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(平9.12.9裁決、裁決事例集No.54 94頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年3月1日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書に別表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年6月24日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年8月19日にその一部の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月15日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月19日に送達した。
 その後、原処分庁は、平成8年12月10日付で別表の「再更正処分等」欄のとおりの減額の再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各変更決定処分をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分(再更正処分等により一部取り消された後のもの。以下同じ。)に不服があるとして、平成8年12月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その一部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分については争わない。
イ 更正処分について
(イ)貸付金について
 原処分庁は、G株式会社(代表取締役請求人。以下「G社」という。)の平成4年12月1日から平成5年11月30日までの事業年度(以下「平成5年11月期」という。)の法人税の確定申告書の添付書類である借入金内訳書(以下「借入金内訳書」という。)に記載された同期末における被相続人からの借入金44,275,675円及び株式会社H(以下「H社」という。)の平成5年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成5年12月期」という。)の借入金内訳書に記載された同期末における被相続人からの借入金5,000,000円を被相続人の貸付金(以下「本件貸付金」という。)であるとして、これを本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)とする更正処分を行ったが、次のとおり、本件貸付金は請求人のG社及びH社に対する貸付金であり、本件相続財産ではない。
A 本件貸付金は、G社の請求人からの借入金及びH社の請求人からの借入金について、その借入先の名義を次のとおり振り替えたものである。

(A)G社の借入金
 (振替年月日)(振り替えた金額)(振替後の名義)
a平成4年6月23日27,675,675円J
b平成4年12月1日16,600,000円被相続人

(B)H社の借入金
(振替年月日)(振り替えた金額)(振替後の名義)
平成4年6月22日5,000,000円J

 なお、J(当時、被相続人の夫、以下「J」という。)は、平成4年6月26日に死亡した(以下、この死亡により開始した相続を「前相続」という。)。
B 上記Aの名義の振替を行った理由は次のとおりである。
 平成2年、当時G社の本店所在地であったP市R町4丁目881番12の土地(以下「本件係争土地」という。)の所有権を巡り、これをK(以下「K」という。)から贈与により取得したG社とこれを同人から代物弁済によって取得したとするL(以下「L」という。)との間で民事訴訟(以下「本件訴訟」という。)が発生した。
 本件訴訟の過程において弁護士から、G社が金銭を出捐して所有権を取得する旨の和解案が示されたときのために5,000万円の和解金を準備しておく必要があると聞かされたので、請求人としては、G社の借入金について、これが代表取締役である請求人からの借入金であるよりも、第三者からの借入金である方が、G社に資金力があることを和解のための交渉において相手方に示せると考え、また、H社の借入金については、和解金の予備資金の提示が必要となった場合に備える必要があると考えたからである。
 なお、本件訴訟は、第一審で和解案が二転三転し、本件貸付金の存在を相手方に提示する機会のないまま和解は不調となり、結局判決となった。控訴審では再び和解勧告がされ、平成7年の暮れに本件係争土地についてG社が3分の1、Lが3分の2の所有権を取得するという和解が成立して終結した。
C 上記Aの(A)のaの振替を27,675,675円としたのは、当時、請求人がM銀行N町支店の請求人名義の普通預金口座に12,444,738円及びT信用金庫X支店の請求人名義の普通預金口座に15,328,303円の預金を有していたので、これらの預金の額に見合う金額をJからの借入金としたものである。
D 前相続に係る相続税の申告で、上記Aの(A)のa及び(B)のJ名義の借入金とした金額(合計32,675,675円)を相続財産としたのは、G社及びH社において、これらをJからの借入金として決算書に計上したため、やむを得ず行ったものである。
