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(平10.4.30裁決、裁決事例集No.55 341頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社員であるが、平成6年分の所得税について、青色申告書以外の確定申告書(分離課税用、以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年7月8日付で次表の「原処分」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分確定申告原処分
分離長期譲渡1,293,66010,468,300
所得の金額
納付すべき税額168,7002,370,700
過少申告加算税の額305,000

 請求人は、上記各処分を不服として平成8年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月18日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年1月17日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 異議決定について
 異議審理庁は、平成8年12月18日付の異議決定(以下「本件異議決定」という。)において、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)の適用について、誤った法律の解釈及び適用をした。
ロ 更正処分について
(イ)請求人、請求人の母F(以下「F」という。)及び請求人の弟G(以下「G」といい、これらの者を併せて「請求人ら」という。)は、平成6年4月15日付で次表の順号1の土地及び同2の土地のうち請求人らの持分の土地(以下、これらの土地を併せて「本件土地」という。)をXに50,000,000円で譲渡する旨の土地売買契約を締結し(以下、この譲渡を「本件譲渡」といい、この契約を「本件売買契約」といい、契約書を「本件売買契約書」という。)、同年5月24日に引き渡した。

(ロ)請求人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、以前本件土地上に存した居宅兼工場の建物(S市J町2丁目4811番1所在、木造瓦葺平家建床面積48.76平方メートル、以下「本件建物」という。)のうち居住用部分(住宅部分80パーセント、以下「本件建物居住用部分」という。)の占める割合に相当する金額について本件特例を適用して、本件確定申告書を提出した。
 原処分庁は、これに対し、本件建物は請求人が所有者として居住の用に供していた家屋とは認められないから、本件特例の適用はできないとして更正処分をした。
(ハ)しかしながら、次のとおり、本件建物居住用部分に相当する金額については、本件特例が適用されるべきである。
A 請求人の父K(以下「K」という。)は、本件土地及び本件建物を所有していたが、本件建物は平成5年10月17日に火災で全焼した。
 そこで、Kは、請求人らとS市R町4丁目12番8号所在の賃借建物に仮住まいし、本件土地を売却して得た資金で土地及び建物を買い換えようとしていたが、平成6年1月28日に死亡した。
B 請求人らは、本件建物が火災で滅失するまでの間、本件建物居住用部分でKと長年同居して生計を一にし、さらに本件建物が災害滅失した後も上記Aの仮住まいで同居して生計を一にしてきたから、本件建物居住用部分については本件特例の居住の用に供している家屋に該当する。
C Kが生存中に本件土地を措置法第35条に定める所定の期間内に譲渡すれば、当然に本件特例の適用が受けられたものであるところ、(1)請求人らは、Kの死亡により本件土地の現実の占有を承継していること、(2)相続とは地位の承継と解されており、請求人らはKの財産的地位を包括的に承継していることからして、請求人らは相続によりKに属していた本件特例の適用を受けられる地位を承継している。
 なお、租税特別措置法施行令第20条《長期譲渡所得の課税の特例》第2項の規定をみても、長期譲渡所得の課税の特例の適用条件である譲渡資産の所有期間について、相続、遺贈があった場合には被相続人が取得した日の翌日から引き続き所有していたものとみなす旨の規定があり、所有期間の承継を認めている。
D 本件特例は、個人が居住の用に供している家屋及びその敷地等を譲渡するような場合には、これに代わる居住用財産を取得するのが通常であるなど一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、かつ、担税力も高くない例が多いこと等を考慮して設けられた特例であるから、当該家屋が居住の用に供されなくなった後、相続が介在したときは、被相続人と当該家屋を居住の用に供していた相続人とを同一人格として一体としてみるべきである。そうでなければ、被相続人が生存していた場合の同人に対する課税に比し、相続人が課税上不利益を受けることとなり不合理である。
 また、措置法は、譲渡所得の課税について、妥当な課税が行われるよう弾力的かつ合理的に運用されているが、これは課税が国民に対して酷にならず、合理的で社会的妥当性を持つよう配慮されているからである。
 そうすると、Kは、本件建物が災害滅失した後のわずか3か月後に死亡し、さらにその4か月後に請求人らが本件土地をXに譲渡したものであるから、請求人に担税力のないことは明白であり、ただ単に相続が介在したとの一事をもって本件特例の適用を否定することは、措置法の趣旨に反し、請求人に対し酷で不合理、かつ、社会的妥当性を欠くこととなる。
