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(平9.12.15裁決、裁決事例集No.54 210頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年分の所得税の確定申告書(分離課税用)(以下「本件確定申告書」という。)を次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成4年分の所得税の修正申告書に次表の「修正申告」欄のとおり記載して、平成8年3月14日に申告した。
 原処分庁は、これに対し平成8年3月15日付で、次表の「更正・賦課決定」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成8年5月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月23日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年9月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、P市R町4丁目12番地2に所在する鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根11階建の区分所有建物のうち、家屋番号201、同202及び同203の専有部分(敷地権を含む。)(以下、敷地権を除く家屋番号201、同202及び同203の専有部分を「本件建物」といい、本件建物に係る敷地権と併せて「本件不動産」という。)を譲渡し(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)、本件譲渡に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)を本件確定申告書において分離短期譲渡所得として申告した。
 請求人は、原処分庁に提出済みの平成3年8月9日にQ家庭裁判所で行われた第3回遺産分割調停(以下「第3回調停」という。)の「調停条項」と題する書面(以下「本件第3回調停条項案」という。)に記載されているとおり、本件不動産を請求人を除く他の共同相続人F、G、H、J、K、L、M、N、W及びX(以下、これらの共同相続人10名を「他の相続人ら」という。)の所有とする遺産分割に合意し、請求人がこれを直ちに代金60,000,000円で買い取ること、これをY株式会社(以下「Y社」という。)へ77,000,000円で売却した上で、他の相続人らに売買代金を支払うことを約束したものである。
A 原処分庁に提出済みの平成4年6月1日の調停(成立)(以下「本件調停」といい、本件調停に係る調書を「本件調停調書」という。)の遺産分割調停事件において、請求人は、当初から、本件不動産は他の相続人らが遺産としてその相続分を各持分とし共有で取得すべきとしており、他の相続人らにおいても原則的に異議がなかったものである。しかし、他の相続人らは多数であり、本件不動産を共有として取得しても結局は売却して金銭で分けるしかなく、本件不動産は賃貸中でありその立退きの実現等については今まで管理していた請求人でなければ難しいので、他の相続人らは、請求人に買い取って欲しいと希望したものである。
B しかしながら、請求人においても買取原資がないので、これを転売してその原資を調達することとし、本件第3回調停条項案を第3回調停期日に提出し、裁判所には、その内容で調停成立見込みであり、転売先が決まるまで期日を続行してもらいたいと要望した。
C そこで、上記A及びBの合意を履行すべく、請求人は、本件不動産の賃借人に立退きを求めるとともに、Y社に転売することが決まったことから、本件調停の期日に本件第3回調停条項案における調停条項の記載内容での調停成立を求めたところ、調停委員及び裁判官(家事審判官)から、調停調書の調停条項としては、遺産の全部を請求人が取得したこととし、本件不動産の売買代金相当額を代償金とすれば、調停条項の内容と実質的に変わらないだけでなく、登記手続も簡便に済み、転売先もこのような記載のほうが安心する、遺産分割調停の実務上も一般的にこのように記載していると言われ、便宜上その方法によることとし、請求人及び他の相続人らも納得したことから、かかる記載となったものである。
 このことは、本件調停調書の原稿が本件第3回調停条項案を利用し、これを訂正する方法でなされていること、それが本件調停調書の記録に編てつされていることからも明らかである。
