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(平10.6.5裁決、裁決事例集No.55 581頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人E、同F、同G、同H及び同J(以下「請求人ら」という。)は、平成6年1月15日に死亡したX(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書に別表1―1の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、E及びFは、平成7年10月31日に課税価格及び納付すべき税額を別表1―1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
 これに対し、原処分庁は、平成7年12月11日付で別表1―1の「第1次更正処分」欄のとおり減額の更正処分をした。
 次いで、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表1―1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成8年6月20日に提出したところ、原処分庁は、同年7月9日付で別表1―2の「賦課決定処分」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をし、更に、同日付で同表の「第2次更正処分」欄に記載のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「原処分」という。)をした。
 請求人らは、原処分を不服として、平成8年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月29日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月27日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、E及びFを総代として選任し、その旨を平成8年12月27日及び平成9年9月2日に届け出た。

(2)原処分の概要

 請求人らは、本件相続に係る相続財産のうち、有限会社K(以下「K社」という。)に対する出資持分500口(以下「本件出資」という。)の評価について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成6年6月27日付課評2―8ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)185《純資産価額》に定める純資産価額の計算上、評価通達186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》(以下、これらを併せて「本件通達」という。)に定める相続税評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下「法人税額等相当額」という。)を控除した価額によって、1口当たり473,134円、総額236,567,000円と評価して申告したところ、原処分庁は、法人税額等相当額を控除せずに本件出資の価額を1口当たり790,472円、総額395,236,000円と評価して原処分を行った。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件更正処分は、次のとおり租税法律主義等に反しており違法である。
A 相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額はその取得の時における時価による旨規定しており、いわゆる時価主義を採用しているが、財産の時価を客観的に評価することは必ずしも容易なことではなく、また、納税者の間で財産の評価がまちまちになることは公平の観点からしても好ましいことではないため、評価通達において財産評価の基本的な方針及び各種財産の評価方法が定められ、この評価通達に従って画一的な財産評価が行われている。
 このように、評価通達は、税務執行の統一性(ひいては課税の公平)を確保し、納税者と課税庁職員の便宜を図るものと解されるところ、同通達によって示達された内容が税務執行によって実施され、相手方である納税者においてその取扱いが異議なく受容されるとともに、その内容が合理性を有している場合に、同通達が定める要件を満たしているにもかかわらず、これを適用しないとした課税処分は租税法の基本原則の一つである公平負担の原則に違反し、また、法的安定性及び予測可能性という租税法律主義の理念に著しく違背するというべきである。
 そして、本件通達に定める法人税額等相当額の控除は、昭和47年以来20数年にわたって認められてきたものであり、一つの合理的な評価方法として実務にも十分定着しており、行政先例法としての役割を果たしているものであって、本件通達が定める要件を満たしているにもかかわらず、同通達の定める法人税額等相当額を控除しないとした本件更正処分は租税法律主義に違背する違法なものである。
 また、本件出資のように取引相場のない株式を現物出資した場合と、(1)土地を低額で現物出資した場合、(2)上場株式を低額で現物出資した場合、(3)会社が所有する土地の相続税評価額が増額した場合、(4)会社が所有する株式の相続税評価額が増額した場合及び(5)取引相場のない株式を時価を下回る価額により承継する合併をした場合との出資の経済的価値は等しく、客観的交換価値は同額であるにもかかわらず、取引相場のない株式を現物出資した場合の出資の評価についてのみ法人税額等相当額の控除を認めないということは不平等な評価であり客観的合理性はない。
