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(平10.6.30裁決、裁決事例集No.55 695頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、貨物運送業を営む同族会社であるが、平成5年5月1日から同年7月31日まで、平成5年8月1日から同年10月31日まで、平成5年11月1日から平成6年1月31日まで、平成6年2月1日から同年4月30日まで、平成6年5月1日から同年7月31日まで、平成6年8月1日から同年10月31日まで、平成6年11月1日から平成7年1月31日まで、平成7年2月1日から同年4月30日まで、平成7年5月1日から同年7月31日まで、平成7年8月1日から同年10月31日まで、平成7年11月1日から平成8年1月31日まで及び平成8年2月1日から同年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成5年7月課税期間」、「平成5年10月課税期間」、「平成6年1月課税期間」、「平成6年4月課税期間」、「平成6年7月課税期間」、「平成6年10月課税期間」、「平成7年1月課税期間」、「平成7年4月課税期間」、「平成7年7月課税期間」、「平成7年10月課税期間」、「平成8年1月課税期間」及び「平成8年4月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年8月30日付で本件各課税期間について別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成8年10月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年1月29日付で棄却の決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年2月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人の事業内容について
 請求人は、引越し貨物等に係る役務の提供(以下「本件業務」という。)を業とする会社であり、本件業務については、契約の相手先により、(a)アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の運送業者(以下「キャリアー」という。)との契約に基づく取引(以下「キャリアー取引」という。)、(b)米国軍隊(以下「米軍」という。)との契約に基づく取引(以下「米軍直接取引」という。)及び(c)キャリアー及び米軍以外の者との契約に基づく取引(以下「民間取引」といい、キャリアー取引及び米軍直接取引と併せて「各取引等」という。)に区分でき、各取引等の内容については、次のとおりである。
A キャリアー取引は、キャリアーが米軍との間で契約した取引のうち、米軍の軍人、軍属及びその家族(以下「軍人等」という。)の日本国内と日本国内以外の地域との間の引越し(以下「軍人等国際引越し」という。)の日本国内部分について、本件業務を行い、対価を収受する取引である。
B 米軍直接取引は、軍人等国際引越しにおける日本国内での本件業務と、日本国内における米軍基地間の軍人等の引越しについて本件業務を行い、対価を収受する取引である。
C 民間取引は、いわゆる民間の引越し貨物について本件業務を行い対価を収受する日本国内間の引越しに係る取引(以下「民間国内取引」という。)並びに日本国内及び日本国内以外の地域にわたって行われる引越しに係る取引(以下「民間国際取引」という。)である。
(ロ)各取引等の課税関係について
 請求人は、各取引等が消費税法の課税取引に該当するか否かについて、キャリアー取引、米軍直接取引及び民間国際取引については免税取引に、また、民間国内取引については課税取引にそれぞれ該当すると判断し、消費税の申告を行ってきたものである。
(ハ)所得税等臨特法の特例規定の適用について
 原処分庁は、(a)キャリアー取引には、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(以下「日米地位協定」という。)の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律(以下「所得税等臨特法」という。)第7条《消費税法の特例》第1項の規定(以下「本件特例規定」という。)は適用されず、また、(b)民間取引のうち、日本国外から日本国内への引越しに係る取引についても、請求人が請け負っている業務は日本国内部分であるので民間国際取引ではなく民間国内取引であり、消費税法第7条《輸出免税等》第1項の規定(以下「本件輸出免税規定」という。)は適用されないとして本件更正処分をしたが、次に述べるとおり、キャリアー取引については、本件特例規定が適用されるから、消費税が免除されるべきである。
