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(平10.9.30裁決、裁決事例集No.56 45頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成7年1月19日に死亡したS(以下「被相続人」という。)の共同相続人のうちの一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年12月20日付で次表の「更正処分等(1)」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月2日付で次表の「異議決定」欄のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした。

(単位 円)
区分項目金額
申告課税価格112,853,000
 納付すべき税額0
更正処分等(1)課税価格192,930,000
 納付すべき税額6,200,900
 重加算税の額2,170,000
異議決定課税価格133,538,000
 納付すべき税額3,079,700
 重加算税の額1,067,500
更正の請求課税価格132,673,000
 納付すべき税額125,500
更正処分等(2)課税価格132,673,000
 納付すべき税額1,853,900
 重加算税の額647,500

(注)課税価格は、国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定により、1,000円未満の端数を切り捨てたたもの。以下同じ。
納付すべき税額は、国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てたもの。以下同じ。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年7月1日に審査請求をした。
 なお、請求人は、平成9年10月14日に本件更正処分において申告漏れとされた相続財産に係る遺産分割協議が成立したとして、平成9年12月9日、上表の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求をした。
 原処分庁は、これに対し、平成10年2月3日付で上表の「更正処分等(2)」欄のとおり減額の更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をし、重加算税の変更決定処分(以下、本件減額更正処分と併せて「本件減額更正処分等」という。)をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分(本件減額更正処分等により一部取り消された後のもの、以下同じ。)は、次の理由により違法であるから、更正処分については、その一部の取消しを、また、重加算税の賦課決定処分については、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分等について
(イ)原処分庁は、申告漏れとなった別表1の現物株式(以下「本件現物株式」という。)、別表2の単位未満株式(以下「本件単位未満株式」という。)、別表3のMファイナンス株式会社(以下「Mファイナンス」という。)発行の抵当証券(以下「本件抵当証券」という。)及び別表4の定期貯金(以下「本件定期貯金」といい、本件現物株式、本件単位未満株式及び本件抵当証券と併せて「本件有価証券等」という。)について、隠ぺい又は仮装の事実があるとして、相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第1項の規定を適用しなかった。
 しかしながら、以下の理由により隠ぺい又は仮装の事実はなかったのであるから、相続税法第19条の2第1項の規定を適用しなかったことは違法である。
A 請求人は、税に関して全く無知である。
B 請求人は、原処分の調査担当者(以下「原処分担当者」という。)から申告漏れの株式が存在する旨の指摘を受けて家の中を探してみたところ、被相続人がアタッシュケースの中に入れていた本件現物株式及び本件抵当証券のうち別表3の(2)の抵当証券(以下「本件乙抵当証券」という。)及び別表3の(3)の抵当証券(以下「本件丙抵当証券」という。)の保管証(以下「本件保管証」という。)を発見したのであるから、請求人はそれらの存在については知らなかった。
C 原処分庁は、ただ2回の調査で表面上の事象だけを捕らえて、一方的な偏見と独断に基づいて、隠ぺい又は仮装したと断定しているが、その事実はない。
D 本件相続において、相続税法第19条の2第1項を適用する場合の相続税の課税価格の合計額の上限が1億6千万円であるにもかかわらず、その枠の全額を使っていないことからみても、請求人には、隠ぺい又は仮装を行う必要はなかった。
(ロ)異議審理の手続
A 異議審理庁は、異議調査において、本件単位未満株式のうち別表2の(8)のE株式会社(以下「E社」という。)の株式30株(以下「本件E社単位未満株式」という。)及び別表2の(9)のG株式会社以下「G社」という。)の株式420株(以下「本件G社単位未満株式」という。)並びに本件抵当証券のうち別表3の(4)の抵当証券(以下、「本件丁抵当証券」といい、本件E社単位未満株式及び本件G社単位未満株式と併せて「本件E社単位未満株式等」という。)を加算している。
 本件E社単位未満株式等について、原処分庁は、本件更正処分を行う時既に把握していたにもかかわらずそれを本件更正処分から外しているのだから、被相続人の遺産でないと認めたことになる。
 また、相続税の再調査を行い、これによって判明した本件定期貯金を新たに加算している。