B 原処分庁は、本件出資は清算所得に対する課税の機会がないから法人税額等相当額を控除することはできない旨主張しているが、法人税額等相当額の控除は、清算所得に対する課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくにすぎないから、課税の機会の有無を問題にする判断は、評価通達185の趣旨を誤ったものである。
 加えて、法人税額等相当額の控除は、平成2年の評価通達の改正(平成2年8月3日付直評12ほかによるもの)において当該規定がしんしゃく規定であることを確認することにより、評価会社が所有する取引相場のない株式の評価については当該控除ができないこととされたが、評価会社自体の株式の評価については当該控除が認められていたので、本件相続開始日においては当該控除が当然に認められるであろうとの予測可能性を納税者に与えていたのであるから、これに反する本件更正処分は信義則に反する。
C 原処分庁は、K社の設立に伴う一連の行為は経済的合理性がなく、相続税の負担を回避する目的で行ったものであると判断しているが、これが租税回避行為と同義であるならば、相続税法には、同法第64条《同族会社の行為又は計算の否認》の規定以外に租税回避行為を否認する規定はないから、法律の根拠なく租税回避行為を否認したこととなる。すなわち、原処分庁が評価通達の執行に組み込んで租税回避行為を否認するのであれば、租税回避行為を通達で否認することとなり、租税法律主義に違反する。
 また、相続税法第22条に規定する時価が客観的な交換価値であることからすれば、本件出資の評価に当たっても客観的に妥当な交換価値が探求されねばならないところ、原処分庁の上記判断は主観的であり、このような主観的要素により本件出資を評価した本件更正処分は租税法律主義に違反する。
D 原処分庁は、本件出資の評価に当たり評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用した旨主張するが、通達とは上級行政庁が下級行政庁に対してする指示命令であるから、同通達6が国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている以上、原処分庁が当該指示なく当該通達を適用することは、たとえその価額が相続税法第22条に規定する時価であったとしても上級行政庁の指示命令に違反することとなる。
 したがって、国税庁長官の指示及びその内容が明らかでない本件更正処分は、租税法律主義に違反する。
(ロ)本件出資の評価に当たり、K社が所有する有限会社N(以下「N社」という。)の出資の評価を行う際には、N社が所有するP市S町5丁目143番地2所在の家屋番号143番2の建物(共同住宅・事務所・店舗、鉄筋コンクリート造陸屋根5階建)684.60平方メートル(以下「甲建物」という。)及び同市T町120番地所在の家屋番号120番の建物(店舗・事務所・共同住宅、鉄筋コンクリート造銅板葺地下1階付5階建)564.79平方メートル(以下「乙建物」といい、甲建物と併せて「本件建物」という。)の価額については、次の理由により評価通達185に定める通常の取引価額として、不動産鑑定士による鑑定評価額160,220,000円(うち、甲建物の評価額は84,100,000円、乙建物の評価額は76,120,000円。以下「本件鑑定評価額」という。)を採用すべきである。
A 評価通達185によれば、評価会社が課税時期前3年以内に取得した家屋等の価額については、当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとされているところ、ここでいう通常の取引価額とは、租税特別措置法(平成8年3月31日法律第17号による改正前のもの。以下「旧措置法」という。)第69条の4《相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例》に規定する取得価額ではなく、あくまでも相続税法第22条に規定しているところの課税時期において自由な経済取引の下に通常成立すると認められる価額、すなわち時価であると解すべきである。
 したがって、本件建物の通常の取引価額は、請求人らの代理人である株式会社Hが依頼し、不動産鑑定士Yが、本件相続開始日を価格時点とし、本件建物の貸家としての正常価額を鑑定評価した本件鑑定評価額とするのが相当である。
B しかるに、原処分庁は、本件建物の通常の取引価額について、本件鑑定評価額を検討することなく、本件建物の価額をその取得価額、いわゆるN社の帳簿価額に相当する金額によって評価しているが、これは旧措置法第69条の4と同様の判断であって誤りである。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
(ロ)仮に、本件更正処分が適法であったとしても、請求人らは、当初申告時点において法人税額等相当額の控除が当然に認められると認識し、評価通達6の適用は想定できなかったのであるから、請求人らには国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件出資について、法人税額等相当額を控除せずに評価した本件更正処分は、次のとおり適法である。
A 相続税法第22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、多種多様の財産について個々にその時価を把握することは相当な困難を伴うものであり、また、統一的運用を必要とすることから、財産評価の一般的基準として評価通達を定めており、評価通達1《評価の原則》において、時価とは、相続開始の時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、原則としてこの通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