A キャリアー取引においては、米軍が作成する書類「GOVERNMENT BILL OF LADING」(以下「GBL」という。)の「TRANSPORTATION COMPANY(以下「発注先」という。)」欄にキャリアーの名称と請求人の名称が連名で記載されていること及び米軍の署名があることから、キャリアー取引は、キャリアーが米軍に対して行っている取引の一環をなしている取引で、明らかに米軍の用に供する取引である。
 また、請求人は、軍人等国際引越しを行う場合、キャリアー取引又は米軍直接取引のいずれかによっているが、両取引とも作業の指示監督は米軍から受けており、その作業の実態は変わらないことから、キャリアー取引は米軍直接取引と同様の取引とみなすことができる。
B 原処分庁は、請求人には本件特例規定の適用を受けるための日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律施行令(以下「所得税等臨特法施行令」という。)第2条《消費税の免税手続き》に規定する米軍の権限ある官憲の発給する証明書(以下「米軍発給証明書」という。)の保存がない旨主張するが、米軍発給証明書については、所得税等臨特法上に何ら具体的な定義付けや様式が規定されていないものであり、請求人としては、どのような書類を保存すべきかわからない。キャリアー取引において、請求人は米軍から直接に又はキャリアーを通じて請求人に届けられる米軍作成のGBLに従って作業を進めており、当該GBLは作業手順の基幹をなす書類であること並びに上記Aのとおり、GBLの「発注先」欄には、キャリアーの名称と請求人の名称とが連名で記載されていること及び米軍の署名があることから、請求人は、当該GBLが米軍発給証明書と同じ効力を持つものであると認識している。
C 本件特例規定の解釈適用上、キャリアー取引には同規定が適用されないとすると、同規定自体が日米地位協定に反する不合理な規定といわざるを得ない。
(ニ)本件輸出免税規定の適用について
 仮に、キャリアー取引が本件特例規定に該当しないとしても、キャリアー取引のうち、日本国内から日本国外への引越しについては、(a)「OCEAN BILL OF LADING」(以下「OBL」という。)の「SHIPPER(以下「荷主」という。)」欄に、GBLの「発注先」欄と同様にキャリアーの名称と請求人の名称が併記されていること、(b)請求人は作業指図書の「PORT ROUTING GUIDE BY BASE」(以下「荷揚げ港指示書」という。)により、キャリアーの指定する港に間違いなく貨物を届ける責任があることから、請求人がキャリアーに対して当該貨物を引渡しする場所は日本国外の目的港であると考えられる。
 よって、キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しは、本件輸出免税規定第3号に掲げられている「国内及び国内以外の地域にわたって行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信」(以下「国際輸送等」という。)に該当するから消費税は免除されるべきである。
(ホ)処分の不当性について
 仮に、キャリアー取引には本件特例規定が適用されず、また、キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しが国際輸送等に該当しないために本件輸出免税規定も適用されず、キャリアー取引に対して消費税が課税されるとしても、(a)請求人は、消費税が施行される際に、在日米軍の調達担当官及びキャリアーから、米軍直接取引及びキャリアー取引は消費税は免税である旨の説明を受けていること、(b)平成3年7月期の原処分庁による税務調査時に、キャリアー取引について何の指摘もなかったこと、(c)キャリアー取引について、キャリアーが日本国内で消費税の還付を受けるための申告をすることができる旨の原処分庁の主張は、日本国内に支店等もない外国法人に対しては過酷であり、また、キャリアーは、過年分の消費税について申告する機会を逸しているので、消費税の還付を受けられないこと、(d)キャリアーが本件特例規定の適用を受けない場合は、請求人が同規定を適用しても課税上の弊害はないと考えられること及び(e)原処分と異なる有利な取扱いを受けている納税者が請求人とは別にいることなどから、少なくとも本件については税務指導にとどめるべきであったにもかかわらず、本件更正処分は、過年分に遡及して12課税期間分(3暦年分)も行われたものであるから、課税権の濫用に当たり、不当な処分である。
(ヘ)争わない事項
 請求人は、本件更正処分のうち、上記(ハ)の(a)のキャリアー取引に本件特例規定が適用されないことを理由に課税されることについて争うものであり、キャリアー取引に係る課税売上金額の多寡及び上記(ハ)の(b)の民間取引が課税となることについては争わない。
 また、仮に、キャリアー取引が消費税の免税となる取引に該当しない場合でも、請求人は、各取引等の売上金額については争わない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、それに伴い、本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例規定の適用について
