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(平10.9.30裁決、裁決事例集No.56 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成7年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)(以下「本件確定申告書」という。)に総所得金額を1,249,413円(内訳、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額1,372,013円、不動産所得の金額2,621,426円)、分離長期譲渡所得の金額221,308,509円及び納付すべき税額を35,163,400円と、また、「特例適用条文」欄に「措法31の3、35条」と記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、D税務署所属職員の調査を受け、総所得金額を1,249,413円、分離長期譲渡所得の金額221,494,337円及び納付すべき税額を40,228,400円とする修正申告書(以下、「本件修正申告書」といい、本件修正申告書に係る申告を「本件修正申告」という。)を平成8年11月8日に提出したところ、D税務署長は、同月26日付で過少申告加算税の額を5,000円及び重加算税の額を1,750,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分のうち重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)に不服があるとして、平成9年1月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月28日付で棄却の異議決定をした。
 なお、請求人は、平成9年5月20日に住所をP市S町5番20―802号から肩書地へ移動したので、これに伴い、原処分庁はD税務署長からE税務署長となった。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年5月26日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成7年3月にP市Q町6番2、同所同番4及び同所同番5所在の宅地302.74平方メートル(以下「本件土地」という。)及び本件土地上所在の家屋番号Q町6番4の1及び同番4の2の建物534.32平方メートル(以下「本件建物」といい、本件建物は、木造セメント瓦葺2階建部分186.5平方メートル(以下「本件木造部分」という。)及び鉄筋コンクリートブロック造陸屋根4階建部分347.82平方メートル(以下「本件4階建部分」という。)に区分されている。)をT協同組合(以下「T組合」という。)に譲渡し、本件土地及び本件建物のうち請求人が居住の用に供していた部分について、租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のものをいう。以下同じ。)第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》及び同法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》の規定による特例(以下「本件各特例」という。)を適用して本件確定申告書を提出したところ、原処分庁は、請求人が居住の用に供しているとして本件各特例の適用を受けた本件土地及び本件建物のうち本件木造部分のうちの2階建の部分(以下「本件2階建部分」という。)及びその敷地については、請求人は学校法人W学園(以下「W学園」という。)に賃貸しており、請求人の居住の用に供していた建物及びその敷地には当たらないので本件各特例は適用できないとの指摘を行った。
 請求人は、請求人が平成4年11月27日に締結したW学園との建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に係る契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)に本件建物全体が賃貸物件として記載されていたこともあり、やむなく本件木造部分のうち本件2階建部分について本件各特例を適用しないとして本件修正申告書を提出したが、本件木造部分については、原処分庁も居住の用に供していたと認めている1階建の部分(以下「本件平屋建部分」という。)を含め、すべての部分を請求人の居住の用に供していたのであり、そもそも本件修正申告書を提出する必要はなかったのであるから、本件修正申告を基礎としてなされた本件賦課決定処分は違法である。