 しかしながら、評価の統一性、便宜性の要請に基づいて定められている評価通達による評価方法を画一的に適用した場合にはかえって時価の算定が不適正となり、納税者間の公平を実質的に害することとなる場合には、その財産の態様に応じた他の合理的な評価方法によって時価評価すべきところから、評価通達6は、この通達の定めによって評価することが著しく不適当であると認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
B これを本件についてみると、(1)被相続人は、K社を設立する直前に、全額出資してK社とほぼ事業内容を同じくするN社を設立していること、(2)被相続人は、K社の設立のための出資の一部としてN社の出資持分全部(100口)を現物出資していること、(3)当該現物出資を受け入れたK社の受入価額が、被相続人のN社への払込金額をはるかに下回るものであったこと及び(4)K社へ現物出資されたN社への出資は、本来K社の企業活動の基本財産とはなり得ない財産であり、このような財産を低額で受け入れることによりし意的に含み益を創出することには何ら経済的合理性が認められないことから、これらの会社設立及び現物出資に係る一連の行為は、専ら相続税の負担を回避する目的として行われた行為であるといわざるを得ない。
 したがって、本件出資の価額を評価通達185に定める法人税額等相当額を控除して評価することは、意図的に創り出された評価差額に対して法人税額等相当額を控除することとなる結果、かえって時価の算定が不適正となり、課税の公平を欠くことになると認められるので、本件出資の価額の評価に当たり、法人税額等相当額を控除することは相当ではない。
C そうすると、本件出資の評価において、法人税額等相当額を控除せずに算出した本件出資の1口当たりの価額は790,472円となり、これに被相続人の出資持分500口を乗じて計算すると、本件出資の総額は395,236,000円となる。
D 請求人らは、本件更正処分が租税法律主義等に違反する違法なものであると主張するが、次のとおりいずれも理由がない。
(A)請求人らは、本件通達を適用しないのは租税法律主義に違背するとともに本件出資の評価についてのみ法人税額等相当額の控除を認めないのは不平等な評価であり客観的合理性がない旨主張するが、本件出資の取得は、前記Bのとおり、専ら相続税の負担を回避する目的で行われたものであり、これに本件通達を適用することは、かえって時価の算定が不適正となり、課税の公平を欠くことになると認められるので、評価通達6を適用したものである。
 したがって、本件出資を他の出資と区分して評価することは客観的合理性があり、請求人らが主張する土地を低額で現物出資した場合等の事例と評価を異にすることは不平等な評価とはならない。
(B)請求人らは、法人税額等相当額の控除は清算所得に対する課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくにすぎないので、原処分は評価通達185の趣旨を誤って解釈した違法があり、本件出資の評価についてのみ法人税額等相当額を控除しないのは租税法律主義に違反する旨主張する。
 ところで、評価通達185において評価差額に対する法人税額等相当額の控除を定めた趣旨は、取引相場のない株式の評価については純資産価額方式を採ることを前提としつつ、株式の所有を通じて法人の資産を所有する場合と個人の事業主がその事業用資産を直接所有する場合とではその所有形態が異なるため、両者の事業用資産の所有形態を経済的に同一の条件の下に置き換えることが必要となるために、将来法人を清算した際に評価差額に対して清算所得として課される法人税額等をあらかじめ控除しておくことにより、評価の均衡を図ったという点にあると解されている。
 しかしながら、本件出資のような取引相場のない株式等は清算を経ずして出資の大部分を回収することが可能であり、また、取引相場のない株式等を著しく低い価額で現物出資することは経済的合理性のある取引とはいえず、これについて法人税額等相当額を控除することは、評価通達の想定する趣旨に明らかに反するというべきである。
 また、請求人らは、法人税額等相当額の控除を認めない本件更正処分は信義則に反する旨主張するが、K社設立に係る被相続人の一連の行為は、本件出資の評価額をし意的に下げ、相続税の負担を回避する目的で行ったものと認められるから、請求人らが信義則に反する旨の主張を行うこと自体失当である。
(C)請求人らは、租税回避行為を相続税法第64条を適用して否認するのでなく、評価通達によってこれを否認した本件更正処分は租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、本件更正処分は、K社の設立及びK社設立に伴う現物出資等の一連の行為が専ら相続税の負担を回避することを目的として行われた行為であると認定した上で、本件出資の評価を評価通達に定める原則的な評価方法によって評価することが著しく不適当であると判断して、これを評価通達6の定めにより評価したものである。
 したがって、本件更正処分は、相続税法第64条の規定を適用したものではなく、租税法律主義に違反するとの請求人らの主張には理由がない。
(D)請求人らは、評価通達6の適用に当たって国税庁長官の指示及びその内容が明らかでない本件更正処分は租税法律主義に違反する旨主張するが、同通達6に定める国税庁長官の指示は、国税庁内部における処理の準則を定めたものにすぎず、その指示の有無を明らかにしなくても課税処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
