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(平9.12.10裁決、裁決事例集No.54 141頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、P市R町1丁目23番31号の事業所において、医業(耳鼻咽喉科)を営む者であるが、平成5年分の所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 P税務署長は、これに対し、平成8年5月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
項目      区分確定申告更正処分等
総所得金額87,931,31991,735,747
(内訳)
 事業所得の金額98,788,026102,502,454
 不動産所得の金額△11,611,787△11,611,787
 配当所得の金額90,000
 給与所得の金額755,080755,080
納付すべき税額30,686,30032,566,300
過少申告加算税の額188,000

(注)「不動産所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年7月26日に審査請求をした。
 なお、請求人は平成8年12月26日に住所をP市S町4丁目19番14号からP市S町4丁目23番31号へ移動したが、これに伴い、原処分庁はP税務署長からQ税務署長となった。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件更正処分について
 請求人は、従業員(医業に係る事務長)であるJ(以下「J」という。)の死亡に伴う弔慰金3,000,000円(以下「本件弔慰金」という。)及び香典200,000円(以下「本件香典」という。)を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して、平成5年分の所得税の確定申告をした。
 原処分庁は、これに対し、本件弔慰金及び本件香典は、必要経費とは認められないとする本件更正処分をした。
 しかしながら、本件弔慰金及び本件香典については、次の理由により請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきである。
 所得税法第37条《必要経費》で規定している事業所得の必要経費とは、総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額であるから、所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》及び所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》などの別段の定めのあるものを除き、事業主が業務に関連して支払った弔慰金や香典は、その支払先及びその金額が社会通念上妥当と認められる場合には必要経費に算入されるものである。
 したがって、請求人がJの死亡に際して支払った本件弔慰金及び本件香典は、次のとおり請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費となる。
(イ)本件弔慰金について
A 弔慰金とは、死者の遺族に対し弔問の意味で贈られる金員であり、被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、被相続人の死亡時の普通給与の半年分に相当する金額までは社会通念上妥当な金額とされている。また、その金額の妥当性については、支払者の事業規模、所得状況等も参考にすべきである。
 さらに、本件弔慰金の必要経費性については、支払者の事業の規模、収入の状況、所得の程度及びその支給対象者の経歴等を検討すべきである。
B 原処分庁が、弔慰金に関する支給規程がないという理由だけで本件弔慰金の必要経費性を認めないとしたことには、支給規程のない退職金が必要経費として認められたことから考えると合理性がない。
C 一般的に、退職慰労金とは、(1)過去勤務に対する報酬である退職金、(2)功績顕著と認められる者に支給される功労金及び(3)弔慰金(業務上の死亡、その他の死亡に分けられる)をいうものとされている。
 弔慰金を支給したのは今回が初めてであり、本件弔慰金については、月額25,000円×年12か月×従事期間10年間=3,000,000円と算定した。
 本来、死亡退職でなければ上記(2)の功労金として支給するような内容と金額であるが、上記(3)のその他の死亡に該当するため弔慰金として支給することとした。
 なお、本件弔慰金の算定は、請求人とJの共有の建物に係る、ビルメンテナンス会社との交渉、立会い、管理及び深夜のビル内の巡回見回りに対する、過去(10年)の労務提供の対価(月額25,000円)を基に計算したものであり、それらを通常の退職金と区別して経理したものである。