ロ 請求人が本件土地及び本件建物の売買に際して平成7年3月16日に締結したT組合との土地建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)に係る契約書(以下「本件売買契約書」という。)の別紙2に本件建物の使用状況を記載したのは、本件売買契約書に添付する本件建物の登記簿謄本の種類欄が居宅・教室となっていたが、実際の使用状況は居宅・応接室であるのでそのように記載したものであり、一般的な不動産の売買契約において作成される重要事項説明書と同様に、売主の責務として、その建物がどのように使用されているか明らかにするために使用状況を記載したものであり、原処分庁が主張するように賃貸していた部分を居住の用に供していたかのように仮装した事実はないから原処分は事実認定を誤っている。
ハ また、原処分庁は、本件建物に係る本件賃貸借契約書が正しいものとして原処分を行っているが、次のとおり本件賃貸借契約の内容は実態に合ったものではなく、判断を誤っている。
 W学園は、本件建物において、設計製図学院の開校を計画しており、県からの認可を得るために、認可基準を満たす床面積の教室が必要であったために教室として使用する本件4階建部分だけでなく、使用する必要のない本件木造部分も含めて本件賃貸借契約を締結したものであり、県の認可後は借りる必要がなくなったので、本件賃貸借契約を途中で解約したものである。
 一方、請求人は、当時、経営していたドレスメーカー専門学校をW学園に引き継ぐ話が決まっており、引き継いだときにW学園から請求人が受け取る講師料は、本件賃貸借契約に係る賃貸料と合計で月額約1,000,000円との暗黙の了解があった。
 実際の本件建物全体の月額賃貸料は約1,040,000円(本件4階建部分が約760,000円、本件木造部分が約280,000円)で、講師料を含めた本件賃貸借契約に係る賃貸料の見込み額約1,000,000円にほぼ等しかったため、本件木造部分の賃貸料約280,000円を講師料と理解し、あえて本件賃貸借契約を変更することなく、賃貸料収入として受け取り不動産所得の収入金額に計上していたものである。
ニ 原処分庁は、原処分に係る調査時等になされた関係者の申述のうち、原処分庁に都合が悪い部分をすべて無視して、証拠に基づかない単なる思いこみや推量により判断し、結論を誤っている。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人とW学園との間で作成された本件賃貸借契約書及び同契約書の別紙の特約事項並びにW学園の総務部長F(以下「F」という。)の申述によれば、請求人は、平成5年4月1日から平成8年3月31日までの3年間、本件4階建部分の1階、3階及び4階部分合計226.28平方メートルを、また、平成6年4月1日から平成8年3月31日まで本件4階建部分の全部359.48平方メートル及び本件木造部分186.5平方メートルをW学園に賃貸する契約を締結しこれらの建物を賃貸していたが、平成7年3月31日をもって本件賃貸借契約を解約していること。
(ロ)請求人とT組合との間で作成された本件売買契約書には、(1)請求人は、本件土地及び本件建物をT組合に283,901,100円で譲渡する、(2)本件木造部分の物件の表示箇所の「種類」欄には「居住・教室となっておるが平成4年3月31日を以て廃し現在は、居宅・応接室として使用している」と、また、本件4階建部分の物件の表示箇所には「平成5年4月より平成7年3月末までW学園に貸付」と記載されていること。
(ハ)本件売買契約を仲介したP市R町一丁目7番44号のG(以下「G」という。)は、平成8年9月6日に原処分に係る調査担当者(以下「原処分調査担当者」という。)に対し、(1)本件売買契約書の別紙2の売買物件の表示内容を表す書類を作成したのは自分である、(2)その書類の本件木造部分の物件の表示箇所の「種類」欄に「居宅・教室となっておるが平成4年3月31日を以て廃し現在は、居宅・応接室として使用している」と、また、本件4階建部分の物件の表示箇所に「平成5年4月より平成7年3月末までW学園に貸付」と記載したのは、請求人の長男であるH(以下「H」という。)から、依頼があったからである、(3)一般的には売買契約書に売主の使用状況を記載することは珍しいことであるが、売主からたってと言われたので記載しないわけにはいかなかった旨申述していること。
(ニ)Fは、平成9年4月11日に異議申立てに係る調査担当者(以下「異議調査担当者」という。)に対し、(1)本件2階建部分はあまりに古くて教室としては使用していなかったが、倉庫として机や製図台などを置いていた、(2)本件2階建部分の1階には台所のようなものがあったが、使用していたような様子はなかった、(3)本件木造部分を賃借しており、賃料も支払っていた旨申述していること。
(ホ)請求人は、平成9年4月9日に異議調査担当者に対し、(1)本件2階建部分は、昭和45年ころまで洋裁学校のお花と料理の教室として使用していたが、消防署から木造の建物を教室として使用することを中止するよう指示があったので教室として使用することはやめた、(2)その後は、本件2階建部分の1階は台所として使用し、2階は応接室又はHが帰省したときの寝室として使用していた、(3)本件2階建部分を教室として利用しなくなってから同部分に改造等を行ったことはない旨申述していること。
