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(平10.12.2裁決、裁決事例集No.56 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、◇◇◇の製造業を営む法人であるが、平成7年1月1日から平成7年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
所得金額○○○○○○○○
納付すべき税額○○○○○○○○
繰越欠損金の当期控除額○○○○○○○○
重加算税の額8,918,000
過少申告加算税の額53,473,000

 原処分庁は、これに対し、平成9年2月27日付で上表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分のうち、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)に不服があるとして、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成9年4月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるので、その全部の取消しを求める。
 原処分庁は、次表の取引(以下「本件取引」という。)を対象として、本件賦課決定処分をした。

(単位:円)
科目取引番号計上年月日取引先金額
修繕費(1)平成7年3月30日J株式会社2,900,000
 (2)平成7年3月30日J株式会社3,250,000
 (3)平成7年12月20日J株式会社7,200,000
 (4)平成7年12月20日J株式会社10,080,000
 (5)平成7年12月20日J株式会社2,883,000
 (6)平成7年12月20日J株式会社1,300,000
 (7)平成7年8月29日K株式会社5,500,000
 (8)平成7年10月30日K株式会社940,000
 (9)平成7年12月21日K株式会社4,680,000
 (10)平成7年12月27日K株式会社240,000
 (11)平成7年12月19日L株式会社4,980,000
 (12)平成7年12月21日M株式会社8,750,000
研究開発費(13)平成7年12月27日N株式会社5,071,225
 (14)平成7年12月27日P株式会社5,765,800
広告宣伝費(15)平成7年12月25日Q株式会社5,025,000
外注費(16)平成7年12月27日R株式会社7,104,000
合計75,669,025

(注)表中、研究開発費の合計額10,837,025円のうち、7,714,877円については、請求人の親会社H社に親会社負担分として請求し、本件事業年度の営業外収益に計上されていたことから、原処分庁は、当該7,714,877円を上表の合計額から除いた67,954,148円を対象として本件賦課決定処分をした。
イ 隠ぺい又は仮装の故意について
(イ)脱税の目的
 重加算税の課税要件である隠ぺい又は仮装の行為については、隠ぺい又は仮装の行為に故意が必要であるが、その故意の内容については、納税者が脱税の目的で隠ぺい又は仮装の行為を行うことが必要であると解すべきである。
 この点に関しては、大阪高等裁判所平成3年4月24日判決(平成元年(行コ)第33号重加算税賦課決定処分取消請求控訴事件)において、「重加算税は、過少申告加算税、無申告加算税及び不納付加算税が賦課されるべき場合に、納税義務者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、若しくは仮装し、これらの行為に基づいて申告をし、又は、申告をせず、あるいは税金の納付をしなかったときに、これらの加算税に代えて、一定の加重された負担を課す租税である」、「国税通則法第68条《重加算税》第1項に定める重加算税の課税要件である『隠ぺい・仮装』とは、租税を脱税する目的をもって、故意に納税義務の発生原因である計算の基礎となる事実を隠匿し、又は作為的に虚偽の事実を付加して、調査を妨げるなど納税義務の一部又は全部を免れる行為をいい、このような見地からは、重加算税の実質は、行政秩序罰であり、その性質上、形式犯ではあるが、不正行為者を制裁するため、著しく重い税率を定めた立法趣旨及び『隠ぺい・仮装』といった文理に照らし、納税者が、故意に脱税のための積極的行為をすることが必要であると解すべきである」と明確に判示しているところであり、また、京都地方裁判所平成4年3月23日判決(昭和62年(行ウ)第40号重加算税賦課決定処分取消請求事件)も同様の趣旨の判決である。
 したがって、重加算税を賦課するためには、納税者が脱税の目的をもって隠ぺい又は仮装の行為を行うことを要するところ、本件取引は、いずれも取引担当者の経理知識の欠如等を起因として生じたものにすぎず、取引担当者に脱税の目的は存在しないから、本件賦課決定処分は違法である。
(ロ)故意の内容
 仮に百歩譲って、「隠ぺい・仮装」行為に故意があるというためには納税者が脱税の目的を有することまでは要しないと解したとしても、隠ぺい又は仮装の行為の故意があるというためには、少なくとも、和歌山地方裁判所昭和50年6月23日判決(昭和45年(行ウ)第9号重加算税賦課決定取消請求事件)にもあるように、「納税者が行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するもの」と解すべきである。また、行為の意味を認識しているというためには、課税要件事実について、事実に反する経理処理がされていることについて、納税者が積極的に事実と反する経理処理をしようとする意思があったこと、あるいは事実と反する経理処理がなされていることを知りながら、あえてこれをそのまま放置して訂正しないでおこうとする意思があったことが必要であると解される。
 ところが、本件取引に関しては、取引担当者の経理知識の不足から事実に反する経理処理がなされるという結果は生じているが、担当者にはこのような不実の経理処理を積極的に行おうとする意思はなかったし、また、そのような不実の経理処理がなされていることを知りながら放置したわけでもない。
 したがって、請求人は、原処分庁が仮装行為であると評価している行為のいずれについても、その意味の認識をしていなかったのであり、本件賦課決定処分は違法である。
(ハ)本件取引について
 本件取引については、それぞれ次のとおりの理由により、経理処理の誤りが生じたものであり、個々の担当者には脱税の目的がなかったことはもちろんのこと、請求人は事実に反する経理処理が行われるとの認識を有していなかった。
A J株式会社及びK株式会社との取引
 本件取引のうち(1)から(10)までの一連の取引は、請求人のW工場施設グループにおいて、▼▼製造設備の部品であるフィルター等を購入した取引である。
 これらの部品は、通常、発注後納期まで1か月から3か月を要することが予想されるため、W工場では予め発注依頼を行い、不具合が生じた際、すぐに交換できる体制を整えてきた。
 そして、これらの部品は、▼▼製造設備に組み込む前処理をメーカーの工場で行う必要があるので、製造された部品をすぐにW工場に納入させることは行わず、従来から別途指示する時までメーカーに預けてあり、部品が必要になった都度、メーカーにその部品を納入させてきた。