(ロ)上記(イ)のとおり、請求人は、本件不動産は他の相続人らからY社へ譲渡する直前に代金60,000,000円で取得したものであるから、本件譲渡所得を分離短期譲渡所得として税務申告したのは正当であり、原処分庁がした本件更正処分は、前提事実を誤認したものであり違法である。
 ちなみに、他の相続人らは、本件不動産の売却についてはそれぞれ長期譲渡による税務申告をすることを、そのころ請求人に約束していたものである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件調停は、平成元年9月28日(以下「相続開始日」という。)に死亡した被相続人T(以下「被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)の遺産分割調停であること。
(ロ)請求人の代理人であるZ弁護士(以下「Z弁護士」という。)は、平成2年に、次の事項を記載した被相続人の本件相続に係る遺産分割協議書案を作成しg及び他の相続人らに通知したものの、当該遺産分割協議書案のとおりには遺産分割協議が成立しなかった旨申述していること。
A 本件不動産を他の相続人らが取得し、その共有持分は請求人を除く法定相続分と同一とする。
B 本件不動産については、遺産分割協議成立の日から6か月間に限り売却に努め、売却できたときは売却代金を上記Aの持分に応じて配分する。
C 売却できなかったときは、請求人が本件不動産を確定的に相続し、遺産分割調整金として、本件相続開始時の相続人であるG、E、M、L、Nの5名に対し各4,920,000円、Fに対し24,600,000円、gに対し12,300,000円、W及びXに対し各6,150,000円を、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続と引換えに支払う。
(ハ)請求人は、平成3年3月30日にg及び他の相続人らを相手方として、Q家庭裁判所に本件調停の申立てをしたこと。
(ニ)請求人は、本件調停において、g及び他の相続人らが本件不動産を取得した上で、請求人がg及び他の相続人らから本件不動産を代金60,000,000円で買い受けること等を調停条項とする調停を申し立てたが、この調停条項による調停は成立しなかったこと。
(ホ)本件調停調書の謄本には、要旨次のとおり記載されていること。
A 請求人は被相続人の遺産のすべてを単独相続する。ただし、本件調停調書の遺産目録に記載された預金以外の被相続人名義の預金等が発見された場合は、2,000,000円までは請求人が取得し、2,000,000円を超える部分は当事者全員が法定相続分の割合で取得する。
B 請求人は他の相続人らに対し、上記Aの遺産を取得した代償として60,000,000円の支払義務のあることを認める。
 なお、請求人は他の相続人らに対し、当該調停の成立日に内金6,000,000円を、残金54,000,000円を平成4年6月末日限りそれぞれ支払う。
C G、H、J、K、M、L、Nらは、たばこ販売業を営む合資会社e商店(以下「e商店」という。)に対する亡hの持分全部が、請求人に生前譲渡されていることを確認し、請求人がe商店の無限責任社員に就任することに異議なく同意する。
D W及びXは、e商店に対するgの持分全部を請求人に譲渡し、請求人がe商店の無限責任社員に就任することに異議なく同意する。
E 請求人及び他の相続人らは、以上をもって被相続人の遺産に関する紛争を一切解決したものとして上記AないしD以外相互に何ら債権債務の存在しないことを確認する。
(ヘ)本件不動産は、平成4年6月18日付で被相続人から請求人へ相続を原因とする所有権移転登記がなされていること。
(ト)Z弁護士及び他の相続人らの一人であるWの申立てによれば、上記(ホ)のBに記載した金銭のうち6,000,000円については、平成4年6月1日にQ家庭裁判所において、また残金54,000,000円については、同月末ころにWの自宅において、いずれも請求人から他の相続人らに支払われ、他の相続人らはこれを受領したこと。
(チ)他の相続人らの一人であるWは、平成8年7月17日に異議申立てに係る調査担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対し、本件不動産の相続について次のように申述していること。
A Z弁護士から、本件相続に係る他の相続人らの相続分の合計は本件不動産の価額に相当するので、他の相続人らで本件不動産を相続するように求められたが、他の相続人らは、本件不動産を相続するのではなく、それに見合う金銭を配分するようZ弁護士に申し入れていた。