(ヘ)請求人は、平成8年3月13日に本件確定申告書に本件各特例の適用を受ける旨を記載するとともに本件売買契約書の写しを添付して原処分庁へ提出し、また、同年11月8日に本件2階建部分及びその敷地について本件各特例を適用できない旨の原処分調査担当者の指摘を受けて、本件修正申告書を提出したこと。
ロ 以上の事実等を総合勘案すると次のとおり判断される。
(イ)上記イの(ニ)及び(ホ)に記載した事実によれば、本件2階建部分は、元来、請求人の洋裁学校の教室として使用されていたもので、教室として使用されなくなってからも居住の用に供するための改造等は何らなされておらず、平成6年4月1日にW学園に対し賃貸され、それ以降は同法人の倉庫として机や製図台などが置かれていたと認められるから、本件2階建部分は、請求人の居住の用に供されていなかったものと認めるのが相当である。
(ロ)請求人は、やむなく修正申告に応じたが、そもそも本件修正申告をする必要もなかったのであり、本件確定申告書の提出に当たり事実を隠ぺい又は仮装した事実はないから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、本件2階建部分が請求人の居住の用に供されていなかったことは上記(イ)に記載したとおりであるところ、上記イの(イ)から(ハ)までに記載した事実によれば、本件2階建部分は平成6年4月1日以降W学園に対し賃貸されており、請求人の居住の用に供されていなかったものであるにもかかわらず、本件売買契約書の作成に当たり、HがGに依頼して本件売買契約書の別紙2の本件木造部分の物件の表示箇所の「種類」欄に「居宅・教室となっておるが平成4年3月31日を以て廃し現在は、居宅・応接室として使用している」と、また、本件4階建部分の物件の表示箇所に「平成5年4月より平成7年3月末までW学園に貸付」とそれぞれ記載させた事実が認められるのであって、土地や建物の売買契約書にこのような使用状況を記載することは通常あり得ず、他にこのような記載をすべき合理的な理由がないことに照らせば、請求人は、本件各特例の適用を受ける意図を持って、W学園に賃貸していた部分は本件4階建部分のみであり、本件2階建部分は請求人の居住の用に供されていたかのごとく装うために、このような記載をさせたものと認めるのが相当である。
 請求人は、以上述べたところに基づいて、上記イの(ヘ)のとおり本件確定申告書を提出しており、このことは国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は、仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当すると認めるのが相当であるから本件賦課決定処分は適法である。
(ハ)また、請求人は、原処分庁は本件建物に係る本件賃貸借契約書が正しいものとして原処分を行っているが、本件賃貸借契約の内容は実態にあったものではなく、判断を誤っている旨主張する。
 しかし、Fは、平成9年4月11日に異議調査担当者に対し、(1)W学園が請求人に支払っていた本件建物の賃借料の中に、請求人の講師報酬が含まれていたことはない、また、(2)平成5年に本件4階建部分の1階、3階及び4階を賃借して設計製図学院を開校しており、Y県から製図学科を開設する認可等を得るために平成6年に賃借面積を拡大したものではない旨申述しており、また、請求人は本件建物を賃貸していた平成6年4月から平成7年3月までの本件建物に係る賃貸料の全額を不動産所得として確定申告していることに照らせば、本件建物に係る賃借料は文字どおり本件建物の貸付けの対価と認めるのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)さらに、請求人は、原処分庁は原処分に係る調査時になされた関係者の申述のうち原処分庁に都合が悪い部分をすべて無視して、証拠に基づかない単なる思いこみや推量により判断し、結論を誤っている旨主張するが、下記のとおり請求人の主張には理由がない。
A 請求人は、本件建物のうち本件平屋建部分に居住していたと認められることからすれば、実際には本件賃貸借契約書の約定に従ってW学園が本件建物の全部を使用していなかったことがうかがわれるが、W学園が本件2階建部分を請求人から賃借していたのは事実であって、上記イの(ニ)及び(ホ)に記載した事実に基づいて、本件2階建部分は、請求人の居住の用に供されていなかったと判断したものである。
