたとおり、納税申告書を法定申告期限までに提出しなかった者に対する行政制裁であり、税の納付とは直接関係がなく、本件地価税申告書に「地価税の額」と記載した税額が既に法定申告期限内に納付されているとしても、これによって免除されるものではない。
 また、通則法第66条第1項に規定する、同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額とは、法定申告期限後に提出された納税申告書に納付すべきものとして記載された税額をいい、これを本件地価税申告書に当てはめると、無申告加算税の基礎となる税額は、本件地価税申告書に地価税の額として記載された1,575,700円の10,000円未満の端数を切り捨てた1,570,000円となる。
 そうすると、本件地価税申告書に対する無申告加算税の額は、1,570,000円に100分の15の割合を乗じて計算した235,500円となる。
 したがって、通則法第66条第1項の規定に基づき無申告加算税を賦課した原処分は適法である。

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3 判断

 法定申告期限後に提出された本件地価税申告書の提出が通則法第66条第3項に規定する「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か、また、無申告加算税の基礎となる税額の計算において法定申告期限までに納付された税額を控除すべきか否かに争いがあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年分の地価税額を、法定申告期限である平成7年10月31日に日本銀行の歳入代理店であるG銀行H支店に納付している。
ロ 本件地価税申告書は、法定申告期限後である平成7年11月7日にF税理士を通じて提出されている。
(2)請求人提示資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人の平成7年分の地価税について、平成6年分の申告内容等内部資料を検討して、見込課税価格を算定した結果、申告義務があると見込まれたので、当該申告書等の用紙を請求人に対して平成7年9月11日に送付している。
ロ 請求人は、平成7年10月26日にF税理士から平成7年分の地価税について同税理士が作成した申告書の内容について説明を受け、その申告書に記名押印の上、原処分庁への提出方をF税理士に依頼して交付した。
ハ 原処分庁は、請求人が平成7年分の地価税について申告書を提出しているか否かを確認したところ、申告書を提出していないことが判明し、更に、調査したところ、請求人が同年分の地価税額を納付していることが判明した。
ニ 原処分庁の担当職員は、請求人の平成7年分の地価税の申告書が提出されていなかったので、平成7年11月7日F税理士事務所へ電話したところ、F税理士が不在であったので、F税理士事務所職員に対し、平成7年分の地価税について申告書の作成をF税理士が請求人から委任されているか否かを確認したところ、委任されている旨の回答を得たが、当該申告書の提出の有無について確認したところ、F税理士事務所職員は、F税理士に確認した上連絡する旨申し立てた。
ホ F税理士は、平成7年11月7日に本件地価税申告書を原処分庁に持参し提出した。F税理士は、その際、原処分庁の担当職員に対し、法定申告期限内に申告できなかった理由として、本件地価税申告書が入った封筒を机の引き出しの中に入れていたため、当該申告書を提出していなかったことに気が付かなかった旨述べた。
(3)請求人は、本件地価税申告書の提出までの経緯及び請求人に対して具体的な調査等が行われておらず、申告書の提出の有無について電話で確認が行われたにすぎないことからすると、「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する旨主張する。
 ところで、通則法第66条第3項で規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの検討、判断を含めて極めて包括的な概念であると解されている。
 したがって、「調査」とは、実地調査等の納税者に対する直接的かつ具体的な、いわゆる外部調査はもちろんのこと、申告指導のような納税者が課税庁における検討を認識することができる程度の手続も調査の範囲に含まれると解するのが相当である。
 また、「決定があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、納税者が何らかの事由によって、申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は、単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解されている。
 そうすると、「決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるためには、その期限後申告書が提出される以前に、課税庁において調査が開始されたにしても、その調査を納税者が認識できる以前に自発的な意思に基づいて期限後申告書を提出した場合をいうものであると解するのが相当である。
 そこで、本件について、通則法第66条第3項に規定する「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かを検討すると、上記(2)のとおり、請求人は、F税理士が法定申告期限前に作成した平成7年分の地価税の申告書について、その内容を了解した上で記名押印して本件地価税申告書の作成を了し、その提出方をF税理士に依頼して交付しており、当該申告書に係る地価税額の全額を法定納期限内に納付しているものの、原処分庁は、請求人の同年分の地価税の課税価格を請求人に係る資料等から算定した結果、申告義務があると見込まれたことから法定申告期限前に当該申告書等の用紙を請求人に送付し、法定申告期限内に同年分の地価税の申告書が提出されていないことを内部資料によって確認した上、F税理士事務所職員に対し電話で同年分の地価税について申告書の作成を請求人から委任されているか、また、地価税の申告書を提出しているか問い合わせを行っており、本件地価税申告書が提出されたのは原処分庁からF税理士が当該問い合わせを受けた直後であることからすると、「調査があったことにより決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当せず、「予知してされた」と認められる。
(4)請求人は、無申告加算税は、法定申告期限までに納付すべき税額を納付しなかった場合に課せられる行政制裁であるから、期限後申告書に記載した税額から法定納期限までに納付した税額を控除した税額を基礎として無申告加算税を計算すべきであるから、無申告加算税の基礎となる税額は零円となる旨主張する。
 しかしながら、通則法第66条第1項の規定によれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合以外は、無申告加算税が賦課されることとされており、無申告加算税は納税申告書を法定申告期限までに提出しなかった者に対する行政制裁であるから、同条の規定は納付すべき税額が法定申告期限内に納付されていたとしてもその適用が左右されるものではなく、同条の規定する「納付すべき税額」とは法定申告期限後に提出された申告書に記載された納付すべき税額を指し、税の納付とは直接関係がなく、無申告加算税の基礎となる税額の計算において法定納期限内に納付された税額を控除すべきではないと解するのが相当である。
 なお、請求人は期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは主張しておらず、当審判所の調査によっても正当な理由があるとは認められない。
(5)以上の結果、本件地価税申告書は、法定申告期限内に提出がなかったことについて、正当な理由があるとは認められず、かつ、その申告について調査があったことにより決定があることを予知して提出されたものであると認められるから、通則法第66条第1項の本文の規定に基づき本件地価税申告書に係る納付すべき税額に100分の15を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課決定すべきである。
 そうすると、本件地価税申告書に係る無申告加算税の額は、賦課決定処分の額と同額であるから、無申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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