 したがって、W工場では、契約時において、物品の引渡し日、役務提供の完了日等、納期として約された日(以下「納入予定日」という。)にメーカーから納品書等を受領し、検収・受入れの処理を行っておけば、それ以降は、メーカーがこれを請求人のために保管してくれるものと信じていた。
 そこで、本件のフィルター等についても、W工場施設グループにおける通常の手続及び認識に従い、交換周期の近づいた部品の発注依頼を行い、納入予定日において、納品書等を受領し、検収処理を行ったものである。
B L株式会社との取引
 本件取引のうち(11)の取引は、請求人のX工場において、※※製造装置の横部に取り付けられる★★ポンプ(以下「ポンプ」という。)をL株式会社から購入した取引である。
 L株式会社は、平成7年12月19日に、ポンプ一式をX工場に運び込み、★★装置への取付工事を行い、請求人指定の請求書・納品書・受領書を持参したが、購入契約に含まれる配線工事までは行わなかった。
 そして、この配線工事は、請求人の社員であっても十分行うことのできる簡単な工事であり、担当者は、ポンプを取り付けた翌日には配線工事が行われるものと信じ、L株式会社が持参した納品書に受領の署名をして検収の手続を済ませたのであるが、L株式会社は、この配線工事を平成8年1月30日まで遅延させ、また、配線工事を自社内で行う必要もなかった。
 このため、担当者は税務調査で指摘を受けて初めて、この検収処理が税務上問題があることを知ったのである。
 なお、担当者は、本件の検収処理に関して何の問題もないと信じていたので、本件に関して経理部門や上司に相談したり、その指示を受けたりということもしなかった。
C M株式会社との取引
 本件取引のうち(12)の取引は、請求人のX工場において、◆◆装置から排出されるxを冷却するための装置である□□装置(以下「本件装置」という。)をM株式会社から購入した取引である。
 そして、発注依頼は、同工場技師が行ったものの、本件装置購入についてのM株式会社に対する交渉は、すべて施設部の担当者が行った。
 本件装置は、M株式会社との契約上平成7年12月に納入されることとなっていたが、契約締結後、M株式会社は、施設部の担当者に本件装置の納入が平成8年に遅れる見込みであることを伝えてきた。
 ところが、この情報は発注依頼した技師には伝えられなかったため、同技師は、本件装置が12月中に納入されると信じ、予算担当者からの本件装置の納入時期についての照会に対し、12月中に納入されると回答した。
 そこで、予算担当者は、施設部の担当者に対して、予算管理システムの入力期日である12月21日までにM株式会社から納品書等を受領するよう指示するとともに、発注依頼した技師に対しては、本件装置が年内に納入される予定であれば、入力期日までに本件装置の検収手続を済ませるよう要請した。
 その結果、実際の納入がないにもかかわらず、M株式会社から納品書等を提出させ、納入があったかのような会計処理が行われたのであり、本件については、仮装行為といえるための故意はもとより、いかなる主観的要素も存在しないのである。
D N株式会社との取引
 本件取引のうち(13)の取引は、請求人のデザインセンターにおいて、Y事業所からの依頼に基づき、テスター用のテストデータ収集プログラムをN株式会社から購入した取引である。
 Y事業所では、N株式会社から購入し、使用していたテスター2台(A1及びA2)にS社から購入した別のテスター(A3)にインストールされているテストデータ収集プログラムを使用する必要に迫られ、S社の承認を得て、N株式会社から購入した2台のテスターにS社から購入したテスターのプログラムを仮インストールして使用していた。
 しかしながら、契約上、N株式会社から購入した機械には同社のプログラムを使用しなければならないこととなっており、現状のままでは同社から他社のプログラムを使用することは違法であると主張される恐れがあったことから、担当者は、プログラムの代金を至急N株式会社に対して支払う必要があると考えた。
 そこで、N株式会社が実際にプログラムをインストールする前ではあったが、既に同一のプログラムを仮インストールして使用しており、同社によるインストールを受けたのと何ら相違ない状況にあったため、同社から請求書を入手し、費用処理を行いその支払を済ませたものである。
 したがって、担当者の認識に従えば、既に使用しているプログラムの代金を支払ったものであり、何ら事実に反する処理をしたものではない。
E P株式会社との取引
 本件取引のうち(14)の取引は、請求人のデザインセンターにおいて、■■部品の##設計のためのシュミレーション用モデリング抽出ソフトウェアをP株式会社から購入した取引であり、購入手続を初めて経験する担当者が発注を依頼したものである。
 担当者は、受領した請求書は速やかに署名を行い支払手続を済ませることが自己の任務であると信じていたため、実際にソフトウェアの納入が完了しているかどうかについて配慮しないまま、受け取った請求書に受領の署名を行い、その結果、検収前に費用処理が行われるという結果が生じたのである。
 したがって、本件は、自己の行為の意味を知らないままに納品処理を行った結果生じた担当者の過誤にすぎない。
F Q株式会社との取引
 本件取引のうち(15)の取引は、請求人の広報部において、販売促進用の印刷物をQ株式会社から購入した取引である。
 請求人は、完成した印刷物について外部倉庫に搬入させているが、外部倉庫では納入された印刷物について納品のコンピューター処理ができないことから、従来から、取引先に対して印刷物のサンプルと一緒に納品書及び請求書を提出させ、その内容をチェックして問題がなければ、提出された納品書等に基づき納品のコンピューター処理を行ってきた。
 本件についても、平成7年12月25日に印刷物のサンプルとともに納品書及び請求書の提出があったので、担当者はこれを受領し、従来と同様に納品処理を行ったものであるが、担当者は、平成8年1月初旬の海外出張の準備等で多忙を極めたため、Q株式会社に対して納入場所の指示を行うことができず、実際に印刷物が納入されたのは平成8年2月5日になってしまったものである。
 担当者は、実際に印刷物のサンプルを受領し、その完了も確認していたことから、上記の処理を行うことに関して、税務上、何か問題があるとは全く考えもしなかったのである。
G R株式会社との取引
 本件取引のうち(16)の取引は、請求人の人事部において、ソフトウェア開発プロジェクトの担当者が、人事システムソフトの仕様変更をR株式会社に委託した取引である。
 本件は、平成7年12月5日付のシステム開発業務委託契約において、成果物の納入期限を同月22日、委託料金の支払期日を同月31日とすることとされた。
 ところが、委託業務のうち、Vプランのプログラミングの一部作業は平成8年にずれこむことになってしまった。
 しかし、担当者は、このプログラミング作業以外の委託業務はすべて終了していること、Vプランについても一部作業が残されているだけであること、Vプランが平成8年2月までに完成すれば業務上何ら問題はなく、しかも、既にその仕様書は納入され、同月までには、プログラムが完成することは間違いないと思われたことから、委託料金については約定期日に支払う必要があるものと考えたが、請求人のシステム上、業務委託完了報告書の提出を受け、委託業務完了確認書を作成しなければ、委託業務の完了前に支払をすることはできないので、担当者は、契約どおりの支払をするため、便宜的に業務委託完了報告書の提出を受け、委託業務完了確認書を作成して、契約上の支払期日である平成7年12月31日までに支払ができるようにしたのである。