B 2回目か、3回目の調停において、上記Aの要求金額を総額73,800,000円から総額60,000,000円に下げ、請求人もこの金額に同意した。
C 請求人が、他の相続人らに支払う金銭をどのように調達したかは聞いていなかった。また、請求人が、本件不動産を売却することについても請求人及びZ弁護士から説明を受けなかった。
D 他の相続人らが請求人に対し、本件不動産を譲渡する旨の文書を作った記憶はない。
E 他の相続人らが請求人に対し、他の相続人らが本件不動産に係る譲渡所得の申告をすることに合意したことは一切ない。
(リ)他の相続人らの一人であるGは、平成8年7月12日に本件調査担当者に対し、本件不動産の相続について、次のとおり申述していること。
A 本件不動産を相続することでも、金銭をもらうことでもよかったが、他の相続人らで分けるので金銭の方がよいということになった。
B 請求人やZ弁護士から、他の相続人らの所得税の確定申告や相続税の申告についての話はなかった。
(ヌ)他の相続人らの一人であるNは、平成8年8月6日に本件調査担当者に対し、本件不動産の相続について、次のとおり申述していること。
A 他の相続人らが本件不動産を一度相続して、その持分を請求人に売却するという書類は作成していない。また、そのような内容の書類に印鑑を押した覚えもない。
B 請求人やZ弁護士から、他の相続人らが本件不動産の譲渡に係る譲渡所得の申告をすることについての話はなかった。
C 請求人が本件不動産を売却するという話は聞いていなかった。
(ル)以上の事実等を総合勘案すると、次のとおり判断される。
A 請求人は、他の相続人らが本件不動産を相続し、これを請求人が直ちに売買により取得した旨主張するが上記(イ)ないし(ヌ)に記載した各事実によれば、他の相続人らが本件不動産を本件相続により取得した事実はなく、請求人が被相続人から本件不動産を含む被相続人の遺産全部を、家事審判規則第109条に規定する債務負担による遺産分割の方法により取得したこと及び請求人が売買代金と主張する60,000,000円の支払は、請求人から他の相続人らに対する代償債務の履行に伴う支払と認められることから、本件不動産を他の相続人らから売買により取得した旨の請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、他の相続人らから請求人への本件不動産の譲渡について、本来は、他の相続人らが本件不動産を共有により相続し、各持分を他の相続人らから取得することで合意していたが、調停委員等の指導により、便宜上、請求人が本件不動産の全部を相続により取得することとしたものであり、このことは他の相続人らも納得していた旨主張するが、上記(リ)ないし(ヌ)に記載したとおり、そのような事実は認められず、他の相続人らが請求人に対し、他の相続人らが本件不動産の譲渡に係る長期譲渡所得の申告をすることについて、請求人が他の相続人らにその申告手続を説明していた事実は認められず、さらに、他の相続人らが請求人に対し他の相続人らの税務申告をすることを約束していた事実も認められない。
B 譲渡所得の金額について
 上記Aのとおり、請求人は本件不動産を代償分割の方法により取得したことが認められるが、代償分割が、共同相続人間の遺産分割方法の一つであり、共同相続人の一部に相続財産の現物を相続させる代わりに、相続財産の公平な分配を図る観点から、他の共同相続人に価額調整のための一定の代償金を支払うというものであり、その代償金債務は相続財産を買い取るための代金債務的性質のものではなく、包括承継人相互間の内部分配的方法であることからすると、請求人が、代償分割に際して負担することになる金額は、請求人の相続税の課税価格の計算上控除されるべきものであり、本件譲渡所得の金額の計算上、取得費の額に算入することはできない。
 さらに、請求人は本件譲渡所得については短期譲渡所得に該当すると主張するが、本件不動産は、上記Aのとおり、請求人が被相続人から相続により取得しているので、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定により、被相続人が本件不動産を取得した昭和60年から請求人が引き続き所有していたものとみなして、取得費の額及び譲渡所得の金額を計算することとなり、租税特別措置法(平成5年法律第10号による改正前のものをいう。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項及び第2項の規定により、本件譲渡所得は長期譲渡所得となる。
 したがって、請求人の長期譲渡所得の金額を計算すると次表のとおり65,740,000円となり、この金額と同額でした本件更正処分は適法である。

