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(平10.10.30裁決、裁決事例集No.56 121頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成6年分の所得税の確定申告書を、決定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年10月7日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分
項目確定申告更正処分等
総所得金額7,380,93410,697,660
内訳
 不動産所得の金額1,450,1601,450,160
 給与所得の金額2,385,0002,385,000
 譲渡所得の金額3,545,7746,862,500
所得控除の額1,350,388850,388
納付すべき税額543,6001,459,600
過少申告加算税の額100,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年10月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年1月22日に棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年2月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、相続によって取得した社団法人Yゴルフクラブ(以下「Yゴルフクラブ」という。)の平日会員権(以下「本件平日会員権」という。)について、平成元年9月20日、Yゴルフクラブに入会金の追加金(以下「本件追加金」という。)として22,145,000円(消費税645,000円を含む。)を支払い、正会員権(以下「本件正会員権」という。)に転換(以下「本件転換」という。)を行った。
 そして、請求人は、本件正会員権を平成6年12月5日に株式会社J(以下「J社」という。)に譲渡(以下「本件譲渡」という。)し、当該ゴルフ会員権の譲渡について、別表の譲渡所得の金額の計算の「確定申告額」欄のとおり計算して申告した。
(ロ)これに対し、原処分庁は、別表の譲渡所得の金額の計算の「更正処分額」欄のとおり、借入金利子(以下「本件借入金利子」という。)及び抵当権設定費用(以下「本件抵当権設定費用」という。)並びに抵当権抹消費用(以下、「本件抵当権抹消費用」といい、本件借入金利子及び本件抵当権設定費用と併せて「本件借入金利子等」という。)について、ゴルフ会員権はその会員としての資格を有することとなった時をもって使用開始されたものと解されるから、施設利用であるゴルフプレーが行われない状態であっても、日常的な生活費ないし家事費に属するとして、本件譲渡に係る譲渡所得の金額(以下「本件譲渡所得の金額」という。)の計算上控除される、取得費及び譲渡費用(以下「取得費等」という。)に算入されないとして更正処分を行った。
(ハ)しかしながら、原処分庁は、次のとおり判断を誤っている。
A 所得税基本通達38―8《取得費等に算入する借入金の利子等》では、固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち、当該固定資産を使用しないで譲渡した場合は、その資金の借入れの日から当該固定資産の譲渡の日までの期間に対応する部分の金額は当該固定資産の取得費に算入する旨定めており、また、固定資産の取得のために資金を借り入れる際に支出する抵当権設定費用その他の費用で当該資金の借入れのため通常必要と認められるものについても同様とする旨定めている。
B そして、固定資産の使用開始の日については、所得税基本通達38―8の2《使用開始の日の判定》の(1)のハによれば「建物、構築物等の施設を要しないものは、そのものの本来の目的のための使用を開始した日」としている。
 なお、目的の判断については、名古屋地方裁判所平成4年2月28日判決(昭和63年(行ウ)第42号所得税更正処分取消請求事件)(以下「本件名古屋地裁判決」という。)によると、譲渡による所得の種類を決定するのは、当該物件の取得時点の所有の目的で判断するのではなく、譲渡を決定した時点での所有の目的で判断するとしている。
C 原処分庁は、ゴルフ会員権の使用開始の日について、「ゴルフ場の施設を実際に利用したかどうかにかかわらず、その会員としての資格を有することとなった日をもってその取得目的に供されたもの、すなわち使用開始があったものと解されている」旨の独自の判断をしているが、ゴルフ会員権は、その権利を保持している者にゴルフ場の施設を有利に利用させる権利であるから、ゴルフ場の施設を利用した時にその権利を行使したとして、使用開始が行われたとみるべきである。
 請求人は、下記Dの(B)のとおり、当該ゴルフ場の施設を利用していないから、使用開始をしていないといえる。
