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(平10.12.18裁決、裁決事例集No.56 34頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年11月20日に死亡したK(以下「被相続人」という。)の共同相続人の1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、審査請求をするに至るまでの経緯は次表のとおりである。

 請求人は、原処分を不服として、平成7年4月6日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで平成10年3月25日に審査請求をした。
 なお、E税務署長は、平成7年2月10日付で、上表の「減額更正等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をし、さらに、平成8年10月2日付で、上表の「更正の請求に係る更正等」欄のとおりの再更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした(以下、過少申告加算税の賦課決定処分は、この変更決定の後のものである。)。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
 イ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、M税理士(以下「M税理士」といい、この者の事務所を「M税理士事務所」という。)に対し、F信用組合P支店(以下「F信組」という。)の被相続人名義の普通預金1,718,003円及び定期預金1,501,541,228円(以下、これらを併せて「本件各預金」という。)を相続財産に計上しないよう依頼した事実はなく、同税理士がなぜ本件各預金を相続財産に計上しなかったのか、理由はわからない。
 したがって、請求人は、本件各預金を故意に隠ぺいしたものではないから、重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
 本件各預金が申告漏れとなった経緯は、次のとおりである。
(イ)請求人及び共同相続人であり請求人の姉であるS(以下「S」という。)は、平成4年4月3日、請求人、S、M税理士及びF信組の支店長が被相続人宅に集まった席上で、M税理士にF信組発行の残高証明書(以下「本件残高証明書」という。)を手渡した。その際、M税理士は本件各預金の内容をF信組の支店長にいくつか質問し、本件残高証明書を持参し帰京した。
 なお、本件残高証明書は、請求人がM税理士から依頼され、F信組が発明の手続をしたものである。
(ロ)請求人は、平成4年5月6日、M税理士事務所に出向き本件相続税の申告手続に関する委任状に自署押印したが、本件相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)への署名はM税理士が行ったものであり、その申告書に押印した印鑑は、請求人がM税理士事務所に持参したものか同事務所が用意したものか記憶が定かではない。これは、請求人は、M税理士に対し、昭和61年の夏ころから記帳及び税務申告等を依頼しており、長年の付き合いがあったため、M税理士に全幅の信頼をおき、請求人の税務申告を任せきりとしていたことから、申告書等への押印は、M税理士事務所で保管している請求人の認め印を使用することが多かったからである。
 また、その当時、本件申告書は作成されておらず、その後も、請求人は、E税務署長に同申告書が提出されるまでの間、作成されたそれを見た記憶がない。
(ハ)本件申告書の控え3部は、申告後2から3月を経た後に被相続人宅に宅配便で一括して配達され請求人が1部、Sが2部を受け取った。
 請求人は、相続税の税務に関して知識がなく、また、M税理士を全面的に信頼していたことから、本件申告書の内容については確認しなかった。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人は、(1)相続税額を算定するための計算方法については知識がなかったこと及び(2)本件申告書の作成はM税理士を信頼して任せきりにしていたことから相続税額が過少となったものであり、これらのことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するから、過少申告加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 重加算税の賦課決定処分について
(イ)原処分庁の調査及び異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件相続税の申告期限までに本件相続開始日現在で本件各預金が存在していたことを確認していたこと。
B 請求人は、M税理士事務所に勤務するT税理士(以下「T税理士」という。)に指示して、いったんは本件各預金と思われる金額を含めて相続税額を計算させ、その後、同税理士から当該金額に係る資料の提示を求められると、当該資料はない旨の回答をして、同税理士に本件各預金の存在を明らかにせずに本件申告書の作成を依頼したこと。
C 請求人は、本件申告書に本件各預金が相続財産として計上されていないことを認識していたにもかかわらず、同申告書により申告したこと。
(ロ)ところで、通則法第68条《重加算税》第1項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
 この重加算税の制度は、隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するためにある行政上の措置と解されている。