D 所得税法第37条に規定する事業所得の必要経費とは、その年の12月31日の現況において債務が確定しているものをいい、本件弔慰金について、請求人は、平成5年12月31日、借方科目を弔慰金、貸方科目を店主勘定として経理処理している。
(A)その伝票の対象名義人は、Jと記載されており、原処分庁はそれを請求人であると誤認している。
(B)原処分庁は、現金による支出でなく店主勘定として経理処理していることが不自然であり、請求人自身が受け取ったから認められないとしているが、請求人が遺産分割の協議により本件弔慰金を取得したのは、上記の経理処理をした平成5年12月31日から半年以上も経過した平成6年7月25日であり、原処分庁は、この平成5年12月31日の現況を遺産分割成立の日と混同して、本件弔慰金の受取人を請求人自身であると誤認している。
E 原処分庁は、遺産分割協議書に本件弔慰金に関する記載がないことを必要経費算入を認めない理由の1つとしているが、遺産分割協議書に記載すべきものが不足していれば、追加挿入すれば足りることであり、本件弔慰金について記載がないことが本件弔慰金の必要経費性を否定する理由にはならない。
F 原処分庁が主張する(1)従業員で70歳を超えたような高齢の者が業務上死亡したのではない場合において、弔慰金を支払うという社会的慣行があるとは認められない(2)高齢の尊属が従業員であったとしても、その死亡に際して弔慰金を支払うような例があるとは到底思われないとの理由には、合理性がない。
(ロ)本件香典について
A 香典は、故人との関係において、生前の交ぎに報いるために葬儀代の一部にと思い遺族に金員を託すものであり、喪主に対して贈与するものではない。
B 請求人は、本件香典について、平成5年12月28日に借方科目を厚生費として経理処理しているが、その伝票の対象名義人は、Jと記載されており、原処分庁はそれを請求人であると誤認している。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人の母親であり、請求人の営む事業において従業員でもあったJが平成5年12月26日に74歳で死亡したこと。
B 請求人は、Jの死亡に際して、平成5年12月28日に本件香典、同月31日に、退職金7,000,000円(以下「本件退職金」という。)及び本件弔慰金を請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費として経理処理し、平成6年3月15日に平成5年分の所得税の確定申告をしたこと。
C 請求人の営む事業所においては、退職金の支払に関する規程及び弔慰金の支払に関する規程はないこと。
D 請求人は、本件弔慰金について、仕訳伝票に借方科目を弔慰金3,000,000円、貸方科目を店主借3,000,000円と経理処理をしていること。
E 請求人が平成6年7月25日に原処分庁に提出したJの相続に係る相続税の申告書及び同申告書に添付された遺産分割協議書によれば、Jの相続人は、請求人及び請求人の妹であるK(以下「Kという。)の2名であり、本件退職金の相続人は請求人であると記載されているが、同申告書及び遺産分割協議書には、本件弔慰金に関する記載はないこと。
 なお、葬儀費用は請求人が負担した旨記載されていること。
F 請求人及びJが原処分庁に提出した平成4年分の所得税の確定申告書にそれぞれ添付された青色申告決算書(不動産用)によれば、P市R町1丁目23番31号に所在する建物(以下「本件建物」という。)は、貸ビルであり、請求人とJが2分の1ずつ共有していたものであること。
G 請求人は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)に際し、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に要旨次のとおり申述していること。
(A)本件退職金は、Jの死亡時の基本給(月額)である500,000円に昭和54年からの勤続年数である15年から1年を差し引いた14年を乗じて算出した。
(B)本件弔慰金は、本件退職金のプラスアルファとして算定したものであり、Jに日ごろから本件建物の管理をしてもらっていたため、その労務の対価を月額50,000円と算定し、本件建物が請求人と共有であることから半額の25,000円を基礎に年額300,000円として10年分で算出した。
(C)本件弔慰金及び本件香典は、いずれも請求人自身が受取人である。
(ロ)ところで、所得税法第37条第1項は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定していないものを除く。)の額とする旨規定している。
