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(平10.6.23裁決、裁決事例集No.55 175頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成7年分の所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成8年11月26日に次表の「第一次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出し、さらに、同年12月13日に次表の「第二次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「第二次修正申告書」という。)を提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年1月21日付で次表の「更正処分」欄に記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

 請求人は、この処分を不服として、平成9年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月6日付で棄却の異議決定をし、異議決定書(以下「本件異議決定書」という。)の謄本を請求人に対し同月8日に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年6月9日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 異議審理等の手続について
(イ)国税通則法第84条《決定の手続等》第5項には、原処分を維持する場合は、異議決定書に、維持される処分を正当とする理由を明らかにしていなければならない旨規定されているにもかかわらず、異議審理庁が本件異議決定書に記載した理由は、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定(以下「本件規定」という。)の趣旨を説明したにすぎないもので、国税通則法第84条第5項に規定する維持される処分を正当とする理由になっておらず、また、本件更正処分における更正後の額が事実と相違するという異議申立理由にも対応していない。
 このことは、国税通則法第84条第5項の規定及び不服審査基本通達84―17《異議決定書に附記すべき理由》の定めに違反している。
(ロ)不服審査基本通達93―1《答弁書の記載程度》には、審査請求の理由の内容及び程度が、異議申立ての理由と同様であり、原処分庁の主張も異議決定の理由と同様であるときは、異議決定の理由を引用して、答弁書に原処分庁の主張を記載しても差し支えない旨定められている。
 本件の場合、請求人は、地上権の効力の問題を審査請求において初めて主張するなど、審査請求の理由は異議申立ての理由と同様ではないにもかかわらず、原処分庁は、この点を認識しながら、答弁書に異議決定の理由と同一の理由しか記載しておらず、国税通則法第93条《答弁書の提出等》第2項の規定及び不服審査基本通達93―1の定めに違反している。
ロ 更正処分について
(イ)所得税法第157条の規定の適用
 請求人は、平成7年3月15日付で請求人が代表取締役であるM株式会社(以下「M社」という。)との間に、請求人が所有しS株式会社(以下「S社」という。)に駐車場として賃貸していたR市T町1丁目44番地6の宅地230.94平方メートル(以下「本件土地」という。)に、M社を権利者とする地上権(以下、この権利を「本件地上権」といい、本件土地のうち本件地上権を除く底地部分を「本件底地」という。)を無償で設定するとともに、本件地上権をM社に贈与する契約(以下「本件契約」といい、この契約書を「本件契約書」という。)を締結し、その後、同年5月9日に本件底地をS社に11,000,000円で譲渡して、所得税の確定申告をした。
 一方、M社は、平成6年7月1日から平成7年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、本件契約に基づき借地権10,000,000円を資産計上するとともに、受贈益10,000,000円を収益として計上する経理処理(以下「本件経理処理」という。)を行った後、平成7年5月9日に同借地権をS社に10,000,000円で譲渡(以下、請求人の譲渡と併せて「本件譲渡」という。)した。
 原処分庁は、これに対し、M社の本件契約に係る行為又は計算を容認したとすると、請求人の所得税の負担を不当に減少させることとなるとして、本件規定を適用し、本件更正処分を行った。
 しかしながら、M社の本件契約に係る行為又は計算については、次のことから、本件規定が適用されるべきではない。
A 請求人は、M社が請求人を同族関係者とする同族会社であるがゆえに本件契約をしたこと及び請求人一人が本件譲渡に係る譲渡代金のすべてを受領したとした場合と比較すれば、請求人の所得税の負担を減少させる結果となっていることは認めるが、本件契約をM社が赤字法人であることを奇貨として行ったものではなく、譲渡代金の分散を図る目的でしたものでもない。
 また、本件契約は、同族会社の株主等も含まれる通常の経済人の行為として不合理、不自然でもないから、請求人の所得税を不当に減少させるものでもない。