 このことは、異議調査において争点以外のものを調査し加算したものであり、国税通則法第83条《決定》第3項の不利益変更にあたるから、取り消すべきである。
B 異議申立てに係る調査担当者(以下「異議担当者」という。)は、争点に係る基本的な調査を行わず、その結果、作成された異議決定書は、事実を歪曲し、し意的な判断に基づいている。また、具体的に隠ぺい又は仮装したとする事実の指摘及び説明がない。
 このことは、国税通則法第84条《決定の手続等》第5項の規定に抵触するから相続税法第19条の2第1項の規定を適用しなかったのは、違法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イの(イ)のとおり、本件有価証券等については、隠ぺい又は仮装の事実はなく、重加算税の賦課決定処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分等について
(イ)異議担当者が原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、調査担当者に対し、次の内容の申述をしたこと。
(A)平成8年10月25日
a 請求人は、被相続人とともに、昭和55年ころまで、うどんとこんにゃくの製造をしていたが、商売をやめてからは、年金と株式の配当金で生活していた。
b 株式の売買は、被相続人が行っており、請求人は株式のことについては、よく分からない。
c 本件相続に係る相続税の申告に際して、有価証券については、被相続人に係る証券会社の有価証券の預り証(以下「本件預り証」という。)並びに自宅の金庫(以下「本件金庫」という。)の中にあったH株式会社(以下「H社」という。)及びJ株式会社(以下「J社」という。)の株式を申告した。
d 本件申告書に記載した株式(以下「本件申告済株式」という。)以外に、相続財産となるべき株式はない。
(B)平成8年11月13日
a 原処分担当者から申告漏れの株式が存在する旨の指摘を受けて、家の中を探したところ被相続人が使用していたたんす(以下「本件たんす」という。)の中に入っていたアタッシュケースの中から、本件現物株式及び本件保管証を発見した。
b 相続開始後、本件たんすを開けたことはなく、この度初めて開けた。
c 被相続人が、本件現物株式及び本件抵当証券を所有していたことは知らなかった。
(C)平成8年12月5日
a 被相続人は生前、本件たんすを開けるなと言っていた。
それでも、一度開けたことはあったが、その時は旅行鞄が入っていた。
b 本件申告済株式の配当金については、申告しなければならないと思い、請求人の平成7年分の所得税の確定申告書(以下「本件所得税の申告書」という。)において、配当所得として申告した。
c 被相続人が管理していた株式に係る配当金については、本件相続開始後、配当金の郵便振替支払通知書等(以下「配当通知書」という。)が送られてくる度、請求人の養子のX(被相続人の相続人であり、以下「X」という。)に受け取りに行かせた。
d 本件現物株式に係る配当金については、頭が混乱していてよく覚えていないが、Xに受け取りに行かせたと思う。
 しかし、このような配当金がどうしてあるのかなくらいにしか思わなかった。
e 本件現物株式に係る配当通知書は、もういらないと思い捨てた。
B 請求人は、異議担当者に対し、次の内容の申述をしたこと。
(A)平成9年4月14日
a 以前商売をしていたころ、自己資金で株式の売買をしていたが、昭和40年ころ(遅くとも昭和44年から45年ころ)に、被相続人から株式の売買取引を止めるように言われたので、それ以降は行っていない。
  当時の取引は、株式の現物取引だけで債券取引は一切行わなかった。
b 株式の売買を止めてからは、請求人名義の株式の運用は被相続人に任せたが、小遣いが欲しいときに被相続人に頼んで、請求人の株式を売ったこともある。
  また、被相続人からは、請求人の株式は請求人の名前でB証券株式会社(以下「B証券」という。)及びC証券株式会社(以下「C証券」という。)に預けていると聞いていた。
c 本件相続に係る相続税の申告においては、本件金庫の中にあった現物株式及び本件預り証に記載のあった株式を申告した。
d 平成7年1月から同年6月ころにかけて受け取った株式の配当通知書の中には、本件申告済株式の銘柄会社以外の会社から送られてきたものもあったが、どうしてあるのかなくらいにしか考えなかった。
e 上記dの配当金については、Xに、R郵便局に受け取りに行かせた。
f 本件所得税の申告書については、Xに、申告(配当所得の申告)を依頼した。
g 本件現物株式が申告漏れとなっていたことについては、原処分担当者の指摘を受けた後に家の中を探して初めて分かった。
 本件たんすの中に入っていたアタッシュケースの中に本件現物株式があったが、それまでに本件タンスを開けたことはなかった。
(B)平成9年4月17日
a 本件相続開始後、本件甲抵当証券の満期の案内が送られてきた。
b 平成7年3月15日に、株式会社K銀行(以下「K銀行」という。)R支店の被相続人名義普通預金口座(口座番号××××××の口座で、以下「本件K銀行甲口座」という。)に、Mファイナンスから1,035,188円が振り込まれ、同月16日、Xに頼んで、同額を引き出してもらい、葬儀代等に使った。
c 平成7年6月30日に、本件K銀行甲口座に、本件現物株式のうちZ株式会社(以下「Z社」という。)及びL株式会社(以下「L社」という。)の株式の配当金(それぞれ、20,400円、10,000円)が振り込まれたことは知っていたが、どうしてあるのかなくらいにしか思わなかった。
d 平成7年7月6日に、Xに頼んで、本件K銀行甲口座から現金で128,194円を引き出させ、同月7日にK銀行R支店の請求人名義普通預金口座(口座番号××××××の口座で、以下「本件K銀行乙口座」という。)へ同額を預け入れさせた。
