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(平10.5.15裁決、裁決事例集No.55 108頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社員であるが、平成6年分の所得税について、確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年11月6日付で、次表の「当初更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件当初更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成8年12月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年2月25日付で棄却の異議決定をした。
 次いで、原処分庁は、平成9年2月28日付で、次表の「再更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件再更正処分」といい、本件当初更正処分と併せて「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」といい、本件重加算税賦課決定処分と併せて「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人は、異議決定を経た後の本件当初更正処分及び本件重加算税賦課決定処分に不服があるとして、平成9年3月25日に審査請求をするとともに、同日に本件再更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分に不服があるとして、異議決定を経ないで審査請求をした。
 なお、本件再更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分に対する審査請求は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第3号に規定する「異議申立てをしないで審査請求をすることにつき正当な理由があるとき」に該当する審査請求と認められるので、本件更正処分及び本件賦課決定処分について審理する。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は次のとおり違法であるので、その一部を取り消すべきである。
 原処分庁は、請求人がP市y町一丁目1092番7所在の宅地77.64平方メートル(以下「本件土地」という。)及び本件土地上所在の家屋番号1092番の7の建物(床面積67.89平方メートル、以下、「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を平成6年3月に33,000,000円でP市w町25番1のS(以下「S」という。)へ譲渡したものとして本件更正処分を行っているが、請求人は、次のとおり平成4年10月12日に本件土地建物を株式会社G(以下「G社」という。)に対し14,000,000円で譲渡したものである。
 なお、不動産所得に係る部分については争わない。
(イ)請求人は、平成4年10月12日に本件土地建物をG社へ14,000,000円で譲渡する(以下、この譲渡を「本件第一取引」という。)契約をし、同日付で契約書(以下「本件第一契約書」という。)を作成した。
 G社の代表取締役であるT(以下「T」という。)が、本件第一取引に係る手付金2,800,000円を支払った後、残金を支払わなかったため、請求人がTに対して本件第一取引の解除を申し込んだところ、Tはこの解除に応ぜず、T自らが取引の当事者となって利益を得ることを目的として本件土地建物を平成6年3月にSへ譲渡する(以下、この譲渡を「本件第二取引」といい、本件第一取引と併せて「本件各取引」という。)契約をし、契約書(以下「本件第二契約書」という。)を作成したものである。
 本件第二取引の当事者はTであるので、当初は、請求人とTの2人で取引の決済のためn地へ行く予定であったが、Tの体調が悪くなったため、やむを得ず請求人が1人でn地へ行き、本件第二取引の決済を行ったものである。
 なお、請求人は、Sから受領した本件第二取引の売買代金33,000,000円のうちから本件第一取引の残金11,200,000円を受領しただけであり、残額はTに現金で渡している。
(ロ)請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)から、Tが調査担当職員に納税義務が生じると指摘されたため、「請求人に依頼されて仮装売買をしたものであり、請求人が納税義務を負担すべきである」との申述をしたということを聞かされた。
 そこで、請求人は、Tに対して告訴の手続をとる旨伝えたところ、Tは本件第一取引の契約を結んだ後、G社がおかしくなり残金が払えなくなったため、Tが本件第二取引を行った上、譲渡代金も受領し、当該代金をもって本件第一取引の残金を請求人に支払ったものである旨を記載した平成8年10月28日付の書面(以下「本件甲書面」という。)及び請求人あての本件第二取引に係る差額代金20,700,000円を受領した旨の受取証(以下「本件受取証」という。)を作成して申述まで一変している。
 このようなTの申述には信用性がないのにもかかわらず、原処分庁は、Tの申述を一方的、感情的に強弁しているだけで、事実関係を十分に確認していない。
 なお、原処分庁がTの申述を得たのであるならば、当然Tに署名押印させた書面を作成するべきであるのに、原処分庁はそれを作成していない。
(ハ)原処分庁は、Tの「本件第二取引は、請求人に依頼されて売主になったもので、現金も受領していないので、仮装売買である」との申述を基に、本件第二取引は請求人が行ったものと認定しているが、本件第二取引は、個人対個人の取引ではなく不動産会社が仲介しており買主は住宅ローンを利用して購入している上、本件第二契約書は、契約書の要件が具備されているのにもかかわらず、なぜTが上記のような申述をしているのか合理的な理由が不明である。
(ニ)会社を経営していたTは、過去に幾多の不動産取引を経験しており、契約を締結するということは自己責任の原則に基づき、税法上においても義務を負担するということを十分に予見できる知識を有しているはずであり、請求人に依頼されたというだけで仮装売買の当事者になることは不自然である。
(ホ)原処分庁は、本件第一契約書にちょう付された20,000円の収入印紙(以下「第一契約書収入印紙」という。)及び平成4年10月12日に請求人が作成し、Tに交付した手付金2,800,000円の領収証(以下「手付金領収証」という。)にちょう付された2,000円の収入印紙(以下、「手付金収入印紙」といい、第一契約書収入印紙と併せて「本件各収入印紙」という。)が平成5年11月1日以後に発売されたものであることを理由として本件第一取引が仮装売買である旨主張するが、次のとおり、原処分庁の主張には理由がない。
A 本件第一取引は、Tの主導の下に行われているため、Tの利害を無視することができず、平成4年10月12日という期日を厳守する必要性があった。
B 本件第一取引当日には、収入印紙は用意されていなかったが、Tが(a)契約書に収入印紙をちょう付しなくても契約が無効になることはないこと及び(b)後日、本人の意思により印紙税法に違反することがないように対処すればよいことを繰り返し主張するので、請求人は、請求人の意向に反してはいるが、やむを得ず不透明な取引形態にて本件第一取引を行った。
 しかし、正常な取引形態を維持するため及び印紙税法違反を防止する必要があったため、後日、Tに第一契約書収入印紙のちょう付とTの印鑑の押印をお願いしたものである。
C 原処分庁は、契約締結と収入印紙のちょう付は表裏一体であるという契約哲学を有しているが、それは契約関係法令を歪めた解釈である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分のうち、本件重加算税賦課決定処分の全部及び本件過少申告加算税賦課決定処分の一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 次のとおり、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、いずれも適法に行われており、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成7年3月3日に原処分庁に申告相談のため来訪し、職員に、売主を請求人、買主をT(ただし、買主としての署名押印はG社代表取締役Tとしてのものである。)とする本件第一契約書、手付金領収証の写し及び平成6年5月12日付の11,200,000円の領収証(以下「残金領収証」という。)の写し並びに本件土地建物を14,500,000円で購入した際の不動産売買契約書を提示した上で、本件土地建物の譲渡価額は14,000,000円で、譲渡所得の金額の計算の基礎となる本件土地及び本件建物の取得費はそれぞれ8,661,100円及び4,304,500円で、譲渡費用は73,600円である旨申し述べ、同日、これと同旨の「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(以下「本件お尋ね」という。)を提出し、同月10日に本件お尋ねに記載された計算結果に基づいた本件確定申告書を原処分庁に提出したこと。
B 本件第一契約書は、平成4年10月12日付で作成されており、売買価額は14,000,000円、そのうち手付金2,800,000円は契約書作成日に支払う、残金11,200,000円は引渡完了とともに支払う旨記載されていること。
C 本件土地の登記簿謄本によれば、平成6年5月12日に同日売買を原因として請求人からSへ所有権移転登記が行われたこと。
D 売主をT(ただし、売主としての署名押印はG社代表取締役Tとしてのものである。)、買主をS、仲介人を株式会社H(以下「H社」という。)及びF社とする本件第二契約書は、平成6年3月25日付で作成されており、売買価額は33,000,000円、代金全額を平成6年実行日までに支払う旨記載されていること。
E 請求人名義のJ銀行t支店の普通預金(口座番号×××××××、以下「本件J口座」という。)及びK銀行V支店の普通預金(口座番号×××××××、以下「本件K口座」という。)に入金されたもののうち次表記載のもの及び請求人が他の土地建物の購入代金の一部の支払に充てた9,900,000円の郵便小切手(以下「本件郵便小切手」という。)についてはいずれもその資金源が明らかでないこと。

