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(平9.12.11裁決、裁決事例集No.54 420頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人F(以下「F」という。)、同J(以下「J」という。)、同K(以下「K」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)は、平成4年8月21日(以下「本件課税時期」という。)に死亡したEの共同相続人5名のうちの3名であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人らは、平成6年2月21日に課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成6年7月8日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人らは、本件通知処分を不服として、平成6年8月30日に課税価格及び納付すべき税額を別表1の「異議申立て」欄のとおりとすべき旨の異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年6月30日付で、F及びKについては別表1の「異議決定」欄のとおり、いずれも原処分の一部を取り消す異議決定をし、また、Jについては棄却の異議決定をした。
 原処分庁は、平成7年7月4日付でJについて、別表1の「更正」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年7月17日に審査請求をした。
 そこで、本件更正処分についてもあわせ審理する。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成7年8月8日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 本件相続に係る相続財産であるP市Q町2丁目11番18所在の宅地214.269平方メートル(以下「A宅地」という。)、P市S町3丁目2821番1及び2所在の宅地のうち216.447平方メートル(以下「B宅地」という。)、同所同番所在の宅地のうち278.553平方メートル(以下「C宅地」という。)、同所801番4所在の宅地25.846平方メートル(以下「D宅地」といい、A宅地、B宅地、C宅地及びD宅地を併せて「本件宅地」という。)の価額は、請求人らが提出したL株式会社に所属する不動産鑑定士M及び同Nが作成した平成6年2月18日付第a−b号ないし第c−d号の鑑定評価書(以下「請求人鑑定書」という。)の鑑定評定額(以下「請求人鑑定評価額」という。)を採用すべきであり、その価額はA宅地1,392,700,000円、B宅地294,000,000円、C宅地117,000,000円及びD宅地28,900,000円である。そして、この価額は、原処分庁が本件宅地を財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成5年6月23日付課評2−7ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に基づいて評価した価額(以下「相続税評価額」という。)を下回っているから、本件通知処分は、次のとおり、本件宅地の時価の解釈を誤った違法な処分である。
イ 請求人らは、本件宅地の時価が異常に下落しているため、不動産鑑定士に本件宅地の評価を依頼したところ、その鑑定により証明された時価があまりに低いため、再度確認した結果誤りがないことを確信したものであり、国家資格を有する不動産評価の専門家である不動産鑑定士の鑑定評価額は何より権威のあるものであるから、本件宅地の相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価は請求人鑑定評価額を採用すべきであり、その時価が相続税評価額を下回っていることは明白であるから、原処分庁は、本件課税時期において本件宅地の時価が相続税評価額を下回っているという事実を誤認したものである。
ロ A宅地の価額は、1年間均等に下落したものではなく、本件課税時期から売却時点までの5か月間下落した価額のまま推移してきたからこそA宅地を売却できたもので、本件課税時期においても売却時点の価額と変わらないはずであるから、原処分庁は時価の下落についての事実を誤認しているものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁が不動産鑑定士に依頼した価格時点である本件課税時期の本件宅地の更地(建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。以下同じ。)としての鑑定評価額(以下「原処分庁鑑定評価額」という。)及び路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)に評価基本通達に定める補正率を適用して求めた更地としての価額(以下「本件更地価額」という。)は、別表2のとおりであること。