(C)平成9年4月23日
a 本件相続開始後、請求人及び被相続人名義の株式の銘柄会社から、株主総会の案内状及び委任状(以下「株主総会の案内状等」という。)が送付されてきたが、特に何の手続もしなかった。
b 株式の配当通知書は、封筒に重要と記載してあったから、株主総会の案内状等とは別にしていた。
C Xは、異議担当者に対し、次の内容の申述をしたこと。
(A)平成9年4月14日
a 請求人から依頼され、本件所得税の申告書を提出した。
b 被相続人の名義で証券会社に預けていた株式に係る配当収入については、所得税の申告をしなければと思い、配当所得として申告した。
 その際、請求人から預かった株式の配当通知書のうち、本件預り証に記載のある株式に係るものについては、その写しを添付した。
(B)平成9年4月17日
a 請求人から株式の配当金を受け取ってくるように指示され、R郵便局に受領書の委任者欄に請求人が署名、押印した株式の配当通知書を持って行き、当該配当金を受け取った。
b 被相続人の平成6年分の所得税の確定申告をした際、R税務署の相談担当者から、配当所得を申告する際には株式の配当通知書の写しが必要であると聞いていた。
 そこで、請求人から株式の配当通知書を預かった際、本件預り証に記載のある株式に係る配当通知書については、配当所得の申告用に写しをとったが、それ以外の株式に係る配当通知書については、その写しはとらなかった。
c 本件預り証に記載のない株式について、配当通知書が送られてきたことは知っていた。
 それらについて、請求人とも、これらの株式の配当金をもらっていいのかなどと話していたのを覚えているが、結局、その配当金は受け取った。
D 本件相続税の申告書に添付されていた平成7年3月5日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)には(1)被相続人の遺産については、全遺産を請求人が取得するとして、(2)請求人が取得する財産として個別に財産が列挙され、(3)請求人、X及び請求人の養子であるT(被相続人の相続人で、Xの夫である。)の署名押印がされていること。
 なお、本件遺産分割協議書には、本件有価証券等の記載はない。
E 本件現物株式の配当金(配当金の支払いのないN株式会社(以下「N社」という。)を除く。)は、株式の配当通知書及び本件K銀行甲口座への振り込みによって、受領していること。
F 本件K銀行甲口座において、相続開始後、別表6の(1)ないし(24)の内容の取引がされていること。
 なお、別表6の(7)ないし(11)の金額の合計128,194円は、(12)の金額と一致し、(13)ないし(19)の金額((14)の金額を除く。)の合計95,104円は、(20)の金額と一致すること。
G 平成7年7月7日、本件K銀行乙口座に128,194円が現金で預け入れられていたこと。
H 請求人から本件所得税の申告書の提出の依頼を受けたXは、本件所得税の申告書に、配当所得の金額を549,550円と記載するとともに、配当所得の明細として株式の配当通知書(配当金受領前)及び株式配当金支払明細書(以下、株式の配当通知書と併せて「配当通知書等」という。)の写しを添付したこと。
I 本件所得税の申告書に添付された株式の配当通知書等の写しにある株式は、本件申告済株式と一致すること。
J 本件単位未満株式の銘柄会社の株主名簿への登録状況は、本件相続開始日現在、被相続人名義となっていること。
K 原処分担当者は、平成8年10月25日に、請求人に対し、本件申告書に記載した以外の株式が存在する旨の指摘を行ったこと。
L 請求人が、平成8年11月13日、調査担当者に対し提示したアタッシュケースの中には、本件現物株式及び本件保管証が保管されていたこと。
なお、本件たんすは、請求人が常時使用しているたんすの右隣に位置している。
M 本件相続開始日現在、本件抵当証券がMファイナンスの被相続人名義の口座(口座番号×××××××)に、預けられていたこと。
N 本件相続開始日現在、本件定期貯金(記号番号△△△△―△△△△△△△)が存在していたこと。
 本件定期貯金は、平成6年10月7日に預け入れられ、平成7年10月11日にP郵便局で解約手続され、引き出されていること。
(ロ)本件有価証券等について検討すると以下のとおりとなる。
A 本件現物株式
(A)請求人は、次のことから、本件申告書を提出する際に、本件現物株式が被相続人の相続財産として存在することを認識していなかったとは認められない。
a 請求人は、上記(イ)のとおり、株式の現物取引を行っていたことから、株式に関してある程度の知識を有していたものと認められる。
b 被相続人には、上記(イ)の事実から、請求人との生活を維持するに足る配当収入が存在していたことが認められ、請求人は長年にわたり被相続人と同居していたことから、被相続人が本件現物株式の配当金を受領していたこと(当該株式の配当通知書が自宅に送付される。)を十分知り得る状況にあったと認められる。
c 請求人は、上記(イ)のとおり、本件相続開始後に、本件現物株式に係る銘柄会社から株主総会の案内状等を受け取り、N社を除く株式の銘柄会社から株式の配当通知書を受け取り、当該配当通知書に基づき配当金を受領している。
(B)また、次のことから、上記(A)のcの株式の配当金を本件所得税の申告書において申告していないのは、当該配当金を申告した場合、原処分庁が、本件現物株式について、本件申告書における申告漏れの事実を容易に把握し得る状況になることは明白であり、請求人は、特段の理由がないにもかかわらず、あえて本件現物株式の配当金について本件所得税の申告書において申告しなかったものと認めざるを得ない。
