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(平9.11.6裁決、裁決事例集No.54 375頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Jほか9名(以下「請求人ら」といい、審査請求人を各別に「J」、「K」、「L」、「M」、「N」、「T」、「W」、「X」、「Y」及び「Z」という。)は、平成4年4月16日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年11月28日付、ただし、Nについては平成6年12月5日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
 請求人らは、本件更正処分等を不服として、平成7年1月26日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで平成7年7月25日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Jを総代として選任し、その旨を平成7年7月27日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由のとおり不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人らは、本件相続に係る相続税の申告に当たり、本件相続により取得した別表2に掲げる土地(以下「本件各土地」という。)の価額を株式会社F(以下「F社」という。)に鑑定評価を依頼し、F社が平成4年9月5日付で作成した鑑第○○○○号の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)における鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)に基づいて、本件各土地のうち、乙宅地については、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定を適用した上で、別表2の「申告額」欄のとおり申告したところ、原処分庁は、本件各土地の相続税評価額(財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56ほか国税庁長官通達、平成5年6月23日付課評2−7ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)の定めに基づく評価額をいう。以下同じ。)は、本件各土地の価額を上回っていると認められる特別の事情がないとして、相続税評価額に基づいて本件各土地を評価したことは、次のとおり不当である。
(イ)本件各土地の存するP市のR町地区は、住宅地の商業目的ないし業務目的の利用ということでバブル期後半に暴騰し、その反動としてバブル崩壊直後から暴落した地域であり、時価が評価基本通達14《路線価》に定める路線価(以下「路線価」という。)を下回るいわゆる逆転現象が生じていることから、課税の公平上、時価の算定を専門とする不動産鑑定士の鑑定評価額による申告は認められるべきである。
 また、本件各土地のように逆転現象の蓋然性が非常に高いにもかかわらず、鑑定評価額を認めないことは、平成4年4月の国税庁長官の時価申告を原則とする旨の国会答弁に反し、路線価による評価を強制することとなり、経済価値のないところに課税されるという結果になる。
(ロ)原処分庁は、本件鑑定評価額は、本件各土地の近くにある国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項に規定する基準地(以下「基準地」という。)の標準価格(以下「基準地価格」という。)を無視していると指適するが、バブル経済崩壊により時価は急落したと考えられ、公示価格(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地の価額をいう。以下同じ。)及び基準地価格は、(1)公示価格を決定する際、どうしても前年以前の価格との釣合いを取る関係上ある程度の調整が行われること及び(2)その価格決定作業のために集められるデータは、1年以上前のものが使用されることがあることから、公示価格及び基準地価格には2年くらいのタイムラグが生じており、時価の算定規準とはなり得ない。
(ハ)本件各土地の存する地域のP市R町(以下「R町」という。)2丁目7番44に所在する基準地P7−3(以下「本件基準地」という。)の平成4年7月1日現在の価格は、1坪当たり13,200,000円であり、本件基準地の平成4年分の路線価は、1坪当たり11,517,000円となっているが、請求人らは、E県地価図(社団法人E県宅地建物取引業協会が発行したもの。以下同じ。)の平成4年3月1日現在における本件各土地の隣接地の1坪当たりの価格6,000,000円が時価をよりよく示していると考えるから、路線価は時価を上回っている。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人らには、次のとおり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるから、本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
(イ)本件更正処分の内容は、もっぱら期限内申告書に記載された本件各土地の評価増のみによる税額増加であり、請求人らに課税漏れ財産はなく、かつ、申告における納付税額の大部分(約92パーセント)について物納申請をしていることからも納税は済んだに等しく、ことさら国に損害を与えているとはみられない。
(ロ)請求人らは、平成4年4月の国税庁長官の時価申告を原則とする旨の国会答弁を信頼し、時価申告を行ったものである。
 また、請求人らが本件申告を間近に控えた当時において、税務官庁は納税者に対し、時価申告についてなんら具体的な指針を示していない。
(ハ)本件更正処分の内容と類似する事例において、過少申告加算税の賦課決定処分を免れているものがあり、これは他の事由と併せて「正当な理由」を判断する一要素となるのは確かである。本来、国税当局は、相当数にのぼると推察される本件のような事例について賦課決定処分の画一的処理をすべきであり、かつ、可能であるにもかかわらず、一方では賦課され、他方では賦課されないということは課税の公平の観点から到底納得できないものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)相続税法に定める財産の評価について