A 所得税等臨特法第7条第1項は、事業者が、(a)米軍又は米軍の公認調達機関に対し、米軍又は米軍の公認調達機関が米軍の用に供するために購入するものの課税資産の譲渡等を行った場合、又は(b)個人契約者又は法人契約者に対し、個人契約者又は法人契約者がその締結した建設、維持又は運営の事業の用に供するために購入するもので米軍の用に供されるもの及び当該事業を行うためにこれらの者が購入する写真用のフィルム、乾板及び感光紙並びに揮発油の課税資産の譲渡等を行った場合については消費税を免除する旨規定し、同条第2項及び所得税等臨特法施行令第2条は、課税資産の譲渡等が所得税等臨特法第7条第1項に該当することにつき、当該課税資産の譲渡等を行った課税事業者が米軍発給証明書の交付を受け、保存している場合に限り所得税等臨特法第7条第1項の規定が適用される旨規定している。
B 請求人は、キャリアー取引については、GBLの「発注先」欄にキャリアーの名称と請求人の名称とが併記されていること及び米軍の署名があること並びに作業の指示監督を米軍から受けていることから、キャリアー取引は米軍直接取引と同様に米軍の用に供するものであり、本件特例規定が適用され消費税が免除されるべきであると主張する。
 しかしながら、GBLの「発注先」欄に記載されている請求人の名称は「agent」、すなわち米軍との契約者たるキャリアーの日本国内における代理人を示しているものであって、請求人が米軍及び米軍の公認調達機関に対して課税資産の譲渡等を行っていることを示すものではない。したがって、この記載を捕らえ、キャリアー取引を米軍直接取引と実態が変わらないものとみなすことはできない。
 また、請求人は、日本国内におけるキャリアーの代理人として、軍人等国際引越しに係る本件業務を行う際、米軍から業務の指示監督を受けることがあるとしても、契約に基づき請求人がキャリアーに対して課税資産の譲渡等を行うことに変わりはなく、業務に対する指示監督をもって米軍直接取引と同様であるとは認められない。
C 原処分庁が調査したところによれば、請求人が請け負う軍人等国際引越しのうち、米軍直接取引については米軍から請求人に対して米軍発給証明書が発行されているが、キャリアー取引については米軍発給証明書の発行はされていないことが認められる。
 なお、請求人は、米軍発給証明書について、具体的な定義付けや様式が規定されておらず、米軍から発給される書類のうち保存すべきものがわからないこと及びGBLには米軍の権限ある官憲の署名があることから、GBLを米軍発給証明書として取り扱うべきである旨主張する。
 しかしながら、米軍直接取引において請求人が米軍から発給を受ける書類である「Order for Supplies or Services」には、米軍との契約者を示す「Contractor」欄に請求人の名称が記載されており、また、「Signature of Authorized Government Representative」欄の記載は米軍の権限ある官憲の署名を表しているものであるから、当該書類が米軍発給証明書に該当するものであることは十分判断でき得るものである。
 これに対し、GBLは、運送業者が運送する貨物を受け取ったことを認証し、これを荷揚地において、正当な所持人に引き渡すことを約した船荷証券であり、運送契約上の運送に係る貨物の引渡請求権を表象するものであって、その作成目的が米軍発給証明書とは全く異なるものであること及びGBLは船荷証券としての性質上、請求人の主張するような米軍の官憲の署名はないことから、米軍発給証明書として扱うことは認められないものである。
D 以上のとおり、キャリアー取引は、上記Aで述べた所得税等臨特法第7条第1項に規定する(a)及び(b)のいずれにも該当しないことは明らかであり、また、請求人には米軍発給証明書が発行されていないことから、本件特例規定は適用されず、消費税が免除される取引には当たらない。
(ロ)本件輸出免税規定の適用について
 請求人は、仮に、キャリアー取引に本件特例規定が適用されない場合であっても、キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しについては、国際輸送等に該当し本件輸出免税規定が適用されるから消費税が免除される旨主張する。
 しかしながら、消費税法第7条第1項第3号は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、国際輸送等に該当するものは消費税を免除する旨規定しているところ、本件各課税期間における請求人とキャリアーとの間の運送等の契約は、請求人も自認しているように日本国内における運送等であって、請求人が業務遂行責任及び目的地の港に確実に貨物を届ける責任を負っていたとしても当該運送等は国際輸送等に該当するものではないことから、本件輸出免税規定は適用されない。
(ハ)処分の正当性について
 請求人は、キャリアーが日本国内に支店等を有しないために消費税の申告が困難で事実上申告がなし得ないこと、過去の税務調査においては何らの指摘もなかったこと、キャリアーが本件特例規定の適用を受ける申告手続の機会を逸していること及び原処分と異なる取扱いを受けている納税者が請求人とは別にいることから、条理上、消費税が免税されるべきである旨主張する。