 そして、事業所得における必要経費とは、事業との関連性が要求されるのみならず、事業遂行上必要であるという必要性が要件となるものであり、この事業遂行上必要か否かの判断は、単に事業主の主観的判断のみでは足らず、通常かつ必要なものとしての客観性を具備したものでなければならない。
(ハ)請求人は、本件弔慰金は、その金額の算定の基礎となるべき支給規程等がなく、本件退職金とは別に支給したというのであるが、従業員が業務上死亡したような場合や一般的に定年と認められるような年齢に達しない従業員が死亡したような場合に弔慰金が支払われることは多いが、70歳を超えたような高齢の者が業務上死亡したのではない場合において弔慰金を支払うという社会的慣行があるとは認められない。
 まして、高齢の尊属が従業員であったとしてもその死亡に際して弔慰金を支払うような例があるとは到底思われない。
 そうすると、本件弔慰金が請求人の事業遂行上通常かつ必要なものとしての客観性を具備しているとは到底認められないから必要経費に算入することは認められない。
(ニ)香典とは、死者に供える香に代わる金銭と解されるが、実質的には葬儀を主宰する喪主に交付されるものであるから、いわゆる喪主自身が香典を手向けるというような一般的な慣行があるとは認められない。
 ところで、請求人が提出した相続税申告書によれば、Jの葬儀費用は請求人が負担したものと記載されていることは、上記(イ)のEのとおりであり、請求人がいわゆる喪主であると認められるから、請求人がJの葬儀に際し香典を手向けたとしても、それは事業遂行上通常かつ必要なものとしての客観性を具備したものということは到底できないから必要経費に算入することは認められない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、事業所得の金額の計算上、本件弔慰金及び本件香典が必要経費に算入されるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 当審判所が原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)Jは、請求人の母親であるが、本件建物の4階部分に居住していたこと。
 なお、本件建物の2階部分は、請求人が診療所として使用し、1階及び3階部分は賃貸の用に供していたこと。
(ロ)Jは、平成5年8月にL病院に入院し、同年12月26日に74歳で死亡していること。
(ハ)請求人の営む事業において、退職金及び弔慰金の支給に関する定めがないこと。
(ニ)請求人は、本件弔慰金について、平成5年12月31日付の補助元帳の伝票に借方科目を弔慰金、貸方科目を店主勘定、取引金額を3,000,000円と記載して経理処理していること。
 なお、当該伝票の「摘要」欄には、「前院長夫人 J 弔慰金」と記載されていること。
(ホ)請求人は、本件調査において、調査担当職員に対し、本件弔慰金は、請求人がJに本件建物の夜間の見回り、修繕等の立会いなど、日頃から本件建物を管理してもらっていたことから、本件退職金のプラスアルファとして、これらの労務の対価を月額50,000円と算定し、本件建物は請求人とJが2分の1ずつ共有していたことから、半額の25,000円を基礎に、年額300,000円の10年分として算出した旨申述していること。
 また、本件弔慰金及び本件香典は、喪主である請求人が受け取った旨申述していること。
(ヘ)請求人は、本件退職金について、平成5年12月31日付の補助元帳の伝票に借方科目を退職金、貸方科目を未払費用、取引金額を7,000,000円と記載して経理処理していること。
 なお、当該伝票の「摘要」欄には、「前院長夫人 J 死亡退職金勤続年数15年」と記載されていること。
(ト)本件退職金は、昭和62年に退職した従業員に支給した退職金の金額の算定方法と同様に、死亡時の基本給(月額)に勤続年数15年から1年を差し引いた年数14年を乗じて算定していること。
(チ)請求人が平成6年7月25日に原処分庁に提出したJの相続に係る相続税の申告書及び同申告書に添付された遺産分割協議書によれば、Jの相続人は、請求人及びKの2名であり、本件退職金の受取人は請求人である旨記載されているが、本件弔慰金に関する記載はないこと。
 なお、葬儀費用は請求人が負担した旨記載されていること。
(リ)請求人は、本件香典について、平成5年12月28日付の補助元帳の伝票に借方科目を厚生費、貸方科目を店主勘定、取引金額を200,000円と記載して経理処理していること。
 なお、当該伝票の「摘要」欄には、「前院長夫人 J 香典」と記載されていること。
ロ 請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)Jは、請求人の父親が事業主であったころから勤務しており、請求人が事業主になってからは、入院した平成5年の7月まで15年間勤務していたこと。