(単位 円)
区分金額
譲渡収入金額(1)77,000,000
(必要経費)
 取得費の額(2)3,850,000
 譲渡費用の額(3)6,410,000
 計((2)+(3))(4)10,260,000
差引金額((1)−(4))(5)66,740,000
特別控除額(6)1,000,000
長期譲渡所得の金額((5)−(6))(7)65,740,000

ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡所得に係る本件不動産の取得時期、すなわち本件不動産は、請求人が相続により取得したものであるか、それとも他の相続人らが相続によりいったん取得したものを買い受けたものであるかであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)平成元年9月28日に、被相続人の死亡に伴い本件相続の開始があったこと。
(ロ)本件相続に係る法定相続人は、次表のとおりであること。

法定相続人本件被相続人との続柄等
S配偶者
F
G姉(h)の長女
E姉(h)の長男
L姉(h)の二女
M姉(h)の二男
N姉(h)の三女
j

(注)hは、昭和58年11月30日死亡。
(ハ)相続開始日から本件調停の成立までに死亡したj及びEの相続人は、次のとおりであること。
A 平成元年10月4日に死亡したjの相続人は、夫のg、長男のW及び長女のXである。
B 平成2年4月5日に死亡したEの相続人は、妻のH、長男のJ及び二男のKである。
C 平成3年12月6日に死亡したgの相続人は、長男のW及び長女のXである。
(ニ)上記(ロ)及び(ハ)より、本件調停成立の時における請求人を除く共同相続人は、F、G、H、J、K、L、M、N、W及びXであること。
(ホ)本件不動産は、被相続人の遺産であること。
ロ 請求人の提出した証拠資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件相続に係る相続税の申告について
 上記イの(ロ)の法定相続人は原処分庁に対し、平成2年8月29日に相続税の申告書(以下「本件相続税申告書」という。)を提出し、本件相続税申告書には、要旨次のとおり記載されていること。
A 財産の分割は、上記イの(ロ)の法定相続人に応じた法定相続分である。
B 相続税がかかる財産の明細書に、本件不動産が含まれている。
C 申告期限後3年以内の分割見積書が添付され、当該分割見込書には、要旨次のとおり記載されている。
(A)分割されていない理由は、相続人間の利害不一致である。
(B)分割見込みの詳細は、本件不動産について、建物のうち賃貸している2階部分(土地を含む)を被相続人の兄、姉及び妹の7名で相続し、他のすべての財産は、請求人が相続する見込みである。
(ロ)本件調停について
A 請求人は、平成3年3月30日に、g及び他の相続人らを相手方として、Q家庭裁判所に遺産分割調停申立書(以下「本件調停申立書」という。)を提出していること。
 本件調停申立書には、要旨次のとおり記載されている。
(A)申立ての趣旨
 被相続人の遺産につき、法律上適正な分割を得たく調停を求める。
(B)申立ての実情
a 相続人の間で、数次遺産分割の協議をしたが、協議が調わない。
b 遺産目録は、土地、建物、現金、預金及び有価証券。
c 請求人の分割希望案は、請求人は、遺産目録に記載されている遺産のうち本件不動産を除くその他の遺産を取得し、本件不動産はg及び他の相続人らが適宜取得するというものである。
B Q家庭裁判所における本件調停は、平成3年5月28日を第1回とし、同年7月2日、同年8月9日(第3回調停)、同年10月8日、同年12月3日、平成4年1月29日、同年4月8日及び同年6月1日に行われ、同日に本件調停が成立したこと。
C 本件第3回調停条項案には、要旨次のとおり記載されていること。
(A)請求人は、遺産のうち本件不動産を除く不動産、現金、預金のすべて及び有価証券を取得する。
(B)g及び他の相続人らは、本件不動産を取得する。
 なお、本件不動産の共有持分は次表のとおりである。

相続人持分相続人持分
F3分の1L15分の1
G15分の1N15分の1
H30分の1g6分の1
J60分の1W12分の1
K60分の1X12分の1
M15分の1持分合計100分の100

(C)請求人は、g及び他の相続人らから本件不動産を代金60,000,000円で本日買い受けた。
(D)本件売買を原因とする本件不動産の所有権移転登記手続については、g及び他の相続人らは、g及び他の相続人らが相続を原因とする所有権移転登記を省略し、請求人が被相続人より直接相続を受けたことを原因とする所有権移転登記を直ちに経由することに異議なく同意した。
(E)請求人は、g及び他の相続人らに対し、本調停成立後1か月以内に限り上記売買代金の内金6,000,000円をg及び他の相続人らの共有持分に応じて支払わなければならない。
 残金は平成3年12月末日限りg及び他の相続人らに対し、同人らの共有持分に応じて支払わなければならない。
D 本件調停調書には、要旨次のとおり記載されていること。
(A)請求人は、被相続人の遺産のすべてを単独取得する。
 ただし、本件調停調書の遺産目録に記載された預金以外の被相続人名義の預金等が発見されたときは、2,000,000円までは請求人が取得し、2,000,000円を超える部分は当事者全員が法定相続分の割合で取得する。
(B)請求人は他の相続人らに対し、上記(A)の遺産を取得した代償として、次のとおり合計金額60,000,000円の支払義務のあることを認め、これを次のとおり支払う。
a 請求人は他の相続人らに対し、内金6,000,000円を本調停の席上で次表のとおり支払い、他の相続人らはこれを受領した。

(単位 円)
他の相続人ら金額他の相続人ら金額
F2,000,000M400,000
G400,000L400,000
H200,000N400,000
J100,000W1,000,000
K100,000X1,000,000

b 請求人は他の相続人らに対し、残金54,000,000円を平成4年6月末日限り、次表のとおり他の相続人らへ持参又は送金して支払う。

(単位 円)
他の相続人ら金額他の相続人ら金額
F18,000,000M3,600,000
G3,600,000L3,600,000
H1,800,000N3,600,000
J900,000W9,000,000
K900,000X9,000,000