 入社以来人事業務に従事し、経理の知識がなく、しかも外部への発注業務が本件が初めてであった担当者にとって、本件の便宜的な手続が請求人の利益金額に影響を与えることについての認識はまったくなかったし、また、このような処理が不実の経理処理を生じる結果となることなど知り得べきもなかったのである。
ロ 隠ぺい又は仮装の行為者について
 重加算税の賦課における隠ぺい又は仮装の行為の主体は納税者に限定されるべきではなく、その従業員の行為も含まれるとしても、あらゆる従業員の行為が無限定にすべて納税者の行為と同視されるべきではない。
 例えば、名古屋地方裁判所平成4年12月24日判決(平成2年(行ウ)第45号重加算税賦課決定処分取消請求事件)は、「重加算税賦課制度の目的は、隠ぺい・仮装行為に基づく申告に対し、特別に重い負担を賦課することにより納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度の信用を保持するところにあり、納税者の刑事責任を追及するものでないのであるから、このような制度の趣旨からすれば、会社の代表者自身ではなく、その従業員等であっても、会社の営業活動の中心となり、実質的に経営に参画していた者が隠ぺい・仮装をし、かつ、代表者がそれに基づき過少申告をした場合には、納税者たる会社が重加算税の負担を受けることは、法の要請するところである」と判示している。
 この判決は、裏返せば、すべての従業員の行為によって会社に重加算税が課せられるわけではないことを如実に示しているといえる。すなわち、納税者の営業活動の中心となり、実質的に経営に参画していた者の隠ぺい又は仮装の行為により納税者に重加算税が課せられることはあるにしても、それ以外の一般従業員が単独で事実に反する外形を作出し、その結果、不実の経理処理がなされた場合には、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装の行為には該当しないと解すべきである。
 本件取引の場合、その行為は、いずれも技術部門ないしは人事部門に所属する一般従業員により日常の事務手続の過程で行われたものであり、本部経理部ないしは所属部門の上司の指示に基づく行為ではないから、本件取引の各担当者は、重加算税を課すことができる隠ぺい又は仮装の行為の主体には含まれない。
 したがって、隠ぺい又は仮装の行為の主体に含まれない者が行った本件取引は、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装の行為には該当しない。

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(2)原処分庁の主張

 本件賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 隠ぺい又は仮装の故意について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件取引については、いずれも本件事業年度中に納品及び役務提供がなされていないこと。
B 本件取引は、請求人のW工場、X工場、デザインセンター及び本社において行われたものであるが、各工場及び事業所等の担当者(以下「各担当者」という。)はいずれも、本件事業年度中に納品あるいは役務提供の事実がないことを承知の上で、取引先の営業担当者に対して、納品書、請求書、物品預り書あるいは委託業務完了報告書の発行を依頼し、取引先から発行されたこれらの証ひょう類を使用して検収等の手続を行っていたこと。
(ロ)上記の(イ)のBの事実からすれば、各担当者は、本件事業年度中に納品あるいは役務提供の事実がないことを承知の上で、経費等の計上の根拠となる納品書、請求書等の発行を取引先に依頼し、これを提出させ、あたかも本件事業年度中に納品や検収等を行ったごとく装っていたものである。
 つまり、各担当者は故意に事実を歪曲する、いわゆる仮装行為を積極的に行っていたのであり、このことから、各担当者は、本件仮装行為によって本件事業年度において発生していない経費を計上することについて十分な認識があったものと認められる。
 したがって、本件取引に隠ペい又は仮装の故意はないとする請求人の主張には理由がない。
ロ 隠ぺい又は仮装の行為者について
 重加算税制度の設けられた趣旨は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告若しくは無申告に対して特別の経済的負担を課すことによって、納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度の信用を維持しようとするところにあるので、隠ぺい又は仮装の行為を役員の行為に限定すべきではなく、従業員等の行為も重加算税の対象となり、役員等がその事実を知っているかどうかにかかわらず、重加算税が課されると解するのが相当である。
 本件の場合、請求人から発注、納入指示、検収等の権限を付与された各担当者により行われた意図的な仮装行為による経費計上であり、仮に、この行為が日常の事務手続の過程で行われ、あるいは本社経理部ないしは所属部門の上司の指示に基づくものでないとしても、請求人は、本件仮装行為によって計上された費用について、是正することなく確定した決算を行い、当該決算に基づいて申告書を提出したのであるから、国税通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに該当する。
ハ 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件賦課決定処分は適法であるから、本件審査請求は棄却されるべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件賦課決定処分が適法か否かであるので、以下審理する。

(1)隠ぺい又は仮装の故意について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件取引の個々の金額、取引先及び品名等は上記2の(1)に記載した表のとおりであること。
(ロ)請求人は、本件取引の金額を本件事業年度の翌事業年度以降において、所得金額の計算上損金の額に算入すべきところ、当該金額を本件事業年度の損金の額に算入したこと。
ロ ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して申告納税制度の秩序を維持することにある。
 そして、その加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して課す刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみると、請求人が、大阪高等裁判所平成3年4月24日判決等を前提とした重加算税の賦課には納税者に脱税の目的及び認識を要するとの主張は、重加算税の課税要件についての一つの解釈とは認められるものの、重加算税制度が、刑事罰とはその趣旨を異にする行政措置であってみれば、むしろ、重加算税を課すには、課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。
