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(平10.1.29裁決、裁決事例集No.55 273頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、電機部品卸売業を営む非同族会社であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成9年1月31日付で平成6年1月から平成8年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表1の「納税告知処分」欄のとおりの各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)をした。
 請求人は、本件納税告知処分を不服として、平成9年2月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月30日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり納税告知処分の一部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年6月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分の手続について
(イ)原処分庁は、請求人に係る源泉所得税の調査(以下「原処分調査」という。)において、過去の調査とは異なり、調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に調査結果を説明させず、請求人に話合いや反論の機会も与えないまま一方的に本件納税告知処分をした。
(ロ)過去の請求人に係る原処分庁の源泉所得税の調査において、帰郷交通費の取扱いについて問題にされなかったが、今回、請求人のS支店長のF、同T支店長のG、同T支店第一課長のH、同本社電気部第一課長のJ(以下、順次「F」、「G」、「H」、「J」といい、これらを併せて「単身赴任者」という。)に対して支給した帰郷交通費(以下「本件帰郷交通費」という。)について、過去3年間にさかのぼって本件納税告知処分を受けた。
ロ 帰郷交通費について
(イ)平成6年1月から平成8年12月までの各月分の本件帰郷交通費の金額については争わない。
(ロ)本件帰郷交通費は、単身赴任者を単に帰郷させるための旅行に対して旅費を支給したものではなく、業務報告をさせるための旅行に付随した帰宅のための旅行に対して旅費を支給したものであり、実際に単身赴任者から口頭による業務報告を受けていることから、所得税法第9条《非課税所得》第1項第4号に規定する給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行した場合、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものに該当しており、非課税所得である。
(ハ)請求人は、単身赴任者が本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行をした場合に、単身赴任者に対して業務報告書の作成は義務付けていないが、口頭による業務報告は義務付けている。
 なお、原処分庁が過去の請求人に係る源泉所得税の調査で特に問題としなかったことから、請求人としては、業務報告は口頭によるもので十分であると認識していた。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 納税告知処分の手続について
(イ)原処分庁は、原処分調査の最終日である平成9年1月16日に、請求人の常務取締役であるK(以下「K」という。)、経理部長であるL(以下「L」という。)及び経理課長であるM(以下「M」という。)に対し、調査担当職員から調査結果を説明している。
(ロ)国税通則法(以下「通則法」という。)第36条《納税の告知》において、税務署長は、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定されている。
 ところで、納税の告知の法的性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者に履行を請求する行為、すなわち徴収処分というべきであって、支払者の源泉所得税の納税義務は既に当該所得の支払の時に確定しているものである以上、その請求たる納税の告知は通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》により国税の徴収権が時効で消滅するまではこれをなし得ると解されており、同条第1項において、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことにより、時効により消滅する旨規定されている。
 したがって、本件納税告知処分は、いずれも法定納期限から5年を経過する前に行われており、何ら違法はなく、請求人の主張には理由がない。
ロ 帰郷交通費について
(イ)本件帰郷交通費については、次の事実が認められる。
A 請求人の給与関係内規に定める別居手当の規定には、転勤のためやむを得ず扶養親族と別居する場合に月1回の帰郷交通費を支給する旨の規定があり、その支給の基礎となる金額は、帰郷に係る交通費の金額のみであり、対象となる旅行日はほぼ土曜日、日曜日等の請求人の休日である。
B 異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、請求人の代表取締役副社長であるN(以下「N」という。)は、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に際して単身赴任者は業務報告を行っていると認識しているが、業務報告を義務付けてはいないし、それを具体的に証明できる客観的な報告書等の作成も行っていない旨申述している。
C 原処分調査時及び異議調査時において、請求人は、本件帰郷交通費を支給した旅行に際して単身赴任者が業務報告を行っていることを具体的に証明する資料を提示していない。
(ロ)所得税法第28条《給与所得》第1項において、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有するものをいう旨規定され、同法第6条《源泉徴収義務者》では、同法第28条第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある旨規定されている。
 また、所得税法第9条第1項第4号において、給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行した場合、その旅行に必要な支出に充てるために支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものについては、所得税を課さない旨規定されている。
 さらに、単身赴任者が職務遂行上必要な旅行に付随して帰宅のための旅行を行った場合に支給される旅費については、これらの旅行目的、行路等からみて、これらの旅行が主として職務遂行上必要な旅行と認められ、かつ、当該旅費の額が所得税基本通達9―3《非課税とされる旅費の範囲》に定める非課税とされる旅費の範囲を著しく逸脱しない限り、非課税として取り扱われている。
(ハ)以上のことから、本件帰郷交通費は、単身赴任者が旅行時に業務報告をしているとは認められず、かつ、請求人の給与関係内規に定める別居手当の一部として支払われていると認められることから、上記(ロ)の非課税所得とされる旅費には該当せず、原泉徴収の課税対象となる給与所得としてその支給額に対して源泉徴収すべきものと認められる。
 したがって、請求人の本件帰郷交通費は業務報告させるための旅行に付随した帰宅のための旅行に対して旅費を支給したものである旨の主張には理由がない。
ハ 源泉所得税の額について
 単身赴任者ごとの本件帰郷交通費に対する源泉所得税の額は、本件帰郷交通費として支給した金額に対して所得税法第190条《年末調整》の規定により源泉所得税額の再計算をした別表2及び別表3のとおりであり、その結果、請求人が同法第183条《源泉徴収義務》第1項の規定により納付すべき源泉所得税の額は、次表の税額欄のとおりとなる。