A 相続税法第22条《評価の原則》は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、この時価とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価額をいうものと解されている。
B しかし、財産の客観的な交換価額は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産の評価の一般的基準としての評価基本通達の定めに基づく画一的な評価方式によって相続財産の評価を行うこととされている。
 この画一的な評価方式により評価することとされている趣旨は、相続財産の客観的な交換価額を個別に評価する方法を採ると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生ずることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税実務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからしてあらかじめ定められた評価方式により、これを画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても合理的であるという理由に基づくものと解されている。
C この評価基本通達において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、公示価格及び基準地価格等を基として国税局長が路線ごとに評定した路線価を基とし、その宅地の形状に応じて計算した金額によって評価することとされている。
 したがって、評価基本通達に基づき路線価が合理的に算定されている限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現できるものと解されていることから、相続税評価額が相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情がある場合を除き、すべての納税者に適用することとされており、相続税評価額が相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情がある場合には、相続税法第22条に規定されている時価として合理的と認められる価額を求めることになる。
(ロ)請求人らは、路線価が時価を上回っているから、本件鑑定評価額による申告が認められるべきである旨主張するが、本件鑑定評価書は、用途地域(都市計画法第8条《地域地区》に規定する用途地域をいう。)が第二種住居専用地域となっている公示価格を規準にしているが、本件各土地の用途地域は準工業地域であり、かつ、本件各土地に近接した路線に本件基準地が存していることから、本件基準地の価格を規準とするのが合理的と認められる。
 また、本件基準地の価格に時点修正率を乗じて算出した標準価格と当該基準地の路線価との比較割合を評価基本通達に基づき算出した本件各土地の1平方メートル当たりの価格に乗じて本件各土地の更地としての価格を算定したところ、別表3の「本件基準地を基に算定した更地価額」欄のとおりとなり、同表の「評価基本通達に基づく更地価額」欄の金額を上回っていることから、相続税評価額が本件相続開始日の土地の価額を上回っていると認められる特別の事情があるとは認められない。
(ハ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件各土地の利用区分ごとの地積は、別表3の「評価基本通達に基づく更地価額」欄の地積のとおりであり、これは登記簿謄本(本件相続開始日後に分筆登記されたものも含む。以下同じ。)に記載された地積に基づくものであること。
B 請求人らが、平成5年1月4日に原処分庁に提出した本件相続に係る相続税の申告書に記載した本件各土地のそれぞれの地積は、測量等の合理的な根拠に基づいていないこと。
C 甲宅地は、医療法人財団G会(以下「G会」という。)に対して病院建物の敷地として貸し付けられていること。
D 乙宅地は、G会に対して集合住宅の敷地として貸し付けられていること。
E 丙宅地上には、被相続人及びJ並びにG会が区分所有登記する建物が存在し、G会が区分所有する床面積の割合は当該建物の総床面積の53パーセントであり、当該区分所有の割合に対応する敷地部分は、G会に対して病院職員の宿舎の敷地として貸し付けられていること。
F 丁宅地は、Jの居宅の庭として利用されていること。
G 本件各土地に最も近い地点に本件基準地が所在しており、本件基準地の価格は、平成3年7月1日現存で1平方メートル当たり4,840,000円、平成4年7月1日現在で1平方メートル当たり4,000,000円であること。
H 本件基準地と丙宅地とは、同一の路線に接面して近接していること。
I 本件相続開始日現在の本件各土地の更地としての価額について、原処分庁の依頼に基づく不動産鑑定士の鑑定評価額(以下「原処分庁鑑定評価額」という。)は、別表3の「原処分庁鑑定評価額」欄のとおりであり、当該金額は、同表の「評価基本通達に基づく更地価額」欄の金額を上回っていること。
(二)以上の事実等を総合勘案すると、次のとおり判断される。
A 本件各土地の価額について
 上記(ロ)及び(ハ)のIに記載したとおり、本件相続開始日現在の本件基準地を基に算定した本件各土地の更地価額及び原処分庁鑑定評価額は、いずれも本件各土地の相続税評価額を上回っている。
 したがって、本件各土地の相続税評価額には、相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情があると認められないから、相続税評価額が本件各土地の価額として相当である。
B 本件各土地の相続税評価額について
 上記(ハ)のA及びBに記載した事実によれば、本件各土地のそれぞれの地積は、本件各土地の登記簿謄本に記載された地積に基づくことが相当であり、これらの地積を基に本件各土地の相続税評価額を算出すると、別表4の「原処分庁主張の相続税評価額の計算」欄のとおりとなる。
C 相続税の課税価格に算入される価額について
 本件各土地のうち乙宅地については、措置法第69条の3の規定を適用とするとその価額は259,775,505円となり、相続税の課税価格に算入される本件各土地の価額は別表2の「原処分庁主張額」欄のとおりとなる。
D 本件更正処分について
 以上述べたことに基づけば、請求人らの本件各土地の課税価格に算入される価額の合計は3,089,931,216円となり、これらの金額は本件更正処分の金額を上回るところから、これらの金額の範囲内でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正処分があったときは、当該納税者に対しその更正処分に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を賦課する旨規定している。