a 請求人は、上記(イ)のとおり、本件相続開始後に、本件現物株式に係る銘柄会社及び本件申告書において申告した株式の銘柄会社からの株式の配当金を受領している。
b 請求人は、上記(イ)のとおり、本件申告済株式に係る配当金についてのみ、その配当通知書等の写しを本件所得税申告書に添付している。
B 本件単位未満株式
 請求人は、次のことから、本件申告書を提出する際に、本件単位未満株式が被相続人の遺産として存在することを認識していなかったとは認められない。
(A)上記(イ)のとおり、本件相続開始日現在、本件単位未満株式が存在していると認められる。
(B)本件相続開始日現在の本件単位未満株式の名義人は、上記(イ)のJのとおり被相続人であることから、同人名義の株式の配当通知書には、当該本件単位未満株式の株数及び配当金額が記載されていると認められる。
(C)請求人は、本件単位未満株式に係る銘柄会社から株式の配当通知書の送付を受け、当該配当通知書に基づき配当金を受領していると認められる。
 なお、本件所得税の申告書に配当所得として申告してあるV株式会社(以下「V社」という。)の株式の配当通知書の写し(本件申告書において申告されている銘柄であるが)には、請求人の所有株式数は1,448株と明記されている。
C 本件抵当証券
 請求人は、次のことから、本件申告書を提出する際に、本件抵当証券が被相続人の遺産として存在することを認識していなかったとは認められない。
(A)請求人は、上記(イ)のとおり、Mファイナンスから、本件甲抵当証券に係る、満期日前に乗り換えるかどうかの案内(以下「満期の案内」という。)を受け取っていると認められる。
(B)請求人は、上記(イ)のとおり、平成7年3月15日に、本件K銀行甲口座で、本件甲抵当証券に係る満期償還金を振込受領し、Xに、その引出しを依頼して引き出していることが認められる。
(C)請求人は、本件乙抵当証券ないし本件丁抵当証券に係る利息を、本件K銀行甲口座で振込みによって受領し、これを引き出していることが認められる。
D 本件定期貯金
 請求人は、次のことから、本件申告書を提出する際に、本件定期貯金の存在を認識していなかったとは認められない。
(A)本件定期貯金は、上記(イ)の事実からすると、本件申告書を提出する際に存在している。
(B)本件定期貯金は、平成7年10月11日(本件申告書の提出前)にP郵便局で解約されていることが認められ、本件現物株式に係る配当金を請求人の依頼でXが受け取りに行っていることに照らせば、本件定期貯金についても、請求人の依頼でXが上記手続を行ったものとみるのが、極めて自然である。
(ハ)請求人は、税に関して全く無知であり、原処分担当者から申告漏れの株式が存在する旨の指摘を受け、自ら調べた結果、初めて、本件現物株式及び本件保管証を発見したのであり、請求人はこれらの財産を申告しなかったことについて、隠ぺい又は仮装の事実はなく、また、原処分担当者は、隠ぺい又は仮装の事実に関する具体的な調査を何ら行わず、表面上の事象だけを捕らえて一方的な偏見と独断に基づいて、隠ぺい又は仮装したと断定しているが、その事実はないので、相続税法第19条の2の規定を適用しなかったのは、違法である旨主張する。
 ところで、相続税法第19条の2第5項によれば、隠ぺいし、又は仮装されていた財産の同条第1項の適用については、同項第2号のイの課税価格の合計額及びロの配偶者の課税価格に相当する金額にはその配偶者に係る相続税の課税価格のうちその隠ぺいし、又は仮装した事実に基づく金額に相当する金額を含まない旨規定している。
 これを本件についてみると、上記(ロ)のAないしDから判断すれば、請求人は、本件有価証券等が被相続人の遺産として存在していることを認識した上で、(1)本件現物株式が現物株式であり、本件単位未満株式は株券が発行されておらず、いずれも証券会社の有価証券の預り証に現れないものであること、(2)本件抵当証券は銀行の残高証明や証券会社の有価証券の預り証に現れないものであること、(3)本件定期貯金が郵便貯金であり容易に発見されないことから、本件有価証券等が被相続人の違産であることが通常の手段では確認しがたい状態にあることを認識し、本件有価証券等が本件遺産分割協議書に記載されていない状態を利用して、相続税の申告から除外し、さらに、本件現物株式については、隠ぺいの補完工作を行ったものと認められる。
 そうすると、本件有価証券等は、隠ぺい又は仮装の事実に基づいて申告漏れとなったものと認められ、相続税法第19条の2第1項の規定を適用するにあたり、本件有価証券等を、同条第1項第2号のイの課税価格の合計額及びロの配偶者の課税価格に含めないで計算したことは適法である。
 なお、請求人は、原処分担当者の指摘を受けるまで、本件現物株式及び本件抵当証券が存在すること自体知らなかった旨主張するが、相続税の申告納税義務の前提として、その申告のために自ら遺産を調査する義務をも負担していると認められるところ、被相続人の遺産として、本件現物株式及び本件抵当証券が存在することを認識し得る具体的事情があり、被相続人がこれらの財産を請求人に秘匿していたような特段の事情も認められないから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)異議審理の手続
A 請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、異議審理の手続が違法である旨主張するが、異議決定固有の瑕疵をもって、原処分の取消しを求めることはできない。
B なお、異議決定は、一部取り消し前の本件更正処分等の金額を請求人の不利益に変更するものではないから、適法であり、請求人の主張には、理由がない。