D そして、請求人においては、次のとおり、本件正会員権について、投資目的で本件転換によって取得したものであり、ゴルフ場の施設を有利に利用する地位があることに基づいて本件転換により取得した日に使用開始をしたとはいえないから、目的に沿う使用開始の日は譲渡した日となる。
(A)請求人は、昭和62年2月23日に請求人の夫であるH(以下「H」という。)から相続(以下「本件相続」という。)によって取得した本件平日会員権について、売却することを検討していたが、Yゴルフクラブのゴルフ会員権は平日会員権の市場価格が正会員権のそれの3分の1であったところ、Yゴルフクラブからの正会員権への転換募集及び株式会社L銀行(以下「L銀行」という。)からの転換資金貸付キャンペーンの案内があり、本件平日会員権から当該転換によって正会員権になれば、5年間の譲渡禁止期間の借入金利子を支払っても、平日会員権と比較して更に多額の利益が期待できたため、本件転換を行ったものである。
(B)請求人は、本件平日会員権を本件相続によって取得し、その後本件平日会員権を本件正会員権に転換の上譲渡しているが、この間、請求人は、「腰痛等の診断書」(以下「本件診断書」という。)のとおり体を痛めており、そして、平成7年2月21日付のYゴルフクラブ発行の「入会後のプレーは無い証明書」(以下「本件プレーの有無報告」という。)のとおり、ゴルフプレーをしておらず、このことから、ゴルフ場の施設を利用する権利を一切行使せず、使用開始しないまま譲渡したことは明らかであり、また、投資目的で取得したことを証明している。
 なお、Hの本件平日会員権の取得の際の、ゴルフ場の施設を利用するという目的は、請求人の本件転換によって、消滅したとみるべきである。
(ニ)以上のとおり、本件正会員権は投資を目的として取得するとともに使用開始をしていないから、投資にかかった費用の全てが譲渡費用となるべきであり、本件借入金利子等は、取得費等に算入される。
(ホ)なお、請求人は、本件転換に際して資金が必要なことから新たな経済行為として、L銀行に対する22,145,000円の借入れ(以下「本件借入れ」という。)を起こしたもので、このことは、一回限りの営利を目的とした行為であって、自己の計算と危険において独立して行った本件転換の結果38,000,000円の譲渡収入を得ることができたものである。
 これは、山林を造成して土地としての価値を高め、宅地として、売却したようなものであり、資産の価値の増加益に相当する所得を譲渡所得とし、その他の部分を事業所得として、この事業所得について支払利子を必要経費とした高松高等裁判所平成6年3月15日判決(平成3年(行コ)第3号所得税の決定処分等取消請求控訴事件)(以下「本件高松高裁判決」という。)の判断と同様に、本件借入金利子を取得費として判断すべきである。
 原処分庁は、本件転換によりゴルフ会員権そのものの性質が変わるものではないので、本件高松高裁判決と同様に解されないというが、ゴルフ会員権の性質を原処分庁の言うようにゴルフ場の施設を利用する権利だけとすれば、ゴルフ会員権の転売市場はあり得ないことであり、原処分庁は、ゴルフ会員権の性質と経済行為を混合させ、誤った判断をしている。
 原処分庁の言うように、本件借入金利子を取得費に算入しなければ、本件譲渡所得の金額は異常に高額となり多額な所得税が課され、結果、支払った利子部分にまで課税されるのは不当である。
(ヘ)よって、本件譲渡所得の金額は、平日会員権の部分と正会員権の部分から成るところ、平日会員権の部分の譲渡が下記のAのとおり18,400,000円の利益、正会員権の部分の譲渡が下記のBのとおり10,808,451円の損失となり、これらの金額を損益通算した7,591,549円から特別控除額500,000円を控除した金額となる。
 そして、総所得金額に合計される金額は、当該本件譲渡所得の金額を2分の1した3,545,774円と算出される。
A 平日会員権の部分
 本件譲渡時の、Yゴルフクラブの平日会員権のゴルフ会員権市場での相場は19,000,000円前後であったことから、平日会員権の部分に係る収入金を19,000,000円として、この金額から本件平日会員権の取得費600,000円を控除すると、平日会員権の部分の譲渡は、18,400,000円の利益となる。
B 正会員権の部分
 本件譲渡に係る収入金額38,000,000円から、平日会員権の部分に係る収入金19,000,000円、本件追加金22,145,000円、本件借入金利子6,493,051円、本件抵当権設定費用125,300円、本件譲渡に関してJ社に支払った仲介手数料(以下「本件仲介手数料」という。)1,000,000円、本件譲渡に際しての立会い等に関してK税理士(以下「K税理士」という。)に支払った立会い料(以下「本件譲渡立会い料」という。)30,000円、本件抵当権抹消費用15,100円を控除すると、正会員権の部分の譲渡は、10,808,451円の損失となる。
 以上のことからすると、更正処分はその全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)異議審理に係る調査担当者(以下「異議審理担当者」という。)が調査、審理したところ次の事実が認められる。