B (1)Jが原処分庁にあてて記載した1997年5月6日付の書面には、「本件2階建部分の1階木造部分には大きな調理台3、4台、オーブンレンジ3、4台が設置されており、元は料理教室だったとのことでしたが、普段は請求人が使用していた」との記述があること、(2)Fは、「本件2階建部分は余りに古くて教室としては使用していなかった」と申述していること、(3)請求人は、「本件2階建部分は、昭和45年ころまで洋裁学校のお花と料理教室の教室として使用していたが、消防署の指示があったので、教室として使用することは止めた、また、本件2階建部分を教室として利用しなくなってから同部分に改造等を行ったことはない」と申述していること、(4)K、L及びM(以下、これら3名を併せて「Kら」という。)が原処分庁へ提出した平成9年2月28日付の書面において、「木造部分については以前から自宅用として使われていたことは事実で2階も自宅の方から階段がついていましたし又1階の料理教室だった所は私たちが勤務した昭和46年当初から授業は全くされてなく自宅用の家具や荷物等が片側に寄せて積んでありました。1階の調理台の上には先生の趣味で造られたいろいろな漬物の入った壺や野菜、果物のジュースの瓶などが沢山置いてあり炊事もされていました」と述べていること、また、(5)Nが原処分庁にあてて記載した平成9年5月6日付の書面には、「洋裁学校の1階が料理教室になりましたのは、教室が出来ましてから、僅か、2〜3年間です。あとは、物置と先生御自作のお漬物の置場として放置されたまま、再び料理教室に使われることはありませんでした」との記述があることなどを総合すると、本件2階建部分は昭和45年ころまで請求人の洋裁学校のお花と料理の教室として使用され、教室としての使用が中止された後、改造等が行われることなくそのままの状態で利用されていたものと認められるから、仮に、請求人の主張するとおり、本件賃貸借契約の内容と実際の利用状況が一致しておらず、事実上本件2階建部分が賃貸借の目的になっていなかったとしても、本件2階建部分は請求人の居住の用に供されていたものとは認められない。
C Gは、平成8年9月6日に原処分調査担当者に対し、上記イの(ハ)の申述のほかに、本件2階建部分の使用状況に関して、(1)本件2階建部分の1階は見ていない、2階へは建物の外にある階段を通って入った、また、(2)2階には簡単なテーブルといすがあったが建物は相当古く、歩くと床がひずむような感じであった旨申述しているものの、原処分庁の主張とつじつまが合わなくなるような申述をしている事実は認められない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件売買契約書に本件建物の使用状況を記載し、それに基づいて本件確定申告書を提出したことが、重加算税の賦課要件を満たしているか否かであるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件賃貸借契約書には、要旨次のとおり記載されていること。
(イ)賃貸人        請求人
(ロ)賃借人        W学園
(ハ)賃貸借建物の所在場所 P市Q町6―6
(ニ)賃貸借対象物件・面積 鉄筋コンクリート造4階建 1棟
1階、3階及び4階226.28平方メートル
(ホ)賃貸借期間      1993年4月1日から1996年3月31日まで
(ヘ)特約事項       1994年4月1日から賃貸借の対象面積を次のとおりに拡大する。
              鉄筋コンクリート造 359.58平方メートル
              木造        186.5平方メートル
(ト)契約年月日      1992年11月27日
ロ 本件賃貸借契約書の特約事項に記載された建物の賃貸借対象面積は、本件建物の登記簿に記載された床面積に一致すること。
ハ 請求人とT組合との間で作成された本件売買契約書には、(1)請求人は、本件土地及び本件建物をT組合に283,901,100円で譲渡する、(2)本件木造部分の物件の表示箇所の「種類」欄には「居宅・教室となっておるが平成4年3月31日を以て廃し現在は、居宅・応接室として使用している」と、また、本件4階建部分の物件の表示箇所には「平成5年4月より平成7年3月末までW学園に貸付」と記載されていること。
ニ 請求人は、平成8年3月13日に本件確定申告書に本件土地及び本件建物のうち請求人が居住の用に供していたとする部分について、本件各特例の適用を受ける旨を記載し、本件売買契約書の写しを添付して原処分庁へ提出したこと。
 また、平成8年11月8日に本件2階建部分及びその敷地について、本件各特例を適用できない旨の原処分調査担当者の指摘を受けて、本件修正申告書を原処分庁へ提出したこと。
ホ 本件平屋建部分については、実際に請求人の居住の用に供されていたこと。
ヘ 原処分庁は、本件平屋建部分については本件各特例の適用対象であるとする請求人の申告を認容していること。
ト 請求人は、平成9年4月9日に異議調査担当者に対し、(1)本件2階建部分は、昭和45年ころまで洋裁学校のお花と料理の教室として使用していたが、消防署から木造の建物を教室として使用することを中止するよう指示があったので教室として使用することはやめた、(2)その後は、本件2階建部分の1階は台所として使用し、2階は応接室又はHらが帰省したときの寝室として使用していた及び(3)本件2階建部分を教室として利用しなくなってから同部分に改造等を行ったことはない旨申述していること。