E 原処分庁は、請求人に対し、本件確定申告書に関して本件建物の使用状況の計算根拠について文書で照会しているが(以下、この照会を「本件文書照会」という。)、このことは本件特例が適用されることを前提としていたことは明らかである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、所得税の更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 異議決定について
 請求人は、本件異議決定は法律の解釈及び適用を誤った違法がある旨主張するが、審査請求において、本件異議決定の違法を理由に原処分の取消しを求めることはできない。
 なお、異議審理手続は、適法に行われている。
ロ 更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A Kが所有していた本件建物は、平成5年10月17日に火災で全焼していること。
B Kは、平成5年11月19日付で本件建物の焼失を原因とする建物滅失登記申請をし、同月24日に本件建物の登記簿は閉鎖されていること。
C 戸籍謄本によれば、Kは平成6年1月28日に死亡していること。
D 請求人らは、平成6年4月15日付で本件土地をXへ50,000,000円で譲渡する旨の本件売買契約を締結し、同日付でXから手付金として3,000,000円を、同年5月23日付でX及びY(以下、両者を併せて「Xら」という。)から残金として47,000,000円をそれぞれ受領した旨の領収証を発行していること。
E 登記簿謄本によれば、本件土地は、平成6年5月24日付で相続を原因としてKから請求人らへ、また、同日付で売買を原因として請求人らからXらへそれぞれ所有権移転登記がされていること。
(ロ)措置法第35条第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋の譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合(以下「本件特例前半部分」という。)又は災害により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡を当該家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合(以下「本件特例後半部分」という。)には、30,000,000円と当該資産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額とのいずれか低い金額を長期譲渡所得の特別控除額とする旨規定している。
 そして、本件特例後半部分は、当該家屋を居住の用に供しなくなった後の所定期間内の譲渡は依然社会通念上居住用財産の譲渡といいうるとみて、これにつき本件特例を認めるものと解されていることから、本件特例前半部分と統一的に理解すべきものであるので、当該個人が、当該家屋を譲渡所得の帰属者の立場において、すなわち、その所有者として居住の用に供していたことを本件特例を認めるための要件としなければならないと解されている。
(ハ)そうすると、上記(イ)の各事実のとおり、請求人は本件土地を本件建物が滅失した後にKから相続し、その後、本件売買契約が請求人らとXとの間で成立し履行された事実が認められるところ、請求人が本件建物の所有者として居住の用に供していた事実は認められないので、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特例の適用は認められないと解するのが相当である。
(ニ)請求人は、相続によりKに属していた本件特例の適用を受けられる地位を承継した旨主張するが、本件特例は、土地を譲渡した時に初めてその譲渡が本件特例の要件に該当するかどうか判断されるべきものであり、土地の譲渡が行われていない段階において、本件特例の適用が受けられる地位は発生するものではないから、本件特例の適用について相続人が相続によって承継する地位はない。
(ホ)請求人は、相続が介在したとの一事をもって本件特例の適用を否定することは、措置法の弾力的制度・運用の趣旨に反し、請求人に対し酷で不合理、かつ、社会的妥当性を欠く旨主張するが、本件譲渡が本件特例の要件に該当しないことは上記(ハ)で述べたとおりであり、また、措置法は、一定の政策目的から定められた特則・例外規定であるから、その解釈、適用は厳格にされなければならないものと解するのが相当である。
(ヘ)請求人は、本件確定申告書に関し、原処分庁は本件文書照会をしており、このことは本件特例が適用されることを前提としていたことは明らかである旨主張するが、これは、請求人の提出した本件確定申告書に本件建物居住用部分の分かる書類が添付されていなかったことから、単にその計算根拠を確認するために家屋見取図等を請求したもので、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特例の適用を前提として照会したものではない。
(ト)以上述べたとおり、請求人は、本件建物の所有者として居住の用に供していた事実は認められないことから、本件特例の適用を認めないとした原処分は適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