(ロ)請求人らは、本件建物の通常の取引価額については本件鑑定評価額により評価すべきである旨主張するが、次の理由から、本件相続開始日直前のN社の平成5年6月30日事業年度末における帳簿価額261,892,000円(1,000円未満切捨て)により評価すべきであるから、請求人らの当該主張は理由がない。
A 評価通達185によれば、評価会社が所有する土地等又は家屋等の価額の算定に当たっては、適正な評価の見地から、通常の取引価額に相当する金額によって評価すべきものとされているところ、この通常の取引価額とは、買い進みや売り急ぎなどがなく、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されている。
B これを本件についてみると、本件建物は、本件相続開始日の約2年前に売買により取得され、かつ、買い進みや売り急ぎなどの事情があって取得されたものと認めることはできないから、通常の取引価額で取得されたものと認めるのが相当である。
 加えて、バブル経済の崩壊により、土地については地価がかなり下落しているものの、建物の価額については、土地のような下落があったと認めることはできない。
 そうすると、本件建物の通常の取引価額は、当該建物が本件相続開始の約2年前に取得され、当該取得価額が明らかであることから、この取得価額を基に減価償却費相当額を控除した金額、すなわちN社の平成5年6月30日事業年度末における帳簿価額261,892,000円により評価するのが相当である。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)以上のとおり、本件更正処分は適法であり、これに基づいて行った本件賦課決定処分も適法である。
(ロ)なお、請求人らは、仮に本件更正処分が適法であったとしても、請求人らには当初申告時点において、評価通達6の適用は想定できなかったから、請求人らには通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、通則法第65条第4項に規定する更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められる場合とは、納税者に故意過失がなく、真にやむを得ない理由によるものである場合をいうものと解され、例えば申告時において公表されていた税法の解釈に関する取扱通達が変更された場合等がこれに該当し、過少申告となった理由が納税者の税法の不知や解釈の相違に基づく場合は、これに当たらないと解されている。
 したがって、請求人らには通則法第65条第4項に規定する正当な理由はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件出資の時価の評価方法及びその多寡にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)被相続人は、平成3年12月26日(本件相続開始日の約2年1月前。当時被相続人は満83歳)に(1)不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業、(2)駐車場の経営、(3)食料品、衣料品及び一般日用品雑貨販売、(4)有価証券の保有及び運用、(5)教育研修・知識修得用カセットテープ・ビデオテープの販売並びに書籍・雑誌の出版、(6)損害保険代理業、(7)生命保険の募集に関する業務及び(8)前各号に附帯する一切の業務などを事業目的とするN社を設立し、L銀行(その後「R銀行」に名称変更。以下「R銀行」という。)の普通預金から500,000,000円(被相続人が所有する土地の売却代金を原資とするもの)を出資して、総出資口数100口全部を引き受けた。N社は払込総額500,000,000円のうち5,000,000円を資本金に、その余の495,000,000円を資本準備金にそれぞれ組み入れた。
(ロ)被相続人は、平成4年1月30日(N社設立の約1月後)にN社の総出資口数100口を現物出資するとともに、R銀行の普通預金から80,000,000円を出資してK社を設立し、本件出資(K社の総出資口数)を所有することになった。K社は、この際、現物出資に係るN社の出資100口を5,000,000円で受け入れている。
 なお、K社は、上記(イ)の(1)ないし(7)のほか、(8)株式の投資、(9)飲食店の経営、(10)経営コンサルタント業務、(11)経営情報、物流情報その他各種情報の収集処理並びにその提供、販売に関する事業などをその事業目的としている。
(ハ)本件相続開始後の平成6年10月10日に請求人ら間で遺産分割協議が成立し、本件出資についてはEが475口、Fが25口を取得している。
(ニ)K社は、平成4年1月30日から同年6月30日まで、同年7月1日から平成5年6月30日まで及び同年7月1日から平成6年6月30日までの各事業年度(以下、順次「平成4年6月期」、「平成5年6月期」及び「平成6年6月期」という。)のうち、平成4年6月期及び平成5年6月期においては配当金の支払をしておらず、平成6年6月期において1,000,000円の配当金を支払っている。
ロ ところで、相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、ここにいう時価とは、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額であると解される。
 しかしながら、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般基準として評価通達が定められており、特別な事情がない場合には、同通達に定められた評価方法によって財産を評価することとされている。