E 原処分庁は、本件貸付金が本件相続財産であると認定した根拠の一つとして、W信用組合Q支店の被相続人名義の定期預金10,000,000円が平成5年9月17日に解約され、同店の自己あて小切手とされたものが、G社の裏書でY証券P支店のG社の取引口座に入金されていることから、被相続人の資金がG社へ流れている旨を主張するが、当該小切手はG社が現金と引換えに被相続人から取得したものにすぎず、被相続人の資金がG社に流れたものではない。
(ロ)小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用について
 原処分庁は、Q市S町747番5の土地、同所1587番1の土地及び同所1588番1の土地(以下、これらを併せて「本件土地」という。)について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)は適用されないとして更正処分を行ったが、本件土地は、前相続に係る相続税の申告において、本件特例の適用があったものであるから、同一の土地である本件土地について、本件相続において本件特例の適用が認められないのは不合理であり、承服できない。
ロ 加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件貸付金について
次のことから、本件貸付金は本件相続財産である。
A 前相続に係る相続税の修正申告書(平成5年3月22日提出のもの。以下同じ。)には、G社に対する貸付金27,675,675円及びH社に対する貸付金5,000,000円が当該前相続に係る相続財産として計上されており、それらの貸付金を被相続人が取得した旨記載されている。
B G社の平成5年11月期の借入金内訳書には、同期末において、被相続人から44,275,675円の借入金がある旨が記載されており、また、H社の平成5年12月期の借入金内訳書には、同期末において、被相続人から5,000,000円の借入金がある旨が記載されているところ、当該記載されている借入金残高は、いずれもその決算期末から本件相続開始の日までの間において増減した事実はない。
C W信用組合Q支店にある被相続人名義の定期預金が平成5年9月17日に解約され、当該解約金で振り出された同店の自己あて小切手(額面10,000,000円)が、G社の裏書によりY証券P支店のG社の取引口座に入金されている。
D 上記Aのとおり、被相続人は前相続において、G社に対する貸付金27,675,675円及びH社に対する貸付金5,000,000円を取得しており、当該貸付金は上記Bのことから、本件相続開始日において、G社に対するものが44,275,675円及びH社に対するものが5,000,000円それぞれ存在することが明らかである。また、上記Cのことは、被相続人の資金がG社に流れていたことを示すものである。
(ロ)本件特例の適用について
 措置法第69条の3第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した土地等がある場合に本件特例の適用がある旨を規定しているところ、不動産登記簿謄本によれば、本件土地は平成6年2月20日付贈与を原因として、同年3月20日に被相続人から請求人に所有権移転されており、請求人が贈与により取得したものであることが明らかであるから、本件土地について本件特例の規定を適用することはできない。
 なお、請求人は、前相続に係る相続税の申告においては、本件土地について本件特例の適用が認められたにもかかわらず、本件相続において本件特例の適用を認めないのは不合理である旨主張するが、本件特例の適用の有無については、相続発生の都度判断されるべきことであるから、請求人の当該主張には理由がない。
ロ 加算税の賦課決定処分について
(イ)過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(ロ)重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、G社及びH社の代表取締役であるから、本件貸付金の存在を十分知り得たにもかかわらず、これを本件相続財産から除外して相続税の申告をしたものであり、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件貸付金が本件相続財産であるか否か及び本件土地について本件特例が適用されるか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 本件貸付金について
(イ)原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
A G社の平成3年12月1日から平成4年11月30日までの事業年度(以下「平成4年11月期」という。)及び平成5年11月期の借入金内訳書並びにH社の平成4年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成4年12月期」という。)及び平成5年12月期の借入金内訳書には、両社の当該各期末におけるJ又は被相続人からの借入金残高について次のとおり記載されている。

