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(平10.3.11裁決、裁決事例集No.55 466頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年8月22日に死亡したT(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、本件相続開始前3年以内である平成5年2月1日に被相続人から20,000,000円の贈与を受けたことなどを記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成8年10月11日に提出したが、平成5年分の贈与税について、申告書を提出しなかった。
 原処分庁は、これに対し、平成8年12月4日付で、平成5年分の贈与税について、課税価格を20,000,000円及び納付すべき税額を8,020,000円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)並びに無申告加算税の額を1,203,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年12月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成9年2月12日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)原処分庁は、平成5年2月1日にF銀行G支店の被相続人名義の定期預金(以下「Fの定期預金」という。)45,000,000円が解約されていること、そのうち現金で出金された20,000,000円をもって、同月3日にH銀行J支店(現K銀行L支店、以下「K銀行L支店」という。)の請求人名義の定期預金(以下「本件定期預金」という。)が設定されていることなどを理由として、被相続人から請求人に対し20,000,000円の贈与があったと認定しているが、これは次のとおり誤りである。
A 請求人は、当時入退院を繰り返していた被相続人から生活資金としてFの定期預金45,000,000円のうち20,000,000円を預かったものであるところ、本件定期預金は、この20,000,000円と請求人自身が常に手元に置いていた30,000,000円程度の現金を合わせた中から設定したものであり、被相続人から預かった20,000,000円が直接本件定期預金に設定されたものではない。
B 仮に贈与の事実があったとしても、請求人は平成5年7月13日にM銀行P支店に被相続人名義で10,000,000円の定期預金を設定しているから、これを控除した残額の10,000,000円をもって課税価格とすべきである。
C 原処分庁は、請求人が本件修正申告書を提出したのは、贈与の事実を認めたからである旨主張するが、請求人が本件修正申告書を提出したのは、調査担当者の理解が得られずに6か月に及んだ長期調査からの開放を望んだこと、また、税理士から妥協を勧められたことによるものであり、不本意ながら提出したものである。
(ロ)仮に贈与の事実があったとしても、本件決定処分は、次のとおり、相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の解釈を誤った違法なものである。
A 相続税法第19条は、「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第15条から前条までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする。」旨規定している。
 同条の規定によれば、贈与税の課税手続がされていなかった贈与財産であっても、相続税の課税価格に加算して相続税の課税手続をすれば、当該贈与財産に対する課税手続は終了したことになるものと解すべきである。
 なお、相続税法第19条がこのような趣旨の規定であることは、昭和34年1月28日付直資10「相続税法基本通達の全部改正について」長官通達(以下「基本通達」という。)19―5《「課せられた贈与税」の意義》において、「この場合において、当該贈与税については、速やかに課税手続をとることに留意する。」旨定められていることからも明らかである。
B これを本件についてみると、請求人は本件修正申告書により20,000,000円を相続税の課税価格に加算して相続税の課税手続を行ったのであるから、当該金員に対する課税手続はこれにより終了し、贈与税の課税対象とはならないものというべきである。原処分庁は、本件修正申告書の提出日に至るまで請求人に対し贈与税の申告のしょうようも課税手続も行わなかったにもかかわらず、請求人が20,000,000円を本件相続に係る相続財産とみなして相続税の課税手続を終了した後に、遡及して贈与税を課す旨の本件決定処分をしたが、これは課税の順序を逆にしており、相続税法第19条の規定の趣旨を逸脱したものというほかない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件決定処分は違法であるから、本件賦課決定処分も取り消すべきである。
 仮に、本件決定処分が適法であるとしても、請求人は、本件修正申告により20,000,000円を本件相続に係る相続財産とみなして相続税の課税価格に加算して申告しているから無申告加算税ではなく過少申告加算税の対象とされるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるので、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)請求人が被相続人から20,000,000円の贈与を受けたとしてされた本件決定処分は、次のとおり適法である。
