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(平10.2.26裁決、裁決事例集No.55 757頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、印刷業を営む同族会社であるが、原処分庁は、請求人に対し、R市S町4丁目19番12号に所在し昭和63年11月9日に解散したF有限会社(以下「滞納会社」という。)の次表に記載する滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)に関し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に基づいて、平成7年8月21日付の納付告知書により128,028,379円を限度とする第二次納税義務の告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。

 請求人は、この処分を不服として、平成7年10月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成8年3月14日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年5月2日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、滞納会社と共同してそれぞれが所有する別紙1の不動産目録1ないし3に記載する不動産(以下、「同目録1記載の土地を「滞納会社所有土地」、同目録2記載の土地を「本件土地」、同目録3記載の建物を「本件建物」といい、これらを併せて「本件不動産」という。)を、H株式会社に対し昭和63年10月31日付土地付建物売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)に基づき総額399,028,000円で売却し、その代金を請求人と滞納会社との間で次表のとおり配分した。

(単位 円)
区分土地建物合計
滞納会社141,009,00023,594,000164,603,000
請求人223,470,00010,955,000234,425,000
計 364,479,00034,549,000399,028,000

ロ 原処分庁は、この配分に当たって、滞納会社及び請求人がし意的な配分を行い、その結果請求人が滞納会社から128,028,379円の利益を得ているものであると認定して、当該金額を限度とする本件告知処分をした。
 しかしながら、請求人は、次の理由から滞納会社に対して損失補償を求めた結果、111,485,463円の損失補償を得ることとなり、当該金額を本件不動産の売却代金の配分額に含めて受領したものであるから、当該配分には合理的な理由がある。
(イ)本件不動産の売却に至った経緯は、次のとおりである。
A 請求人と滞納会社は、本件建物を共有し、互いに印刷工場として利用してきたところであるが、昭和62年半ばに滞納会社から経営不振を理由に会社解散を前提にした滞納会社所有土地及び本件建物の持分の売却についての協力要請を受けた。
 この要請には、滞納会社所有土地が特異な形状であり、本件建物が請求人との共有であることから、請求人の承諾なくして売却することは事実上不可能であるという背景があった。
B 請求人にとっては、滞納会社の協力要請に応じなければ、滞納会社が倒産する等の不慮の事態に陥った場合に相当額の損失を被ることが明らかに予想された。
 そのため、請求人は、本件土地の高価購入による損失の補償及び本件建物にある請求人の工場(以下「P工場」という。)の閉鎖、廃棄による損失の補てん(以下、併せて「本件損失補償等」という。)を受けることを条件に協力要請に応じることとし、滞納会社と共に本件不動産を売却することを承諾した。
(ロ)請求人が、滞納会社に本件損失補償等として要求した額の算定は、次のとおりである。
A 本件土地の高価購入による損失補償の額
 本件土地は、滞納会社からの要請により請求人が購入したものであるところ、本件土地が滞納会社所有土地の隣接地であったことから、時価よりも高価で購入せざるを得なかったという事情があった。
 そこで、本件土地の高価購入による損失補償の額は、本件土地の購入価額(1平方メートル当たり609,936円)が購入時の鑑定評価額(1平方メートル当たり250,000円)の2.44倍であったので、その倍率を基に売却時の鑑定評価額(1平方メートル当たり739,000円)を乗じた108,171,864円((2.44−1)×739,000円×101.65平方メートル)と算定した。
B P工場の閉鎖、廃業に伴う損失補てんの額
 請求人のP工場の売却準備開始直前決算期(昭和61年4月から昭和62年3月)における損益状況は、次表のとおりであったことから、年間P工場利益の5年分の逸失利益額を想定して114,175,000円と算定した。

(単位 千円)
科目金額
収益
 売上高230,024
経費
 材料費及び外注費104,079
 工員給与74,363
 P工場における共通営業経費
 給料(9名分)の2分の114,347
 その他の経費(概算)14,400
経費計207,189
年間P工場利益22,835

C したがって、本件不動産売却に伴う本件損失補償等の額は、上記A及びBの合計額から約222,347,000円と算定した。
(ハ)請求人と滞納会社が本件不動産の売却代金の配分に当たって交渉し、合意した本件損失補償等の額は、次表のとおりである。
 上記イの土地のみの配分額(本件不動産の売却代金の総額から、建物価額として区分した売却時の本件建物の簿価を控除した金額)Bと本件不動産の売却時における滞納会社所有土地及び本件土地の鑑定評価額Aを基に算定した評価額Cとの差額Dである111,485,463円とした。