(A)G社
aJからの借入金平成4年11月期27,675,675円
b被相続人からの借入金平成5年11月期44,275,675円

(B)H社
aJからの借入金平成4年12月期5,000,000円
b被相続人からの借入金平成5年12月期5,000,000円

B Jは、平成4年6月26日に死亡し、これにより生じた前相続に係る相続税の修正申告書には、相続財産としてG社に対する貸付金27,675,675円及びH社に対する貸付金5,000,000円が記載され、これらの貸付金を被相続人が取得した旨が記載されている。
 なお、前相続に係る共同相続人は、Jの妻である被相続人、同じくいずれも姉であるe及びfの3名である。
C 原処分に係る調査において、担当職員は、請求人に対し本件貸付金に係るG社及びH社の帳簿書類の提示を求めたが、請求人は、帳簿書類を紛失したとしてこれに応じなかった。
(ロ)請求人は、平成9年4月22日当審判所に対し、本件貸付金は、本件訴訟を有利に展開するため、請求人のG社及びH社に対する貸付金の一部をJ又は被相続人の両社に対する貸付金であるとして、帳簿上の操作を行ったものであり、これを裏付ける資料として異議調査の際に作成した資料を後日提出する旨答述し、同年5月13日に次の資料(以下「本件借入金資料」という。)を提出した。
A G社に係る平成元年11月30日終了事業年度から平成6年5月31日終了事業年度までの各事業年度末及びH社に係る平成3年12月31日終了事業年度から平成6年12月31日終了事業年度までの各事業年度末の借入先別借入金残高等を記載した書類の写し並びに両社の借入金に係る借入先の名義を請求人とJ又は被相続人の間において振り替える仕訳を記載した振替伝票
B H社に係る平成4年12月期の元帳の借入金勘定の写し
 なお、請求人は、本件借入金資料の提出に際して、上記Aの資料は、本件審査請求に当たり両社の決算書等に基づき作成したものである旨答述した。
(ハ)請求人が平成9年5月13日に当審判所に提出した本件訴訟関係資料によれば、本件訴訟の経緯は次のとおりである。
A G社は、K所有の建物(以下「本件係争建物」という。)を賃借していたが、本件係争建物及びその敷地である本件係争土地について同人から贈与を受けたとして、同人に対し、本件係争土地について仮登記に基づく本登記手続及び本件係争建物について贈与を原因とする所有権移転登記手続を求め、平成2年にZ地方裁判所に提訴した。
 これに対して、Kは贈与の事実を争い、G社に対し、本件係争土地に係る仮登記の抹消を求める訴訟を同裁判所に提訴した。
 これらの訴訟に、本件係争土地及び本件係争建物をKから代物弁済により取得したとするLが独立当事者参加し、G社に対し本件係争土地の仮登記の抹消及び本件係争建物の明渡し等を求め、Kに対し本件係争土地及び本件係争建物の所有権確認を求めた。
B 上記Aの訴訟については、平成6年5月26日に第一審判決があり、請求人及びLの主張はいずれも認められず、C(平成4年7月25日にKが死亡したことにより訴訟承継)の主張が認容された。
 これに対して、G社及びLは控訴し、平成7年5月15日に両者がCに対して金3,000,000円を提供する代わりに本件係争土地建物に対する権利を放棄することを求めた上、同年11月29日に、G社とLとの間で本件係争土地及び本件係争建物を分筆及び分割して、両者がそれぞれ所有権を取得する旨の和解が成立した。
(ニ)上記(イ)ないし(ハ)の事実等に基づき判断すると次のとおりである。
A 前記(イ)のAによれば、G社の平成5年11月期末の借入金残高には、被相続人からの借入金44,275,675円が含まれていること及びH社の平成5年12月期末の借入金残高には、被相続人からの借入金5,000,000円が含まれていることが明らかであるから、特段の事由がない限り、これら両社が被相続人からの借入金とした金額は、当該各期末における被相続人の貸付金、すなわち本件貸付金であると認められるところ、請求人は、これを被相続人の貸付金ではないとして、前記2の(1)のイの(イ)のとおり主張するので検討する。
(A)請求人は、本件貸付金は、本件訴訟を有利に展開するために、G社及びH社における請求人からの借入金の名義をJ又は被相続人に振り替えたものであって、その実質は、請求人の両社に対する貸付金である旨主張する。
 しかしながら、前記(ハ)の本件訴訟の経緯からみて、G社の借入金に係る借入先が請求人ではなく第三者であることが、本件訴訟の展開に関係するという請求人の主張には何ら合理的な根拠がなく、また、本件訴訟の当事者ではないH社の借入金に係る借入先について、かかる操作をすべき必然性は全くないというべきである。
 なお、請求人は、G社において請求人からの借入金を振り替えた、前記2の(1)のイの(イ)のAの(A)のaの金額27,675,675円は、当時請求人が有していた銀行預金2口の口座の残高27,773,041円に見合う金額とした旨主張するが、当該振り替えたとする借入金の金額と当該預金の残高は一致しないばかりか、当該預金を払い出している事実を証する資料もないから、当該主張は、G社の請求人からの借入金をJからの借入金に振り替えたことを裏付けるものではない。
(B)前記(イ)のBによれば、前相続に係る相続税の修正申告書には、相続財産として、G社に対する貸付金27,675,675円及びH社に対する貸付金5,000,000円が記載され、これらの貸付金を被相続人が取得した旨記載されているところ、請求人は、これはG社及びH社において、これらをJからの借入金として決算書に計上したため、やむを得ず行ったものである旨主張する。
 しかしながら、G社の平成4年11月期末及びH社の平成4年12月期末には、既に前相続は開始しているのであるから、両社がこれを請求人以外の者からの借入金としてその決算書上に表す必要があるのであれば、被相続人からの借入金として計上するのが自然であるし、請求人が主張するように、真実請求人の貸付金であってJの貸付金でないならば、これを相続財産として申告することに合理性がないといわねばならず、前相続における共同相続人が、これを相続財産として申告している事実に照らし、請求人のかかる主張を措信することはできない。