 ところで、過少申告加算税は、当初から正当に申告、納税をした者とこれを怠った者との間の不公平を是正するため、適正な申告をしなかった納税者に対して課されるものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解されている。
 なお、この場合の「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし又は更正を受けた場合など、当時適法とみられていた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして過少申告となった場合のように当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであるところから、単に過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合には、これに該当しないものと解されている。
(ロ)請求人らは、納付税額の大部分について物納申請をしていることから、既に納税は済んだに等しい状況にあり、ことさら国に損害を与えていないとして正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、本件更正処分は、上記イの(ニ)のDのとおり適法に行われており、かつ、過少申告加算税の賦課決定は上記(イ)で述べた趣旨に基づくものであるところから、請求人らの主張は前提を誤った独自の見解というべきであって、何ら正当として是認すべき理由は認められない。
(ハ)さらに、請求人らは、他の類似する事例で過少申告加算税が賦課決定されなかったことをもって正当な理由がある旨主張するが、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否かの判断は、個々の事実関係に基づいて行われるべきであって、他の事例における過少申告加算税の賦課決定の有無は、本件賦課決定処分の効力になんら影響を及ぼすものではないから、請求人らの主張には理由がなく、本件賦課決定処分については、同項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しない。
(ニ)以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、本件相続に係る相続税の申告が過少申告となったのは、本件相続開始日における本件各土地の価額の算定方法に誤りがあったことによるものと認めるのが相当であり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて本件賦課決定処分を行ったことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件相続の開始日現在の本件各土地の価額の多寡及び本件賦課決定処分の適否にあるので、以下審理する。

(1)本件各土地の価額について

イ 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、本件相続の開始日現在の本件各土地の価額を本件鑑定評価書に基づいて1,784,400,000円と算定し、本件各土地のうち、乙宅地については、措置法第69条の3第1項を適用した上で、別表2の「申告額」欄に記載のとおり申告したこと。
(ロ)原処分庁は、本件各土地の相続税評価額は、本件相続開始日におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情があるとは認められないから、本件各土地の価額は評価基本通達に基づいて評価するのが相当であるとして、別表2の「更正処分額」欄に記載のとおり本件更正処分をしたこと。
(ハ)本件鑑定評価書は、大要、次の手順により鑑定し、本件鑑定評価額を決定していること。
A 近隣地域について
(A)近隣地域の範囲
 本件各土地の近隣地域(対象不動産の属する用途的地域であって、対象不動産の価格の形成に関し直接に影響を与えるような特性を持つ地域をいい、以下「本件各土地の近隣地域」という。)をR町2丁目のうち、本件各土地が接面する市道(○○通りとほぼ平行に通っている市道をいい、以下「本件市道」という。)沿いの地域で、本件各土地を中心に南北約20メートルの範囲内とする。
(B)標準的使用
 一般住宅及び共同住宅の敷地と判断する。
(C)標準的画地
 S駅から南東方へ約1.7キロメートルに位置する幅員5メートル程度の道路に接面する地積500平方メートル内外の正方形の画地とする。
B 甲宅地、乙宅地及び丙宅地について
(A)対象不動産は、底地としての評価であるので、取引事例比較法による比準価格、収益還元法に基づく収益価格を関連づけ、更に公示価格等を規準とした価格を考慮して、標準的画地の更地としての価格を求め、次に、借地権価格を割合方式(地域の標準借地権割合に個別修正率を乗じて算出する方式。以下同じ。)及び収益方式(正常実質賃料相当額から、実際支払賃料を控除して得た額を資本還元する方式。以下同じ。)の2方式により求めた金額の中庸値により算定し、底地価格を決定した。
a 取引事例比較法による比準価格
 近隣地域及び同一需給圏内の類似地域(近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域をいう。以下同じ。)により適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に、事情補正、時点修正及び標準化補正を施した後、価格形成に作用する地域要因の比較を行って、別表5の「本件鑑定評価書(比準表)」(以下「取引事例等比準表」という。)に記載のとおり、比準価格を1平方メートル当たり1,845,000円(以下「本件比準価格」という。)と査定した。
b 収益還元法による収益価格
 同一需給圏内の類似地域における共同住宅等の収益事例(P市Q町3丁目21番6外に所在し、以下「本件収益事例」という。)から土地に帰属する純収益を求め、これを近隣地域の標準的画地並みに時点修正、標準化補正及び地域格差の補正を行ったところで還元利回り(5パーセントを採用)で還元して収益価格を1平方メートル当たり1,546,000円(以下「本件収益価格」という。)と査定した。
c 規準価格
 同一需給圏内の類似地域に存するR町1丁目225番48外の公示地P−6(以下「公示地P−6」という。)の平成4年1月1日現在の公示価格3,480,000円を基に、時点修正及び地域格差の補正を行い、取引事例等比準表に記載のとおり、規準価格を1平方メートル当たり2,337,000円(以下「本件規準価格」という。)と査定した。
