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(平9.9.29裁決、裁決事例集No.54 306頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
審査請求人(以下「請求人」という。)は、パチンコホールを営む同族会社であるが、平成3年8月1日から平成4年7月31日までの事業年度、平成4年8月1日から平成5年7月31日までの事業年度及び平成5年8月1日から平成6年7月31日までの事業年度(以下、順次「平成4年7月期」、「平成5年7月期」及び「平成6年7月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
原処分庁は、これに対し、平成7年6月21日付で次表の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
区分 | 確定申告 | 原処分 | |
---|---|---|---|
平成4年7月期 | 所得金額 | 87,630,005 | 98,154,005 |
納付すべき税額 | 33,135,600 | 36,227,600 | |
過少申告加算税の額 | 309,000 | ||
平成5年7月期 | 所得金額 | 5,964,656 | 23,485,856 |
納付すべき税額 | 1,345,100 | 7,722,100 | |
過少申告加算税の額 | 872,000 | ||
平成6年7月期 | 所得金額 | 97,843,025 | 125,272,727 |
納付すべき税額 | 37,025,700 | 46,095,400 | |
過少申告加算税の額 | 906,000 |
請求人は、上記各処分を不服として平成7年8月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月15日付で、平成4年7月期及び平成5年7月期については棄却の異議決定をし、また、平成6年7月期については所得金額を114,993,191円、納付すべき税額を42,240,800円及び過少申告加算税の額を521,000円とする更正処分及び賦課決定処分の一部取消しの異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月16日に送達した。
請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月16日に審査請求をした。
2 主張
(1)請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、平成4年7月期及び平成5年7月期についてはその全部、また、平成6年7月期についてはその一部の取消しを求める。
原処分のその他の部分については争わない。
イ 更正処分について
原処分庁は、請求人が、本件各事業年度において、請求人の取締役であるH、J及びK(以下、「H」、「J」及び「K」といい、併せて「Hら」という。)に次表の「支払額」欄のとおり支払った役員報酬(以下「本件役員報酬」という。)のうち、同表の「相当額」欄の金額を超える役員報酬は過大であるとして損金の額に算入することを認めなかった。
区分 | H | J | K | |
---|---|---|---|---|
平成4年 | 支払額 | 7,140,000 | 3,264,000 | 4,080,000 |
7月期 | 相当額 | 1,320,000 | 1,320,000 | 1,320,000 |
平成5年 | 支払額 | 9,340,000 | 6,564,000 | 7,380,000 |
7月期 | 相当額 | 1,500,000 | 1,500,000 | 1,500,000 |
平成6年 | 支払額 | 9,540,000 | 6,864,000 | 7,680,000 |
7月期 | 相当額 | 1,920,000 | 1,920,000 | 1,920,000 |
(イ)本件役員報酬は、いずれも社員総会の決議によって定められた報酬として支給することができる金額の限度額以内である。
(ロ)請求人の従業員のうち、本件各事業年度の給与支給額の多い上位4名(以下「上位4名」という。)の当該給与支給額は次表のとおりであるが、本件役員報酬は、これらと比較した場合に不相当に高額ではない。
区分 | 平成4年7月期 | 平成5年7月期 | 平成6年7月期 |
---|---|---|---|
L | 7,562,194 | 7,867,454 | 7,872,500 |
M | 6,493,809 | 7,191,097 | 7,236,915 |
N | 5,777,991 | 5,940,208 | 5,930,944 |