 また、異議担当者は、異議申立てに係る調査を行った結果、上記(ロ)のAないしDに基づき(ハ)のとおり判断したものであり、異議決定書には、原処分の一部を正当として維持する理由も記載されているから、請求人の主張には、理由がない。
(ホ)相続税の課税価格等
 請求人の相続税の課税価格等及び税額は、次のとおりである。
A 総遺産価額 168,996,714円
 総遺産価額は、本件遺産分割協議書に基づき請求人が取得した財産として相続税の申告書に記載された取得財産の価額114,208,145円に、次の(A)ないし(C)の合計額54,788,569円を加算した価額である。
(A)土地等 3,069,564円
 この金額は、別表5の借地権(以下「本件借地権」といい、本件有価証券等と併せて「本件申告漏れ財産」という。)の価額(本件減額更正処分後の金額)から、K県R郡Q町116番地21の宅地112.89平方メートルに係る評価誤り額31,609円を差し引いた金額である。
(B)有価証券 48,210,461円
 この金額は、次のa、b及びcの金額の合計額から、dの金額を差し引いた金額である。
a 別表1の財産 54,938,600円
 本件現物株式の合計金額である。
b 別表2の財産 3,558,999円
 本件単位未満株式の合計金額である。
c 別表3の財産 4,036,240円
 本件抵当証券の合計金額である。
d 別表7の財産 14,323,378円
 本件相続に係る財産であるとして相続税の申告をしているが、請求人及び請求人の孫のUに帰属すると認められるものの合計金額である。
(C)預貯金 3,508,544円
 本件定期貯金の金額である。
B 債務控除額 1,355,090円
 債務控除額は、本件相続税の申告書に記載された葬式費用の金額である。
C 課税価格 167,641,000円
 課税価格は、上記Aの金額から上記Bの金額を控除した金額である。
D 相続税の総額 14,619,000円
 相続税の総額は、上記Cの金額に基づき相続税法第16条《相続税の総額》の規定を適用して計算した金額である。
E 請求人の取得財産の価額 134,028,114円
 請求人の取得財産の価額は、平成9年10月14日付の遺産分割協議書に基づいた金額である。
F 請求人の債務控除額 1,355,090円
 請求人の債務控除額は、請求人が負担することが確定した葬式費用の金額である。
G 請求人の課税価格 132,673,000円
 請求人の課税価格は、上記Eの金額から上記Fの金額を控除した金額である。
H 請求人の相続税額 11,695,200円
 請求人の相続税額は、上記Dの相続税の総額14,619,000円に相続税法第17条《各相続人等の相続税額》の規定を適用して計算した金額である。
I 請求人の配偶者の税額軽減額 9,841,256円
 請求人の配偶者の税額軽減額は、相続税法第19条の2の規定を適用した金額である。
J 請求人の納付すべき税額 1,853,900円
 請求人の納付すべき税額は、上記Hの金額から上記Iの金額を控除した金額である。
 以上のとおり、請求人の相続税額は1,853,900円となり、原処分と同額となるので、本件更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、「納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、・・・過少申告加算税に代えて重加算税を課する」旨規定している。
 これを本件についてみると、上記イのとおり、請求人が本件有価証券等を本件相続に係る申告から除外した事実に関して、隠ぺい又は仮装したことは明らかであり、重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 相続税法第19条の2第1項の適用
 請求人は、本件有価証券等について、上記2の(1)のイのとおり、隠ぺい又は仮装の事実はないので、相続税の計算上、相続税法第19条の2第1項の規定を適用しなかったことは、違法である旨主張するので、以下検討する。
(イ)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 本件申告漏れ財産が被相続人名義であること。
B 本件遺産分割協議書には、本件相続税の申告書に記載された全遺産を請求人が取得するとしていること。
(ロ)当審判所が、原処分関係資料及び参考人等を調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成8年10月25日、原処分担当者から本件申告書において申告漏れの株式が存在する旨の指摘を受けていること。
B 請求人は、家の中を探したところ、本件たんすの中のアタッシュケースに入っていたとして、平成8年11月13日、本件現物株式及び本件保管証を原処分担当者に提示していること。
C 本件K銀行甲口座においては、本件相続開始後、別表6の取引がされていること。
D 請求人は、本件相続開始後、配当のないN社を除く本件現物株式について、本件K銀行甲口座への振り込み又は株式の配当通知書によって、その配当金を受領していること。
E 請求人から本件所得税の申告書の提出の依頼を受けたXは、平成8年2月13日、本件所得税の申告書に、配当所得を549,550円と記載し、本件申告済株式の配当通知書等の写しを添付して、原処分庁に提出していること。
 また、被相続人は、平成6年分までの所得税の確定申告において、J社及びH社の配当金を申告していること。
F 本件単位未満株式は、本件相続開始日現在、別表2のとおり、被相続人名義で、それぞれの株主名簿に登録されていること。
G 本件抵当証券については、次の内容が認められること。
(A)本件抵当証券は、本件相続開始日現在、Mファイナンスの被相続人名義の抵当証券預り口座に預けられている。