d 以上の結果、求められた各価格には開差が生じたが、本件比準価格は豊富な事例の中から規範性の高いものを採用して求めたものであり、市場性を反映した実証的な価格である。一方、本件収益価格は不動産の収益性に着目した理論的な価格であるが、地価高騰によって土地に対する賃料利回りが低位にシフトしている事実があることから、本件比準価格に比し低い価格が求められた。また、本件規準価格は規準とした公示価格が最近の地価下落による現実の取引価格と掛け離れていると認められた。
 よって、市場性を反映した実証的で規範性の高い本件比準価格を中心に理論的な本件収益価格を参酌し、本件規準価格は参考にとどめ、標準価格を1平方メートル当たり1,800,000円と査定した。
(B)上記(A)により標準価格が得られたので、対象不動産の持つ価格形成要因を考慮して、別表4の「本件鑑定評価額の計算」欄のとおり、甲宅地、乙宅地及び丙宅地の鑑定評価額を査定した。
C 丁宅地について
 対象不動産は更地としての評価であるので、上記Bの(A)で求められた標準価格を基に対象不動産の持つ価格形成要因を考慮して、別表4の「本件鑑定評価額の計算」欄のとおり、丁宅地の鑑定評価額を査定した。
(ニ)本件各土地及びその周辺の地域(R町1丁目及び2丁目内の地域)は、次のとおりであること。
A 本件各土地は、本件市道の東側に接面し、その状況等は別表6の「本件各土地の状況等」のとおりである。
B 本件各土地の周辺の地域のうち、○○通りと本件市道との間に位置するR町2丁目8番、10番(本件各土地が所在)及び11番(各地番は住居表示による地番)の地域(○○通り沿いの土地を除く。)については、次のような特性がある。
(A)○○通りから本件市道に通じる幅員6メートルから9メートル程度の市道沿いにほぼ整理された区画が連たんする地域である。
(B)当該地域は、中層の共同住宅及び商業ビルを中心に戸建住宅、作業所あるいは規模のやや大きい駐車場が点在する地域である。
(C)本件基準地は、丙宅地が接面する幅員6メートルの道路(以下「本件6メートル道路」という。)沿いにあり、丙宅地とは当該道路を狭んで斜め向かいに位置している。
(D)当該地域の用途地域は、準工業地域となっており、建築基準法(平成7年法律第13号による改正前のものをいう。以下同じ。第52条《延べ面積の敷地面積に対する割合》第1項に規定する建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は400パーセント、同法第53条《建築面積の敷地面積に対する割合》第1項に規定する建築面積の敷地面積に対する割合(以下「建ぺい率」という。)は60パーセントであり、同法第56条の2《日影による中高層の建築物の高さの制限》に規定する日影規制(以下「日影規制」という。)がない。
C 本件各土地の周辺の地域のうち、R町1丁目5番(地番は住居表示による。)に位置する地域については、次のような特性がある。
(A)当該地域は、○○通りから△△△に通じる幅員10メートル程度の道路(以下「本件10メートル道路」という。)と平行に通っている幅員5メートル程度の道路との間に位置している。
(B)当該地域の用途は、一部戸建住宅等が点在するが、そのほとんが中層のマンション及び事務所ビルとなっている。
(C)当該地域の用途地域は、準工業地域(建ぺい率60パーセント、容積率400パーセント、日影規制なし。)となっている。
(D)R町1丁目31番2に所在する公示地P7−1(以下「本件公示地」という。)は、当該地域内に所在し、本件10メートル道路に接面している。
D 上記A及びBの地域を除く本件各土地の周辺の地域については、次のとおりである。
(A)本件市道の東側は、中低層の共同住宅、事務所ビル及び小規模の工場や作業所等が混在する地域であり、その用途地域は準工業地域(建ぺい率60パーセント、容積率400パーセント、日影規制なし。)となっている。
(B)本件市道の西側は、戸建住宅に中低層の共同住宅、アパート、寺院等が点在する住宅地域であり、その用途地域は一部の準工業地域及び住居地域を除き、第二種住居専用地域(建ぺい率60パーセント、容積率200パーセント、日影規制あり。)となっている。
(ホ)本件鑑定評価書が採用している取引事例(取引事例等比準表(別表5)に記載されている取引事例AないしDをいい、以下「本件各取引事例」という。)の属する地域の特性は、次のとおりであること。
A 取引事例Aは、幅員4メートル程度の道路に接面し、その近隣の地域は、中小規模の戸建住宅、中低層の共同住宅、中小工場及び作業所が混在する地域であり、その用途地域は準工業地域(建ぺい率60パーセント、容積率300パーセント、日影規制あり。)となっている。
B 取引事例Aの近隣の地域には、P市a町3丁目74番4に所在する基準地7−1(以下「基準地7−1」という。)がある。
C 取引事例Bは、××通りから一本西側の幅員4メートル程度の道路に接面し、その近隣の地域は、戸建住宅、アパート、店舗及び作業所等がやや密集する地域であり、その用途地域は近隣商業地域(建ぺい率80パーセント、容積率400パーメント、日影規制なし。)となっている。
D 取引事例Cは、やや急勾配の幅員4メートル程度の道路に接面し、その近隣の地域は当該道路の東側が中規模程度の戸建住宅街であり、西側(当該事例地を含む。)はその大部分が駐車場、教会となっている。そして、その用途地域は第二種住居専用地域(建ぺい率60パーセント、容積率300パーセント、日影規制あり。)となっている。
E 取引事例Dは、幅員18メートル程度の道路に接面し、その近隣の地域は中層の事務所ビル及び商業ビルが連たんする地域であり、その用途地域は近隣商業地域(建ぺい率80パーセント、容積率400パーセント、日影規制なし。)となっている。
F 取引事例Dは、借地権者との売買取引の事例である。
(ヘ)本件鑑定評価書が収益還元法による収益価格の算定上、採用した本件収益事例は、次のとおりであること。
A 本件収益事例は、幅員5メートル程度の道路に接面する鉄筋コンクリート造の事務所の用に供されており、賃貸条件を階数3、総収益を6,603,000円としている。
B 本件収益事例が属する地域は、戸建住宅及び共同住宅が中心の住宅地域であり、その用途地域は第二種住居専用地域(建ぺい率60パーセント、容積率200パーセント、日影規制あり。)となっている。
(ト)本件鑑定評価書において、規準価格の算定の基とした公示地P−6が属する地域は、在外公館のほか中規模以上の住宅の多い地域であり、その用途地域は第二種住居専用地域(建ぺい率60パーセント、容積率200パーセント、日影規制あり。)となっていること。
(チ)請求人らが申告書に記載した本件各土地の地積は、昭和61年2月5日に作成された測量図に記載された実測面積によっていること。
ロ 請求人らは、本件各土地の価額は、本件鑑定評価額が適正な時価を示しているから、本件鑑定評価額によるべきである旨主張するので検討したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価額をいうものと解されている。