B 所得税基本通達59―5《借地権等の設定及び借地の無償返還》(以下「本件通達」という。)は、借地権等の設定が所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の移転には含まれない旨明らかにしていることから、請求人は、同項のみなし譲渡課税をされないことを前提として、本件契約を行ったにもかかわらず、原処分庁は、本件規定を適用して、同項の規定を適用したのと同じ課税目的を達成している。
 このことは、借地権等の設定については、本件通達の定めにより、所得税法第59条第1項の規定の適用がないということについての納税者の予見可能性を無視したものであり、本件通達の趣旨に反し、著しく信頼を損なうものである。
(ロ)課税総所得金額等
 課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額並びに納付すべき税額は、第二次修正申告書に記載したとおりである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 異議審理等の手続について
(イ)異議審理庁は、本件異議決定書において、本件更正処分を正当とする理由及び請求人の平成7年分の所得税に係る課税標準及び納付すべき税額が本件更正処分に係る金額と同額となる旨を記載している。
(ロ)原処分庁は、答弁書の記載に当たり、本件異議決定書の理由と同一の理由は記載しておらず、地上権の効力の問題について、原処分庁の意見を改めて記載している。
ロ 更正処分について
(イ)所得税法第157条の規定の適用
 本件更正処分は、次のことから、M社が本件契約を締結し、本件経理処理を行った行為又は計算が私法上有効であったとしても、これを容認したとすると、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められたので、本件規定を適用し、通常あるべき行為又は計算に引き直して請求人の所得税を計算したものである。
A 本件規定において、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には、その株主若しくは社員等である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正等に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
 すなわち、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その行為又は計算が居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長の認めるところにより、通常あるべき行為又は計算に引き直して、その居住者の所得税を計算しようとするものであり、この規定の適用に当たっては、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきと解されている。
B 本件契約の日から、本件譲渡の日までの間に、次のような事実が認められる。
(A)請求人は、S社から、再三にわたり本件土地の買い申し込みを受けていたにもかかわらず、本件譲渡の日の直前に本件契約を締結しており、しかも、本件契約から本件譲渡までは2か月にも満たないごく短期間である。
(B)本件契約によれば、地上権設定の目的は、堅固な建物所有のためとされているが、契約上の地上権者であるM社において、本件土地に建物又は構築物等を建築した事実はなく、かつ、建築に関する計画、設計及び見積り等も存在しない。
(C)M社から請求人に対して、本件土地の使用に係る地代等を支払った事実はない。
(D)M社とS社との間においては、地上権等を含め本件土地の使用に関する賃貸借契約等は何ら締結されておらず、また、請求人とS社との間で締結されていた駐車場使用契約が本件譲渡の日までに解除された事実もない。
(E)S社は、本件土地の使用に係る賃料を、本件契約の締結後は、本来、契約上の地上権者であるM社に支払うべきであるにもかかわらず、本件譲渡の日の属する平成7年5月分まで、依然として請求人名義のP銀行Q支店の普通預金(口座番号××××××)(以下「本件預金口座」という。)に振り込んでいる。
C M社は、本件経理処理を行っても、なお繰越欠損金がある。
D 前記B及びCの事実からみると、本件契約の日以後の本件土地の利用状況等は、本件契約が締結される以前と何ら変化は認められず、また、M社が地上権者にならなければならない合理的な理由も認められない。
 このことから、本件契約は、M社が赤字法人であることを奇貨として、本来、請求人に帰属すべき本件土地の譲渡代金の分散を図る目的で行われた不合理、不自然なものであり、通常、利害が共通しない当事者間では到底行われることは有り得ず、M社が請求人を同族関係者とする同族会社であるがゆえになされたものといえる。
E 前記Dのことから、(a)S社に対する本件土地の譲渡は、すべて請求人に帰属するものとして計算するのが合理的と判断され、したがって、請求人に係る譲渡収入金額は21,000,000円となるが、これに対し、請求人が第二次修正申告書に記載した譲渡収入金額は11,000,000円であること、また、(b)本件土地の使用に関し、S社から支払われた平成7年1月1日から本件譲渡の日までの期間に相当する賃料は、すべて請求人に帰属するものとして計算するのが合理的と判断され、したがって、請求人の不動産所得に係る総収入金額は423,340円となるが、これに対し、請求人が第二次修正申告書に記載した不動産所得に係る総収入金額は250,000円であることが認められる。