 そして、国税通則法第68条第1項の隠ぺい又は仮装の行為とは、客観的にみて、取引状況などの所得を基礎付ける事実を隠ぺい又は仮装するなど、申告納税制度の趣旨を没却する行為をいうものと解するのが相当である。
ハ そこで、本件取引について、個々に事実の隠ぺい又は仮装の有無を判断すると次のとおりである。
(イ)J株式会社及びK株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)本件取引のうち上記(1)から(10)までの取引に携わったW工場の担当者は、施設グループで主に水処理施設の保守等を行う設備技術担当に所属し、水処理施設のメンテナンス計画の作成、予算の作成及び実績管理並びに購買依頼書の作成等を行う者(チーフ)であること。
(B)請求人の作成した購買手続マニュアルによれば、W工場での発注、検収等の購買手続の手順は、まず、現場からの連絡を受けた購買依頼書作成担当者が、当該依頼書を作成し、同工場の決裁委任規定に従ってグループ長等の社内承認を受けた上で購買担当部門へ送られた後、購買担当部門で取引先との納期等の交渉から注文書の発行、部品等の受入れ及び検収までを行うとともに、最終的に、請求書は経理部へ、そして物品受領通知は購買依頼書作成担当者へそれぞれ回付されること。
(C)部品等の受領に際して、検収担当者は、請求人の指定伝票(請求書・納品書)と部品等とを照合して「現品票」を発行し、それを部品等に添付することになっていること。
(注)上記(B)及び(C)の購買手続については、他の工場及び事業所等についても同様であること。
(D)本件取引のうち上記(1)から(10)の取引については、請求人の自認によれば、発注から納品までに通常要する期間は1か月以上であるとされているが、各取引ごとの注文書発行日、納入予定日及び実際納入日は次のとおりとなっていること。
 なお、いずれの取引についても、注文書には納入予定日を厳守してほしい旨が記載されていること。

取引番号注文書発行日納入予定日実際納入日
(1)平成7年3月29日平成7年3月30日納入なし
(2)平成7年3月29日平成7年3月30日納入なし
(3)平成7年12月11日平成7年12月20日平成8年5月12日
(4)平成7年11月28日平成7年12月20日平成8年3月2日
(5)平成7年12月11日平成7年12月20日平成8年4月4日
(6)平成7年12月11日平成7年12月20日平成8年5月12日
(7)平成7年8月24日平成7年8月29日平成8年5月12日
(8)平成7年10月24日平成7年10月27日平成8年5月12日
(9)平成7年12月11日平成7年12月20日平成8年1月17日
(10)平成7年12月19日平成7年12月27日平成8年1月10日

(注)表中(1)及び(2)の「納入なし」は、平成8年10月1日現在の状況を示す。
(E)請求人は、平成8年10月2日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(1)から(10)のW工場における取引について、工事が延期され、工事完了は本件事業年度終了後となったにもかかわらず、J株式会社及びK株式会社に対し、納品書及び請求書を納入予定日に持参するよう指示し、併せて物品預り証等も持参するよう依頼した旨を記載した書面を「確認書」として請求人の担当者名で提出していること。
(F)請求人がJ株式会社及びK株式会社から上記(E)により徴した請求人指定の納品書の受領欄には、請求人の検収担当者が当該納品書記載の物品等を納入予定日に検収した旨(ただし、(8)については平成7年10月30日付、(9)については平成7年12月21日付。次のBにおいて同じ。)の確認署名をしていること。
(G)請求人における取引先に対する支払事務は、上記(F)の検収確認を受け、他の工場及び事業所等に係る分を含め、本社で一括して行われていること。
(H)J株式会社は、平成8年9月27日、原処分庁に対し、上記(E)の請求人のW工場あての物品預り証は、請求人の要請により発行したもので、実際に部品等の現物を請求人のものとして保管していたものでなく、請求人に依頼されたため、受注の証のようなものとして発行したものである旨を記載した「申述書」を提出していること。
(I)K株式会社は、平成9年1月8日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(7)から(10)までの取引に係る工事が延期され、当該工事の完了が本件事業年度終了後となったにもかかわらず、請求人の担当者からの依頼により、納入予定日に納品書、請求書及び注文預り書を持参した旨の「確認書」を提出していること。
(J)J株式会社及びK株式会社は、請求人が納入予定日に受領した請求人指定の納品書及び請求書とは別に、実際の納品日まで別管理のための伝票(前受金等)を起票し、その後に実際の納品を受けて、本件取引に係る収益の額を計上していること。
B 上記Aの各事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、上記Aで述べた行為については、請求人の担当者が通常の手続及び認識に従って発注依頼を行い、納入予定日に納品書及び請求書を受領し、検収処理をしたものであり、当該担当者は行為の意味を認識していなかったから、隠ぺい又は仮装の行為には当たらない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記Aのとおり、本件取引に係る工事が延期され、当該工事の完了が本件事業年度終了後となり、本件事業年度内に設定されていた納入予定日に物品が納入されないのを承知の上で、J株式会社及びK株式会社の両社に対し、当該納入予定日に納品書等を持参するよう指示し、両社をして、(1)両社自身が通常行っている納品手続等とは別に、請求人指定の納品書及び請求書を発行させ、併せて(2)実際に発注した現物を保管させていないにもかかわらず物品預り証をも発行させ、それぞれ持参させたことが明らかであり、しかも、これにより徴した納品書の受領欄に、実際には納品の事実がないのに請求人の確認者が受領確認の署名を行うなど、これらの証ひょう書類によって当該納入予定日にあたかも実際に納品を受け検収をしたかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、請求人の担当者が通常の認識及び手続に従って処理を行ったものであるとの請求人の主張については、請求人及び取引先の双方において、本件取引に係る工事が本件事業年度終了後となることを認識し承知していたことは明らかであることから、当該担当者のその後の一連の行為を(1)部品等を受領する際に現物と納品書とを照合することとされている請求人の購買手続(検収等)、(2)納品書及び請求書は現物が納品されて初めて発行されることは商慣行として当然であることに照らせば、当該担当者が行為の意味を認識していなかったとは到底認められず、むしろ、当該担当者の積極的な行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ロ)L株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)L株式会社が発行した見積書及び請求人が発行した注文書によれば、上記の取引のうち(11)の取引に係る工事は、単なるポンプのみの購入だけでなく、その取付工事を含む一括契約となっていること。