A Yゴルフクラブの平成元年3月17日の臨時理事会議事録には、次の内容が記載されている。
(A)Sコースのクラブハウスを速やかに改築する。
(B)改築資金の調達方法は、会員変更(平日会員から正会員への登録替え)に伴う転換払込方式とする。
(C)一人当たりの払込金額は、21,500,000円とする。
(D)募集対象は平日会員全員(法人、個人合計202名)とする。
(E)譲渡禁止期間を5年とする。
(F)募集開始の時期は、平成元年4月中旬とする。
B Yゴルフクラブ細則には、次の内容が記載されている。
(A)プレー会員には、正会員、平日会員、特別会員及び替助会員がある。
(B)正会員及び平日会員は、法人会員及び個人会員とし、個人の平日会員の入会金は、600,000円である。
(C)平日会員は、日曜、祝日のプレーを除き、その他は正会員に準ずる。
(D)入会金は、いかなる理由があっても払い戻さない。
(ロ)ところで、いわゆるゴルフ会員権とは、特定のゴルフ場の会員となることにより、そのゴルフ場の施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できる会員としての権利(地位)を総称したものと考えられ、更に、平日会員権から正会員権への転換は、従前の権利が一層有利な条件でゴルフ場の施設を利用することができる権利へと変わったものと考えられる。
 そうすると、本件転換は、上記(イ)のA及びBのとおり、Yゴルフクラブにおける、ゴルフ場の施設を一層有利な条件で利用できる権利を取得したものといえ、本件追加金は、新たな資産を取得するために支払われたものではなく、一種の資本的支出ということができるから、資産の取得代金として取得費を構成するものである。
 したがって、本件転換によって、請求人が平日会員権と正会員権の別々の資産を取得したわけでもなく、更に、平日会員権から正会員権へ転換した場合のゴルフ会員権の譲渡について、平日会員権の部分と正会員権の部分に区分し別々の譲渡所得の計算をする旨の規定もないから、この点に関する請求人の主張には、理由がない。
 また、請求人がその主張の根拠として援用している本件高松高裁判決は、固定資産である土地が加工されることによって当該土地がたな卸資産又はこれに準ずる資産に転化したものであるから、資産の増加益に相当する所得を譲渡所得とし、その外の所得を事業所得又は雑所得とすることを判示したものであるところ、本件転換においては、平日会員権から正会員権への転換によりゴルフ会員権そのものの性質が変わったものでないから、本件譲渡を当該判決と同様に解することはできない。
(ハ)本件借入れに関する費用は、次の理由から取得費に算入できない。
A 借入金によりゴルフ会員権を取得した場合の当該ゴルフ会員権の使用開始の日の判定については、ゴルフ会員権の性質は上記(ロ)のとおりであり、ゴルフ場の施設を実際に利用したかどうかにかかわらず、その会員としての資格を有することとなった時をもって、その取得目的に供されたもの、すなわち、使用開始されたものと解される。
 本件正会員権は、Hが本件平日会員権を取得し、その会員としての資格を有することとなった昭和43年7月10日にその取得目的に供されたこととなる。
 したがって、たとえ請求人が投資を目的として本件転換をしたものであるとしても、本件借入金利子、本件抵当権設定費用及び本件抵当権抹消費用は、本件平日会員権をいったんその取得目的に供した後に、本件転換を行うに当たっての、本件借入れに係るものであるから、本件譲渡所得の計算上取得費に算入することはできない。
(ニ)本件譲渡所得の金額
 以上のことから、本件譲渡所得の金額は、次のとおりである。
A 本件譲渡の譲渡価額は、38,000,000円である。
B 取得費は、本件平日会員権の取得費600,000円と本件追加金22,145,000円の合計額22,745,000円である。
C 譲渡費用は、本件仲介手数料の額1,000,000円である。
D 特別控除額は、500,000円である。
E 本件譲渡所得の金額は、上記Aの金額から、B及びCの金額の合計額を控除し、更にDの金額を控除すると13,755,000円である。
(ホ)総所得金額
 請求人の総所得金額は、請求人の本件申告書に記載された、不動産所得の金額1,450,160円、給与所得の金額2,385,000円並びに上記(ニ)のEの本件譲渡所得の金額を2分の1した金額6,877,500円の合計額10,712,660円である。
 以上のとおり、請求人の総所得金額は、10,712,660円となり、この範囲内でなされた本件更正処分は、適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 更正処分は適法に行われており、請求人が納付すべき所得税額を過少申告したことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しないから、同条の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件借入金利子等が本件譲渡所得の金額の計算上取得費に含まれるか否かにあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人は、Hが昭和43年7月10日に600,000円で取得した本件平日会員権を、本件相続を原因として取得していること。