 しかしながら、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、時価を適正に把握することは必ずしも容易でないこと及び納税者間で評価が区々になることは課税の公平の観点からいえば好ましいことではないことから、課税庁における事務の統一性を図ることなどのため、課税庁は、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、評価基本通達を定め、更に土地の価額については具体的に路線価を定めて、部内職員に示達するとともに、これを公開することによって納税者の申告及び納税の便に供していることが認められる。
 なお、通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、法規たる性質を有せず、それ自体は納税者を拘束するものではなく、納税者は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものでないことはいうまでもない。
(ロ)そこで、本件鑑定評価額について検討すると、次のとおりである。
A本件各土地の近隣地域について
(A)本件鑑定評価書は、本件各土地の近隣地域を上記イの(ハ)のAの(A)及び(B)のとおり、その範囲を本件市道沿いの地域で本件各土地を中心に南北約20メートルとし、本件各土地の近隣地域の標準的使用を一般住宅及び共同住宅の敷地と判断しているが、本件各土地を含むR町2丁目10番及び8番並びに11番の地域(○○通りに接面する地域を除く。)は、上記イの(二)のBのとおり(1)○○通から本件市道に通じる幅員6メートルから9メートル程度の市道沿いにほぼ整理された区画が連たんし、(2)中層の共同住宅及び商業ビルを中心に戸建住宅、作業所あるいはやや規模の大きい駐車場が点存する地域であり、(3)その用途地域や公法上の規制(建ぺい率60パーセント、容積率400パーセント、日影規制なし。)も同一であるなどの共通の特性を有していることからすれば、当該地域が本件各土地の近隣地域と認められる。
(B)本件鑑定評価書は、標準的画地を上記イの(ハ)のAの(C)のとおり、幅員5メートル程度の道路に接面する500平方メートル内外の画地としているが、本件各土地の近隣地域が上記(A)の(1)ないし(3)の特性を有していることからすれば、当該地域の標準的画地は本件6メートル道路沿いの500平方メートル程度の中間画地(以下「本件標準画地」という。)と認められ、また、その標準的使用は中層の共同住宅及び商業ビルと認められる。
B 本件比準価格について
 本件鑑定評価書は、標準的画地の比準価格を取引事例等比準表(別表5)の(2)「比準価格の試算」のとおり、1平方メートル当たり1,845,000円と算定しているが、当審判所の調査によれば次のとおりである。
(A)取引事例Aについて
a 本件鑑定評価書では、取引事例Aの用途地域を第二種住居専用地域としているが、実際は、上記イの(ホ)のAのとおり準工業地域となっており、これは本件各土地の近隣地域の用途地域と同一ではあるが、建築基準法上の規制は本件各土地の近隣地域の方が容積率及び日影規制の面において緩和されている。
b 当該取引事例地の近隣の地域は、上記イの(ホ)のAのとおり中小規模の戸建住宅、中低層の共同住宅及び中小工場等が混存する地域であるが、本件各土地の近隣地域は、上右Aの(A)のとおりであることからすれば両地域の地域性に相違がみられる。
c 当該取引事例地の近隣の地域には、上記イの(ホ)のBのとおり、基準地7−1が所在するが、基準地7−1の平成4年7月1日の基準地価格は2,050,000円、一方、本件各土地の近隣地域に所在する本件基準地の同時点における基準地価格は4,000,000円と公表されており、これらの基準地価格を比較した場合、当該取引事例地の価格水準が本件各土地の近隣地域の価格水準に比べ約49パーセントも低く両者間には相当の開差がみられる。
d 本件鑑定評価書は、取引事例等比準表の(3)「比準価格の個別的要因及び地域要因の格差修正率」の「地域要因格差修正率の相乗積」欄のとおり、地域要因格差を本件各土地の近隣地域に比較し、プラス1ポイントとしているが、両地域に上記b及びcのとおりの相違がみられることからすれば、本件各土地の近隣地域の方が(1)街路条件においては街路の幅員、配置、系統及び連続性、(2)環境条件においては各画地の面積、配置及び利用の状態が優れていると認められるので、これらについての格差補正が必要と判断される。
(B)取引事例Bについて
a 取引事例Bの近隣の地域は、上記イの(ホ)のCのとおり××通りに近い位置に所在するが、戸建住宅、アパート及び店舗等がやや密集している地域であり、他方、本件各土地の近隣地域は、上記Aの(A)のとおりであることからすれば、両地域の地域性には相当の相違がみられる。
b 当該地域の用途地域は近隣商業地域となっており、本件各土地の近隣地域の用途地域と異なっている。
c 本件鑑定評価書は、取引事例等比準表の(3)「比準価格の個別的要因及び地域要因の格差修正率」の「地域要因格差修正率の相乗積」欄のとおり、地域要因格差を本件各土地の近隣地域に比較し、プラス9ポイントとしているが、両地域に上記a及びbのとおり相違がみられることからすれば、公法上の規制の面においては取引事例Bの属する地域の方が優れている一方、(1)街路条件においては街路の幅員、配置及び連続性、(2)環境条件においては各画地の面積、配置及び利用の状態に関し、本件各土地の近隣地域の方が優れていると認められるので、これらについての格差補正が必要と判断される。
(C)取引事例Cについて
a 取引事例Cの属する近隣の地域は、上記イの(ホ)のDのとおり傾斜のややきつい中規模程度の戸建住宅が多い地域であるが、本件各土地の近隣地域が上記Aの(A)のとおりであることからすれば、両地域の地域性には相当の相違がみられる。
b 当該地域は上記aのとおり、戸建住宅が中心の住宅街となっているが、その用途地域も第二種住居専用地域となっており、本件各土地の近隣地域の用途地域と異なっている。
c 本件鑑定評価書は、取引事例等比準表の(3)「比準価格の個別的要因及び地域要因の格差修正率」の「地域要因格差修正率の相乗積」欄のとおり、地域要因格差を本件各土地の近隣地域に比較し、プラス5ポイントとしているが、両地域に上記a及びbのとおりの相違がみられることからすれば、(1)街路条件においては街路の幅員、配置及び連続性、(2)環境条件においては各画地の面積及び配置に関し、本件各土地の近隣地域の方が優れていると認められるので、これらについての格差補正が必要と判断される。
(D)取引事例Dについて
