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(平10.6.30裁決、裁決事例集No.55 248頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建設土木業を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成8年6月26日付で平成5年5月、平成6年5月及び平成7年5月の各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、次表のとおり納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下、本件納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分を併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。

(単位 円)
(区分)項目平成5年5月分平成6年5月分平成7年5月分
(納税告知処分)
所得の種類給与給与給与
源泉所得税の額1,227,9413,164,5781,875,365
(賦課決定処分)
不納付加算税の額122,000316,000187,000

 請求人は、本件納税告知処分等を不服として、平成8年7月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年10月31日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年11月26日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
 請求人は、請求人の役員及び従業員(以下「従事員」という。)並びにその家族、取引先による平成5年5月2日から同月5日までの九州慰安旅行(以下「平成5年分旅行」という。)に係る費用9,800,000円、平成6年4月29日から同年5月4日までのハワイ慰安旅行(以下「平成6年分旅行」という。)に係る費用25,600,000円及び平成7年5月3日から同月6日までの沖縄慰安旅行(以下「平成7年分旅行」といい、平成5年分旅行及び平成6年分旅行と併せて「本件各旅行」という。)に係る費用17,700,000円のうち、参加人の負担額を除いた費用(以下「本件各旅行費用」という。)をその支出のあった日の属する事業年度の福利厚生費として経理処理したところ、原処分庁は、このうち、本件各旅行に参加した従事員(以下「本件旅行参加者」という。)及びその家族に係る費用部分(以下「本件参加者各旅行費用」という。)について、次表の金額を本件旅行参加者に対する臨時的な給与と認定し、納税告知処分をした。

 しかしながら、本件参加者各旅行費用は次に述べるとおり福利厚生費とすべきものであるから、本件旅行参加者に対する給与所得として課税することはできない。
(イ)福利厚生費について
 福利厚生費とは、使用人等の教養を高め、生活と労働環境を改善し労働意欲を向上させ、明日の活力を養成し、かつ、企業の将来のために企業から使用人等に与えられるものである。
 一方、給与所得とは、使用人等が企業に対して一定の労働力を提供した対価であり福利厚生費と給与所得とではその本質は全く異なるものである。
 そして、所得税法には福利厚生費を給与所得として課税する旨の規定がない。
 また、所得税法第36条《収入金額》第1項に規定する経済的利益については、給与所得に係る経済的利益のみが給与所得の収入金額となるものと考える。つまり、給与所得に係る経済的利益と、福利厚生行事における経済的利益は法的に区別されなければならず、給与か福利厚生費かの区別に当たっては、上述のとおりその本質から考えるべきであって、金額の多寡や行事が社会通念上一般的か否かは考慮する必要がない。
 請求人が実施した本件各旅行は、本件旅行参加者及びその家族を含めた者の資質の向上を目的として行われたものであり、正に福利厚生費に該当する支出である。
(ロ)利益享受の選択性
 一般に行われる福利厚生行事に係る使用人等が受ける利益について、給与所得としての課税が行われない理由は、使用人等には当該利益の享受に選択性がなく、課税になじまない所得であるからである。
 請求人の場合、本件各旅行の実施時期、実施場所及び実施内容については請求人の従事員の意向を一切加味せず請求人が一方的に決定しており、不参加者には手当の支給をしていないことから、本件旅行参加者は本件各旅行から受ける利益を自由に処分することはできず、利益享受に対する選択性はない。
(ハ)本件各旅行の特殊性
 原処分庁は、本件各旅行に係る経済的利益の価額がいずれも多額であり、また、社会通念上一般的に行われている福利厚生行事とは認められないとしている。