(ハ)請求人は、上記(1)のイのとおり主張するが、上記(イ)のとおり、本件相続税の申告期限までに本件各預金が本件相続開始日現在で存在していたことを確認していたこと、T税理士に指示して、いったんは本件各預金と思われる金額を含めて相続税額を計算させ、その後、同税理士から当該金額に係る資料の提示を求められると、当該資料はない旨の回答をして、同税理士に本件各預金の存在を明らかにせずに本件申告書の作成を依頼したこと及び本件申告書に本件各預金が相続財産として計上されていないことを確認していたにもかかわらず、同申告書により申告したことの各事実が認められ、これらの行為は、上記(ロ)で述べたことに該当するから、その主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、請求人の行為は通則法第68条第1項に該当することから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて過少に申告された部分の税額について重加算税を賦課した原処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
(イ)通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し新たに納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 この過少申告加算税の制度は、申告納税制度の信用を維持することを目的とし、当初から正当に申告した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平に対して均衡を図るための行政上の措置と解されている。
(ロ)ところで、請求人は、上記(1)のロのとおり主張するが、申告納税制度の下における相続税の申告は、本来、納税者の判断と責任においてなされるものであって、申告内容の誤りについての責任は、納税者である請求人に帰属するものであること及び委任された者の行為の効果は請求人本人に帰属し、請求人がその責めを免れるものではないことから、その主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、申告額が過少であったことについて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、過少申告加算税を賦課した原処分は、適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分の適否にあるので、以下審理する。

(1)重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件各預金は、被相続人の相続開始日現在で存在していたこと。
(ロ)本件各預金の原資は、被相続人が代表取締役であるX株式会社(以下「X社」という。)、Y株式会社(以下「Y社」という。)及び被相続人との間で、X社所有の通称○○山の共同開発に関する共同事業基本協定(以下「本件協定」という。)を締結し、本件協定に基づいて、平成3年6月28日に、被相続人がY社から借り入れた26億円(以下「本件借入金」という。)であること。
(ハ)本件申告書には、本件借入金が債務として計上されているが、本件各預金は財産として計上されていないこと。
(ニ)請求人は、平成4年5月6日付で、相続人代表としてM税理士に対し、本件相続税の申告に係る一切の件を委任した旨の委任状を作成していること。
ロ 請求人に係るR地方裁判所平成8年*月*日判決(平成7年(*)第***号相続税法違反被告事件)によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成3年6月ころ、被相続人が本件借入金をF信組に預金する意向であることを知り、これに反対していたが、同年8月ころには、当時G銀行Q支店長であったJから、被相続人が本件借入金のうち相当の金員をF信組に預金したことなどを聞き知っていたこと。
(ロ)請求人は、平成3年11月21日の夕方、被相続人の知人であったNから、被相続人が交際していた女性方にあった本件各預金のうち定期預金の証書2通を受け取ったこと。
(ハ)請求人は、平成3年12月2日ころ、被相続人が経営していた会社の顧問をし、同人の相続財産の調査、管理等にも関与していたL弁護士から、本件各預金が記載されたF信組の顧客取引内容照会票の写しを受け取ったこと。
(ニ)請求人は、平成4年4月3日ころ、M税理士立会いの下で、当時F信組の支店長であったHから、本件残高証明書2通(平成3年11月20日現在と平成4年4月1日現在のもの。)を受け取った際、同証明書を見ながら同人に本件各預金に関すること、被相続人名義の本件各預金以外の預金の有無等の質問をしたこと。
(ホ)請求人は、平成4年4月4日ころ、M税理士に本件残高証明書の写し2通を渡したこと。
ハ 上記ロの判決によれば、T税理士は、要旨を次のとおり供述しているところ、当審判所が原処分関係資料などを調査したところによっても、この供述を揺るがすものではなく、他にこの供述を覆すに足る証拠もない。
(イ)私は、請求人から平成4年5月11日ころから同月13日ころまでの間に本件相続税の税額の仮集計を依頼されたが、最初は請求人から本件借入金及び本件各預金の存在を告げられなかったことから、これらを財産、債務に計上せずに計算メモに仮集計し、請求人に相続税額が1,837,942,900円となった旨を告げた。
(ロ)請求人は、その結果を聞いて驚き、私に本件借入金とその資料の存在を告げた。
(ハ)私は、請求人から上記(ロ)の事実を告げられたので、本件借入金を債務に計上して2回目の仮集計をし、請求人に相続税額が138,704,550円となった旨を告げたところ、請求人からよかったという発言があった。
(ニ)私は、請求人とM税理士が同席する席上で、請求人あるいはM税理士から指示されて、財産に1,280,000,000円を加えて3回目の仮集計をし、請求人に相続税額が925,133,350円となった旨を告げた。
(ホ)私は、請求人に対し、上記(ニ)の資料について尋ねたが、その残高証明はない旨告げられたので、それを財産に計上せず、本件借入金を債務に計上して集計し、本件申告書を作成した。