(単位 円)
年月税額年月税額年月税額
6.17,5097.17,3268.19,941
6.24,4597.27,8158.25,861
6.34,4597.35,6358.32,233
6.44,7507.45,6358.45,861
6.54,4597.56,0218.512,113
6.64,4597.65,6358.63,402
6.74,4597.75,6358.78,332
6.84,7507.85,9998.811,464
6.91,7007.95,6358.98,898
6.104,4597.105,6358.107,835
6.114,4597.112,1838.117,842
6.124,5787.125,6468.124,218

 したがって、平成6年1月分、同年4月分、同年8月分、平成7年1月分、同年2月分、同年5月分、平成8年1月分、同年5月分、同年8月分、同年9月分の各納税告知処分はいずれもこの範囲で行われており、平成6年2月分、同年3月分、同年5月分から同年7月分まで、同年9月分から同年12月分まで、平成7年3月分、同年4月分、同年6月分から同年12月分まで、平成8年2月分から同年4月分まで、同年6月分、同年7月分、同年10月分から同年12月分までの各納税告知処分はいずれもこれと同額で行われているので適法である。

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3 判断

(1)納税告知処分の手続について

 請求人は、本件納税告知処分の手続について不当である旨主張するので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)原処分調査は、平成9年1月13日及び同月16日に、所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項第2号に基づき行われた。
(ロ)Nは、異議審理庁に対し、次のとおり申述している。
A 請求人は、これまでのW国税局及び原処分庁の調査において一度として否認事項等の指摘を受けたことがなく、日々正しい申告に努めてきたにもかかわらず、原処分庁は原処分調査において急に帰郷交通費の課税についての指摘をし、そのうえ、過去3年まで遡及して課税した。
B さらに、原処分庁は、原処分調査の結果を一方的に電話により連絡したのみで、十分な話合いや説明もなく一方的に本件納税告知処分をした。
(ハ)Lは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 平成9年1月13日及び同月16日の原処分調査中において、帰郷交通費は一般的に給与と認定して課税している旨を調査担当職員から説明を受けており、調査結果についても、同月一六日に、税務署に帰ってから検討して連絡する旨同人から説明を受けた。
B 平成9年1月24日に税務署から電話があり、本件帰郷交通費について、給与と認定して3年間課税すると言われた。
C Nの指示に基づき、平成9年1月27日に、K、X税理士(以下「X税理士」という。)と私が税務署へ出かけ、調査担当職員に調査結果の説明を求めたが、「本件帰郷交通費については、給与と認定して3年間課税することとしてすでに上司に決裁を回した。」と言われ、抗弁の余地はなかった。
(ニ)調査担当職員は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 原処分調査中において、帰郷交通費は所得税法上給与所得になる旨説明をし、進行年度(請求人の事業年度は5月1日より翌年4月30日まで)を含め3年間の支払金額を請求人の方で調べるように依頼したところ、請求人から現在の各月の支払額を基に3年間分を算出することにしたいとの申出を受けた。
B 平成9年1月16日の午後5時ころ、調査担当職員はL、M及びX税理士に対し、本件帰郷交通費は一般的には給与所得に該当する旨を再度説明し、海外取引のコミッションの課税の可否等他の調査事項も含め、検討して連絡する旨伝えた。
C 平成9年1月下旬に、調査担当職員は本件帰郷交通費については課税の対象になるが、その他の調査事項については問題はなかった旨電話で連絡した。
D 平成9年1月27日、税務署に出署したK、L及びX税理士から「本件帰郷交通費は進行年度分から給与にするので、過去の年分はなんとかしてください。」との要請があったが、調査担当職員は本件帰郷交通費は給与として課税されるものである旨説明した。
ロ 上記の事実等に基づいて判断すると、次のとおりである。
 原処分調査は、所得税法第234条第1項第2号に基づき適法に行われており、調査担当職員は調査結果を請求人の代表取締役社長及びNに直接説明していないが、(a)上記(ハ)のA及び(ニ)のA、Bによれば、原処分調査の最終日である平成9年1月16日に、調査担当職員は、本件帰郷交通費は一般的に給与所得に該当すること及び原処分調査におけるその他の疑問点があり、それらを税務署に戻って検討する旨をLに説明したこと、(b)上記(ハ)のB及び(ニ)のCによれば、平成9年1月24日に、調査担当職員は、検討した調査事項について、電話でLに対して本件帰郷交通費については給与と認定して3年間課税するが、その他の調査事項は問題ない旨伝えていること、(c)上記(ハ)のC及び(ニ)のDによれば、Nの指示に基づきL、K及びX税理士が出署した平成9年1月27日に、調査担当職員は、Lらに本件帰郷交通費は給与と認定している旨、また、3年間課税を要する旨を説明していることが認められる。
 以上のことから、原処分庁は、請求人に対して原処分調査の結果について十分な説明をせず、一方的な納税の告知をしたとは認められない。
 なお、所得税法上、調査結果を説明しなければならない旨を定めた法の規定はないことからしても本件納税告知処分に違法又は不当はない。
ハ 通則法第36条において、税務署長は、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定されている。
 ところで、納税の告知の法的性質は税額の確定した国税債権につき納期限を指定して納税義務者に履行を請求する行為、すなわち徴収処分というべきであって、支払者の源泉所得税の納税義務は既に当該所得の支払の時に確定しているものである以上、その請求たる納税の告知は通則法第72条により国税の徴収権が時効で消滅するまではこれをなし得ると解されている。
 すなわち、通則法第72条第1項において、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことにより、時効により消滅する旨規定されており、本件納税告知処分は過去3年間にさかのぼっているが、いずれも法定納期限から5年を経過する前に行われていることから何ら違法はない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)本件帰郷交通費について