 そうすると、これらの所得に係る収入金額の差額については、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となることは明白である。
F 本件更正処分は、本件規定を適用したものであり、その結果が地上権を無償で設定したことに対して課税を行ったことと同じ効果をもたらしたとしても違法ではない。
 すなわち、所得税法第59条の規定が、借地権等の設定について、課税する旨を規定していないことをもって本件規定の適用が及ばないとするものではない。
(ロ)課税総所得金額等
A 総所得金額等
(A)不動産所得の金額等
a 総収入金額
 総収入金額は、前記(イ)のことから、請求人が第二次修正申告書に記載した地代収入250,000円に、M社がS社から受領し、受取地代として経理処理した173,340円を加算した423,340円となる。
b 必要経費の額
 必要経費の額は、請求人が平成7年中に支払った本件土地に係る固定資産税額116,700円から、本件土地の譲渡に伴い請求人がS社から受領した固定資産税に係る精算金104,583円を減算した12,117円となる。
c 不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、前記aの総収入金額からbの必要経費の額を控除すると411,223円となる。
(B)給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人が第二次修正申告書に記載した3,300,000円である。
(C)総所得金額
 総所得金額は、前記(A)のcの不動産所得の金額と(B)の給与所得の金額を合計すると3,711,223円となる。
B 所得控除の額
 所得控除の額は、請求人が第二次修正申告書に記載した社会保険料控除の額444,600円、損害保険料控除の額3,000円、配偶者控除の額380,000円、扶養控除の額1,140,000円及び基礎控除の額380,000円を合計した2,347,600円となる。
 なお、総所得金額と長期譲渡所得の金額との合計金額が10,000,000円を超えることから、所得税法第83条の2《配偶者特別控除》第2項の規定により、配偶者特別控除の適用はない。
C 課税総所得金額
 課税総所得金額は、前記Aの(C)の総所得金額から、Bの所得控除の額を控除して1,000円未満の端数を切り捨てた1,363,000円となる。
D 課税長期譲渡所得金額等
(A)総収入金額
 長期譲渡所得の総収入金額は、前記(イ)のことから、請求人が第二次修正申告書に記載した11,000,000円に、M社とS社との借地権譲渡契約に係る譲渡代金10,000,000円を加算した21,000,000円となる。
(B)取得費等
a 取得費は、本件土地に係る取得価額9,000,000円及び取得の際に要した印紙代10,000円を合計した9,010,000円である。
b 譲渡費用の額は、本件譲渡の際に要した印紙代20,000円である。
(C)特別控除額
 本件土地の譲渡については、租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》に規定する特例の適用があるので、特別控除額は1,000,000円である。
(D)課税長期譲渡所得金額
 課税長期譲渡所得金額は、前記(A)の総収入金額から(B)の取得費等及び(C)の特別控除額を控除すると10,970,000円となる。
 以上の結果、請求人の平成7年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額は、本件更正処分に係る課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、異議審理等の手続の違法性の存否及び本件規定の適用の可否にあるので、以下審理する。

(1)異議審理等の手続について

イ 請求人は、異議審理庁が本件異議決定書に記載した理由は、維持される処分を正当とする理由になっておらず、また、異議申立理由にも対応していないから、国税通則法第84条第5項の規定及び不服審査基本通達84―17の定めに違反する旨主張する。
 しかしながら、異議審理庁は、本件異議決定書に維持される処分を正当とする理由を記載していることが認められ、また、審査請求においては、異議審理手続の違法を理由として、原処分の取消しを求めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、答弁書には、本件異議決定書と同一の理由しか記載しておらず、国税通則法第93条第2項の規定及び不服審査基本通達93―1の定めに違反する旨主張する。
 しかしながら、答弁書の記載の仕方の違法を理由として、原処分の取消しを求めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

イ 所得税法第157条の規定の適用
(イ)次のことについては、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A M社は、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、請求人は、同社の株主で代表取締役であること。