(ヘ)私は、平成4年5月19日に本件申告書を完成させて請求人にその概要を説明し、同申告書に押印してもらい、請求人に対し、相続税額を記載した共同相続人全員の納付書を渡した。
(ト)私は、平成4年5月20日に、本件申告書をE税務署長に郵送した。
ニ ところで、通則法第68条第1項の規定は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 そして、ここでいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものとされている。
 また、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課する行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでをも必要とするものではないと解されている。
ホ これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記イの(イ)から(ハ)のとおり、本件申告書には本件借入金が債務として計上されているが、それから生じた本件各預金が被相続人の相続開始日現在で存在していたにもかかわらず、同預金が相続財産として計上されていないことの事実が認められる。
 また、請求人は、上記ロ及びハのとおり、本件各預金が被相続人の相続開始日現在で存在し、それが被相続人名義であることを承知した上で、T税理士に指示して、いったんは本件各預金とも思われる金額を含めて納付すべき税額を算定させ、その後、同税理士から当該金額に係る資料の提示を求められると、本件残高証明書及び本件各預金のうち定期預金の証書を所持していたにもかかわらず、当該資料はない旨の回答をして、同税理士に本件各預金の存在を明らかにせずに本件申告書の作成を依頼し、同申告書をE税務署長に提出したことの各事実が認められる。
 そうすると、請求人は、上記のような内容虚偽と認められる本件申告書をE税務署長に提出したのであるから、上記ニのとおり、このような請求人の行為は、本件相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実である相続財産の存在の一部を隠ぺいしたところに基づき本件申告書を提出していたものと認められる。
 したがって、上記のことは、上記ニで述べた、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課の要件を満たすものと認められる。
 これに対し、請求人は、本件各預金を故意に隠ぺいしたものではない旨主張するが、上記のとおり、請求人の行為は、本件相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実である相続財産の存在の一部を隠ぺいしたところに基づき本件申告書を提出していたものと認められ、このことは、上記ニで述べた、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課の要件を満たすから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上審理したところによれば、原処分庁が、通則法第68条第1項の規定に基づき隠ぺいの事実に係る部分の税額を計算の基礎として、重加算税の賦課決定処分をしたことは、適法である。

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(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 請求人は、相続税額を算定するための計算方法については知識がないこと及び本件申告書の作成をM税理士に任せきりにしていたことは、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するから、過少申告加算税の賦課決定処分を取り消すべきである旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項にいう「正当な理由」に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、(1)税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた公的見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(2)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(3)その他真にやむを得ない事由が認められる場合等が該当するものと解されている。
 そうすると、請求人が平成6年9月22日に修正申告書を提出したことは、原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件申告書の誤りを是正したものであって、当初適正であった申告につきその後の事情の変化により税額等が過少になったことによりされたものではないことは明らかである。
 また、請求人は、上記(1)のイの(ニ)のとおり、自らの意思と責任においてM税理士に本件相続税の申告を委任して本件申告書を作成させ、これを提出したものである以上、例え同税理士の過誤によって同申告書が過少申告となったとしても、本件相続税の申告は請求人の責任においてされたものであるから、過少申告となったことについて上記に述べたような正当な理由があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 以上審理したところによれば、原処分庁が通則法第65条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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