A 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、平成5年2月1日に被相続人から20,000,000円の預貯金の贈与を受けた旨記載した本件修正申告書を平成8年10月11日に提出している。
(B)F銀行G支店の外交員は、異議審理庁の担当職員(以下「異議担当職員」という。)
に対し、請求人の指示で平成5年2月1日にFの定期預金45,000,000円を解約し、20,000,000円を請求人宅に届けた旨申述している。
 なお、Fの定期預金45,000,000円は、被相続人が所有していたQ市の土地の売却代金の一部である。
(C)K銀行L支店の外交員は、異議担当職員に対し、平成5年2月3日に請求人宅において、請求人から20,000,000円を本件定期預金に設定するよう指示を受け、実行した旨申述している。
 さらに、本件定期預金の満期日前に請求人宅に赴き、請求人から継続等の手続に係る指示を受けた旨申述している。
B 上記Aの各事実から判断すると、請求人は、平成5年2月1日に被相続人から20,000,000円の贈与を受け、同月3日に当該金員をもって本件定期預金を設定し、その後も本件定期預金を請求人が維持管理していた事実が認められるところ、この事実はK銀行の入金伝票等からも明らかである。
 また、請求人も20,000,000円に係る贈与の事実を認めて、本件修正申告書を提出しているものである。
 請求人は、本件修正申告書の提出は本意でなかった旨主張するが、当該申告書は請求人自身が作成して原処分庁の受付に提出しているものであって、かかる主張は理由がない。
C したがって、請求人は、20,000,000円に係る贈与について、平成5年分の贈与税の申告書を提出すべきところ、これを提出しなかったものであるから、本件決定処分は適法である。
(ロ)請求人は、本件決定処分は相続税法第19条の解釈を誤った違法なものである旨主張するが、これは次のとおり理由がない。
A 相続税法第19条は、贈与税が相続税の補完税であることから、本来ならば生前に贈与した財産のすべてを合わせて相続税の計算をすることが望ましいが、現実には不可能であるため、相続開始前3年以内に贈与された財産を相続財産に加算することによって、生前に贈与した場合としなかった場合との調整を図ることを目的としたものである。
 また、基本通達19―5は、相続税法第19条に規定する「課せられた贈与税」には、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》の規定により更正又は決定をすることができなくなった贈与税を除いて、相続開始前3年以内の贈与財産に対して課されるべき贈与税も含まれ、当該贈与税については速やかに課税手続をとることに留意する旨定めているところである。
B 上記Aの相続税法第19条の趣旨及びこれを受けて定められた基本通達19―5にかんがみれば、贈与財産について相続財産とみなされて相続税の課税手続を行ったとしても、当該贈与財産に係る贈与税の課税関係が消滅するものではなく、国税通則法第70条に規定する期間内にされた本件決定処分に請求人主張の違法事由はない。
 なお、請求人は、原処分庁が本件修正申告書の提出日に至るまで請求人に対し贈与税の申告のしょうようをしなかった旨主張するが、原処分庁は、請求人の顧問税理士に対し、再三にわたり連絡をとり、接触に努めていたものである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は適法であり、また、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。
 なお、請求人は本件修正申告書の提出をもって20,000,000円に係る贈与税の申告がされた旨主張するようであるが、本件修正申告書が相続税法第28条《贈与税の申告書》に規定する贈与税の申告書でないことは明らかであるから、当該主張は理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、20,000,000円の贈与事実の有無及び本件修正申告書の提出に伴う相続税の課税手続により当該贈与に係る贈与税の納税義務が消滅したか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)Fの定期預金45,000,000円は、被相続人が平成元年7月3日にその所有するQ市R町所在の土地を売却した際の譲渡代金の一部であるところ、当該定期預金は、平成5年2月1日に解約され、そのうち25,000,000円をもって、同日F銀行G支店の被相続人名義の定期預金が設定され、残金の20,000,000円は現金で出金されている。
(ロ)平成5年2月3日に22,000,000円の本件定期預金が設定されている。また、同日、K銀行L支店の請求人名義の定期預金2,000,000円が解約されている。
 なお、本件定期預金は平成6年2月3日に自動継続されている。
(ハ)平成5年7月13日にM銀行P支店に被相続人名義の10,000,000円の定期預金が設定されている。
(ニ)請求人は、本件相続開始に係る相続税の申告書を法定申告期限内である平成7年4月24日に提出したが、原処分庁から申告漏れの財産があるとの指摘を受け、預貯金14,846,126円及びその他の財産4,341,152円を取得財産の価額に加算し、また、本件相続開始前3年以内である平成5年2月1日に被相続人から贈与を受けた20,000,000円を純資産価額に加算される贈与財産価額である旨記載した本件修正申告書を平成8年10月11日に提出した。
 なお、本件修正申告書には、「平成8年4月から6か月にも及ぶ長期調査で相続人にも心労が重なってきております。ご指摘の項目のうち現時点で納得できた事項についてのみとりあえず修正申告します。」と記載された書面が添付されている。