 これは、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法を採用した場合には、その評価方法、基礎資料の選択の仕方により異なった評価額が生じることは避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難になる恐れがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものと解される。
 そうすると、租税法律主義という観点からは、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるが、他方、同通達に定められた評価方法を形式的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきである。
ハ 評価通達は、本件出資のような有限会社に対する出資の価額については、同通達194《合名会社等の出資の評価》において取引相場のない株式の価額に準じて評価する旨定め、同通達178以下において、それぞれの実態に即した評価を行うために、評価会社の規模等に応じた原則的な評価方法を定めるほか、K社のように開業後3年未満の会社等原則的な評価方法がなじまない評価会社については、これを特定の評価会社とし、その株式の価額は純資産価額により評価する旨定めているところである。
 そして、本件通達は、この純資産価額の計算において相続税評価額と帳簿価額との差額に対する法人税額等相当額を控除する旨定めているところ、これは、株式等の所有を通じて間接的に資産を所有している場合と個人事業主が個々の事業用資産を直接所有している場合とでは、その所有形態が異なることから、両者の財産の所有形態を経済的に同一の条件のもとに置き換えた上で評価の均衡を図る必要があることによるものと解される。すなわち、評価会社の資産の相続税評価額とその帳簿価額との評価差額を法人税法第92条《解散の場合の清算所得に対する法人税の課税標準》に規定する清算所得の金額とみなし、事業用資産の所有形態を法人所有から個人所有に変更した場合に課税されることとなる清算所得に対する法人税額等に相当する金額を評価会社の資産の相続税評価額から控除することによって、上記均衡を図ろうとしているものであると解される。
ニ 前記イの各事実を上記ロ及びハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)被相続人が本件出資を取得した目的は、次の理由から、K社の事業活動から生じる配当(及び値上がり益)を期待するものではなく、専ら将来において発生するであろう相続の際に相続税の負担の軽減を図るためであることが推認される。
A 被相続人は、N社及びK社の設立時すでに満83歳の高齢であるにもかかわらず、ほぼ同時期に両社を設立しているところ、これら両社の事業目的はほとんど同じであり、あえてN社の出資をK社へ現物出資してK社を設立することには合理的な理由があるとは解し難いものである。さらに、N社は、その出資1口に対する払込金額5,000,000円のうち、50,000円を資本金に、残額の4,950,000円を資本準備金に組み入れるという異常な資本構成を採っており、また、K社に現物出資されたN社の出資100口の受入価額は5,000,000円であるところ、これは、被相続人が当該出資を取得するためにN社へ払い込んだ出資金500,000,000円の100分の1という極めて低額なものである。
B 被相続人は、本件出資を取得するに当たり、500,000,000円を出資して取得したN社の出資持分100口を現物出資するとともに、現金80,000,000円を出資しているのであるから、本来、これら多額の原資に見合う配当がなければならないところ、K社は平成4年6月期及び平成5年6月期には配当を行っておらず、本件相続開始後である平成6年6月期の決算においてわずか1,000,000円の配当を行ったのみであり、被相続人にとって本件出資を取得する経済的合理性は認められない。
C N社及びK社の設立と本件相続開始日との間は、わずか2年しか経っていないのであるから、本件出資の本件相続開始時点における経済的価値は、被相続人が本件出資を取得するために要した金額(上記Bの580,000,000円)にほぼ見合うものになるはずであるところ、本件出資を本件通達の定めにより法人税額等相当額を控除して評価すると当該金額の半額以下となり、この結果、相続税の課税価格が著しく減少し多額の相続税の負担が軽減されることとなる。
(ロ)以上のとおり、被相続人が本件出資を取得した目的は、K社に対して著しく低額な現物出資を行うことにより多額の評価差額を創り出し、これに形式的に本件通達を適用して法人税額等相当額を控除して計算することにより、課税価格を著しく圧縮し、相続税の負担の軽減を図るためのものであると推認される。
 そして、上記ハで述べたように、本件通達に定める法人税額等相当額の控除が資産を個人が直接所有する場合と所有する株式等を通じて間接所有する場合の均衡を図るものであることからすると、本件のように被相続人のN社に対する出資払込金が本件出資を通してほぼそのままEとFに移ったものと解される場合に、本件出資の価額を法人税額等相当額を控除して計算し、当該出資払込金のほぼ半額として評価することは本件通達の趣旨を逸脱するものであり、また、他の納税者との間の実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難いといわざるを得ず、加えて、租税制度全体を通じて税負担の累進性を補完するとともに富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨からしても著しく不相当なものというべきである。