 そして、これらを比較すると、原処分庁鑑定評価額は、いずれも本件宅地の本件更地価額を上回っており、かつ、別表3のとおり、原処分庁鑑定評価額を基に評価基本通達に基づく減額割合を乗じて算出した本件宅地の価額は、いずれも本件宅地の相続税評価額を上回っている。
ロ したがって、B宅地ないしD宅地については、相続税評価額が本件課税時期におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別な事情があるとは認められないので、B宅地ないしD宅地の相続税の課税価格に算入する価額は、相続税評価額を基として計算した価額とすべきである。
ハ A宅地については、本件課税時期の約5か月後実際に売買された事実があり、当該売買の時期と本件課税時期との期間が短いことから、その売買価額を本件課税時期に時点修正した価額を相続税法第22条に規定する時価として採用すべきものと認められ、その時点修正は、A宅地の近隣地域内の基準地(国土利用計画法施行令(昭和49年政令第387号)第9条《基準地の標準価格》の規定により告示された標準地をいう。以下同じ。)の1平方メートル当たりの標準価格(以下「基準地価格」という。)を基に行うのが合理的であるから、A宅地の価額は、A宅地の近隣地域内にあるP市Q町2丁目6番14(住居表示)に所在の基準地(以下「本件基準地」という。)の基準地価格(以下「本件基準地価格」という。)を基に時点修正率を計算し、当該売買価額にこれを乗じて算定した価額(以下「時点修正売買価額」という。)とするのが相当であり、その価額は別表4のとおり1,604,379,280円となる。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件課税時期における本件宅地の価額の多寡であるので、以下審理する。

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(1)本件宅地の価額について

イ 次のことについては、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件宅地の地積等は、次のとおりであること。
A A宅地は、間口約10メートル、地積214.269平方メートルで、都市計画法第8条《地域地区》に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)が商業地域に区分される。
B B宅地は、奥行約27メートル、地積216.447平方メートルで、用途地域が準工業地域に区分される。
C C宅地は、奥行約27メートル、地積278.553平方メートルで、用途地域が準工業地域に区分される。
D D宅地は、地積25.846平方メートル、幅員約2メートルの私道に面し、用途地域が商業地域に区分される。
E A宅地、B宅地のうち144.397平方メートル及びD宅地は、貸家の目的に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)であり、また、C宅地は、借地権の目的となっている宅地(以下「貸宅地」という)である。
(ロ)請求人らは、本件申告書において、本件宅地の価額を評価基本通達に基づきA宅地1,675,946,122円、B宅地のうち自用地部分159,775,125円、同貸家建付地部分252,965,004円、C宅地195,023,757円及びD宅地36,836,112円と算定し、A宅地については租税特別措置法(平成5年法律第10号による改正前のものをいう。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》に規定する特例(以下「小規模宅地等の特例」という。)を適用し580,909,244円であるとして申告したこと。
ロ 請求人らの提出資料及び原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、本件宅地の価額は請求人鑑定評価額に基づきA宅地1,392,700,000円、B宅地のうち自用地部分112,900,000円、同貸家建付地部分181,100,000円、C宅地117,000,000円及びD宅地28,900,000円であるとして、本件更正の請求をしたこと。
(ロ)原処分庁は、本件課税時期現在の本件宅地の価額はいずれも本件申告書に記載されている相続税評価額を上回っており、相続税評価額を下回るような特別な事情があるとは認められず、本件宅地の価額は評価基本通達に基づいて評価するのが相当てあるとして、本件通知処分をしたこと。