W | 5,227,604 | 5,370,869 | 5,411,365 |
(ハ)原処分庁は、請求人の昭和59年8月1日から昭和60年7月31日までの事業年度以後の各事業年度について調査をしているが、本件各事業年度以外の事業年度においては、いずれもHらの役員報酬を全額損金として認めている。
(ニ)原処分庁は、Hらの職務遂行状況を3名とも同一であると認定し、過大な役員報酬の損金不算入の判定を行っているが、Hらは請求人に対して次のとおり三者三様の貢献をしているのであるから、個々の役員ごとに判定を行うべきである。
A Hは、請求人の設立当時から銀行からの借入れの際、担保として個人資産を提供し、資金の運営に深く関与している。
B Jは、従業員との接触が多いことから、諸般の動静及び状況について提言をしている。
(ホ)原処分庁は、過大報酬の判断の基準として、4ないし5件の同種、同規模の事業を営む法人(以下「類似法人」という。)から役員報酬相当額を算出しているが、相当とする額の判断基準として、この件数では少な過ぎるとともに、類似法人の所在地、事業内容、規模及び報酬の額が明らかでないことから、請求人としては原処分庁が算出した役員報酬額の算定の正否を検討できない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
上記イのとおり更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も、平成4年7月期及び平成5年7月期についてはその全部、平成6年7月期についてはその一部を取り消すべきである。
(2)原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)法人税法第34条《過大な役員報酬の損金不算入》第1項の規定によれば、役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととされ、さらに、その報酬の額が不相当に高額であるか否かについては、同法施行令第69条《過大な役員報酬の額》第1号において、当該役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その法人と同種の事業を営み事業規模が類似する法人の役員に対する報酬の支給の状況等に照らして判断する旨規定されている。
上記規定の趣旨は、役員の職務行為に対する相当額の報酬は、当該法人が経済活動を行うために必要な経費として、これを損金の額に算入するが、職務行為の対価として相当な額を超える額はたとえ報酬という名目であろうと実質的には利益処分である賞与に該当するものとしてこれを損金の額に算入しないものとすると解されている。
(ロ)調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、請求人の代表取締役であるX(以下「X」という。)と取締役であるY(以下「Y」という。)とがパチンコホールなどを共同経営することを目的に昭和57年12月16日に設立された会社であること。
B 請求人は、本件各事業年度に係る取締役の報酬額について、定時社員総会においてその総額を決定し、各取締役への配分は取締役会に一任していること。
C XとYの長男で請求人の取締役であるZ(以下「Z」という。)が平成6年6月25日付で作成した「合意書」(以下「本件合意書」という。)には、(1)XとYが作成した昭和61年12月28日付の「○○共同経営打合せ事項」と題する文書(以下「本件打合せ書」という。)の内容及びその趣旨を尊重し、(2)請求人の経営はXとZの共同とし、Xが主に店舗の経営を担当し、Zが主に資金面及び経理面を担当することとするが、店舗の経営に関し重要な事項については両者で協議して決定する、また、(3)両者及びその親族の給料を増減額するときは必ず両者で協議し合意決定する旨記載されていること。
D Hは、昭和62年9月28日に請求人の取締役に選任されているが、取締役としての業務分担はなく、また、Yが入院した平成6年4月ころまではまったく出社したことがなく、Yが入院してから時々出社している程度であること。
E Jは、昭和62年9月28日に請求人の取締役に選任されているが、取締役としての業務分担はなく、Xが個人で営む衣料品店の事業専従者として、専らその仕事に従事していること。
F Kは、昭和61年5月5日に請求人の取締役に選任されているが、請求人の職務を遂行した事実はないこと。
G 請求人は、平成5年8月25日に、ZのほかXの長男であるa(以下「a」という。)及び長女であるb(以下「b」という。)並びにZの妻であるHを取締役に選任していること。
(ハ)本件合意書によれば、請求人の各取締役の報酬額はXとYの両者の協議で決定されていたものと認められるところ、上記(ロ)のD及びEの事実から、HはYが入院した平成6年4月ころまではまったく出社したことがなく、Yが入院してから時々出社している程度であり、JはXが経営する事業の専従者として専らその仕事に従事していることから、取締役として特に請求人の事業に寄与したとする事実は認められない。