ハ さらに、滞納会社と請求人の間における本件不動産の売却代金の配分は、次のとおり、全く独立の通常の経済人として合理的行為・計算に基づいてなされている。
(イ)滞納会社としては、滞納会社所有土地は特異な形状の土地であり極めて利用価値が低いもので通常売買価額の半値以下といわれていたが、請求人と共同して売却したことにより不動産鑑定評価額の約1.49倍の高値を確保することができ、また、請求人の協力がなければ建物を取り壊して売却する必要があるところ、建物代金を確保することができた。
 その結果、請求人の本件損失補償等の要求額222,347,000円をその約半額の111,485,463円に削減できた。
 そして、請求人の協力によって高値売却が可能となったことを考慮すれば、実質上の損失補償等の額は、滞納会社所有土地の不動産鑑定評価額169,372,980円と土地のみの売却代金の配分額141,009,000円との差額である28,363,980円のみとなった。
(ロ)請求人としては、要求額に満たないながらも、111,485,463円の損失補償等の額を得ることができ、逸失利益を確定利益にする利点があり、資金繰りの効果と金利軽減効果が期待できた。
ニ 一般の自由市場においても、賃借室あるいは賃借建物等につき賃貸人の都合による明渡しの要求があった場合に、賃借人に対して多額の損失補償金が支払われることは当然とされていることからすれば、請求人が滞納会社に本件損失補償等を要求することは一般自由市場において経済的合理性があるとともに、公平の理念に合致し当然のことである。
 滞納会社と請求人とは、通常の経済人として合理的、自然的行為・計算に基づいて判断し、交渉して、合意に達したものであるから、請求人は自らのし意的行為・計算によって滞納会社から利益を得ているものではなく、本件不動産の共同売却における特別事情すなわち営業廃止等に伴う本件損失補償等の額111,485,463円を売却代金に含めて配分を受けたものである。
 また、請求人にとって、相手が滞納会社ではない第三者であっても同様の条件が満たされない限り売却はあり得ず、他の通常の経済人にあっても同様である。
 かえって損失補てんの要求をしない行為こそが、通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められ、請求人が滞納会社の窮状をおもんぱかって損失補てん要求をしない場合にこそ、請求人のし意的行為と判断されるべきである。
 ところで、「し意的」の判断は、もっぱら経済的、実質的見地において、取引当事者の行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判断すべきであると解される。これは、同族会社の行為又は計算の否認の対象となる行為・計算に該当するか否かの判断は、「純経済人の行為として不合理、不自然な行為・計算かどうかにある。」(東京高等裁判所昭和48年3月14日判決(昭和45年(行コ)第19号、同第20号法人税審査決定取消等請求控訴事件))とされていることから明らかであり、それには租税回避や税負担を減少させる意図までは要求されていないと解されているところである。
 いわんや、当事者の単なる心情や要請に基づくものを指すものではない。
 したがって、滞納会社の本件不動産の売却要請にやむなく応じるために損失補償等を要求し、それを得た請求人の行為・計算が、純経済人の行為として不合理、不自然な行為といえるものではない。
ホ 上記ロの特別事情を考慮外とした通常成立すると認められる適正な土地の価額(時価)すなわち滞納会社所有土地の鑑定評価額169,372,980円と滞納会社の本件建物価額23,594,000円の合計額は192,966,980円であるのに対し、滞納会社が受領した本件不動産の売却代金の配分額は164,603,000円であるから、時価との不足額が28,363,980円に過ぎず、当該譲渡は判例にいう「著しく低い対価による譲渡」の基準である「おおむね時価の2分の1に満たない対価による譲渡」に該当しないことになる。
 したがって、徴収法第39条に規定する第二次納税義務の要件を具備しないことになる。
ヘ 以上のとおり、滞納会社と請求人との本件不動産売却代金の配分は、客観的時価に特別事情である本件損失補償等の額を加減して行われたもので、適正になされており、請求人は滞納会社から利益を得ていない。
 また、国税徴収法基本通達(国税庁長官の定める昭和41年8月22日付徴徴4―13ほか「国税徴収法基本通達の全文改正について」通達。以下「徴収法基本通達」という。)第39条関係6の注書は、特別事情を考慮することを明示しているところであり、適正な取引価額は、その取引価額を左右する特別事情があればそれを考慮したものでなければならないとしていることからも、請求人の特別事情に係る主張は相当である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 徴収法第39条の規定によれば、次の要件のいずれにも該当する場合には、次の(ロ)の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益につきその滞納に係る国税の第二次納税義務を負うこととされている。
(イ)滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められること。
(ロ)当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分をしたこと。
(ハ)(イ)の原因が(ロ)の処分に基因すると認められること。
ロ これを本件についてみると、次のとおり、上記イの第二次納税義務の成立要件を具備している。
(イ)滞納会社は、昭和63年11月9日に解散し、平成元年1月31日に清算結了して、無財産になっている。
(ロ)本件告知処分に係る納付通知書を発した平成7年8月21日現在本件滞納国税は納付されていない。
(ハ)本件滞納国税の法定納期限は、平成元年2月28日であり、本件不動産の譲渡年月日は、当該法定納期限の1年前の日以後の昭和63年10月31日である。
(ニ)請求人は、本件不動産の売却代金のうち234,425,000円を取得しているが、売却代金の配分額は、本件不動産の土地の価額を基にして次表のとおり算定するのが相当である。
 そうすると、受けるべき配分額は、滞納会社292,631,379円及び請求人106,396,621円となる。
 したがって、滞納会社が受けるべき配分額292,631,379円と現実の受領額164,603,000円との差額128,028,379円が滞納会社から請求人への無償譲渡に当たるので、請求人はその得た利益相当額の金額を限度として徴収法第39条に規定する第二次納税義務を負うことになる。