 なお、本件抵当証券の利息及び満期償還金の振込口座は、本件K銀行甲口座と指定されており、別表6のとおり、当該口座に振り込まれている。
(B)また、本件抵当証券は、満期の案内があり、満期償還金は指定した口座に振り込まれることとなっている。
(C)本件甲抵当証券に係る満期償還金については、(1)K銀行甲口座に平成7年3月15、Mファイナンスから1,035,188円が振り込まれており、(2)翌日、同額が現金で引き出されている。
(D)本件丁抵当証券に係る満期償還金については、(1)K銀行甲口座に平成8年5月15日、Mファイナンスから1,016,388円が振り込まれており、(2)平成8年5月23日、現金で1,172,000円が引き出されている。
H 本件定期貯金は、平成6年10月7日に預け入れられ、平成7年10月11日にP郵便局で解約されていること。
 また、平成7年10月11日、本件定期貯金の元本と同額の定額貯金が、請求人の孫のW(以下「W」という。)名義で預け入れられていること。
I 本件申告済株式について、J社の株式1,000株、H社の株式1,000株及びF株式会社(以下「F社」という。)の株式5,185株は、所在場所等を自宅とする旨本件申告書に記載されていること。
 そして、J社及びH社についての単位未満株式については、本件申告書において、配当通知書等によって確認され、その株式数で申告されていること。
J 請求人は、原処分担当者に対して、上記2の(2)のイの(イ)のAのとおり申述していること。
K 請求人は、異議担当者に対して、上記2の(2)のイの(イ)のBのとおり申述するとともに、次の内容も申述していること。
(A)平成9年4月14日
 株式の取引において、「マージン」(信用取引)はしたことがない。
(B)平成9年4月23日
 原処分担当者から、株式の取引で使った印章について、被相続人と請求人が同じ印章を使っていると言われたが、被相続人と請求人が話をして、この株式についてはこの印章にしようと決めたものである。
L Xは、異議担当者に対して、上記2の(2)のイの(イ)のCのとおり申述していること。
(ハ)請求人及び参考人等は、当審判所に対し、次の内容を答述している。
A 請求人の答述
(A)被相続人がすべての財産を管理・運用していたので、毎月の生活費は、被相続人からもらっていた。
(B)本件K銀行甲口座に株式の配当金の振込みがあったことは知っていたが、本件現物株式の配当金が含まれていたことについては、分からなかった。
(C)本件現物株式の配当金については、当該株式の配当通知書が来たらそれをまとめてXに渡し、受領していた。
 それらの株式の銘柄について、本件申告書において申告されていたものかどうかは考えていなかった。
(D)Xから、どうして証券会社の有価証券の預り証のない株式(本件現物株式のうち配当通知書のあるもの、以下同じ。)に係る配当通知書があるのかと聞かれたことについては、覚えていないが、株式の配当金は、あるだけもらっておけと思った。
(E)本件甲抵当証券の満期償還金の受け取りについて、Mファイナンスから、当該抵当証券の満期日の1月半前には、満期の案内が来たのを知っていた。
 その満期償還金については、K銀行から振込みがあったと連絡を受けたので、Xに取りに行かせ、これで法事ができるなと思った。
 当該抵当証券に関して、被相続人名義であるにもかかわらず、本件申告書において申告しなかったことについては、今考えると、申告しなければならなかったと思うが、その時は頭が混乱していたため、そこまで考えられなかった。
 また、本件甲抵当証券及び本件丁抵当証券の保管証については、返したと思うが、よく覚えていないし、その保管証がどこにあったかも、よく覚えていない。
(F)本件定期貯金は、郵便局から本件定期貯金の満期の通知が来たので、探してみたら、預金関係を入れていた居間の押入れの中の整理だんすの引出しの中に入っていた。
 本件定期貯金は、Xと相談し、解約後にW名義の定期貯金にしたが、現在は、解約して請求人名義のものに変えている。
 今から考えてみると、本件定期貯金は、被相続人の遺産であるので、申告すべきであったと思うが、その時は頭が混乱していてよく分からなかった。
 本件定期貯金は、W名義にしなければよかったと思う。
(G)F社の株式は、本件申告書の提出後に売却しているが、株主優待乗車証についてはF社に返却したものの、現物株式がどこにあったかは、よく覚えていない。
B Xの答述
(A)請求人のところに株式の配当通知書が来たのは知っていたが、具体的な内容までは知らなかった。
(B)株式の配当金の受領については、請求人から、株式の配当通知書が来たと言われて、私が郵便局に取りに行き、現金で請求人に渡した。
(C)株式の配当通知書は、所得税の確定申告をするときに、その写しが必要であると聞いていたので、請求人から受け取ったものは全て写しを取っていた。
 しかし、本件所得税の申告書を提出するとき、本件預り証に記載のある本件申告済株式の配当通知書の写しは残したが、それ以外のものは捨てた。
 本件預り証に記載のない株式の支払通知書があったことは、知っていたが、どうしてあるのかと請求人に聞いたところ、分からないということであった。
(D)本件甲抵当証券及び本件丁抵当証券の保管証は、満期償還金の入金確認後、満期の案内に返すように書いてあったので、返したと思う。
C 本件申告書の関与税理士Y(以下「Y税理士」という。)の答述
(A)本件相続について、平成7年5月9日、知人を通してXから相続税の申告の手続をしてほしい旨の依頼を受けた。
(B)Xが収集していた、本件預り証、被相続人に係る預金の残高証明書、J社・H社の株式及びその配当通知書等があったのでその株式数等に基づいて、本件遺産分割協議書を作成した。