(ロ)Jの従業員としての従事内容は、医院の事務長として他の従業員の管理、給料計算、診療報酬の保険請求事務及び従業員の採用の際の面接のほか、本件建物の家賃の徴収などであったこと。
(ハ)Jの給料賃金が他の従業員と比して多額であったのは、給料計算や保険請求事務の事務量が多いためであったこと。
(ニ)本件弔慰金は、医院の従業員の管理と診療報酬の保険請求事務をオーバータイムで行ってもらっていたこと、また、本件建物の管理に関して昼夜を問わず働いてもらったことなどの退職金としての積み残し部分の功績に相当する金額として支払ったものであること。
(ホ)本件弔慰金の金額は、退職金として積み残した部分の功績に相当する金額を月額50,000円として、そのうち医療事務に関しては、その金額の2分の1の25,000円とし、本件建物が建築されてからの年数10年を乗じて算定したこと。
(ヘ)本件弔慰金については、平成5年12月31日に借方科目を弔慰金、貸方科目を店主勘定として仕訳をし、その支払は、店主勘定の入出金の中で清算されていること。
(ト)本件弔慰金については、Jの共同相続人であるKと協議した結果、請求人が取得したこと。
(チ)本件退職金は、昭和62年に退職した従業員に支給した退職金の金額の算定方法と同様の方法により基本給(月額)に勤続年数から1年を差し引いた年数を乗じて算定したこと。
(リ)本件退職金については、平成5年12月31日に借方科目を退職金、貸方科目を未払費用と仕訳をしていること。
(ヌ)本件香典については、平成5年12月28日に借方科目を厚生費、貸方科目を店主勘定と仕訳をしていること。
 また、香典帳にも200,000円の記載がされていること。
(ル)本件香典は、喪主である請求人が取り扱ったこと。
(ヲ)従業員の慶弔関係費は、従業員の勤続年数や忠実度などを考えて通常1万円から3万円程度であること。
(ワ)同業者(医師)仲間の慶弔関係費は、結婚の場合は5万円、香典は1万円から2万円程度であること。
ハ ところで、所得税法第37条第1項は、その年の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
 また、所得税法(平成9年法律第5号による改正前のもの。)第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号は、家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものの額は、必要経費に算入しない旨規定し、同法施行令第96条《家事関連費》は、上記の必要経費とされない家事関連費は、同条第1号に掲げる家事関連費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費及び同条第2号に掲げる青色申告者に係る家事関連費のうち取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費以外の経費とする旨規定している。
 上記の規定から、事業所得における必要経費とは、当該事業について生じた費用であること、すなわち業務との関連性が要求されるとともに、かつ、業務の遂行上必要であることが要件とされているところであり、この業務遂行のために必要か否かの判断については、個人所得においては、個人事業主は、日常生活において事業による所得の稼得活動のみならず、所得の処分としての消費行為をも行っているものであることから、事業上の必要経費と、所得の処分たる家事費とを明確に区分する必要があるので、単に事業主の主観的判断のみではなく、その支出が客観的に必要経費として認識できるものでなければならないものとされている。
 すなわち、業務の遂行上いかなる支出をするかは、通常、事業主が判断するものであり、また、業務の遂行上必要であるかどうかの判断も第1次的には事業主の判断によるのであるが、この必要性の判断を事業主の主観的判断にのみゆだねていたのでは租税の負担を不当に減少させる結果が生じる場合があり、課税の公平の観点からその支出のうち客観的に通常かつ必要と認められるもののみを必要経費に算入すべきものと解されている。
 また、事業主と従業員との関係には、業務上の関係のほか、友人・知人・親族等と同様の社交的関係も存在することから、事業主が負担した従業員絡みの出費が常に業務関連性を有しているということはできない。
 したがって、従業員への弔意を表すためとして支出される費用が、上述の意味での必要経費になるか否かは、当該弔意の目的、事業主と従業員との関係、金額及び算定根基、従業員の勤務歴、慶弔規程の有無及びその内容、支給事例等を総合勘案したうえ、個々の支出ごとに、社会通念に従い、業務の遂行上必要か否かにより判断するのが相当である。
ニ 本件弔慰金について
(イ)弔慰金とは、従業員等の死亡の際に、雇用主等が弔慰を表し、遺族を慰めるために好意的、恩恵的に支給する金品をいうものと解されている。