ハ 請求人は、上記(1)のロの特別事情があるから、本件不動産の価額の算定に当たって、当該特別事情を考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、徴収法第39条に規定する「著しく低い対価による譲渡」については、当該取引価額が通常の取引価額、すなわち時価に比して社会通念上著しく低いと認めるか否かにより判断するとされており、ここにいう一般の土地の時価とは、広島地方裁判所平成2年2月15日判決(昭和60年(行ウ)第6号第二次納税義務告知処分取消請求事件)で判示するとおり、一般の自由市場において、当該土地の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる適正な価額をいうものであると解されている。
 通常成立すると認められる適正な価額における特別事情とは、立地条件、地形、交通事情、道路事情、公共施設の状況及び公法上の制限等を考慮することであり、それ以外の個別的当事者間の事情を指すものではなく、同判決においても、第二次納税義務者が主張した売り急ぎ、債務の弁済のため等の特別事情については排斥されており、本件においても請求人主張の特別事情は考慮されるべきではない。
 なお、請求人が上記(1)のヘで引用する徴収法基本通達第39条関係6の注書にいう特別事情とは、大阪高等裁判所昭和54年4月24日判決(昭和52年(行コ)第35号第二次納税義務告知処分取消請求控訴事件)が基礎となっているところ、同判決は、建物付土地の場合において、土地の価額を評価する際、土地の更地価額から建付地減価修正をし、借地権価格を減価する等の土地の価額の評価算定の技術的問題を取り上げているのであり、請求人の主張に沿うものではない。
ニ 請求人は、東京高等裁判所昭和48年3月14日判決を引用して、本件告知処分の違法性を主張する。
 しかしながら、同判決は、旧法人税法第31条の3第1項に関するものであり、徴収法第39条は、制度の趣旨に照らし衡平の理念に基づいて国税債権者と利益を享受している譲受人との調整を図ろうとしているものであって、請求人の引用する旧法人税法の規定とその目的を異にしており、本件のような事例において旧法人税法第31条の3第1項を引用すべき余地はない。

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3 判断

 本件審査請求は、請求人と滞納会社が所有する本件不動産の売却代金の配分に関し、請求人が滞納会社から徴収法第39条に規定する利益を受けたか否かに争いがあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人と滞納会社は、共同して本件不動産を昭和63年10月31日付で総額399,028,000円でH株式会社に売却し、その売却代金について、滞納会社は164,603,000円、請求人は234,425,000円受領したこと。
ロ 滞納会社は、昭和63年11月9日に解散し、平成元年1月31日に清算結了したこと。
ハ 滞納会社を所轄するG税務署長は、滞納会社に対し、平成4年12月25日付で清算所得の法人税額等の決定処分をしたこと。
 また、当該決定処分に係る法人税の清算所得金額は、次表のとおり122,928,744円であったこと。

(単位 円)
項目金額
決算利益の額△2,460,706
加算固定資産売却収入計上漏れ(注)128,028,379
 寄付金損金不算入額125,389,450
減算雑費認容額2,638,929
 寄付金125,389,450
清算所得金額122,928,744