 本件遺産分割協議書の日付が平成7年3月5日になっているのは、すでに4月始めごろに証券会社で相続による名義変更の手続が行われていたこともあって、日付はさかのぼって作成した。
 本件遺産分割協議書は、本件申告書を提出するために作成したものであり、作成した日付は、はっきり覚えていないが、手書きで追加されている遺産については、その後に分かったものである。
(C)本件遺産分割協議書にF社の株式が手書きで加えられたのは、被相続人がF社の株主優待乗車証を使っていたことから、株式があるはずだと言うことで、F社で株式数を確認したためである。
(ニ)ところで、相続税法第19条の2第5項によれば、同法第1項の相続に係る相続税の納税義務者が、配偶者に係る相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、相続税法第27条《相続税の申告書》の規定による相続税の申告書を提出していた場合、当該相続税の調査に基づく修正申告書及び更正において、相続税法第19条の2第1項の適用について同項第2号イの課税価格の合計額及び同号ロの課税価格に相当する金額には、当該配偶者に係る相続税の課税価格のうちその隠ぺいし、又は仮装した事実に基づく金額に相当する金額を含まないものとする旨規定されている。
(ホ)これを本件について、上記(イ)ないし(ハ)の内容から判断すると、次のとおりである。
A 本件現物株式
(A)請求人は、上記(ロ)のJ及びKのとおり、当初、株式については被相続人が行っておりよく分からない旨調査担当者に申述しているが、異議担当者に対しては、自分自身で株式の取引を行ったことがあり被相続人と取引用の印章について話をしたことがある旨申述していることからすると、株式についての知識を持っていると認められる。
(B)請求人は、上記(ロ)のC及びD並びに(ロ)のJないしLのとおり、本件相続開始後、株式に関する相続の手続等を行い、株式の配当金の受領及び配当金の振り込まれた預金口座からの入出金等を行っていることが認められる。
(C)請求人は、上記(ロ)のJのとおり、長年にわたり、被相続人と生活を共にしており、株式の配当金が生活の原資になっているとともに、上記(ロ)のKのとおり、被相続人と証券会社の届出印等を相談していたことからすると、株式を被相続人が運用していたので全く知らなかったということは、不自然である。
(D)請求人は、本件申告済株式のうち、現物株式が確認されていないにもかかわらず、(1)被相続人の平成6年分までの所得税の確定申告をしていたのでその存在を原処分庁に把握されていたJ社及びH社については、上記(ロ)のIのとおり現物株式だけでなく、単位未満株式についても株式の配当通知書等によって、その株式数を把握し本件申告書において記載しており、また、(2)Y税理士から指摘されたF社については、F社で株数を確認した上、本件申告書において記載をしている。
 他方、請求人は、本件現物株式については、上記(ロ)のDのとおり、本件K銀行甲口座への振り込み又は株式の配当通知書等によって配当金を受領していること及び株主総会の案内を受けていることからすると、その銘柄等について了知していたものと認められる。
(E)したがって、上記(A)ないし(D)の内容からすると、請求人は、本件現物株式の存在を認識していながら、本件申告書において、これを記載せず、それらの株式を申告しなかったと認めるのが相当である。
 なお、本件現物株式を本件申告書において記載しなかったことから、本件申告書提出後における本件所得税の申告書においても、本件申告済株式に係る配当金のみを申告し、本件現物株式に係る配当金を受領していたにもかかわらず申告しなかったことは、何らかの意図を持っていたものと推認せざるを得ない。
B 本件単位未満株式
 本件単位未満株式については、上記Aのとおり、本件現物株式と同様に、請求人は、その存在を了知し把握することができたにもかかわらず、これを本件申告書に記載しなかったものと認められる。
C 本件抵当証券
 請求人は、上記(ロ)のJ及びKのとおり、当初、被相続人が本件抵当証券を所有していたことについて知らなかった旨調査担当者に申述しているが、異議担当者に対しては、その一部を葬儀代等に使用した旨申述しており、また、上記(ロ)のG及び(ハ)のAの(E)の内容から、(1)本件甲抵当証券及び本件丁抵当証券の満期償還金については、本件K銀行甲口座に振込まれ、現金で引き出し費消していること、(2)満期未償還の本件乙抵当証券及び本件丙抵当証券の利息についてはK銀行甲口座に振り込まれ更に現金で引き出したことを了知していることからすると、本件抵当証券が存在していることを認識していながら、これを本件申告書に記載しなかったものと認められる。
D 本件定期貯金
 請求人は、上記(ロ)のH及び(ハ)のAの(F)のとおり、本件定期貯金については、
(1)満期の通知に基づき、定期貯金証書により、満期解約し、(2)W名義の定期貯金にしていることを了知しており、本件定期貯金が相続財産であることを認識していながら、これを本件申告書に記載しなかったものと認められる。
E ところで、請求人は、被相続人がアタッシュケースの中に本件現物株式及び本件保管証を入れていたので知らなかった旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件有価証券等について、上記AないしDのとおり既にその存在を認識していたと認められ、また、上記(ロ)のJ及びKのとおり、原処分担当者及び異議担当者に対し被相続人から生前に本件たんすは開けるなといわれたので本件たんすは開けなかった旨申述しているが、本来、相続税において、すべての財産を把握すべきところ、本件相続開始後、原処分に係る調査までの1年9か月の間、本件たんすを開けなかったとする請求人の申述は、不自然であるというべきであり、更に、上記Aの(A)及び上記Cのとおり、請求人の申述には一貫性がなく信ぴょう性に疑問がある。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