また、Kについては、上記(ロ)のFの事実から、その報酬の全額を職務行為の対価であると認めることはできない。
(ニ)そこで、C税務署及びその近隣の税務署の管轄区域内における請求人と同規模、同業種の法人(平成4年7月期及び平成5年7月期各4件、平成6年7月期5件)がHらと同様の職務遂行の状況にあると認められる取締役に対して支給した報酬の平均額を基準として役員報酬として相当と認められる一人当たりの報酬額を算定すると、平成4年7月期については1,320,000円、平成5年7月期については1,500,000円及び平成6年7月期については1,920,000円となる。
そうすると、請求人が損金の額に算入した本件役員報酬のうち相当と認められる金額を超える部分の額は、本件各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。
なお、類似法人の所在地等については、公務員に課せられた守秘義務に違反することになるので、具体的に開示することはできない。
(ホ)請求人は、本件役員報酬は上位4名の給与支給額と比較して不相当に高額ではないと主張するが、具体的な比較もなく単に主張するのみで理由とならない。
(ヘ)請求人は、本件事業年度以外の過去の事業年度の調査においては、原処分庁はHらの役員報酬を損金として認めていると主張するが、更正処分はそれぞれの事業年度において独立した処分であるから、過去の事業年度において更正処分をしなかったことをもって本件各事業年度の各更正処分が違法となるものではない。
(ト)請求人は、Hらは請求人に対して三者三様の貢献をしているから、過大な役員報酬の損金不算入の判定は個々の役員ごとに行うべきであると主張し、H及びJの貢献の事実を挙げるが、その貢献の事実のうち、Hが請求人に対して資金調達のために担保提供した事実は認められない。仮にHが担保提供したとしても、資金提供のための担保提供に対する対価は役員の職務執行の対価には当たらない。
また、Jが諸般の動静及び状況について請求人に提言したとする事実は認められない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
上記イのとおり更正処分はいずれも適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。
3 判断
損金の額に算入される役員報酬の金額について争いがあるので、以下審理する。
(1)更正処分について
イ 次の事実については請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)Kは昭和61年5月5日に、また、H及びJは昭和62年9月28日に、それぞれ、請求人の取締役に就任していること。
(ロ)JはXの妻であること、また、Hは平成7年6月8日に死亡したYの妻であること。
(ハ)請求人は、Hらに対して次表のとおり役員報酬を支給し、本件各事業年度においてそれらの全額を損金の額に算入していること。
区分 | H | J | K |
---|---|---|---|
平成4年7月期 | 7,140,000 | 3,264,000 | 4,080,000 |
平成5年7月期 | 9,340,000 | 6,564,000 | 7,380,000 |
平成6年7月期 | 9,540,000 | 6,864,000 | 7,680,000 |
ロ Xは、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)H及びJには、請求人の創業当時から苦労をかけていることから、請求人が収益を上げられるようになったことを機に役員に就任してもらったものである。また、Kは、請求人の取締役であった同人の夫が死亡した時に退職金を支払うことができなかったことから、退職金の代わりに報酬を支払うために取締役に就任してもらったものである。
(ロ)Hは○△家の資産に関する実権を有し、請求人の資金面に深くかかわっており、また、Jは近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も多く、請求人の経営に関してXにいろいろ助言をしている。
(ハ)役員報酬及び役員賞与は社員総会において支給総額を決定し、○×家と○△家でそれを折半することにしている。各役員の報酬支給額はXとYがそれぞれ決めている。
ハ 原処分関係資料等及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件各事業年度において、XとYが3,400口ずつを、JとHが600口ずつをそれぞれ出資する同族会社であること。