 しかしながら、国内において課税資産の譲渡等を行った者については、その者が国内に事務所等を有しているか否かにかかわらず消費税の納税義務者に当たることは消費税法第5条《納税義務者》の規定から明らかであり、また、その者が同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》の規定に基づき消費税の確定申告をする際に同法第30条《仕入に係る消費税額の控除》の規定の適用を受けること又は同法第46条《還付を受けるための申告》の規定に基づく申告ができることは明らかであるから、請求人の主張は前提を誤ったものというべきである。
 また、過去の税務調査の際に、その把握された事実関係の下において同様の問題が指摘されなかったとしても、それによって原処分が違法となるものではない。
 さらに、請求人は、原処分と異なる取扱いを受けている納税者が請求人とは別にいるから消費税を免除すべきである旨主張するが、そのような取扱いがされていることは確認できない上、仮にそのようなことがあったとしても、それによって原処分が違法となるものでもない。
 以上のとおり、請求人は、在日米軍担当者の説明をもとにキャリアー取引を免税取引と誤信していたものであるから、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ニ)本件更正処分について
 本件各課税期間に係る請求人の課税標準額等は別表2―1ないし2―3に記載のとおりの金額となり、当該各金額は本件更正処分の金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。
A 課税売上計上漏れの金額について
 本件更正処分に係る課税売上計上漏れの額は、別表2―1ないし2―3の各表中の(2)及び(3)の合計額であり、その内容は以下のとおりである。
(A)(b)「キャリアー取引に係る課税売上高」について
 上記(イ)で述べたとおり、キャリアー取引には本件特例規定は適用されず、本件各課税期間の取引金額(税抜き)は、別表2―1ないし2―3の(2)「キャリアー取引に係る課税売上高」欄の各金額となる。
(B)(c)「民間国際取引に係る課税売上高」について
 請求人は、民間取引のうち日本国外から日本国内への引越しに係る売上げについて、本件輸出免税規定の国際輸送等に該当するものとして課税売上げの額に含めていないが、請求人が請け負った運送等は国内におけるものであり、国際輸送等に該当せず、消費税が免除される取引とはならないことから、これについて課税売上額(税抜き)を計算したところ別表2―1ないし2―3の(3)「民間国際取引に係る課税売上高」欄の各金額となる。
 そうすると、上記(A)及び(B)を申告金額に加算して算出した本件各課税期間における課税標準額は、別表2―1ないし別表2―3の(4)「課税標準額」欄の各金額となり、当該各金額は本件更正処分の課税標準額と同額である。
B 仕入控除税額について
 本件各課税期間における仕入控除税額を計算したところ、別表2―1ないし2―3の(6)「控除対象仕入税額」欄の各金額となり、当該各金額は本件更正処分の仕入控除税額と額となる。
C 控除不足還付税額について
 別表2―1ないし2―3によって本件各課税期間における控除不足還付税額を計算すると同各表の(7)「控除不足還付税額」欄の各金額となり、当該各金額は本件更正処分の控除不足還付税額と同額となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、請求人が消費税額を過少に申告した事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由に該当するものとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税を計算したところ、当該各金額は本件賦課決定処分の金額と同額となり、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、キャリアー取引に本件特例規定又は本件輸出免税規定のいずれかが適用されるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 調査による事実等
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、キャリアーが米軍の登録業者となるための許可申請をする際の添付書類として米軍に提出する「LETTER of INTENT(LOI)」(意思確認書)に、キャリアーの代理人として、日本国内において本件業務を行うことを約す旨の署名をしていること。
(ロ)請求人とキャリアーとの間には、作業の発注方法、作業内容及び対価等に関して、いわゆる基本契約書は作成されていないが、請求人は、キャリアーが落札した軍人等国際引越しの日本国内部分を引き受けていること。