F そして、請求人は、被相続人が本件有価証券等をことさら秘匿していたような特段の事情を認めるに足る証拠がない以上、当然家族として、本件有価証券等の存在及び相続財産であることを認識していたものと認めるのが自然である。
 なお、請求人は、原処分庁の調査に際しても、当初、本件有価証券等があることを明らかにせず、その原処分庁の調査の進展に伴ってようやく本件現物株式、本件甲抵当証券、本件乙抵当証券、本件丙抵当証券の存在の事実を自認したが、本件丁抵当証券、本件定期貯金について、その後もその存在を認識しながらなお原処分庁に対しこれを明らかにしなかったことは、本件丁抵当証券、本件定期貯金のみならず、本件現物株式、本件単位未満株式、本件乙抵当証券、本件丙抵当証券についても、隠ぺいの意図があったものと認めるのが相当である。
G したがって、請求人は、本件現物株式及び本件単位未満株式について、株主総会の案内状等や配当通知書等によってその株式数を把握していながら、被相続人が所得税の申告書において記載していなかったことを奇貨として、また、本件抵当証券及び本件定期貯金について、満期の案内等によってその内容を把握し、その一部を出金している事実がありながら、本件有価証券等が記載されていないことを了知の上、本件申告書を提出していたものと認めるのが相当である。
 よって、本件において、請求人は、本件有価証券等の存在を了知していながらこれを隠ぺいし、過少申告であるところの本件申告書を提出したものであり、その行為は相続税法第19条の2第5項に規定する事実の隠ぺいに当たるとして本件有価証券等について同条第1項の規定を適用しなかったことは相当であると認められるから、本件更正処分は適法である。
(ヘ)なお、請求人は、(1)税について無知である、(2)原処分庁は、ただ2回の調査で表面上の事象だけを捕らえて、一方的な偏見と独断に基づいて、隠ぺい又は仮装したと断定しているが、その事実はない、(3)請求人には、相続税法第19条の2第1項の控除の枠が1億6千万円まであるのに、その枠の全額を使っていないことからみても、隠ぺい又は仮装を行う必要はない旨主張するが、上記(ホ)のGのとおり、隠ぺいの事実が認められるので、請求人の主張は採用することができない。
ロ 異議審理の手続
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のAのとおり、異議調査において加算した金額は、不利益処分に当たり、違法・不当であるから、取り消すべきである旨主張する。
 しかしながら、異議決定において原処分時に客観的に存在した税額を上回らなければ、原処分を維持しても差し支えないものと解するのが相当であり、異議決定では、更正処分後に収集されたものをも加えた資料によって、その更正で決定された税額を維持することができると解される。
 これを本件についてみると、異議調査において加算した金額を加えた後の異議決定における相続税額は、本件更正処分における相続税額を上回らないから、異議決定を経た後の更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のBのとおり、異議担当者は争点に係る基本的な調査を行わず、その結果、作成された異議決定書は具体的な隠ぺい又は仮装したとする事実の指摘及び説明がないので、国税通則法第84条第5項の規定に抵触し、違法である旨主張する。
 しかしながら、異議審理手続の違法を理由として原処分の取消しを求めることはできないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 相続税の課税価格等
 以上のとおり、本件有価証券等について、相続税法第19条の2第1項の規定を適用しなかったことは相当であるところ、請求人の課税価格及び納付すべき税額は、次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも減額更正処分後の請求人の課税価格及び納付すべき税額と同額となるから、更正処分は、適法である。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

イ 請求人は、本件有価証券等については、隠ぺい又は仮装の事実はなく、重加算税の賦課決定処分は違法であると主張する。
ロ ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることによって、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、納税申告制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。
ハ そうすると、上記(1)のイの(ホ)で判断したとおり、請求人は本件有価証券等について隠ぺいし、その結果として本件申告書が過少申告となったものであるから、国税通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当することとなり、同条1項の規定に基づいて計算すると、重加算税の計算の基礎となる税額は、1,850,000円で、重加算税の額は、647,500円となり、減額更正処分後の金額と同額となるので、重加算税の賦課決定処分は、適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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