(ハ)異議審理庁は、A宅地については本件課税時期後実際に売買された事実があり、A宅地の時点修正売買価額は相続税評価額を下回るので、相続税の課税価格に算入する価額は時点修正売買価額を基として計算した価額とするのが相当であるとし、また、D宅地については、その前面道路が建築基準法(昭和25年法律第201号)第42条《道路の定義》第2項の規定に該当する幅員2メートルの道路であるため、その道路の中心線から左右に2メートルずつ後退した線がその道路の境界線とみなされ、将来、建築物の建替えを行う場合にはその境界線まで後退(以下「セットバック」という。)して道路敷として提供しなければならない部分があり、このセットバックを要する部分に対応する価額の30パーセント相当額を控除して評価するのが相当であるとして、原処分の一部を取り消す異議決定をしたこと。
(ニ)A宅地については、本件課税時期の約5か月後である平成5年1月29日付で、売主をF、買主をH、売買価額を1,419,804,673円とする売買契約書が作成されていること、及びFはA宅地の売買価額を同額とする譲渡所得の確定申告をしていること。
(ホ)請求人鑑定書は、請求人鑑定評価額を大要次のとおり決定していること。
A A宅地について
 対象不動産は「建付地」としての評価で、取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格(取引事例の取引価格から比準した価格をいう。以下同じ。)を、別表5のとおり、1平方メートル当たり8,500,000円と評定し、貸家建付地であるという個別的要因の格差修正率をT国税局財産評価基準による借家権割合及び慣行借家権割合を考慮してマイナス20パーセントとし、収益価格をも比較考量し、1平方メートル当たり6,500,000円と査定し、総額1,392,700,000円と決定した。
B B宅地について
 対象不動産は「建付地」としての評価で、取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格を、別表6のとおり、1平方メートル当たり1,650,000円と評定し、個別要因格差をマイナス5パーセントとし、1平方メートル当たり、1,567,500円を求めた。
 次に、B宅地を自宅に対応する部分及び工場に対応する部分に区分した上、次のとおり決定した。
(A)自宅に対応する部分
(単価)1,567,500円×(地積)72.05平方メートル=約(総額)112,900,000円
(B)工場に対応する部分
(単価)1,567,500円×※注(格差率)((100−20)÷100)×(地積)144.397平方メートル=約(総額)181,100,000円
※注 貸家建付地であるという個別的要因の格差修正率をT国税局財産評価基準による借家権割合及び慣行借家権割合を考慮してマイナス20パーセントとした。
(C)B宅地の価額
(A)+(B)=294,000,000円
C C宅地について
 対象不動産は「底地」としての評価で、底地割合法に基づきB宅地を査定する際に求めた標準画地と格差なしと判定し、更地としての価格を1平方メートル当たり1,650,000円を求めた上、これに、T国税局財産評価基準による貸宅地割合が30パーセント、地域の慣行底地権割合が20パーセントから30パーセントであることから判定した当該宅地の底地割合25パーセントを乗じて、底地としての1平方メートル当たりの価格を420,000円と査定し、総額を117,000,000円と決定した。
D D宅地について
 対象不動産は「建付地」としての評価で、取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格を、別表7のとおり、1平方メートル当たり1,400,000円と評定し、貸家建付地であるという個別的要因の格差修正率をT国税局財産評価基準による借家権割合及び慣行借家権割合を考慮してマイナス20パーセントとし、収益価格をも比較考量し、1平方メートル当たり1,120,000円と査定し、総額28,900,000円と決定した。
(ヘ)本件基準地価格は平成4年7月1日現在で13,000,000円、平成5年7月1日現在で9,400,000円であること。
ハ ところで、納税者が更正の請求をする場合、(1)国税通則法第23条《更正の請求》第3項では、更正の請求をしようとする者は、更正請求書に、更正前の課税標準等又は税額等及び当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細を記載するものとしており、また、(2)国税通則法施行令第6条《更正の請求》第2項では、その更正の請求をする理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、その取引の記録等に基づいて、その理由の基礎となる事実を証明する書類を添付するものとしているところであって、これらの規定は、更正の請求をする者が、まず、自ら記載した申告内容が真実に反するものであることを主張・立証すべきである旨を定めたものであると解される。