 請求人は、本件帰郷交通費が所得税法上非課税とされている旅費であるから、原処分は違法、不当である旨主張するので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件帰郷交通費は、給与関係内規に定める別居手当の規定に基づき、単身赴任者に1か月に1回支給され、請求人の旅費交通費勘定で処理されており、その支給額は実費交通費の額である。
(ロ)原処分調査時及び異議調査時において、請求人は、本件帰郷交通費の支給の対象となった旅行に際して単身赴任者が義務報告を行っていることを具体的に証明する資料を提示していない。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料等及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の役員及び従業員に対する給与は、昭和43年1月21日から実施されている賃金規定に基づいて支給されており、給与等の源泉徴収については、支店も含め本社で一括して行われている。
(ロ)「給与関係内規」(直前の一部変更は平成5年3月16日、はっきりした実施日は不明)において、別居手当に関し「転勤のため、やむを得ず扶養親族と別居する場合は常務会にて審査の上、下記手当を支給する」旨の記載がある。

(単位 円)
職階家族配偶者その他
上級職及び役職者20,00010,000
一般職15,00010,000
初級職他10,00010,000
上記の他、月1回の帰郷交通費

 なお、「給与関係内規」には、本件帰郷交通費の対象となる旅行に際して業務報告をしなければならない旨の規定はない。
(ハ)出張に関する旅費は、昭和34年10月21日から実施されている出張旅費規定(直前の改定は昭和63年11月1日、以下「旅費規定」という。)によって支給されており、旅費規定には次の記載がある。
第2条 出張を行わんとする者は
1.目的
2.行先
3.出発予定日時
4.帰着予定日時
5.予算額
を明記の出張稟議書を稟議規定に従い、上長に提出し、上長の承認を得なければならない。
第3条 出張した者は帰社の上直ちに出張報告書を提出しなければならない。
第4条 所要の経費は帰社後2日以内に精算するものとし、支払稟議書により稟議規定に従い上長に提出しなければならない。
(ニ)F、G、Hには、毎月第2火曜日開催の販売会議及び第3金曜日開催の部課長会議に出席するための本社への出張に対し、旅費規定に基づいた旅費が支給されているほか、月1回の本件帰郷交通費が支給されている。
 また、Jには、月1回の本件帰郷交通費が支給されている。
(ホ)請求人の旅費交通費の支払稟議書によると、単身赴任者が毎月の販売会議及び部課長会議に出席するために支給する旅費(以下「会議出席旅費」という。)及び本件帰郷交通費は次のとおり支給されている。
A Fについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は6枚つづりのS、W間の新幹線回数券を交付している。
 なお、新幹線回数券を使用できないときの帰郷交通費はS、W間の往復交通費を現金で支給している。
B Gについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、P、Q間の往復交通費を現金で支給している。
C Hについては、会議出席旅費は旅費規定に基づき精算を行っているが、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、P、R間の往復交通費を現金で支給している。
D Jについては、本件帰郷交通費は毎月1回支払稟議書の摘要欄に「月度帰省費」と記載して、W、P間の往復交通費を現金で支給している。
(ヘ)単身赴任者の自宅の住所等は次のとおりである。