年月日金額金融機関名
平成6年5月18日3,500,000円J銀行t支店
平成6年5月30日1,000,000円J銀行t支店
平成6年6月2日3,000,000円J銀行t支店
平成6年6月3日3,000,000円J銀行t支店
平成6年6月20日2,600,000円K銀行V支店
平成6年6月24日4,900,000円K銀行V支店
平成6年7月1日2,300,000円K銀行V支店
平成6年8月17日1,100,000円K銀行V支店
平成6年8月31日2,000,000円K銀行V支店
23,400,000円

F 請求人は、調査担当職員の質問に対し、(a)本件第一契約書に係る手付金は、平成4年10月12日に受領できず、本件第二契約書に係る売買代金33,000,000円は、平成6年5月12日にK銀行P支店でSから全額現金で受け取り、第一契約書に係る売買代金14,000,000円を控除した19,000,000円を同日から一週間以内にTに支払った旨及び(b)Tが原処分庁に対して「請求人の依頼によって平成6年に本件第一契約書及び本件第二契約書に署名押印したもので、本件土地建物の譲渡代金を受領した事実はない」と申述しているというが、Tが申述しているような事実はなく、請求人は本件第二契約書に係る売買代金をTに支払っており、この点については、Tから原処分庁に対して文書で回答させる旨の申述をしたこと。しかし、上記Eの現金入金及び本件郵便小切手の資金源については、明確な回答をしなかったこと。
G Tは、調査担当職員の質問に対し、(a)G社が平成5年に倒産していたことから、同社が本件土地建物を取得して譲渡したことにしてほしい旨の請求人からの依頼を受け、平成6年に本件第一契約書及び本件第二契約書に署名押印したものであり、本件土地建物の所在地へ行ったことはなく、譲渡代金の受領も一切なく、400,000円から500,000円の礼金を受領したのみであると平成8年9月24日に申述していること、(b)平成8年9月27日に上記Fの(b)の申述をしたことについて、請求人から、G社が赤字であるのになぜTの方で処理してくれなかったのかと言われたこと及び(c)平成8年10月31日に上記Fの(a)の請求人の申述の趣旨に沿う平成8年10月28日付の本件甲書面を原処分庁に提出したが、これは請求人から依頼されて請求人の下書きどおりに作成したものであり、事実は上記(a)のとおりである旨を申述していること。
H 本件第二契約書にF社の代表者として署名しているW(以下「W」という。)は、調査担当職員の質問に対し、(a)当初、請求人から本件土地建物を売却したい旨の依頼があったこと、(b)請求人を売主とした契約書を作成する予定であったが、請求人の都合によって契約が予定より約1か月遅れ、その間に売主を請求人からG社に変更したい旨の依頼があったこと、(c)F社は売主の代理人として本件第二契約書の作成に関与し、仲介手数料1,081,500円を受領したこと及び(d)請求人とは代金決済時に初めて会ったがTとは会ったことはない旨申述していること。
I Sは、調査担当職員の質問に対し、当初は請求人を売主として契約書を作成する予定であったが、請求人の都合によって契約が予定より約1か月遅れ、その間に売主がG社に変更になり、また、譲渡代金は請求人の依頼によって全額現金としたものであり、K銀行P支店で支払った旨及び請求人とは代金決済時に初めて会ったがTと会ったことはない旨申述していること。
J 請求人は、本件土地建物を平成元年6月から平成6年3月まで社団法人E協会n支部(以下「E協会」という。)に賃貸し、賃貸料収入を得ていたこと。
K 本件各収入印紙は、いずれも平成5年10月12日付大蔵省告示第218号によって平成5年11月1日から発売されたものであり、平成4年10月12日においては発売されていないこと。
(ロ)上記(イ)の事実に基づき判断すれば次のとおりである。
A 請求人は、本件土地建物をG社に14,000,000円で譲渡したものである旨主張するが、(a)本件第一契約書の作成日付である平成4年10月12日ころに手付金を含め売買代金の授受が全くなされなかったこと、(b)T、W及びSの申述を総合すると、本件土地建物の売買は平成6年に入って請求人が売却する意思を表示したことから具体化したものであること及び(c)売買代金の総額に相当する上記(イ)のEに記載した資金の動きについても請求人がなんらの明確な説明をしなかったことが認められ、これと異なる請求人の申述は他の資料と対比して信ずることができないから、請求人が本件土地建物をG社に譲渡したものとは認められず、請求人が直接Sに33,000,000円で譲渡したものであると認めるのが相当である。
B 請求人は、本件第二取引はG社が行ったものであり、不動産業者が媒介していること、買主が住宅ローンを利用していること及びTが不動産取引の契約に関する十分な知識を有していることから、同人が請求人から依頼されただけで仮装売買の当事者になることは不自然であり、また、請求人がTに告訴の手続をとる旨伝えたところ同人は原処分庁に対する申述を変更しており、同人の申述は信ぴょう性がなく、同人の申述に基づく課税は一方的な課税である旨主張する。
 しかしながら、不動産業者が媒介していること及び買主が住宅ローンを利用して本件土地建物を購入していることをもって、不動産の売買契約書に記載された売主が必ず当該不動産の真実の売主といえるものではなく、また、他の者から依頼されて仮装売買の当事者となった者が、不動産取引の契約に関する十分な知識を有しているからといってそのことだけでその者が仮装売買の当事者になり得ないわけでもなく、更に上記(イ)のGの(c)に記載したとおり、本件甲書面はTが請求人の依頼によって事実に基づかないで作成したものであり、Tの申述が変更されたものではないことから、請求人の主張にはいずれも理由がない。
C 請求人は、本件土地建物を平成4年10月12日にG社へ譲渡した旨主張する一方、Tは、上記(イ)のGの(a)に記載したとおり、本件第一契約書に署名押印した時期は平成6年である旨申述しており、また、上記(イ)のKの事実によれば、本件第一契約書及び手付金領収証は、本件各収入印紙の発行時期からみて、その作成日である平成4年10月12日に作成されたものとは認められず、これらの書類は、請求人が本件第一取引が存在したかのごとく仮装するために後日、日付をさかのぼらせて作成したものと認めるのが相当であり、この点からみても請求人の主張には信ぴょう性がなくTの調査担当職員に対する申述は事実に則したものと認められる。
 なお、契約書の作成日において収入印紙をちょう付していなければ契約が無効となるものではなく、契約書作成後に収入印紙をちょう付することもあり得るが、原処分庁は、本件第一契約書の作成日は平成4年10月12日である旨の請求人の主張とこれに相反するTの申述のどちらに信ぴょう性があるかについての判断をするための一要素として、本件各収入印紙の発売日が、本件第一契約書及び手付金領収証の作成日後である旨述べているのであり、契約締結と収入印紙のちょう付は表裏一体であるとは主張していない。
(ハ)分離長期譲渡所得の金額について
A 分離長期譲渡所得に係る総収入金額
 上記(ロ)のとおり、本件土地建物の譲渡に係る総収入金額は33,000,000円であると認められる。
B 取得費の額
 本件土地の取得費については、請求人が確定申告の基礎としていた金額が相当と認められるが、上記(イ)のJに記載した事実によれば、本件建物は平成元年6月から平成6年3月まで不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたと認められるから、分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件建物の取得費を本件お尋ねに記載された本件建物の取得費の額に基づき所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第2項の規定に従って計算すると別表1のとおりとなる。
 したがって、本件土地建物の取得費の額は、本件土地の取得費の額8,661,100円と本件建物の取得費の額3,959,489円の合計額である12,620,589円となる。
C 譲渡に要した費用の額
 請求人が本件確定申告書において譲渡費用に算入していた73,600円のうち、本件第一契約書、手付金領収証及び残金領収証にちょう付された収入印紙の代金42,000円及び本件土地建物の登記簿の請求人の住所を変更するための登記費用31,600円は、上記(ロ)で認定したとおり本件第一契約書に記載された取引があるとは認められないこと及び本件土地建物の譲渡とは無関係であることから、いずれも譲渡に要した費用に該当せず、また、上記(イ)のHに記載した仲介手数料1,081,500円は請求人がF社に支払ったと認めるのが相当であるから、これによって計算すると、本件土地建物を譲渡するために直接要した費用の額は1,101,500円となる。
D 特別控除額
 租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項及び第4項の規定に基づいて特別控除額を算定すると1,000,000円となる。
E 分離長期譲渡所得の金額
 上記AからDまでに述べたところから、請求人の分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次表のとおり18,277,911円となる。