 しかしながら、本件各旅行の実施時期を選択するに当たっては、得意先からの業務上の要請がない、いわゆるゴールデンウィークとしたことから、本件各旅行に係る費用が極めて割高になったもので、本件旅行参加者には利益の享受に選択性がなく、請求人には本件各旅行を割高の時期に実施せざるを得ない特殊事情があったことを考慮すれば、本件各旅行の特殊性を十分検討した上で評価すべきであり、原処分庁が本件各旅行費用についてその全額を課税の対象としたことについては合理性がない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、不納付加算税の賦課決定処分も取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)課税の根拠
A 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の場合にはその価額)とする旨規定しており、役員又は使用人が、その職務に関して使用者から受ける給与以外の名目の金銭や無償の便益等の経済的利益は、その経済的利益の金額の多寡にかかわらず、給与所得に係る収入金額となると解される。
B このことは、役員又は使用人が福利厚生行事において、使用者から受ける経済的な利益の供与も同様であるが、(a)役員又は使用人は、必ずしも希望しないレクリエーション行事に参加せざるを得ない面があり、また、その経済的な利益を自由に処分することができないこと、(b)レクリエーション行事に参加することによって、役員又は使用人が受ける経済的な利益の価額は少額であるのが通常である上、その評価が困難な場合も少なくないことから、使用者が費用を負担してレクリエーション行事を行うことが一般化している当該レクリエーション行事に係る経済的利益については、強いて課税しないこととしている。
C また、役員又は使用人の慰安旅行は、運動会、演芸会、新年会、忘年会等レクリエーション行事と同様、役員又は使用人の慰安、社内の親睦・融和及び人間関係の緊密化等を図るとともに、勤労意欲の向上を目的として行われる福利厚生行事の一つであるところ、役員又は使用人の慰安旅行が社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事であるか否かの判断に当たっては、当該旅行の企画立案、主催者・規模・行程、役員又は使用人の参加割合、使用者及び参加使用人の負担額、両者の負担割合等を総合的に考慮すべきであるが、上記のとおり強いて課税しないことの主旨からすれば、慰安旅行に参加した役員又は使用人の受ける経済的な利益の価額が多額であれば、強いて課税しないとする理由を失うと解するのが相当である。
D 本件各旅行に係る本件旅行参加者及びその家族の1人当たりの費用は、平成5年分旅行192,003円、平成6年分旅行449,918円及び平成7年分旅行260,332円であり、本件旅行参加者の家族に係る費用も請求人が負担するなど本件各旅行が社会通念上一般的に行われている福利厚生行事とは認められない。
 なお、本件旅行参加者の家族に係る経済的な利益は、本件旅行参加者に帰属すると解される。
 そうすると、本件旅行参加者は給与所得に係る経済的な利益を受けたものと認められる。
(ロ)請求人の個別の主張について
A 所得税法第28条《給与所得》第1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」と規定しているところ、請求人が本件各旅行費用を負担したのは請求人と雇用関係等のある従事員のためであり、また、本件旅行参加者は請求人の従事員たる地位に基づいて経済的利益を受けているのであるから、その受けた利益は給与所得に係る収入といわざるを得ない。
 そして、上記(イ)のとおり所得税法第36条第1項の規定によれば、経済的な利益の価額も給与所得の収入金額に算入すべきものであるから、給付された経済的利益に選択性がないからという理由で給与等の支給に該当しないという請求人の主張は、独自の見解であって、理由がない。
B また、収入金額に算入すべき経済的利益の評価については所得税法第36条第2項に「当該利益を享受する時における価額」と規定されているから、本件各旅行のように用役の提供を受けた場合の経済的利益の額は、その用役について通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と使用人等が実際に支払った対価の額との差額とするのが相当であり、本件各旅行費用についてその全額を課税の対象としたことに合理性がないとする請求人の主張にも理由がない。
(ハ)本件納税告知処分
A 本件各旅行に係る費用を請求人が負担したことは、上記(ロ)のとおり、本件旅行参加者に対して経済的利益を与えたものと認められ、従事員の給与所得になるから、請求人は所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項の規定により、源泉所得税を徴収し、法定納期限までに、これを国に納付しなければならなかったことになる。