a 取引事例Dは、上記イの(ホ)のFのとおり土地所有者と借地権者との間の売買取引であるから、この取引価額は限定価格(市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき合理的な市場で形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。以下同じ。)と認められる。
b 本件鑑定評価書は、取引事例等比準表の(2)「比準価格の試算」のとおり、取引事例Dの1平方メートル当たりの取引価額を2,372,620円とし、当該価額を取引事例Dの更地価額として比準価格を算定しているが、当該価額は上記aのとおり土地所有者の借地権者に対する底地の売買価額であると認められるから、仮に、取引事例Dを採用するのであれば、価格について補正が必要であると判断される。
(E)本件鑑定評価書には、上記イの(ハ)のBの(A)のaのとおり、本件各取引事例を本件各土地の近隣地域及び同一需給圏内の類似地域から適切に選択した事例とし、これらに係る取引価額に事情補正、時点修正及び標準化補正をした後、地域要因の比較を行って本件比準価格を査定した旨記載されている。
 しかしながら、本件各取引事例のうち、取引事例AないしCについては、上記(A)ないし(C)のとおり、(1)本件各土地の近隣地域と当該各取引事例地の属する近隣の地域との特性には相当の相違が認められることから、当該各取引事例地は、本件各土地の近隣地域及び同一需給圏内の類似地域から選択した事例としては、適切なものとは認められず、また、(2)本件各土地の近隣地域と当該各取引事例地の属する近隣の地域との地域要因の格差補正が適切にされていないと認められることからすれば、当該各取引事例地は、比準価格を算定する上で採用する取引事例としては不適切なものと判断される。
 そして、取引事例Dは上記(D)のとおり、底地の取引事例にもかかわらず、その取引価額を更地価額として比準価格を算定していることから、取引価額に関する補正が適切ではなく、更には、当該取引は土地所有者と借地権者との間の売買に基づく限定価額と認められるから、当該取引価額は客観的な交換価額を算定する上で採用すべき取引事例としては不適切なものと認められる。
 以上のとおり、本件鑑定評価書が採用した本件各取引事例は、いずれも比準価格を算定する上で採用する取引事例としては不適切なものと認められる。
C 本件収益価格について
(A)本件鑑定評価書には、上記イの(ハ)のBの(A)のbのとおり、同一需給圏内の類似地域における共同住宅等の本件収益事例を基に査定した旨記載されている。
 しかしながら、採用した本件収益事例が属する地域が上記イの(ヘ)のBのとおりの地域性があることからすれば、その標準的な使用は戸建住宅及び中低層の共同住宅と認められ、他方、本件各土地の近隣地域は上記ロの(ロ)のAのとおりその標準的な使用は中層の共同住宅及び商業ビルと認められるから、本件収益事例は同一需給圏内の類似地域における収益事例としては不適切なものと判断される。
(B)さらに、本件収益価格の算定は上記イの(ヘ)のAのとおり、賃貸条件を階数3、総収益6,603,000円として行っているが、、本件各土地の近隣地域の標準的な使用が上記(A)のとおり認められることからすれば、賃貸条件を階数5程度の建物とするのが相当と判断される。
(C)以上のとおり、本件収益事例は、本件収益価格を算定する上で採用する収益事例としては不適切なものと認められる。
D 本件規準価格について
(A)本件鑑定評価書は、規準価格の算定において、取引事例等比準表の(4)「規準価格の試算」のとおり公示地P−6の公示価格を採用しているが、公示地P−6の属する地域は、上記イの(ト)のとおり在外公館のほか中規模以上の住宅の多い地域であり、その用途地域も第二種住居専用地域となっている。他方、本件各土地の近隣地域は上記ロの(ロ)のAのとおりであるから、両地域はその地域性に相当の相違がみられる。
(B)本件各土地の近隣地域には、上記イの(ニ)のBの(C)のとおり、本件基準地が所在している。
(C)本件公示地はR町1丁目5番の地域内に所在するが、当該地域は上記イの(ニ)のCのとおり、本件各土地の近隣地域と同様の地域性があると認められるから、当該地域は本件各土地の類似地域と認められる。
(D)本件鑑定評価書は、取引事例等比準表の(5)「規準価格の個別的要因及び地域要因の格差修正率」のとおり、地域要因の格差を本件各土地の近隣地域に比較し、環境条件についてプラス30ポイントとしているが、その格差率の根拠が明確ではない。
(E)以上のとおり、(1)本件各土地の近隣地域と公示地P−6の属する地域との地域性には相当の相違があること、(2)本件各土地の近隣地域には本件基準地が所在し、また、本件各土地の類似地域と認められる地域内には、本件公示地が所在していること及び(3)本件各土地の近隣地域と公示地P−6の属する地域との地域要因の格差について不明確な点があることなどからすれば、規準価格の算定上、規準とする価格としては公示地P−6の公示地価格は不適切と認められ、本件基準地及び本件公示地の各価格を規準とすべきであると判断される。
E 以上のとおり、本件鑑定評価額には種々の不適切な点が認められることから、本件鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価を表しているものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ハ 請求人らは、公示価格は、(1)公示価格を決定する際、どうしても前年以前の価格との釣合いを取る関係上ある程度の調整が行われること及び(2)公示価格決定作業のために集められるデータは、1年以上前のものが使用されることがあるため2年くらいのタイムラグが生じていることから、時価の算定規準とはなり得ない旨主張する。
 しかしながら、公示価格の算定の基となった売買事例等については、その詳細が明らかにされておらず、かつ、当審判所の調査においても、その閲覧ができないので、上記(1)及び(2)に基づき決定されているか否かを確認することはできないが、公示価格は、地価公示法第2条によれば、土地鑑定委員会が二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価額を審査した上、その年1月1日現在の1平方メートル当たりの「正常な価格」を判定したものであり、一般の土地取引についての取引価格の指標の提供、不動産鑑定士等の鑑定評価の規準及び公共用地買取りの補償の規準とされているものであることからすれば、請求人らの主張をもって時価の規準とはなり得ないと判断することはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することはできない。
ニ 請求人らは、E県地価図における価格が時価を示していることから、その価格を上回っている本件更正処分は不当である旨主張する。