(単位 円)
区分金額
収入金額(1)33,000,000
取得費の額(2)12,620,589
譲渡に要した費用の額(3)1,101,500
特別控除額(4)1,000,000
分離長期譲渡所得の金額
{(1)−((2)+(3))−(4)}
(5)18,277,911

(ニ)不動産所得の金額について
 請求人は、不動産所得の必要経費である減価償却費を95,131円と算定しているが、当該減価償却費は次表のとおり、74,243円が相当と認められる。

 したがって、請求人は不動産所得の損失の金額を32,004円と算定しているが、当該損失の金額は次表のとおり11,116円が相当と認められる。

(単位 円)
区分金額
収入金額(1)190,000
減価償却費(2)74,243
その他の経費(3)126,873
不動産所得の金額
((1)−(2)−(3))
△11,116

(ホ)住宅取得等特別税額控除額について
 以上の結果、請求人の平成6年分の合計所得金額(分離長期譲渡所得の金額については上記(ハ)のDによる特別控除額の控除前の金額となる。)は次表のとおり30,400,259円となるので、租税特別措置法第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項の規定によって平成6年分について同項に規定する住宅取得等特別税額控除額を控除することはできない。

(単位 円)
区分金額
不動産所得の金額(1)△11,116
給与所得の金額(2)11,133,464
分離長期譲渡所得の金額(3)19,277,911
合計所得金額
((1)+(2)+(3))
30,400,259