(C)他の相続人らのうちG、H、J、K、M、L及びNらは、e商店に対する亡hの持分全部が請求人に対し生前譲渡されていることを確認し、請求人がe商店の無限責任社員に就任することに異議なく同意する。
(D)他の相続人らのうちW及びXは、e商店に対するgの持分全部を請求人に譲渡し、請求人がe商店の無限責任社員に就任することに異議なく同意する。
(E)請求人及び他の相続人らは、以上をもって被相続人の遺産に関する紛争を一切解決したものとして、上記(A)ないし(D)以外相互に何ら債権債務の存在しないことを確認する。
(ハ)本件不動産について
A 本件不動産の登記簿抄本には、次のとおりの記載があること。
(A)本件建物の所在する宅地については、昭和43年12月27日の相続を原因として昭和44年12月11日付で所有者を被相続人とする所有権の移転登記がされている。
(B)本件建物については、昭和60年5月21日付で所有者を被相続人とする所有権の保存登記がされている。
(C)本件不動産については、平成元年9月28日の相続を原因として平成4年6月18日付で被相続人から請求人に所有権の移転登記がされている。
B Z弁護士は、本件不動産について平成2年1月13日にD不動産鑑定事務所へ鑑定評価を依頼し、同年2月18日付の不動産鑑定書を受領していること。
C 請求人は、本件不動産について、平成4年5月8日付で売主を請求人、買主をY社とするマンション売買契約書を締結していること及び本件不動産の登記簿抄本によれば、平成4年6月18日受付で、同月17日売買を原因とし、所有者をY社とする所有権移転登記がされていること。
 なお、当該マンション売買契約書の写しには、(1)売買総額77,000,000円、(2)支払方法として、手付金は本契約締結時に7,700,000円、残金は移転登記完了までに69,300,000円、(3)本件不動産の引渡日は、平成4年6月8日と記載され、請求人は、売買代金を同年5月8日に7,700,000円及び同年6月8日に残金69,300,000円を受領していること。
(ニ)本件不動産の売却に係る平成4年分の所得税の確定申告について
A 他の相続人らについては、それぞれの納税地の所轄税務署長に対し、本件不動産の譲渡に係る譲渡所得の確定申告書の提出の事実がないこと。
B Z弁護士は原処分庁に対し、平成8年5月22日付及び同年7月16日付で「上申書」と題する文書を提出していること。
 当該文書には、異議申立ての理由の裏付けとして、Q家庭裁判所における本件調停の記録の謄写及び他の相続人らから、本件不動産を他の相続人らから取得した旨の請求人の主張に沿う内容の確認書を徴する予定であることが記載されている。
ハ W、G、N及びXが当審判所に対し、答述した要旨は次のとおりである。
(イ)相続開始日から請求人の本件調停申立書の提出日までの期間で、Z弁護士より、本件相続に係る遺産分割の協議に関し「通告書」と題する文書及び「本件不動産を除く遺産は請求人が取得し、本件不動産は他の相続人らが取得する。請求人は、本件不動産については遺産分割協議成立の日から6か月間に限り売却に努め、売却できたときは売却代金を配分する。売却できなかったときは、請求人が本件不動産を確定的に相続し、遺産分割調整金として、請求人は他の相続人らに対し、合計額73,800,000円を、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続と引換えに支払う。」旨が記載された「遺産分割協議書」と題する文書が送付されてきたこと。
(ロ)他の相続人らは、請求人に対し、当初から、相続人が多数のため本件不動産を相続しても分割が困難なので、本件不動産の相続分に相当する現金での相続を要求していたこと。
(ハ)他の相続人らは、請求人に対し、本件不動産を売却することを約束したことも、そのような文書に署名・押印したこともないこと。
ニ ところで、民法第907条第2項は、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。」と規定し、また、家事審判規則第109条は、「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができる。」と規定し、遺産分割が家庭裁判所に申し立てられた場合の遺産分割に際しては、代償分割によることができるものとされている。
 また、所得税法第60条第1項では、「居住者が贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)の事由により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。」旨規定されている。
ホ 上記イないしハの事実を上記ニに照らして判断したところ、次のとおりである。
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のとおり、本件不動産については、本件第3回調停条項案のとおり本件不動産を他の相続人らが相続し、これを直ちに請求人が買い取り、請求人が売却した上で他の相続人らに売却代金を支払うとする遺産分割に合意したが、本件調停調書は、調停委員及び裁判官(家事審判官)から「遺産の全部を請求人が取得したこととし、本件不動産の売買代金相当額を代償金とすれば、本件第3回調停条項案の内容と実質的に変わらない」旨言われ、便宜上その方法によることとなったものであり、このことは、本件調停調書が本件第3回調停条項案を利用し、これを訂正する方法でなされたこと、またそれらが本件調停調書の記録に編てつされていることから明らかである旨主張する。
