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(平9.7.18裁決、裁決事例集No.54 109頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年8月13日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、この相続開始(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書に課税価格を146,811,000円及び納付すべき税額を79,172,600円と記載して、法定申告期限までに申告した。次いで、請求人は、課税価格を161,949,000円及び納付すべき税額を87,223,000円とする修正申告書を平成3年7月17日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年7月9日付で課税価格を248,949,600円及び納付すべき税額を、133,884,900円とする更正処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成8年8月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年10月30日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年11月25日に審査請求をした。
(2)請求人は、被相続人の共同相続人の一人であるG(以下「G」という。)を被告として、平成4年に○○地方裁判所に対し本件相続に係る遺留分減殺請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起したところ、平成7年8月30日にGが請求人に対して和解金87,000,000円を支払う旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
 Gは、本件和解を受けて、平成7年12月28日に相続財産から遺留分87,000,000円の減額を求める更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これを認め、平成8年7月9日付でGの相続税額を減額する更正処分を行うとともに、請求人の相続税額を増額する原処分を行ったものである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるので、その全部の取消しを求める。
イ 相続税法第32条《更正の請求の特則》によると、相続税について申告書を提出した者は、遺留分による減殺の請求があったことを知った日の翌日から4月以内に限り更正の請求をすることができる旨規定されている。
 本件では、請求人はGを被告として、平成4年6月1日に遺留分減殺請求訴訟を提起しており、同年7月10日付で被告の答弁書が提出されているので、Gは、遅くとも同日までには遺留分の減殺請求があったことを知っていたこととなる。ところが、本件更正の請求が行われたのは平成7年12月28日であるから、4月以内に更正の請求がなされておらず、したがって、本件更正の請求は、法定の期限を徒過した違法なものであり、このような違法な更正の請求を前提にしてなされた原処分も違法である。
 なお、相続税法第32条第3号の規定は、明確に「遺留分による減殺の請求があったこと」と記載されており、文言上では請求権の行使の時を意味しており、また、請求権の行使については相続の開始と遺贈を知ったときから1年以内に制限しており、形成権の行使と考えられていることからみても、更正の請求ができる期間の始期は、文言どおり減殺の請求権が行使されたときからと解釈されるべきである。
ロ Gは、本件和解に際し請求人に対し更正の請求を行わない旨約束し、更正の請求の権利を放棄したものであるが、同人が本件更正の請求を行ったので、請求人は、同人に更正の請求を取り下げるよう要請したところ、同人が更正の請求を取り下げる前に病死し、同人の相続人が取下げ手続をしないうちに本件更正処分が行われた。
 したがって、本件更正の請求は無効又は違法であり、これを前提としてなされた原処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第32条第3号に規定する遺留分による減殺の請求があったこととは、その相手方である受遺者又は受贈者がその請求のとおり履行した場合はともかく、相手方がこれに応じない場合においては、各共同相続人の課税価格等を具体的に計算することができず、更正の請求をすべき額あるいは申告額を確定し得ない不合理が生ずることから、遺留分減殺請求による調停等の成立により各共同相続人の取得財産の範囲が確定した場合には、当該調停等が成立したことをいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、Gが相続税法第32条第3号に規定する更正の請求をすることができる期間は、本件和解の日、すなわち、平成7年8月30日の翌日から4月以内となるから、Gが平成7年12月28日にした本件更正の請求は、法定期限内に提出した適法なものとなる。
 したがって、原処分庁が、本件更正の請求があったことにより相続税法第35条《更正及び決定の特則》第3項第1号の規定に基づき原処分を行ったことは適法である。
ハ なお、請求人は、Gが更正の請求の権利を放棄したものであるから、本件更正の請求は無効又は違法である旨主張するが、本件更正の請求は上記ロのとおり適法に提出されていることから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)請求人が被相続人の共同相続人の一人であるGを被告として、○○地方裁判所に対し本件訴訟を提起したところ、平成7年8月30日にGが請求人に対して和解金87,000,000円を支払う旨の和解が成立したこと及びGが本件和解を受けて、平成7年12月28日に相続財産から遺留分87,000,000円の減額を求める更正の請求をしたところ、原処分庁がこれを認め、平成8年7月9日付でGの相続税額を減額する更正処分を行うとともに、請求人の相続税額を増額する原処分を行ったことは、請求人と原処分庁との間において争いがなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
(2)請求人は、相続税法第32条には、相続税について申告書を提出した者は、遺留分による減殺の請求があったことを知った日の翌日から4月以内に限り更正の請求をすることができる旨規定されているところ、本件では、請求人がGを被告として、平成4年6月1日に本件訴訟を提起しており、同年7月10日付で被告の答弁書が提出されているので、Gは、遅くとも同日までには遺留分の減殺請求があったことを知っていた旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張の日に本件訴訟を提起し、主張の日に被告が答弁書を提出したことを認めるに足りる証拠はないから、この点において請求人の主張は理由がない。もっとも、本件和解調書によれば、本件訴訟は平成4年(ワ)第××号事件として係属したことが認められ、原処分庁もこの点について特に争っていないことから、以下においては、請求人の主張を前提として審理することとする。
 ところで、相続税法第32条第3号に規定する遺留分による減殺の請求があったこととは、その相手方である受遺者又は受贈者がその請求のとおり履行した場合はともかく、相手方がこれに応じない場合においては、各共同相続人の課税価格等を具体的に計算することができず、更正の請求をすべき額あるいは申告額を確定し得ない不合理が生ずることから、遺留分減殺請求訴訟における和解等の成立により各共同相続人の取得財産の範囲が確定した場合には、当該和解等が成立したことをいうものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、Gが相続税法第32条第3号に規定する更正の請求をすることができる期間は、本件和解の日、すなわち、平成7年8月30日の翌日から4月以内となるから、Gが平成7年12月28日にした本件更正の請求は、法定期限内に提出された適法な更正の請求といえる。
 したがって、原処分庁が、本件更正の請求があったことにより相続税法第35条第3項第1号の規定に基づき原処分を行ったことは適法である。
(3)請求人は、Gが本件和解に際し請求人に対し更正の請求を行わないと約束した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。仮に、本件和解条項第7項がその旨を約したものであるとしても、それは請求人とGとの間における合意にすぎず、Gが行った本件更正の請求がその故に無効又は違法となる理由はなく、また、前記(2)のとおり、本件更正の請求は適法になされているので、この点についての請求人の主張は採用できない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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