(ヘ)本件更正処分について
 以上のとおり、請求人の納付すべき税額は別表2の(19)欄のとおり4,383,900円となり、この金額の範囲内で行った本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(ロ)で述べたとおり、本件第一契約書記載の取引はなかったものと認めるのが相当であり、請求人が本件第一契約書、手付金領収証、残金領収証及び本件第二契約書を作成し、これに基づいて本件確定申告書を提出していたことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課決定要件を満たすことが明らかであるから、同項の規定に基づいて行った本件重加算税賦課決定処分は適法である。
 また、上記イのとおり本件更正処分は適法であり、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求については、本件土地建物に係る譲渡先及び譲渡価額に争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 本件土地建物の譲渡先及び譲渡価額について
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地建物について
(A)本件土地に係る不動産登記簿謄本によれば、平成6年5月12日受付で同日売買を原因として、請求人からSへ所有権移転登記がされていること。
(B)本件土地建物は、平成元年5月24日の契約で、平成元年6月1日から平成6年3月28日までの間、E協会へ賃貸されていたこと。
(C)請求人が原処分庁へ提出した平成4年分及び平成5年分の所得税の確定申告書並びに本件確定申告書の各申告書に添付された収支内訳書には、上記(B)の賃貸料収入は、請求人の不動産所得として記載されていること。
B 本件第一取引について
(A)請求人は、平成7年3月3日に原処分庁において申告相談を行った際に、本件第一契約書、手付金領収証及び残金領収証の各写し並びに本件お尋ねを原処分庁へ提出していること。
(B)本件第一契約書の内容等は、要旨次のとおりであること。
a 契約日は平成4年10月12日、売買物件は本件土地建物、売主は請求人、買主は株式会社G社代表取締役T、売買金額は14,000,000円、手付金は契約日に2,800,000円、残金11,200,000円は第3条の手続一切を完了すると同時に支払うものとする旨の記載がある。
b 第3条(売主の引渡義務)には、明渡し手続を完了して完全なる所有権の移転登記申請の手続を完了しなければならない旨の定めがあるが、その期限を示す年月日の欄は空欄となっている。
c 第5条(地積)には、土地の地積を登記簿によるのか実測によるのか等の記載がない。
d 第7条(収益及び負担の帰属)には、本物件より生じる収益若しくは本物件に対して賦課される公租公課等の負担はすべて第3条の引渡しの時を境として日割をもって精算するものとする旨記載されているが、上記bのとおり、引渡しの日の欄が空欄となっているため、当該境の日がいつであるか不明である。
e 第10条(失権約款)には、契約当事者の一方が本契約の一つたりとも違背したるときは、各々その違約したる相手方に対して所定の手続を経て本契約を解除することができる旨の記載がある。
f 第11条(違約金)には、本契約を解除する場合、売主の義務不履行に基づくときは売主は買主に対して既に領収済の手付金の倍額を支払わなければならず、また、買主の義務不履行に基づくときは買主は売主に対して既に支払済の手付金の返還を請求することができない旨の記載がある。
g 仲介人の欄は空欄となっている。
h 借家人について何ら触れていない。
(C)本件各収入印紙は、いずれも平成5年10月12日付大蔵省告示第218号によって公告され、平成5年11月1日から適用されたものであること。
C 本件第二取引について
(A)請求人が当審判所に提出した本件第二契約書の写しには、契約日は平成6年3月(日付の欄は空欄となっている。)、売買物件は本件土地建物、売主は株式会社G代表取締役T、買主はS、仲介人はH社、売買価格は33,000,000円、手付金はなく、残金は平成6年実行日までに支払う旨記載されていること。
(B)Sが原処分庁に提出した本件第二契約書の写しには、上記(A)に記載されている事項のほかに、契約書の作成日付が平成6年3月25日と記載され、仲介人欄の左側にF社の名称判及びWの印が押印されていること。
(C)Sは、平成8年12月18日に異議審理庁の担当職員に対して要旨次のとおり申述していること。
a Tについては知らないし、会ったこともない。本件第二取引の売買契約のときに初めて知った名前である。
b 請求人については、代金の支払に立ち会ったので知っている。
c 本件第二契約書は、H社の事務所で作成し、売主側は代理人のF社が、買主側はS及びH社が立ち会った。
d K銀行P支店で全額請求人に現金で支払うことにより、売買代金の決済をした。その際の立会人は請求人、請求人の妻、F社及びH社である。支払を現金にしたのは、売主側の依頼によるものである。
e 当初、本件第二取引の売買契約書は請求人との間で作成する予定であったが、請求人側の都合で契約が予定より約1か月遅れ、その間に契約の相手方がG社に変わった。
(D)Wは、平成8年9月9日に調査担当職員に対して本件第二取引の仲介手数料として請求人から1,081,500円を受領したことを申述し、さらに、平成8年12月19日に異議審理庁の担当職員に対して要旨次のとおり申述していること。
a Tについては会ったこともなく、知らない。
b 請求人からダイレクトメールにより本件土地建物を売買したい旨の依頼を受けた。
c 専任媒介契約書の契約者名は請求人であった。
d 媒介契約時にG社又はTの名前は一度も出なかった。
e 本件第二契約書を作成したときには、売主側は、請求人は立ち会わず、請求人の代理人F社が、買主側はSとH社が立会った。
f 代金決済の際の立会人は、請求人、請求人の妻、F社、H社及びSであり、請求人とはいつも電話で連絡を取っていたが、会ったのはそのときが初めてである。
g 当初は、売買契約書は請求人の名前で作成する予定であったが、請求人から突然、売るのを待ってほしい旨の話があり、契約が予定より1か月遅れた間に、請求人から売主をG社にしてほしいと頼まれた。
D 原処分庁は、Tから次の各書面を受理していること。
(A)平成8年9月24日にTが持参した同日付の書面で、Tが経営していたG社の倒産に当たり、赤字であるG社が本件土地建物を取得し、譲渡したことにしてほしいと請求人から依頼されて本件第一契約書及び本件第二契約書にサインしたものであり、Tは本件土地建物の所在地へ行ったこともなく、譲渡代金の受領もなく、お礼として400,000円から500,000円を受領した旨記載されたTの署名及びぼ印のあるもの(以下「本件乙書面」という。)。
(B)平成8年10月30日に郵送(N郵便局の平成8年10月29日、12時から18時の通信日付印がある。)された平成8年10月28日付の書面でTの署名押印がある本件甲書面。
(C)平成8年10月31日にTが持参した同日付の書面で、平成8年10月28日付で送付した本件甲書面は平成8年10月28日に請求人と会ったときに頼まれて請求人の下書きどおり書いたもので、真実は本件乙書面の記載のとおりであり、自分が経営する会社の元従業員であったY(以下「Y」という。)からは借入もなく、お金の支払いもない旨記載されたTの署名及びぼ印のあるもの(以下「本件丙書面」という。)。
E Tは、原処分庁及び異議審理庁に対して、次のとおり申述等していること。
(A)平成7年9月13日に自宅に臨場した調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
a 本件各取引は、すべて請求人に任せてあり、本件第一契約書及び本件第二契約書の売主欄に氏名と住所を記載して請求人へ渡した。
b 領収証には「¥33,000,000円」、「土地建物売却代金」、「平成6.5.12」及び「株式会社G代表取締役T」と記入し、代表取締役印を押して請求人へ渡したが、お金は一切もらっていない。
c 請求人とは、請求人がL社○○工場で資材課長をやっていたときにお世話になっていた関係である。
(B)平成7年10月31日に自宅に臨場した調査担当職員に対して、本件第二取引は請求人の行為であり、自分は謝礼として50数万円を受領した旨申述した。
 なお、その際、Tは、調査担当職員に対して、この事実を自分から聞かなかったことにしてほしい旨要請したが、調査担当職員は、その要請とは反対にTに対して上記の事実について聴取書を作成したい旨伝えたところ、Tは、聴取書に署名押印することは、請求人との信義則に反するからという理由でこれを拒絶した。
(C)平成8年9月24日に原処分庁を訪れ、本件乙書面を提出するとともに調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
a G社は3年前に倒産した。
b G社は請求人の勤務先であるL社と取引があったが、自分と請求人とは直接の取引関係はなかった。
c 請求人から、本件各取引は中間省略登記であり、G社も負債を抱えており、迷惑をかけないからと頼まれたため、本件第一契約書にG社の印を押したものであるが、印をいくつ押したかは不明であり、その際に手数料等の受取り及び書類の取り交わしはしていない。
d 最初に本件各取引について原処分庁から尋ねられたときには、自分が本件各取引を行い、その利益を自分の債務の返済に充てた旨説明したが、これは請求人から原処分庁にはそのように説明するように頼まれたためである。現在は、経営していたG社が倒産した上、自分もがんの手術等を行っており、すっきりさせたいので、はっきり申し上げると、本件各取引は、請求人に頼まれて行ったものであり、自分はn地へも行っておらず、印を押したときに請求人から400,000円から500,000円を受領したが、19,000,000円の利益があることも知らなかった。
(D)平成8年9月27日に調査担当職員に対して、電話で次のとおり申述した。
a 昨日、請求人が自宅へ来たので、税務署にすべてを話したことを伝えたところ、請求人が「困った。Tの会社が赤字であるのに何でTの方で処理してくれなかったのか。」と言われた。
b 自分が請求人に対して本当のことを言って申告した方がよいのではないかと忠告したところ、請求人から「税理士に相談する、1日か2日待ってくれ」と言われた。
(E)平成8年10月30日に調査担当職員に対して、電話で次のとおり申述した。
a 先日、請求人が自宅へ来た際に、請求人の下書きに沿った手紙を税務署へ提出するよう依頼されたので、その依頼に応じて本件甲書面を作成し、請求人に渡したところ、昨日、請求人が自分が書いた本件甲書面を投かんした。
b 請求人から、「本件第二取引の代金を、Tがいったん受け取ったことにして、別の人に支払ったことにしてくれないか、もしTに税金がかかった場合は請求人が支払うから」と言われた。
(F)平成8年10月31日に原処分庁を訪れ、本件丙書面及びYが発行した平成6年5月20日付の20,000,000円の受領証(以下「Y発行受領証」という。)の写しを提出するとともに、調査担当職員に対して次のとおり申述した。
a 請求人から電話連絡があって、平成8年10月28日にVで請求人に会ったが、その際、請求人が下書きした書面を浄書して原処分庁へ提出するよう依頼され、その依頼に応じて本件甲書面を作成したが、請求人は、本件甲書面を投かんしてもらわないと困るので、自ら本件甲書面を持ち帰って、翌日投かんした。
 なお、自分が請求人とあった際には、Yも同席していた。
b 自分は、請求人から、(a)自分が本件第二取引の代金を受領したこと、(b)自分が10年前にYから金を借りていたこと及び(c)自分が受領した本件第二取引の代金でその借入金を現金で返済したことにしてほしいと依頼され、その際、請求人からY発行受領証を受け取った。
c 上記bの依頼については、請求人とYは既に打合せ済と思われた。
d Yは、自分が経営していた会社を退職し、現在はデザイン関係の会社に勤めており、請求人とは当時より得意先の関係で知り合いであったが、自分とは現在付き合いがない。
(G)平成9年1月17日に異議審理庁の担当職員に対して、電話で次のとおり申述及び要請をした。
a 今年になって請求人から話し合いたい旨の連絡が3回あり、病院にまで押しかけて来るので困っている。
b 本件各取引のことは請求人から頼まれたために行っただけであり、迷惑している旨請求人に対して伝えた。
c 請求人から明日、自分に会いたいと要求されたが、このままではどうしようもないために会わない旨回答した。
d このままでは結論が出ないため、請求人と自分が二人で税務署へ行って話をつけたいので、その時は、場所の確保をお願いしたい。
F Tは、平成9年2月3日に68歳で死亡したこと。
G 請求人は、平成7年9月18日に請求人の自宅へ臨場した調査担当職員に対して次のとおり申述していること。
(A)本件第一取引は、請求人とG社との取引であり、G社から委任状は受け取っていないが、G社の所有となった本件土地建物をSへ売却する取次ぎをしたものである。G社が本件土地建物の買主を見つけることができず、本件第一取引の代金14,000,000円が回収できなかったため、請求人がSを捜し出したものである。なお、本件第一契約書に手付金2,800,000円との記載があるが、当該手付金2,800,000円は受け取っていない。
(B)請求人は、平成6年5月12日にK銀行P支店で本件第二取引の売買代金33,000,000円をSから全額現金で受け取り、それから1週間以内にJR・M駅前の喫茶店において請求人の受取分14,000,000円を差し引いた19,000,000円をTに支払ったが、その際、Tから手数料をもらうようなことはなかった。
H G社が本件土地建物を取得した事実及びYから金員の借入をした事実は確認できないこと。
I 請求人は、平成6年5月18日の契約でQ市M町四丁目2279番の3の宅地(以下「新規取得土地」という。)をXから35,000,000円で取得しており、また、平成6年7月2日の契約で、新規取得土地上に家屋番号2279番3の建物(以下「新規取得建物」といい、新規取得土地と併せて以下、「新規取得土地建物」という。)を有限会社Cに注文して建築し、その代金として22,397,120円を支払っていること。
J 上記Iの新規取得土地の購入代金35,000,000円のうち、9,900,000円は本件郵便小切手で支払われていること。
K 本件J口座及び本件K口座へ入金された金員のうち、その出所が不明なものは次表のとおりであること。

年月日入金額口座名
平成6年5月30日1,000,000円本件J口座
平成6年6月2日1,000,000円本件J口座
平成6年6月2日1,000,000円本件J口座
平成6年6月2日990,000円本件J口座
平成6年6月2日10,000円本件J口座
平成6年6月3日1,000,000円本件J口座
平成6年6月3日1,000,000円本件J口座
平成6年6月3日1,000,000円本件J口座
平成6年6月20日600,000円本件K口座
平成6年6月20日1,000,000円本件K口座
平成6年6月20日1,000,000円本件K口座
平成6年6月24日4,900,000円本件K口座
平成6年7月1日1,000,000円本件K口座
平成6年7月1日1,000,000円本件K口座
平成6年7月1日300,000円本件K口座
合計16,800,000円