(注)本件不動産の売却代金につき、受けるべき配分金額を292,631,379円と認定し、当該金額から受領額164,603,000円を控除した金額である。
ニ 上記ハの決定処分による滞納会社の納付すべき法人税等の額は、本税及び無申告加算税が45,483,300円及び6,822,000円であり、本件告知処分がなされた平成7年8月21日前においてその全額が滞納となって、かつ、滞納会社は清算結了しており無財産であったこと。
ホ 請求人は、本件告知処分後の平成8年5月16日に本税の全額を納付し、延滞税の額34,401,000円が確定したこと。
ヘ 請求人は、徴収法第39条に規定する滞納会社の特殊関係者に当たること。
(2)請求人の提出した証拠資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 滞納会社は、昭和39年2月4日に設立されたが、その当時、出資者であるE、N及び請求人(当時の代表取締役は、Eである。)の3者の出資割合は総出資金額の68.26パーセントを占め、滞納会社が解散した昭和63年11月9日現在の当該3者の出資割合は63.5パーセントであったこと。
 また、EとNは父子であり、Eは、滞納会社設立時から昭和43年8月30日までの間及び昭和57年1月10日から解散した昭和63年11月9日までの間代表取締役であり、解散後は滞納会社の清算人となり、また、Nは、昭和43年8月30日から取締役であったこと。
 なお、昭和43年8月30日から昭和63年7月22日までの間は、Eの長女Kの配偶者であるM(以下「M」という。昭和63年7月22日死亡)も代表取締役に就いており、滞納会社は一時2名の代表取締役を置いていたこと。
ロ 請求人は、昭和21年6月4日に設立されたが、本件不動産の売買契約の締結日である昭和63年10月31日において、E及びNの2名が請求人の発行済株式数の56.75パーセントを占める株主であり、共に請求人の役員であったこと。
 なお、請求人の設立時から昭和52年5月30日までの間はEが、以後はNが代表取締役であり、また、Mは昭和50年5月31日から同人が死亡するまでの間取締役であったこと。
ハ 滞納会社所有土地及び本件土地の形状並びに本件建物の配置の状況は、別紙2のとおりであること。
 また、滞納会社所有土地の奥行距離は、北側及び南側が約31.1メートル及び30.6メートルであり、公道に接する間口距離は約3.3メートルであること。
 そして、本件土地の奥行距離は、北側及び南側が約9.3メートル及び9.0メートルであり、公道に接する間口距離は約10.2メートルであること。
ニ 登記簿謄本によれば、次のことが認められること。
(イ)本件土地については、昭和56年9月21日売買を原因として、同月22日に請求人への所有権移転登記がされ、昭和63年11月10日売買を原因として、同月11日にH株式会社への所有権移転登記がされている。
(ロ)滞納会社所有土地については、昭和41年8月10日売買を原因として、同月11日に滞納会社への所有権移転登記がされ、昭和63年11月10日売買を原因として、同月11日にH株式会社への所有権移転登記がされている。
(ハ)本件建物については、(a)木造瓦葺2階建、1階85.95平方メートル、2階85.95平方メートルの建物(以下「旧建物」という。)について、昭和41年8月10日売買を原因として、同月11日に滞納会社への所有権移転登記がされ、(b)昭和57年6月3日一部取毀し、同年8月30日増築を原因として、同年12月17日に建物表示変更登記がされ、(c)同年9月4日売買を原因として、同年12月3日に滞納会社から請求人への共有持分100分の22の所有権一部移転登記がされ、(d)昭和63年11月10日売買を原因として、同月11日にH株式会社への共有者全員持分全部移転登記がされている。
ホ 請求人の代表取締役であるNは、原処分庁の調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述していること。
(イ)請求人は、昭和48年ころ滞納会社所有土地の隣接地が宅地化されて分譲されるという情報を受け、Eの指示によりその隣接地(R市S町4丁目11番17、宅地、95.85平方メートル)を購入し、滞納会社の騒音対策をも兼ねて請求人の社宅を建築した。
(ロ)その後、昭和56年に滞納会社所有土地の公道入口部分の本件土地の住民が立ち退いたので、滞納会社から依頼されて請求人が本件土地を購入した。
 そのころ、請求人は、Q市T町に事務所兼印刷工場を所有していたが、そこが手狭であったため工場部分を本件土地へ移転することにした。