 これを本件審査請求についてみると、本件宅地の価額について、請求人らは、本件申告書において上記(1)のイの(ロ)のとおり評価して申告し、次いで請求人鑑定評価額に基づき本件更正の請求をしたのに対し、原処分庁は、上記(1)のロの(ロ)のとおり本件通知処分をしたのであるから、請求人らは、本件課税時期における本件宅地の価額が上記(1)のイの(ロ)の価額を下回ることを主張・立証することを要すると解すべきである。
ニ 請求人らは、本件宅地の価額は請求人鑑定評価額によるべきである旨主張し、請求人鑑定書でその立証をしているので、その適否について検討したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、(1)各種財産の時価を客観的かつ適正に把握することは必ずしも容易でないこと及び(2)納税者間で財産の評価が区々になることは課税の公平の観点から見て好ましいことではないことから、課税庁における事務の統一性を図ることなどのため、課税庁は、評価基本通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、さらに、土地の価額については具体的に路線価を定めて、部内職員に示達するとともに、これを公開することによって、納税者の申告・納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、法規たる性格を有さず、それ自体は納税者を拘束するものではなく、納税者は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものでないから、本件宅地の価額が路線価を下回ることが証明されれば、路線価を適用しなくてもよいことはいうまでもない。
(ロ)そこで、請求人鑑定評価額について検討すると、次のとおりである。
A A宅地について
(A)当審判所の調査によれば、取引事例比較法に採用された4件の取引事例のうち、(1)請求人鑑定書のA宅地に係る取引事例X1(以下「A宅地取引事例X1」という。)については、間口が約4.5メートル、地積が84.23平方メートルと標準画地に比べて狭小な物件と認められるにもかかわらず標準化補正がされていないこと及び地域要因の格差補正に当たり、環境条件の比較において高度利用の状態が10ポイント優れているとしているが、土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」をいう。以下同じ。)では、その格差補正は最大4ポイントとしていることから、その補正の内容には疑問があること、(2)請求人鑑定書のA宅地に係る取引事例X2については、地域要因の格差補正に係る交通・接近条件の最寄駅の接近性・性格が10ポイント劣っているとしているが、そのような格差を具体的に査定した基準となる資料の提出がなく、土地価格比準表の格差補正は最大4ポイントとしていることから、その補正の内容には疑問があること、(3)A宅地に係る取引事例X3(以下「A宅地取引事例X3」という。)については、地積が49.58平方メートルと標準画地に比べて狭小な物件と認められるにもかかわらず、標準化補正がされていないこと及び借地権の取引事例であるにもかかわらず、この点に関する補正がされていないこと並びに(4)A宅地取引事例X1ないしA宅地取引事例X3の所在地は、いずれもA宅地とは、最寄り駅が異なっており、A宅地と同一の需給圏に存するとは認められないことから、これらの取引事例は、A宅地の価額を算定するための比準対象としては不適切なものと認められる。
(B)請求人鑑定書では、貸家建付地の価額の算定に当たって、上記ロの(ホ)のAのとおり、個別的要因の格差修正率をマイナス20パーセントと判断しているが、その根拠が不明であり、また、算定した基準となる資料の提出がなく、その適否を判断することができない。
B B宅地について
(A)取引事例比較法に採用された4件の取引事例のうち、(1)B宅地に係る取引事例X2及びB宅地に係る取引事例X3(以下「B宅地取引事例X3」という。)は、その用途地域が住居地域であり、B宅地の用途地域(準工業地域)と異なっていること、(2)B宅地に係る取引事例X1は、同族法人とその株主との間の特殊関係者間売買と認められ、B宅地の取引事例としては不相当なものと認められること及び(3)B宅地取引事例X3は、地域要因の格差補正に係るその他の条件の用途多様性が20ポイント優れているとしているが、このような格差を具体的に査定した基準となる資料の提出がなく、その根拠が不明であり、この補正の内容は疑問であることから、これらの取引事例は、B宅地の価額を算定するための比準対象としては不適当なものと認められる。
(B)取引事例比較法に基づいて比準価格は、公示価格(地価公示法(昭和44年6月23日法律第49号)第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地(以下「公示地」という。)の1平方メートル当たりの価格をいう。以下同じ。)を規準とした価格(以下、基準地価格を規準とした価格と併せて「規準価格」という。)との均衡も保たれているとしている。しかし、その規準価格の算定に当たっては、住居地域に所在する公示地を採用しており、この公示地は、B宅地の用途地域と異なる地域区分のものであるから、B宅地の規準対象としては不適当なものと認められる。