L 請求人は、平成9年11月11日に当審判所に対して要旨次のとおり答述していること。
(A)本件第一契約書は、平成4年10月12日にJR・M駅付近の喫茶店でTとともに2通作成したが、Tが残金の支払日をはっきりさせなかったため、残金の支払日の欄は記入しなかった。第一契約書収入印紙は、いずれ表に出る書類だからという理由で本件第二取引が終了して残金が清算された時点で、JR・V駅前の喫茶店においてTとともにちょう付した。
(B)本件第一取引に係る手付金2,800,000円は、平成4年10月12日にJR・M駅前の喫茶店においてTから現金で受領し、その現金は自宅に保管しておいた。
(C)手付金領収証は、平成4年10月12日にJR・M駅付近の喫茶店で作成したが、手付金収入印紙は本件第二取引が終了して残金が清算された時点で、JR・V駅前の喫茶店においてちょう付した。
(D)本件第一取引を行った際に、Tに本件土地建物には借家人がいることを伝えたが、借家人はいずれ出ていくのであり、賃貸借契約上も入居者一代限りとなっていたために、Tは借家人がいることについてはあまり気に止めなかった。
(E)借家人であるE協会に対しては、本件第一取引が成立したことは伝えていない。
(F)本件第二取引の買主であるSは、請求人がn地の不動産業者であるF社に依頼して捜し出した。
(G)本件土地建物の登記済権利証は、請求人が本件第二取引の売買代金33,000,000円をSから受領するまでの間は、請求人が保有しており、売買代金受領と引換えにSへ交付した。
(H)本件第二取引の売買代金33,000,000円を全額現金で受領することにしたのは、Tが現金でほしいと要求したためである。
(I)本件第一取引の売買代金と本件第二取引との売買代金の差額20,000,000円強は、本件第二取引の決済日の平成6年5月12日から約1週間以内に、JR・M駅前の喫茶店においてTに渡したが、その領収証は、TがSあてに領収証を発行しているとの理由で、請求人あてには発行してもらえなかった。
(J)Sから受領した33,000,000円のうち、Tに渡した後の残額は、一時的に請求人の自宅に保管した後、本件K口座及び本件J口座に預金した。
(K)請求人が自ら本件第二取引の買主であるSを捜し出した上、本件第二取引を成立させたにもかかわらず、本件第二取引の売主をG社又はTにした理由は、請求人が本件第一取引の手付金を受領した後、Tが残金を支払わなかったので、請求人からTに対して本件第一取引の解除を申し込んだところ、Tから拒否された上、損害金を請求するとまで言われたので、それならば別の者に売却しうということになったためである。
(L)原処分庁が答弁書において指摘している本件J口座及び本件K口座に入金された23,400,000円の出所については、はっきりしたことは不明であるが、概略については原処分庁へ説明したとおりである。
(M)本件郵便小切手については、振出しの経緯及び振出し郵便局名はわからない。
(N)Tが原処分庁あてに書いた本件甲書面の写しを請求人が所持していて、本件審査請求書に添付できた理由は次のとおりである。
 請求人は、原処分庁からTが本件第二取引に係る売買代金を受領していない旨の申述をしていると聞かされたので、請求人がTに会って確認したところ、Tは、税務署にそんなことは言っていない、税務署が勝手に言っているだけである旨の話を請求人にした。そこで、請求人は、そのことを文書にして税務署へ提出するよう依頼したところ、Tは了承し、本件甲書面を作成したものであるが、その際に、請求人は後で税務署から何か言われたときのために備えて本件甲書面の控を受領しておいたからである。
(O)Yとは、一度だけTとともに会ったことがある。
M Tの妻でありG社の監査役であったZ(以下「Z」という。)は、平成9年11月28日に当審判所に対して次のとおり答述していること。
(A)G社は平成4年の末ころから経営が苦しくなり、Tは自分の給料もZに渡せない状況となって、平成5年4月ころに倒産した。
(B)Tから本件土地建物の話を聞いたことはないし、Sについては名前も聞いたことがなく、全く知らない。
(C)請求人については、請求人が一度だけTの自宅を訪れたときに会っており、その後も請求人からTへかかってきた電話の取次ぎをしているのでよく知っているが、顔はよく覚えていない。
(D)平成9年1月初旬に請求人からTへ電話があった際に、Tは入院している旨伝えたところ、請求人から入院先の病院名を尋ねられたので市民病院であると答えたことがあり、その後、日付ははっきりしないがTの見舞いに病院へ行ったところ、Tが「お昼ご飯の時にDさん(請求人)が来たよ。ここまで来たよ」と話していたことがある。
(E)請求人からTにかかってきた電話を最後に取り次いだ日は、Tが死亡する前日の平成9年2月2日である。Tは、普段は他人に対して強い口調で話せる男ではないのにもかかわらず、そのときは電話口で、強い口調で「しつこいな」と話をしていたのでよく覚えている。
N Tが使用していた平成4年の手帳の10月12日から10月18日までのページの右側には、売上確保、年内資繰、G社が危ない及び社員のボーナスなどのメモが記載されていること。
O Y発行受領証には、金額は20,000,000円、ただし書きは返済金として、日付は平成6年5月20日、発行者はR市x町1―16―20Y及びあて名は株式会社G、Tと記載されているが、平成6年5月20日にYがR市x町1―16―20に居住していた事実及び住民登録をしていた事実がないこと。
P Yは、平成9年12月17日に当審判所に対して要旨次のとおり答述していること。
(A)請求人については、Tから聞いているので、名前はよく知っているが、請求人とは一度も会ったことがない。
(B)Y発行受領証のことについては古い話なのでよく覚えていない。
Q 本件お尋ねには、本件土地の購入代金は8,000,000円、仲介手数料は495,000円、登記費用は166,100円、本件建物の購入代金は6,500,000円、改良費は408,000円及び排水設備代金245,000円と記載されていること。
(ロ)上記(イ)の事実に基づき、本件土地建物に係る譲渡先及び譲渡価額について検討したところ、次のとおりである。
A 本件第一取引について
(A)上記(イ)のBの(B)のとおり本件第一契約書は、(1)引渡年月日の欄が空欄となっていること、(2)そのために残金11,200,000円の支払期限も定められていないこと、(3)通常の不動産取引においては土地の面積は登記簿によるのか又は実測によるのか等の定めがあるのにこれがないこと、(4)同様に本件土地建物から生じる収益であるE協会からの家賃収入の帰属や公租公課等の費用負担についての定めがないこと及び(5)本件土地建物は借家人がいるにもかかわらず、借家人がいるまま譲渡するのか又は借家人を立ち退かせた後に譲渡するのかという通常の不動産取引において定められる重要な事項についての定めがないことなどから、本件第一契約書は、不動産売買契約にとって必要な通常定められるべき基本的な事項についての記載を欠いた極めて内容不備な売買契約書であることが認められる。
 なお、請求人は、上記(イ)のLの(A)のとおり残金の支払日の欄が空欄となっているのはTが残金の支払日をはっきりさせなかったためであり、上記(イ)のLの(D)のとおり借家人について触れていないのはTが借家人がいることについてあまり気に止めなかったためであると答述しているが、不動産取引においては、売主が残金がいつ支払われるか確定されないまま契約すること及び買主が借家人がいることを気に止めないで契約することは通常ありえないことからすると、この点に関する請求人の答述は、信用できない。
(B)請求人は、上記(イ)のLの(E)のとおり借家人であるE協会へ本件第一取引があったことを伝えておらず、上記(イ)のAの(B)及び(C)のとおり平成6年3月28日まで本件土地建物を賃貸し、賃貸料収入を得ていたこと及び上記(イ)のLの(G)のとおり請求人は、本件土地建物の登記済権利証を本件第二取引の売買代金の決済日である平成6年5月12日まで保有しており、本件第二取引の売買代金受領と引換えにSへ交付していたことが認められる。