B 本件旅行参加者に対する経済的利益の額は、個別に算出するのが相当であると認められる。
 そこで、本件各旅行費用につき別表1から別表3までの「請求人負担額」欄に記載した各人別の経済的利益の額を基に、所得税法第186条《賞与に係る徴収税額》の規定により経済的な利益を受けた本件旅行参加者の各月分の源泉所得税の額を計算すると別表4から別表6までの「源泉所得税の追徴税額」欄に記載したとおりになり、その合計額は次表のとおりである。
 これらの金額は、いずれも本件納税告知処分に係る源泉所得税の額と同額になるから、本件納税告知処分は適法である。

ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件参加者各旅行費用が本件旅行参加者の給与所得に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)本件納税告知処分について

イ 当審判所の調査による事実
 当審判所が原処分関係資料等及び請求人の提出書類等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)原処分関係資料等の調査
A 請求人は、本件各旅行を実施していること。また、H株式会社N支店及び同社K支店が作成した「旅行費明細書」と題する旅行精算資料(以下「本件旅行費明細書」という。)によれば、本件各旅行の期間、内容、参加人員及び旅行費用は次表のとおりであること。

旅行の期間及び内容参加人員旅行費用用
平成5年5月2日から5月5日まで内32人9,800,000円
九州慰安旅行(3泊4日)51
平成6年4月29日から5月4日まで内2625,600,000円
ハワイ慰安旅行(4泊6日)55
平成7年5月3日から5月6日まで内2917,700,000円
沖縄慰安旅行(3泊4日)68

(注)「参加人員」欄の内書は、従事員の参加人員を示す。
B 本件旅行費明細書及び給料支払明細書の参加人負担額によれば、本件各旅行に参加した各人別の費用並びに参加者及び請求人の負担額は、別表1から別表3までのとおりであること。
C 請求人は、本件各旅行に係る各人別の支出額について、別表1から別表3までの「旅行費用の額」欄の額から「参加人負担額」欄の額を除いた「請求人負担額」欄の合計額(本件各旅行費用)を各事業年度の福利厚生費として損金の額に算入していること。
D 本件各旅行に係る費用のうち本件参加者各旅行費用は、得意先の従業員等に対する支出額を除いて計算すると、平成5年分旅行9,408,186円、平成6年分旅行22,495,906円及び平成7年分旅行15,359,619円であること。
E 本件各旅行に係る本件参加者各旅行費用の1人当たり平均額は、平成5年分旅行約192,003円、平成6年分旅行約449,918円及び平成7年分旅行約260,332円であること。
(ロ)請求人の専務取締役Fの答述
 請求人の専務取締役Fは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件各旅行は、請求人の従業員及びその家族にある程度以上の社会経験をしてもらうことで従業員の定着化とその資質の向上を図ることを目的としており、宴会旅行ではなく一種の社会研修の意味合いも含んでいる。
B 本件各旅行への参加については、パンフレットを作成し募集している。
C 本件各旅行への不参加者に対し、手当の支給は一切していない。
D 請求人においては旅行積立ては一切なく、平成6年分旅行及び平成7年分旅行のオプション部分について半額程度の負担を求めたことを除き、本件各旅行費用は全額請求人が負担している。
ロ 法令等の解釈
(イ)所得税法第28条第1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」と規定しており、当該規定の趣旨は、使用者が役員又は使用人に対して支出するもので、役員又は使用人による役務の提供の対価たる性質を有するものは、その名目のいかんを問わず給与所得に該当することを示していると解される。また、同法第36条第1項は、その年分の各種所得金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の場合にはその価額)とする旨規定しており、経済的な利益をも含め、収入すべき権利が確定したときはその時点で給与等の収入金額とすることを明らかにしている。