氏名勤務先及び役職単身開始月配偶者等扶養家族の居住地
FS支店の支店長平成3年5月E市
GT支店の支店長平成5年5月Q市
HT支店の第一課長平成8年5月R市
J本社の電気部第一課長平成8年5月T市

(ト)Nは、異議審理庁に対し、次のとおり申述している。
A 請求人は、社員を大切にすることを理念としており、単身赴任者は請求人の命令で単身赴任をさせているのであるから、本件帰郷交通費を請求人が負担することは当たり前のことである。
B 本件帰郷交通費を支給することを定めた時に、単身赴任者は帰郷に際して営業部門の責任者であるY取締役に業務報告をするというルールを決めたので、同人が義務報告を受けているものと理解している。
 また、現在は本部長制に制度が変更されたため、営業本部長のZが業務報告を受けていると聞いており、同人がいない場合は他の本部長が業務報告を受けると思うが、現在まで特に他の本部長が業務報告を受けたことはない。
 なお、業務報告は義務付けているものではないため、業務報告書などの書類としては何も作成していない。
C 業務報告は、金曜日の夕方4時ころからか、又は、月曜日の朝8時半ころから行っているものと思う。そして、月曜日ならば受給者は報告後はすぐに各支店へ戻っていく。
D 平日に本社が旅費を支払っているのは、通常は第2火曜日の販売会議、第3金曜日の部課長会議の月2回のはずで、この会議は強制的に受給者を本社へ戻すものであるから当然平日になる。
E 受給者は単身赴任者であるから帰郷日は当然休日であり、平日に帰郷しておれば休暇を取らせる。
F Jに対しても本件帰郷交通費が支給されているが、本来、本社から支店への業務報告はないので社内的にも認められないことになり、明らかに請求人の誤りであることから、平成9年6月以降は本件帰郷交通費を支給しないこととしている。
 したがって、Jについては、業務報告などはない。
(チ)Nは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 給与関係内規に定める別居手当は業務命令により単身赴任する者が二重生活となることから、その負担を軽減するために定めたものであり、本件帰郷交通費についても帰郷に要する交通費の負担軽減のため、原則として単身赴任者のすべてに月1回実費を支給してきたものである。
 なお、別居手当は、本人から単身赴任する旨の申出があった場合、常務以上が出席して行う常務会にて審査して支給することになっているが、常務会の議事録にはこの程度のことは記載していない。
B 本件帰郷交通費の支払については、旅費規定第4条に定める「支払稟議書」を使用しているが、同第2条に定める「出張稟議書及び出張許可書」及び同第3条に定める「出張報告書」は使用していない。
C 本件帰郷交通費は旅費規定に基づいて支給するものではなく、給与関係内規に定める別居手当の規定に基づいて支給するものである。
D 業務報告は、支店に勤務する者が業務の内容等を本社に対して行うもので、本社においては下部の者が上部の者に対して行うものである。
 単身赴任者には帰郷日の前後の日に、口頭による業務報告を義務付けており、上長(営業担当役員、現在は営業本部長)に対し、口頭により業務報告が行われていると思うが、業務報告を受けたことが客観的に分かる報告書の作成を義務付けていないし、業務報告を具体的に証明する資料もない。
E Jは平成8年5月にT支店より本社に赴任しており、T支店の社員との業務打合せ等を行わせていたので、本件帰郷交通費を支給していたが、本来は旅費規定で支給すべきものと思う。
(リ)Lは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 本件帰郷交通費に係る支払稟議書の記載内容は、過去3年間同様である。
B 本件帰郷交通費については、支払稟議書に基づき、(a)Fには、会議等業務に係るものも含め、新幹線の回数券(6枚つづり)を交付していたが、回数券を使用できない場合等は新幹線料金を現金で支払っており、(b)G、H、Jには新幹線料金を現金で支払っていた。
C 本件帰郷交通費に係る帰郷日については、(a)Fは、新幹線の回数券(6枚つづり)の表紙の裏面に帰郷日が記載されているものは特定でき、現金で支給したものは支払稟議書に帰郷日が記載されていれば特定できる、(b)G、H、Jは、支払稟議書に帰郷日が記載されているものは特定できる。
D 本社の営業日は、通常は暦のとおりの休祭日を除く月曜日から金曜日までである。そのほか、盆の3日間、年末年始の間は休業する。
 また、月曜日の営業開始時刻は午前8時45分で、金曜日の終業時刻は、時間外勤務のない場合は午後5時30分である。
 なお、営業本部長の退社時刻は一定していないが、通常は午後7時半ころである。
(ヌ)Lは、当審判所に対して、電話で次のとおり回答している。
A 本件帰郷交通費を除く別居手当は、役職ごとに毎月の給与に加算して支給しており、当然源泉徴収を行って納付している。
B 本件帰郷交通費は、旅費交通費勘定で経理しているので、源泉徴収はしていない。
ハ そこで、上記の事実等に基づいて総合的に判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人の給与関係内規に定める別居手当は、業務命令により単身赴任者が二重生活となることから、その負担を軽減するために支給されるものであり、本件帰郷交通費についても、請求人が単身赴任者の本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に要する交通費の負担を軽減するため給与関係内規に定める別居手当の規定に基づいて支給されるものであり、旅費規定に基づいて支給されるものではないこと。
(ロ)請求人は、本社において、毎月第2火曜日に販売会議、第3金曜日に部課長会議を開催しており、この2回の会議において、各支店から業務報告を受けていることは認められるが、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行日が単身赴任者に任されており、あらかじめ決められているものでなく、かつ、特定できない旅行日がある等、当該旅行日に業務報告を受ける理由が認められないこと。
(ハ)請求人には、単身赴任者の本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行に際して、出張報告書の提出及び口頭による業務報告をしなければならない旨の規定がないこと、また、それらの業務報告を受けたことが具体的に明らかにできる書類、資料もないこと。
(ニ)Jの自宅はT市であるが、本社から支店に対する業務報告はあり得ないことから、同人に支給された本件帰郷交通費は社内的にも認められないものであること。
(ホ)以上のことから、本件帰郷交通費の支給の対象となる旅行は、所得税法第9条第1項4号に規定する非課税とされる職務を遂行するための旅行に当たらず、本件帰郷交通費は同法第28条第1項の給与所得に該当することになり、請求人はその支給に際しては同法第6条及び第183条第1項の規定により所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)源泉所得税の額について