(ロ)請求人は、本件平日会員権を本件正会員権に転換するため、平成元年9月20日L銀行P支店において本件借入れを行い、同日、同行からYゴルフクラブ宛に本件追加金22,145,000円を振り込んでいること。
(ハ)請求人は、平成6年12月5日、本件正会員権を38,000,000円でJ社に譲渡し、同日、同社に対して本件仲介手数料1,000,000円を支払っていること。
(ニ)請求人は、L銀行P支店に対し、平成元年9月20日から平成6年12月5日までの間の本件借入金利子として6,493,051円を支払っていること。
(ホ)請求人は、X司法書士に対し、本件抵当権設定費用として125,300円を支払っていること。
(ヘ)請求人は、Y司法書士に対し、本件抵当権抹消費用として15,100円を支払っていること。
(ト)請求人は、K税理士に対し、本件譲渡立会い料として30,000円を支払っていること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)YゴルフクラブのG総務部長(以下「G部長」という。)は、異議審理担当者に対し、次の内容について申述していること。
A Yゴルフクラブのゴルフ会員権は、預託金等の預り金はなく、また、入会金の負担はあっても返還等の保証はなく、単なるゴルフプレーに伴う施設利用権である。
B Yゴルフクラブのゴルフ会員資格の形態は、正会員と平日会員の2種類である。
 Yゴルフクラブにおいて、正会員は日曜及び祭日を含むオールラウンドに施設を利用しゴルフプレーをすることができる権利(いわゆる正会員権)を有し、平日会員は土曜日を含む平日のみ施設を利用しゴルフプレーをする権利(いわゆる平日会員権)を有している。
C 平成元年7月のYゴルフクラブにおける平日会員から正会員への転換(以下「平成元年7月の転換」という。)では、YゴルフクラブのSコースのクラブハウス改築資金の調達のため、平日会員全員に対して正会員への転換の案内をした。
D 平成元年7月の転換の際の、入会金の追加金21,500,000円(消費税は含まれていない。)は、当時のゴルフ会員権相場のYゴルフクラブの正会員権の価額と平日会員権の価額との差額より若干安い金額で設定したものと記憶している。
 なお、当時のゴルフ会員権相場は、変動があり、しかも取引業者間で行うものでYゴルフクラブとして関与していなかったことからも、記憶していないが、平日会員権は正会員権の価額の約2分の1程度で推移していると思う。
E 上記Dの入会金の追加金の性格は、Yゴルフクラブの「平日会員」から「正会員」への「登録替」であり、売買により新規取得するためのものではない。
 あくまで、より有利な条件でゴルフプレーをするための会員資格の、変更、転換である。
(ロ)請求人が確定申告書に添付した資料については、次のとおりであること。
A 再発行の表示のある、平成元年7月9日付のYゴルフクラブ発行の平日会員各位あて文書の写しは、平日会員から正会員への転換の案内であり、その募集要項について、次の内容が記載されている。
(A)募集の対象者は、平日会員のうち正会員に転換を希望する者とする。
(B)入会金の追加金は、個人会員について一人当たり21,500,000円(外消費税645,000円)とする。
(C)申込期間は、平成元年7月1日から同年7月末日までとする。
(D)払込期間は、平成元年8月10日から同年9月20日までとする。
(E)正会員資格取得の時期は、入会金の追加金の払込みの翌日から正会員に転換されたものとする。
(F)ゴルフ会員権の譲渡禁止期間は、正会員に転換された日の翌日より5年間とする。
B 本件追加金の振込みに関する領収書の写しには、次の内容が記載されている。
(A)金額欄には、22,145,000円。
(B)受取人欄には、Yゴルフクラブ。
(C)取りまとめ店欄には、L銀行S支店、R銀行S支店。
(D)振込人欄には、○○○○(請求人)。
(E)備考欄には、入会金22,145,000円、消費税645,000円。
(F)取扱店欄には、L銀行P支店を為替取扱店とする平成元年9月20日の日付印が押印されている。
C L銀行P支店発行の本件借入金利子に関する書面の写しには、平成元年9月20日から平成6年12月5日までの間に、請求人がL銀行に支払った借入れの利息額が6,493,051円である旨の内容が記載されている。
D L銀行P支店発行の本件借入れに関する借入金の返済予定表の写しには、借入日を平成元年9月20日、借入金額を22,145,000円とする旨の内容が記載されている。