(ハ)キャリアー取引における請求人の基本的な作業は次のとおりであり、その具体的な指図内容は、米軍が作成した作業コード番号(以下「作業コード番号」という。)をGBLに記載することにより指示されていること。
A 日本国内から日本国外への引越しの場合は、出発地での梱包、運送、保管、出港地での通関手続、船積み等。
B 日本国外から日本国内への引越しの場合は、到着港での通関手続、荷下ろし、目的地までの配達等。
(ニ)キャリアー取引における契約金額は、請求人とキャリアーとが締結した「COMPENSATION RATE SCHEDULE」(料金契約書)に基づき、その料金は作業コード番号ごとに輸送貨物100ポンド当たりの単価で定められており、請求金額は、輸送貨物の重量に100ポンド当たりの単価を乗じて算出されていること。
(ホ)請求人は、日本国内から日本国外への引越しの場合は出発港での船積み作業終了後、日本国外から日本国内への引越しの場合は配達先での受領サイン書を受け取った後、その都度キャリアーに対して対価の請求をし、請求日から30日以内にその支払いを受けていること。
(ヘ)GBLの「発注先」欄において、請求人の名称は、( )の中に記載されているところ、同欄のかっこ書は、「agent」(代理人)の名称を表していること。
(ト)OBLの「荷主」欄において、請求人の名称はキャリアーの名称の下に「C/O」と表記した上で記載されているところ、当該「C/O」との記載は、「…方」と同様に、キャリアーの所在する場所を表しているにすぎないこと。
(チ)請求人の代表取締役の答述
 請求人の代表取締役は、当審判所に対し、キャリアー取引について、要旨次のとおり答述していること。
A キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しの場合、請求人が行う作業は、米軍人宅から出港地までの梱包、運送、保管、通関手続、船積みであり、請求人はこれらの各作業を一括して請け負っている。
B 上記Aの場合、キャリアーへの請求は、船積み作業が完了し、船会社が発行したOBLの記載内容が正しいことを確認した時点で行い、請求してから約一か月後に代金を受領している。
C 請求人は、貨物が目的港に正しく届かなかった場合、船積みの際の誤積みのように請求人の責めに帰すべき事由がある場合は、損害賠償を請求されるが、そうでない場合には損害賠償は請求されない。
D キャリアー取引と米軍直接取引との相違点は、(1)キャリアー取引は、請求人がキャリアーと契約し、キャリアーから代金を受領するのに対し、米軍直接取引は、請求人が在日米軍と契約し、在日米軍から代金を受領すること及び(2)キャリアー取引は通関業務を含むが、米軍直接取引は通関業務を含まないことである。
ロ 関係法令について
(イ)消費税の課税に関する規定
A 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定し、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。
B 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により消費税を課する旨規定し、同条第3項第2号は、資産の譲渡等のうち役務の提供の場合、それが国内において行われたかどうかは、当該役務の提供が行われた場所で判定する旨規定している。
C 消費税法第5条は、国内において課税資産の譲渡等を行った事業者は、消費税を納める義務がある旨規定している。
D 消費税法第28条《課税標準》は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする旨規定している。
(ロ)消費税の免除に関する規定
A 消費税法第7条第1項第3号は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、国内及び国内以外の地域にわたって行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信について、消費税を免除する旨規定している。
B 所得税等臨特法第7条第1項は、(a)事業者が、(b)米軍及び米軍の公認調達機関に対し、(c)米軍の用に供するために購入する課税資産の譲渡等を行った場合(以下、(a)から(c)までの要件を併せて「米軍用途免税要件」という。)には、消費税を免除する旨規定している。
C 所得税等臨特法第7条第2項及び所得税等臨特法施行令第2条は、所得税等臨特法第7条第1項の米軍用途免税要件に該当する課税資産の譲渡等を行った事業者は、米軍の権限ある官憲の発給する証明書で当該課税資産の譲渡等が米軍用途に供されたものであることを証明するものを一定期間保存する必要がある旨規定している。
ハ キャリアー取引について
(イ)上記イの事実を上記ロの規定に照らして判断すると、キャリアー取引における本件業務は、上記イの(ハ)及び上記イの(チ)のAのとおり、梱包、運送、保管、通関手続及び船積み等の一貫した作業をすべて日本国内において行っているものであり、また、上記イの(ホ)のとおり、請求人は上記の一貫した作業が完了するごとにキャリアーに対し本件業務に係る対価を請求し、その支払を受けていることから、キャリアー取引は、請求人が事業者として国内において対価を得て行う資産の譲渡等に該当する。そして、キャリアー取引は、非課税の範囲を規定した消費税法第6条第1項の別表第一の各号に掲げるものには該当しないことが認められるので、課税資産の譲渡等に該当する。