(C)前記(イ)のCのとおり、請求人は、原処分に係る調査において、G社及びH社の帳簿書類を紛失したとして、その提示に応じていないことが認められるところ、前記(ロ)のとおり、当審判所に対しては、異議調査の際に作成した資料を後日提出する旨答述し、さらに後日において、本件審査請求に当たり両社の決算書等に基づき作成した旨を答述して本件借入金資料を提出した。
 しかしながら、本件借入金資料は、その提出に至る経緯からみて、いつ、何のために作成されたものであるかが明らかではなく、かつ、当該資料に記載されている事項及び金額が真実であることを証する資料の提出がないことから、本件借入金資料を請求人の主張を裏付ける証拠として採用することはできない。
(D)上記(A)ないし(C)のとおり、本件貸付金が被相続人の貸付金ではないとする請求人の主張には理由がない。
 したがって、本件貸付金は、被相続人の貸付金であると解するのが相当である。
B 本件貸付金は、平成5年11月30日現在のG社に対する貸付金及び平成5年12月31日現在のH社に対する貸付金であるところ、その後、本件相続開始の日までの間の当該貸付金の増減については、請求人は何ら主張せず、当審判所の調査したところによっても、これが増減した事実は認められない。
 したがって、被相続人は、本件相続開始の日において本件貸付金を有していたと認められるから、本件貸付金は本件相続財産である。
ロ 本件特例の適用について
(イ)原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地の不動産登記簿謄本によれば、本件土地は、平成6年2月20日贈与を原因として同年3月30日に被相続人から請求人に所有権移転している。
B 平成6年1月1日現在の固定資産税課税台帳によれば、本件土地上には建物が存在するとの記載はない。
C 原処分に係る調査において、請求人は、担当職員に対して、本件土地上の建物を平成5年12月に取り壊し本件土地を更地にした旨申述している。
D 原処分に係る調査において、本件相続に係る共同相続人であるdは、担当職員に対して、本件土地は平成5年秋頃に更地になっていた旨申述している。
(ロ)請求人は、平成9年4月22日、当審判所に対して、本件土地を平成6年2月20日に被相続人から贈与を受け、同年3月30日に所有権移転登記を行った旨答述した。
(ハ)措置法第69条の3第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において被相続人若しくは被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用若しくは被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で建物若しくは構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、本件特例の適用がある旨規定しているところ、上記(イ)のA及び(ロ)のことから、請求人は、本件土地を相続又は遺贈により取得したものではなく、贈与により取得していることが明らかであるから、本件土地について、本件特例の適用はないというべきであり、仮に、これが相続又は遺贈により取得したものであったとしても、上記(イ)のBないしDのことから、本件土地は、本件相続開始の日において建物若しくは構築物の敷地の用に供されていたものではないことが明らかであるから、本件相続に係る相続税の課税価格の計算において、本件土地について本件特例を適用することはできない。
(ニ)なお、請求人は、前相続に係る相続税の課税価格の計算においては、本件土地について本件特例の適用がされたにもかかわらず、本件相続において本件特例の適用を認めないのは不合理である旨主張するが、相続税の課税価格の計算上、本件特例が適用されるか否かは、個々の相続について適用要件を充たすか否かによって決まることであり、同一の土地について一方の相続に適用されたとしても、他方の相続にも当然に適用されるというものではないから、当該請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、本件貸付金は本件相続財産であり、また、本件土地について本件特例の適用はないと認められるところ、更正処分は、その旨をもってされ、かつ、課税価格及び税額の計算にも誤りは認められないから適法である。

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(2)加算税の賦課決定処分について

イ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 重加算税の賦課決定処分において、その計算の基礎とされた税額のうち本件貸付金の額に対応する税額に係る部分について争いがあるので審理する。
(イ)原処分庁は、請求人はG社及びH社の代表取締役であるから、本件貸付金が本件相続財産であることを十分認識していたにもかかわらず、本件相続に係る相続税の申告において、本件貸付金を相続財産から除外して相続税の申告書を提出したことが、国税通則法第68条第1項に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたときに該当する旨主張する。
(ロ)国税通則法第68条第1項の規定によれば、重加算税の賦課決定については、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことが要件となっているところ、これは、重加算税の賦課要件を充足するためには、過少申告行為とは別に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為の存在を必要としているものであると解される。
(ハ)これを本件についてみると、原処分庁の主張は、請求人が意識的な過少申告を行ったものであるというにすぎず、隠ぺい又は仮装であると評価すべき行為の存在について何らの主張及び立証をしておらず、また、当審判所の調査その他本件に関する全資料をもってしても、本件貸付金について隠ぺい又は仮装の事実を認めることはできない。
 したがって、重加算税の賦課決定処分のうち、争いのある部分については重加算税を賦課することは相当でない。
 他方、本件においては、上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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