 ところで、弔慰金が事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入されるためには、上記ハで述べたとおり、単に事業に関連するという事業主の主観的判断のみではなく、社会通念上一般に認められ、事業に直接の関連性を有し、事業遂行上必要な支出であることが客観的に認識されるものでなければならない。
(ロ)そこで、本件弔慰金についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、本件弔慰金の支払理由及び金額の算出方法について、調査担当職員に対して、上記イの(ホ)のとおり、本件建物の管理等の労務の対価としての月額50,000円に本件建物の共有持分割合2分の1を乗じた25,000円を基礎に10年を乗じて算出した旨申述していることが認められ、一方、当審判所に対して、上記ロの(ニ)及び(ホ)のとおり、医院の従業員の管理及び保険請求事務並びに本件建物の管理等の労務の対価としての月額50,000円に医療事務部分の割合2分の1を乗じた25,000円を基礎に、本件建物の建築後の経過年数10年を乗じて算出した旨答述しており、その支払理由及び計算に採用した金額の算出根拠がそれぞれ異なっていることが認められることから、本件弔慰金の支払理由があいまいであり、また、その金額の算出方法にも合理性がない。
 また、請求人が、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるとする請求人の事業に従事していた従業員の死亡により支給する弔慰金の金額の算定に、不動産所得の基因となる本件建物の管理等の労務の対価及び建築後の経過年数等を用いていることからすると、本件弔慰金の支給は、当該事業と直接の関連性を有するものとは認められない。
 さらに、請求人は、本件弔慰金については、本件退職金のプラスアルファあるいは医療事務に係る退職金の積み残し部分として算出した旨申述あるいは答述しているが、上記ロの(チ)のとおり、本件退職金の算出過程においてJの勤続年数から1年を差し引いた14年を用いていることに対し、本件弔慰金の算出過程において、本件建物の建築後の年数である10年を用いており、整合性が認められない。
B 本件弔慰金の受取に関して、請求人は、当審判所に対し、上記ロの(ヘ)及び(ト)のとおり、支払は店主勘定の入出金の中で清算されている旨及び共同相続人であるKと協議した結果請求人が取得した旨答述しているが、店主勘定は、事業主と個人の家計との取引勘定であり、翌年年初の元入金の算出過程で清算されること及び弔慰金は一般に民法上の相続財産であるとは解されていないことから必ずしも遺産分割の協議の上で受取人が決定されるものではなく、遺産分割の協議成立の日である平成6年7月25日に取得したとする証拠も見当たらないこと、また、請求人は、調査担当職員に対し、上記イの(ホ)のとおり、受取人は請求人である旨申述していることから、事実上は当初から請求人自身に帰属するものであると認めるのが相当である。
(ハ)上記(ロ)のとおり、本件弔慰金については、その支払者である雇用主と受取人は同一人である請求人自身と認められることから、事業主が自らの判断において本人自身の所得金額を算定するに当たり控除する必要経費の金額を決定し得ることになり課税の公平を損なうことにもなるところ、請求人は、親族である従業員の死亡に伴い本件弔慰金を必要経費として経理処理したものであり、その支払理由があいまいであり、また、金額の算出方法にも合理性、整合性が認められないから、事業と直接の関連性を有し、客観的に事業遂行上通常かつ必要なものとは認められない。
(ニ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のAのとおり、弔慰金とは、死者の遺族に対し弔問の意味で贈られる金品であり、被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、被相続人の死亡時の普通給与の半年分に相当する金額までは社会通念上妥当な金額とされており、また、その金額の妥当性、必要経費性については、支払者の事業規模、所得状況、支払対象者の経歴等を参考にして検討すべきである旨主張する。
 ところで、相続税の課税上、実質的に被相続人の退職手当等に該当すると認められるものを除き、相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、被相続人の死亡時の普通給与の半年分に相当する金額を弔慰金等に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分は退職手当等に該当するものとして取り扱われていることが認められる。