C C宅地について
(A)C宅地については、B宅地と同様に、採用した取引事例及び公示地は比準対象及び規準対象としては不適当なものと認められる。
(B)請求人鑑定書では、底地価格の算定に当たって、上記ロの(ホ)のCのとおり、「地域の慣行底地権割合」を20パーセントから30パーセントと判断しているが、その根拠が不明であり、また、底地権割合を25パーセントと算定した基準となる資料の提出がなく、その適否を判断することができない。
D D宅地について
(A)取引事例比較法に採用された3件の取引事例は、いずれもD宅地の用途地域(商業地域)と異なる地域区分である準工業地域(2件)あるいは住居地域(1件)のものであり、これらの取引事例は、D宅地の価額を算定するための比準対象としては不適当なものと認められる。
(B)また、規準価格の算定に当たり、住居地域に所在する公示地を採用しているが、この公示地は、D宅地の用途地域と異なる地域区分のものであるから、D宅地の規準対象としては不適当なものと認められる。
(ハ)以上のとおり、請求人鑑定評価額には、種々の不的確な点が認められることから、請求人鑑定評価額は、本件課税時期における本件宅地の相続税法第22条に規定する時価を表しているものとは認められない。
 したがって、請求人らの主張・立証をもって、自ら記載した申告内容が真実に反するものであること及び本件宅地の価額(時価)が路線価を下回ることが立証されたことにはならないといわざるを得ない。
ホ 原処分庁は、原処分庁鑑定評価額はいずれも本件宅地の本件更地価額を上回っており、かつ、別表3に記載したとおり、原処分庁鑑定評価額を基に評価基本通達に基づく減額割合を乗じて算出した本件宅地の価額は、いずれも本件宅地の相続税評価額を上回っている旨主張する。
 しかしながら、原処分庁から提出された鑑定評価書の写しには、その鑑定を行った不動産鑑定士の氏名が明らかにされていないところ、一般的にこのような証明書等の書類は、誰がどのような立場で作成したかが重要であると考えられることから、原処分庁が提出した鑑定評価書の写しを、本件宅地の時価を証明する証拠資料として採用することはできない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
ヘ そこで、当審判所において、本件宅地と同一の用途地域内にある取引事例等を別表8のとおり抽出し、これらの現地確認を行い、土地価格比準表に準じて地域要因及び個別的要因の格差補正を行い、本件課税時期における本件宅地の価額を算定したところ、次のとおりである。
(イ)A宅地の価額
A A宅地の所在する近隣地域内の幅員7メートルの公道に接面する間口13メートル、奥行23メートル程度の画地を標準的画地として想定し、この標準的画地の価格を、別表8の甲取引事例及び乙取引事例並びに本件基準地を基に、次のとおり算定した。
(A)甲取引事例からの比準価格は、別表9のとおり、1平方メートル当たり14,859,978円となる。
(B)乙取引事例からの比準価格は、別表9のとおり、1平方メートル当たり13,294,809円となる。
(C)本件基準地からの規準価格は、別表9のとおり、1平方メートル当たり11,298,222円となる。
(D)上記2つの比準価格の平均値並びに規準価格を基に、次の算式により、標準的画地の価格を1平方メートル当たり12,688,000円と算定した。
[[1平方メートル当たりの比準価格の平均値]14,859,978円+13,294,809円÷2+[1平方メートル当たりの規準価格]11,298,222円]×(1÷2)=約[1平方メートル当たりのの標準的画地の価格]12,688,000円
(E)上記の比準価格及び規準価格を算定する際の取引価格等の時点修正については、本件基準地価格を基に平成3年7月1日から平成4年7月1日までの地価下落及び平成4年7月1日から平成5年7月1日までの地価下落がそれぞれ月々平均的なものであったとして計算した。
B A宅地は、A宅地の所在する近隣地域の標準的画地と比較して、間口が狭小であるという個別的要因の格差が認められるので、次のとおり、標準的画地の価格に格差修正率を乗じて1平方メートル当たりの価格を12,307,360円、自用地とした場合の価額を2,637,085,719円と算定した。
[1平方メートル当たりの標準的画地の価格]12,688,000円×(格差修正率)0.97=[1平方メートル当たりの価額]12,307,360円
[1平方メートル当たりの価額]12,307,360円×(地積)214.269平方メートル=[自用地とした場合の価額]2,637,085,719円
C 次に、上記イの(イ)のEのとおり、A宅地は貸家建付地であり、上記ニの(ロ)のAの(B)のとおり、請求人鑑定書の個別的要因の格差修正率には根拠がなく、評価基本通達は、課税の公平を図るために、経験則又は売買実例や精通者の意見価格等を基にして評価すべき財産の実態に則した具体的な評価方法を定めており、A宅地の貸家建付地としての減額割合を評価基本通達に基づくマイナス24パーセントとして算定することに、特に不相当であるとする理由は認められない。