 ところで、不動産売買取引においては、売主から買主へ物件の引渡しが行われるところ、引渡しがあったかどうかの判断は、その物件に対する現実の支配権が買主に移転したかどうかに基づいて行うべきであり、具体的には、売買の内容、所有権移転登記に係る手続に必要な書類の交付及び譲渡代金の決済状況等を総合勘案して行うのが相当である。これを本件第一取引に照らして判断すると、本件第一取引においては、そのような引渡しがあったと判断される事実は認められず、また、上記(イ)のAの(B)及び(C)のとおり、請求人は本件土地建物に係る不動産収入を得ていたことから、請求人からG社に対して本件土地建物の引渡しはされていなかったものと認められる。
(C)請求人は、上記(イ)のGの(A)のとおり、原処分庁に対して本件第一取引に係る手付金2,800,000円については受領していない旨申述し、一方、上記(イ)のLの(B)のとおり、当審判所に対しては本件第一取引に係る手付金2,800,000円をJR・M駅前の喫茶店でTから受領した旨答述しており、請求人の申述及び答述には一貫性がなく、この点に関する請求人の申述及び答述は信用できない。
(D)請求人は、上記(イ)のLの(K)のとおり、Tが本件第一取引の残金を支払わなかったため請求人がTに対して本件第一取引の解除を申し込んだところ、Tから解除を拒否された上、損害金を請求するとまで言われたため、別の者に売却しようということになった旨答述しているが、請求人は本件第二取引の代金33,000,000円を受領するまでの間、本件土地建物の登記済権利証を保有していたこと及び不動産売買取引においては、買主が残金を支払わない場合は売主が契約を解除する権利を有し、売主は手付金の返還も要しないことになっていることが一般的であり、上記(イ)のBの(B)のとおり、本件第一契約書にも同様の定めがあることからすると、仮にTが本件第一取引の履行を望んだとしても、Tが残金を支払わないのであれば解除権を行使することができるのであるから、請求人からTに対して解除の意思表示を行えば足りるのであり、また、本件第二取引の買主であるSを捜し出したのは請求人であることから、仮に請求人側の事情により契約を解除し、Tに対して手付金の2倍の金額を支払ったとしても、請求人が自ら本件第二取引を行った方が請求人にとって明らかに有利であることを考えると、請求人の答述には合理性がなく、信用できない。
 さらに、請求人の主張によれば、Tは、請求人から告訴の手続をとる旨伝えられたため、本件甲書面及び本件受取証を作成していること及び上記(イ)のLの(N)の請求人の答述によれば、Tは請求人からの本件甲書面の作成及びその提出の依頼に応じていることから、Tは請求人の意向に沿う行動をとっていると認められる。そうすると、請求人がTから損害金を請求すると言われただけで、自己の利益を犠牲にしてまでTに多額の利益を与えることになる本件第二取引をTに代わって実行したという請求人の答述は、信用できない。
(E)Tは、上記(イ)のDのとおり、Tの署名と押印又はぼ印がある本件乙書面、本件甲書面及び本件丙書面を原処分庁へ提出しており、当該各書面に記載されたTの申述内容は、請求人が主張するとおり、途中で変更されていることが認められるが、上記(イ)のEのとおり、原処分庁に対してTが面接又は電話で応答した経緯及び申述内容からすると、Tは請求人から本件甲書面を作成して原処分庁へ提出するように依頼されたためにやむを得ず本件甲書面を作成して提出したものと認められ、最終的には本件丙書面がTの真意であると認めるのが相当である。
(F)上記(イ)のHのとおり本件第一取引の買主であるG社が本件土地建物を取得した事実は認められないこと、上記(イ)のMの(A)のZの答述及び上記(イ)のNのTの手帳に記載された事項から判断すると、G社は、本件第一取引の契約日である平成4年10月12日ころは、資金繰りに窮しており、従業員のボーナスの支払資金の心配をしなければならない状況にあったものと認められるので、G社には本件土地建物を取得する資金的余裕があったとは認められない。
(G)本件第一契約書の契約日及び手付金領収証の発行日は、平成4年10月12日となっているが、本件各収入印紙は上記(イ)のBの(C)のとおり平成5年11月1日から発売されたものである。不動産取引においては売買契約書の作成及び領収証の発行と同時に収入印紙がちょう付されるのが通常であるところ、本件各収入印紙は、契約日から1年以上たってからちょう付されていることが明らかであること及び本件第一契約書及び手付金領収証が平成4年10月12日に作成されたと認めるに足りる証拠はなく、本件第一契約書及び手付金領収証は、平成4年10月12日に作成されたものなのか又は後日、日付をさかのぼって作成されたものなのかが明らかでない。
(H)上記(A)から(G)までのとおり、本件第一取引については、契約書は存在するもののその記載内容には不備な点が多く、平成4年10月12日に契約書が作成されたと認めるに足りる証拠もなく、また、本件土地建物の引渡しがあったとは認められず、他に取引の実体があったと認めるに足りる証拠もないことから、本件乙書面でTが述べているとおり、本件第一取引は、Tが請求人から依頼されて本件第一契約書に署名押印を行ったことにより作り出された架空の取引であると認めるのが相当である。
B 本件第二取引について
(A)上記(イ)のCの(A)及び(B)のとおり、請求人が提出した本件第二契約書の写しには契約書の作成日付が記入されていないが、Sが原処分庁に提出した本件第二契約書の写しには契約書の作成日付が平成6年3月25日と記載されていることから、本件第二契約書は、平成6年3月25日に作成されたものと推認される。
 上記(イ)のCの(C)及び(D)のS及びWの申述によれば、(a)請求人がF社との間で本件土地建物の売買を依頼する専任媒介契約書を取り交わしたこと、(b)当初の予定では、請求人は、F社が捜した買主のSと本件第二取引を行い、請求人とSとの間で本件第二契約書を作成する予定であったこと、(c)請求人の都合によって本件第二取引の契約が予定より約1か月遅れた間に、請求人の要請によって本件第二取引の売主がG社に変更されたこと及び(d)契約の際には、売主側は代理人F社、買主側はSとH社が立ち会い、Tは本件第二取引の契約に立ち会っていないことが認められる。
 そうすると、Tは、本件第二取引の契約の締結には何らかかわっておらず、単に本件第二契約書の売主欄に署名押印をしただけの存在であったものと認められる。
(B)上記(イ)のCの(C)及び(D)のS及びWの申述並びに上記(イ)のLの(G)の請求人の答述によれば、本件第二取引は、平成6年5月12日にK銀行P支店でSから請求人へ現金33,000,000円を支払うことにより売買代金の決済がなされ、本件土地建物の登記済権利証は同日に請求人からSへ交付されているが、その際にTは立ち会っていないことからすると、Tは、単に売買代金33,000,000円の領収証の受取人として記載されただけの存在でしかなかったものと認められ、また、本件第二取引の決済は、上記Aの(B)で述べたとおり、請求人とSとの間で行われたものと認められる。
(C)上記(イ)のLの(I)のとおり、請求人は、本件第二取引の売買代金33,000,000円を受領してから1週間以内に、本件第一取引と本件第二取引の売買代金の差額をJR・M駅前の喫茶店においてTに渡したが、TがSあて領収証を発行しているので請求人あてには領収証を発行してもらえなかった旨答述している。しかしながら、売主として買主あてに領収証が発行されていたとしても、請求人がTに依頼されて売買代金の受領を代行し、受領した金銭をTに渡したのであれば、その旨が記載された領収証をTが発行することに特に不都合は認められないこと及び売買代金の全額がTに渡されていないのであれば、実際に渡された金額を明確にする意味でも領収証が発行されるのが自然であることからすれば、請求人の答述は信用できない。
 なお、本件受取証は、平成8年10月28日にTが請求人から依頼されて作成したものであることは、請求人の主張からも明らかであり、本件受取証をもって請求人がTに本件第一取引と本件第二取引の売買代金の差額を支払ったと認めることはできない。
(D)上記Aの(E)で認定したとおり、本件甲書面はTが請求人に依頼されて作成したものであること及び上記(イ)のEの(F)のTの申述からすると、請求人、T及びYの3名は、平成8年10月28日にV市内で会っていたものと認められ、その際に、Tは、請求人からY発行受領証を受け取ったものと認めるのが相当である。
 なお、Yは、請求人とは会ったことがない旨答述しているが、Yとは一度だけTと会ったという請求人の答述と平成8年10月28日にVで請求人と会った際Yが同席していたというTの申述の間には整合性が認められるので、この点に関するYの答述は信用することができない。