(ロ)請求人が役員報酬を支給した役員は、平成4年7月期及び平成5年7月期においてはX、Y、H、J及びKの各5人であり、平成6年7月期においてはこれら5人にa、b及びZを加えた8人であること。
(ハ)請求人は、次表のとおり、定時社員総会を開催し、本件各事業年度の役員報酬の総額を決議するとともに各取締役への配分は取締役会に一任する旨決議していること。
区分 | 開催年月日 | 役員報酬総額 |
---|---|---|
平成4年7月期 | 平成3年9月25日 | 95,000,000 |
平成5年7月期 | 平成4年9月21日 | 150,000,000 |
平成6年7月期 | 平成5年9月22日 | 150,000,000 |
(ニ)請求人は、役員報酬として平成4年7月期に92,304,000円、平成5年7月期に130,704,000円及び平成6年7月期に145,704,000円をそれぞれ支給し、それらの全額を損金の額に算入していること。
(ホ)請求人の収益の状況は、次表のとおりであること。
区分 | 売上高 | 売上総利益 |
---|---|---|
平成4年7月期 | 4,089,868,320 | 623,355,874 |
平成5年7月期 | 4,729,063,180 | 624,667,257 |
平成6年7月期 | 4,382,334,160 | 681,708,840 |
(ヘ)請求人の使用人のうち、本件各事業年度を通じて勤続した者(以下「勤続者」という。)13人の給与支給総額等は次表のとおりであり、そのうち最も給与支給額が高いLの給与支給額は平成4年7月期7,562,194円、平成5年7月期7,867,454円及び平成6年7月期7,872,500円であること。
(ト)本件打合せ書には、請求人の経営はXとYが共同して当たり、何事も両者で相談の上行うこととする旨記載されていること。
本件合意書第1条には、本件打合せ書の各事項を尊重すること、また、第4条には、利益の配当はXとZとで同額とし、その支払先は両者が指定することができると記載されていること。
(チ)Hらは業務執行権を有しておらず、社員総会及び取締役会に出席する程度のいわゆる非常勤の取締役であること。
(リ)Hが所有するP市R町102番4ほか1筆の土地には債務者をY、根抵当権者をd銀行e支店とする根抵当が設定されていること。
(ヌ)類似法人の非常勤の取締役に対する報酬の支給状況を検討したところ、次のとおりである。
A 原処分庁は、c税務署及びそれに隣接する税務署の管轄区域内に納税地を有する請求人と同種の事業を営む法人のうち、売上高が請求人の半分から倍額までの法人で、Hらと同様の職務内容であると認められる非常勤の取締役に役員報酬を支払っている法人(平成4年7月期4件、平成5年7月期4件及び平成6年7月期5件)を類似法人として選定していることが認められる。
B 当審判所において、原処分庁の選定した類似法人について、その適否を検討したところ、そのうち平成5年7月期1件及び平成6年7月期2件は、非常勤の役員が監査役のみである法人等が含まれていることから、これらの法人を当該事業年度の類似法人から除外することが相当である。
上記の法人を除くその他の法人については、請求人と事業内容及び事業規模が類似し、c税務署及びそれに隣接する税務署の管轄区域内に納税地を有し、かつ、Hらと同様の職務内容であると認められる非常勤の取締役に役員報酬を支払っている法人であることから、原処分庁がこれらの法人を類似法人として選定したことは合理的である。
これらの類似法人が提出した確定申告書に基づいて、当審判所が本件各事業年度の非常勤の取締役に対する役員報酬の平均額を計算したところ、平成4年7月期は計算誤りが認められたことから1,220,000円となり、平成5年7月期1,160,000円及び平成6年7月期1,800,000円となる。
ニ ところで、法人税法第34条第1項は、法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分として政令で定める金額は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しないことを定めているが、この規定の趣旨は、役員の職務行為に対する相当額の報酬は当該法人が経済活動を行うために必要な経費としてこれを損金の額に算入するが、職務行為の対価として相当な額を超える額はたとえ報酬という名目であろうと実質的には利益処分である賞与に該当するものとしてこれを損金の額に算入しないということにあると解される。
次に、役員の職務執行に対する適正な対価については、同法第34条第1項の規定を受けて同法施行令第69条で次の二つの判断基準を定め、これら二つの基準によって不相当に高額であるとされた金額のうちいずれか多い金額が損金の額に算入されないこととされている。