 そして、経済的利益とは、使用者が(a)物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡したことによる経済的利益、(b)土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けたことによる経済的利益、(C)福利厚生施設の利用などの用役を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益、(d)個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益等をいうと解され、これらが、使用者から役員又は使用人のために支出されるものであれば、所得税法第9条《非課税所得》及び所得税法施行令第21条《非課税とされる職務上必要な給付》などによって非課税とされることが明示されている場合を除き、所得税法第28条に規定する給与所得に該当するものである。
 さらに、所得税法第36条第2項は、経済的利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
 したがって、役員又は使用人がその職務に関し使用者から受ける給与以外の名目の経済的利益は、その経済的利益の多寡にかかわらず給与所得に係る収入金額となり、その価額は、経済的利益を取得又は享受する時の価額により算定することとなる。
(ロ)このことは、使用者が負担するレクリエーション等の福利厚生行事において、経済的利益の供与を受けた場合も同様であるが、(a)役員又は使用人は、経営委任又は雇用されている関係上、必ずしも希望しない福利厚生行事に参加せざるを得ない面があり、その経済的利益を自由に処分できるわけでもないこと、(b)福利厚生行事に参加することによって役員又は使用人が受ける経済的利益の価額は少額であるのが通常である上、その評価が困難な場合も少なくないこと及び(c)役員又は使用人の慰安を図るため使用者が費用を負担して福利厚生行事を行うことは一般化していることから、当該福利厚生行事が社会通念上一般的に行われているものと認められる範囲内のものである場合には、国民感情を考慮して課税しないことと解するのが相当である。
 また、役員又は使用人の慰安旅行は、運動会、演芸会、新年会、忘年会等と同様、従業員等の慰安、社内の親睦・融和及び人間関係の緊密化等を図るとともに、勤労意欲の向上を目的として行われる福利厚生行事の一つであるところ、役員又は使用人の慰安旅行が社会通念上一般的に行われているものと認められる範囲内の福利厚生行事であるか否かの判断に当たっては、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員の参加割合、使用者及び参加従業員の負担額、両者の負担割合等を総合的に考慮すべきであるが、上述した課税しないことの趣旨からすれば、とりわけ参加役員又は使用人の受ける経済的利益の価額、すなわち使用者の負担額が重視されるべきである。
 したがって、参加者一人当たりの経済的利益の価額が社会通念上認められる範囲を逸脱し多額であれば、課税しないとする根拠を失うと解するのが相当である。
ハ 基本的判断
 上記イの各事実を上記ロの法令等に照らし判断すると、以下のとおりである。
 まず、本件各旅行が社会通念上一般に行われている福利厚生行事に当たるか否かを判断すると、本件旅行に係る本件参加者各旅行費用の1人当たりの平均額は、平成5年分旅行約192,003円、平成6年分旅行約449,918円及び平成7年分旅行約260,332円であることから、上記ロの社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内の福利厚生行事の経済的利益については課税しないとの趣旨からすれば、当該金額はあまりにも多額であり、また、従事員の家族が参加し、その旅行費用まで請求人がほとんど全額を負担していることを考慮すると、本件各旅行が社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内の福利厚生行事と同程度のものとは認められない。
 そうすると、請求人は、本件各旅行の実施によって、本件旅行参加者に対して経済的利益を供与したものと認められるので、本件各旅行費用は、請求人が本件旅行参加者に対して支給した所得税法第28条第1項に規定する給与等と認めるのが相当である。
 なお、本件旅行参加者の家族に係る経済的な利益は、本件旅行参加者が負担すべき費用を本件旅行参加者に代わって請求人が負担したものと認められることから、本件旅行参加者に帰属すると認められる。
ニ 個別の争点の判断
(イ)福利厚生費について
 請求人は、福利厚生費と給与所得とではその本質が全く異なり、明確に区別されなければならず、また、所得税法には福利厚生費を給与所得として課税する旨の規定がないから福利厚生費に該当する支出を給与所得として課税することはできない旨主張する。
 しかしながら、福利厚生費は役員又は使用人の慰安、勤労意欲の向上、組織内の親睦、組織機能の活性化等を目的として使用者が役員又は使用人のために支出し、当該支出によって、役員又は使用人はそれらの地位に基づき当該経済的利益を享受するものと解され、役員又は使用人が受ける当該経済的利益は、原則として所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当するものである。