 また、当該工事を担当したL株式会社◎◎サービスセンターが同社の本社に提出したサービス報告書によれば、当該取付工事の内容は、ポンプの取付け、コンプレッサーの設置、動作確認、作動データの収集等の一連の請負作業であること。
(B)上記(A)のサービス報告書によれば、上記(11)の取引に係る工事は平成8年1月29日から30日にかけて実施され、請求人の確認者が同月30日付で承認欄に署名していること。
(C)請求人は、平成8年9月17日、原処分庁に対し、上記(11)の取引に係るポンプ取付工事がX工場において終了したのは、本件事業年度終了後の同年1月30日であり、当該工事に係る費用を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(D)L株式会社は、平成9年1月8日、原処分庁に対し、上記(11)の取引に係る工事が、実際に完了していないにもかかわらず、請求人の担当者から納入予定日として指定された平成7年12月19日付で納品書及び請求書を発行するよう依頼され、これらの書類を当該依頼に基づき実際の工事完了日と異なる当該納入予定日に持参した旨の「確認書」を提出していること。
(E)請求人がL株式会社から上記(D)により徴した請求人指定の納品書の受領欄には、請求人の検収担当者が当該納品書記載の物品等を平成7年12月19日付で検収した旨の確認署名をしていること。
(F)L株式会社は、請求人が受領した所定の納品書等とは別に社内的に、納入年月日を平成8年2月1日とした納品書(控)及び請求書(控)を作成し、これにより当該取引の売上げを同日付で計上していること。
 また、当該納品書(控)及び請求書(控)には、品名「△△△」として4,200,000円、「△△△取付作業」として780,000円と記載されていること。
B 上記Aの各事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、納入予定日である平成7年12月19日にL株式会社がポンプ一式を工場に運び込み、★★装置への取付工事を終え、簡単な配線工事を残すだけであったので、その納入の際に同社が持参した納品書に請求人の担当者が受領署名をして検収の手続を採ったのであり、当該担当者は税務調査で指摘を受けるまで、その行為の意味を認識していなかった旨主張する。
 しかしながら、これらの工事に係る取引は、上記Aのとおり、注文書、見積書、サービス報告書等によれば、単なるポンプの購入のみでなく、その取付けのほか、コンプレッサーの設置、動作確認、作動データ収集等一連の請負作業を含む一括契約であることから、請求人主張のような取付工事と簡単な配線工事に区分できる内容の工事でないことに加え、ポンプ取付工事自体が本件事業年度終了後の平成8年1月下旬に実施され、請求人の確認者が同月30日付でサービス報告書の承認欄に署名していることが明らかであるから、請求人の主張自体がその前提を欠くといわざるを得ない上、請求人は、納入予定日に当該工事が完了していないにもかかわらず、L株式会社に対し、当該納入予定日に納品書及び請求書を持参するよう指示し、同社をして、同社自身が通常行っている納品手続等とは別に、請求人指定の納品書及び請求書を発行させ持参させたことが明らかであり、しかも、これにより徴した納品書の受領欄に、実際には工事完了の事実がないのに請求人の確認者が受領確認の署名を行うなど、これらの証ひょう書類によって当該納入予定日にあたかも実際に当該工事が完了し引渡しを受け、これを検収したかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、請求人の担当者は税務調査で指摘を受けるまでその行為の意味を認識していなかったとの請求人の主張については、納入予定日において実際に工事が完了していなかったことは明らかであるから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、当該担当者がその行為の意味を認識していなかったとは到底認められず、むしろ、当該担当者の積極的行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ハ)M株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人が本件取引のうち上記(12)の取引に係る平成7年12月13日付の注文書を発行する前の平成7年12月5日に請求人が作成した当該(12)の取引のスケジュール表によれば、本件装置の入荷は平成8年1月20日ごろとされ、さらに、本件装置の入荷後にその据付工事が行われることとなっていたこと。
 一方、請求人が上記日付で発行した注文書に記載された納入予定日は、平成7年12月30日とされ、当該納入予定日を厳守して欲しい旨の注意書が添えてあること。
(B)M株式会社においても、平成7年10月13日付で上記(A)のスケジュール表と同様の記載内容の工程表が作成されていること。
(C)請求人は、平成8年9月17日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(12)のX工場における取引について、M株式会社から購入した本件装置を実際に受領したのは本件事業年度終了後の同年1月20日であり、その購入金額を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(D)M株式会社は、平成9年1月14日、原処分庁に対し、上記(12)の取引について、実際の納品日が本件事業年度終了後の平成8年1月20日であるにもかかわらず、請求人の担当者から指定された平成7年12月21日付で納品書及び請求書を発行するよう依頼され、これらの書類を当該依頼に基づき、実際の納品日と異なる上記指定日に持参した旨の「確認書」を提出していること。
(E)請求人がM株式会社から上記(D)により徴した請求人指定の納品書の領収欄には、請求人の検収担当者が当該納品書記載の物品等を平成7年12月21日付で検収した旨の確認印を押印していること。