 E県地価図に示す地点の価格は、同地価図の説明によると、あくまでも地域の時価を表示したものとしているが、当該地点の具体的な所在が明らかでないため、土地の価格の形成に作用する諸要因の比較検証ができないことから、当該価格をもって本件各土地の時価を示しているとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することはできない。
ホ 原処分庁は、本件各土地の価額を評価基本通達に基づき算定し、その価額は、原処分庁の依頼による不動産鑑定士の鑑定評価額を上回っていないから、評価基本通達に基づき算定したことは適法である旨主張する。
 原処分庁は、原処分庁の依頼した不動産鑑定士の鑑定評価額をもって、本件各土地の時価が相続税評価額を下回らないとしているが、原処分庁から提出された鑑定評価書には、その鑑定を行った不動産鑑定士の氏名が明らかにされていないところ、一般的にこのような証明書等の書類は、だれがどのような立場で作成したかが重要であると考えられることから、原処分庁が提出した鑑定評価書を、本件各土地の時価を証明する証拠資料として採用することはできない。
ヘ 原処分庁は、請求人らが申告書に記載した本件各土地の地積は、測量等の合理的な根拠に基づいていないから、本件各土地の価額は登記簿に記載された地積をもって算定すべきである旨主張するが、実際の地積が測量士による測量図等により明らかであるものについては、その実測面積をもって算定することが相当であるところ、当審判所の調査によれば、上記イの(チ)のとおり申告書に記載された本件各土地の地積は、昭和61年2月5日に作成された測量図を基としていることが認められるから、本件各土地の地積は申告書に記載された地積が相当と認められ、その地積は別表6の「本件各土地の状況等」に記載したとおりである。
ト 次に、当審判所において、請求人らの提出資料及び原処分関係資料により、本件各土地の価額について検討したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、上記ロの(イ)に記載のとおり、相続による取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価額をいうものと解されている。
 一方、公示価格は、上記ハに記載のとおり、地価公示法第2条に規定する「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定されており、一般の土地取引についての取引価額の指標、不動産鑑定士等の鑑定評価及び公共用地買取りの補償の規準とされるものであるところから、その年1月1日現在の客観的な交換価額を表しているものと解される。
 また、基準地価格は、国土利用計画法施行令第9条第2項において、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格とする旨規定されており、同条第3項において、上記の公示価格を規準とするとしていることから、その年7月1日現在の客観的な交換価額を表しているものと解するのが相当である。
 したがって、上記のとおり、地価公示法に規定する「正常な価格」、基準地価格及び相続税法第22条に規定する「時価」は、共に自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格を指向しているものと解することができるから、公示価格及び基準地価格を規準とした価格は、相続税法第22条に規定する時価を判断する上での一つの要素とすることは相当と認められる。
(ロ)当審判所の調査によれば、本件各土地に関する比準価格の算定上、適切な取引事例は見当たらないが、本件各土地の近隣地域には本件基準地が、本件各土地の類似地域には本件公示地が存することが認められ、本件公示地及び本件基準地の状況は別表7−1の「本件公示地及び本件基準地の状況等」に記載したとおりである。
A そこで、本件標準画地について、本件公示地及び本件基準地を規準にして、土地価格比準表(昭和50年1月20日付50国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達。以下同じ。)に定める地域要因及び個別要因の比較を行い本件標準画地の価格を試算したところ、別表7−2の「土地価格比準表」のとおり、本件公示地を規準にした場合は、1平方メートル当たり3,892,070円及び本件基準地を規準にした場合は、同3,914,000円となり、これらを総合的に判断すると本件標準画地の価格は、1平方メートル当たり約3,900,000円と認められる。
B 上記Aにより本件標準画地の価格が得られたので、本件標準画地と本件各土地との個別的要因の比較を土地価格比準表により行い、本件各土地の更地価額を試算すると、別表8の「本件各土地の公示価格及び基準地価格に基づく更地価額試算表」のとおりとなる。
(ハ)以上の結果、本件公示地の価格及び本件基準地の価格に基づく本件各土地の相続開始日の更地価額(別表9の「試算価額」欄の価額)は、原処分庁が評価基本通達に基づいて評価した本件更正処分の更地価額(別表9の「更正処分価額」欄の価額)をいずれも上回ることから、本件各土地の相続税評価額が本件各土地の相続開始日における時価を上回っているとは認められない。したがって、原処分庁が本件各土地の価額を相続税評価額により評価したことは相当と認められる。
(ニ)本件鑑定評価書は、甲宅地、乙宅地及び丙宅地の底地価額の算定に当たっては、これらの宅地の借地権価額を上記イの(ハ)のBの(A)に記載のとおり、割合方式及び収益方式による借地権価額を基とした金額の中庸値をもって算定している。
 しかしながら、(1)割合方式では、地域の標準的な借地権割合70パーセントに、個別性による修正率を乙宅地については40パーセント、丙宅地については53パーセントを乗じて算出された割合を借地権割合としているが、この個別による修正率を乗じることの合理性に疑問があり、また、(2)収益方式による価格を算定する基礎価格は、本件鑑定評価書によって算定された本件各土地の標準価格を基にしているが、当該標準価格は上記ロの(ロ)で述べたとおり、甲宅地ないし丙宅地の価額として採用できないものである。
 したがって、甲宅地ないし丙宅地の底地価額の算定上、本件鑑定評価書が採用する借地権割合及び借地権価額は採用することはできない。
 ところで、評価基本通達の定めによれば、甲宅地ないし丙宅地に係る借地権の割合は70パーセントとされているところ、評価基本通達は、課税の公平を図るために、売買実例や精通者の意見価格等を基にして評価すべき財産の実態に則した具体的な評価方法を定めており、また、本件鑑定評価書においても近隣地域の標準的借地権割合を70パーセント程度としている点などを勘案すると、次表のとおり原処分庁が借地権割合を評価基本通達の定めに基づいて70パーセントと評価することが、特に不相当であるとする理由は認められない。