(イ)定款の規定又は株主総会等の決議により定められている役員報酬として支給することができる金額の限度額の範囲内か(以下「形式基準」という。)。
(ロ)当該役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められるか(以下「実質基準」という。)。
ホ 本件役員報酬について、形式基準に基づいて判断すると次のとおりである。
(イ)上記ハの(ハ)のとおり、請求人は社員総会の決議において役員に対して報酬として支給し得る限度額の総額を平成4年7月期95,000,000円、平成5年7月期150,000,000円及び平成6年7月期150,000,000円と定めており、請求人は、上記ハの(ニ)のとおり、平成4年7月期92,304,000円、平成5年7月期130,704,000円及び平成6年7月期145,704,000円をそれぞれ役員報酬として支給し、全額を損金の額に算入している。
(ロ)そうすると、請求人が役員報酬として損金の額に算入した金額はいずれも社員総会の決議により報酬として支給することができる金額の限度額を超えていないことから、形式基準においては損金の額に算入しない金額はないこととなる。
ヘ 本件役員報酬について、実質基準に基づいて判断すると次のとおりである。
(イ)Hらの職務の内容は次のとおりである。
Hの請求人への貢献については、上記ロの(ロ)のとおり、請求人の資金面に深くかかわっているとのXの答述があり、請求人の銀行借入金の担保に個人資産を提供し、資金の運営に深く関与しているとの請求人の主張がある。しかしながら、上記ハの(リ)のとおり、同人が所有する土地にYを債務者、d銀行を債権者とする根抵当が設定されている事実は認められるが、請求人との関係は不明である。仮に請求人が主張するように、請求人に担保提供していたとしても、担保提供に対する対価は役員の職務執行に対する対価ではない。担保提供以外の職務執行の事実については、請求人の主張も関係者の答述もない。
Jの請求人への貢献については、上記ロの(ロ)のとおり、近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も多く、請求人の経営に関し助言をしているとのXの答述があるが、これらの事実を裏付ける証拠はない。
Kについては、請求人は何ら主張せず、Xの答述もない。
Hらの取締役としての具体的な職務執行の事実が上記のとおり不明確であること、上記ハの(チ)のとおりHらが業務執行権を有しない非常勤の取締役であること、上記ロの(イ)の役員就任の理由と経緯及び上記ロの(ハ)の役員報酬の決定方法を併せて判断すると、Hらの職務内容は請求人の経営に深くかかわるようなものとは考えられない。
(ロ)請求人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況は次のとおりである。
A 売上高及び売上総利益は上記ハの(ホ)のとおりであり、平成4年7月期を100とすると平成5年7月期はそれぞれ115.6及び100.2、平成6年7月期はそれぞれ107.2及び109.4になる。
また、勤続者一人当たりの平均給与支給額及び使用人給与の最高額は上記ハの(ヘ)のとおりであり、平成4年7月期を100とすると平成5年7月期はそれぞれ104.9及び104.0、平成6年7月期はそれぞれ106.4及び104.1になる。
B これに対して、本件役員報酬は上記イの(ハ)のとおりであり、平成4年7月期を100とすると(1)Hは平成5年7月期130.8、平成6年7月期133.6、(2)Jは平成5年7月期201.1、平成6年7月期210.3、(3)Kは平成5年7月期180.9、平成6年7月期188.2となることから、売上高、売上総利益及び使用人給与と比較して相当高い伸び率であると認められる。
(ハ)上記ハの(ヌ)のとおり、請求人の類似法人でHらと職務内容が類似すると認められる非常勤の取締役に対する役員報酬の平均額は平成4年7月期1,220,000円、平成5年7月期1,160,000円及び平成6年7月期1,800,000円であることから、これらと比較すると本件役員報酬は極めて高額であると認められる。
(ニ)そうすると、Hらの職務の内容、請求人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況並びに類似法人の役員報酬の支給状況に照らして判断すると、Hらの役員報酬は、その職務に対する対価として相当ではなく、それぞれ、上記(ハ)の類似法人の平均的な役員報酬額(以下「相当額」という。)が相当であり、これを超える部分の金額は過大であると認められる。
ト 上記ニのとおり、過大な役員報酬の額は形式基準を超える金額と実質基準を超える金額のいずれか多い金額とするところ、形式基準を超える金額はないものの、実質基準を超える金額は次表の「過大報酬額」欄のとおりとなる。