B 上記Aの各事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、本件装置の納期がM株式会社の都合により平成8年になるとの情報が正確に社内の関係者に伝わらなかったため、誤った会計処理が行われたものであり、その行為には故意はもとより、いかなる主観的要素も存在しない旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、請求人が注文書発行前の平成7年12月5日に作成したスケジュール表等によれば、本件装置の受領が本件事業年度終了後の平成8年1月20日ごろとされ、その入荷後に据付工事が行われることになっており、また、実際に本件装置を受領したのは本件事業年度終了後の平成8年1月20日であったことに照らせば、平成7年12月13日付で請求人が発行した注文書において納入予定日が同月30日とされているものの、本件装置の受領が本件事業年度終了後となることは請求人及びM株式会社の双方において十分に認識し承知していたと認めるのが相当であり、しかも実際に本件装置の受領をしていないのに、請求人は、同社に対し、請求人も自認するとおり、本件事業年度内の予算管理システムの入力期日までに納品書及び請求書を持参するよう指示し、同社をして、これに応じさせ持参させていることが明らかであり、これにより徴した納品書の受領欄に、請求人の確認者が平成7年12月21日付で受領確認の押印をするなど、これらの証ひょう書類によって当該署名日付にあたかも実際に本件装置を受領し、据付工事の完了後に検収したかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、請求人の担当者には故意はもとより、いかなる主観的要素も存在しない旨の請求人の主張については、請求人及びM株式会社の双方において本件装置の受領及び据付工事の完了が本件事業年度終了後となることは十分に認識し承知していたと認められることから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、単に納期遅れの情報が社内関係者に伝達されなかった結果であるとは到底認められず、むしろ、当該担当者の積極的な行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ニ)N株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人が平成7年12月26日付で発行した上記(13)の取引に係る注文書に記載された納入予定日は、同月27日となっていること。
(B)N株式会社が平成7年12月19日付で発行し請求人に提出した見積書には、納入予定日は「別途お打合せ」とされていること。
 また、同社が同時期に作成したCONTROL SHEETには、納入予定日が平成8年2月13日になる旨記載されていること。
(C)請求人は、平成8年9月20日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(13)の取引について、N株式会社から購入したソフトウェア(☆☆☆)を実際に受領したのは本件事業年度終了後の同年2月14日であり、その購入金額を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(D)N株式会社は、平成8年12月25日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(13)の取引について、実際の納品日が本件事業年度終了後の同年2月14日であるにもかかわらず、請求人の担当者から納入予定日として指定された平成7年12月27日付で請求書を発行するよう依頼され、当該納入予定日に請求書を持参した旨の「確認書」を提出していること。
(E)請求人がN株式会社から上記(D)により徴した平成7年12月26日付の請求人指定の請求書の受領欄には、請求人の検収担当者が当該請求書記載の物品等を平成7年12月27日付で検収した旨の確認署名をしていること。
(F)N株式会社の売上伝票の発行日付は平成8年2月13日であり、また、同社が請求人から徴した受領書の御検収印欄に平成8年2月14日付で請求人の担当者の押印があること。
B 上記Aの各事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、N株式会社から購入したテスターに他社製のプログラムを仮インストールして使用していることの違法性を同社に問われることを回避するため、また、当該使用していた状態が同社から正規にインストールを受けたと同様な状況にあったため、請求人の担当者は同社から請求書を入手して費用処理を行ったもので、何ら事実に反する処理をしたものでないから隠ぺい・仮装の行為はない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記Aのとおり、N株式会社が平成7年12月19日付で発行し請求人に提出した見積書によれば、本件ソフトウェアを輸入する必要があるため、受渡期限が「別途お打合せ」とされており、また、同社が同時期に作成したCONTOROL SHEETによれば、本件ソフトウェアの実際の納品が平成8年2月13日になる旨記載されていることから、実際の納品が本件事業年度終了後になることは認識し承知していたと認めるのが相当であり、それにもかかわらず、平成7年12月26日付で発行した注文書には納入予定日を同月27日とし、しかも当該納入予定日には実際に納品の事実がないのに、同社に対し、当該納入予定日に請求人指定の請求書を持参するよう指示し、同社をして、同月26日付の請求書を持参させたことが明らかであり、これにより徴した当該請求書の受領欄に請求人の確認者が同月27日付で受領確認の署名を行うなど、これらの証ひょう書類によって当該納入予定日にあたかも実際に納品を受け検収をしたかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、N株式会社からの違法性の問責回避及び正規の使用状態と同様な状況にあったことを理由として、何ら事実に反する処理をしたものでないとの請求人の主張については、請求人のソフトウェアの稼働状況を述べたものにすぎないと認められることに加え、既に注文書発行日において実際の納品が本件事業年度終了後になることを認識し承知していたと認められることから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、請求人の担当者が何ら事実に反する行為をしていなかったとは到底認められず、むしろ当該担当者の積極的行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ホ)P株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人が平成7年12月25日付で発行した上記(14)の取引に係る注文書には、当該取引に係る物品等の納入予定日が本件事業年度終了後の平成8年1月20日とされていること。
(B)請求人は、平成8年9月20日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(14)の取引について、P株式会社から購入したソフトウェア(***)を実際に受領したのは本件事業年度終了後の同年1月31日であり、その購入金額を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(C)P株式会社は、平成9年1月29日、原処分庁に対し、上記(14)の取引について、実際の納品日が本件事業年度終了後の平成8年1月31日であるにもかかわらず、請求人の担当者から平成7年12月27日付で納品書及び請求書を発行するよう依頼され、これらの書類を当該依頼に基づき実際の納品日と異なる同日に持参した旨の「確認書」を提出していること。
(D)請求人がP株式会社から上記(C)により徴した平成7年12月26日付の請求人指定の請求書の受領欄には、請求人の検収担当者が当該請求書記載の物品等を平成7年12月27日付で検収した旨の確認署名をしていること。
(E)P株式会社が、請求人から徴した物品受領書の受領印欄には、平成8年1月31日付で請求人の担当者の受領署名があること。