(単位 %)
借地権割合本件鑑定評価書
土地地域の標準割合方式収益方式評価基本通達
甲宅地70707170
乙宅地70282470
丙宅地70373670

(ホ)本件鑑定評価書は、丁宅地の価額の算定に当たっては、無道路地として評価額を減額しているが、丁宅地の利用状況等は、別表6の「本件各土地の状況等」に記載のとおり、Jが市道に接面している自己所有の居住用土地の庭として本件相続開始以前から一体として利用しており、丁宅地が道路に直接接面していないことによる利用価値の低下があるとは認められないから、無道路地として評価額を減額すべきものには当たらないと認められる。

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(2)本件更正処分について

 以上のとおり、本件各土地の価額を相続税評価額により評価した原処分庁の認定は相当であり、また、本件各土地のうち乙宅地についての措置法第69条の3の規定の適用については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められるので、乙宅地に措置法第69条の3の規定を適用し、本件各土地の相続税の課税価格に算入すべき価額を計算すると別表10の「本件各土地の相続税の課税価格に算入される価額」のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件更正処分に係る本件各土地の課税価格と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件相続の申告(以下「本件申告」という。)の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、本件各土地の価額を本件鑑定評価額を基にして、本件申告をしたこと。
(ロ)原処分庁は、上記(1)のイの(ロ)のとおり、相続税評価額が本件相続開始日の土地の価額を上回っていると認められる特別の事情があるとは認められないとして本件更正処分をしたこと。
ロ ところで、通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該修正申告又は更正に基づいて納付すべき税額を基礎として過少申告加算税を課する旨規定し、同条第4項は、当該修正申告又は更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があると認められるものがある場合には、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額に相当する額を控除する旨規定している。
 つまり、過少申告加算税は、当初から正当に申告、納税をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するために、適正な申告をしなかった納税者に対して課されるものであり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものであると解される。
 また、この場合の「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当もしくは酷になる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものでないと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)本件申告をした当時と本件更正処分をした当時とで、相続税法上の土地の時価の解釈が改変されたものではないから、本件更正処分は、税法の解釈の改変に伴いなされたものとは認められない。
(ロ)上記イの(イ)及び(ロ)の事実によれば、本件更正処分は、本件申告における本件各土地の価額の算定方法等に誤りがあったことなどのため、これを是正したものであると認められ、本件申告当時、適法とみられた申告がその後の事情の変更により請求人らの故意、過失に基づかずして申告が過少になったものではないと認められる。
(ハ)請求人らは、本件更正処分の内容が請求人らの申告もれ財産によるものではなく、また、時価申告を原則とするとの国税庁長官の国会答弁を信頼して時価申告したものであるから、このことは、「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記ロで述べたように、過少申告加算税は単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解されるから、請求人らに相続税額の脱漏目的の意思がなかったとしても、そのことが「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するということはできない。
 また、不動産鑑定士による鑑定評価額は、相続税法第22条にいう時価を算定する上でひとつの判断要素であると考えられるが、個々の鑑定評価額が評価対象地の時価として真に適正なものか否かについては、個別具体的に鑑定評価の内容等を検討した上で判断すべきものであって、鑑定評価額であれば直ちに時価として妥当性を有していると解することは相当ではない。
 当審判所が本件鑑定評価額を検討した結果、本件鑑定評価額が本件各土地の本件相続開始日の時価として認められないことについては、上記(1)のロのとおりであるから、本件鑑定評価額が時価として真に適正なものか否かについて検討することなく、本件鑑定評価額を時価と考えて本件申告をした請求人らには、上述の「正当な理由」があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)請求人らは、本件更正処分の内容と類似する他の事例において過少申告加算税の賦課決定処分がなされていないものがあるから、このことは、「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人らが主張する他の事例における事実のいかんは、本件審査請求に対する判断に影響を及ぼすものではないところ、上記ロで述べたとおり、過少申告加算税は単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるものであるから、そのことが「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するということはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ホ)以上のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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