E YゴルフクラブがK税理士にあてた本件プレーの有無報告の写しは、表題を「○○○○(請求人)様の入会後のプレーの有無について」としており、「入会後の当倶楽部でのプレーはございません。」と記載されている。
(ハ)請求人が、当審判所に提出した本件診断書の写しは、平成8年10月31日付のT医院発行の診断書の写しで、請求人は昭和60年より腰痛を伴う骨粗鬆症及び肝障害で通院加療中とする旨の内容が記載されていること。
(ニ)G部長は、当審判所に対して、次のように答述するとともに、本件追加金の取りまとめ銀行から受取人であるYゴルフクラブに交付された振込通知書を提示したこと。
A 請求人は、本件転換のため追加入会金として22,145,000円を、平成元年9月20日にL銀行P支店からYゴルフクラブ宛に振込送金している。
B Yゴルフクラブは、請求人から平成元年9月22日にL銀行S支店の口座に振込入金されていることを確認し、同月23日に正会員資格を付与した。
C 振込通知書には、前記(ロ)のBの(A)ないし(E)の外、次の内容が記載されている。
(A)「上記のとおり振込をいたしましたからご通知したします。」との表示の上に、L銀行P支店を為替取扱店とする平成元年9月20日の日付印が押印されている。
(B)欄外に「9月22日振込」と印字されている。
(ホ)K税理士は、当審判所に対して、次のように答述したこと。
A 本件平日会員権については、本件相続に係る相続税申告の時から知っており、請求人が老齢でゴルフ会員権売買の知識も無く身内の者には話をしたくないということから、本件正会員権の売買については、自分に相談があった。
B 平成6年10月ころには、いろいろなゴルフ会員権取引業者から売却の話があったが、当該業者間での取引価額の差が1,000,000円あり、しかも業者が取引の代金をくれないことも考えられたため、請求人がだまされないように、自分が、相談に乗っていた。
C 本件正会員権の譲渡に際しては、業者の選定、価額の決定、譲渡時期、取引場所等について、請求人と協議して決定した。
D 本件譲渡に際して、自分は、本件正会員権の引渡場所としてL銀行P支店の手配を行い、取引現場に立ち会って、譲渡代金が請求人の預金口座に入金されていることを確認するとともに、本件譲渡に係る譲渡代金が高額なため定期預金に勧誘され、本件借入れに係る借入金の返済が遅れることのないようにしており、また、本件借入れに係る借入金の返済に伴い、担保物件の抵当権の解除を求めた際の抵当権抹消登記の手続きについても請求人の指導に当たった。
(ヘ)L銀行P支店のW次長は、当審判所に対して、次のように答述したこと。
A L銀行P支店は、請求人に対し、平成元年9月20日に証書貸付として22,145,000円を貸付実行した。
B 貸付条件は、最終返済期限を平成6年12月31日とし、貸付当時の貸付利率は、年5.7パーセントであった。
 なお、貸付利子の計算は、貸付実行日は計算に入れ、貸付金完済日は計算に入れない。
ハ ところで、譲渡所得は、所得税法第33条《譲渡所得》第2項において、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得及び山林の伐採又は譲渡による所得を除く旨規定されるとともに、譲渡所得の金額は、同法第33条第3項において、資産の譲渡による所得につきそれぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額である旨規定され、また、同法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項において、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定されている。
 そして、資産の取得に要した金額は、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等当該資産を取得するための付随費用の額も含まれるが、他方、当該資産の維持管理に要する費用等居住者の日常的な生活費ないし家事費に属するものは含まれないと解するのが相当であり、また、設備費は、資産取得後において資産の量的改善に要した費用をいい、改良費は、資産取得後において資産の質的改善に要した費用をいうものと解するのが相当である。
 そうすると、譲渡資産の取得のための借入金の利子は、事業所得ないし雑所得の必要経費となるものを除いて、資金調達において必要不可欠な金員であるが、当該資産の客観的価格を構成する金額に該当せず、また、当該資産を取得するための付随する費用に該当するものでもなく、当該資産の維持管理に要する費用等譲渡者の日常的な生活費ないし家事費に属するものと解される。
 しかしながら、譲渡資産の取得のための借入金の利子のうち、当該資産の使用開始の日までの期間に対応する利子は、当該資産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができ、当該資産を取得するために付随する費用に該当し、取得費に算入されるものと解するのが相当であり、譲渡資産の取得のための借入金を借り入れる際に支出した、公正証書作成費用、抵当権設定費用及びその他の費用で通常必要と認められるものについても、取得費に算入されるものと解するのが相当である。