チ Gは、平成8年9月6日に原処分調査担当者に対し、(1)平成7年3月に本件売買契約の打合せのため請求人宅を何度か訪問し、その際に本件2階建部分の2階を使用した、また、(2)その2階には簡単なテーブルといす、それに簡易ベッドがあった旨申述していること。
リ(a)Kらが原処分庁へ提出した平成9年2月28日付の書面において、本件2階建部分については以前から請求人の自宅として使われていたことは事実であり、2階には自宅の方から階段がついていた、また、1階の料理教室だった所はKらが勤務した昭和46年当初から授業は全くされておらず、自宅の家具や荷物等が片側に寄せて積んであった。さらに、1階の調理台の上には請求人の趣味で造られたいろいろな漬物の入ったつぼや野菜、果物のジュースの瓶などがたくさん置いてあり、請求人が炊事もしていた旨述べていること、(b)Nが原処分庁にあてて記載した平成9年5月6日付の書面には、洋裁学校の1階が料理教室として使用されたのは、教室ができてから、わずか2、3年間のことであり、その後は、物置と請求人自作の漬物置場として放置されたまま、再び料理教室に使われることはなかった旨の記述があること、さらに、(c)Jが原処分庁にあてて記載した1997年5月6日付の書面には、本件2階建部分の1階には大きな調理台3、4台及びオーブンレンジ3、4台が設置されており、元は料理教室だったとのことであったが、普段は請求人が使用していた旨の記述があること。
(2)異議申立てに係る資料を調査したところによれば、Fは、平成9年4月11日に異議調査担当者に対し、W学園が本件建物を賃借していた期間中、(a)本件2階建部分については古くて教室として使用できるような状態ではなかったので、不用品を置いておく程度でほとんど使用せず、賃借前の状態そのままとしていた、また、(b)請求人の洋裁学校の教材等があったような気がするが、請求人の家財があったか否かはよく分からない旨申述していることが認められる。
(3)ところで、通則法第68条第1項は、納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
(4)そこで、上記(1)及び(2)の事実を上記(3)に照らして判断すると次のとおりである。
イ 原処分庁は、上記2の(2)のロの(ロ)のとおり、請求人が本件2階建部分を請求人の居住の用に供されていたかのごとく装ったものと認定している。
 しかしながら、本件賃貸借契約書の特約事項には、本件建物の面積全部がW学園への賃貸の対象面積と記載されているところ、原処分庁は、本件平屋建部分については実際に請求人の居住の用に供していたことから本件各特例の適用対象であるとする請求人の申告を認容していると認められる。このことから、原処分庁は、本件賃貸借契約書の定めによらずに実際の使用状況に基づいて本件各特例の適用対象となる居住用家屋の範囲を判定したものと判断される。
 これに従うと、原処分庁は本件2階建部分についても、本件賃貸借契約書の定めによらず実際の使用状況に基づいて本件各特例の適用対象となる居住用家屋の範囲に含まれるか否かを判定するのが相当であるところ、本件2階建部分の使用状況を検討すると、上記(1)のト、チ及びリ並びに(2)のことから、請求人がお花及び料理の教室としての使用を中止した後は請求人による事業以外の部分として多少の使用を認めることができる。
 そうすると、本件2階建部分が本件各特例の適用対象となる居住用家屋の範囲に含まれないとしても、W学園が実際に本件2階建部分をほとんど使用せず、請求人がW学園への賃貸前と同じように本件2階建部分を使用していたことからすれば、請求人が本件2階建部分を居住用部分として認識していたとしても無理もないと認められ、まして、その認識に基づき本件売買契約書の別紙2に本件2階建部分を居宅及び応接室として使用している旨の記載をしたことのみをもって、仮装行為とまでいうことはできず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
ロ そうすると、請求人が本件各特例を適用して本件確定申告書を提出したことは、通則法第68条第1項に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたときに該当するとは認められないから、重加算税を賦課することは相当ではない。
 他方、本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき、取り消すのが相当である。
(5)したがって、請求人のその他の主張について判断するまでもなく、本件賦課決定処分は過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき、取り消すべきである。
(6)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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