(ホ)請求人は、20,000,000円の贈与に係る平成5年分の贈与税について、相続税法第28条に規定する贈与税の申告書を提出していない。
(ヘ)請求人の代理人は、当審判所に対し要旨次のとおり答述している。
A Fの定期預金45,000,000円の解約は、当時被相続人が資金の出し入れをしていた状況などからみると、おそらく被相続人の行為と思われる。
B 解約したFの定期預金45,000,000円のうち25,000,000円は被相続人名義の定期預金とし、残金の20,000,000円は請求人が被相続人から生活資金として預かった。
C 本件定期預金とされた20,000,000円の預入れは、請求人が外交員を通じて手続したものと思われる。当該定期預金は、生活資金として被相続人から預かった20,000,000円と請求人自身の手元に置いていた30,000,000円の中から預けたものであるが、その内訳となる生活資金と手持資金の区別は明らかにできない。
D 請求人は、平成5年7月13日M銀行P支店に被相続人名義で10,000,000円の定期預金を設定したが、その資金は平成5年2月1日に預かった20,000,000円の一部であり、他の預金から発生したものではない。
E 本件修正申告書に記載した請求人名義の20,000,000円の預金は、平成5年2月3日に設定したK銀行L支店の定期預金であり、これをみなし財産として加算した。
 本件修正申告書は、20,000,000円を相続税の課税価格に加算しても、配偶者控除等の関係で相続税は変わらないからと、代理人が請求人を説得して提出したものである。
(ト)請求人は、当審判所に対して要旨次のとおり答述している。
A Fの定期預金45,000,000円の解約は、今となってははっきり分からないが、被相続人がしたと思う。このうち、現金20,000,000円を生活資金として預かったことについてははっきり覚えていない。
B 当時は被相続人から生活費として、毎月決まった金額をもらうわけではなく、必要な都度少なくとも300,000円程度の金員をもらっていたと思う。
 30,000,000円ぐらいをいつも手元に置いていたことは覚えがない。相続開始前の収入は、国民年金を2か月で90,000円程度もらっていたが、これ以外の収入・所得はない。
C 平成5年2月3日に設定された本件定期預金については覚えていない。また、平成5年7月13日に被相続人名義で設定されたM銀行P支店の10,000,000円の定期預金についても覚えていないし、資金出所もわからない。
(チ)平成5年2月1日当時のF銀行G支店の担当者は、異議審理庁に対し、請求人の指示で、Fの定期預金45,000,000円を解約し、そのうち20,000,000円を現金で自宅に届けた旨申述している。
(リ)平成5年2月1日当時のK銀行L支店の担当者は、異議審理庁に対し要旨次のとおり申述している。
A 外交で何度か請求人宅に赴き、請求人に定期預金の設定を頼んでいたところ、請求人からFの定期預金45,000,000円が満期になるので、新規に定期預金を設定してもよいという申出があった。指定された平成5年2月3日に請求人宅に赴き、請求人から20,000,000円の現金を預かり、同日付で本件定期預金を設定した。
B それ以後も本件定期預金の満期日前に自宅に赴き、請求人の指示又は提案に基づいて、定期預金の金額を変更したり利息の支払をした。
ロ 上記各事実に基づき、請求人が被相続人から20,000,000円の贈与を受けたか否かにつき検討したところ、次のとおりである。
(イ)前記イの(イ)、(ロ)、(チ)及び(リ)のAによれば、Fの定期預金45,000,000円は、被相続人の固有の財産であったところ、これが平成5年2月1日に解約され、そのうち20,000,000円が現金で出金されて請求人宅に届けられ、これと同月3日に解約されたK銀行L支店の請求人名義の定期預金2,000,000円の合計22,000,000円をもって本件定期預金が設定されたことが認められる。
 この点に関し、請求人は、Fの定期預金から現金で出金された20,000,000円と本件定期預金に設定された20,000,000円との関連性を否定し、本件定期預金として設定された20,000,000円は、Fの定期預金から現金で出金されて生活費として預かった20,000,000円と手元にあった30,000,000円を合わせた中から捻出したものである旨主張し、請求人の代理人もこれに沿う答述をする。
 しかしながら、請求人が手元に置いていたとする30,000,000円について、請求人及び代理人はその出所等に関して何ら説得力のある説明をせず、また、請求人が、相続開始前の収入は国民年金しかなく、生活資金として必要な都度300,000円程度の金員を被相続人からもらっていたと思う旨答述していることにかんがみれば、請求人が手元に30,000,000円もの大金を所持していたとは考え難いし、仮に請求人が当時相当額の金員を所持していたとしても、前記イの(リ)のAのK銀行L支店の担当者の申述に照らし、本件定期預金が手持資金によって設定されたとする請求人の主張は採用できない。
(ロ)上記認定のとおり、被相続人の固有財産である20,000,000円をもって請求人名義の本件定期預金が設定されているところ、前記イの(リ)のとおり、本件定期預金は請求人の指示によって設定され、その後の管理運用も請求人が行っていたものであるから、請求人は、上記の20,000,000円を自己名義の定期預金に設定した時に被相続人から当該金員の贈与を受けたものと推認するのが相当である。