事業年度 | 氏名 | 支給額((1)) | 相当額((2)) | 過大報酬額 ((1)−(2)) |
---|---|---|---|---|
平成4年7月期 | H | 7,140,000 | 1,220,000 | 5,920,000 |
J | 3,264,000 | 1,220,000 | 2,044,000 | |
K | 4,080,000 | 1,220,000 | 2,860,000 | |
平成5年7月期 | H | 9,340,000 | 1,160,000 | 8,180,000 |
J | 6,564,000 | 1,160,000 | 5,404,000 | |
K | 7,380,000 | 1,160,000 | 6,220,000 | |
平成6年7月期 | H | 9,540,000 | 1,800,000 | 7,740,000 |
J | 6,864,000 | 1,800,000 | 5,064,000 | |
K | 7,689,000 | 1,800,000 | 5,889,000 |
チ 請求人は、本件役員報酬はいずれも社員総会の決議によって定められた金額の限度額以内である旨主張するが、上記ニのとおり、役員報酬が過大か否かは形式基準と実質基準との双方により判断するものであるところ、上記トのとおり、形式基準を超える金額はないものの、実質基準を超える金額があるため、この点に関する請求人の主張には理由がない。
リ 請求人は、本件役員報酬は、いずれも上位4名の給与支給額と比較した場合に、不相当に高額ではない旨主張する。
しかしながら、Hらはいずれも勤務形態が非常勤であることを考えれば、常勤である上位4名の給与支給額と本件役員報酬の額とを単に支給総額により比較することは相当ではない。
したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヌ 請求人は、原処分庁は請求人の昭和59年8月1日から昭和60年7月31日までの事業年度以後の全事業年度について調査をしているが、本件各事業年度前の事業年度においてはいずれも、Hらの役員報酬を全額損金として認めている旨主張する。しかし、更正処分は各事業年度において独立した処分であり、過去の事業年度の更正処分がなかったからといって本件各事業年度の更正処分が違法となるものではない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ル 請求人は、Hらは三者三様の貢献をしており、個々の役員ごとに過大役員報酬の判定を行うべきである旨主張する。しかしながら、上記への(イ)のとおり、Hらの三者三様の貢献について請求人はこれを明らかにしていない。さらに、請求人が職務の内容について何ら主張しないKの報酬がJの報酬よりも高いことを考えれば、請求人の主張は合理性がないといわざるを得ず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヲ 請求人は、原処分庁が相当であるとした役員報酬額の算定の基礎とした類似法人が4ないし5件というのは少な過ぎ、また、類似法人の所在地、事業内容及び規模が明らかではないことから、正否の検討ができない旨主張する。そうして、当審判所が類似法人の見直しを行い、相当であると判断した類似法人は平成4年7月期4件、平成5年7月期3件及び平成6年7月期3件であり、原処分庁が選定したものよりさらに少ない。しかしながら、件数か少ないからといって、直ちにこれらの類似法人を基に算定した役員報酬額の合理性が失われるとはいえず、上記ハの(ヌ)のとおり、これらの類似法人は請求人と事業内容、規模等が類似している法人を合理的に選定したことが認められるから、これら類似法人を基に算定した役員報酬額の合理性に問題はないというべきである。また、類似法人の所在地等を明らかにすることは当該類似法人の利益を害するおそれがある上、原処分庁には守秘義務が課せられていることを考慮すると、原処分庁が類似法人の所在地等を明らかにしないことは相当である。
したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ワ 以上のとおり審理したところによれば、Hらに対する役員報酬はそれぞれ、平成4年7月期は1,220,000円、平成5年7月期は1,160,000円及び平成6年7月期は1,800,000円が相当であり、請求人の本件各事業年度の所得金額はいずれも原処分の金額を上回るから、原処分は適法である。
(2)過少申告加算税の賦課決定処分について
上記(1)のとおり更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)その他
原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。