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(平10.2.26裁決、裁決事例集No.55 43頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であって不動産賃貸業を営む者であるが、平成7年分及び平成8年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年7月3日付で別表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年9月2日に審査請求をした。

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正通知書の送達方法について
 請求人は、原処分庁に対して、更正通知書を送達してくるのであれば郵便で送達するよう連絡していたにもかかわらず、原処分庁は、請求人が自宅にいないことを承知の上、各年分の更正通知書(以下「本件通知書」という。)を差置送達により送達してきた。
 このような送達の方法は、交付送達の要件を充足していない無効な送達であるから、本件通知書も無効なものである。
ロ 更正処分について
 仮に、本件通知書が適法に送達されたものであるとしても、各年分の更正処分は、次のとおり違法である。
(イ)請求人は、Y市Z町33―20所在の建物(以下「本件建物」という。)を平成5年3月から賃貸し、当該建物の管理業務を株式会社N(以下「N社」という。)に委託し、管理料を支払っていた。
 また、平成7年1月からは、N社に委託した以外の業務をH株式会社(以下「H社」という。)に委託し、管理料(以下「本件管理料」という。)を支払っていたところ、原処分庁は、本件管理料は請求人の不動産所得を生ずべき業務について生じた費用とは認められないとして、各年分の更正処分を行った。
(ロ)しかしながら、本件管理料は、請求人とH社との受託契約(以下「本件契約」という。)に基づき支払ったものであり、またH社においても益金に計上されているのであるから、本件管理料は必要経費として算入されるべきものである。
 なお、本件管理料の全額が必要経費に算入されないとしても、現実にH社から本件契約に係る業務(以下「本件契約業務」という。)に関し役務の提供を受けているのであるから、本件管理料の一部でも必要経費に算入すべきである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記ロのとおり、各年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正通知書の送達方法について
 原処分に係る調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件通知書を交付送達するために請求人の納税地である自宅に赴いたが、請求人及びその家族が不在であったことから、国税通則法(以下「通則法」という。)第12条《書類の送達》第1項及び第5項の規定に従い本件通知書を差置送達という方法で送達しており、本件通知書の送達は適法に行われている。
 なお、請求人は、更正通知書を送達するのであれば郵便により送達するよう連絡していた旨主張するが、書類の送達に当たり、納税者にその送達方法についての承諾を得なければならない旨の法令上の規定はなく、請求人から郵便により送達するよう連絡を受けていた場合に交付送達を行えないというものではないから、原処分は適法である。
ロ 更正処分について
 請求人は、本件管理料は本件契約に基づき支払ったものであり、必要経費に算入されるべきである旨主張するが、次の理由により、本件管理料は、所得税法第37条《必要経費》第1項に規定する必要経費に算入することはできない。
(イ)本件契約業務とは、(a)週1回の見回り点検業務、(b)Y地区商店街及び近隣との外交業務、(c)N社とのすべての交渉業務及び(d)その他の業務であるが、次のとおり、その業務内容から判断しても本件契約を締結する必要性が認められない。
A 本件契約業務のうち、週1回の見回り点検業務については、N社に業務委託した清掃及び保守点検業務において、十分可能なものである。
B 本件契約業務のうち、上記A以外の業務については、請求人個人の責任と判断において行われるべき性質のものである。
(ロ)H社は、請求人が株式総数の50パーセント以上を保有し、請求人の夫であるKが代表取締役を、また、請求人自身が取締役を務める法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
(ハ)以上のことから、本件契約はH社が同族会社であるがゆえに締結されたものと認められ、H社が本件契約業務を行っているとは認められず、これらの業務はKが家主としての請求人に代わって行っているものと認められるから、各年分の更正処分はいずれも適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記ロのとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由が認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った各年分の過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、更正通知書の送達方法の適否及び本件管理料の必要経費算入の適否にあるので、以下審理する。

(1)更正通知書の送達方法について

 請求人は、本件通知書の送達は交付送達の要件を充足していない無効な送達であるから本件通知書も無効である旨主張するので、当審判所において原処分庁の送達記録書を確認したところ、本件通知書は、平成9年7月3日午前10時30分に原処分庁の調査担当職員外1名が請求人の自宅に持参したが、不在であったことから請求人の自宅玄関の郵便受に差し置く方法で送達したことが記録されている。
 ところで、書類の送達は必ずしも郵便による送達でなければならないものではなく、その送達を郵便によるか、あるいは交付によるかは、税務署長の判断にゆだねられていると解され、また、その選択についても、あらかじめ納税者の承諾を得なければならない旨を定めた法令上の規定はなく、納税者から郵便による送達の依頼を受けていた場合に税務署長が交付送達を行えないというものではない。
 したがって、本件通知書が交付送達により送達されたとしても、何ら違法とはいえず、また、本件通知書は、請求人が自宅にいなかった結果、やむなく差置送達という方法により送達されたものと認められ、その送達も通則法第12条第5項第2号の規定に基づき適法に行われており、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