A 本件相続に係る遺産分割については、請求人及び他の相続人らの間で遺産分割協議が調わなかったことから、請求人が、上記ニのとおり、民法第907条第2項の規定により、その分割を家庭裁判所に請求したものであり、これに対し家庭裁判所は、家事審判規則第109条の規定に従って、上記ロの(ロ)のDの本件調停調書に記載されたとおり「請求人は、被相続人の遺産のすべてを単独取得し、その代償として他の相続人らに対し、合計金額60,000,000円の支払義務のあることを認める。」旨の調停を行い、その調停に従って、本件不動産につき上記ロの(ハ)のAの(C)のとおり本件相続を原因として、被相続人から請求人に所有権の移転登記がされたものと認められる。
B 確かに、上記ロの(ロ)のAの(B)のc及びハの(イ)のとおり、請求人は、当初、被相続人の遺産につき、本件不動産を除く遺産を請求人が取得し、本件不動産を他の相続人らが取得する旨の分割を希望しており、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件第3回調停条項案においても、「本件不動産を除く被相続人の遺産は請求人が取得し、本件不動産は他の相続人らが取得する。請求人は、他の相続人らから本件不動産を60,000,000円で買い受けた。」旨記載されている。
 しかし、これは第3回調停期日において請求人が提示した調停条項案にすぎないと認められ、上記ハの(ロ)のとおり、他の相続人らは、一貫して本件不動産ではなく法定相続分に見合う金銭での分割を請求人に要求していたことからも、請求人及び他の相続人らが本件第3回調停条項案で最終的に合意していたとは到底認められない。
C 以上によれば、請求人及び他の相続人らは、本件調停調書に記載された内容で調停成立に合意したものと解するのが相当である。
したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)請求人は、本件調停成立のころ、他の相続人らは本件不動産の売却について長期譲渡所得の申告をすることを約束した旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ニ)のAのとおり、他の相続人らは、本件不動産の譲渡に係る譲渡所得について、平成4年分の所得税の確定申告書を提出したことがない上、上記ハの(ハ)のとおり、Wらは、請求人に対し、本件不動産を売却することを約束したことはない旨答述しており、請求人が主張するような約束の存在を認めるに足りる証拠資料はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)以上のことから、上記ロの(ロ)のDの(A)のとおり、請求人が被相続人の遺産のすべてを単独で取得することからみれば、請求人が他の相続人らにその代償として支払う合計金額60,000,000円は、被相続人の遺産のすべてを相続した請求人から他の相続人らへの代償分割による代償債務のための支払と認められ、また、請求人は、遺産の代償分割により負担した債務である当該金額を支払うために、上記ロの(ハ)のCの譲渡代金の一部をこの支払に充てたものと認めるのが相当である。
 そうすると、請求人の本件不動産の取得時期は、上記ニで述べたとおり被相続人の取得時期を引き継ぐこととなり、原処分庁が請求人の本件譲渡所得を分離長期譲渡所得と認定したことは相当である。
 さらに、長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費の額は、「租税特別措置法(山林・譲渡所得)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4―5ほか国税庁長官通達。ただし、平成4年12月22日付課資3―1ほかによる改正前のもの。)31の4―1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》の定めにより、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定に準じて計算して差し支えないことから、原処分庁が当該収入金額の100分の5に相当する金額を、取得費の額として算出したことは相当である。
(ニ)以上の結果、譲渡費用の額については、請求人及び原処分庁双方に争いがないことから、請求人の分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次表のとおりとなり、本件更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
項目金額
譲渡収入金額(1)77,000,000
取得費の額(2)3,850,000
譲渡費用の額(3)6,410,000
分離長期譲渡所得の特別控除額(4)1,000,000
分離長期譲渡所得の金額((1)−(2)−(3)−(4))65,740,000

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、その更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定によりした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、かつ、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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