(1)異議決定について

 請求人は、本件異議決定は法律の解釈及び適用を誤った違法があるとして原処分の取消しを求めるが、審査請求において、本件異議決定の違法を理由に原処分の取消しを求めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

 譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特例の適用があるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次の各事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査したところによっても、その事実が認められる。
(イ)請求人らは、平成6年4月15日付で本件土地をXへ50,000,000円で譲渡する旨の本件売買契約書を作成していること。
(ロ)登記簿謄本によれば、本件土地は、平成6年5月24日付で同年1月28日の相続を原因としてKから請求人らへ、また、同日付で同年5月23日の売買を原因として請求人らからXらへそれぞれ所有権移転登記がされていること。
(ハ)請求人らが発行した領収証によれば、請求人らは、本件土地の売買代金として平成6年4月15日に手付金3,000,000円を、同年5月23日に残金47,000,000円をそれぞれ受領していること。
(ニ)W県S市消防本部消防長は、平成5年10月20日付で同月17日にS市J町2丁目3番2号に所在するK所有の本件建物が火災にあった旨の「り災証明書」(証明書第○○号)を発行していること。
(ホ)登記済証によれば、Kは、平成5年11月19日付で本件建物の同年10月17日焼失を原因とする建物滅失登記申請をし、同月24日に本件建物の登記簿は閉鎖されていること。
(ヘ)戸籍謄本によれば、Kは、平成6年1月28日に死亡していること。
(ト)S市長証明の住民票(除票)によれば、請求人は、Kとともに昭和34年10月22日に本件土地上に転入し、平成5年11月1日にS市R町4丁目12番8号に転居し、平成6年4月4日に現住所地であるT市P町103番地の4へ転出していること。
ロ 原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、「譲渡資産の内訳書」を本件確定申告書に添付して原処分庁に提出しており、当該内訳書には、請求人の譲渡代金、取得費及び譲渡費用の各金額はいずれも本件建物の居住用割合80パーセントを乗じた後の金額である旨記載されているが、本件建物の使用状況等その計算根拠を明らかにする書類は添付されていなかったこと。
(ロ)原処分庁は、請求人に対し、平成7年5月8日付で「平成6年分譲渡所得関係書類の提出について」と題する文書を送付し、「事業割合算定根拠となる家屋見取図等」を提出するよう照会していること。
(ハ)請求人は、本件文書照会について本件建物の平面見取図を記載した書面を原処分庁に提出したこと。
ハ ところで、措置法第35条第1項は、次に該当する場合の譲渡について、30,000,000円と当該資産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額とのいずれか低い金額を長期譲渡所得の特別控除額とする旨規定している。
(イ)個人がその居住の用に供している家屋の譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合
(ロ)個人がその居住の用に供していた家屋で、その居住の用に供されなくなったものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合(家屋をその居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡したものに限る。)
(ハ)個人がその居住の用に供していた家屋が災害により滅失し、その災害があった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に当該家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡をした場合
ニ この規定は、個人が自ら居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があることから、所得税の負担を軽減してその取得を容易にすること等を考慮して設けられたものである。
 そして、本件特例の適用を受けるためには、個人が当該家屋を譲渡所得の帰属者の立場において、すなわち、その所有者として居住の用に供していたことを要件とするものと解されている。
ホ そこで、上記イ及びロの事実を上記ハ及びニに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件建物が火災で滅失するまでの間、本件建物居住用部分においてKと長年同居して生計を一にし、さらに同人とはその後も同居し生計を一にしてきたから、本件建物居住用部分については居住の用に供している家屋に該当する旨主張する。
 確かに、上記イの(ヘ)及び(ト)のとおり、請求人は、火災で滅失した本件建物に平成5年10月17日まで居住し、その後もKと同居していたことは認められる。
 しかしながら、上記ニのとおり、本件特例は譲渡所得の帰属者の立場において適用されるものであるところ、請求人において本件建物を居住の用に供している家屋というためには、単に請求人が本件建物に居住していた、あるいはKと生計を一にしていたというだけでは足りず、請求人が本件建物の所有者として居住の用に供していたことを要件として判断すべきである。
 そうすると、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件建物の所有者はKであり、請求人が本件建物の所有者として居住の用に供していたとは認められないから、本件特例の適用は認められないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、相続によりKに属していた本件特例の適用を受けられる地位を承継した旨主張する。
 しかしながら、上記ハのとおり、本件特例の適用対象となるか否かは、個人がその居住用財産を譲渡した時において判断すべきところ、上記イの(イ)ないし(ハ)のとおり、請求人が本件土地を譲渡したのは請求人が相続を開始した後であると認められ、本件譲渡が行われていない段階において、本件特例の適用が受けられる地位は発生するものではないから、請求人が相続によって本件特例の適用を受けられる地位を承継することはあり得ない。
 また、たとえ請求人らがKの死亡により「本件土地の現実の占有の承継」及び「Kの財産的地位の包括的承継」をしていたとしても、本件特例の適用を認める余地はないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件特例の適用を否定することは、措置法の趣旨に反し、請求人に対し酷で不合理、かつ、社会的妥当性を欠く旨主張するが、本件譲渡が本件特例の適用対象とならないことは上記(イ)で述べたとおりであり、措置法は一定の政策目的から租税負担の原則の特例を定めるものである以上、その解釈、適用は厳格にされなければならないものであって、これを安易に拡大して解釈することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件確定申告書に関し、原処分庁が本件文書照会をしているが、このことは本件特例が適用されることを前提としていたことは明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記ロの各事実をみると、請求人は、本件譲渡に係る譲渡代金、取得費及び譲渡費用について本件建物の居住用割合を乗じて計算しており、原処分庁がその申告内容について正しいか否かを検討するためには、本件建物の使用状況の計算根拠が分かる書類が必要であったと認められ、本件文書照会はその計算根拠を確認するためにされたものであって、本件特例が適用されることを前提として照会したものではないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上審理したところによれば、原処分庁が、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特例に基づく特別控除額を控除せず、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定による長期譲渡所得の特別控除額を控除して行った更正処分は適法である。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)及び(2)のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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