 上記(イ)のPのとおり、Yが当審判所に対してY発行受領証については古い話なので覚えていない旨答述していること、上記(イ)のOのとおりY発行受領証の作成年月日である平成6年5月20日のYの住所は、Y発行受領証に記載されているP市ではなかったこと及び上記(イ)のHのとおりG社がYから金員を借入していた事実は認められないことからすると、Y発行受領証は、請求人がTに本件第二取引の売却代金33,000,000円の中から本件第一取引の残金11,200,000円を差し引いた残金を渡したという請求人の主張に対して、原処分庁がTが受領した金員の使途を調査したときに備えて、Tが原処分庁に対して説明するための資料として、請求人が平成8年10月28日にYに依頼して作成させた上、Tに交付した架空の受領証であると推認することができる。
(E)上記(A)から(D)までのことから、Tは、本件第二取引においては、契約書及び領収証に形式的に署名押印しただけであり、取引の申込み、売買契約書の作成、代金の受領及び物件の引渡しは、請求人が行っていると認められるから、本件第二取引は、請求人の行った取引であると認めるのが相当である。
C 新規取得土地建物の取得資金について
(A)請求人は、新規取得土地を取得するに当たって、上記(イ)のIのとおりXに35,000,000円支払っており、そのうち同人への支払に充てた本件郵便小切手の振出しの経緯及び郵便局についてはわからない旨当審判所へ答述しているが、請求人が本件郵便小切手をXへ土地の購入代金の一部として交付したことは事実と認められるから、請求人が自ら行った本件郵便小切手の振出の経緯等について承知していないとする請求人の答述は、信用することができない。
(B)請求人は上記(イ)のKの表に記載された入金額の出所について原処分庁へ説明せず、当審判所に対しても、原処分庁へ説明したとおりであり、はっきりしたことは不明である旨答述している。
(C)上記(A)及び(B)のとおり、請求人が資金の出所を明らかにしない取得資金が認められることからすれば、請求人は、本件第二取引の売買代金33,000,000円を新規取得土地建物の取得代金の支払に充てたものと推認することができる。
D Tの申述について
 請求人は、Tは本件甲書面及び本件受取証を原処分庁に提出して意思を変更し、申述まで一変させており信用性がないのにもかかわらず、原処分庁は、一方的にTの申述を採用しているだけで事実関係を十分に確認していないと主張する。
 なるほど、請求人が主張するようにTの申述は、当初本件乙書面を提出した後に全く逆の申述内容を示す本件甲書面を提出していることから、途中で変更されていることが認められる。
 しかしながら、上記(イ)のEの(G)のTの申述は、Tが死亡する前の最後の申述であり、上記(イ)のMの(C)から(E)までのZの答述と照らしてみると整合性があり、請求人には頼まれただけで迷惑している旨のTの申述は信用できると認められ、また、上記(イ)のEの(E)及び(F)の本件甲書面を原処分庁へ提出するように請求人から依頼されたためにやむを得ず本件甲書面を作成したものである旨のTの申述は、請求人も上記(イ)のLの(N)のとおり、請求人がTに会って、本件甲書面を原処分庁へ提出することをTに依頼したことを認めていることからも、信用することができる。
 そうすると、Tは、まず、自らの意思で原処分庁へ本件乙書面を提出し、その後、請求人から依頼されたためにやむを得ず本件甲書面を原処分庁へ提出した後、最終的には自らの意思で本件丙書面を原処分庁へ提出したものと認められるので、Tの申述の内容は途中で変更があったことは事実としても、最後に提出した本件丙書面には信ぴょう性があるものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、原処分庁がTの申述を得たのであるならば当然Tが署名押印した書面を作成するべきである旨主張するが、本件乙書面及び本件丙書面には、Tの署名及びぼ印があることが認められるので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
E 本件第二契約書について
 請求人は、本件第二取引は個人対個人の取引ではなく、不動産会社が仲介しており、買主は住宅ローンを利用して購入している上、本件第二契約書は契約書の要件が具備されているのにもかかわらず、なぜTが本件第二取引は仮装売買であり、請求人が行ったものと申述しているのか合理的な理由が不明であると主張する。
 しかしながら、個人対個人の取引ではないこと、不動産会社が仲介していること、買主が住宅ローンを利用していること及び契約書の要件が具備されていることをもって、必ずしもその契約書上の売主が仮装されたものではないとする合理的な理由は見当たらない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
F Tが仮装売買の当事者となることについて
 請求人は、会社を経営していたTは不動産取引の経験もあり、契約を締結するということは自己責任の原則に基づき、税法上も義務を負担することを予見できる知識を有しているので、請求人から依頼されただけで仮装売買の当事者となることは不自然であると主張する。
 しかしながら、不動産取引の経験が豊富であり、契約及び税法についての知識を有している者が仮装売買の当事者とはなり得ないとする合理的な理由は認められず、上記(イ)のEの(A)及び(C)のとおり、請求人の勤務先であったL社○○工場はG社の取引先であったこと及び上記(イ)のEの(B)のとおり、Tは調査担当職員から聴取書への署名押印を求められた際に請求人との信義則に反するからという理由で拒否していることから判断すると、このような取引関係がある者から仮装売買の当事者となるよう依頼された場合に、その依頼に応じることは必ずしも不自然であるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
G 本件各収入印紙と本件第一取引との関係について
 請求人は、原処分庁は本件各収入印紙が本件第一契約書の作成日後に発売されたものであることを理由に本件第一取引が仮装売買であると主張するが、収入印紙をちょう付しなくても契約が無効になることはなく、後日、印紙税法に違反することがないように対処すればよいのであり、原処分庁は契約締結と収入印紙のちょう付は表裏一体であるという契約関係法令を歪めた解釈をしていると主張する。
 しかしながら、上記2の(2)のイの(ロ)のCのとおり、原処分庁は本件第一契約書の作成日は平成4年10月12日である旨の請求人の主張とこれに相反するTの申述のどちらに信ぴょう性があるかについての判断するための一要素として、本件各収入印紙の発売日が、本件第一契約書及び手付金領収証の作成日後であることを主張しているのであり、契約締結と収入印紙のちょう付は表裏一体とは主張していないことが認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
H 本件土地建物の譲渡先及び譲渡価額について
 以上のとおり、請求人は、G社を本件土地建物の譲受人として介在させて、本件第一契約書をもって実体のない本件第一取引を行ったごとく仮装し、さらに、G社を譲渡人とし、Sとの間で本件第二契約書により譲渡人の名称が実体とは異なる契約を行ったものであり、請求人が本件土地建物を33,000,000円でSへ譲渡したものと認めるのが相当である。
ロ 納付すべき税額について
(イ)課税総所得金額
A 不動産所得の金額
 原処分庁は、不動産所得の計算上、減価償却費の額を74,243円と計算し、不動産所得の損失の金額を11,116円と認定しているが、当審判所の調査によれば、原処分庁は、請求人が本件土地建物を購入した際に支払った仲介手数料495,000円及び登記費用166,100円の合計金額661,100円(以下、仲介手数料と登記費用を併せて「購入諸費用」という。)の全額を本件土地の取得費に含めて計算しているため、原処分庁が減価償却費の計算の基礎とした本件建物の取得価額の中には、購入諸費用661,100円を本件建物の購入代金6,500,000円と本件土地の購入代金8,000,000円とであん分した金額296,355円が含まれていないことが認められるので、当審判所で本件建物の購入諸費用296,355円を本件建物の取得価額に含めて再計算したところ、不動産所得における減価償却費の額は次表のとおり77,044円となる。