(ロ)所得税等臨特法第7条第1項は、米軍用途免税要件が満たされている場合には消費税を免除する旨規定しているところ、キャリアー取引は、上記イのとおり、請求人がキャリアーに対して役務の提供を行うものであり、請求人が米軍又は米軍の公認調達機関に対して米軍の用に供するための役務の提供をなすものとは認められず、米軍用途免税要件を満たすものとはいえないから、キャリアー取引には本件特例規定は適用されないと解するのが相当である。
(ハ)請求人は、キャリアー取引において、米軍が作成するGBLの「発注先」欄にキャリアーの名称と請求人の名称とが記載されており、米軍の署名があることを理由に、キャリアー取引はキャリアーが米軍に対して行っている取引の一環をなしている取引で、明らかに米軍の用に供する取引である旨、及び請求人が軍人等国際引越しを行う場合は、キャリアー取引又は米軍直接取引のいずれかによっているが、両取引とも作業の指示監督は米軍から受けており、その作業実態は変わらないとして、キャリアー取引を米軍直接取引と同様の取引とみなすことができる旨主張する。
 しかしながら、GBLの「発注先」欄において、請求人の名称はキャリアーの名称と同列に併記されているわけではなく、上記イの(ヘ)のとおり、( )の中に記載されているところ、同欄のかっこ書は、「agent」(代理人)の名称を表しているにすぎないと認められるが、この点をともかくとしても、上記イのとおり、キャリアー取引は、請求人がキャリアーと契約し、キャリアーに対して本件業務を行い、キャリアーから対価を収受している取引であるのに対し、米軍直接取引は、請求人が在日米軍と契約し、米軍又は米軍の公認調達機関に対して役務の提供を行い、在日米軍から対価を収受している取引であるから、例え請求人が主張するように、キャリアー取引及び米軍直接取引とも作業の指示監督を米軍から受けており、その作業実態は変わらないとしても、本件特例規定の適用に当たってキャリアー取引を米軍直接取引と同様な取引であるということはできず、キャリアー取引に本件特例規定を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ニ)請求人は、仮に、キャリアー取引には本件特例規定が適用されないとしても、所得税等臨特法上、米軍発給証明書については何ら具体的な定義付けも様式も規定されていないので、どのような書類を保存すべきか不明であるが、GBLは米軍発給証明書と同じ効力を有するものである旨主張する。
 しかしながら、本件特例規定の適用には、キャリアー取引における本件業務が所得税等臨特法第7条第1項で規定する米軍用途免税要件に該当することが不可欠であり、かつ、同条第2項で規定する米軍発給証明書が一定期間保存されていることによって適用されるものであるところ、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、キャリアー取引は所得税等臨特法第7条第1項に規定する米軍用途免税要件に該当しないことは明らかである。
 したがって、GBLが米軍発給証明書と実質的に同じ効力を持つかどうかを判断するまでもなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)請求人は、キャリアー取引に本件特例規定が適用されないとすると、所得税等臨特法第7条の規定自体が日米地位協定に反する不合理な規定といわざるを得ない旨主張する。
 しかしながら、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することは、その権限に属さないことであるので、本件規定自体の合理性については、当審判所の審理の限りでない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、採用することができない。
(ヘ)本件輸出免税規定の適用について
 請求人は、仮に、キャリアー取引について本件特例規定が適用されないとしても、キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しについては、OBLの「荷主」欄に請求人の名称がキャリアーの名称と併記されていること及び荷揚げ港指示書により、日本国外にある目的地の港に到着するまで請求人に責任があることから、引越し荷物の受渡し場所は当該目的港であると考えられるので、国際輸送等に該当し本件輸出免税規定が適用され、消費税は免除されるべきである旨主張する。