B M社は、本件契約を締結し、本件経理処理をしたこと。
C 請求人は、本件土地を昭和62年2月25日に有限会社Nから売買により9,000,000円で取得したこと。
D 本件底地の譲渡に係る総収入金額は11,000,000円であり、本件地上権の譲渡に係る総収入金額は10,000,000円であること。
(ロ)請求人は、当審判所に対し、M社の本件地上権の受入れ及び譲渡については、取締役会を開催して意思決定したものではなく、また、本件地上権の金額を10,000,000円とした根拠は、借地権の受入価額を相場より高い価額にすることによって、課税庁から指摘を受けない、しかもきりのいい金額とした旨の答述をしている。
(ハ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、原処分に係る調査の担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件土地は、昭和62年ごろからS社に駐車場用地として賃貸していたが、地代の交渉のたびにS社から売ってほしい旨の申し込みを受け、そのたびに断っていたところ、平成6年の秋ごろ、S社から、本件土地に建物を建てさせてくれるか本件土地を売ってほしいとの強い要望があり、応じてもらえなければ別のところへ移転すると言われた。
 そこで、対応を検討し、平成7年2月ごろ、M社に本件土地を貸してその上に建物を建てさせ、その建物をS社に貸すことを考え、同年4月ごろ、その話をS社の代表取締役であるL(以下「L」という。)にしたところ、ほとんど話しも聞かずにS社の売上不振によるリストラの話しをするため、S社に本件土地を長期間貸すことが不安になり、最終的には譲渡することにした。
(B)本件契約を平成7年3月15日に締結した理由は、M社が本件事業年度の決算で赤字になりそうであったため、本件事業年度中に収益を計上したかったからである。
(C)本件契約を公正証書にした理由は、本件契約書を内輪で作成したため、税務署を含め第三者に認めてほしかったからである。
(D)M社が本件地上権の金額を10,000,000円にした理由は、本件土地の時価相場が当時坪220,000円ないし230,000円であり、相続税の借地権の評価割合が自用地の相続税評価額の4割であったことから、借地権価額を10,000,000円として本件土地の価額を逆算すると総額で25,000,000円となり、時価相場より高くなるので、税務署からもクレームがつかない金額であると考えたからである。
B Lは、原処分に係る調査の担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件土地は、請求人から駐車場用地として賃借していたが、当該土地に事務所兼荷さばき場を建てたかったため、以前から売ってほしい旨申し込んでいたが断られていた。
(B)平成6年の秋ごろ、請求人に本件土地を売ってくれるか本件土地に建物を建てさせてほしい、それがだめなら別のところに移転すると言ったが、そのままの状態で貸すと言われて断られた。
 また、同じころ、請求人から建物を建てて貸すという話があったが、私が断ったのでその後はなかった。
(C)平成7年1月中旬、坪200,000円で買いたい旨申し込んだが断られた。
 しかし、請求人は値段が折り合えば売りそうな気配であったので、その後も値段の交渉をした。
 その結果、平成7年4月初旬、坪300,000円で購入することで話が成立した。
(D)本件土地に地上権が設定されていることは、平成7年4月初旬、請求人から本件譲渡に係る売買契約書の見本を見せられて初めて知った。
C 請求人とS社との間で締結された平成4年8月10日の駐車場使用契約書によれば、本件土地の賃料は、月額100,000円であり、その後、この契約内容で本件譲渡時まで更新されていること。
D 本件契締書には、請求人は本件土地にM社を権利者とする地上権を無償で設定する旨及び地上権設定の目的は堅固な建物所有のためである旨記載されているが、M社は、本件契約の日から本件譲渡の日までに本件土地に建物又は構築物等を建築した事実はなく、建築に関する計画、設計及び見積り等もないこと。
E M社とS社との間においては、地上権等を含め本件土地の使用に関する賃貸借契約等は締結されておらず、また、請求人とS社との間で締結されていた駐車場使用契約が本件譲渡の日までに解除された事実もないこと。
F 請求人は、S社に対し、本件土地の賃料を本件契約締結後も引き続き本件預金口座に振り込ませ、その後、M社の郵便貯金口座に振り込んでいること。
G 本件譲渡においては、本件譲渡の日に譲渡代金の決済が行われ、所有権移転登記も完了していること。
H M社の本件事業年度の法人税申告書においては、本件経理処理を行い、繰越欠損金の当期控除額5,455,261円を控除しても、なお18,223,197円の繰越欠損金があること。
I M社がS社から受領した本件契約の日から本件譲渡の日までの期間に係る受取地代は173,340円であること。
J 請求人が平成7年中に納付した本件土地に係る固定資産税額は116,700円であり、また、本件土地の譲渡に伴いS社から受領した固定資産税に相当する金額は104,583円であること。
K 請求人が本件土地の取得の際に要した印紙代は10,000円であり、本件譲渡の際に要した印紙代は20,000円であること。