 したがって、不動産所得の損失の金額は、次表のとおり13,917円となる。

(単位 円)
区分金額
収入金額(1)190,000
減価償却費(2)77,044
その他の経費(3)126,873
不動産所得の金額
((1)−(2)−(3))
△13,917

B 給与所得の金額
 原処分庁は、請求人の給与所得の金額を請求人が本件確定申告書に記載した金額で、11,133,464円と認定しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の認定額は相当と認められる。
C 所得控除の額
 原処分庁は、所得控除の額を請求人が本件確定申告書に記載した金額で、1,590,489円と認定しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の認定額は相当と認められる。
D 課税総所得金額
 課税総所得金額は、上記Bの給与所得の金額から上記Aの不動産所得の損失の金額13,917円と上記Cの所得控除の額1,590,489円を控除した金額の1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額で、9,529,000円となる。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額
A 分離長期譲渡所得に係る総収入金額
 分離長期譲渡所得に係る総収入金額は、上記イの(ロ)のHのとおり、33,000,000円と認められる。
B 取得費の額
(A)本件土地の取得費
 原処分庁は、本件土地の取得費について、請求人が本件お尋ねに記載した金額で、8,661,100円と認定しているが、上記(イ)のAのとおり本件土地の取得費に含めた購入諸費用661,100円のうち296,355円は本件建物に係る購入諸費用と認められるので、本件土地の取得費は、原処分庁の認定額から296,355円を控除した残額8,364,745円となる。
(B)本件建物の取得費
 原処分庁は、本件建物の取得費の額を所得税法第38条第2項の規定に従って別表1のとおり計算した上、3,959,489円と認定しているところ、その計算方法は相当と認められるが、上記(イ)のAのとおり本件建物の取得価額には購入諸費用296,355円が含まれていないので、当審判所において、本件建物の取得価額に購入諸費用296,355円を含めて再計算したところ、本件建物の取得費は別表3のとおり4,119,550円となる。
(C)取得費の額
 したがって、取得費の額は上記(A)の本件土地と上記(B)の本件建物の取得費の合計額12,484,295円となる。
C 譲渡に要した費用の額
 上記イの(ロ)のHのとおり、本件第一取引は実体のない仮装された取引であると認められるから、本件各収入印紙及び残金領収証にちょう付された収入印紙の購入費用42,000円は、譲渡に要した費用に該当せず、また、本件土地建物の登記簿上の所有者であった請求人の住所を変更するための登記費用は、譲渡に要した費用とは認められない。
 したがって、本件土地建物を譲渡するために要した費用の額は、請求人がF社に対して支払ったものと認められる仲介手数料の額1,081,500円と本件第二契約書にちょう付された収入印紙の購入費用20,000円の合計額で、1,101,500円となる。
 なお、Tは、本件第一契約書及び本件第二契約書等にG社の署名押印をしたことなどによる謝礼として請求人から400,000円から500,000円を受領した旨申述しているが、当該金額は、上記イで述べたとおり、請求人が本件各取引にG社が介在したかのごとく仮装することをTに依頼し、Tがその依頼を引き受けたことに対して支払われたものであることから、当該金額は、本件土地建物を譲渡するために要した費用とは認められない。
D 特別控除額
 原処分庁は、租税特別措置法第31条第1項及び第4項の規定に基づき分離長期譲渡所得の特別控除額を1,000,000円と認定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
E 分離長期譲渡所得の金額
 分離長期譲渡所得の金額は、分離長期譲渡所得に係る総収入金額から、取得費の額、譲渡に要した費用の額及び特別控除額を控除した残額18,414,205円となる。
(ハ)納付すべき税額
A 課税総所得金額に対する税額
 課税総所得金額に対する税額は、1,958,700円である。
B 分離課税の課税長期譲渡所得金額に対する税額
 分離課税の課税長期譲渡所得金額は分離長期譲渡所得の金額の1,000円未満の端数を切り捨てた金額18,414,000円となり、これに対する税額は5,524,200円である。
C 住宅取得等特別税額控除額
 租税特別措置法第41条第1項の住宅取得等特別税額控除額を控除することができるのは、同項に規定されている所得税法第2条《定義》第1項第30号の合計所得金額が30,000,000円以下である年に限られているところ、請求人の平成6年分の合計所得金額は、租税特別措置法第31条第4項の規定により不動産所得の金額、給与所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額(分離長期譲渡所得の特別控除額を控除する前の金額)の合計額30,533,752円となるから、請求人は、平成6年分の所得税の額から住宅取得等特別税額控除額を控除することはできない。
D 特別減税額
 請求人の平成6年分の所得税の特別減税額は、課税総所得金額に対する税額と分離課税の課税長期譲渡所得金額に対する税額の合計額7,482,900円に100分の20を乗じた金額1,496,580円となる。
E 源泉徴収税額
 原処分庁は、請求人の源泉徴収税額を、請求人が本件確定申告書に記載した金額1,570,000円と認定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
F 納付すべき税額
 納付すべき税額は、課税総所得金額に対する税額と分離課税の課税長期譲渡所得金額に対する税額の合計額7,482,900円から特別減税額1,496,580円及び源泉徴収税額1,570,000円を控除した金額の100円未満の端数を切り捨てた金額4,416,300円となる。
ハ 上記ロのとおり、納付すべき税額は4,416,300円となり、その範囲内でされた本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

イ 本件重加算税賦課決定処分について
 上記(1)のハのとおり、本件更正処分は適法であり、上記(1)のイの(ロ)のHで認定したとおり、請求人は本件土地建物を33,000,000円でSへ譲渡したにもかかわらず、中間譲受人としてG社を介在させて本件第一契約書を作成することにより、同法人に14,000,000円で譲渡したかのごとく本件土地建物の譲渡価額を過少に仮装し、分離長期譲渡所得の金額を過少に申告していたことが認められる。
 このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づいてされた本件重加算税賦課決定処分は適法である。
ロ 本件過少申告加算税賦課決定処分について
 上記(1)のハのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件再更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表1 本件建物の取得費の計算

1 不動産所得を生ずべき業務の用に供されていた期間(平成元年6月から平成6年3月まで)

期間本体改良費排水設備
平成元年7月7月
平成2年から平成5年まで4年0月4年0月1年7月
平成6年3月3月3月
合計4年10月4年10月1年10月
2 上記1以外の用に供されていた期間(昭和53年4月から平成元年5月まで及び平成6年4月から同年5月まで)

期間本体改良費排水設備
昭和53年4月から平成元年5月まで11年
平成6年4月から同年5月まで0年0年0年
合計11年0年0年
3 本件建物の減価償却費の額又は減価の額(下表においては償却費等という。)の計算
4 本件建物の取得費

7,153,000円(取得価額)−3,193,511円(償却費等)=3,959,489円(本件建物の取得費)

別表2 納付すべき税額の計算

(単位 円)
区分金額
不動産所得の金額(1)△11,116
給与所得の金額(2)11,133,464
計(総所得)((1)+(2))(3)11,122,348
分離長期譲渡所得の金額(4)18,277,911
社会保険料控除の額(5)840,489
生命保険料控除の額(6)50,000
配偶者控除の額(7)350,000
基礎控除の額(8)350,000
所得控除額の計(9)1,590,489
(課税所得金額)
 総所得金額(10)9,531,000
 分離長期譲渡所得金額(11)18,277,000
(算出税額)
 (10)に対する税額(12)1,959,300
 (11)に対する税額(13)5,483,100
 計(14)7,442,400
住宅取得等特別税額控除額(15)
差引所得税額((14)−(15))(16)7,442,400
特別減税額(17)1,488,480
源泉徴収税額(18)1,570,000
納付すべき税額((16)−(17)−(18))(19)4,383,900

(注)「課税所得金額」欄は1,000円未満の端数を、また、「納付すべき税額」欄は100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。

別表3 本件建物の取得費の計算

1 不動産所得を生ずべき業務の用に供されていた期間(平成元年6月から平成6年3月まで)

期間本体改良費排水設備
平成元年7月7月
平成2年から平成5年まで4年0月4年0月1年7月
平成6年3月3月3月
合計4年10月4年10月1年10月
2 上記1以外の用に供されていた期間(昭和53年4月から平成元年5月まで及び平成6年4月から同年5月まで)

期間本体改良費排水設備
昭和53年4月から平成元年5月まで11年
平成6年4月から同年5月まで0年0年0年
合計11年0年0年
3 本件建物の減価償却費の額又は減価の額(下表においては償却費等という。)の計算
4 本件建物の取得費

7,449,355円(取得価額)−3,329,805円(償却費等)=4,119,550円(本件建物の取得費)

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