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は所得税法第183条第1項の規定により徴収すべき源泉所得税の額の計算を行っており、これらの金額は本件納税告知処分(異議決定による一部取消しの後のもの)の額と同類であるか上回っているので適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表1

(単位 円)
期間区分所得の種類納税告知処分異議決定
 (源泉所得税の額)(源泉所得税の額)
平成6年1月分給与4,7414,741
平成6年2月分給与4,7414,459
平成6年3月分給与4,7414,459
平成6年4月分給与4,7414,741
平成6年5月分給与4,7414,459
平成6年6月分給与4,7414,459
平成6年7月分給与4,7414,459
平成6年8月分給与4,7414,741
平成6年9月分給与4,7411,700
平成6年10月分給与4,7414,459
平成6年11月分給与4,7414,459
平成6年12月分給与4,7494,578
平成7年1月分給与6,0006,000
平成7年2月分給与6,0006,000
平成7年3月分給与6,0005,635
平成7年4月分給与6,0005,635
平成7年5月分給与6,0006,000
平成7年6月分給与6,0005,635
平成7年7月分給与6,0005,635
平成7年8月分給与6,0005,999
平成7年9月分給与6,0005,635
平成7年10月分給与6,0005,635
平成7年11月分給与6,0002,183
平成7年12月分給与6,0005,646
平成8年1月分給与6,2336,233
平成8年2月分給与6,2335,861
平成8年3月分給与6,2332,233
平成8年4月分給与6,2335,861
平成8年5月分給与8,4078,407
平成8年6月分給与8,4073,402
平成8年7月分給与8,4078,332
平成8年8月分給与8,4078,407
平成8年9月分給与8,4078,407
平成8年10月分給与8,4077,835
平成8年11月分給与8,4077,842
平成8年12月分給与8,4194,218

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