 しかしながら、本件土地の地積及び建築法令上の制限の関係から滞納会社の旧建物を増築する方法でしか工場建物を確保することができなかったため、請求人が資金の全額を調達して増築をした。
(ハ)旧建物の増築資金の総額は、当初は45,000,000円で足りるはずであったが、その後追加があり51,000,000円となった。
 このうち、35,000,000円を滞納会社が負担することとし、滞納会社に対する貸付金15,000,000円と本件建物の滞納会社所有持分を借り受けるための入居保証金20,000,000円が充てられ、本件不動産の売却後にその貸付金の残額が返済され、入居保証金が返還された。
 なお、本件建物の賃借料は月額200,000円であったが、賃貸借契約書は作成していなかった。
(ニ)滞納会社の代表取締役のMは、昭和60年ころから体調の不全を理由に事業から身を引きたいという希望を漏らし、昭和62年半ばころから滞納会社の工場売却と解散を請求人に打診していたが、昭和63年7月22日に死亡し、それまでの滞納会社の業績が低調であったこともあり今後の好転が見込めなかったことから、社員総会で解散を諮るに至った。
 社員総会は、E、N、J、K、請求人(代理人として請求人の関与税理士事務所のX事務員)の出資社員及び出資社員ではない滞納会社の関与税理士事務所のY事務員(以下「Y事務員」という。)が出席し、Y事務員が議長代行という形で行われたが、Eの専断で同人を清算人とし、清算の実務は全てKとY事務員が行うこととして解散決議を行った。
(ホ)請求人は、本件不動産の売却代金の配分額について、経営上の必要な資金も考慮の上、234,425,000円を滞納会社に要求した。
ヘ 本件売買契約書によれば、本件不動産の売買代金は建物と土地に区分されておらず、建物及び土地を現状有姿のまま一括して総額399,028,000円で売買し、昭和63年10月31日に手付金20,000,000円及び同年11月10日に残金379,028,000円を授受することとされていること。
 なお、上記不動産売買契約の締結日である昭和63年10月31日付で、本件不動産の売却代金の配分を滞納会社164,603,000円、請求人234,425,000円とする旨の覚書(以下「本件覚書」という。)が作成されていること。
ト 請求人の昭和57年8月20日付取締役会議事録には、(a)議案は、P工場建築費等決定の件、(b)共有持分は請求人22パーセント、滞納会社78パーセント、(c)建築費請求人負担額は、請負額4,500万円×22%=1,000万円、(d)請求人支払家賃額(月額)は、請求人使用面積から請求人の持分に係る面積を控除した後の面積である43坪×4,500円=20万円である旨記載されていること。
チ 旧建物の増築工事を請け負った株式会社Wが請求人あてに発行した4通の領収証によれば、増築資金の総額は51,000,000円であること、また、そのうち昭和57年12月13日付6,000,000円の領収証については、追加工事に係るものであること。
リ 滞納会社の解散日である昭和63年11月9日現在の決算書によれば、滞納会社の持分に係る本件建物の増築部分及び旧建物の取得価額は、35,000,000円及び1,983,600円であること。
 また、旧建物の増築資金として請求人から借り入れた15,000,000円については、その後月額175,000円の返済を行っているものと認められ、同日現在の借入金の残高は1,575,000円であること。
ヌ Y事務員は、滞納会社の法人税調査を行ったG税務署の担当職員に対して、要旨次のとおり申述していること。
(イ)本件不動産の売却代金の配分に関して、KとY事務員は、請求人の代表取締役であるNから滞納会社への配分額の提示を受け、その提示された配分額を承諾しなければ請求人は本件不動産の売却に応じない旨の申入れを受けた。
(ロ)その提示された金額は、本件覚書記載の滞納会社が配分を受ける金額と同額であり、当該金額の根拠の提示や説明はなかった。
ル 滞納会社及び請求人は、本件覚書の配分額に基づいて本件不動産の売却に係る譲渡益をそれぞれの清算期間及び昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの事業年度の所得金額に算入したが、滞納会社については清算所得金額が発生せず、請求人については繰越欠損金の控除により、いずれにも納付すべき法人税額は算出されなかったこと。
ヲ 請求人がG税務署長に提出した平成4年9月7日付「不動産売却代金分割について」と題する文書には、配分を受けた234,425,000円の内訳について、次のとおり記載されていること。

