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(平10.4.2裁決、裁決事例集No.55 608頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)、F(以下「滞納者」という。)及びGは、平成2年4月24日に死亡したH(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
 滞納者の本件相続に係る相続税(以下「本件滞納国税」という。)が別表1のとおり滞納となったため、原処分庁は、請求人に対し、相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項の規定に基づき、平成9年6月26日付で連帯納付義務に係る督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
 請求人は、これを不服として平成9年8月14日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 相続税法第34条第1項については、納税義務者が納税するのが原則であるが、延納を認めた時の担保の実行をし、あらゆる手法を尽くしても徴税不可能となった場合のみ、他の相続人に納税義務が生じることとなると解されるところ、原処分庁は、滞納者に対する差押処分だけでは徴税不足となると認められたので請求人に対し本件督促処分を行ったと主張するのみで、その根拠を示す書類を提出していない。
ロ 別表1と本件申告書を比べると、本税227,946,800円が全く納付されておらず、しかも利子税49,702,900円が加わって、本件滞納国税は277,649,700円に膨らんでいる。
 J税務署長及び同署の担当職員は、滞納者に対する延納許可に係る担保の価額が本件滞納国税の額を下回ることのないよう管理するのが職責であるにもかかわらず、延納許可以降あきれ果てるような職務怠慢を繰り返し、原処分庁が「・・・・徴収可能と見込まれる金額はおおむね1億円で・・・・」と主張する段階まで放置した。
 したがって、滞納者に対する滞納処分を実行しても徴収不能となる部分の金額については、J税務署長及び同署の担当職員が負うべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第34条第1項の規定によれば、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責に任ずるとされている。
ロ このような規定が定められたのは、相続税にあっては相続財産からその納付が予定されており、遺産の分割により相続税の納税義務者と現実に財産を取得した者との間の不一致が多いこと等により、本来の納税義務者だけに限定してしまうことは相続人間の租税負担の公平を阻害するばかりでなく、国においても租税の徴収が困難となることが予想されることから、現実の相続財産の取得者に相続税を負担させるのが妥当であるという考え方に基づくものである。
ハ これを本件についてみると、請求人及び滞納者は被相続人の相続人であり、後記ホのとおり、平成9年6月24日現在、滞納者は本件滞納国税を納付しておらず、かつ、滞納者に対する差押処分だけでは徴収不足になると認められたことから、同日、請求人に対して連帯納付義務に係る通知を行い、同通知によっても納付がなかったため、同月26日、本件督促処分を行ったものである。
ニ なお、原処分庁の滞納者に対する滞納処分状況は、次のとおりである。
(イ)滞納者が平成2年10月18日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)に基づいて取得した相続財産は別表2のとおりであり、その財産のうち(1)から(3)までについては、差押処分を執行している。
 なお、差押処分を執行している財産については、近日中に公売処分を行う予定である。
(ロ)別表2記載の財産のうち(4)については、同族会社の株式であり換価価値がないため、差押処分は執行していない。
(ハ)別表2記載の財産のうち(5)については、既に滞納者が受領し、費消しているため、差押処分は執行していない。
ホ 上記ニの滞納処分の執行により、徴収が可能と見込まれる金額はおおむね1億円であり、原処分庁が滞納者に対して有する別表1記載の本件滞納国税に不足すると認められる。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件督促処分の適否であるので、以下審理する。
(1)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 平成2年10月24日、共同相続人は本件申告書をJ税務署長に提出し、その後税額の異動等はなく確定していること。
 また、その添付書類である本件遺産分割協議書には請求人の署名押印があること。
ロ J税務署長は、平成3年12月17日付で滞納者に係る相続税の延納を許可し、その際、P市Q町1丁目19番3所在の土地及び同土地上の建物に抵当権を設定したこと。
ハ J税務署長は、他の国税の滞納処分により、上記ロの延納に係る担保物件が差し押さえられたため、相続税法第40条《延納の取消》第2項の規定に基づき、平成8年2月14日付で相続税の延納許可を取り消したこと。
ニ 原処分庁は、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成8年3月25日付でJ税務署長から徴収の引継ぎを受けたこと。
ホ 滞納者は、本件督促処分が行われた平成9年6月26日現在において、本件滞納国税を納付していないこと。
(2)国税通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項の規定によれば、申告納税方式による国税の納付すべき税額は原則として納税者の申告により確定することとされ、また、相続税法が相続税の納付すべき税額の確定手続を申告納税方式によっていることは明らかである。
 ところで、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人に課した特別の責任であって、各相続人の納税義務の確定という事実が発生していれば法律上当然に生ずるものであり、格別の確定手続を要するものではない。したがって、各相続人の固有の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解されており、各相続人の一部にその相続税額を滞納した者がある場合には、その他の相続人は、その相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務の履行を求められるものである。
(3)これを本件についてみると、上記(1)のホのとおり、平成9年6月26日現在、滞納者は本件滞納国税を納付しておらず、原処分庁は、共同相続人の一人である請求人に対し本件督促処分をしたものであり、その処分は相続税法第34条第1項に基づき適法に行われている。
(4)請求人は、原処分庁が滞納者に対しあらゆる徴税手法を尽くしても徴税不可能となった場合のみ、他の相続人に納税義務が生じることとなるから、それを尽くしたか否か明らかにしないまま行った本件督促処分は相続税法第34条第1項の趣旨に反し違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、相続税の連帯納付義務に係る徴収手続は、各相続人の納税義務の確定という事実が発生していれば法律上当然に生ずるものであり、本件の場合、上記(1)のイのとおり、本件申告書の提出により滞納者の納税義務は確定しており、その時点で請求人の連帯納付義務は生じていると解される。
 また、連帯納付義務は、民法上の連帯保証債務に類似するものと解するのが相当であり、滞納者に徴収手続を尽くした後でなければ、共同相続人に徴収手続を行うことができないというものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)また、請求人は、J税務署長及び同署の担当職員の職務怠慢による不手際の責任を請求人に転嫁する本件督促処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、相続人の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に確定するものであるから、本件督促処分を違法ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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