 しかしながら、上記弔慰金等が、被相続人の相続に係る相続税の課税上退職手当金等に含まれないものとして取り扱われているとしても、所得税法上、常にその全額を事業所得に係る必要経費の額に算入する旨の規定はなく、また、その金額の妥当性及び必要経費性については、上記(ロ)のA及び(ハ)で認定したとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。
(ホ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のBのとおり、原処分庁が、弔慰金に関する支給規程がないという理由だけで本件弔慰金の必要経費性を認めないとしたことには、支給規程のない退職金が必要経費として認められたことから考えると合理性がない旨主張する。
 ところで、使用者の従業員に対する退職金の支給債務及びこれに対応する従業員の退職金支払請求権は、雇用契約の終了、すなわち退職の事実が生じたことにより当然に発生するものではなく、労働契約、就業規則等でそれを支給すること及びその支給基準があらかじめ定められているか、あるいは少なくとも明確な支給条件に従った慣行がある場合に発生するものと解されている。
 したがって、本件退職金については、支給規程等はないが、上記イの(ト)のとおり、過去に退職した従業員に対する支給実績を基準として算定されていることが認められるから、請求人の主張は採用することができない。
(ヘ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のCのとおり、本件弔慰金は、本来、功労金として支給するような内容と金額であるが、死亡したため弔慰金として支給し、その支給の理由は、ビルメンテナンス会社との交渉、立会い、管理及び深夜ビル内の巡回見回りに対する過去の労務提供であり、それを通常の退職金と区別して経理処理したものである旨主張する。
 ところで、弔慰金とは、上記(イ)のとおり、雇用主等が弔意を表し、遺族を慰めるために好意的、恩恵的に支給する金品をいうものと解されているが、請求人の主張及び本件退職金のプラスアルファあるいは医療事務に係る退職金の積み残し部分として算定した旨の申述あるいは答述からすれば、請求人は、本件弔慰金について、上記の趣旨を有するものとして支給したものではなく、実質的には退職金としての趣旨を有するものとして支給したものと推認される。
 そこで、本件弔慰金が退職金として支給したものであるとした場合、本件弔慰金に相当する金額は本件退職金に上乗せされることになるが、上記(ホ)で述べたとおり、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した本件退職金の算定は、過去の支給実績に基づいていることが認められること、また、上記(ロ)のAのとおり、本件弔慰金については、その支払理由があいまいであり、その金額の算定方法にも合理性、整合性がないことから、当該上乗せとなる部分の金額については、退職金として通常かつ必要なものであると認められないこととなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ト)請求人は、本件弔慰金については、必要経費として債務が確定する12月31日の現況において、同日に弔慰金として経理処理し、その仕訳伝票の対象名義人はJと記載しており、請求人が本件弔慰金を受け取ったのは遺産分割成立の日である平成6年7月25日である旨主張する。
 しかしながら、本件弔慰金の受取については上記(ロ)のB及び(ハ)で認定したとおりであり、また、伝票の記載は必要経費として経理された事実を示すに過ぎず、そのことによって、所得税法上の必要経費性が決定されるものではないことから、請求人の主張は採用することができない。
(チ)請求人は、遺産分割協議書に記載すべきものが不足していれば、追加挿入すれば足りることであり、本件弔慰金の記載がないことが本件弔慰金の必要経費性を否定する理由にはならない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、遺産分割協議書には本件弔慰金について記載がないことが認められるが、原処分庁がその事実のみによって本件弔慰金の必要経費性を否定したものとは認められず、本件弔慰金の必要経費性については上記(ハ)で述べたとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。
(リ)請求人は、原処分庁が答弁書に記載している(1)70歳を超えたような高齢の者が業務上死亡したのではない場合において、弔慰金を支払うという社会的慣行があるとは認められないし、(2)高齢の尊属が従業員であったとしても、その死亡に際して弔慰金を支払うような例があるとは到底思われないとの理由には、合理性がない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、原処分庁は、他の医業所得者の弔慰金の支給事例について検討した上、社会的慣行がないと判断したことが認められ、また、本件弔慰金の必要経費性については、上記(ハ)で述べたとおりであることから、請求人の主張は採用することができない。