(ハ)請求人は、仮に贈与の事実があったとしても、贈与された財産の価額は、請求人が平成5年7月13日にM銀行P支店に被相続人名義で定期預金として設定した10,000,000円を控除した残額の10,000,000円とすべきである旨主張し、確かに前記イの(ハ)のとおり請求人の主張に沿う定期預金が設定されていることが認められるが、同(ロ)のとおり、本件定期預金は設定された以降は解約されずに自動継続されているものであるから、M銀行P支店の被相続人名義の定期預金が贈与に係る20,000,000円の一部をもって充てられたとみることはできないし、また、そもそもM銀行P支店の被相続人名義の定期預金が請求人自身の出捐によって設定されたことを認めるに足りる証拠はなく、仮に当該定期預金が請求人の出捐によって設定されたものであったとしても、これによって被相続人から請求人に対して贈与された財産の価額が減額されることにはならないから、いずれにしてもこの点に関する請求人の主張は理由がないというべきである。
(ニ)また、請求人は、贈与事実を認める内容の本件修正申告書を提出したのは、長期調査からの解放を望んだこと、税理士から妥協を勧められたことによるもので本意ではなかった旨主張し、請求人の代理人もこれに沿う答述をする。
 しかしながら、修正申告は、既にした申告の内容を再検討した上で行われるものであるから、納税者としては十分その内容を吟味してされるのが通常であるところ、実際にも前記イの(ニ)のとおり、本件修正申告書には現時点で納得できた事項についてのみ修正申告する旨記載された書面が添付されているのであって、本件修正申告書の提出が請求人の本意でなかったとは解し難く、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 上記ロのとおり、請求人は、平成5年2月3日に被相続人から20,000,000円の贈与を受けたものであるから、これに伴い贈与税の納税義務を負うところ、本件修正申告書の提出により当該贈与税の納税義務が消滅した旨主張するので、以下この点につき検討する。
(イ)請求人は、相続税法第19条の規定に基づき、贈与に係る20,000,000円を相続税の課税価格に加算して相続税の課税手続をしているから、当該金員については贈与税の課税対象とはならない旨主張する。
 しかしながら、相続税法第19条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得している場合の相続税の課税価格及び納付税額の計算方法について規定するものであり、当該規定の趣旨は、相続税法が採用している相続税の累進税率の適用による税負担が、財産を生前贈与することによって軽減されて公平を欠く結果となることを考慮し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を相続税額の計算上、相続財産の価額に加算することにより所要の調整をすることにあると解される。
 したがって、相続税法第19条第1項で相続税の課税価格とみなされた贈与財産は、贈与税が課税されることを前提としたものであって、贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算したとしても贈与税の課税関係が消滅するものではなく、基本通達19―5が贈与財産に対して贈与税が課税されていない場合には速やかに贈与税の課税手続をとるべき旨定めているのも、このことを確認したものにすぎないというべきであって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)また、請求人は、本件修正申告書の提出日に至るまで贈与税の申告のしょうようも課税手続も行わず、相続税の課税手続を終了した後に贈与税を課した原処分は課税の順序が逆であり、相続税法第19条の規定の趣旨を逸脱している旨主張するが、本件修正申告書の提出の時点で、本件相続に係る相続税の課税価格に加算された財産に対する贈与税の課税手続がされていなかったのは、被相続人から請求人に対し20,000,000円の贈与があったことについて平成5年分の贈与税の法定申告期限である平成6年3月15日までに適正に贈与税の申告がされていなければならないにもかかわらず、その申告がされていなかったためであり、このことをもって課税の順序が逆であるということはできないし、また、原処分庁の申告のしょうようの有無により課税の取扱いが変わるわけではないから、これらの点についての請求人の主張は理由がないというべきである。
ニ 上記ハのとおり、相続税法第19条の規定を根拠として、本件修正申告書の提出に伴い贈与税の納税義務が消滅した旨の請求人の主張は理由がなく、請求人は、平成5年2月3日に被相続人から贈与された20,000,000円について贈与税の納税義務があるところ、請求人は前記イの(ホ)のとおり、当該贈与に係る贈与税について、相続税法第28条に規定する贈与税の申告書を提出していないものであるから、この贈与税について課税価格を20,000,000円、納付すべき税額を8,020,000円としてされた本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件決定処分は、上記(1)のとおり適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。
 なお、請求人は、本件修正申告書において贈与に係る20,000,000円を相続税の課税価格とみなして申告したから無申告ではない旨主張するが、本件修正申告書は本件相続に係るものであり、相続税法第28条に基づく贈与税の申告書とみることはできないから、当該主張は採用できない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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