土地代坪当たり2,800,000円×31坪×2.5倍=217,000,000円
建物代10,000,000円
工場閉鎖立退料等7,425,000円
合計234,425,000円

 なお、上記土地代の算定については、(a)本件不動産の売却は、滞納会社の要望により行われたものであり、請求人としてはあえて売却する必要はなかった、(b)本件土地は、昭和57年2月に購入したもので、当時滞納会社は資金上の都合で購入できず、請求人がやむを得ず購入したものであるが、関連会社である滞納会社所有土地の表通りに面した地続きの土地を購入する必要があったことから、当時坪当たりの時価が800,000円くらいのものを坪当り約2,000,000円、総額63,860,000円と時価の2.5倍で購入する結果となったものであると記載されていること。
ワ 請求人が当審判所に提出した平成7年9月28日付不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)及び本件鑑定書附属の参考価格査定書(以下「本件査定書」といい、本件鑑定書と併せて「本件鑑定書等」という。)によれば、不動産鑑定士は、滞納会社所有土地及び本件土地の価額を次表のとおり算定していること。

 上記中の滞納会社所有土地の個別的要因格差に係る補正率(以下「格差補正率」という。)については、次表のとおり計算していること。

減価要因減価率格差補正率の計算
不整形5%
間口狭小10%
奥行逓減15%
地積大15%
格差補正率62%0.95×0.90×0.85×0.85=約0.62

(イ)本件鑑定書においては、平成7年9月13日を価格時点として、取引事例比較法を適用して求めた比準価格1平方メートル当たり427,000円と地価示地等を規準とした価格(公示地(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地をいい、当該標準地の価格を「公示価格」という。以下同じ。)を規準とした1平方メートル当たりの価格387,000円及び基準地(国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項に規定する基準地をいう。)を規準とした1平方メートル当たりの価格386,000円)との均衡を図りつつ、標準的画地の価格(以下「標準価格」という。)を1平方メートル当たり420,000円と求め、滞納会社所有土地及び本件土地の格差補正率と地積を乗じて得た金額を当該各土地の鑑定評価額としていること。
(ロ)本件査定書においては、昭和57年9月ころ及び昭和63年9月ころを価格時点として、昭和57年及び昭和63年の公示価格を規準とした価格を標準価格とし、本件鑑定書における上記格差補正率によって修正した価格を滞納会社所有土地及び本件土地の参考価格としていること。
(ハ)上記本件鑑定書等における評価額の算定については、次のことが認められること。
A 本件鑑定書において、比準価格の算定上、滞納会社所有土地及び本件土地の用途地域(準工業地域)と異なった用途地域(住居地域)である土地の取引事例を採用していること。
B 本件査定書において、昭和63年9月ころを価格時点とする標準価格の査定上、用途地域が住居地域であり、周辺の土地の利用の現況が小規模住宅、アパートの密集する地域の公示価格を規準としていること。
C 本件査定書において、標準価格の査定上、公示価格と市場取引価格との補正を10パーセント程度であるとする実勢価格補正を行っていること。
カ 財団法人日本不動産研究所の調べによる全国木造建築費指数表(平成2年3月末を指数100とする。)によれば、昭和41年9月末、同57年9月末及び同63年9月末の建築費指数は、それぞれ21.0、84.7及び91.7であること。
(3)以上の各事実を総合して判断すると、次のとおりである。
イ 本件不動産の売却代金の配分について
 本件不動産の売却代金の配分について、請求人は、建物価額及び土地価額に区分して上記2の(1)のイのとおりである旨主張し、一方、原処分庁は、建物価額及び土地価額に区分することなく上記2の(2)のロの(ニ)のBのとおりである旨主張する。
 ところで、上記(2)のヘのとおり、本件売買契約書には、建物と土地の売買価額が区分されずその総額が記載されていることが認められるが、本件不動産は別紙1の不動産目録記載のとおり、滞納会社及び請求人がそれぞれ所有する土地とそれぞれが共有する建物であり、それらを一括して売却したものであることから、次のとおり、その売却代金の総額を建物価額と土地価額に区分した上で、それぞれの持分等に応じて配分するのが相当である。
(イ)建物売却代金の区分及び配分
A 請求人は、上記2の(1)のイのとおり、本件不動産の売却代金の区分に当たり、建物代金を34,549,000円と算定している。
 ところで、上記(2)のニの(ハ)、ホの(ハ)及びリによれば、滞納会社は旧建物を昭和41年8月に売買により取得し、その取得価額は1,983,600円であること及び旧建物は昭和57年8月に51,000,000円で増築されていることが認められることにかんがみ、それらの価額と上記(2)のカによる建築費指数を用いて本件不動産売却時における再取得価格を求め、経過年数による減価償却費相当額を控除した価格をもって本件建物の売却時の時価(価額)とみるのが相当である。
 そうすると、本件不動産の売却代金のうち本件建物代金として区分すべき金額は、次表のとおり1,458,745円及び46,583,512円の合計額である48,042,257円となる。