 したがって、本件については、評価通達に定める原則的な評価方法によらないことの特別な事情があると認められ、本件出資の評価については、本件通達に定める法人税額等相当額を控除せずに評価することがその客観的な交換価値を算出する上で合理的な評価方法であると解すべきである。
ホ 請求人らは、本件出資の評価に当たり、本件通達で定める法人税額等相当額の控除をしないことは、租税法律主義等に違反するとして、次のとおり主張するので以下この点につき判断する。
(イ)請求人らは、本件出資の評価について、合理性を有している本件通達を適用しないことは公平負担の原則に違反し、法的安定性及び予測可能性という租税法律主義の理念に違背する旨及び本件出資の評価を土地を低額で現物出資した場合等の評価と区別することには客観的合理性がなく不平等である旨主張する。
 しかしながら、前記ニの(ロ)で述べたとおり、本件出資を評価通達に定める原則的な評価方法によらず、他の合理的な方法によりその客観的な交換価値を評価することについては、他の納税者との間での実質的な租税負担の公平の見地から是認されるものというべきであるから、このような取扱いが合理性を欠くものとはいえず、公平負担の原則に違反するということもできない。
 また、評価通達6が同通達によらない場合の例外を定めている趣旨からすれば、同通達を適用しない課税処分が直ちに租税法律主義の理念に反するものということはできない。
(ロ)請求人らは、法人税額等相当額の控除は課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくにすぎないから、課税の機会の有無を問題にする原処分庁の判断は評価通達185の趣旨を誤ったものである旨主張する。
 しかしながら、本件出資の評価については、前記ニの(ロ)で述べたとおり、本件通達に定める法人税額等相当額を控除することが相当でない客観的合理的な理由があると認められるのであるから、この点に関する請求人らの主張は採用することはできない。
 また、請求人らは、本件相続開始日においては法人税額等相当額の控除が当然に認められるであろうとの予測可能性を納税者に与えていたものであるから、これに反する本件更正処分は、信義則に違反する旨主張する。
 しかしながら、信義誠実の原則は、適法性の要請に優先してまで納税者の利益を保護すべきことが、正義、公平の見地から真にやむを得ないと認められる場合に限り適用されると解すべきところ、請求人らの主張する信頼によって保護される利益というのは、本件の場合、他の納税者との実質的な公平の観念に反して租税負担の軽減を享受し得る利益をいうにすぎず、このような利益は、それ自体法的な保護に値するものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張も採用することはできない。
(ハ)請求人らは、租税回避行為の否認には法律の根拠が要求されるところ、本件更正処分は評価通達により租税回避行為を否認したものであり租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件出資の取得に係る一連の行為について、相続税の負担を回避する目的で行われた行為である旨の判断をしているものの、本件出資の取得行為自体を租税回避行為として否認したものではなく、相続税の負担軽減を目的として取得した本件出資について、本件通達を適用することは不合理・不適正であるとした上で、本件通達に定める純資産価額から法人税額等相当額を控除しない価額が相続税法第22条に規定する時価であるとしたものにすぎず、このように本件通達によらないことが相当であると認められるような特別な事情がある場合に、他の合理的な評価方法により評価することは、何ら租税法律主義に違反するものではない。
 また、請求人らは、経済的合理性がなく相続税の負担を回避する目的でされた行為という判断は主観的であり、相続税法第22条に規定する時価が客観的交換価値であることからすれば、本来、出資の評価にこのような主観的要素の入り込む余地はない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、請求人らの算定した本件出資の価額が客観的な交換価値を示す価額であるか否かの判断において、その算定方法や取得に至る事情等にかんがみ、本件の場合は法人税額等相当額を控除して算出された価額が客観的な交換価値である時価とは認められないと判断したものにすぎず、本件出資の評価に主観的要素を盛り込んだものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することはできない。
(ニ)請求人らは、評価通達6を適用するに当たり国税庁長官の指示及びその内容が明らかでない本件更正処分は、租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、評価通達は、税務執行の便宜上、単に評価の目安となるべき基準を示したものであり、また、そもそも通達とは、上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって法規たる性質を有せず、それ自体が納税者を拘束するものではないこと及び通達の適用に関する国税庁長官の指示は、関係下級行政庁ないしその職員のみを拘束するにすぎないものであり、加えて、国税庁長官の当該指示を納税者に対して明確にしなかったとしても、これにより直ちに本件更正処分が違法となるものではないと解するのが相当である。