 そうすると、A宅地の貸家建付地としての価額は、次のとおり算定される。
[自用地とした場合の価額]2,637,085,719円×([借地権割合]1−0.8×[借家権割合]0.3)=[貸家建付地としての価額]2,004,185,146円
D ところで、評価基本通達を定めている趣旨等は上記ニの(イ)において述べたとおりであり、その土地の価額が評価基本通達に基づく画一的な評価方式による相続税評価額を下回らない限りにおいて、課税実務上、土地の価額は相続税評価額によることとされている。そうすると、このような課税実務の下では、各納税者間の課税の公平の面からも、A宅地については、その価額を相続税評価額を超える価額とするのは適当ではなく、相続税評価額をその土地の価額とするのが相当である。したがって、A宅地の価額を上記Cで算定された価額とするのは相当ではなく、請求人らが本件申告書に記載したA宅地の相続税評価額を1,675,946,122円と算定していることに誤りも認められないから、A宅地の価額を1,675,946,122円とするのが相当である。
E また、原処分庁は、A宅地については本件課税時期の約5か月後に実際に売買された事実があり、当該売買の時期と本件課税時期との期間が短いことから、その売買価額を本件課税時期に時点修正した価額をA宅地の価額とすべき旨、一方、請求人らは、A宅地の価額は本件課税時期においても売却時点の価額と変わらないはずであり、原処分庁が採用したA宅地の価額の算定方法は、地価の下落についての事実誤認がある旨主張する。
 しかしながら、当審判所が採用したA宅地の価額の算定方法は、上記AないしCで示したとおり、A宅地の同一の用途地域内の取引事例の価格及び基準地価格を基に土地価格比準表に準じて比準価格及び規準価格を求めるなど客観性及び合理性が極めて高いものとなっており、これと異なる原処分庁及び請求人らの主張する算定方法は、A宅地の価額の算定方法としては適当ではないから、この点に関する原処分庁及び請求人らいずれの主張も採用することはできない。
(ロ)B宅地の価額
A B宅地の所在する近隣地域内の幅員5メートルの公道に接面する間口9メートル、奥行17メートル程度の画地を標準的画地として想定し、この標準的画地の価格を、別表8の丙取引事例及びP市S町2丁目20番13号(住居表示)に所在する公示地番号W7−2で表示される公示地(以下「公示地W7−2」という。)を基に、次のとおり算定した。
(A)丙取引事例からの比準価格は、別表10のとおり、1平方メートル当たり1,943,617円となる。
(B)公示地W7−2からの規準価格は、別表10のとおり、1平方メートル当たり2,191,351円となる。
(C)上記の比準価格及び規準価格を基に、次の算式により、標準的画地の価格を1平方メートル当たり2,067,000円と算定した。
[[1平方メートル当たりの比準価格]1,943,617円+[1平方メートル1当たの規準価格]2,191,351円]×(1÷2)=約[1平方メートル当当たりの標準的画地の価格]2,067,000円
(D)上記の比準価格及び規準価格を算定する際の取引価格等の時点修正については、公示地W7−2が平成5年の地価公示において新設された公示地であるため、B宅地及び公示地W7−2と用途地域が同一である準工業地域のP市Y町4丁目5番12号(住居表示)に所在する公示地番号W7−1で表示される公示地(以下「公示地W7−1」という。)の公示価格を基に平成3年1月1日から平成4年1月1日までの地価下落及び平成4年1月1日から平成5年1月1日までの地価下落が、それぞれ月々平均的なものであったとして計算した。
B B宅地は、B宅地の所在する近隣地域の標準的画地と比較して、奥行が長く、かつ、間口距離に対する奥行距離の値が大きいという個別的要因の格差が認められるので、次のとおり、標準的画地の価格に格差修正率を乗じて1平方メートル当たりの価額を1,924,377円と算定した。
[1平方メートル当たりの標準的画地の価格]2,067,000円×(格差修正率)0.931=[1平方メートル当たりの価額]1,924,377円
C ところで、B宅地は、上記イの(イ)のEのとおり、その一部は貸家建付地であり、上記(イ)のCと同様に評価基本通達の定めに基づきB宅地の貸家建付地の価額を算定すると、次のとおり219,520,669円となる。
(A)自用地部分の価額
[1平方メートル当たりの価額]1,924,377円×(地積)72.05平方メートル=[自用地部分の価額]138,651,362円
(B)貸家建付地部分の価額
[1平方メートル当たりの価額]1,924,377円×(地積)144.397平方メートル=[自用地とした場合の価額]277,874,265円