 そして、上記ロのとおり、社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内の福利厚生行事の経済的利益は、課税しないことと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)利益享受の選択性
 請求人は、本件旅行参加者には本件各旅行から受ける経済的利益を自由に処分することはできず、また、経済的利益の享受に対する選択性がないから当該経済的利益を給与所得として課税することはできない旨主張する。
 しかしながら、所得税法第36条第1項によれば、金銭以外の物又は権利その他の経済的利益の価額は収入金額に算入すべき旨規定されており、現物で支給されるものや経済的利益の供与など、現金で支給されず、役員又は使用人が自由に管理支配できないような形式によるものであっても、使用者が役員又は使用人に対し、又はそれらの者のために支出する金品で、それらの者に帰属することが明らかであるものは、原則として給与所得に係る収入金額とされると解される。
 したがって、仮に本件参加者各旅行費用が本件旅行参加者が自由に選択、処分できない形式の経済的利益であるとしても、当該金員は給与所得に係る収入金額となるのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)本件各旅行の特殊性
 請求人は、本件各旅行は割高の時期に実施せざるを得ず、また、本件旅行参加者には経済的利益の享受に選択性がないことを併せ考慮すれば、本件参加者各旅行費用の全額を課税対象とすることには合理性がない旨主張する。
 しかしながら、所得税法第36条第2項には経済的利益の価額の算定に当たっては、当該経済的利益の享受の時の価額による旨規定されており、本件各旅行による経済的利益を享受した時とは、本件各旅行が実施された時であり、享受の時の価額とは、請求人が負担した旅行費用の価額であることは明白である。なお、割高な時期の旅行はそれだけ旅行の価値が高いがゆえに割高であると考えるのが自然であり合理的である。
 また、経済的利益の享受の選択性については、従事員の本件各旅行への参加、家族の帯同等は自由なのであり、そのことを別にしても、それが当該価額の算定に影響を及ぼす事項とは認められない。
 よって、原処分庁が、給与所得に係る収入金額に算入すべき金額を、本件各旅行に係る本件旅行参加者及びその家族の請求人負担費用の額として、別表1から別表3までの「請求人負担額」欄を基に算定したことには、合理性が認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 審理の結果
 上記ハのとおり、本件旅行参加者は請求人から経済的利益を受けたことになり、その所得は給与所得に該当するから、請求人は、所得税法第183条第1項の規定により源泉所得税を徴収し、法定納期限までにこれを国に納付しなければならないところ、請求人はこれをしていない。
 そこで、別表1から別表3までの各人別の本件各旅行費用の額を基に、所得税法第186条の規定により本件旅行参加者に係る源泉所得税の額を計算すると、別表7から別表9までの「審判所の認定額」欄のとおりとなり、平成5年5月及び平成7年5月の各月分の源泉所得税額は、納税告知処分に係る源泉所得税の額を上回るから、これらの月分に係る納税告知処分は適法であり、平成6年5月分の源泉所得税額は、納税告知処分に係る源泉所得税の額を下回ることとなるから、平成6年5月分の納税告知処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)不納付加算税の賦課決定処分について

 請求人は、平成5年5月、平成6年5月及び平成7年5月の各月分の源泉所得税の納付に当たり、原処分庁が不納付加算税の計算の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を納付すべき税額の計算の基礎としておらず、またそのことについて、国税通則法第67条第1項に規定する正当な理由があったとは認められない。
 したがって、当該減額される部分以外の税額を計算の基礎とする部分に係る不納付加算税の賦課決定処分は適法である。
 ところで、不納付加算税の計算の基礎となる税額は平成6年5月分3,150,000円であるから、不納付加算税の額は315,000円となるところ、この金額は、平成6年5月分の賦課決定処分に係る金額316,000円を下回るから平成6年5月分の賦課決定処分の一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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