B 次に、上記Aで算定した本件建物代金に区分された48,042,257円について、これを請求人と滞納会社に配分する必要がある。
 ところで、増築後の本件建物は、請求人と滞納会社とが共有しており、上記(2)のニの(ハ)のとおり、その持分割合は、滞納会社が100分の78及び請求人が100分の22であるが、当該持分割合は、別紙1の不動産目録1、2記載のとおり、滞納会社所有土地と本件土地の面積割合により決定されたものと推認される。
 また、増築費用の負担については、上記(2)のトのとおり、請負金額45,000,000円に上記持分割合を乗じて請求人10,000,000円、滞納会社35,000,000円と算出して配分したことが認められるが、上記(2)のチの追加工事代金の額6,000,000円は請求人が負担したものと認められる。
 その結果、持分割合と資金負担割合が異なることとなり、その原因は上記のとおり追加工事前の増築費用の額を基として滞納会社負担額及び請求人の賃借料を決定したものの、その後の追加工事代金については考慮しなかったことによるものと推認されるが、(a)当該追加工事の内容が証拠上明らかでないこと、(b)増築資金は全額請求人が調達し、滞納会社負担額35,000,000円には請求人の滞納会社に対する入居保証金20,000,000円及び貸付金15,000,000円を充て、また、請求人が滞納会社に上記のとおり決定された賃借料月額200,000円を支払う一方、毎月滞納会社から貸付金返済額175,000円を受け取ることとされている(いずれも契約書等に基づくものとは認められない。)ことから、滞納会社は表面上借入金の返済額を本件建物の賃貸料で賄うことができること、さらに、入居保証金の全額と貸付金の残額を本件不動産の売却後回収していることなどから、増築部分の金額の配分は形式的なものと認めるのが相当であること及び(c)旧建物に係る取得価額についてはその全額を滞納会社が経理処理していることなどから、滞納会社及び請求人の経理処理上の簿価を基に配分するのは合理性がない。
 そこで、本件建物については、上記(2)のニの(ハ)のとおり、共有割合により滞納会社及び請求人が所有しているものと認めるのが相当であり、上記Aで算定した本件建物代金として区分された金額48,042,257円について、それぞれの持分割合によって配分すると、本件建物代金の配分額は、滞納会社37,472,960円、請求人10,569,297円となる。
(ロ)土地売却代金の区分及び配分
 土地売却代金として区分される金額は、本件不動産の売却代金の総額399,028,000円から上記(イ)の本件建物代金に区分された48,042,257円を控除した金額350,985,743円となる。
A 請求人は、土地売却代金として区分した金額を滞納会社及び請求人に配分するに当たり、上記2の(1)のロの(ハ)のとおり、本件損失補償等の額を加減する前の受けるべき配分額として、本件鑑定書等における昭和63年9月ころを価格時点とする滞納会社所有土地と本件土地の評価額の割合を用いて、滞納会社に252,494,463円、請求人に111,984,537円と算定している。
 しかしながら、本件鑑定書等における評価については、上記(2)のワの(ハ)のAのとおり、取引事例のうちに比準対象として不適切な事例が含まれていること並びに昭和63年9月ころを価格時点とする標準価格の査定上、滞納会社所有土地及び本件土地は準工業地域であるにもかかわらず、上記(2)のワの(ハ)のBのとおり、評価対象地と状況が異なる公示地の公示価格を規準としていること及び公示価格が正常な価格すなわち合理的な自由市場で形成されるであろう市場価格を適正に表示する価格とされていることからすれば、上記(2)のワの(ハ)のCのとおりの実勢価格補正(10パーセント程度)の根拠が明確でないことなど種々の不的確な点が認められる。
 したがって、本件鑑定書等における評価額を基礎とした配分額の算定方法は採用することができない。
B 原処分庁は、本件不動産の売却代金の配分に関して、請求人が滞納会社から128,028,379円の利益を得ていると認定しているが、当該利益の算定の基礎とした滞納会社所有土地及び本件土地の価額を評価基本通達及び昭和63年分の路線価に準じて算定していることが認められる。
 ところで、当審判所が調査したところによれば、評価基本通達に定める具体的な評価方法は、課税庁が専門機関に調査依頼してその調査結果を参考にしたり、各種実績に基づいて定めたものと認められるので、この定めを適用することが著しく不適当と認められる場合や他に妥当と認められる評価方法等がある場合を除き、評価基本通達の定めにより財産を評価することを不相当ということはできないものと解されるところ、評価基本通達における各種の画地補正率等の定めをみると、これらの定めは、土地の形状により、その個別性に応じた補正内容となっており、また、当該補正率についても、これを特に不相当とする理由も認められないから、原処分庁が滞納会社所有土地及び本件土地の価額をこれらの定めに準じて算定する方法を採用したことは当審判所においても相当と認められる。
C ところで、滞納会社所有土地及び本件土地は同一の路線に面しており、その昭和63年分の正面路線価は260,000円と認められるところ、原処分庁は、上記各土地の価額を計算するに当たり、奥行短小補正を行っていないことが認められるので、この点について修正して計算すると次表のとおりとなる。