 また、固定資産の使用開始の日については、資産の性質及び使用の状況によって異なるが、ゴルフ会員権については、特定のゴルフ場の施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できる会員としての権利であることからすれば、その性質上当該ゴルフ場の施設を実際に利用したかどうかにかかわらず、ゴルフ場施設の利用が可能になった日をもって「使用開始の日」とみるのが相当である。
ニ 以上の事実等に基づいて、本件借入金利子等が本件譲渡所得の金額の計算上取得費に含まれるか否かについて検討する。
(イ)本件譲渡所得の金額の計算上控除される取得費
A 本件借入金利子
(A)ゴルフクラブの会員資格が平日会員から正会員に転換することは、ゴルフ場施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できる資格(権利)の範囲において、平日会員は土曜日を含む平日のみゴルフ場の施設を利用しゴルフプレーができるのに対し、正会員となることによって、日曜及び祭日を含むオールラウンドにゴルフ場の施設を利用しゴルフプレーができるようになるのであるから、従前の平日会員のゴルフ場の施設を利用する権利の範囲が拡大することである。
 そうすると、本件転換を行うための本件追加金は、当該拡大した部分を取得するために要した費用であり、客観的価格を構成すべき取得代金として認められ、本件譲渡所得の金額の計算上控除される取得費に算入することは、相当である。
 したがって、本件借入れは本件追加金を支払うために行ったものであり、これに伴う本件借入金利子は、上記ハのとおり、本件転換に必要な準備費用に該当するものとして、使用開始の日までの期間に対応する部分について、本件平日会員権のゴルフ場の施設を利用する権利の拡大した部分の取得費に該当するものと認められる。
(B)請求人は、本件譲渡所得の金額の計算において、本件高松高裁判決を援用して、本件正会員権について、平日会員権部分と正会員権部分とに区分し、本件借入金利子は正会員権部分の取得に係るものであるから取得費に該当する旨主張する。
 ところで、当該判決は、土地の譲渡において、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当する所得は事業所得とし、その同一物件の譲渡益のうち長期保有による価値の増加益部分は担税力が劣ることを理由として譲渡所得に区分すべきであるから、事業所得と譲渡所得に区分して計算しているものである。
 したがって、ゴルフ会員権の譲渡による所得は、営利を目的として継続的に行われるものを除き、譲渡所得に該当するものと解するのが相当であるところ、本件譲渡は、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡であるとはいえず、譲渡所得に該当するものであるから、本件高松高裁判決を援用して本件借入金利子を取得費とすべきであるとする請求人の主張を採用することはできない。
 また、請求人は、本件譲渡所得の計算において、本件借入金利子を取得費に算入しなければ借入金利子部分にまで課税することとなり、本来、譲渡所得課税は、純粋な所得に課税すべき旨主張する。
 しかしながら、譲渡所得の金額は、上記ハのとおり、算出することとされており、請求人の主張するような譲渡資産の取得と保有に係る全ての費用や譲渡に際して支出する全ての経費まで取得費等に算入すべきではないと解するのが相当であり、請求人の主張は採用することができない。
(C)そこで、ゴルフ会員権における「使用開始の日」を検討すると次のとおりとなる。
a 請求人は、所得税基本通達38―8の2の(1)のハによって、「使用開始の日」を判定すべき旨主張する。
 しかしながら、当該通達は土地についての使用開始の日を判定する際の取扱いを定めたものであるから、ゴルフ会員権の使用開始の日の判定には適用できず、この点に関して請求人の主張は採用することはできない。
b 請求人は、本件名古屋地裁判決を援用して、ゴルフ会員権の使用目的が転換によって施設利用目的から投資目的に変更されたのであるから、投資目的の資産の使用開始の日は譲渡の日である旨主張する。
 しかしながら、当該判決は、土地の譲渡による所得が譲渡所得と事業所得のいずれに該当するものかの区分の判断基準は土地の所有目的による旨を示したものであり、譲渡資産の使用開始の日を判示したものではないから、請求人の主張は採用することができない。
c したがって、当該取得した部分の「使用開始の日」は、上記ハ及び上記ロの(ロ)のAの(E)の内容からすると、本件正会員権の本件追加金の払込日の翌日とみるのが相当である。