(ホ)以上のとおり、本件出資の評価に当たっては、法人税額等相当額を控除せずに算定すべきであるから、原処分庁がこれを控除せずに行った評価は適法であり、この点に関する請求人らの主張はいずれも理由がない。
ヘ 請求人らは、本件出資の評価に当たり、K社が保有するN社の出資の評価を行う際には、本件建物の価額を、原処分庁が主張する帳簿価額ではなく、本件鑑定評価額により評価すべきである旨主張するので、検討したところ、次のとおりである。
(イ)評価通達185のかっこ書は、評価会社の所有する土地等及び家屋等が課税時期前3年以内に取得したものである場合、これらの相続税評価額は、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとし、当該土地等又は家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができる旨定めている。
 これは、帳簿価額が通常の取引価額に相当するものと認められる場合における実務上の簡便性に配慮した取扱いであるから、当該帳簿価額が通常の取引価額に相当するものとは認められない場合には、帳簿価額をもって時価であると認定することはできないというべきである。
(ロ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、本件建物はいずれも本件相続開始前3年以内に取得されたものであることが認められる。
 そこで、本件建物についての本件鑑定評価額が帳簿価額より本件建物の通常の取引価額を反映したものであるか否かにつき判断すると、本件鑑定評価額は、その価格時点を本件相続開始日とし、本件建物の再調達原価を求めた上、これを減価修正し、更に借家権の割合を控除して貸家の用に供されているものとして算出されているところ、その鑑定根拠については、当審判所が調査した結果、特に不適当と認められる要素はないものである。
 そうすると、本件鑑定評価額は帳簿価額よりも時価を反映したものとして、これをもって評価通達185のかっこ書にいう通常の取引価額と認めるのが相当である。
(ハ)原処分庁は、建物の価額についてはバブル経済の崩壊による影響は認められないから、本件建物の通常の取引価額は、本件相続開始直前のN社の平成5年6月30日事業年度末の帳簿価額によるべきである旨主張するが、バブル期には建物の価額についても原材料等の高騰により少なからず影響があったものと推認されるし、また、上記(ロ)のとおり本件鑑定評価額を不相当とする理由も認められないから、原処分庁の主張は採用することができない。
(ニ)以上により、本件建物の通常の取引価額について本件鑑定評価額を基にN社の出資の評価額を算定すると、別表3の(9)欄のとおり214,477,000円となる。
ト 以上のとおり、本件出資の評価に当たっては、法人税額等相当額を控除せずに算定すべきであり、また、本件建物の通常の取引価額については、本件鑑定評価額を基に評価すべきである。
 そうすると、本件出資1口当たりの価額は別表4の(11)欄とおり587,128円となり、これに被相続人の出資持分500口を乗じて計算すると、本件出資の総額は293,564,000円となる。
 なお、当審判所の調査によれば、相続財産のうちM証券株式会社P支店の第〇〇回ユニットの価額につき、20,592円が過大に評価されていることが認められる。
チ 以上の結果を基に請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄の金額となる。
 この金額は、別表1―2の「第2次更正処分」欄の金額を下回る結果となるから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)本件賦課決定処分について

イ 上記(1)のとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は、異動(減少)することとなる。
ロ 請求人らは、仮に本件更正処分が適法であったとしても、当初申告時点において本件出資の評価に評価通達6の適用があることは想定していなかったのであるから、本件出資の評価が過少であったことについては通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張するが、通則法第65条第4項にいう正当な理由に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、(1)税法の解釈に関して申告当時に公表されていた公的見解が、その後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(2)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合及び(3)その他真にやむを得ない事由があると認められる場合等が該当するものと解される。
 これを本件についてみると、本件出資の評価額が過少となった理由は、前記認定のとおり、専ら相続税の負担を軽減する目的で本件出資を取得し、これに形式的に評価通達に定める原則的な評価方法を適用することにより評価額を圧縮したことによるものであるから、過少申告となったことについて上記に述べたような正当な理由があるとは認められない。
ハ したがって、請求人らの過少申告加算税の額は、別表2の「審判所認定額」欄の金額となる。
 この金額は、別表1―2の「第2次更正処分」欄の金額を下回る結果となるから、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当裁判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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