(ヌ)以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができず、本件弔慰金については、請求人の事業所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないというべきである。
ホ 本件香典について
(イ)香典とは、人の死に際して、親類や知人が喪家へ贈る金銭その他の財物を指していうものであり、その本質は喪家の葬儀その他の出費を軽くするために、いわゆる喪主(葬儀主宰者)に贈られたものと解されている。
 したがって、香典はその性質上死者に対する贈与ではないから相続財産とはいえず、喪主はそれを葬儀費用等に充当するものであるとされている。
 また、親子、夫婦等親族間で執り行う葬儀は、親族として当然に行われているものであって、社会通念上個人の私的行事として認められるものであるから、事業所得者が当該葬儀に伴い支出する費用はその業務の遂行上通常必要な費用とは認められていない。
(ロ)そこで、本件香典についてみると、次のとおりである。
 請求人は、上記イの(リ)及び上記ロの(ヌ)のとおり経理処理等をしていることが認められるが、当該経理処理等によって所得税法上の必要経費性が決定されるものではなく、また、上記イの(チ)の事実から葬儀費用の負担者は喪主である請求人であり、本件香典を手向けた者と受取人である喪主は請求人自身であると認めるのが相当であるところ、そのような社会的慣行は認められず、さらに、上記のような経理処理等により、事業主が自らの判断により必要経費の額を決定し得ることになり、同一人において、受け取ったとする香典については非課税とされる一方、香典は葬儀費用に充てられるものであるという性質からすれば、当該香典に相当する葬儀費用の額を必要経費に算入したものと同様となることを併せ考えると、本件香典については、事業遂行上客観的に通常かつ必要な支出には該当しないと認めるのが相当である。
 また、仮に、本件香典について業務に関連する部分があるとしても、請求人の営む事業の従業員であると同時に母親であるJの葬儀に伴い支出したものであることから、家事関連費とみるのが相当である。
 そして、家事関連費が必要経費として控除されるためには、上記ハのとおり、業務と何らかの関連があるというだけでなく、業務の遂行上必要であり、かつ、その部分が客観的に明らかでなければならないものと解されるところ、本件香典については、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、所得税法施行令第96条第1号及び第2号に規定する経費には該当せず、その全額について必要経費に算入することはできない。
(ハ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、香典は、故人との関係において、生前の交ぎに報いるために葬儀代の一部にと思い遺族に金員を託すものであり、喪主に対して贈与するものではない旨、また、平成5年12月28日付伝票に記載された対象名義人はJであり、原処分庁はそれを請求人と誤認している旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、香典は死者に対する贈与とは解されないから相続財産とはされず、また、上記イの(チ)のとおり、葬儀費用は請求人が負担したことが認められることからすると、伝票の対象名義人がJと記載されていることをもって、その受取人が請求人ではないとはいえない。
 したがって、請求人のこの点に関する主張は採用することができない。
(ニ)以上のとおりであるから、請求人の主張は採用することができず、本件香典については、請求人の事業所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないというべきである。
ヘ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件弔慰金及び本件香典は、請求人の事業所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないので、原処分庁が、請求人の平成5年分の事業所得の金額の計算上、本件弔慰金及び本件香典は必要経費に算入されないとして行った本件更正処分は相当である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のヘのとおり相当であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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