 そして、上記ロの(ニ)のとおり、Yゴルフクラブは、平成元年9月22日本件追加金の取りまとめ店であるL銀行S支店への振込みを確認し、平成元年9月23日に正会員証を発行していることが認められ、同日をもって本件正会員権は、その取得目的に供されたというべきであるから、本件正会員権を取得するために借り入れた本件借入金利子のうち、本件借り入れを行った平成元年9月20日から本件追加金の払込みをYゴルフクラブが確認した平成元年9月22日までの3日間にかかる利子は、正会員としての権利を行使することができない期間に対応するものであるから、上記ハのとおり、取得等のための準備費用として、次の算式により算出される10,374円を取得費に算入するのが相当である。
(算式)
〔本件借入れ〕22,145,000円×〔貸付利率(年)〕5.7%×〔算入される日数〕3÷365=10,374円
B 本件抵当権設定費用
 本件抵当権設定費用の125,300円については、本件借入れの担保提供に係るものであり、上記ハの内容からすると、取得費に算入するのが相当である。
C 本件抵当権抹消費用
 本件抵当権抹消費用の15,100円は、本件借入れに伴う借入金を平成6年12月5日に完済したことに基づく抵当権抹消登記の手続費用であるから、借入金返済後の担保資産の管理費用であると認められる。
 したがって、上記ハの内容からすると、本件抵当権抹消費用は、請求人が主張するところの取得費に該当するとは認められない。
 なお、資産の譲渡に要した費用は譲渡に直接要した費用や譲渡の価額を増加させる費用を意味するものと解するのが相当であるところ、本件抵当権抹消費用は、いずれにも該当しないので、本件譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用にも算入することができない。
(ロ)本件譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用
 本件譲渡立会い料の30,000円は、本件譲渡の際に直接要した費用と認められるから、本件譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に算入するのが相当である。
(ハ)上記(イ)ないし(ロ)及び上記イの内容から判断すると、本件譲渡所得の金額は、次のとおりとなる。
A 本件譲渡の譲渡価額 38,000,000円
B 取得費
  本件平日会員権取得費 600,000円
  本件追加金 22,145,000円
  借入金利子 10,374円
  本件抵当権設定費用 125,300円
C 譲渡費用
  本件仲介手数料 1,000,000円
  本件譲渡立会い料 30,000円
D 特別控除額 500,000円
E 本件譲渡所得の金額
 本件借入金利子等以外の部分については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められ、本件譲渡所得の金額は、上記Aの譲渡価額から上記B、C及びDの金額を控除して算定され、別表の「審判所認定額」欄のとおり、13,589,326円となる。
ホ 不動産所得及び給与所得
 不動産所得の金額1,450,160円及び給与所得の金額2,385,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ヘ 総所得金額
 総所得金額は、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定によって、上記ニの(ハ)の本件譲渡所得の金額を2分の1した金額6,794,663円と上記ホの不動産所得及び給与所得の金額の合計であり、10,629,823円となる。
ト 所得控除の額
 老年者控除については、総所得金額が上記ヘのとおり10,000,000円を超えることから、これを適用することはできない。
 そうすると、所得控除の額は、更正処分と同額の850,388円となる。
チ 課税総所得金額
 課税総所得金額は、上記への総所得金額から上記トの所得控除の額を控除して算定すると、9,779,000円となる。
リ そうすると、上記チのとおり、課税総所得金額は、更正処分に係る課税総所得金額を下回るから、更正処分はその一部を取り消すのが相当である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、890,000円となるが、この納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があると認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を算定すると97,500円となり、この金額は、賦課決定処分の金額を下回るから、過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すのが相当である。
(3)原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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