 しかしながら、(a)上記イの(ト)のとおり、OBLの「荷主」欄において、請求人の名称はキャリアーの名称の下に「C/O」と表記した上で記載されているところ、当該「C/O」との記載は、「…方」と同様に、キャリアーの所在する場所を表しているにすぎず、(b)上記(イ)で述べたとおり、キャリアー取引は、請求人が事業者として、キャリアーに対して軍人等国際引越しに係る梱包、運送、保管、通関手続及び船積み等の一貫作業を行うという役務の提供を対価を得て行う取引であり、この一貫作業は、すべて日本国内において行われているものであるから、国際輸送等に該当するとは認められないことに加え、(c)請求人は船積みが完了した時点でキャリアーへの請求を行っていること及び請求人の責めに帰すべき事由により貨物が目的港に正しく届かなかった場合にのみ損害賠償を請求されることを考えれば、請求人の荷揚げ港指示書は単に貨物の最終陸揚地を表示しているにすぎないと認められるから、キャリアー取引のうちの日本国内から日本国外への引越しについて、本件輸出免税規定は適用されない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 不当性の存否について
 請求人は、仮に、キャリアー取引に本件特例規定が適用されず、また、キャリアー取引のうち日本国内から日本国外への引越しが国際輸送等に該当しないために本件輸出免税規定も適用されず、キャリアー取引に対して消費税が課税されるとしても、(a)請求人は、消費税が施行される際に、在日米軍の調達担当官及びキャリアーから、米軍直接取引及びキャリアー取引は消費税は免税である旨の説明を受けていること、(b)平成3年7月期の原処分庁による税務調査時に、キャリアー取引について何の指摘もなかったこと、(c)キャリアーが消費税の還付を受けるための申告をすることができる旨の原処分庁の主張は、日本国内に支店等もないキャリアーに対しては過酷であり、また、キャリアーは過年分の消費税について申告の機会を逸していること、(d)キャリアーが本件特例規定の適用を受けない場合は請求人が同規定を適用しても課税上の弊害はないこと及び(e)原処分と異なる有利な取扱いを受けている納税者が請求人とは別にいることから、少なくとも本件については、原処分庁は税務指導をするにとどめるべきであったにもかかわらず、12課税期間分(3暦年分)について本件更正処分を行ったことは、課税権の濫用に当たり、不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、申告納税制度の下においては、消費税の申告は納税者自らの判断と責任においてなされるべきものであるから、請求人が米軍の調達担当官及びキャリアーからキャリアー取引が免税であるとの誤った説明を受けていたとしても、また、税務調査の際に、調査担当者が行う申告の誤り等に対する指摘は、そのときの調査により把握された事実等に基づいて行うものであるから、原処分庁が過去の調査においてキャリアー取引について何ら指摘をしなかったとしても、これらのことによって請求人の納税義務が免除されるべきものではない。
 また、上記ハの(ロ)のとおり、キャリアー取引には本件特例規定が適用されないと解されるところ、キャリアー取引が、キャリアーが米軍から請け負った業務の一部を下請けする取引にすぎない以上、本件特例規定の適用を受けるための要件を充足しているか否かは、キャリアーの場合と請求人の場合とではおのずと状況が異なるうえ、そもそも請求人とキャリアーとは別人格であるから、課税上の弊害の有無について判断するまでもなく、請求人がキャリアーに代わって同規定の適用を受けることは認められない。
 さらに、日本国内に支店等もないキャリアーが申告するのは過酷であり、また、過年分の消費税については申告の機会を逸しており、キャリアーが消費税の還付を受けられないとの主張及び原処分と異なる有利な取扱いを受けている納税者が請求人とは別にいるとの主張は、いずれも請求人とは別人格の納税者に関する主張であると認められるから、これらの主張によって請求人の納税義務が免除されるものではない。
 また、キャリアー取引には上記ハの(ロ)のとおり本件特例規定の適用はされないと解されるところ、本件更正処分は国税通則法第24条《更正》の規定に基づき、同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》が規定する期間内にされており、適法と認められるから、原処分庁が過年分に遡及して12課税期間分(3暦年)について更正処分をしたことは何ら課税権の濫用に当たるとは認められない。
 したがって、これらの請求人の主張にはいずれも理由がない。
ホ 審理の結果
 キャリアー取引は、上記ハの(イ)のとおり、消費税法上、課税資産の譲渡等に該当するものと認められるところ、上記ハ及びニのとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、キャリアー取引に係る課税売上高及び各取引等の売上金額については争いがない。そして、当審判所の調査によれば、原処分庁が認定した別表2―1から2―3までの課税標準額及び控除不足還付税額は相当であると認められるので、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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