(ニ)請求人は、本件契約をM社が赤字法人であることを奇貨として譲渡代金の分散を図る目的でしたものではなく、また、本件契約は、同族会社の株主等も含まれる通常の経済人の行為として不合理、不自然でもなく、請求人の所得税を不当に減少させるものでもないから、本件規定を適用すべきではない旨主張する。
A ところで、所得税法第157条には、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には、その株主若しくは社員等である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができる旨規定されている。
 この本件規定の目的は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、現実に同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を利用した異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、換言すれば、同族会社が株主等との間で行った行為又は計算が、経済的合理性を欠き、その結果、株主等の所得税の負担を不当に減少させる場合には、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直して、更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものであると解されており、同族会社という形式を利用して株主等の所得税の負担が減少させられるのを防ぐものである。
 なお、ここでいう同族会社の行為又は計算とは、同族会社を当事者とする株主等の所得計算上の行為であると解される。
 また、同族会社が株主等との間で行った行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由が存在しないと認められる場合のみでなく、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合をも含むと解され、否認の要件としては、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として、株主等の所得税の負担が減少すれば十分であって、租税回避の意図ないし租税負担を減少させる意図が存在することは必要ではないと解されている。
 このことから、本件規定の適用要件は、(a)同族会社の行為又は計算が存在すること、(b)同族会社の行為又は計算が株主等の側からみて経済的合理性を欠くこと、(c)同族会社の行為又は計算の結果、株主等の所得税の負担が不当に減少したことであると解される。
 そして、所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かは、同族会社の行為又は計算を容認したとして算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきと解される。
B そこで、前記Aの本件規定の適用要件を本件についてみると、次のとおりである。
(A)同族会社の行為又は計算の存在
 前記(イ)のA及びBのとおり、M社が同族会社であること及びM社が同社の株主で代表取締役である請求人との間で、本件契約を締結したことに争いはないところ、この本件契約を締結した行為が同族会社の行為又は計算に当たると認められる。
(B)M社の行為又は計算の経済的合理性
 本件契約締結前においては、前記(ハ)のAの(A)並びに(ハ)のBの(A)、(B)及び(C)のとおり、請求人は、本件土地について、以前からS社の買い申し込みを受けていたところ、(a)平成6年の秋ごろ以降、S社から、強い買い申込みがあったこと及び(b)請求人又はM社が建物を建てて賃貸することについては、S社が断っていること等が認められる。
 また、本件契約の締結に当たっては、前記(ロ)並びに(ハ)のAの(B)、(C)、(D)及びHのとおり、(a)請求人は、請求人及びM社の課税関係等を十分意識し、借地権等の設定が譲渡所得の基因となる資産の移転には含まれないことを承知した上で本件契約を締結したこと及び(b)M社の本件地上権の受入れについては、取締役会を開催して意思決定したものではないこと等が認められる。
 さらに、本件契約締結後においては、前記(ハ)のBの(D)、D、E、F及びGのとおり、(a)M社には、本件土地に建物の建築に関する計画等もないこと、(b)S社は、本件地上権の設定について知らされなかったこと及び(c)本件地上権は、本件底地と併せて本件契約締結後2か月にも満たない間に譲渡していること等が認められる。
 そうすると、請求人及びM社が本件底地及び本件地上権を譲渡するに至った一連の行為の事情からして、本件契約の締結を正当化するに足る合理的な理由を見い出すことはできず、また、本件契約を締結した行為は、請求人の側からみて独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為ではなく、請求人も自認するようにM社が請求人を同族関係者とする同族会社であるがゆえになし得た行為であり、経済的合理性を欠く行為と認められる。
(C)所得税の不当減少の有無