 したがって、土地売却代金に区分された350,985,743円の滞納会社所有土地及び本件土地への配分額は、それぞれ滞納会社260,185,731円、請求人90,800,012円となる。
(ハ)本件不動産の売却代金の配分
 以上のことから、請求人主張の損失補償等の特別事情を加減しないところの本件不動産の売却代金の配分額は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
区分受けるべき配分額内訳
 建物売却代金土地売却代金
滞納会社297,658,69137,472,960260,185,731
請求人101,369,30910,569,29790,800,012
399,028,00048,042,257350,985,743

ロ 請求人は、本件土地は滞納会社からの要請により購入したものであり、関連会社である滞納会社所有土地の隣接地であったことから時価の2.44倍で購入する結果となったので、本件不動産の売却に当たり、高価購入の損失補償として、本件土地の売却時の鑑定評価額の1.44倍の損失補償を滞納会社に要求し、その補償を受けた旨主張する。
 確かに、請求人が本件土地を時価に比して高価で購入したことはうかがわれるが、いかなる理由によるものかは証拠上明らかでなく、この点について請求人が主張するところも十分納得できるものではないことを考えると、仮に請求人が滞納会社からの要請により購入したものであり、それが時価の2.44倍であったとしても、本件不動産の売却に当たり、これをそのまま直ちに高価購入の損失補償として要求できるものと認めることはできない。
 また、土地は、事前に確定利回りを保証された金融商品と同様にその値上がり益が保証されているべきものではないことから、仮に購入時の時価の2.44倍の価額で取得した土地を、売却時の時価の同倍率の価額で売却できないとしても、それを損失ということができず、請求人が主張する高価購入による損失補償の要求は、社会通念上合理性を欠くものといわざるを得ないので、その補償を得たとの主張はその拠るべきものがないといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 請求人は、本件建物が滞納者との共有であり、P工場を閉鎖、廃業せざるを得なかったことから、これに伴う逸失利益の損失補てんとして、同工場の売却準備開始直前決算期における年間利益の5年分に相当する金額114,175,000円を滞納会社に要求し、その補てんを受けた旨主張する。
 しかしながら、本件不動産の売却に伴い、請求人が主張するところの利益が生じているP工場を直ちに閉鎖、廃業するということは、通常の経済人の選ぶところではなく、当該売却代金をもって代替工場を取得し、以後の営業拠点を確保し、営業の継続を図る方策を選択するのが通常の合理的な経済人の行為であるということができ、社会通念にも合致するところである。
 他方、滞納会社が通常の合理的な経済人であれば、請求人のP工場の閉鎖、廃業による損失補てん要求に対して、その補てんに応ずる場合であっても、その補てん額は代替施設に移転するまでの合理的な期間に応じた休業補償に相当する額をもって請求人に対抗するのが相当と考えられるところ、滞納会社が請求人に対してそのような主張をした形跡はなく、請求人の要求するままに損失補てんに応じたことは不合理というほかない。
 また、P工場の閉鎖、廃業による損失補てんの額につき、上記(2)のヲのとおり、請求人がG税務署長に提出した文書には7,425,000円としていることが認められ、請求人の上記主張額とそごする上、売却準備開始直前決算期の年間利益の5年分を相当とする理由について請求人の主張もないことから、当審判所は請求人の主張する損失補てんの額を相当と判断することができない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ニ 請求人は、上記2の(1)のロの(ハ)のとおり、滞納会社所有土地と本件土地への現実の配分額と本件土地の鑑定評価額を基礎に算出した価額との差額111,485,463円を本件損失補償等の額とすることで合意した旨主張するが、上記(2)のワのとおり、本件鑑定書等は平成7年9月28日付で作成されており、本件不動産の売却代金の配分を決定した本件覚書作成時(昭和63年10月31日)において鑑定評価額は配分額の計算の基礎となり得ないものと認めるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 また、請求人は、上記2の(1)のハのとおり、土地売却代金の配分額について、鑑定評価額、鑑定評価額を基礎に算出した価額及び本件損失補償等の要求額の各々の差額や割合を用いてその合理性等を主張するが、鑑定評価額を基礎として算出した価額と合意した配分額との差額自体の算定根拠が不明であり、かつ、本件損失補償等の要求額についても、上記(2)のヌの申述及び上記(2)のヲの文書に記載された内容とも異なることが認められるから、請求人の主張は採用することができない。
ホ 請求人は、本件損失補償等を滞納会社に要求することが通常の経済人として合理的、自然的行為・計算であり、かえって本件損失補償等を要求しない行為こそが、通常の経済人として不合理、不自然である旨主張する。
 しかしながら、次のことを総合して判断すると、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(イ)上記(2)のイ及びロのとおり、E、N及び請求人は滞納会社の出資金額の過半を有し、またE及びNは請求人の発行済株式の過半を有し、そしてE及びNは滞納会社及び請求人双方の代表取締役又は役員に就任していたこと及び滞納会社の代表取締役であったMが昭和50年から請求人の取締役も兼任していた事実が認められ、また、上記(2)のホの(ロ)及び(ハ)の旧建物の増築及び資金負担は請求人の計算でなされてきたものと認められる。
(ロ)そして、上記(2)のホの(ホ)、ヌ及びヲを総合すれば、請求人は、本件不動産の売却代金の配分を要求するに際して、明確な算出根拠をもってP工場の閉鎖、廃業に伴う損失補てんを滞納会社に求めていたとは認められず、かえって請求人が配分を受けた金額の説明としては、本件土地の高価購入による損失補償に力点を置いていたことが認められるところ、当該高価購入による損失補償の主張は上記ロで判断したとおり合理性がないから、請求人の特別事情に係る主張は採用することができず、請求人は、合理的理由なくしてより多額の売却代金の配分を主張し、その配分を受けたものと認められる。
(ハ)以上からすれば、請求人と滞納会社とは、本件不動産の売却代金の配分に当たっては、独立の通常の経済人として相対する状況にあったとは認め難く、両者の配分額の合意は、通常の経済人と同様の行為としてなされたものと見るのは相当ではない。
 なお、上記(1)のハ及び(2)のルによれば、滞納会社が本件不動産の売却代金につき167,063,706円以上の金額を受領すれば、清算所得金額が算出されることになる一方、請求人にあっては本件不動産の売却代金の全額を受領しても法人税の課税所得金額が算出されない状況下にあったことが認められる。
ヘ 以上のことから、本件不動産の売却代金の適正な配分により滞納会社が受けるべき配分額は上記イの(ハ)のとおり、297,658,691円とするのが相当であるので、上記(1)のイによる現実の受領額164,603,000円との差額133,055,691円については、請求人が滞納会社から無償による利益を受けたと認めるのが相当である。
ト 以上のとおり、滞納会社については、本件不動産の売却代金の配分に基因して本件滞納国税について滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められるところ、請求人は、上記(1)のヘのとおり、滞納会社の特殊関係者であり、本件不動産の売却代金の配分において滞納会社から無償による利益を得ていることが認められるから、徴収法第39条の規定により、請求人はその受けた利益の額133,055,691円を限度として滞納会社の滞納国税の第二次納税義務を負うというべきである。
チ なお、請求人は、上記2の(1)のホのとおり、滞納会社が受領した本件不動産の売却代金の配分額は、徴収法第39条に規定する著しく低い対価による譲渡に該当しないから、第二次納税義務の要件を具備していない旨主張する。
 しかしながら、滞納会社が請求人に対して滞納会社所有土地及び本件建物に係る滞納会社の持分を譲渡したものではない本件にあっては、請求人の主張はその前提において理由がないというべきである。
リ したがって、上記トのとおり、請求人の受けた利益の額133,055,691円の範囲内でなされた本件告知処分は適法である。
(4)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 不動産目録


1 所在P市S町4丁目
  地番11番5
  地目宅地
  地積369.81平方メートル
 所有者滞納会社
2 所在P市S町4丁目
  地番11番7
  地目宅地
  地積101.65平方メートル
 所有者請求人
3 所在P市S町4丁目11番地5、11番地7
 家屋番号11番5
  種類工場、事務所、共同住宅
  構造鉄骨木造陸屋根瓦葺2階建
 床面積1階411.39平方メートル
 2階350.93平方メートル
 所有者滞納会社持分100分の78
 請求人持分100分の22

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