[自用地とした場合の価額]277,874,265円×(1−[借地権割合]0.7×[借家権割合]0.3)=[貸家建付地としての価額]219,520,669円
(ハ)C宅地の価額
A C宅地は、B宅地に隣接しており、C宅地の所在する近隣地域の標準的画地の価格はB宅地と同様の1平方メートル当たり2,067,000円と認められる。
B C宅地は、標準的画地の価格の形成要因と比較して、奥行が長いという個別的要因の格差が認められるので、次のとおり、標準的画地の価格に格差修正率を乗じて1平方メートル当たりの価格を1,963,650円、自用地とした場合の価額を546,980,598円と算定した。
(標準価格)2,067,000円×(格差修正率)0.95=[1平方メートル当たりの価額]1,963,650円
[1平方メートル当たりの価額]1,963,650円×(地積)278.553平方メートル=[自用地とした場合の価額]546,980,598円
C ところで、C宅地は、上記イの(イ)のEのとおり、貸宅地であり、上記ニの(ロ)のCの(B)のとおり、請求人鑑定書の底地権割合にはその根拠がなく、評価基本通達に定める評価方法については、上記(イ)のCと同様のことから、C宅地の貸宅地としての価額は、評価基本通達に基づき算定すると次のとおりとなる。
[自用地とした場合の価額]546,980,598円×(1−[借地権割合]0.7)=[貸宅地としての価額]164,094,179円
(ニ)D宅地の価額
A D宅地の所在する近隣地域内の幅員2メートルの私道に接面する間口4メートル、奥行7メートル程度の画地を標準的画地として想定し、この標準的画地の価格は、別表8の丁取引事例及びP市S町3丁目10番4号(住居表示)に所在する基準地番号W5−3で表示される基準地(以下「基準地W5−3」という。)を基に、次のとおり算定した。
(A)丁取引事例からの比準価格は、別表11のとおり、1平方メートル当たり1,779,115円となる。
(B)基準地W5−3からの規準価格は、別表11のとおり、1平方メートル当たり1,973,067円となる。
(C)上記の比準価格及び規準価格を基に、次の算式により、標準的画地の価格を1平方メートル当たり1,876,000円と算定した。
[[1平方メートル当たりの比準価格]1,779,115円+[1平方メートル当たりの規準価格]1,973,067円]×(1÷2)=約[1平方メートル当たりの標準的画地の価格]1,876,000円
(D)上記の比準価格及び規準価格を算定する際の取引価格等の時点修正については、基準地W5−3の基準地価格を基に平成4年7月1日から平成5年7月1日までの地価下落が月々平均的なものであったとして計算した。
B D宅地は、D宅地の所在する近隣地域の標準的画地の価格の形成要因と比較して、セットバックを要する部分があるという個別的要因が認められるので、次のとおり、標準的画地の価格に格差修正率を乗じて1平方メートル当たりの価格を1,688,400円と算出した。
[1平方メートル当たりの標準的画地の価格]1,876,000円×(格差修正率)0.90=[1平方メートル当たりの価額]1,688,400円
C ところで、D宅地は、上記イの(イ)のEのとおり、貸家建付地である、上記(イ)のCと同様に評価基本通達の定めに基づきD宅地の価額を算定すると、次のとおり34,474,324円となる。
[1平方メートル当たりの価額]1,688,400円×(地積)25.846メートル平方メートル=[自用地とした場合の価額]43,638,386円
[自用地とした場合の価額]43,638,386円×(1−[借地権割合]0.7×[借家権割合]0.3)=[貸家建付地としての価額]34,474,324円

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(2)本件通知処分について

 以上の結果、本件宅地の相続税の課税価格に算入される金額は、A宅地については1,675,946,122円に小規模宅地等の特例を適用して計算した580,909,244円、B宅地のうち自用地部分については138,651,362円、同貸家建付地部分については219,520,669円、C宅地については164,094,179円及びD宅地については34,474,324円となり、これに基づきF及びJの相続税の課税価格及び納付税額を算定すると、別表12のとおりとなるから、Fに対する本件通知処分は、その一部を取り消すべきであり、また、Jに対する本件更正処分もその一部を取り消すべきである。
 また、Kは、本件通知処分の全部取消しを求める本件審査請求をしているが、同人に対する異議決定後の納付すべき税額は15,959,100円であり、本件更正の請求に係る請求額17,315,200円を下回るものである。
 したがって、Kは、その処分の取消しを求める利益はなく、本件審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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