 本件契約を締結した行為が請求人の所得税の負担を減少させる結果となっていることについては請求人も認めているところ、後記ロの請求人の課税総所得金額等を基に算定した請求人の納付すべき税額と請求人が第二次修正申告書に記載した納付すべき税額とを比較すると、次表のとおりのかい離があるので、本件契約を締結した行為は、請求人の所得税の負担を不当に減少させていると認められる。

(単位 円)
区分金額
後記ロの課税総所得金額等を基に算定した納付すべき税額(1)2,245,700
第二次修正申告書に記載された納付すべき税額(2)△269,170
納付すべき税額の差額((1)−(2))2,514,800

 以上のことから、原処分庁が、本件譲渡に係る総収入金額及びS社から支払われた平成7年1月1日から本件譲渡の日までの期間に係る本件土地の賃料のすべてが請求人に帰属するものとして、請求人に対し、本件規定を適用したことは、相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)請求人は、原処分庁が本件規定を適用したことは、借地権等の設定について、所得税法第59条第1項の規定の適用がないということについての納税者の予見可能性を無視したものであり、本件通達の趣旨に反し、著しく信頼を損なうから、本件規定を適用すべきではない旨主張する。
 ところで、所得税法第59条第1項は、請求人が主張するように、借地権等の設定について、みなし譲渡課税をする旨規定していない。
 しかしながら、本件規定の趣旨、目的及び適用要件については、前記(ニ)のAのとおりであるから、借地権等の設定が、所得税法第59条第1項に規定するみなし譲渡課税の対象とされないことをもって本件規定が適用できないとするものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 課税総所得金額等
(イ)総所得金額等
A 不動産所得の金額等
(A)総収入金額
 総収入金額は、前記イのことから、請求人が第二次修正申告書に記載した地代収入250,000円に、前記イの(ハ)のIのとおり、M社がS社から受領した受取地代173,340円を加算して算定すると423,340円となる。
(B)必要経費の額
 必要経費の額は、前記イの(ハ)のJのとおり、請求人が平成7年中に納付した本件土地に係る固定資産税額116,700円から、本件土地の譲渡に伴い請求人がS社から受領した固定資産税に相当する金額104,583円を減算して算定すると12,117円となる。
(C)不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、前記(A)の総収入金額から(B)の必要経費の額を控除して算定すると411,223円となる。
B 給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人が第二次修正申告書に記載した3,300,000円である。
C 総所得金額
 総所得金額は、前記Aの(C)の不動産所得の金額にBの給与所得の金額を加算して算定すると3,711,223円となる。
(ロ)所得控除の額
 所得控除の額は、請求人が第二次修正申告書に記載した社会保険料控除の額444,600円、損害保険料控除の額3,000円、配偶者控除の額380,000円、扶養控除の額1,140,000円及び基礎控除の額380,000円を合計した2,347,600円となる。
 なお、前記(イ)のCの総所得金額と後記(ニ)のEの課税長期譲渡所得金額の計算上控除する特別控除額を控除する前の金額の合計金額が10,000,000円を超えることから、所得税法第83条の2第2項の規定により、配偶者特別控除の適用はない。
(ハ)課税総所得金額
 課税総所得金額は、前記(イ)のCの総所得金額から、(ロ)の所得控除の額を控除して算出した金額から1,000円未満の端数を切り捨てて算定すると1,363,000円となる。
(ニ)課税長期譲渡所得金額等
A 本件土地は、前記イの(イ)のCのとおり、請求人が所有していた期間が5年を超えているので、本件土地の譲渡に係る所得は、租税特別措置法第31条に規定する長期譲渡所得となる。
B 総収入金額
 長期譲渡所得の総収入金額は、前記イのことから、請求人が第二次修正申告書に記載した11,000,000円に、前記イの(イ)のDの本件地上権の譲渡に係る譲渡代金10,000,000円を加算して算定すると21,000,000円となる。
C 取得費等
(A)取得費は、前記イの(イ)のCの本件土地に係る取得価額9,000,000円に、前記イの(ハ)のKの取得の際に要した印紙代10,000円を合計した9,010,000円である。
(B)譲渡費用の額は、前記イの(ハ)のKの本件譲渡の際に要した印紙代20,000円である。
D 特別控除額
 特別控除額は、前記Aのとおり、本件土地の譲渡に係る所得が長期譲渡所得となるので、1,000,000円である。
E 課税長期譲渡所得金額
 課税長期譲渡所得金額は、前記Bの総収入金額からCの取得費等及びDの特別控除額を控除して算定すると10,970,000円となる。
 以上の結果、請求人の平成7年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額は、本件更正処分に係る課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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