B 上記Aの事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、検収前に費用処理が行われたのは、請求人の担当者が実際のソフトウェアの納入について、配慮が足りなかったため生じた過誤であり、仮装の故意はない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記Aのとおり、請求人が平成7年12月26日付で発行した注文書によれば、本件ソフトウェアの納入予定日を本件事業年度終了後の平成8年1月20日としていることから、実際の納品が本件事業年度終了後になることは十分に認識し承知していたと認められるにもかかわらず、P株式会社に対し、実際に納品の事実がないのに、平成7年12月27日に請求書を持参するよう指示し、同社をして、同月26日付の請求人指定の請求書を持参させたことが明らかであり、これにより徴した当該請求書に同月27日付で請求人の検収担当者が受領確認の署名を行うことによって、同月27日にあたかも実際に納品を受け検収をしたかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、請求人の担当者が配慮が足りなかったため生じた過誤であるとの請求人の主張については、既に注文書発行日において実際の納品が本件事業年度終了後になることを認識し承知していたと認められることから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、当該担当者の単なる過誤であったとは到底認められず、むしろ当該担当者の積極的行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ヘ)Q株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人が平成7年6月21日付で発行した上記(15)の取引に係る注文書には、当該印刷物に係る納入予定日の表示がないこと。
(B)請求人は、平成8年9月20日、原処分庁に対し、本件取引のうち上記(15)の取引について、Q株式会社からデータブック(VOL.2)を実際に受領したのは本件事業年度終了後の同年2月5日であり、その購入金額を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(C)Q株式会社は、平成8年10月31日付で、請求人に対し、平成7年12月25日にサンプルを届けたが、配送の指示が得られず、その後、平成8年1月25日ごろ、請求人の担当者から同年2月5日に納品するよう配送指示を受け、その期日に合わせて製本加工した旨を記載した「印刷物の完了遅れの報告書」を提出していること。
(D)請求人がQ株式会社から上記(C)により徴した請求人指定の請求書の受領欄には、請求人の検収担当者が当該請求書記載の物品等を平成7年12月25日付で検収した旨の確認署名をしていること。
(E)Q株式会社が請求人の配送委託先から徴した平成8年2月5日付の受領書の受領印欄には、当該配送委託先の担当者が品名欄記載の物品等を平成8年2月5日付で検収した旨の署名があること。
B 上記Aの事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、本件誤りの生じた原因が、従前から行われていた納品手続に沿って行われたことによるものであり、そこには担当者の仮装の故意はない旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、Q株式会社が平成8年10月31日付で請求人に提出した「印刷物の完了遅れの報告書」によれば、本件印刷物について、「平成7年12月25日に見本品を届けたが配送の指示が得られず、その後、平成8年1月25日ごろ、2月5日に納品するよう指示を受け、その期日に合わせて製本加工した」とされており、また、同社の受領証及び納品書(控)によれば、本件印刷物の実際の納品日が本件事業年度終了後の同年2月5日であったことに照らせば、本件印刷物の納品については、請求人及びQ株式会社の双方において、サンプルは本件事業年度内、全数の納品は本件事業年度終了後と認識されていたと認めるのが相当であり、しかも、請求人は、当該サンプルが納品された本件事業年度内の平成7年12月25日には全数納品がなかったにもかかわらず、同社をして、同日付の請求人指定の請求書を発行させ、当該請求書の受領欄に請求人の確認者が受領確認の署名を行うことによって当該サンプル納品日にあたかも実際に全数納品を受け検収をしたかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、従前から行われていた納品手続に沿って行われただけであって担当者の仮装の故意はないとの請求人の主張については、請求人及びQ株式会社の双方において全数の納品は本件事業年度終了後と認識し承知していたと認められることから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、当該担当者が単に従前からの処理手続に沿って行ったものとは認められず、むしろ当該担当者の積極的行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
(ト)R株式会社との取引
A 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人とR株式会社との間で、本件取引のうち上記(16)の取引に係るシステム開発業務委託契約が平成7年12月5日付で締結され、当該契約に係る委託業務の予定期間は同年9月1日から同年12月22日までとされ、当該契約に係る成果物の納入予定期限は平成7年12月22日となっていること。
(B)上記(A)のシステム開発業務委託契約の締結に当たり、平成7年12月21日付で作成された「人事システム改修のためのシステム開発業務委託契約締結申請」と題する稟議文書では、当該契約の締結には代表取締役の印が必要である旨の表示があること及び「決裁」欄に記載された者(×名)の署名日がすべて平成7年12月21日であること。
(C)R株式会社が平成7年12月18日付で請求人に提出した「95年度仕様変更改修分の概算工数」と題する文書には、工数(人月)欄に、Vプランの変更対応作業(以下「制度変更対応作業」という。)の工数が「4.75人月」と見積もられていること。
 また、その備考欄に「本番:96/2月」を予定している旨の記載があること。
(D)R株式会社が平成7年12月22日付で発行した委託業務完了報告書には、委託業務完了日が同日である旨が記載され、また、それに付属する委託業務完了確認書には、同日付で当該委託業務が完了したことを証する請求人の人事部長の押印があること。
(E)請求人は、平成8年9月20日、原処分庁に対し、R株式会社に委託業務をした上記(16)の取引に係る人事システムソフト開発業務が実際に完了したのは本件事業年度終了後の同年2月29日であり、その開発費用を本件事業年度の損金として処理したことは誤りであった旨を記載した書面を提出していること。