 請求人は、本件管理料は本件契約に基づき支払ったものであり、必要経費に算入されるべきである旨主張するので、以下審理する。
イ 請求人の答述、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)H社は、請求人が株式総数の50パーセント以上を所有する同族会社であり、Kが代表取締役を、また、請求人が取締役を務めている。
(ロ)請求人とH社との間に締結された平成7年1月10日付受託契約書には、委託業務として、(a)週1回の見回り、点検業務、(b)Y地区商店街及び近隣との外交業務、(c)N社とのすべての交渉業務及び(d)その他と記載されている。
(ハ)N社に対する委託業務の内容は、(a)管理警備業務、(b)交渉業務、(c)集金業務、(d)清掃業務、(e)保守点検業務及び(f)修繕業務と認められるが、契約書は作成されていない。
(ニ)本件管理料は、各年分とも6,000,000円(月額500,000円)であり、H社の平成7年1月1日から平成7年12月31日まで及び平成8年1月1日から平成8年12月31日までの各事業年度の雑収入として益金の額に計上されている。
(ホ)H社の平成7年1月1日から平成7年12月31日まで及び平成8年1月1日から平成8年12月31日までの各事業年度においては、本件契約業務を履行するために要した費用の計上はない。
(ヘ)N社への各年分の支払管理料は、平成7年分が1,278,380円、平成8年分が1,244,390円であり、これらの金額は家賃・共益費の10パーセント相当額である。
(ト)N社は不動産管理を専門にしている法人であり、また、H社はポロシャツ等の繊維縫製業を営む法人である。
 なお、H社の定款には、不動産管理業は記載されていない。
(チ)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 本件建物は、S市R町に建物を売却したことに伴い取得したものであるが、請求人に不動産管理に関する知識がないことから、購入物件の選択、交渉等をはじめ全ての業務をH社に任せていた。
B 本件管理料は、従業員一人雇用すれば年額6,000,000円程度必要と考え決定したものである。
(リ)H社のKは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 本件契約業務とは、具体的に次のとおりである。
(A)週1回の見回り点検業務とは、敷地の草刈り、自転車置き場の整理及びN社が行った業務の履行確認である。
(B)Y地区商店街及び近隣との外交業務とは、半年に1回の商店街会費の納入である。
(C)N社とのすべての交渉業務とは、入居者の確保依頼及び家賃の額の決定である。
(D)その他の業務とは、資金管理及び経営全般に関する知的判断業務である。
 なお、これらすべての業務は、代表取締役であるKが一人で行っており、他の従業員(男女各2名)には従事させていない。
B 本件契約に基づく業務を行ったことを確認できる資料はなく、請求人への報告についても全て口頭により行っている。
(ヌ)N社の取締役部長Tは、調査担当職員に対し、本件建物の管理については家主的感覚で行っている旨申述している。
ロ ところで、所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、不動産所得の総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定されており、また、「業務について生じた費用」とは、業務との関連性が要求されるとともに、かつ、業務の遂行上必要な支出であることを要し、さらにその必要性の判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるのではなく、客観的に必要経費として認識できるものでなければならないと解される。当該支出が必要経費に該当するということは、結果的には請求人に有利な事実であり、かつ、これらの費用に関する証拠資料については、請求人が収集しやすい立場にあることから、請求人において当該支出が単に必要経費に該当すると主張するのみではなく、それが必要経費に該当することをある程度合理的に推認できるに足りる具体的立証を行わない限り、当該支出は必要経費に該当しない。
ハ 前記イの事実を上記ロに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件管理料は本件契約に基づき支払ったものであり、また、H社においても益金に計上しているのであるから、本件管理料は必要経費に算入されるべきものである旨主張する。
 しかしながら、本件契約業務の具体的内容を検討すると、(a)N社との交渉業務等を含む経営全般に関する知的判断業務について、請求人は、H社の代表取締役であるKが当該業務を行っていたと主張するが、当該業務は、請求人個人の責任と判断において行うべき性質のものであり、また、当該業務を履行したとする客観的な資料もなく、(b)その他の業務については、当初から委託しているN社への委託業務において十分可能であり、当該業務をH社に委託する必要性が認められないこと、また、H社がこれらの業務を行ったことを認めるに足りる証拠がないこと、さらにH社においても当該業務を履行するために要した費用の計上も認められないことから判断すると、H社との本件契約業務は、本件不動産賃貸業の遂行上必要な業務とは認められず、かつ、履行したとする客観的な証拠も認められないことから、請求人が本件契約に基づき本件管理料を支払ったとしても、本件管理料は所得税法第37条第1項に規定する必要経費には算入されない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)次に、請求人は、現実にH社から役務の提供を受けているのであるから、本件管理料の一部でも必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件管理料は必要経費に算入されないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件管理料は必要経費に算入されないとした各年分の更正処分は適法である。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各年分の更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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