(F)R株式会社は、平成8年12月20日、原処分庁に対し、上記(16)の取引について、実際の業務が完了していないにもかかわらず、請求人の担当者から委託業務完了報告日(成果物納入期限)として指定された平成7年12月22日付で委託業務完了報告書及び請求書を発行するよう依頼され、当該依頼に基づき実際の業務完了報告日と異なる平成7年12月22日と記載された委託業務完了報告書等を請求人に持参した旨の「確認書」を提出していること。
(G)R株式会社が上記(16)の取引に係るソフトウェアの開発を委託した外注先に対して平成8年1月1日付で発行した注文書には、請求人向けの仕様変更改修作業に係るソフトウェアについて、R株式会社への納入予定日は平成8年2月29日とされていること。
B 上記Aの事実を上記ロに照らして判断すると次のとおりである。
 請求人は、本件委託業務の誤まった処理について、制度変更対応作業のプログラミングの一部が平成8年にずれ込むことになったが、担当者が契約どおりの支払を実行するため、R株式会社から便宜的に委託業務完了報告書等の提出を受けたことにより生じたものである旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、R株式会社が本件委託業務に関して平成7年12月18日付で請求人に提出した「95年度仕様変更改修分の概算工数」によれば、「制度変更対応作業」に係るプログラムの本番作業が平成8年2月とされていること、また、同社が平成8年1月1日付で外注先に発行した注文書(控)によれば、請求人向けの「制度変更対応作業」に係るソフトウェアの納期が平成8年2月29日とされていること、さらに、請求人とR株式会社との間において平成7年12月5日付で締結された本件委託業務に係る「システム開発業務委託契約書」によれば、成果物納入期限を平成7年12月22日としてはいるが、これらの締結日及び成果物納入期限を当該契約の締結に当たり作成された「人事システム改修のためのシステム開発業務委託契約締結申請」の申請日及び署名日に照らすと、当該契約書に記載された締結日及び成果物納入期限が真実のものであるか合理的疑いを差し挟む余地があることに加え、請求人も自認するとおり、請求人は、本件委託業務の完了が本件事業年度終了後であるにもかかわらず、R株式会社に対し、請求人が業務完了報告予定日(成果物納入期限)として指定した平成7年12月22日付の請求人所定の委託業務完了報告書を持参するよう指示し、同社をして、当該報告書を持参させたことが明らかであり、しかも、これにより徴した当該報告書の下段部分に付属する委託業務完了確認書に、同日付で当該委託業務が完了した旨の人事部長名による確認印を押印し、もってR株式会社に同月26日付の請求書を発行させるなど、これらの証ひょう書類によって当該業務完了報告予定日(成果物納入期限)にあたかも当該委託業務が完了し引渡しを受け、これを検収したかのごとく装っていたことが認められる。
 したがって、これらの行為について、請求人の担当者が契約どおりの支払を実行するため、R株式会社から便宜的に委託業務完了報告書等の提出を受けたことにより生じたものであるとの請求人の主張については、請求人及びR株式会社の双方において本件委託業務の完了が本件事業年度終了後と認識し承知していたと認められることから、その後の一連の行為を請求人の購買手続及び商慣行に照らせば、単に便宜的に行われた処理とは到底認められず、むしろ当該担当者の積極的行為によって故意に事実を仮装したものと認めるのが相当である。
ニ 以上のとおり、重加算税を課すには、課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実に全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当であるところ、本件取引については、上記ハのとおり、(1)検収に当たり、取引先に指示して、納品等の事実がないにもかかわらず、納品書等を作成させ、(2)正常な取引と同様の手続により支払事務等を行っている。これは、本件事業年度後の修繕費等を本件事業年度の費用に繰上計上したものであり、正に、取引の事実を仮装し、架空経費を計上したのは明らかであるから、国税通則法第68条第1項に規定する「仮装」の行為に該当するものといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)隠ぺい又は仮装の行為者について

イ 本件取引の担当者が請求人の従業員であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ ところで、重加算税の趣旨は、隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するところにあり、納税者本人の刑事責任を追及するものではない。
 したがって、隠ぺい又は仮装の行為者については、納税者本人の行為に限定すべき合理的理由はないから、広くその関係者の行為を含むとしても違法ではなく、従業員の自らの利得を目的として行われた隠ぺい又は仮装による過少申告のような場合はともかくとして、納税者の簿外資産等を蓄積するための売上金額を除外して仮名預金を設けたり、納税者の利益調整のための棚卸資産を仮装して簿外棚卸資産を作出するような従業員の行為については納税者本人の行為と同視すべきであると解するのが相当である。
ハ この点について、請求人は、名古屋地方裁判所平成4年12月24日判決を引用し、営業活動の中心となって実質的に経営に参画していた者の隠ぺい又は仮装の行為により納税者に重加算税が課せられることはあるにしても、それ以外の一般従業員が単独で事実に反する外形を作出することにより不実の経理処理がなされた場合には、隠ぺい又は仮装の行為には当たらず、また、本件取引は、一般従業員により通常の事務手続の過程で行われ、上司の指示等に基づくものでないとして、本件取引の各担当者は、隠べい又は仮装の行為の主体には含まれない旨主張する。
 しかしながら、本件取引を上記ロに照らして判断すると、上記(1)のハの(イ)から(ト)までのとおり、本件取引には隠ぺい又は仮装の行為があったと認められるところ、各担当者は、請求人の工場において実施される修繕及び事業所において使用するソフトウェア等の発注を行い、これらに係る費用を本件事業年度の損金としたものであるから、当該隠ぺい、仮装行為は、従業員のみの利得を目的に、従業員自らの利益のために隠ぺい、仮装を行ったものでないことは明らかである。
 そして、当該隠ぺい、仮装行為は、修繕費等の費用について、いずれも納品書等を取引先に作成させる等の方法により、所得金額の計算上、架空の損金を作出して請求人の利益を調整する結果となっていることからすれば、これらの各担当者の行為は請求人の行為と同視すべきであり、本件取引から生じた過少申告の責任は請求人が負うべきであるから、請求人は本件賦課決定処分を免れないものと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)以上のとおり、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものというべきであり、原処分庁が、同項の規定を適用して本件賦課決定処分をしたことは適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由はない。

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